(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、万一の放射線事故に対応するためのものであり、瞬時にヨウ化カリウムを発生させることができるヨウ化カリウム発生剤組成物と、それを使用したヨウ化カリウム発生器、さらにはヨウ化カリウム発生器を使用したヨウ化カリウムの吸入装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、課題の解決手段として、(A)燃料と(B)ヨウ素酸カリウムおよび/または過ヨウ素酸カリウムを含み、(B)成分の含有割合が40〜65質量%である、ヨウ化カリウム発生剤組成物を提供する。
本発明は、課題の他の解決手段として、(A)燃料、(B)ヨウ素酸カリウムおよび/または過ヨウ素酸カリウム、(C)バインダーを含み、(B)成分の含有割合が50〜78質量%である、ヨウ化カリウム発生剤組成物を提供する。
【0007】
本発明は、さらに他の課題の解決手段として、ヨウ化カリウムを含むガスの排出口を有するハウジング内に、点火手段と上記のヨウ化カリウム発生剤組成物が収容されたヨウ化カリウム発生器を提供する。
【0008】
本発明のヨウ化カリウム発生器は、周知のエアバッグ装置用のガス発生器であり、ガス源としてガス発生剤を使用するガス発生器を使用することができる。
本発明のヨウ化カリウム発生器は、前記ガス発生剤に代えて、上記のヨウ化カリウム発生剤組成物を使用する。
ヨウ化カリウム発生剤組成物の使用量は、発生させるヨウ化カリウム量に応じて選択する。
【0009】
本発明は、さらに他の課題の解決手段として、上記のヨウ化カリウム発生器と、前記ヨウ化カリウム発生器から発生したヨウ化カリウムを含むガスを充満させるための密閉室と、前記密閉室に接続されたヨウ化カリウムの吸入手段を備えたヨウ化カリウムの吸入装置を提供する。
【0010】
本発明のヨウ化カリウムの吸入装置は、携行型および固定型のいずれもよい。
本発明のヨウ化カリウムの吸入装置が携行型であるときは、例えば、5〜10人程度の必要量に相当するヨウ化カリウムを発生させ、供給できる装置にすることができる。
本発明のヨウ化カリウムの吸入装置が固定型であるときは、例えば100〜200人程度の必要量に相当するヨウ化カリウムを発生させ、供給できる装置にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヨウ化カリウムの吸入装置は、瞬間的に所要量のヨウ化カリウムを発生させ、それを吸入することができる。
このため、放射線事故が発生したような場合には、各人がヨウ素剤を飲用することに代えて、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被爆の予防・低減用として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ヨウ化カリウム発生剤組成物>
第1のヨウ化カリウム発生剤組成物は、(A)成分の燃料と、(B)成分のヨウ素酸カリウムおよび/または過ヨウ素酸カリウムを含んでいる。
第2のヨウ化カリウム発生剤組成物は、(A)成分の燃料、(B)成分のヨウ素酸カリウムおよび/または過ヨウ素酸カリウム、並びに(C)成分のバインダーを含んでいる。
【0014】
(A)成分の燃料は、硝酸グアニジン、ニトログアニジン、5−アミノテトラゾール、硝酸アンモニウム、メラミンから選ばれるものが好ましい。
これらは、いずれか1つのみを使用してもよいし、2以上を組み合わせてもよい。
【0015】
(B)成分は、ヨウ素酸カリウム(KIO
3)、過ヨウ素酸カリウム(KIO
4)、またはヨウ素酸カリウムと過ヨウ素酸カリウムの混合物である。
(B)成分は、ヨウ化カリウムの発生源となると共に、酸化剤として機能する成分である。
【0016】
(C)成分のバインダーは、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、グアガム、ポリビニルアルコール、デンプンから選ばれるものが好ましい。
【0017】
第1のヨウ化カリウム発生剤組成物は、ヨウ化カリウムの発生に好適に作用し、人体に悪影響を及ぼさない範囲で他の添加剤を使用することもできる。
第1のヨウ化カリウム発生剤組成物が(A)成分と(B)成分からなるときは、
(A)成分の含有割合は35〜60質量%、好ましくは40〜55質量%であり、
(B)成分の含有割合は40〜65質量%、好ましくは45〜60質量%である。
【0018】
第2のヨウ化カリウム発生剤組成物は、ヨウ化カリウムの発生に好適に作用し、人体に悪影響を及ぼさない範囲で他の添加剤を使用することもできる。
第2のヨウ化カリウム発生剤組成物が(A)成分、(B)成分および(C)成分からなるときは、
(A)成分の含有割合は20〜45質量%、好ましくは22〜45質量%であり、
(B)成分の含有割合は50〜78質量%、好ましくは55〜75質量%であり、
(C)成分の含有割合は2〜10質量%、好ましくは3〜8質量%である。
【0019】
ヨウ化カリウム発生剤組成物は、粉末状態であってもよいし、所望形状に成形することもできる。
成形法は、周知のエアバッグ装置用のガス発生器で使用するガス発生剤成形体の成形方法を適用することができる。
【0020】
<ヨウ化カリウム発生器>
図1によりヨウ化カリウム発生器を説明する。
図1に示すヨウ化カリウム発生器1は、基本的な構造はエアバッグ装置に使用する火工式ガス発生器と同じ構造にすることができる。
【0021】
ハウジング11は、ディフューザシェル12とクロージャシェル13が接合部で溶接一体化されたものである。
ディフューザシェル12は、側壁面に複数のヨウ化カリウム微粒子を含むガスの排出口(ガス排出口)14を有している。
ガス排出口14は、防湿用のシールテープ15で内側から閉塞されている。
ハウジングは、
図1に示す形状のほか、公知のガス発生器で汎用されているシリンダー形状のものも使用することができる。
【0022】
ハウジング11の中心軸Xを包囲する位置には、内筒部材20が配置されている。
内筒部材20は、第1端部21が天板面12a側に位置し、第2端部22が底板面13a側に位置している。
内筒部材20は、周壁面23において周方向に複数の伝火孔24を有している。伝火孔24は、外側からシールテープ25で閉塞されている。
【0023】
内筒部材20の内部は、点火手段室30になっている。
点火手段室30内には、底板面13a側から電気式点火器31が取り付けられている。
点火手段室30内の天板面12a側には、アルミニウム製容器などに充填された伝火薬(伝火薬容器)35が配置されている。
伝火薬35は、電気式点火器31の着火部32に当接されている。
なお、伝火薬35を使用せず、点火器31だけでヨウ化カリウム発生剤組成物42を着火するようにしてもよい。
【0024】
内筒部材20の外部は燃焼室40になっており、燃焼室40と点火手段室30は、作動前には内筒部材20で分離されている。
燃焼室40内には、上記したヨウ化カリウム発生剤組成物42が充填されている。
燃焼室40の底板面13a側には、環状のリテーナ45が配置されている。環状のリテーナ45は、ヨウ化カリウム発生剤組成物42の充填量に応じて、中心軸X方向の位置を移動させることで、燃焼室40の容量を調節するためのものである。
【0025】
燃焼室40の外側には、排出口14との間に隙間50をおいて筒状のクーラント材45が配置されている。
筒状のクーラント材45は、ヨウ化カリウムを含むガスが通過するときに冷却する機能及び密閉室ハウジング110内に燃焼時に発生する火花などが入ることを防止するためのものである。
発生するヨウ化カリウムを含むガス(筒状のクーラント材45を通過する前には、ヨウ化カリウムはガス状である)を通過させるため、公知のガス発生器で使用しているクーラントまたはフィルタと比べると、嵩密度の小さなものが好ましく用いられる。
筒状のクーラント材45と内筒部材20の間には、位置決め部材46が配置されている。
【0026】
<ヨウ化カリウムの吸入装置>
図2によりヨウ化カリウムの吸入装置100を説明する。
密閉室ハウジング110内は、作動時にヨウ化カリウム微粒子を含むガスが供給される密閉室120となる。
密閉室ハウジング110は気密性が維持できるものであればよいが、軽量化の観点からプラスチック製が好ましく、また透明プラスチック製にして、内部の状態(ヨウ化カリウム微粒子の発生状態)が肉眼で観察できるようにしてもよい。
密閉室ハウジング110は、円柱、円板、球の一部が切断された形状、直方体、立方体などの外形にすることができる。また、
図2は固定型の吸入装置100が縦置きされた状態を示しているが、横置き型にすることもできる。
密閉室ハウジング110の内側面には、ヨウ化カリウム発生器1が作動したときの音(ヨウ化カリウム発生剤組成物の燃焼音)を軽減するため、吸音材を貼り付けることもできる。
【0027】
密閉室120の大きさ(容積)は、ヨウ化カリウムの発生量に対応して決めることができるものであり、例えば100人分のヨウ化カリウムを発生させ、かつ発生したヨウ化カリウム濃度を均一に維持するようにすると、0.825m
3程度である。
このため、多人数分のヨウ化カリウムを発生させる装置にするときは固定型の装置とし、少人数分のヨウ化カリウムを発生させる装置にするときは携行型の装置とすることができる。
密閉室ハウジング110の底面112には、必要に応じて装置100を移動させるための脚車(キャスター)を取り付けることができる。
【0028】
密閉室120に面した密閉室ハウジング110の天井面111にヨウ化カリウム発生器1が取り付けられている。
ヨウ化カリウム発生器1内の電気式点火器31は、図示していないリードワイヤを介して、外部電源およびバッテリーなどの非常用電源などと接続され、状況に応じていずれかから通電できるようになっている。
ヨウ化カリウム発生器120は、必要に応じて2以上を取り付けることができる。例えば、1つのヨウ化カリウム発生器120で50人分のヨウ化カリウムを発生できるとすると、2つのヨウ化カリウム発生器120を取り付けて、順次作動させると、1つの装置1で合計100人分のヨウ化カリウムを発生させることができる。
【0029】
密閉室120に面した密閉室ハウジング110の底面112には、内部空気の拡散機能を有するファン130が取り付けられている。
ファン130は、図示していないリードワイヤを介して、外部電源およびバッテリーなどの非常用電源の両方と接続され、状況に応じていずれかから通電できるようになっている。
なお、ヨウ化カリウムの吸入装置100が少人数用であるときは、ファン120は使用しなくてもよい。
【0030】
密閉室ハウジング110の周壁面113には、密閉室120に接続されたヨウ化カリウムの吸入手段140が接続されている。
吸入手段140は、作動時において密閉室120内のヨウ化カリウム微粒子を含むガスを外部から吸入できるものであればよい。
図2では、チューブ141とマスク142の組み合わせからなる吸入手段140が取り付けられている。
チューブ141は、いずれも柔軟性のあるプラスチックまたはゴムからなるものである。
マスク142は、プラスチック、ゴムのほか、不織布や紙からなるものにすることもできる。
チューブ141は、第1端開口部側が密閉室120内部に接続されており、接続部143には外部から開閉操作ができる開閉弁が取り付けられている。
チューブ141は、反対側の第2端部側がマスク142と接続されている。マスク142は、鼻または口と鼻の両方を覆うことができる形状および大きさのものなどを使用することができる。
吸入手段140は、異なる高さ位置に複数を取り付けることで、成人男性、成人女性、小児などの異なる身長の多数の人が一度に吸入できるようにしてもよい。
また、マスク142は、チューブ141の第2端部側に対して着脱自在にできるようにしておき、交換できるようにすることもできる。
【0031】
吸入装置100は、密閉室ハウジング110の外側に図示していない電源スイッチが設置されている。
電源スイッチは、ヨウ化カリウム発生器1を作動させるためのスイッチであるが、ファン120を使用したときは、1つの電源スイッチでヨウ化カリウム発生器1とファン120の両方を作動できるようにすることが望ましい。
【0032】
次に、ヨウ化カリウム発生剤組成物とヨウ化カリウム発生器1を使用したヨウ化カリウムの吸入装置100の動作を説明する。
万一の放射線事故が発生し、ヨウ素剤(ヨウ化カリウム)の摂取が必要になったときには、ヨウ化カリウムの吸入装置100が固定型の場合には、固定型装置100が設置している避難所などにおいて使用し、装置100が携行型の場合には、携行型装置100を持って移動しながら使用するか、または避難所のような場所に持って行って使用する。
電源スイッチ(ヨウ化カリウム発生器1の作動スイッチ)を入れると、ヨウ化カリウム発生器1の点火器31が作動して、点火手段室30内の伝火薬35が着火され、火炎などが発生する。
発生した火炎などは伝火孔24を塞ぐシールテープ25を破って、燃焼室40内に流入して、ヨウ化カリウム発生剤組成物33を着火燃焼させる。
ヨウ化カリウム発生剤組成物33の着火燃焼によって、燃焼室40内ではヨウ化カリウム微粒子を含むガスが発生する。
ヨウ化カリウム微粒子を含むガスは、クーラント材45を通過して冷却された後、隙間50に流入し、シールテープ15を破って、排出口14から密閉室120内に排出される。なお、排出直後のガス温度は高いが、密閉室120内は室温であるため、速やかに低下される。
図2は、冷却されたヨウ化カリウム微粒子が白煙になった状態を示している。
【0033】
ファン130は、ヨウ化カリウム発生器1の作動と同時に作動しているため、密閉室120内に排出されたヨウ化カリウム微粒子を含むガス(予め密閉室120にある空気を含む)は拡散され、ヨウ化カリウム濃度は均一になる。
その後、マスク142に口と鼻を近づけた状態で数回吸入することで、必要量のヨウ化カリウムを経口および鼻孔で摂取することができる。
【0034】
本発明の吸入装置を一次避難所、家庭、職場などの目立つ場所に備えておくことで、緊急時には、各人がヨウ素剤を飲用することの代替手段として、使用することができる。
特に本発明の吸入装置を使用すれば、緊急時において各人がヨウ素剤の置き場所を探したり、ヨウ素剤を飲用するための水を用意したりする必要がなくなる。
【実施例】
【0035】
実施例1〜16(ヨウ化カリウム発生剤組成物)
表1にヨウ化カリウム発生剤組成物を示す。ヨウ化カリウム発生量は、計算量である。
【0036】
実施例1〜16のヨウ化カリウム発生剤組成物70gを充填したヨウ化カリウム発生器を作動させると、表1に示す30g前後の量(計算量)のヨウ化カリウム微粒子を含むガスが発生する。
約30gのヨウ化カリウム微粒子が容積1.65m
3の密閉室内に充満したとすると、1m
3当たりのヨウ化カリウム量は30,000mg/1.65m
3=18181mg/m
3となる。
成人男性(肺活量3000ml)が1回の深呼吸で吸入する空気量は約0.003m
3であり、成人男性の必要量130mgを吸入するためには、130/18181/0.003=約2.4(回吸入)となる。
よって、2,3回吸入することで、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被爆の予防・低減効果が得られることになる。
【0037】
【表1】
【0038】
NQ:ニトログアニジン、GN:硝酸グアニジン
KIO3:ヨウ素酸カリウム、KIO4:過ヨウ素酸カリウム
CMCNa:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩
PVA:ポリビニルアルコール