特許第6358799号(P6358799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358799
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】吸収式ヒートポンプのための作動媒体
(51)【国際特許分類】
   F25B 15/02 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   F25B15/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-538135(P2013-538135)
(86)(22)【出願日】2011年11月4日
(65)【公表番号】特表2013-543965(P2013-543965A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2011069402
(87)【国際公開番号】WO2012062656
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2013年7月19日
【審判番号】不服2016-17281(P2016-17281/J1)
【審判請求日】2016年11月18日
(31)【優先権主張番号】10190356.5
(32)【優先日】2010年11月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ザイラー
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ ツェーナッカー
(72)【発明者】
【氏名】マーク−クリストフ シュナイダー
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 佐々木 正章
【審判官】 紀本 孝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−520073(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/098155(WO,A1)
【文献】 特開2008−267667(JP,A)
【文献】 特開平9−104862(JP,A)
【文献】 特開平1−184371(JP,A)
【文献】 特開2002−98449(JP,A)
【文献】 特開平7−139839(JP,A)
【文献】 特開平7−139844(JP,A)
【文献】 特開平2−52962(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/054230(WO,A2)
【文献】 特開2002−228291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの冷媒、少なくとも1つの、6〜10個の炭素原子を有する1価の脂肪族アルコール、および少なくとも1つの有機カチオンと少なくとも1つのアニオンとからなる少なくとも1つのイオン性液体を含、吸収式ヒートポンプのための作動媒体であって、
前記冷媒が水であり、前記脂肪族アルコールが2−エチル−1−ヘキサノールであり、および前記イオン性液体が、
2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムアセテート
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド
1,3−ジメチルイミダゾリウムアセテート、
1,3−ジメチルイミダゾリウムプロピオネート、
N−ブチル−アルキルピリジニウムクロリド
およびこれらの混合物から選択されているか、または
前記冷媒エタノールであり、前記脂肪族アルコールが2−エチル−1−ヘキサノールであり、および前記イオン性液体が
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート
およびこれらの混合物から選択されている
前記作動媒体。
【請求項2】
作動媒体が、前記冷媒を4〜67質量%、前記脂肪族アルコールを0.0001〜10質量%および前記イオン性液体を30〜95質量%含むことを特徴とする、請求項1記載の作動媒体。
【請求項3】
イオン性液体の単数または複数のアニオンが最大260g/molの分子量を有することを特徴とする、請求項1または2記載の作動媒体。
【請求項4】
イオン性液体の単数または複数の有機カチオンが最大260g/molの分子量を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の作動媒体。
【請求項5】
吸収器、脱着器、凝縮器、蒸発器および請求項1からまでのいずれか1項に記載の作動媒体を含む吸収式ヒートポンプ。
【請求項6】
吸収式ヒートポンプが吸収式冷凍機であり、および蒸発器中で冷却すべき媒体からの熱を吸収することを特徴とする、請求項記載の吸収式ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒、収着剤としてのイオン性液体および熱物質移動を改善するための添加剤を含む、吸収式ヒートポンプのための作動媒体に関する。
【0002】
古典的なヒートポンプは、蒸発器および凝縮器を介する冷媒の循環路に基づく。蒸発器において、冷媒は、蒸発され、その際に冷媒によって吸収された蒸発熱によって、第1の媒体から熱が取り出される。更に、蒸発された冷媒は、圧縮機を用いてより高い圧力にもたらされ、蒸発の際よりも高い温度で凝縮器中で凝縮され、その際に蒸発熱は、再び放出され、およびより高い温度水準で熱は、第2の媒体に引き渡される。引続き、液化された冷媒は、再び蒸発器の圧力に放圧される。
【0003】
古典的なヒートポンプは、当該ヒートポンプが蒸気状冷媒の圧縮のために、大量の機械的エネルギーを消費するという欠点を有する。
【0004】
それに反して、吸収式ヒートポンプは、減少された機械的エネルギー需要を有する。
【0005】
吸収式ヒートポンプは、古典的なヒートポンプの冷媒、蒸発器および凝縮器の他に、さらに収着剤、吸収器および脱着器を有する。吸収器において、蒸発された冷媒は、蒸発の圧力で収着剤中に吸収され、引続き脱着器において、凝縮のより高い圧力で、熱供給により再び収着剤から脱着される。冷媒と収着剤とからなる液状の作動媒体の圧縮は、古典的なヒートポンプにおける冷媒蒸気の圧縮よりも必要とされる機械的エネルギーは少なく、冷媒の脱着に使用される熱エネルギーは、機械的エネルギーの消費に取って代わった。吸収式ヒートポンプの効率は、冷却または加熱に利用される熱流対吸収式ヒートポンプの運転のために脱着器に供給される熱流の比として計算され、および「性能係数(Coefficient of Performance)」、略してCOPと呼称される。
【0006】
工業的に使用される吸収式ヒートポンプの大部分は、冷媒としての水および収着剤としての臭化リチウムを含む作動媒体を使用する。この作動媒体の場合、例えば米国特許第3276217号明細書、米国特許第3580759号明細書および米国特許第3609087号明細書の記載から公知であるように、微少量のC6−12−アルコールの添加により、吸収器中での熱物質移動を改善することができ、こうしてより高い効率COPを達成することができる。そのために、工業的には、主に2−エチル−1−ヘキサノールが約100ppmの量で添加される。その際に、X.Zhou,K.E.Herold,Proc.of the Int.Sorption Heat Pump Conf.2002(ISHPC ’02),第341〜346から公知であるように、吸収器中の2−エチル−1−ヘキサノールの作用は、液体表面上への蒸気相からのアルコールの吸着に基づき、この吸着は、表面張力の局所的な減少を生じ、こうしてマランゴニ対流を引き起こし、このマランゴニ対流は、改善された熱物質移動を生じさせる。2−エチル−1−ヘキサノールは、界面活性剤の作用を有し、および水の界面張力を20℃で76mM/mから約50mM/mへ減少させる。吸収式ヒートポンプ中で使用される、水と臭化リチウムとの混合物は、LiBr57質量%の際に水と比較して高められた、96mM/mの界面張力を有し、この界面張力は、2−エチル1−ヘキサノールの添加により、約40mM/mの値に減少されうる。
【0007】
冷媒としての水および収着剤としての臭化リチウムを含む作動媒体は、当該作動媒体における水濃度が35〜40質量%を下回ってはならないという欠点を有する。それというのも、さもないと、臭化リチウムの結晶化をまねく可能性があり、それによって作動媒体が固化する障害をまねく可能性があるからである。従って、冷媒としての水および収着剤としての臭化リチウムを含む作動媒体を使用する吸収式冷凍機の場合、熱帯諸国においては、湿式冷却塔を介する冷却を必要とする温度水準で吸収器中の熱を導出しなければならない。
【0008】
WO 2005/113702およびWO 2006/134015には、収着剤の結晶化による障害の回避のために、有機カチオンを有するイオン性液体を収着剤として含有する作動媒体を使用することが提案された。
【0009】
WO 2009/097930には、有機カチオンを有するイオン性液体を収着剤として含有する作動媒体のために、表面の湿潤を作動媒体によって改善する界面活性剤添加剤を添加することが記載されている。欧州特許出願公開第2093278号明細書A1には、イオン性液体のための湿潤を促進する添加剤として、脂肪アルコール、例えばイソステアリルアルコールおよびオレイルアルコールが開示されている。
【0010】
しかし、公知技術水準は、有機カチオンを有するイオン性液体を収着剤として含有する作動媒体の場合に、吸収式ヒートポンプの吸収において熱物質移動を改善しうる添加剤についての教示を含まない。
【0011】
イオン性液体は、冷媒の水との混合物で収着剤の臭化リチウムとは全く別の挙動を示し、それというのも、例えばW.Liu他,J.Mol.Liquids 140(2008)68〜72から公知であるように、当該イオン性液体は、LiBrとは異なり、水と比較して界面張力を上昇させるのではなく、明らかに減少させるからである。その際に、イオン性液体は、2−エチル−1−ヘキサノールに類似した界面活性剤の挙動を示し、および液体表面上で水との混合物中で含量が増加する。従って、当業者であれば、イオン性液体と水との混合物への2−エチル−1−ヘキサノールの添加が臭化リチウムと水との混合物の場合と同様に表面張力の強い低下を導かず、それゆえに、イオン性液体と水との混合物への2−エチル−1−ヘキサノールの添加の際に、臭化リチウムと水との混合物の際に観察される、熱物質移動の改善が起こらないことから出発しなければならなかった。
【0012】
ところで、本発明の発明者らは、意外なことに、前記の予想に反して、冷媒としての水および収着剤としてのイオン性液体を含む作動媒体への、微少量の、6〜10個の炭素原子を有する1価の脂肪族アルコール、例えば2−エチル−1−ヘキサノールの添加が吸収の際により高い効率COPで熱物質移動の明らかな改善を生じることを見出した。同様に、意外なことに、このようなアルコールの添加によって、メタノールまたはエタノールを冷媒として使用する場合にも、吸収の際の熱物質移動の改善およびより高い効率COPが達成されうる。
【0013】
それに応じて、本発明の対象は、少なくとも1つの冷媒、少なくとも1つの、6〜10個の炭素原子を有する1価の脂肪族アルコール、および少なくとも1つの有機カチオンと少なくとも1つのアニオンとからなる少なくとも1つのイオン性液体を含む、吸収式ヒートポンプのための作動媒体である。
【0014】
更に、本発明の対象は、吸収器、脱着器、凝縮器、蒸発器および本発明による作動媒体を含む吸収式ヒートポンプである。
【0015】
吸収式ヒートポンプの概念は、本発明によれば、低い温度水準の際に熱を吸収し、かつより高い温度水準の際に元通りに放出し、および脱着器への熱供給によって駆動される全ての装置を含む。それによって、本発明による吸収式ヒートポンプは、吸収器および蒸発器が脱着器および凝縮器よりも低い作動圧力で駆動される、狭い意味における吸収式冷凍機および吸収式ヒートポンプを含むのと同様に、吸収器および蒸発器が脱着器および凝縮器よりも高い作動圧力で駆動される吸収式ヒートトランスフォーマも含む。吸収式冷凍機において、蒸発器中の蒸発熱の吸収は、媒体の冷却のために利用される。狭い意味における吸収式ヒートポンプにおいて、凝縮器中および/または吸収器中で放出される熱は、媒体の加熱のために利用される。吸収式ヒートトランスフォーマにおいて、吸収器中で放出される吸収熱は、媒体の加熱のために利用され、その際に吸収熱は、脱着器への熱の供給の場合よりも高い温度水準に保たれる。
【0016】
本発明による作動媒体は、少なくとも1つの冷媒、少なくとも1つの、6〜10個の炭素原子を有する1価の脂肪族アルコールおよび少なくとも1つの有機カチオンと少なくとも1つのアニオンとからなる少なくとも1つのイオン性液体を含む。その際に、特に作動媒体は、冷媒を4〜67質量%、6〜10個の炭素原子を有するアルコールを0.0001〜10質量%およびイオン性液体を30〜95質量%含む。
【0017】
本発明による作動媒体は、揮発性である、少なくとも1つの冷媒を含み、したがって、吸収式ヒートポンプにおける作動媒体の使用の際に、脱着器中の冷媒の一部分は、作動媒体からの熱の供給によって蒸発されうる。本発明による作動媒体は、冷媒として、特に水、メタノール、エタノールまたはこれらの冷媒の混合物を含む。
【0018】
特に有利には、冷媒は、メタノール、エタノール、メタノールとエタノールとの混合物、エタノールと水との混合物、またはメタノールと水との混合物である。たいていの場合に有利には、冷媒はエタノールである。冷媒としてメタノール、エタノールまたはメタノールもしくはエタノールと水との混合物を含む、本発明による作動媒体は、吸収式冷凍機において、0℃未満の温度に冷却するために使用されてよい。冷媒として水を含む、本発明による作動媒体は、吸収式ヒートポンプにおける作動媒体の使用の際に発火性蒸気を形成しない。
【0019】
更に、本発明による作動媒体は、少なくとも1つの、6〜10個の炭素原子を有する1価の脂肪族アルコールを含み、この脂肪族アルコールは、吸収式ヒートポンプにおける作動媒体の使用の際に、吸収器中で冷媒の吸収の際の熱物質移動を改善する。前記アルコールは、特に第一級アルコールであり、および特に分枝鎖状アルキル基を有する。その上、アルコールとして、原理的に全てのヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールおよびこれらの混合物が適しており、その際にアルコールは、2−メチル−1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノールおよび3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノールが好ましく、および2−エチル−1−ヘキサノールが特に好ましい。本発明による作動媒体は、6〜10個の炭素原子を有するアルコールを、特に少なくとも0.0001質量%、特に有利に少なくとも0.001質量%、殊に少なくとも0.0015質量%含む。本発明による作動媒体は、6〜10個の炭素原子を有するアルコールを、特に最大10質量%、特に有利に最大0.1質量%、殊に最大0.05質量%含む。前記の限界内で、作動媒体中のアルコールの割合は、使用される冷媒および使用されるイオン性液体に依存して、特に、できるだけ微少量のアルコールの際に、吸収器中で熱物質移動の十分な向上が達成されるように選択される。
【0020】
更に、本発明による作動媒体は、少なくとも1つの有機カチオンと少なくとも1つのアニオンとからなる少なくとも1つのイオン性液体を含み、このイオン性液体は、吸収式ヒートポンプにおける作動媒体の使用の際に、冷媒のための収着剤として作用する。その上、イオン性液体の概念は、アニオンとカチオンとの塩、またはアニオンとカチオンとの塩の混合物を示し、その際にこの塩またはこれらの塩の混合物は、100℃未満の融点を有する。その上、イオン性液体の概念は、非イオン性物質または非イオン性添加剤を含まない塩または複数の塩の混合物に関連する。特に、イオン性液体は、有機カチオンと有機アニオンまたは無機アニオンとの1つ以上の塩からなる。吸収式ヒートポンプにおける作動媒体の使用の際に、収着剤循環路内でのイオン性液体の固化を回避させるために、イオン性液体は、特に20℃未満の融点を有する。
【0021】
前記イオン性液体の単数または複数のアニオンは、1回、2回または数回負に帯電されていてよく、特に1回負に帯電されており、および特に有利には、一価の酸のアニオンである。好ましくは、前記イオン性液体の単数または複数のアニオンは、最大260g/mol、特に有利に最大220g/mol、殊に最大180g/mol、たいていの場合に有利に最大160g/molの分子量を有する。アニオンのモル質量の制限は、吸収式ヒートポンプの駆動の際に作動媒体の脱ガス化の広がりを改善する。
【0022】
一価の無機酸、特にハロゲン、硝酸、亜硝酸およびシアン酸のアニオン、ならびに一価の有機酸、特にカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびグリコール酸のアニオンは、アニオンとして適している。同様に、二価の無機酸、特に硫酸、硫酸水素、炭酸および炭酸水素のモノアニオンおよびジアニオン、ならびに二価の有機酸、特にシュウ酸、コハク酸およびマロン酸のモノアニオンおよびジアニオンが適している。更に、三価の無機酸、特に燐酸、燐酸水素および燐酸二水素のモノアニオン、ジアニオンおよびトリアニオンが適している。更に、適当な無機アニオンは、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロ燐酸アニオン、水酸化物アニオン、ホウ酸アニオン、ハロゲンアンチモン酸アニオン、ハロゲン銅酸アニオン、ハロゲン亜鉛酸アニオンおよびハロゲンアルミン酸アニオンは、適当な無機アニオンである。更に、適当な有機アニオンは、式RaOSO3-、RaSO3-、RaOPO32-、(RaO)2PO2-、RaPO32-、RaOCO2-、RaCOO-、(RaCO)2-、(RaSO22-、N(CN)2-およびC(CN)3-のアニオンであり、その際にRaは、1〜30個の炭素原子を有する線状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基、5〜40個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基、6〜40個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、7〜40個の炭素原子を有するアルキルアリール基、または1〜30個の炭素原子を有する線状または分枝鎖状のペルフルオロアルキル基であり、ならびに式RaOSO3-およびRaSO3-のアニオンであり、その際にRaは、ポリエーテル基である。
【0023】
特に、イオン性液体の単数または複数のアニオンは、水酸化物アニオン、ハロゲンアニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、カルボン酸アニオン、燐酸アニオン、アルキル燐酸アニオン、ジアルキル燐酸アニオン、チオシアン酸アニオン、シアン酸アニオン、ジシアノアミンアニオン、硫酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、アルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオンおよびヘキサフルオロ燐酸アニオンから選択されており、特に有利には、水酸化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、グリコール酸アニオン、ジメチル燐酸アニオン、ジエチル燐酸アニオン、メチル硫酸アニオンおよびエチル硫酸アニオンからなる群から選択されている。
【0024】
好ましい実施態様において、作動媒体は、燐酸イオンまたはホスホン酸イオン、殊にジメチル燐酸イオンまたはジエチル燐酸イオンを有するイオン性液体を、冷媒としてのメタノールまたはエタノールとの組合せで含む。前記組合せによって、吸収式ヒートポンプにおいて作動媒体を使用する場合には、同時に吸収器中での高い熱物質移動および少ない腐食を達成することができ、および収着剤循環路内でのイオン性液体の固化は、回避することができる。
【0025】
イオン性液体の単数または複数の有機カチオンは、1回、2回または数回正に帯電されていてよく、および特に1回正に帯電されている。好ましくは、イオン性液体の単数または複数の有機カチオンは、最大260g/mol、特に有利に最大220g/mol、殊に最大195g/mol、たいていの場合に有利に最大170g/molの分子量を有する。カチオンのモル質量の限定は、吸収式ヒートポンプの駆動の際に作動媒体の脱ガス化の広がりを改善する。
【0026】
有機カチオンとして、殊に一般式(I)〜(V):
1234+ (I)
1234+ (I)
123+ (III)
12+=C(NR34)(NR56) (IV)
12+=C(NR34)(XR5) (V)
〔式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6は、同一かまたは異なり、水素、線状または分枝鎖状の脂肪族またはオレフィン性の炭化水素基、脂環式またはシクロオレフィン性の炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルキルアリール基、末位でOH、OR’、NH2、N(H)R’またはN(R’)2によって官能化された、線状または分鎖状の脂肪族またはオレフィン性の炭化水素基、または式−(R7−O)n−R8のポリエーテル基を意味し、その際に式(V)のカチオンに関して、R5は水素ではなく、
R’は、脂肪族またはオレフィン性の炭化水素基であり、
7は、2または3個の炭素原子を含む線状または分枝鎖状のアルキレン基であり、
nは、1〜3であり、
8は、水素であるかまたは線状または分枝鎖状の脂肪族またはオレフィン性の炭化水素基であり、
Xは、酸素原子または硫黄原子であり、および
その際に基R1、R2、R3、R4、R5およびR6の少なくとも1つ、特に全ては、水素とは異なる〕で示されるカチオンが適している。
【0027】
同様に、基R1およびR3が一緒になって4〜10員の環、特に5〜6員の環を形成する、式(I)〜(V)のカチオンは、適している。
【0028】
同様に、上記に規定されたような基R1を有する、環内に少なくとも1個の第四級窒素原子を有するヘテロ芳香族カチオン、特にピロール、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キノキサリンまたはフタラジンの窒素置換誘導体のカチオンが適している。
【0029】
特に、有機カチオンは、第四級窒素原子を含む。有機カチオンは、特に1−アルキルイミダゾリウムイオン、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオン、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオン、N−アルキルピリジニウムイオン、N,N−ジアルキルピロリジニウムイオン、または構造式R1234+のアンモニウムイオンであり、上記式中、R1、R2およびR3は、互いに独立に、水素、アルキルまたはヒドロキシエチルであり、およびR4は、アルキル基である。
【0030】
好ましい実施態様において、有機カチオンは、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、その際にアルキル基は、互いに独立に、メチル、エチル、n−プロピルおよびn−ブチルから選択されている。さらなる好ましい実施態様において、有機カチオンは、N−アルキル化アルキルピリジニウムイオンであり、以下、N−アルキル−アルキルピリジニウムイオンと呼称され、これは、窒素原子上で未置換のアルキルピリジンの混合物をアルキル化することにより得られたものであり、有利には、N−メチル−アルキルピリジニウムイオンおよびN−ブチル−アルキルピリジニウムイオンである。ピコリンとジメチルピリジンとエチルピリジンとからなる混合物をアルキル化することにより得られたN−アルキル−アルキルピリジニウムイオンは、特に好ましい。
【0031】
好ましい有機カチオンは、1−メチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンおよび2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムイオンである。
【0032】
本発明による作動媒体の好ましい実施態様において、冷媒は、水であり、およびイオン性液体は、2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムアセテート、
2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムクロリド、
2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムグリコラート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルホスフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルホスフェート、
1,3−ジエチルイミダゾリウムジエチルホスフェート、
1,3−ジメチルイミダゾリウムアセテート、
1,3−ジメチルイミダゾリウムプロピオネート、
N−ブチル−アルキルピリジニウムクロリド、
N−ブチル−アルキルピリジニウムアセテート、
N−メチル−アルキルピリジニウムクロリド、
N−メチル−アルキルピリジニウムアセテート、
N−ブチルピリジニウムクロリド、N−ブチルピリジニウムアセテート、
N−メチルピリジニウムクロリド、N−メチルピリジニウムアセテート、
テトラメチルアンモニウムホルメート、テトラメチルアンモニウムアセテート、
1−ブチル−トリメチルアンモニウムアセテート、
1−ブチル−トリメチルアンモニウムクロリド、
1−ブチル−トリメチルアンモニウムホルメート、
1−ブチル−4−メチルピペリジニウムアセテート、
N−ブチル−N−メチル−ピロリジニウムアセテートまたは記載されたイオン性液体の2つ以上からなる混合物である。前記の作動媒体を用いると、吸収式ヒートポンプにおいて、同時に特に高い脱ガス化の広がりおよび特に高い効率COPが達成される。
【0033】
本発明による作動媒体のさらなる好ましい実施態様において、冷媒は、メタノールまたはエタノールであり、およびイオン性液体は、
2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムアセテート、
2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムグリコラート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチルホスフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロジェンスルフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルスルフェート、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルスルフェート、
1,3−ジメチルイミダゾリウムメチルスルフェート、
1,3−ジエチルイミダゾリウムジエチルホスフェート、
1,3−ジエチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、
N−ブチル−アルキルピリジニウムアセテート、
N−メチル−アルキルピリジニウムアセテート、
N−ブチルピリジニウムアセテート、N−メチルピリジニウムアセテート、
1−ブチル−トリメチルアンモニウムアセテート、
1−ブチル−トリメチルアンモニウムホルメート、
1−ブチル−4−メチルピペリジニウムアセテート、
N−ブチル−N−メチルピロリジニウムアセテート、
N,N−ジメチルピロリジニウムアセテートまたは記載されたイオン性液体の2つ以上からなる混合物である。前記の作動媒体を用いると、吸収式冷凍機において、僅かな装置的費用で0℃を下回る温度への冷却を実施することができ、その際に高い効率COPが達成されうる。
【0034】
イオン性液体は、例えばP.Wasserscheid,T.Welton,Ionic Liquids in Synthesis,第2版,Wiley−VCH(2007),ISBN 3−527−31239−0またはAngew.Chemie 112(2000)第3926〜3945頁中の記載と同様に、公知技術水準から公知の方法により製造されうる。
【0035】
イオン性液体は、特に20℃で液状であり、およびこの温度で1〜15000mPa*s、特に有利に2〜10000mPa*s、殊に5〜5000mPa*s、たいていの場合に有利に10〜3000mPa*sのDIN 53019による粘度を有する。50℃の温度の場合、イオン性液体は、特に3000mPa*s未満、特に有利に2000mPa*s未満、殊に1000mPa*s未満の粘度を有する。
【0036】
特に、水と無限に混合可能であり、加水分解安定性であり、および100℃の温度にまで熱的に安定性であるイオン性液体が使用される。
【0037】
加水分解安定性のイオン性液体は、50質量%の水との混合物で80℃での貯蔵の際に8000時間内で加水分解による、5%未満の分解率を示す。
【0038】
100℃の温度になるまで熱安定性のイオン性液体は、熱重量測定法による分析で窒素雰囲気下で10℃/分の加熱速度での25℃から100℃への加熱の際に、20%未満の質量減少率を示す。
【0039】
前記分析の際に、10%未満、殊に5%未満の質量減少率を示すイオン性液体は、特に好ましい。
【0040】
本発明による作動媒体は、冷媒、イオン性液体および6〜10個の炭素原子を有する1価の脂肪族アルコールの他に、さらになお添加剤、特に腐食防止剤を含むことができる。この腐食防止剤の割合は、イオン性液体の質量に対して、特に10〜50000ppm、特に有利に100〜10000ppmである。好ましい無機腐食防止剤は、Li2CrO4、Li2MoO4、Li3VO、LiVO3、NiBr2、Li3PO4、CoBr2およびLiOHである。適当な有機腐食防止剤は、アミンおよびアルカノールアミン、特に2−アミノエタノール、2−アミノプロパノールおよび3−アミノプロパノール、ならびに脂肪酸アルキロールアミドと呼称される、脂肪酸とアルカノールアミンとのアミドおよびそのアルコキシレートである。例えば、商品名REWOCOROS(登録商標)AC 101でEvonik Goldschmidt GmbH社から入手可能な、2−アミノエタノールと油酸アミドエタノール−ポリエトキシラートとからなる混合物は、適している。更に、有機燐酸エステル、殊にエトキシル化脂肪アルコールの燐酸エステル、ならびに脂肪酸−アルカノールアミン混合物は、腐食防止剤として適している。好ましい有機腐食防止剤は、ベンズイミダゾールおよび殊にベンゾトリアゾールである。
【0041】
特に、本発明による作動媒体は、ASTM D1384による腐食試験において、全ての試験材料について、5g/m2未満、特に有利に3g/m2未満、殊に2g/m2未満の材料損失を示す。この試験の場合、正確に計量された、銅、軟ろう、黄銅、鋼、ねずみ鋳鉄および鋳造アルミニウムからなる、孔を備えた金属小板は、ラック中の絶縁ロッド上に順番に配置される。銅、軟ろうおよび黄銅は、黄銅、鋼、ねずみ鋳鉄からなるスペーサー片によってそれぞれ導電接続され、および鋳造アルミニウムは、鋼からなるスペーサー片によって導電接続されているが、しかし、生じる「パケット」は、互いに絶縁されている。この試験体は、前記媒体中に浸漬され、および空気を導入しながら14日間、88℃に加熱される。引続き、この小板は、清浄化され、再び計量され、および材料損失が測定される。
【0042】
冷媒とイオン性液体との組合せを有する作動媒体が好ましく、この作動媒体に対して、35℃での90質量%のイオン性液体と10質量%の冷媒とからなる混合物の蒸気圧は、35℃での純粋な冷媒の蒸気圧の60%未満、特に有利に30%未満、殊に20%未満、たいていの場合に有利に15%未満である。冷媒とイオン性液体とのかかる組合せ物を用いると、高い脱ガス化の広がりを達成することができ、および吸収式ヒートポンプの循環路における作動媒体の量は、減少される。
【0043】
本発明による吸収式ヒートポンプは、吸収器、脱着器、凝縮器、蒸発器およびさらに上記したような本発明による作動媒体を含む。
【0044】
本発明による吸収式ヒートポンプの駆動において、吸収器中で蒸気状の冷媒は、冷媒貧有の作動媒体中に吸収され、冷媒富有の作動媒体が得られ、および吸収熱は放出される。こうして得られた冷媒富有の作動媒体から、脱着器中で熱の供給下に冷媒は、蒸気状で脱着され、冷媒貧有の作動媒体が得られ、この冷媒貧有の作動媒体は、吸収器中に返送される。脱着器中で得られた蒸気状の冷媒は、凝縮器中で凝縮熱の放出下に凝縮され、得られた液状の冷媒は、蒸発器中で蒸発熱の吸収下に蒸発され、その際に得られた蒸気状の冷媒は、吸収器中に返送される。
【0045】
本発明による吸収式ヒートポンプは、一段階ならびに多段階で作動媒体の複数の連結された循環路で実施されてよい。
【0046】
好ましい実施態様において、吸収式ヒートポンプは、吸収式冷凍機であり、および冷却すべき媒体からの熱は、蒸発器中で吸収される。
【0047】
本発明による吸収式ヒートポンプは、WO 2005/113702およびWO 2006/134015から公知の、収着剤としてのイオン性液体を有する吸収式ヒートポンプと比較してより高い効率を有する。
【実施例】
【0048】
実施例
YAZAKI社の吸収式冷凍機 型式CH−MG 150を、80質量%のイオン性液体と20質量%の冷媒とからなる作動媒体を用いて、85℃の駆動温度および30℃の冷却水温度で約527kWの冷却性能で駆動させ、効率COPをF.Ziegler,Int.J.Therm.Sci.38(1999)第191〜208頁中に記載された方法で測定した。前記作動媒体をそれぞれ、添加剤の添加なし、および2−エチル−1−ヘキサノール0.01質量%(2EHL)の添加あり、で試験した。
【0049】
第1表は、冷媒としての水を有する作動媒体についての結果を示し、第2表は、冷媒としてのエタノールを有する作動媒体についての結果を示す。これらの表において、略符号は、次のイオン性液体を示す:
EMIM C1 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド
EMIM OAc 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート
EMIM DMP 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジメチルホスフェート
EMIM DEP 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート
コリン OAc 2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムアセテート
BAP C1 N−ブチル−アルキルピリジニウムクロリド
BMIM C1 1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド
MMIM OAc 1,3−ジメチルイミダゾリウムアセテート
MMIM OPr 1,3−ジメチルイミダゾリウムプロピオネート
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
実施例は、作動媒体への2−エチル−1−ヘキサノールの添加により、冷媒としての水ならびにエタノールに対して全ての試験されたイオン性液体の場合にアニオンまたは有機カチオンとは無関係に効率COPを改善することが見い出されたことを示す。