(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水素生成触媒は、空隙率Aの多孔質基材Aに前記金属触媒が担持された第1の触媒層と、空隙率B(<A)の多孔質基材Bに前記金属触媒が担持された第2の触媒層と、を含む重層構造を有し、前記第1の触媒層を前記水素分離体に対向させて配置されている請求項1又は請求項2に記載の水素製造装置。
前記多孔質基材は、前記水素分離体と対向する面側の空隙率が40%〜60%の範囲内であり、かつ、前記水素分離体と対向する面とは反対側の面側の空隙率が10%〜30%の範囲内である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
前記多孔質基材は、前記水素分離体と対向する面側の空隙率と、前記水素分離体と対向する面とは反対側の面側の空隙率との差が、20%〜40%の範囲内である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水素製造装置。
前記水素生成触媒は、前記多孔質基材の前記水素分離体と対向する面側に担持されている前記金属触媒の量が、前記多孔質基材の前記水素分離体と対向する面とは反対側の面側に担持されている前記金属触媒の量よりも多い請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水素製造装置。
前記水素生成触媒は、前記多孔質基材の前記水素分離体と対向する面側に前記金属触媒が担持され、かつ、前記多孔質基材の前記水素分離体と対向する面とは反対側の面側に前記金属触媒が担持されていない請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水素製造装置。
前記水素分離体及び前記水素生成触媒は、筒状の形状を有し、かつ、前記水素分離体の外周側に、前記水素生成触媒が配置されている請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された水素製造装置では、水素分離体と反応管の内壁との間に、多数のビーズ状の成形触媒が直に充填されているため、成形触媒の充填具合にばらつきが生じると、原料ガスや原料ガスから生成された水素の流れが安定せず、また、触媒の分布がばらつくため、原料ガスから水素を効率的に分離生成させることができない。成形触媒の充填具合を一定にすることも考えられるが、そのためには反応器に外力を加える必要があり、破損の懸念が生じる。
【0010】
また、特許文献1及び特許文献2において報告されているいずれの技術も、水素製造装置の実用化という観点からは、未だ十分なものとはいえない。近年、燃料電池の普及が現実的なものとなっていることを考えると、水素製造装置については、更に高効率に、原料ガスから高純度の水素を製造できることが必要であるといえる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、従来に比して、水素製造性能に優れる水素製造装置を提供することである。
また、本発明の目的は、水素分離生成能に優れ、本発明の水素製造装置に好適である水素生成触媒及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明である水素製造装置は、水素を選択的に透過させる水素分離層、及び水素分離層を支持する支持体を有する水素分離体と、水素分離体に対向させて配置され、かつ、厚み方向に空隙率の勾配を有し、水素分離体と対向する面側の空隙率が、水素分離体と対向する面とは反対側の面側よりも高い多孔質基材、及び多孔質基材に担持され、原料ガスから水素を分離生成させる金属触媒を有する水素生成触媒と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
一般に、金属触媒を担持させる担体には、アルミナ、シリカ等の単一素材からなる材料を押出、圧縮等の方法により成形したものが用いられる。しかしながら、このような単一素材からなる材料を成形した担体は、担体中に形成されている孔の孔径がほぼ均一であるため、水素生成触媒用の担体として用いると、原料ガス及び原料ガスから生成された水素は、担体中を水素分離体に向かって流れるだけでなく、水素分離体に対して平行に流れる。そのため、ある程度の水素製造性能は得られるものの、水素製造効率が良いとはいえない。
【0014】
これに対して、第1の発明に係る水素製造装置では、水素生成触媒を構成する多孔質基材が、水素分離体と対向する面側で粗な構造を有し、かつ、水素分離体と対向する面とは反対側の面側で密な構造を有している。そのため、第1の発明に係る水素製造装置では、特に水素分離体の面に平行にガスを流すと、水素生成触媒中の粗な構造部分ではガス流速が速く、水素生成触媒中の密な構造部分ではガス流速が遅くなる。このような効果により、ガス流速の遅い側から速い側へのガスの流れ、つまり水素生成触媒の構造の密な側から粗な側へのガス流れが生じ、水素生成触媒中で生成された水素の流れが水素分離体近傍で速くなる。水素分離体近傍での水素の流れが速くなると、濃度分極(水素分離体表面の水素濃度が低くなる現象)が抑制されるため、水素分離体表面の水素濃度が低くなっても水素透過が起こり、水素を製造する方向に反応が促進される。また、原料ガスの流れが水素分離体側に誘導されることで、水素が水素分離体を介して反応系外により引き抜かれるため、水素を製造する方向に反応がより促進される。その結果、優れた水素製造効率を実現できると考えられる。
【0015】
第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒の態様としては、空隙率Aの多孔質基材Aに金属触媒が担持された第1の触媒層と、空隙率B(<A)の多孔質基材Bに金属触媒が担持された第2の触媒層と、を含む重層構造を有し、第1の触媒層を水素分離体に対向させて配置されている態様が挙げられる。
また、第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒の他の態様としては、厚み方向に空隙率のグラデーションを有する多孔質基材に金属触媒が担持されており、空隙率の高い方の面側が水素分離体と対向するように配置されている態様も挙げられる。
前者の態様は、後者の態様に比して、空隙率の異なる層間で剥離が生じ難い点において、好ましい。
【0016】
第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒の好ましい態様としては、多孔質基材の水素分離体と対向する面側の空隙率が40%〜60%の範囲内であり、かつ、多孔質基材の水素分離体と対向する面とは反対側の面側の空隙率が10%〜30%の範囲内である態様が挙げられる。また、第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒のより好ましい態様としては、多孔質基材の水素分離体と対向する面側の空隙率と、多孔質基材の水素分離体と対向する面とは反対側の面側の空隙率との差が、20%〜40%の範囲内である態様が挙げられる。これらの態様によれば、構造を安定させつつ、水素製造性能を向上させることが可能となる。
【0017】
なお、「空隙率」とは、空隙によって生じる空間の体積が、多孔質基材の体積(空隙を含む体積)に占める割合をいう。
多孔質基材の空隙率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて撮影された断面写真に基づき、求めることができる。具体的には、多孔質基材の断面写真(SEM像)を複数の位置で撮影する。次に、市販の画像解析ソフトを用いて、撮影したSEM像の2値化を行ない、SEM像における孔(空隙)に相当する部分(例えば黒色部)の割合を求める。複数の位置で撮影したSEM像から求めた黒色部の割合を平均化し、多孔質基材の空隙率とする。
【0018】
第1の発明に係る水素製造装置では、多孔質基材は、多孔質のセラミック基材であることが好ましい。
多孔質のセラミック基材は、耐熱性が高いだけでなく、単位体積当たりの面積(比表面積)を制御することが可能である。多孔質基材が多孔質のセラミック基材であると、比表面積を大きくすることができるので、金属触媒を高分散に担持させることが可能となる。
【0019】
第1の発明に係る水素製造装置では、水素生成触媒は、多孔質基材の水素分離体と対向する面側に担持されている金属触媒の量が、多孔質基材の水素分離体と対向する面とは反対側の面側に担持されている金属触媒の量よりも多いことが好ましい。
上述したように、第1の発明に係る水素製造装置では、水素生成触媒を構成する多孔質基材が、水素分離体と対向する面側で粗な構造を有し、かつ、水素分離体と対向する面とは反対側の面側で密な構造を有しているので、特に水素分離体の面に平行にガスを流すと、水素生成触媒中の粗な構造部分ではガスに対する抵抗が小さく、水素生成触媒中の密な構造部分ではガスに対する抵抗が大きくなる。このような効果により、抵抗の大きい側から小さい側へのガスの流れ、つまり水素生成触媒の構造の密な側から粗な側へのガス流れが生じ、水素分離体側に誘導されるように流れる。そのため、原料ガスと金属触媒とを十分に接触させるために、多孔質基材の全体に対して平均的に金属触媒を担持させる必要がない。
第1の発明に係る水素製造装置では、水素生成触媒を、多孔質基材の水素分離体と対向する面側に担持されている金属触媒の量が、多孔質基材の水素分離体と対向する面とは反対側の面側に担持されている金属触媒の量よりも多い構成とすることで、金属触媒量の削減による水素製造装置のコストダウンが可能となる。
【0020】
上記と同様の観点から、第1の発明に係る水素製造装置は、水素生成触媒は、多孔質基材の水素分離体と対向する面側に金属触媒が担持され、かつ、多孔質基材の水素分離体と対向する面とは反対側の面側に金属触媒が担持されていない態様であることがより好ましい。
このような態様によれば、金属触媒量の削減による水素製造装置の更なるコストダウンが可能となる。
【0021】
第1の発明に係る水素製造装置では、水素生成触媒における多孔質基材と水素分離体における支持体とは、同一成分を体積比で90%以上含むことが好ましい。
第1の発明に係る水素製造装置は、通常、使用の際には、高温(例えば550℃)の状態となり、不使用の際には、低温(例えば室温)の状態となる。
水素生成触媒における多孔質基材を構成する成分と、水素分離体における支持体を構成する成分と、を少なくとも90%同一にすると、水素生成触媒における多孔質基材及び水素分離体における支持体の熱膨張係数が実質的に同一となり、昇温及び降温の際の水素生成触媒及び水素分離体の膨張挙動及び収縮挙動がほぼ一致する。そうすると、水素生成触媒と水素分離体との間に常に所定の距離が保たれるように、水素生成触媒と水素分離体とを配置させることができるため、押圧による破損を防止することが可能となる。
なお、水素生成触媒における多孔質基材を構成する成分と、水素分離体における支持体を構成する成分と、は完全同一であることがより好ましい。
【0022】
第1の発明に係る水素製造装置では、水素分離体及び前記水素生成触媒が共に筒状の形状を有し、かつ、筒状の形状の水素分離体の外周側に、筒状の形状の水素生成触媒が配置されていることが好ましい。
例えば、金属製の反応管の内部に、外側表面に水素透過膜を有する水素分離体が配置され、かつ、水素分離体と反応管の内壁との間に、多数のビーズ状の成形触媒が充填された水素製造装置の場合、起動又は停止の際の反応器の膨張又は収縮により水素生成触媒が押され、水素分離体が破損する問題が生じ得る。
【0023】
これに対して、水素分離体及び前記水素生成触媒が共に筒状の形状を有し、かつ、筒状の形状の水素分離体の外周側に、筒状の形状の水素生成触媒が配置されている態様であると、反応器の膨張及び収縮を考慮して、予め反応器の内壁と水素生成触媒との空間を確保した設計が可能となるため、反応器の膨張又は収縮による水素分離体の破損の可能性を低減することができる。
なお、水素製造装置の水素製造性能をより向上させる観点からは、水素生成触媒と水素分離体とは近接させて、又は、接触させて配置されていることが望ましいが、筒状の形状の水素生成触媒が筒状の形状の水素分離体の外周側に配置されている態様であると、反応器の膨張及び収縮だけでなく、水素製造性能をも考慮して、水素生成触媒と水素分離体とが近接又は接触するように、予め設計することもできるため、好ましい。
【0024】
また、筒状の形状の水素生成触媒が筒状の形状の水素分離体の外周側に配置されている態様において、水素生成触媒における多孔質基材及び水素分離体における支持体に、熱膨張係数が同一又は近い材料を用いると、反応器の膨張又は収縮による水素分離体の破損の可能性を顕著に低減することができるため、より好ましい。
【0025】
第2の発明である水素生成触媒では、厚み方向に空隙率の勾配を有し、一方の面側の空隙率が他方の面側の空隙率よりも高い多孔質基材と、多孔質基材に担持され、原料ガスから水素を分離生成させる金属触媒と、を有し、原料ガスが空隙率の低い面側から高い面側に流れることで水素が分離生成されることを特徴とする。
【0026】
第2の発明に係る水素生成触媒では、厚み方向に空隙率の勾配を有し、一方の面側の空隙率が他方の面側の空隙率よりも高い多孔質基材に、原料ガスから水素を分離生成させる金属触媒がより多く担持されている。また、上述したように、第2の発明に係る水素生成触媒では、ガスの流れが空隙率の低い側から高い側に向かって生じるため、原料ガスを、空隙率の低い面側、即ち、密な構造を有し、かつ、担持された触媒量の少ない面側から、空隙率の高い面側、即ち、粗な構造を有し、かつ、担持された触媒量の多い面側に向かって効率良く流すことができるとともに、ある程度の反応が進行し、更なる反応を促進させるためにより多くの触媒量が必要とされるガス流の下流側に向かって、触媒量が多くなるため、水素の生成効率が良い。
また、第2の発明に係る水素生成触媒によれば、原料ガスの流れが一方向に誘導され、ガス流に沿って効率良く反応させることができるように金属触媒の量が傾斜して配置されており、多孔質基材の全体に対して平均的に金属触媒を担持させる必要がなく、金属触媒量の削減が可能となる。
【0027】
第2の発明に係る水素生成触媒の好ましい態様としては、多孔質基材の一方の面側の空隙率が40%〜60%の範囲内であり、かつ、多孔質基材の他方の面側の空隙率が10%〜30%の範囲内である態様が挙げられる。また、第2の発明に係る水素生成触媒のより好ましい態様としては、多孔質基材の一方の面側の空隙率と他方の面側の空隙率との差が、20%〜40%の範囲内である態様が挙げられる。これらの態様によれば、構造を安定させつつ、水素製造性能を向上させることが可能になる。
【0028】
第2の発明に係る水素生成触媒は、第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒として、特に好適に用いることができる。
【0029】
第3の発明である水素生成触媒の製造方法は、造孔材及び多孔質基材原料を含む混合粉をプレス成形することにより、造孔材の割合が、形成される成形体の厚み方向となる方向に向かって段階的に減少する成形体を形成する工程と、成形体を焼成することにより、厚み方向に空隙率の勾配を有し、一方の面側の空隙率が他方の面側の空隙率よりも高い多孔質基材を得る工程と、多孔質基材と金属触媒を含む溶液とを接触させ、金属触媒を還元することにより、多孔質基材に金属触媒を担持させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0030】
第3の発明に係る水素生成触媒の製造方法では、まず、造孔材及び多孔質基材原料を含む混合粉をプレス成形することにより、造孔材の割合が、形成される成形体の厚み方向となる方向に向かって段階的に減少する成形体を形成する。次に、形成された成形体を焼成することで、厚み方向に空隙率の勾配を有し、一方の面側の空隙率が他方の面側の空隙率よりも高い多孔質基材を得ることができる。
焼失性の造孔材及び多孔質基材原料を含む混合粉を成形し、焼成すると、造孔材が焼失した部分が空隙となるため、造孔材の割合を調整することで、空隙率が制御された多孔質基材を容易に形成することができる。
【0031】
次に、得られた多孔質基材と金属触媒を含む溶液とを接触させ、金属触媒を還元することで、多孔質基材に金属触媒を担持させることができる。
上記にて得られた多孔質基材と金属触媒を含む溶液とを接触(浸漬)させると、多孔質基材の粗な部分には、金属触媒が付着し易く、その担持量が多くなり、密な部分には、金属触媒が付着し難く、その担持量が少なくなる。第3の発明である水素生成触媒の製造方法によれば、多孔質基材の空隙率の制御により、金属触媒の担持量を容易に制御することができる。
【0032】
第3の発明に係る水素生成触媒の製造方法は、第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒を製造するための方法として、また、第2の発明に係る水素生成触媒を製造するための方法として好適に用いることができる。第1の発明に係る水素製造装置における水素生成触媒を製造するための方法及び第2の発明に係る水素生成触媒を製造するための方法は、第3の発明に係る水素生成触媒の製造方法に、特に限定されるものではない。
【0033】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0034】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0035】
本明細書において「水素製造性能」との語は、原料ガスから高純度な水素を高効率に製造することができる性質及び能力を意味する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、従来に比して、水素製造性能に優れる水素製造装置が提供される。
また、本発明によれば、水素分離生成能に優れ、本発明の水素製造装置に好適に用いることができる水素生成触媒及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら、本発明の特徴を説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されることはなく、技術思想を逸脱しない範囲において、適宜、変更を加えて実施することが可能である。また、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、理解を容易にするために適宜、誇張して示すことがあり、実際のものとは縮尺が異なる場合がある。
【0039】
(第一実施形態)
第1の発明に係る水素製造装置の好ましい実施形態の一例を
図1に示す。
図1に示す水素製造装置1は、原料ガスを改質して水素を多く含む混合ガス(改質ガス)とするとともに、この改質ガスから水素を選択的に分離することにより、高純度の水素を得ることができる装置である。
【0040】
水素製造装置1は、後述するように、原料ガスを改質する円筒形状(外径24mm×内径12mm×長さ30mm)の水素生成触媒3と、改質ガスから水素を分離する試験管形状(外径10mm×長さ300mm)の水素分離体5と、この水素分離体5の基端側(同図上方)に取り付けられた筒状の金属継手7と、水素生成触媒3及び水素分離体5を収容する筒状(外径30mm×内径25mm×長さ400mm)の容器であるステンレス鋼(SUS316)製の反応器(反応容器)9と、を備えている。
【0041】
具体的には、反応器9の上端の基板(上基板)11に、水素分離体5が先端側を下方にして、金属継手7によって固定され、この水素分離体5に外嵌するように、複数の水素生成触媒3が配置されている。即ち、反応器9の下端の基板(下基板)13上に、各水素生成触媒3が同軸に積み重ねられており、この積み重ねられた各水素生成触媒3の各貫通孔15に、水素分離体5が挿入されている。水素生成触媒3と水素分離体5との間には、1mmの隙間があり、接触していない。
各水素生成触媒3の軸方向の長さは、水素分離体5に複数外嵌できるように、水素分離体5の軸方向の長さよりも十分に短い長さ、具体的には、水素分離体5の原料ガスと接する部分の1/10に設定されている。
【0042】
反応器9の上部には、原料ガスが導入される原料導入孔17が形成され、反応器9の下部には、反応後のオフガス等が排出されるガス排出孔19が形成されている。さらに、水素分離体5の中心孔21は、金属継手7の中心孔23と連通している。
【0043】
図1に示す水素製造装置1においては、原料導入孔17から導入された原料ガスが、水素生成触媒3中を流れることで改質され、水素を多く含む混合ガス(改質ガス)となる。改質ガス中の水素は、水素のみが透過可能な水素分離体5を透過することで、分離される。分離された水素は、水素分離体5の中心孔21と金属継手7の中心孔23とを介して、反応器9から取り出される。
【0044】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、1つの試験管形状の水素分離体5に、複数の円筒形状の水素生成触媒3が外嵌されているが、この態様に限定されず、例えば、1つの長い円筒形状の水素生成触媒3が外嵌されていてもよい。
【0045】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3と水素分離体5とが隙間を有して配置されているが、この態様に限定されず、例えば、水素生成触媒3の貫通孔の内周面の一部又は全体が、水素分離体5に接触するように配置されていてもよい。
【0046】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、反応器9の材質は、ステンレス鋼(SUS316)であるが、これに限定されず、例えば、SUS316L、SUS430等のステンレス鋼であってもよい。
【0047】
次に、本発明の第一実施形態に係る水素製造装置における水素分離体5について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。なお、
図2及び
図3は、
図1とは上下が逆の向きになっている。
【0048】
図2に示す水素分離体5では、その閉塞された先端側(同図上側)に、主として多孔質セラミックからなり、水素を分離する機能を有する試験管形状の水素分離部25が設けられており、また、その開放された基端側(同図下側)に、ガス透過性が無く、かつ、強度が高い緻密質セラミックからなる筒状の緻密部27が設けられている。ここで、「ガス透過性が無く」とは、原料ガスの透過が防止される程度に透過性が無いことを意味する。例えば、相対密度70%以上の緻密さがあれば、原料ガスの透過が防止される。
【0049】
緻密部27は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)からなる円筒形状のセラミック体であり、ガスが透過できない程度に十分に緻密化されており、その強度は水素分離部25よりも大きなものとされている。
水素分離部25は、その外周側から導入されたガス、即ち、原料ガスが水素生成触媒3によって改質された改質ガスから、水素を選択的に分離して、水素分離部25の軸中心の中心孔21に供給する部材である。
【0050】
水素分離部25は、
図3に拡大して示すように、一端が閉塞された試験管形状の多孔質部(支持体)29、この多孔質部29の外側表面を覆う多孔質層(水素分離層)31と、から一体的に構成されている。なお、緻密部27と多孔質部29とからセラミック支持体30(
図2参照)が構成されている。
【0051】
多孔質部29は、イットリア安定化ジルコニアからなる多孔質のセラミック製の支持体であり、即ち、通気性を有するとともに、多孔質層31を支持する役割を有する支持体である。本実施形態の多孔質部29の空隙率は40%であるが、この態様に限定されない。
【0052】
また、多孔質層31は、イットリア安定化ジルコニアからなる多孔質のセラミック製の被覆層であり、ガスの透過が可能な構造を有している。
詳細には、多孔質層31は、多孔質部29の外側表面を覆う、水素ガスが透過可能な第1多孔質層33と、この第1多孔質層33の外側表面を覆う、水素ガスが透過可能な第2多孔質層35と、この第2多孔質層35の外側表面を覆う、改質ガスが透過可能な多孔質保護層37と、から一体的に構成されている。
第1多孔質層33と第2多孔質層35とは、同様の多孔質構造を有しており、以下では、便宜上、第1多孔質層33と第2多孔質層35とを合わせて、内側多孔質層36と称する。
【0053】
第2多孔質層35の細孔内部の一部には、改質ガスから水素のみを選択的に透過させることにより、改質ガスから水素を分離することができる金属、いわゆる「水素透過性金属」であるパラジウム(Pd)が充填されている。
この細孔内部に水素透過性金属が充填され、第1多孔質層33の外側の全体を層状に覆う第2多孔質層35が、水素分離金属層(水素透過膜)39である。水素透過膜39では、水素が選択的に透過されるため、改質ガス中の水素のみを分離することができる。
多孔質保護層37は、外部から水素透過膜39の機能を損なうような汚染物質(例えばFe)が、水素透過膜39に付着することを防止している。
【0054】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置における水素分離体5は、例えば、以下の方法により製造することができる。
ゴム型に、イットリア安定化ジルコニア造粒粉と、造孔材として48体積%の有機ビーズを添加したイットリア安定化ジルコニア造粒粉と、をこの順に充填した後、プレス成形法により、充填物を試験管(円筒有底管)の形状に成形する。
得られた成形体を脱脂した後、1400℃で焼結させることにより、緻密部27と多孔質部29とが一体化されたセラミック支持体30を得る。
【0055】
次に、イットリア安定化ジルコニア粉末を有機溶媒中に分散させたスラリー(「イットリア安定化ジルコニアスラリー」と称する。)を調製し、上記にて得られたセラミック支持体30の多孔質部29上に、ディップコーティングすることにより、内側多孔質層36となる層(「内側多孔質層形成層」と称する。)を形成する。次いで、1200℃にて内側多孔質層形成層の焼き付けを行ない、多孔質部29の表面に、内側多孔質層36を備えたセラミック支持体30を得る。
【0056】
次に、内側多孔質層36を備えたセラミック支持体30を、スズ(Sn)イオン溶液に浸漬させ、Snイオンを内側多孔質層36に吸着させ、水洗後、Pdイオン溶液に浸漬させて、SnイオンとPdイオンとの交換反応によりPdイオンを吸着させる。次いで、ヒドラジン溶液に浸漬させることにより、Pdイオンを還元してPd金属核にする。
次に、内側多孔質層36上に、イットリア安定化ジルコニアスラリーをディップコーティングすることにより、多孔質保護層37となる層(「多孔質保護層形成層」と称する。)を形成する。次いで、1200℃にて多孔質保護層形成層の焼き付けを行ない、内側多孔質層36の表面に、多孔質保護層37を形成する。
【0057】
次に、無電解めっき法により、内側多孔質層36の細孔の内周面に付着したPd金属核を成長させ、内側多孔質層36の細孔を埋めるように、厚み3.0μmのPdからなる水素透過膜39を形成する。なお、内側多孔質層36のうち、水素透過膜39が形成された部分が第2多孔質層35であり、それより内側の水素透過膜39が形成されていない部分が第1多孔質層33である。このようにして、水素分離体5を作製する。
【0058】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素分離体5における多孔質層31が、第1多孔質層33、水素透過性金属が細孔内部の一部に充填された第2多孔質層35、及び多孔質保護層37の3層から構成されているが、この態様に限定されず、例えば、水素透過性金属が、第1多孔質層33及び第2多孔質層35の両方の細孔内部に充填されていてもよく、また、多孔質層31が、細孔内部に水素透過性金属が充填された1層の多孔質層と多孔質保護層との2層から構成されていてもよい。
【0059】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素分離体5における多孔質部29を構成する成分としてイットリア安定化ジルコニアを用いているが、これに限定されない。多孔質部29を構成する材料としては、水素を含むガスの透過が可能な多孔質のセラミックが好ましく、その成分としては、イットリア安定化ジルコニア以外に、例えば、マグネシア等の酸化物が添加された安定化ジルコニア、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、セリア、ドープセリア、ムライト、シリカ、これらの混合物等が挙げられる。
【0060】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素分離体5における緻密部27を構成する成分としてイットリア安定化ジルコニアを用いているが、これに限定されない。緻密部27を構成する材料としては、セラミックが好ましく、その成分としては、イットリア安定化ジルコニア以外に、例えば、マグネシア等の酸化物が添加された安定化ジルコニア、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、セリア、ドープセリア、ムライト、シリカ、これらの混合物等が挙げられる。
【0061】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素分離体5における水素透過性金属としてパラジウムを用いているが、これに限定されず、例えば、パラジウム単体以外に、パラジウム合金(Pd合金)、具体的には、パラジウム銀合金(PdAg合金)、パラジウム銅合金(PdCu合金)、パラジウム金合金(PdAu合金)等を用いてもよい。 水素脆化の抑制の観点からは、水素透過性金属は、パラジウム単体よりもパラジウム銀合金が好ましい。また、高温(例えば450℃以上)で使用される水素製造装置の場合には、水素透過性金属は、パラジウム銀合金であることが望ましい。
【0062】
次に、本発明の第一実施形態に係る水素製造装置における水素生成触媒3について、
図4及び
図5を参照しながら説明する。なお、この説明を通じて、第2の発明である水素生成触媒についても詳述することとする。
【0063】
水素生成触媒3は、
図4に示すように、軸方向の両端面(即ち、同図の上下の端面)41、43が平行で、厚み(W)6.0mmの円筒形状を有している。
水素生成触媒3の貫通孔15の内径(φ)は12mmであり、水素分離体5に外嵌できるように、水素分離体5の外径より僅かに大きく、具体的には、水素分離体5との間に1mmの隙間を有するように設定されている。
【0064】
水素生成触媒3は、改質ガスが透過可能なように、イットリア安定化ジルコニアからなる多孔質のセラミックを担体(多孔質基材)4として用い、この多孔質基材4にニッケルからなる金属触媒が担持されている。
【0065】
図1のA部分の拡大図を用いて、水素生成触媒3を更に詳細に説明する。
水素生成触媒3は、
図5(A)に示すように、空隙率が高い多孔質基材にニッケルが担持された水素生成触媒層3Aと、空隙率が低い多孔質基材にニッケルが担持された水素生成触媒層3Bと、の2層から構成されており、反応器9内においては、空隙率が高い水素生成触媒層3Aが水素分離体5と対向するように配置されている。
【0066】
図1に示す水素製造装置1においては、空隙率の高い水素生成触媒層3Aと空隙率の低い水素生成触媒層3Bとの2層から構成されている水素生成触媒3が、空隙率が高い水素生成触媒層3Aと水素分離体5とが対向するように配置されているので、空隙率の低い水素生成触媒層3B側から入った原料ガスは、空隙率の高い水素生成触媒層3A側に向かって効率良く流れ、また、金属触媒であるニッケルとの接触により分離生成された水素は、空隙率の高い水素生成触媒層3A側から速やかに流出し、水素分離体5と接触する。
【0067】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置における水素生成触媒3は、例えば、以下の方法により製造することができる。
多孔質基材4の原料であるイットリア安定化ジルコニア粉末に、造孔材として60体積%の有機ビーズと、有機バインダと、水とを添加し、混合した後、スプレードライにより造粒を行ない、第1の造粒粉を得る。
また、多孔質基材4の原料であるイットリア安定化ジルコニア粉末に、造孔材として40体積%の有機ビーズと、有機バインダと、水とを添加し、混合した後、スプレードライにより造粒を行ない、第2の造粒粉を得る。
なお、造孔材としては、有機ビーズ以外に、例えば、カーボン粉体、コークス粉体、グラファイト粉体、無機粒子、有機バインダ等を用いることができる。
【0068】
第1の造粒粉を成形型に入れ、プレス成形により円筒形状の成形体を得る。次いで、その円筒形状の成形体の外周に、第2の造粒粉を円筒形状に沿って配置し、再びプレス成形することにより、円筒形状に成形する。得られた成形体を脱脂した後、1400℃で焼成することにより、異なる空隙率を有する2層構造の多孔質基材4を得る。
得られた2層構造の多孔質基材4を、硝酸ニッケル水溶液中に浸漬させた後、乾燥させる。乾燥後、大気中で600℃にて熱処理した後、水素中で600℃にて還元処理を行なうことにより、水素生成触媒3を作製する。
【0069】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3の形状は円筒状であるが、例えば、水素生成触媒3には、軸方向等に延びるスリット等が設けられ、周方向において一部が繋がっていない箇所があってもよい。好ましくは、水素生成触媒3の形状は、水素分離体5が貫挿可能な貫通孔を有する筒状である。
【0070】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3は、空隙率が高い多孔質基材に金属触媒が担持された水素生成触媒層3Aと、空隙率が低い多孔質基材に金属触媒が担持された水素生成触媒層3Bと、の2層から構成されているが、多孔質基材の空隙率が水素分離体側に向かって低くなるような勾配を有する、3層以上の多層構造を有していてもよい。
【0071】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3は、水素分離体5と対向する面側、即ち、水素生成触媒層3Aを構成する多孔質基材の空隙率が40%であり、水素分離体5と対向する面とは反対の面側、即ち、水素生成触媒層3Bを構成する多孔質基材の空隙率が20%であるが、この態様に限定されない。水素分離体5と対向する面側の多孔質基材の空隙率は、水素生成触媒3の強度が保たれる範囲内で、高いことが望ましく、例えば、30%〜60%であることが好ましく、40%〜50%であることがより好ましい。水素分離体5と対向する面とは反対の面側の多孔質基材の空隙率は、水素分離体5と対向する面側の多孔質基材の空隙率よりも低く、かつ、原料ガスの透過が可能であれば、特に限定されない。
【0072】
水素分離体5と対向する面側の多孔質基材の空隙率と、水素分離体5と対向する面とは反対の面側の多孔質基材の空隙率との差は、特に限定されないが、差が大きいほど、原料ガス及び原料ガスから生成された水素が水素生成触媒3中を水素分離体5に向かってより流れやすくなるため、好ましい。
多孔質基材4の厚み方向への空隙率の勾配は、水素生成触媒3の構造安定性の観点から、緩やかであることが望ましい。
【0073】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3を構成する多孔質基材4の全体に対して平均的に金属触媒が担持されているが、多孔質基材4の水素分離体5と対向する面とは反対の面側に向かって金属触媒の担持量が少なくなっていてもよいし、また、多孔質基材4の水素分離体5と対向する面とは反対の面側には、金属触媒が担持されていなくてもよい。
【0074】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3における金属触媒を構成する金属としてニッケルを用いているが、これに限定されない。水素生成触媒3における金属触媒を構成する金属としては、ニッケル以外に、例えば、銅、鉄、白金、パラジウム、亜鉛、これらの混合物、これらを含む合金等を用いることができる。なお、「金属触媒」とは、金属を含む触媒を意味する。
水素生成触媒における金属触媒の担持量は、特に限定されるものではないが、例えば、1質量%〜10質量%であることが好ましく、2質量%〜5質量%であることがより好ましい。
【0075】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1では、水素生成触媒3における多孔質基材4を構成する成分としてイットリア安定化ジルコニアを用いているが、これに限定されない。多孔質基材4を構成する材料としては、多孔質のセラミックが好ましく、その成分としては、イットリア安定化ジルコニア以外に、例えば、マグネシア等の酸化物が添加された安定化ジルコニア、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、セリア、ドープセリア、ムライト、シリカ、これらの混合物等が挙げられる。
【0076】
次に、水素分離体5を反応器9に取り付ける構成について、
図6を参照しながら簡単に説明する。なお、
図6は、
図1とは上下が逆の向きになっている。
図6に示すように、水素分離体5の基端側には、金属継手7が取り付けられている。
金属継手7は、水素分離体5の開放端側が挿入された筒状の取付金具51と、水素分離体5の外周面と取付金具51の内周面との間に配置された円筒形の膨張黒鉛からなるシール部材53と、水素分離体5に外嵌されてシール部材53を押圧する円筒形の押圧金具55と、押圧金具55に外嵌され、取付金具51に螺合して、押圧金具55を押圧する筒状の固定金具57と、を備えている。
【0077】
取付金具51は、先端側筒状部59と鍔部61とネジ部63とを備えており、軸中心には、水素ガスの流路となる貫通孔(中空部)65が形成され、中空部65には、水素分離体5の基端側の端部が収容されている。
【0078】
そして、水素分離体5に金属継手7を固定する場合には、取付金具51に螺合する固定金具57を締め付けて押圧金具55を押圧する。これにより、シール部材53が押圧されて軸方向に圧縮されるとともに、径方向に膨張するので、水素分離体5と金属継手7との間のシール(気密)及び固定が行われる。なお、水素分離体5に金属継手7が取り付けたられた装置を水素分離装置67と称する。
【0079】
水素製造装置1では、水素分離装置67は、金属継手7のネジ部63を反応器9のネジ孔(図示せず)に螺合させることにより固定されている。
【0080】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1によれば、空隙率が高い多孔質基材に金属触媒が担持された水素生成触媒層3Aと、空隙率が低い多孔質基材に金属触媒が担持された水素生成触媒層3Bと、の2層から構成された水素生成触媒が、空隙率が高い水素生成触媒層3Aが水素分離体5と対向するように配置されているので、原料ガス及び原料ガスから分離生成された水素が水素生成触媒3中を水素分離体5に向かって流れやすくなる。また、原料ガスから分離生成された水素の流速が水素分離体5の近傍で速くなるため、水素分離体5における水素分離部25での水素の透過が促進され、水素の製造効率が向上する。
【0081】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1によれば、水素生成触媒3における多孔質基材4を構成する成分と、水素分離体5における支持体29を構成する成分と、が同一であるので、水素生成触媒3における多孔質基材4及び水素分離体5における支持体29の昇温及び降温の際の膨張挙動及び収縮挙動が一致している。よって、水素生成触媒3の収縮又は水素分離体5の膨張により、水素分離体5が水素生成触媒3に押圧されて破損することがない。
【0082】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1によれば、円筒形状の水素生成触媒3が水素分離体5に外嵌された状態で、反応器9に収容されているので、使用に際して、反応器9が高温となり膨張した場合でも、水素生成触媒3は、水素分離体5に外嵌された状態のままであり、径方向に移動することはないので、水素分離体5が水素生成触媒3に押圧されて破損するという問題が生じない。
【0083】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1によれば、水素生成触媒3と水素分離体5とが、常に所定の距離が保たれるように隙間を有して配置されているので、水素生成触媒3の収縮又は水素分離体5の膨張により、水素分離体5が水素生成触媒3に押圧されて破損するという問題が生じ難い。
【0084】
本発明の第一実施形態に係る水素製造装置1によれば、1の試験管形状の水素分離体5に、複数の円筒形状の水素生成触媒3が外嵌されているので、水素分離体5が中心軸に対して多少傾いていたり、水素分離体5の径方向の寸法に誤差があったり、或いは、水素生成触媒3の貫通孔15の内径φに寸法誤差がある場合であっても、水素生成触媒3を水素分離体5に容易に嵌めることができる。
【0085】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る水素製造装置について説明する。
本発明の第二実施形態に係る水素製造装置は、水素生成触媒3が、厚み方向に空隙率の緩やかな勾配を有している(
図5(B)参照)こと以外は、上述した第一実施形態に係る水素製造装置1と同様の構成を有している。
第一実施形態に係る水素製造装置1と同じ構成部分については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0086】
本発明の第二実施形態に係る水素製造装置における水素生成触媒3は、第一実施形態に係る水素製造装置1と同様に、イットリア安定化ジルコニアからなる多孔質のセラミックを多孔質基材4とし、この多孔質基材4の全体に対して平均的にニッケルからなる金属触媒が担持されている。
【0087】
本発明の第二実施形態に係る水素製造装置では、水素生成触媒3における多孔質基材4の空隙率が、水素分離体5と対向する面側に向かって厚み方向に緩やかな勾配を有しながら、低空隙率から高空隙率へと変化しているため、原料ガスが水素生成触媒3中を水素分離体5に向かって誘導されるように流れる。また、金属触媒であるニッケルとの接触により原料ガスから分離生成された水素は、水素分離体5に対向する面側から速やかに流出し、水素分離体5と接触する。
【0088】
本発明の第二実施形態に係る水素製造装置によれば、原料ガスが水素生成触媒3中を水素分離体5に向かって誘導されるように流れるとともに、水素生成触媒3中を流れる原料ガスから改質された水素を含むガスの流速が、水素分離体5に対向する面側で速くなるため、水素分離体5での水素の透過が促進されて、水素の製造効率がより向上する。
【0089】
本発明の第二実施形態に係る水素製造装置における水素生成触媒3は、例えば、以下の方法により製造することができる。
多孔質基材の原料であるイットリア安定化ジルコニア粉末に、造孔材として有機ビーズと、有機バインダと、水とを添加し、混合した後、スプレードライにより造粒を行なう。この操作を、有機ビーズの割合を変えて行なうことにより、有機ビーズの割合の異なる数種類の造粒粉を得る。
【0090】
数種類の造粒粉を用い、最も有機ビーズの割合の多い造粒粉から、有機ビーズの割合が順次変化するように、プレス成形により円筒形状に成形し、円筒形状の外周側から内周側に向けて、有機ビーズの割合が変化する成形体を形成する。得られた成形体を脱脂した後、1400℃で焼成し、空隙率が厚み方向に緩やかに変化した多孔質基材4を得る。
得られた多孔質基材4を、硝酸ニッケル水溶液中に浸漬させた後、乾燥させる。乾燥後、大気中で600℃にて熱処理した後、水素中で600℃にて還元処理を行なうことにより、水素生成触媒3を作製する。
【0091】
本発明の第二実施形態に係る水素製造装置によれば、空隙率が厚み方向に緩やかに変化する水素生成触媒3が、空隙率が高い方の面側が水素分離体5と対向するように配置されているので、原料ガス及び原料ガスから分離生成された水素の流れが、水素分離体5に向かって誘導される。また、原料ガスから分離生成された水素の流速が水素分離体5の近傍で速くなるため、水素分離体5における水素分離部25での水素の透過が促進され、水素の製造効率が向上する。さらに、本発明の第二実施形態に係る水素製造装置における水素生成触媒3は、厚み方向への空隙率の変化が緩やかであるため、構造上安定である。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
〔水素製造装置の製造〕
−水素分離体の製造−
ゴム型に、イットリア安定化ジルコニア造粒粉と、造孔材として48体積%の有機ビーズを添加したイットリア安定化ジルコニア造粒粉と、をこの順に充填した後、プレス成形法により、円筒有底形状(試験管形状)に成形して、成形体を作製した。この成形体を脱脂した後、1400℃で焼結することにより、緻密部と多孔質部とが一体化された、外径10mm×長さ300mmのセラミック支持体を得た。
【0094】
次に、イットリア安定化ジルコニア粉末を有機溶媒中に分散させたスラリー(イットリア安定化ジルコニアスラリー)を調製し、上記にて作製したセラミック支持体の多孔質部上に、ディップコーティングすることにより、内側多孔質層形成層(後に内側多孔質層となる層)を形成した。この内側多孔質層形成層に対して、1200℃で焼き付けを行ない、多孔質部の表面に内側多孔質層を備えたセラミック支持体を得た。
【0095】
得られた内側多孔質層を備えたセラミック支持体を、スズ(Sn)イオン溶液に浸漬させ、Snイオンを内側多孔質層に吸着させた後、水洗した。次いで、Pdイオン溶液に浸漬させて、SnイオンとPdイオンとの交換反応によりPdイオンを内側多孔質層に吸着させた。さらに、ヒドラジン溶液に浸漬させて、Pdイオンを還元してPd金属核にした。
【0096】
次に、内側多孔質層上に、イットリア安定化ジルコニアスラリーをディップコーティングすることにより、多孔質保護層形成層(後に多孔質保護層となる層)を形成した。この多孔質保護層形成層に対して、1200℃で焼き付けを行ない、内側多孔質層の表面に多孔質保護層を形成した。次いで、無電解めっき法により、内側多孔質層に付着したPd金属核を成長させ、内側多孔質層の細孔を埋めるように、厚み3.0μmのPdからなる水素透過膜を形成し、水素分離体Aを得た。
【0097】
−水素生成触媒の製造−
イットリア安定化ジルコニア粉末に、造孔材として60体積%の有機ビーズと、有機バインダと、水とを添加し、混合した後、スプレードライにより造粒を行ない、第1の造粒粉を得た。
また、イットリア安定化ジルコニア粉末に、造孔材として40体積%の有機ビーズと、有機バインダと、水とを添加し、混合した後、スプレードライにより造粒を行ない、第2の造粒粉を得た。
【0098】
第1の造粒粉を成形型に入れ、プレス成形により円筒形状の成形体を得た。次いで、その円筒形状の成形体の外周に、第2の造粒粉を円筒形状に沿って配置し、再びプレス成形することにより、円筒形状に成形した。得られた成形体を脱脂した後、1400℃で焼成することにより、異なる空隙率を有する2層構造の多孔質基材A(外径24mm×内径12mm×長さ30mm)を作製した。
【0099】
次に、多孔質基材Aを、硝酸ニッケル水溶液中に浸漬させた後、乾燥した。乾燥後、大気中で600℃にて熱処理した後、水素中で600℃にて還元処理を行なうことにより、イットリア安定化ジルコニア製の多孔質のセラミックからなる多孔質基材Aに、金属触媒としてニッケルが担持された水素生成触媒Aを得た。
【0100】
−水素製造装置の組付−
図1に示すように、上記にて製造した水素分離体Aと水素生成触媒Aとを、円筒状(外径30mm×内径25mm×長さ400mm)の反応器内に配置した。具体的には、反応器内に水素生成触媒Aを同軸に10個積層し、その貫通孔に挿入するように水素分離体Aを配置した。このようにして、水素製造装置Aを製造した。
【0101】
[実施例2]
〔水素製造性能の評価試験(1)〕
水素生成触媒における多孔質基材の空隙構造が水素製造性能に及ぼす効果について、流体解析シミュレーション技術を用いて検討した。具体的には、熱流体解析汎用ソフトウェア(熱流体解析ソフト:「Fluent」(登録商標)、バージョン:13.0、米国ANSYS社製)を用いて、水素製造装置のモデルを構築し、その上で、水素生成触媒における多孔質基材の、水素分離体と対向する面側の空隙率と水素分離体と対向する面とは反対側の面側の空隙率とを変化させた水素生成触媒のモデルを適用して、水素生成触媒における多孔質基材の空隙構造が水素製造性能に及ぼす効果を評価した。
【0102】
シミュレーション条件は、以下の(1)〜(3)のとおりとした。
(1)水素生成触媒の外層の空隙率を26%に固定し、内層の空隙率を13%、26%、50%、及び90%に変化させる。
(2)水素製造装置を、室温(25℃)から550℃まで昇温させた後、水蒸気及び都市ガス(CH
4:89.6%、C
2H
6:5.6%、C
3H
8:3.4%、C
4H
10:1.4%)を、流量3Nml/min/cm
2にて、原料導入孔から導入する。
(3)水蒸気と都市ガスとの混合比は、モル比で3とする。
【0103】
そして、シミュレーション結果から、水素分離体の中心孔に流入したH
2の量(水素製造量、単位:Nml/min/cm
2)を算出するとともに、ガス排出孔から排出されたオフガスの組成に基づいて、転化率を算出した。
ここで、「転化率」とは、都市ガスが改質等によりCO及びCO
2に転化された割合、即ち、都市ガスの成分が反応(改質反応及びシフト反応)した割合をいい、下記式により求めることができる。
転化率(%)=(オフガス中のCO及びCO
2の合計含有量)/(オフガス中のCH
4、C
2H
6、C
3H
8、C
4H
10、CO、及びCO
2の合計含有量)×100・・・式
本発明の水素製造装置では、高温の水蒸気を含む原料ガス(ここでは都市ガス)が水素生成触媒に接触して水蒸気改質反応等が生じ、都市ガスがH
2、CO、及びCO
2に分解される。これらのうち、水素は、水素分離体により分離され、水素分離体の中心孔に流入する。一方、CO及びCO
2は、水素分離体を透過しないため、ガス排出孔からオフガスとして排出される。したがって、オフガス中のCO及びCO
2の量を測定し、都市ガスがCO及びCO
2に転化された割合を求めることで、間接的に、都市ガスからの水素製造性能を評価することができる。
シミュレーション結果を
図7に示す。
【0104】
図7に示すシミュレーション結果によれば、水素生成触媒の外層の空隙率を26%に固定し、内層の空隙率を13%〜90%の間で変化させたところ、内層の空隙率が外層の空隙率よりも高くなると、水素製造量の増加及び転化率の上昇が認められ、水素製造性能が向上することが確認された。外層の空隙率が26%であり、内層の空隙率が50%である場合における水素製造量及び転化率は、外層の空隙率が26%であり、内層の空隙率が13%及び26%である場合に比べて高くなることが確認された。このように、外層の空隙率が10%〜30%の範囲内であり、かつ、内層の空隙率が40%〜60%の範囲内であると、高い水素製造性能と転化率とが実現できるものと考えられる。
【0105】
[実施例3]
〔水素製造性能の評価試験(2)〕
実施例2のシミュレーション条件を、以下の(1)〜(3)に変えた以外は、実施例2と同様にして、水素生成触媒における多孔質基材の空隙構造が水素製造性能に及ぼす効果を評価した。
(1)水素生成触媒の内層の空隙率を26%に固定し、外層の空隙率を8%、13%、26%、50%、及び90%の間で変化させる。
(2)水素製造装置を、室温(25℃)から550℃まで昇温させた後、水蒸気及び都市ガス(CH
4:89.6%、C
2H
6:5.6%、C
3H
8:3.4%、C
4H
10:1.4%)を、流量3Nml/min/cm
2にて、原料導入孔から導入する。
(3)水蒸気と都市ガスとの混合比は、モル比で3とする。
【0106】
そして、シミュレーション結果から、水素分離体の中心孔に流入したH
2の量(水素製造量、単位:Nml/min/cm
2)を算出するとともに、ガス排出孔から排出されたオフガスの組成に基づいて、転化率を算出した。転化率の算出方法は、実施例2と同様である。
シミュレーション結果を
図8に示す。
【0107】
図8に示すシミュレーション結果によれば、水素生成触媒の内層の空隙率を26%に固定し、外層の空隙率を8%〜90%の間で変化させたところ、外層の空隙率が内層の空隙率よりも高くなると、水素製造量の減少及び転化率の低下が認められ、水素製造性能が低下することが確認された。
【0108】
以上のことから、次のようなことが考えられる。水素生成触媒を構成する多孔質基材が、水素分離体と対向する面側で粗な構造を有し、かつ、水素分離体と対向する面とは反対側の面側で密な構造を有していると、原料ガスが水素分離体に向かって流れやすく、水素生成触媒中で生成された水素の流れが水素分離体近傍で速くなる。水素分離体近傍で水素の流れが速くなると、濃度分極(水素分離体表面の水素濃度が低くなる現象)が抑制されるため、水素分離体表面の水素濃度が低くなっても水素透過が起こり、水素を製造する方向に反応が促進される。また、原料ガスの流れが水素分離体側に誘導されると、水素が水素分離体を介して反応系外により引き抜かれるため、水素を製造する方向に反応がより促進される。その結果、水素の製造効率が向上すると考えられる。