【実施例】
【0014】
(第1の実施例)
図1は、本発明の第1の実施例であるベクトル制御装置(交流モータのドライブ制御装置)の概略構成図である。
【0015】
図1において、交流モータ1は、永久磁石の磁束によるトルク成分と電機子巻線のインダクタンスによるトルク成分を合成したモータトルクを出力する。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値V
u*、V
v*、V
w*に比例した電圧値を出力し、交流モータ1の出力電圧と回転周波数とを可変する。
【0016】
直流電源2aは、電力変換器2に直流電圧値E
dcを供給する。また、電流検出器3は、交流モータ1の3相の交流電流I
u、I
v、I
wを検出し、検出値I
uc、I
vc、I
wcを出力する。
【0017】
座標変換部4は、電流検出器3が検出した3相の交流電流I
u、I
v、I
wの検出値I
uc、I
vc、I
wcと、位置検出器5から供給される位置検出値θ
dcとから、d軸およびq軸の電流検出値I
dc、I
qcを算出して出力する。
【0018】
位置検出器5は、モータ1の位置θを検出できるレゾルバやエンコーダであり、位置検出値θ
dcを座標変換部4、16、速度演算部6に出力する。
【0019】
また、速度演算部6は、位置検出器5から位置検出値θ
dcが入力され、交流モータ1の速度演算値ωを演算し、演算した速度演算値ωを出力する。
【0020】
d軸の電流指令設定部7は、この電流指令設定部7に格納している「0」あるいは「負極性」の値であるd軸の電流指令値I
d0*を出力する。また、トルク指令設定部8は、このトルク指令設定部8に格納している「0」を含む「正負極性」の値であるトルク指令値τ
0*を出力する。また、第1の変調率設定部9は、この第1の変調率設定部9に格納し、「弱め界磁制御」に入る変調率指令K
h1*を出力する。また、第1の変調率設定部9は、この第2の変調率設定部10が格納し、「トルク指令修正制御」に入る変調率指令K
h2*を出力する。
【0021】
設定部7〜10に格納されている上記指令値は、固定されていてもよいし、上位の制御コンピュータにより、変更可能となっていてもよい。
【0022】
指令演算部11は、電流指令設定部7及びトルク指令設定部8から与えられるd軸の電流指令値I
d0*とトルク指令値τ
0*と、第1の変調率設定部9及び第1の変調率設定部9から与えられる第1と第2の変調率指令K
h1*、K
h2*と、電圧ベクトル演算部15から与えられるベクトル電圧指令値V
dc*、V
qc*と、直流電源2aから与えられる直流電圧値E
dcとから、新たなd軸の電流指令I
d*と新たなトルク指令値τ
*とを出力する。
【0023】
電流指令変換部12は、指令演算部11にて演算されたトルク指令値τ
*とd軸の電流指令値I
d*および交流モータ1の電気定数(L
d、L
q、K
e)を用いて、q軸の電流指令値I
q*を出力する。なお、L
dはd軸インダンクタンス、L
qは軸インダクタンス、K
eは誘起電圧定数である。
【0024】
d軸電流制御演算部13は、演算器25にて演算されたd軸の電流指令値I
d*と電流検出値I
dcとの偏差(I
d*−I
dc)が供給され、この偏差(I
d*−I
dc)から第2のd軸の電流指令値Id
**を演算して出力する。
【0025】
q軸電流制御演算部14は、演算器26にて演算されたq軸の電流指令値I
q*と電流検出値I
qcとの偏差(I
q*−I
qc)が供給され、この偏差(I
q*−I
qc)から第2のq軸の電流指令値I
q**を演算して出力する。
【0026】
また、電圧ベクトル演算部15は、第2の電流指令値I
d**、I
q**および速度演算値ωが供給され、交流モータ1の電気定数(R、L
d、L
q、K
e)と第2の電流指令値I
d**、I
q**および速度演算値ωに基づいて、d軸およびq軸の電圧指令値V
dc*、V
qc*を演算して出力する。なお、Rは抵抗を示す。
【0027】
座標変換部16は、電圧ベクトル演算部15から供給される電圧指令値V
dc*、V
qc*と、位置検出器5から供給される位置検出値θ
dcとから、3相交流の電圧指令値V
u*、V
v*、V
w*を演算して電力変換部2に出力する。
【0028】
次に、本発明の第1の実施例における特徴である「指令演算部11」のトルク制御方式についての基本動作について説明する。
【0029】
電流指令変換部12において、トルク指令値τ
*とd軸の電流指令値I
d*および交流モータ1の電気定数とを用いて、次式(1)によりトルク指令値τ
*に応じたq軸の電流指令I
q*を演算する。
【0030】
【数1】
【0031】
また、d軸の電流制御演算部13には、d軸の電流指令値I
d*と電流検出値I
dcとが入力され、q軸の電流制御演算部14にはq軸の電流指令値I
q*と電流検出値I
qcとが入力される。
【0032】
d軸の電流制御演算部13及びq軸の電流制御演算部14は、次式(2)に従い、電流指令値I
d*、I
q*に、各成分の電流検出値I
dc、I
qcが追従するよう比例積分演算を行い、第2のd軸およびq軸の電流指令値I
d**、I
q**を出力する。
【0033】
【数2】
【0034】
なお、K
pdはd軸の電流制御の比例ゲイン、K
idはd軸の電流制御の積分ゲイン、K
pqはq軸の電流制御の比例ゲイン、K
iqはq軸の電流制御の積分ゲイン、ω
ACRは電流制御の応答角周波数(rad/s)である。
【0035】
さらに、電圧ベクトル演算部15において、得られた第2の電流指令値I
d**、I
q**と交流モータ1の電気定数(R、L
d、L
q、K
e)および速度演算値ωを用いて、次式(3)に示す電圧指令値V
dc*、V
qc*を演算し、電力変換器2の出力を制御する。
【0036】
【数3】
【0037】
一方、レゾルバ、エンコーダ、磁極位置検出器などの位置検出器5では、交流モータ1の位置θを検出し、位置検出値θ
dcを得る。
【0038】
座標変換部4、16では、上記位置検出値θ
dcを用いて、次式(数4)、(数5)に示す座標変換を行っている。
【0039】
【数4】
【0040】
【数5】
【0041】
次に、
図2を用いて、指令演算部11の内部構成を説明する。
【0042】
図2において、指令演算部11は、電圧変調率演算部11aと、d軸電流修正演算部11bと、トルク指令修正演算部11cと、演算器112〜115と備えている。電圧変調率演算部11aと、d軸電流修正演算部11bとにより、弱め界磁制御部が構成され、電圧変調率演算部11aと、トルク指令修正演算部11cとにより、過電流制御部が構成される。
【0043】
電圧変調率11aでは、電圧指令値V
dc*、V
qc*と直流電圧E
dcとが供給され、これらの値及び次式(6)を用いて、電圧変調率K
hを演算する。
【0044】
【数6】
【0045】
d軸電流修正演算部11bでは、上述の電圧変調率K
hが弱め界磁制御を行う第1の変調率指令K
h1*を超えないように、d軸の電流指令値I
d*を負側に発生させて行く。演算器114は、K
h1*−K
hを演算し、演算結果をd軸電流修正演算部11bに供給する。d軸電流修正演算部11bは、比例+積分演算あるいは積分演算の構成にすれば良い。
【0046】
以上が、トルク制御系の基本動作である。
【0047】
ここからは、本発明の第1の実施例における特徴である「トルク指令修正演算部11cの効果」について説明を行う。
【0048】
最初に、トルク指令修正演算部11cを設けない場合の制御特性について述べる。
【0049】
図3は、本発明のトルク指令修正演算部11cを設けない場合の制御特性であり、高回転域においてトルク制御を行い、その際に直流電圧値E
dcを大きく低下させた場合の制御特性を示すグラフである。なお、横軸に示す時間は秒を示す。
【0050】
図3中の、丸で囲ったAで示した時点で、モータトルク指令を0からτ
0*までステップ変化させ、丸で囲ったBで示した時点から、電力変換器2に供給する直流電圧値E
dcを階段的に低下させている。
【0051】
丸で囲ったAで示した時点で、電圧変調率K
hが第1の変調率指令K
h1*を超えると、d軸電流修正演算部11bの作用で、演算器112に供給される信号ΔI
d*が負側に増加し弱め、界磁制御が行われる。
【0052】
しかし、丸で囲ったBで示した時点から、直流電圧値E
dcが低下するので、d軸の電流指令値I
d*は制限値まで増加してしまう(弱め界磁制御ができない領域となる)。
【0053】
この領域に陥ってしまうと、電圧変調率K
hが正弦波駆動可能な制限値1.15p.u.まで増加してしまい、d軸およびq軸の電流(I
d、I
q)は電流指令値(I
d*、I
q*)と同一となるようには発生しない。つまり、場合によっては「過電流トリップ」に至ってしまう。
【0054】
このときの電力変換器2のU相とV相と間の線間電圧(V
u−V
v)の平均値と電圧変調率K
hとの関係を
図4に示している。
図4において、丸で囲ったBで示した時点から右の区間では、線間電圧(V
u−V
v)が低下しているが、線間電圧(V
u−V
v)から計算した変調率(V
u−V
v)/(√3・E
dc)は制限値の1.15p.u.まで増加していることがわかる。
【0055】
そこで、本発明の第1の実施例においては、
図2中の「d軸電流修正演算部11b」と「トルク指令修正演算部11c」を同時に用いて、直流電圧値E
dcが大きく低下した場合でも電流指令値通りの電流を発生させる。
【0056】
以下、d軸電流修正演算部11bとトルク指令修正演算部11cとの動作について詳細に説明を行う。
【0057】
図2において、トルク指令修正演算部11cでは、電圧変調率K
hがトルク指令修正制御を実行する第2の変調率指令K
h2*を超えないように、トルク指令値τ
0*を減少させる働きをする。つまり、トルク指令修正演算部11cは、比例+積分演算あるいは積分演算で補正量Δτ
*を演算器113(加算器)に出力する構成を取り、トルク指令発生部8から演算器113に供給されるトルク指令値τ
0*が自動的に修正する機能を持っている。修正されたτ
0*はτ
*として演算器113から出力される。
【0058】
図5は、本発明の第1の実施例を用いて、高回転域においてトルク制御を行い、その際に直流電圧値E
dcを大きく低下させた場合の制御特性を示すグラフである。なお、
図5の横軸は時間(秒)を示している。
【0059】
図3に示した例と同様に、
図5中の丸で囲ったAで示した時点で、トルク指令値を「0」からτ
0*までステップ変化させ、丸で囲ったBで示した時点から、直流電圧値E
dcを階段的に低下させている。
【0060】
上記Aで示した時点で電圧変調率K
hが第1の変調率指令K
h1*を超えると、d軸電流修正演算部11bの作用で、信号ΔI
d*が負側に増加し、d軸電流指令設定部7からの指令値I
d0*と演算器112にて加算され、d軸電流指令値I
d*となって、弱め界磁制御が行われる。
【0061】
丸で囲ったBで示した時点からは、変調率K
hが第2の変調率指令K
h2*(1.15p.u.以下の値を設定)を超えるので、トルク指令修正演算部11cの作用で、信号Δτ
*が逆極性側に増加し、トルク指令設定部8からの指令値τ
0*と演算器113にて加算され、トルク指令値τ
*となって、トルク指令修正制御が行われる。
【0062】
この方式においては、電圧変調率K
hは定常的に第2の変調率K
h2*を超えることはないので、電圧変調率K
hは第2の変調率K
h2*である制限値1.15p.u.以内で制御することができる。その結果、d軸およびq軸の電流(I
d、I
q)は電流指令値(I
d*、I
q*)の通りに発生することになる。つまり「過電流トリップ」に至ることはなく、安定なトルク制御運転を行うことができる。
【0063】
このときの電力変換器2のU相とV相間の線間電圧(V
u−V
v)の平均値と電圧変調率K
hの関係も
図6に示す。
【0064】
図6において、丸で囲ったB点から右の区間では、線間電圧(V
u−V
v)が低下しているが、計算した電圧変調率(V
u−V
v)/(√3・Edc)は制限値1.15p.u.以下の第2の変調率指令K
h2*で制御されていることがわかる。第1と第2の変調率指令K
h1*、K
h2*は、次式(7)の関係で設定すれば良い。
【0065】
【数7】
【0066】
以上のように、本発明の第1の実施例においては、電圧変調率K
hが、第1の変調率指令K
h1*を超えると、弱め界磁制御を行い、電圧変調率K
hが、第2の変調率指令K
h2*を超えると、トルク指令を制御して、電圧変調率K
hが、第2の変調率指令K
h2*を超えないように制御する。
【0067】
したがって、弱め界磁制御を適切に行うことが出来るとともに、直流電圧変動により、過電流トリップが生じ、再起動が必要となる事態を回避することができる。つまり、本発明は、電力変換器に供給される直流電圧が急激に低下した場合でも過電流トリップに至らず、安定なトルク制御運転を実現することができる。
【0068】
なお、第1の実施例では、交流モータ1は永久磁石同期モータであったが、誘導モータであっても良い。
【0069】
また、第1の変調率指令K
h1を1.0p.u.とし、第2の変調率指令K
h2を1.15p.u.としてもよいし、第1の変調率指令K
h1を1.0p.u.とし、第2の変調率指令K
h2を1.15p.u.以下の1.10p.u.としてもよい。さらに、第2の変調率指令K
h2は1.15p.u.以下のその他の値とすることも可能である。
【0070】
(第2の実施例)
次に、本発明の第2の実施例について説明する。
【0071】
図7は、本発明の第2の実施例であるベクトル制御装置(交流モータのドライブ制御装置)の概略構成図である。
【0072】
第2の実施例は、レゾルバやエンコーダなどの位置検出器を省略したベクトル制御装置に適用したものである。
【0073】
図7において、符号1〜4、7〜16、2aは、
図1のものと同一の物を示している。したがって、第2の実施例については、第1の実施例と同等のものについての詳細な説明は省略し、異なる部分について説明する。
【0074】
図7において、位相誤差推定部17は、電圧ベクトル演算部15からの電圧指令値V
dc*、V
qc*と、座標変換部4からの電流検出値I
dc、I
qcと、速度推定値ω^と、モータ定数とに基づいて、位相推定値θ
dc^と交流モータ1の位相θとの偏差である位相誤差Δθ(=θ
dc^−θ)を次式(8)により推定演算する。
【0075】
【数8】
【0076】
位相誤差推定部17は、位相誤差の推定値Δθ
cを、演算器27を介して推定値Δθ
c*として速度推定部18に供給する。そして、速度推定部18は、位相誤差の推定値Δθ
c*を「0」にするように、速度推定値ω^を演算する。
【0077】
位相推定部19は、速度推定部18から供給された速度推定値ω^を積分し、位置推定値θ
dc^を出力する。
【0078】
そして、位相推定部19から出力された位置推定値θ
dc^は座標変換部4、16に供給される。
【0079】
上述した位置センサレス制御方式にも、本発明を適用することができる。
【0080】
本発明の第2の実施例においても、第1の実施例と同様な効果を得ることができる。さらに、本発明の第2の実施例においては、高価な位置検出器を省略することができるので、安価でありながら、実施例1と同等な効果を得ることができる。
【0081】
なお、第2の実施例においても、交流モータ1は、永久磁石同期モータ、誘導モータのいずれであっても良い。
【0082】
(第3の実施例)
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
【0083】
図8は、本発明の第3の実施例であるベクトル制御装置(交流モータのドライブ制御装置)の概略構成図である。
【0084】
本発明の第3の実施例は、位相を制御することにより、弱め界磁制御を行う位相演算型のベクトル制御装置に、本発明を適用したものである。
【0085】
図8において、構成要素の1〜6、8、16、2aは、
図1のものと同一の物を示している。したがって、第3の実施例については、第1の実施例と同等のものについての詳細な説明は省略し、異なる部分について説明する。
【0086】
図8において、d軸の電流指令設定部7’は、「0」を出力する。
【0087】
電圧位相の制限値設定部20は、「トルク指令修正制御」を行う電圧位相の制限値θ
v_
lmtを出力する。
【0088】
指令演算部11’は、トルク指令設定部8から与えられるトルク指令値τ
0*と、電圧位相の制限値設定部20からの電圧位相の制限値θ
v_
lmtと、電圧ベクトル演算部15から供給されるベクトル電圧指令値V
dc**、V
qc**と、直流電源2aから供給される直流電圧値E
dcとが供給され、トルク指令値τ
*および変調率制限フラグV
lmt_
flgを出力する。
【0089】
次に、
図9を用いて、指令演算部11’の内部構成について説明する。
【0090】
図9において、指令演算部11’は、トルク指令修正演算部11’cと、電圧位相演算部11’dと、電圧変調率演算部11’aと、変調率制限検出部11’eと、演算器30、31とを備える。電圧変調率演算部11’aと、電圧位相演算部11’dと、トルク指令修正演算部11’cとにより弱め界磁制御部が構成され、電圧変調率演算部11’aと、変調率制限検出部11’eとにより過電流制御部が構成される。
【0091】
電圧変調率演算部11’aでは、電圧指令値V
dc**、V
qc**と、直流電圧値E
dcとを用いて、次式(9)により電圧変調率K
h’を演算する。
【0092】
【数9】
【0093】
また、電圧変調率K
h’が供給された変調率制限検出部11’eでは、電圧変調率K
h’が所定の変調指令値K
h_lmtより小さい場合は、変調率制限フラグV
lmt_
flgを「0」とし、電圧変調率K
h_lmtに到達した場合は、変調率制限フラグV
lmt_
flgを「1」として出力する。
【0094】
さらに、電圧位相演算部11’dでは、供給された電圧指令値V
dc**、V
qc**を用いて、次式(10)により電圧位相θ
vを演算する。
【0095】
【数10】
【0096】
また、演算器31にて、電圧位相演算部11’dからの電圧位相θ
vが、電圧位相の制限値設定部20から供給される制限値θ
v_
lmtから減算され、トルク指令修正演算部11’cに供給される。
【0097】
トルク指令修正演算部11’cは、電圧位相θ
vがトルク指令修正制御に入る電圧位相の制限値θ
v_
lmtを超えないように、トルク指令値τ
0*を減少させる働きをする。つまり、トルク指令修正演算部11’cは、比例+積分演算あるいは積分演算で補正量Δτ
*を出力する構成を取り、トルク指令修正演算部11’cから出力された補正量Δτ
*は、演算器30にてトルク指令τ
0*と加算され、トルク指令値τ
0*を自動的に修正する機能を持っている。修正されたτ
0*はτ
*として指令演算部11’から出力される。
【0098】
図8において、電流指令変換部12’は、演算されたトルク指令値τ
*と、d軸の電流検出値I
dcと、交流モータ1の電気定数(L
d、L
q、K
e)とを用いて、次式(11)によりq軸の電流指令値I
q*を演算する。
【0099】
【数11】
【0100】
また、電流指令設定部7’からの出力は座標変換部4からの電流検出値I
dcが演算器29にて減算され、偏差ΔI
dとしてd軸の電流偏差出力部21に供給される。d軸の電流偏差出力部21は、変調率制限フラグV
lmt_
flgを用いて、偏差ΔI
dあるいは「0」を出力する。
【0101】
また、電流指令変換部12’からの電流指令値I
q*は、演算器28にて座標変換部4からの電流検出値I
qcが減算され、偏差ΔI
qしてq軸の電流偏差出力部22に供給される。q軸の電流偏差出力部22は、変調率制限フラグV
lmt_
flgを用いて、q軸の電流指令値I
q*と電流検出値I
qcとの偏差あるいは「0」を、ΔI
q1、ΔI
q2として出力する。
【0102】
d軸電流制御演算部13aは、d軸の電流偏差出力部21からの出力値ΔI
dが入力され、ΔI
dから第2のd軸電流指令値I
d**を演算し出力する。
【0103】
また、q軸電流制御演算部14aは、q軸の電流偏差出力部22の出力値ΔI
q2が入力され、ΔI
q2から第2のq軸電流指令値I
q**を演算し出力する。
【0104】
また、位相差指令演算部23では、変調率制限フラグV
lmt_
flgが「1」のとき、第1のq軸電流指令I
q*とq軸電流検出値I
qcの偏差ΔI
q1を比例+積分演算し、その演算値が、位相修正指令値Δθ
c*として出力される。このとき、電圧ベクトル演算部15’では、d軸およびq軸の電流制御演算部13a、14aの入力信号ΔI
d、ΔI
q2は、共に「0」で、出力値I
d**、I
q**の演算は更新されず、前回値を保持した状態となる。
【0105】
ここで、指令演算部11’からの変調率制限フラグV
lmt_
flgが「1」又は「0」のときにおける、q軸電流偏差出力部22及びd軸電流偏差出力部21の内部のスイッチング状態を説明する。
【0106】
変調率制限フラグV
lmt_
flgが「1」の場合は、q軸電流偏差出力部22においては、端子22bと22cとが接続された状態となり、端子22a及び22dは非接続状態となる。d軸電流偏差出力部21においては、端子21aと21cとが接続された状態となり、端子21bは非接続状態となる。
【0107】
また、変調率制限フラグV
lmt_
flgが「0」の場合は、q軸電流偏差出力部22においては、端子22aと22bとが接続され、さらに端子22cと22dとが接続された状態となる。d軸電流偏差出力部21においては、端子21bと21cとが接続された状態となり、端子21aは非接続状態となる。
【0108】
次に、位相修正指令値Δθ
c*と電圧指令値V
dc*、V
qc*により、次式(12)に示すように新たな電圧指令値V
dc**、V
qc**が演算される。
【0109】
【数12】
【0110】
つまり、出力電圧が制限されている領域では、q軸の電流指令値I
q*と電流検出値I
qcとが一致するように、Δθ
c*を介して出力電圧を制御する。
【0111】
すると、d軸の電流指令値I
d*を発生させない状態で、弱め界磁制御を実現することができる。このような、弱め界磁制御を行うベクトル制御装置においても、本発明を用いれば、第1実施例と同様に「過電流トリップ」を抑制する運転を行うことができる。
【0112】
つまり、本発明の第3の実施例によれば、電圧位相制限値を超えないように、トルク制御することにより弱め界磁制御を行い、かつ、d軸電流指令値を発生させないように、制御することにより、過電流トリップが生じ、再起動が必要となる事態を回避することができる。
【0113】
なお、所定の変調指令値K
h_lmt」は、正弦波駆動の限界である1.15p.u.以上から1パルス駆動の限界である1.27p.u.までの間で設定すれば電圧利用率を極限まで使用することができる。
【0114】
また、q軸の電圧値V
q成分が「0」になるまで弱め界磁制御を行うとすると、「所定の位相指令値」はπ/2程度であれば問題はない。
【0115】
なお、第3の実施例においても、交流モータ1は、永久磁石同期モータ、誘導モータのいずれであっても良い。
交流モータ1は永久磁石同期モータであったが、誘導モータであっても良い。
【0116】
また、第2の実施例と同様な構成により、位相誤差推定部、速度推定部、位相推定部を追加し、位置検出器5を省略することも可能である。
【0117】
(第4の実施例)
次に、本発明の第4の実施例について説明する。
【0118】
図10は、本発明の第4の実施例である産業・建機用インバータ装置の概略構成図である。
【0119】
図10において、ベクトル制御装置24aは、
図1に示したベクトル制御装置(交流モータのドライブ制御装置)と同様な構成となっており、同様な動作を行う。このため、ベクトル制御装置24aについての詳細な説明は省略する。ただし、
図1におけるモータ1及び位置検出器5は、ベクトル制御装置24aには、含まれていない。ベクトル制御装置24aに形成された端子(図示せず)を介して外部のモータと接続される。また、外部の位置検出器から、ベクトル制御装置24aに形成された端子(図示せず)を介して、位置検出値θ
dcが供給される構成となっている。
【0120】
産業・建設用インバータ24は、マイクロコンピュータやプログラミング可能なLSIが搭載されたコントローラ基板と電力変換器を搭載したベクトル制御装置24aを内蔵している。
【0121】
産業・建設用インバータ24の操作パネルからの指令により、d軸電流指令設定部7に格納されるd軸電流指令値及びトルク指令設定部8に格納されるトルク指令値が設定される。
【0122】
本発明の第4の実施例においても、弱め界磁制御を適切に行うことが出来るとともに、直流電圧変動により、過電流トリップが生じ、再起動が必要となる事態を回避することができる。
【0123】
上述した第1〜第4の実施例においては、第1の電流指令値I
d*、I
q*と電流検出値I
dc、I
qcから第2の電流指令値I
d**、I
q**を作成し、この第2の電流指令値を用いてベクトル制御演算を行ったが、d軸およびq軸の電流制御演算部を持たずに、第1のd軸の電流指令I
d*(=0)とq軸の電流検出値I
qcの一次遅れ信号I
qctd、速度指令値ω
*と交流モータ1の電気定数を用いて、次式(13)に従い電圧指令値V
dc*、V
qc*を演算するベクトル制御演算にも適用することはできる。
【0124】
【数13】
【0125】
さらに、第1の電流指令値I
d*、I
q*に電流検出値I
dc、I
qcから、電圧補正値ΔV
d*、ΔV
q*を作成し、この電圧補正値と、第1の電流指令値I
d*、I
q*、速度検出値ω、交流モータ1の電気定数を用いて、次式(14)に従い電圧指令値V
dc*、V
qc*を演算するベクトル制御演算方式にも適用することも可能である。
【0126】
【数14】
【0127】
また、上述した第1〜4の実施例は、高価な電流検出器3で検出した3相の交流電流I
u〜I
wを使用する方式であったが、電力変換器2の過電流検出用に取り付けているワンシャント抵抗に流れる直流電流から、3相のモータ電流I
u^、I
v^、I
w^を再現し、この再現電流値を用いる「低コスト・システム」にも本発明は対応することができる。
【0128】
また、本発明のさらなる実施例としては、第4の実施例におけるインバータ(ベクトル制御装置を組み込んだインバータ)に、
図1や
図7に示した交流モータ1を接続した、ベクトル制御装置を組み込んだインバータとモータとのセット装置がある。