特許第6358850号(P6358850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358850アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358850
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20180709BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20180709BHJP
   C22C 47/20 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   B32B15/04 Z
   B32B5/02 B
   C22C47/20
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-105297(P2014-105297)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-217655(P2015-217655A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】溝 達寛
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/051782(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/011961(WO,A1)
【文献】 特開昭62−066929(JP,A)
【文献】 特開平03−202433(JP,A)
【文献】 特開平11−092841(JP,A)
【文献】 特開昭53−076904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C22C 1/00− 1/10、47/00−49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とバインダーと前記バインダー用溶剤とを混合状態に含有する塗液をアルミニウム箔上に塗工して、前記アルミニウム箔上に塗工層を形成する塗工工程と、
前記塗工層に含まれた前記溶剤を除去して、前記アルミニウム箔上に炭素繊維層が形成された塗工箔を得る溶剤除去工程と、
前記塗工箔をロール状に巻いてロール体を得るロール工程と、
前記ロール体の前記炭素繊維層に含まれた前記バインダーを除去するバインダー除去工程と、
前記バインダー除去工程の後で前記ロール体を押出加工する押出加工工程と、
を含み、
前記塗工工程では、前記塗工層に含まれる前記炭素繊維の塗工量が40g/m以下となるように前記塗液を前記アルミニウム箔上に塗工し、
前記バインダー除去工程では、前記ロール体を非酸化雰囲気中で加熱することにより前記バインダーを除去することを特徴とするアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項2】
前記ロール工程と前記バインダー除去工程との間に、前記ロール体の外周面をアルミニウム製外装体で覆う覆い工程を更に含み、
前記バインダー除去工程では、前記覆い工程の後で前記ロール体の前記炭素繊維層に含まれた前記バインダーを除去する請求項記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項3】
炭素繊維とバインダーと前記バインダー用溶剤とを混合状態に含有する塗液をアルミニウム箔上に塗工して、前記アルミニウム箔上に塗工層を形成する塗工工程と、
前記塗工層に含まれた前記溶剤を除去して、前記アルミニウム箔上に炭素繊維層が形成された塗工箔を得る溶剤除去工程と、
前記塗工箔をロール状に巻いてロール体を得るロール工程と、
前記ロール体の前記炭素繊維層に含まれた前記バインダーを除去するバインダー除去工程と、
前記バインダー除去工程の後で前記ロール体を押出加工する押出加工工程と、
を含み、
前記塗工工程では、前記塗工層に含まれる前記炭素繊維の塗工量が40g/m以下となるように前記塗液を前記アルミニウム箔上に塗工し、
前記ロール工程と前記バインダー除去工程との間に、前記ロール体の外周面をアルミニウム製外装体で覆う覆い工程を更に含み、
前記バインダー除去工程では、前記覆い工程の後で前記ロール体の前記炭素繊維層に含まれた前記バインダーを除去することを特徴とするアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項4】
前記バインダー除去工程では、前記ロール体を大気中にて350〜600℃の温度で1時間以上加熱することにより、前記バインダーを除去する請求項記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項5】
前記覆い工程では、前記外装体としてのアルミニウム製外装パイプ内に前記ロール体を挿入することで、前記ロール体の前記外周面を前記外装体で覆う請求項2〜4のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項6】
前記覆い工程と前記バインダー除去工程との間、又は、前記バインダー除去工程と前記押出加工工程との間に、前記外装体の両端開口のうち少なくとも一方を閉塞する閉塞工程を更に含む請求項2〜5のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項7】
前記押出加工工程では、前記ロール体を、前記外装体の閉塞された端を押出方向の先頭にして押出加工する請求項記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項8】
前記外装体の前記両端開口のうち前記少なくとも一方をアルミニウム製蓋体で閉塞する請求項6又は7記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項9】
前記覆い工程と前記バインダー除去工程との間に、前記外装体の一端開口だけをアルミニウム製蓋体で閉塞する閉塞工程を更に含み、
前記押出加工工程では、前記ロール体を、前記外装体の閉塞された端を押出方向の先頭にして押出加工する請求項2〜5のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項10】
前記塗液に含まれた前記炭素繊維の長さが1mm以下である請求項1〜9のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項11】
前記塗工工程では、前記アルミニウム箔の体積が前記アルミニウム箔の体積と前記塗工層に含まれる前記炭素繊維の体積との合計体積に対して50%を超えるように、前記塗液を前記アルミニウム箔上に塗工する請求項1〜10のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項12】
前記塗液は、前記バインダーの質量が前記炭素繊維の質量に対して0.5%〜25%となるように前記炭素繊維と前記バインダーとを含有している請求項1〜11のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法により得られたことを特徴とするアルミニウムと炭素繊維との複合材。
【請求項14】
アルミニウムと炭素繊維との複合材であって、
押出加工により得られ、
複合材の半径方向に交互に重なり合うようにロール状に積層された炭素繊維層とアルミニウム箔層を含み、
前記炭素繊維層内に前記アルミニウム箔層のアルミニウムが浸透しており、
前記炭素繊維層を挟んだ両側に配置された前記アルミニウム箔層同士が接合されており、
前記炭素繊維層に含まれる炭素繊維量が一層当たり40g/m以下であり、
複合材中の炭素繊維が押出方向と略平行に配置されている、アルミニウムと炭素繊維との複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法、及び、アルミニウムと炭素繊維との複合材に関する。
【0002】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、特に明示しない限り、「アルミニウム」の語は純アルミニウムとアルミニウム合金との双方を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
アルミニウムの放熱性を向上させるとともに熱膨張率をコントロールした材料として、アルミニウムと炭素との複合材が検討されている。
【0004】
この複合材の製造方法として、融解したアルミニウムに炭素粉末を入れて撹拌混合する方法(溶湯撹拌法)、空隙を有する炭素成形体に融解したアルミニウムを押し込む方法(溶湯鍛造法)、アルミニウム粉末と炭素粉末を混合して加熱加圧焼成する方法(粉末冶金法)、アルミニウム粉末と炭素粉末を混合して押出加工する方法(粉末押出法)などが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの方法では、溶融したアルミニウム又はアルミニウム粉末を用いるので、製造作業が煩雑であるし、製造設備が大型化していた。
【0006】
特開昭62−66929号公報(特許文献1)には、金属箔としてのアルミニウム箔上に強化材としてのSiCウィスカーを吹き付け、次いでアルミニウム箔を巻き、そして巻いたアルミニウム箔を押出加工するか圧延加工することにより、アルミニウムと炭素との複合材としてのアルミニウム基複合材を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−66929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記公報に記載の製造方法では、アルミニウム箔上に形成されたSiCウィスカーの吹付け層が厚すぎるため、吹付け層内にアルミニウムが十分に浸透することができず吹付け層に隙間ができてしまうこと、及び、吹付け層を挟んだ両側に配置されたアルミニウム箔同士があまり接合されないことが原因で、複合材の強度は低かった。
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、高い強度を有するアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法、及び、アルミニウムと炭素繊維との複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の手段を提供する。
【0011】
[1] 炭素繊維とバインダーと前記バインダー用溶剤とを混合状態に含有する塗液をアルミニウム箔上に塗工して、前記アルミニウム箔上に塗工層を形成する塗工工程と、
前記塗工層に含まれた前記溶剤を除去して、前記アルミニウム箔上に炭素繊維層が形成された塗工箔を得る溶剤除去工程と、
前記塗工箔をロール状に巻いてロール体を得るロール工程と、
前記ロール体の前記炭素繊維層に含まれた前記バインダーを除去するバインダー除去工程と、
前記バインダー除去工程の後で前記ロール体を押出加工する押出加工工程と、
を含み、
前記塗工工程では、前記塗工層に含まれる前記炭素繊維の塗工量が40g/m以下となるように前記塗液を前記アルミニウム箔上に塗工することを特徴とするアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0012】
[2] 前記塗液に含まれた前記炭素繊維の長さが1mm以下である前項1記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0013】
[3] 前記塗工工程では、前記アルミニウム箔の体積が前記アルミニウム箔の体積と前記塗工層に含まれる前記炭素繊維の体積との合計体積に対して50%を超えるように、前記塗液を前記アルミニウム箔上に塗工する前項1又は2記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0014】
[4] 前記塗液は、前記バインダーの質量が前記炭素繊維の質量に対して0.5%〜25%となるように前記炭素繊維と前記バインダーとを含有している前項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0015】
[5] 前記ロール工程と前記バインダー除去工程との間に、前記ロール体の外周面をアルミニウム製外装体で覆う覆い工程を更に含み、
前記バインダー除去工程では、前記覆い工程の後で前記ロール体の前記炭素繊維層に含まれた前記バインダーを除去する前項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0016】
[6] 前記覆い工程では、前記外装体としてのアルミニウム製外装パイプ内に前記ロール体を挿入することで、前記ロール体の前記外周面を前記外装体で覆う前項5記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0017】
[7] 前記覆い工程と前記バインダー除去工程との間、又は、前記バインダー除去工程と前記押出加工工程との間に、前記外装体の両端開口のうち少なくとも一方を閉塞する閉塞工程を更に含む前項5又は6記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0018】
[8] 前記押出加工工程では、前記ロール体を、前記外装体の閉塞された端を押出方向の先頭にして押出加工する前項7記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0019】
[9] 前記外装体の前記両端開口のうち前記少なくとも一方をアルミニウム製蓋体で閉塞する前項7又は8記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0020】
[10] 前記覆い工程と前記バインダー除去工程との間に、前記外装体の一端開口だけをアルミニウム製蓋体で閉塞する閉塞工程を更に含み、
前記押出加工工程では、前記ロール体を、前記外装体の閉塞された端を押出方向の先頭にして押出加工する前項5又は6記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0021】
[11] 前記バインダー除去工程では、前記ロール体を大気中にて350〜600℃の温度で1時間以上加熱することにより、前記バインダーを除去する前項5〜10のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法。
【0022】
[12] 前項1〜11のいずれかに記載のアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法により得られたことを特徴とするアルミニウムと炭素繊維との複合材。
【発明の効果】
【0023】
本発明は以下の効果を奏する。
【0024】
前項[1]では、アルミニウム箔上に塗液を塗工すること、箔をロール状に巻くこと、及び、押出加工をすることは、広く知られた技術であり、安価で大量製造可能な方法であるから、アルミニウムと炭素繊維との複合材を容易に且つ大量に製造することができる。
【0025】
さらに、塗液に含まれた炭素繊維の塗工量が40g/m以下となるように塗液をアルミニウム箔上に塗工することにより、押出加工工程の際に、押出圧力によって炭素繊維層内にアルミニウム箔のアルミニウムが十分に浸透するようになるとともに、炭素繊維層を挟んだ両側に配置されたアルミニウム箔同士が十分に接合されるようになる。その結果、高い強度を有するアルミニウムと炭素繊維との複合材を得ることができる。
【0026】
さらに、バインダー除去工程では、バインダーを除去することにより、バインダーの残渣による複合材の熱伝導率の低下を抑制することができる。
【0027】
さらに、複合材は炭素繊維で強化されたアルミニウム材として捉えることができ、高いヤング率を有している。したがって、複合材は曲げ強度等の硬さを要求される部材の材料としても好適に使用可能である。
【0028】
前項[2]では、塗液に含まれた炭素繊維の長さが1mm以下であることにより、塗工層の厚さ及び炭素繊維含有量の均一化を確実に図ることができる。
【0029】
前項[3]では、押出加工工程の際に、アルミニウム箔のアルミニウムを炭素繊維層内に確実に浸透させることができる。これにより、複合材の強度を確実に高めることができる。
【0030】
前項[4]では、バインダーの質量が炭素繊維の質量に対して0.5%以上であることにより、塗工工程の際に炭素繊維をアルミニウム箔に確実に付着させることができる。
【0031】
さらに、バインダーの質量が炭素繊維の質量に対して25%以下であることにより、バインダー除去工程の際にバインダー量が多すぎてバインダーが残るのを確実に防止することができる。これにより、バインダーの残渣による複合材の熱伝導率の低下を更に確実に抑制することができる。
【0032】
前項[5]では、ロール体の外周面を外装体で覆うことにより、バインダー除去工程の際及び押出加工工程の際に炭素繊維層の炭素繊維がロール体(詳述するとロール体のアルミニウム箔)から脱落するのを抑制することができる。
【0033】
さらに、ロール体の搬送時や押出加工工程の際にロール体の外周面が破れないようにロール体の外周面を外装体で保護することができる。
【0034】
さらに、ロール体が押出加工されると、得られる複合材の最外周層にアルミニウム層が形成され、炭素繊維が複合材の最外周面に露出しない。これにより、複合材についてその最外周面に接触した接触物が炭素繊維で汚れるのを抑制できるし炭素繊維の脱落も抑制することができる。
【0035】
前項[6]では、外装体としての外装パイプ内にロール体を挿入することにより、ロール体の外周面を外装体で覆う作業を容易に行うことができるし、前項[5]の効果を確実に奏しうる。
【0036】
前項[7]では、外装体の両端開口のうち少なくとも一方を閉塞することにより、ロール体の搬送時などにおいてロール体の巻きずれを抑制することができるし、外装体内からのロール体の落下を抑制することができる。
【0037】
前記[8]では、ロール体を、外装体の閉塞された端を押出方向の先頭にして押出加工することにより、押出加工工程の際に押出方向へのロール体の巻きずれを抑制することができる。これにより、押出方向においてアルミニウムに対する炭素繊維の含有率の均一化を図ることができる。
【0038】
前項[9]では、前項[7]又は[8]の効果を確実に奏しうる。
【0039】
前項[10]では、前項[7]〜[9]のいずれかの効果を得るには、外装体の一端開口だけを蓋体で閉塞することで十分である。
【0040】
さらに、外装体の一端開口だけが閉塞されるので、バインダー除去工程の際に外装体内で発生したバインダーの昇華ガスや分解ガスが外装体の他端開口から抜け出るようになる。そのため、バインダーを確実に除去することができる。これにより、バインダーの残渣による複合材の熱伝導率の低下を更に確実に抑制することができる。
【0041】
さらに、外装体の一端開口が蓋体で閉塞されるので、ロール体の搬送時や押出加工工程の際にロール体の巻きずれを確実に抑制することができるし、外装体内からのロール体の落下を確実に抑制することができる。
【0042】
前項[11]では、ロール体を大気中にて350〜600℃の温度で1時間以上加熱することにより、炭素繊維の酸化消耗を確実に抑制することができる。もとより、バインダーを除去するための加熱が大気中にて行われるので、バインダーの除去を容易に行うことができる。
【0043】
前項[12]では、高い強度を有するアルミニウムと炭素繊維との複合材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る、アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造工程図である。
図2図2は、塗工工程から溶剤除去工程までを説明する概略図である。
図3図3は、ロール工程を説明する概略図である。
図4図4は、覆い工程を説明する概略図である。
図5図5は、閉塞工程を説明する概略図である。
図6図6は、バインダー除去工程を説明する概略図である。
図7A図7Aは、押出加工工程においてロール体を押出加工装置のコンテナ内に装填した状態を示す概略図である。
図7B図7Bは、同押出加工装置を用いて同ロール体を押出加工する途中の状態を示す概略図である。
図8図8は、同ロール体におけるアルミニウム箔と炭素繊維層を、押出加工の前の状態と後の状態とで示す概略拡大断面図である。
図9図9は、炭素繊維の塗工量が多すぎる場合における、図8に対応する図である。
図10図10は、同複合材を切断する途中の状態を示す概略図である。
図11図11は、本発明の第2実施形態に係る、アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0046】
本発明の第1実施形態に係るアルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法は、図1に示すように、塗工工程S1、溶剤除去工程S2、ロール工程S3、覆い工程S4、閉塞工程S5、バインダー除去工程S6及び押出加工工程S7を含んでおり、この記載順にこれらの工程が行われる。
【0047】
塗工工程S1は、図2に示すように、炭素繊維2とバインダー3とバインダー3用溶剤4とを混合状態に含有する塗液5をアルミニウム箔1上に塗工して、アルミニウム箔1上に塗工層6を形成する工程である。
【0048】
溶剤除去工程S2は、塗工層6に含まれた溶剤4を除去して、アルミニウム箔1上に炭素繊維層7が形成された塗工箔8を得る工程である。
【0049】
ロール工程S3は、図3に示すように、塗工箔8をロール状に巻いてロール体10を得る工程である。
【0050】
覆い工程S4は、図4及び5に示すように、ロール体10の外周面10aをアルミニウム製外装体15で覆う工程である。
【0051】
閉塞工程S5は、図5に示すように、外装体15の長さ方向の両端開口のうち少なくとも一方を閉塞する工程である。
【0052】
バインダー除去工程S6は、図6に示すように、ロール体10の炭素繊維層7(図2参照)に含まれたバインダー3を除去する工程である。
【0053】
押出加工工程S7は、図7A及び7Bに示すように、ロール体10を押出加工して複合材20を得る工程である。
【0054】
さらに、塗工工程S1では、塗工層6に含まれる炭素繊維2の塗工量が40g/m以下となるように塗液5がアルミニウム箔1上に塗工される必要がある。
【0055】
ここで、塗工層6に含まれる炭素繊維2の塗工量とは、詳述すると、塗工層6を構成する全成分(炭素繊維2、バインダー3、溶剤4など)のうち炭素繊維2以外の成分を除外したときの塗工量であり、即ち、塗工層6に含まれる炭素繊維2だけの塗工量を意味する。
【0056】
本第1実施形態で得られる複合材20は、炭素繊維2を含んでいることにより熱伝導率が高くなっているので放熱性が良く、更に、その線膨張係数が金属とセラミックとの中間程度になるので、パワーモジュールにおける熱応力緩衝層の材料として好適に使用可能である。
【0057】
さらに、複合材20は、炭素繊維2で強化されたアルミニウム材として捉えることができ、高いヤング率を有している。したがって、複合材20は曲げ強度等の硬さを要求される部材の材料としても好適に使用可能である。
【0058】
次に、各工程について以下に詳細に説明する。
【0059】
<塗工工程S1>
塗工工程S1で使用される塗液5は、例えば次のようにして得られる。すなわち、図2に示すように、炭素繊維2とバインダー3と溶剤4とを混合容器31内に入れてこれらを撹拌羽根付き撹拌器(例:ミキサー)30により撹拌混合する。これにより、炭素繊維2とバインダー3と溶剤4とを混合状態に含有した塗液5が得られる。このとき、分散剤、消泡剤、表面調整剤、粘度調整剤なども必要に応じて混合容器31内に入れて撹拌混合しても良い。
【0060】
塗液5は、塗工装置40によってアルミニウム箔1の片面上にその略全面に亘って層状に塗工される。本第1実施形態では、アルミニウム箔1は長尺なものであり、また塗液5が塗工されるアルミニウム箔1の片面は詳述するとアルミニウム箔1の上面である。
【0061】
塗工装置40としては、塗液5をアルミニウム箔1上に塗工するのに広く知られた装置を用いることができ、具体的には、ロールコーター、ナイフコーター、ダイコーター、グラビアコーターなどを使用可能である。
【0062】
図2に示した塗工装置40では、巻出しローラ41から巻き出された長尺なアルミニウム箔1は、塗工ローラユニット42と乾燥装置としての乾燥炉45とを順次通過して巻取りローラ43に巻き取られる。塗液5のアルミニウム箔1上への塗工は塗工ローラユニット42で行われる。すなわち、巻出しローラ41から巻き出されたアルミニウム箔1は、塗工ローラユニット42を通過する際にその片面(その上面)上に塗液5が塗工ローラユニット42によりその略全面に亘って塗工されて、アルミニウム箔1上にその略全面に亘って塗工層6が形成される。
【0063】
なお、塗工ローラユニット42は、塗液用パン42a、ピックアップローラ42b、アプリケーターローラ42c、バックアップローラ42dなどを備えている。
【0064】
乾燥炉は、アルミニウム箔1上に形成された塗工層6を乾燥することにより塗工層6に含まれた溶剤4を除去するためのものである。
【0065】
塗液5に含有される炭素繊維2は繊維状であれば使用可能であり、具体的には例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維及びカーボンナノチューブ類(例:気相成長カーボンナノファイバー、シングルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブ)からなる群より選択される1種の炭素繊維か又は2種以上の混合炭素繊維が用いられる。
【0066】
炭素繊維2の長さは限定されるものではないが、なるべく短い方が望ましく、特に1mm以下であることが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0067】
すなわち、炭素繊維2が長いと、ダイコーダーのような塗液5が狭い通路を通過するように構成された塗工装置40を用いる場合に通路が目詰まりを起こし、塗工層6の厚さ及び炭素繊維含有量が不均一になる虞がある。一方、炭素繊維2の長さが1mm以下である場合には、このような不具合の発生を確実に回避することができ、これにより、アルミニウム箔1上に塗工される塗工層6の厚さ及び炭素繊維含有量の均一化を確実に図ることができる。炭素繊維2の長さの下限は限定されるものではなく、通常、炭素繊維2の繊維直径の5倍である。
【0068】
炭素繊維2の繊維直径は限定されるものではなく、例えば、炭素繊維2の平均繊維直径は0.1nm〜20μmである。特に、PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維についてはチョップドファイバー又はミルドファイバーであって平均繊維直径が5〜15μmのものであることが望ましい。気相成長カーボンナノファイバーについては平均繊維直径が0.1nm〜20μmのものであることが望ましい。
【0069】
バインダー3は、炭素繊維2にアルミニウム箔1への付着力を付与し、これにより塗工層6に含まれる炭素繊維2がアルミニウム箔1上から脱落するのを防止するためのものであり、通常、樹脂からなる。
【0070】
さらに、バインダー3は、加熱すると有機物の焼結残渣又はアモルファス炭化物になり易く、これらはバインダー3の残渣として複合材20の熱伝導率を低下させる要因となる。したがって、バインダー3は、非酸化雰囲気中にて300〜600℃の温度で炭化せずに昇華又は分解などにより消失するものを用いることが望ましい。このようなバインダー3として、アクリル系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、ブチルゴム樹脂、フェノール樹脂、セルロース系樹脂などが好適に使用される。
【0071】
溶剤4は、バインダー3を溶解するものであればその種類に限定されず、溶剤4として、水、アルコール系溶剤(例:メタノール、イソプロピルアルコール)、炭化水素系溶剤などが好適に用いられる。
【0072】
さらに、塗工工程S1では、上述したように、塗工層6に含まれる炭素繊維2の塗工量が40g/m以下となるように塗液をアルミニウム箔上に塗工する必要がある。その理由については後述する。
【0073】
塗液5は、バインダー3の質量が炭素繊維2の質量に対して0.5%〜25%となるように炭素繊維2とバインダー3とを含有していることが望ましい。バインダー3の質量が炭素繊維2の質量に対して0.5%以上であることにより、塗工工程S1において炭素繊維2をアルミニウム箔1に確実に付着させることができる。バインダー3の質量が炭素繊維2の質量に対して25%以下であることにより、バインダー除去工程S6においてバインダー3の量が多すぎてバインダー3が炭素繊維層7内に残るのを確実に防止することができ、これにより、バインダー3の残渣による複合材20の熱伝導率の低下を確実に抑制することができる。
【0074】
さらに、塗工工程S1では、アルミニウムの体積と炭素繊維2の体積との比率として、アルミニウム箔1の体積V1がアルミニウム箔1の体積V1と塗工層6に含まれる炭素繊維2の体積V2との合計体積V1+V2に対して50%を超えるように、塗液5をアルミニウム箔1上に塗工するのが望ましい。すなわち、V1/(V1+V2)>0.5の式を満足するように塗液5をアルミニウム箔1上に塗工するのが望ましい。こうすることにより、押出加工工程S7において、アルミニウム箔1のアルミニウムを炭素繊維層7内に確実に浸透させることができて、複合材20の強度(機械的強度等)を確実に高めることができる。
【0075】
ここで、複合材20が例えばパワーモジュールにおける熱応力緩衝層の材料として用いられる場合には、複合材20の線膨張係数が、パワーモジュールのセラミック層(電気絶縁層)の線膨張係数とパワーモジュールの配線層の線膨張係数との中間値か、セラミック層の線膨張係数とパワーモジュールの冷却部材の線膨張係数との中間値かになるように、アルミニウムの体積と炭素繊維2の体積との比率を設定することが望ましい。特に、複合材20の線膨張係数を、電気絶縁層の材料としてよく使用されるセラミック(窒化アルミ、アルミナ、炭化ケイ素等)の線膨張係数(例:約3〜5×10−6/K)と冷却部材(又は配線層)の材料としてよく使用されるアルミニウムの線膨張係数(約23×10−6/K)との中間値にするには、アルミニウム箔1の体積V1を上記合計体積V1+V2に対して50%を超え90%以下に設定することが望ましい。
【0076】
複合材20の熱伝導率を、炭素繊維2を含んでいない通常のアルミニウム材(その熱伝導率225W/(m・K))と差別化するには、アルミニウム箔1の体積V1を上記合計体積V1+V2に対して90%以下に設定することが特に望ましい。
【0077】
アルミニウム箔1は、塗工に耐えうるものであればその材質に限定されるものではなく、A1000系、A3000系、A6000系などの様々な材質のアルミニウムで形成されたアルミニウム箔を使用可能である。また、アルミニウム箔1の材質によってアルミニウム箔1の熱伝導率が異なることから、複合材20の熱伝導率が所望する設定値になるようにアルミニウム箔1の材質を選択することも可能である。
【0078】
さらに、アルミニウム箔1の厚さは限定されるものではなく、複合材20の物性(熱伝導率、線膨張係数など)が所望する設定値になるようにアルミニウム箔1の厚さを選択可能である。
【0079】
ここで、市販されているアルミニウム箔1の最薄の厚さは6μmであることから、アルミニウム箔1の厚さの下限は6μmであることがアルミニウム箔1を容易に入手可能である点で望ましい。一方、アルミニウム箔1の厚さの上限については、塗工層6に含まれる炭素繊維2の塗工量の上限(40g/m)が決まっていることから、アルミニウム箔1のアルミニウムの体積と炭素繊維2の体積との比率、アルミニウム箔1上への炭素繊維2の塗工量などに基づいてアルミニウム箔1の厚さの上限を算出することができる。例えばアルミニウム箔1の厚さの上限は約100μmであり、通常は15〜50μmである。
【0080】
<溶剤除去工程S2>
溶剤除去工程S2は、塗工装置40の乾燥炉45により行われる。すなわち、塗工ローラユニット42により塗工層6が形成されたアルミニウム箔1は、乾燥炉45を通過する際に塗工層6に含まれる溶剤4が乾燥炉45により蒸発除去される。その結果、塗工層6から溶剤4が除去されてなる炭素繊維層7がアルミニウム箔1上に形成された塗工箔8が得られる。そして、この塗工箔8は巻取りローラ43に巻き取られる。
【0081】
乾燥炉45による溶剤4の除去条件は、塗工層6に含まれた溶剤4を塗工層6から蒸発除去可能な条件であれば限定されるものではなく、例えば、乾燥温度60〜150℃及び乾燥時間5〜60minの乾燥条件を溶剤4の除去条件として適用可能である。
【0082】
さらに、本第1実施形態では、溶剤4を除去した後では炭素繊維層7内に大きな隙間が生じていることもあるので、押圧ローラ(図示せず)で炭素繊維層7を押圧して炭素繊維層7のかさ密度を調整することも可能である。
【0083】
<ロール工程S3>
ロール工程S3では、図3に示すように、ロール体10は、巻取りローラ43に巻き取られた塗工箔8をアルミニウム製巻き芯11にロール状に巻き直すことにより、得られる。
【0084】
塗工箔8の巻き動作は、ロール体10が所望する直径に到達したとき終了される。すなわち、塗工箔8の巻き数は、所望するロール体10の直径に応じて設定される。ロール体10の所望する直径は、限定されるものではなく、例えば、ロール体10の外周面10aが外装体15で覆われた状態のもとで押出加工工程S7で用いられる押出加工装置50のコンテナ51内に装填可能なビレット直径(通常は70〜510mm)に対応して設定される。
【0085】
このロール工程S3では、塗工箔8は巻き芯11に巻かれるので、塗工箔8を容易に且つ確実にロール状に巻くことができる。
【0086】
巻き芯11の材質は、アルミニウム箔1と同じ材質であっても良いし異なる材質であっても良い。巻き芯11の直径は限定されるものではないが、なるべく小さい方が望ましく、例えば5〜8mmである。
【0087】
<覆い工程S4>
覆い工程S4では、図4及び5に示すように、ロール体10の外周面10aがアルミニウム製外装体15で覆われる。
【0088】
本第1実施形態では、外装体15の形状はパイプ状であり、すなわち外装体15としてアルミニウム製外装パイプ16が用いられている。外装パイプ16の長さ方向の両端はそれぞれ開口している。そして、ロール体10の軸方向が外装パイプ16の長さ方向と平行になるようにロール体10を外装パイプ16内に外装パイプ16の端開口16bから挿入配置し、これによりロール体10の外周面10aの略全面が外装パイプ16(外装体15)で覆われる。この覆い状態において、ロール体10の外周面10aの略全体が外装パイプ16の内周面に密着していることが望ましい。
【0089】
ここで本第1実施形態では、外装体15として外装パイプ16が用いられているが、本発明では、その他に例えば、図示していないが、塗工が施されていないアルミニウム箔を外装体15として用いても良い。この場合、外装体15は、塗工層6や炭素繊維層7が形成されていないアルミニウム箔をロール体10の外周面10aにロール体10の外周面10aを覆う状態に1回又は複数回巻くことにより、形成される。
【0090】
この覆い工程S4では、ロール体10の外周面10aを外装体15で覆うことにより、バインダー除去工程S6の際及び押出加工工程S7の際に炭素繊維層7の炭素繊維2がロール体10(詳述するとロール体10のアルミニウム箔1)から脱落するのを外装体15によって抑制することができる。
【0091】
さらに、ロール体10の搬送時や押出加工工程S7の際にロール体10の外周面10aが破れないようにロール体10の外周面10aを外装体15で保護することができる。さらに、後述するようにロール体10が押出加工されると、得られる複合材20の最外周層にアルミニウム層が形成され、炭素繊維2が複合材20の最外周面に露出しない。これにより、複合材20についてその最外周面に接触した接触物が炭素繊維2で汚れるのを抑制できるし、炭素繊維2の脱落も抑制することができる。
【0092】
特に、本第1実施形態では、外装体15として外装パイプ16が用いられているので、ロール体10の外周面10aを外装体15で覆う作業を、ロール体10の外装パイプ16内への挿入により行うことができる。これにより、特別な治具を用いなくてもロール体10の不慮の巻き解きを防止することができ、もって、当該覆い作業を容易に行うことができる。さらに、上述した外装体15による作用効果を確実に奏し得る。
【0093】
外装パイプ16(外装体15)の肉厚は、上述した外装パイプ16(外装体15)による作用効果を奏しうる強度を有する肉厚であれば限定されるものではないが、なるべく薄い方が望ましく、特に2〜10mmに設定されるのが望ましい。
【0094】
さらに本第1実施形態では、ロール体10を外装パイプ16内に焼き嵌めて配置することによって、ロール体10の外周面10aを外装パイプ16で覆っても良い。こうすることにより、ロール体10が外装パイプ16内で固定され、そのため上述した外装体15による作用効果を確実に奏し得る。
【0095】
<閉塞工程S5>
閉塞工程S5では、図5に示すように外装パイプ16(外装体15)の長さ方向の両端開口16a、16bのうち少なくとも一方が閉塞される。本第1実施形態では、外装パイプ16の一端開口16aだけが閉塞され、他端開口16bは閉塞されない。さらに、外装パイプ16の一端開口16aを閉塞する部材として円板状の蓋体17が用いられている。
【0096】
すなわち、外装パイプ16の一端面にその開口16aを閉塞するように蓋体17が重ね合わされ、この状態で外装パイプ16の一端に蓋体17が両者の重合せ部にて溶接(摩擦撹拌接合を含む)やカシメ等によって固着されることにより、外装パイプ16の一端開口16aが蓋体17で閉塞される。
【0097】
この閉塞工程S5では、外装パイプ16の両端開口16a、16bのうち少なくとも一方が閉塞されるので、ロール体10の搬送時などにおいてロール体10の巻きずれを抑制することができるし、外装パイプ16内からのロール体10の落下を抑制することができる。
【0098】
しかも、外装パイプ16の両端開口16a、16bのうち少なくとも一方が蓋体17で閉塞されるので、ロール体10の搬送時などにおいてロール体10の巻きずれを確実に抑制することができるし、ロール体10の搬送時において外装パイプ16内からのロール体10の落下を確実に抑制することができる。
【0099】
<バインダー除去工程S6>
バインダー除去工程S6では、図6に示すように、バインダー3は、大気中又は非酸化雰囲気(例:真空、窒素ガス、アルゴンガス)中でロール体10を加熱可能な工業用オーブン47を加熱炉として用いてロール体10を加熱することにより、除去される。その加熱条件は、ロール体10を大気中(即ち約1気圧の空気中)にて350〜600℃の温度で1時間以上加熱することであることが望ましい。加熱時間の望ましい上限は限定されるものではなく、通常は5時間である。
【0100】
ここで、一般的に、炭素繊維を含む複合体は、大気中で長時間高温に曝されると、炭素繊維と大気中の酸素とが反応して二酸化炭素等の炭素ガスとなり、炭素繊維が酸化消耗してしまう。
【0101】
これに対して、本第1実施形態では、ロール体10はその外周面10aが外装パイプ(外装体15)で覆われているので、外装パイプ16の外側の酸素が外装パイプ16の内側に入りにくくなっている。そのため、外装パイプ16の内側に存在していた酸素がロール体10に含まれる炭素繊維2及びバインダー3と反応して消滅すると、その後は外装パイプ16の内側に酸素が入りにくい状態に保持される。さらに、外装パイプ16の一端開口16aが閉塞されているので、外装パイプ16の密閉度が向上している。その結果、ロール体10をオーブン47によって大気中にて350〜450℃の温度で1時間以上加熱しても、ロール体10に含まれる炭素繊維2は殆ど酸化消耗しないでロール体10に含まれるバインダー3が除去される。
【0102】
さらに、外装パイプ16の一端開口16aだけが閉塞されているので、外装パイプ16内で発生したバインダー3の昇華ガスや分解ガスは外装パイプ16の他端開口16bから抜け出る。そのため、バインダー3を確実に除去することができる。これにより、バインダー3の残渣による複合材20の熱伝導率の低下を更に確実に抑制することができる。
【0103】
さらに、炭素繊維層7からバインダー3が除去されることにより炭素繊維2はロール体10から脱落し易くなるが、本実施形態では、ロール体10の外表面10aが外装パイプ16(外装体15)で覆われているので、炭素繊維2の脱落を防止することができる。
【0104】
<押出加工工程S7>
押出加工工程S7では、ロール体10は次のようにして押出加工される。すなわち、図7Aに示すように、ロール体10を、押出加工装置50のコンテナ51内に外装パイプ16(外装体15)の閉塞された一端(即ち蓋体17)を押出方向Eの先頭にして充填する。この状態では、ロール体10の軸方向は押出方向Eと平行になっている。そしてこの状態で、図7Bに示すように、押出加工装置50のステム52によりロール体10を押出方向Eに押圧し、これによりロール体10を押出加工装置50の押出加工ダイス53の押出成形孔53a内に押し込んで押出加工する。その結果、押出加工品としての長尺な棒状の複合材20が得られる。
【0105】
押出加工条件は限定されるものではなく様々に設定可能であるが、特に、コンテナ温度450〜600℃、押出加工ダイス温度450〜550℃、押出速度0.1〜10000mm/minに設定されるのが望ましい。
【0106】
この押出加工工程S7において、図8に示すように、押出加工前のロール体10では、炭素繊維層7とアルミニウム箔1はロール体10の半径方向において交互に積層状に配置されている。したがって、炭素繊維層7を挟んだ両側にそれぞれアルミニウム箔1、1が配置されている。さらに、炭素繊維層7内には溶剤4及びバインダー3の除去などにより生じた隙間7aが存在している。
【0107】
ここで、塗工工程S1において、塗工層6に含まれる炭素繊維2の塗工量が40g/m以下となるように塗液5がアルミニウム箔1上に塗工されている場合には、ロール体10を押出加工すると、同図に示すように、その押出圧力によって炭素繊維層7内の隙間7aの略全部に各アルミニウム箔1のアルミニウムが十分に浸透するとともに両アルミニウム箔1、1同士が十分に接合される。その結果、複合材20の強度(機械的強度等)が高くなる。
【0108】
一方、もし塗工層6に含まれる炭素繊維2の塗工量が40g/mを超えるように塗液5がアルミニウム箔1上に塗工されている場合には、図10に示すように、炭素繊維層7が厚すぎるためにロール体10を押出加工しても、その押出圧力によって炭素繊維層7内の隙間7aに各アルミニウム箔1のアルミニウムが十分に浸透しないで隙間7aが残存するし、更に、両アルミニウム箔1、1同士が十分に接合されない。その結果、複合材20の強度が弱くなる。
【0109】
したがって、高い強度を有する複合材20を得るためには、塗工工程S1において、塗工層6に含まれた炭素繊維2の塗工量が40g/m以下となるように塗液5をアルミニウム箔1上に塗工する必要がある。
【0110】
さらに、複合材20の製造に要する時間を短縮化するために炭素繊維2の塗工量は30g/m以下であることが特に望ましい。
【0111】
炭素繊維2の塗工量の下限は限定されるものではなく、アルミニウム箔1のアルミニウムの体積と炭素繊維2の体積との比率などに応じて様々に設定され、例えば1.5g/mに設定される。
【0112】
押出加工工程S7では、上述したように、ロール体10の外周面10aが外装パイプ16(外装体15)で覆われているので、複合材20の最外周層にはアルミニウム層が形成され、炭素繊維2が複合材の最外周面に露出しない。これにより、複合材20についてその最外周面に接触した接触物が炭素繊維2で汚れるのを抑制できるし、炭素繊維2の脱落も抑制することができる。
【0113】
さらに、ロール体10を、外装パイプ16の閉塞された一端を押出方向Eの先頭にして押出加工することにより、押出加工工程S7の際に押出方向Eへのロール体10の巻きずれを抑制することができる。これにより、押出方向Eにおいてアルミニウムに対する炭素繊維2の含有量の均一化を図ることができる。
【0114】
しかも、外装パイプ16の一端開口16aが蓋体17で閉塞されているので、押出加工工程S7の際に押出方向Eへのロール体10の巻きずれを確実に抑制することができる。これにより、押出方向Eにおいてアルミニウムに対する炭素繊維2の含有量の均一化を更に確実に図ることができる。
【0115】
蓋体17の肉厚は、上述した蓋体17による作用効果を奏しうる強度を有する肉厚であれば限定されるものではないが、外装パイプ16(外装体15)の肉厚に対して等しいか又は厚く設定されることが力の分散上望ましい。
【0116】
押出加工工程S7により得られた複合材20は、図10に示すように、所望する用途に応じて所定の大きさや形状に切断刃48などにより切断される。ここで、ロール体10中の炭素繊維2は押出加工によって押出方向Eと略平行に再配置され、これにより複合材20中の炭素繊維2が押出方向Eに配向している。そのため、複合材20の熱伝導性、電気特性、強度などの特性は方向に強く依存しており、即ち、複合材20は熱伝導性、電気特性、強度などの特性について異方的である。したがって、複合材20を切断する際には、複合材20を切断して得られる切断品21の特性が所望する用途の特性に合致するような切断方向に複合材20を切断するのが望ましい。
【0117】
図11は、本発明の第2実施形態に係る、アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造工程図である。
【0118】
本第2実施形態の複合材の製造方法は、同図に示すように、塗工工程S11、溶剤除去工程S12、ロール工程S13、覆い工程S14、バインダー除去工程S15、閉塞工程S16及び押出加工工程S17を含んでおり、この記載順にこれらの工程が行われる。すなわち、閉塞工程S16はバインダー除去工程S15と押出加工工程S17との間で行われる。
【0119】
本第2実施形態の製造方法における各工程は上記第1実施形態と同じである。
【0120】
以上で本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々に変更可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0121】
次に本発明の具体的な実施例及び比較例について以下に説明する。ただし、本発明は以下に示した実施例に限定されるものではない。
【0122】
<実施例1>
実施例1では、アルミニウムと炭素繊維との複合材を次の手順で製造した。
【0123】
長さ150μm及び平均繊維直径10μmの炭素繊維(日本グラファイトファイバー(株)製:XN−100)と、バインダーとして平均分子量70万のポリエチレンオキサイド(明成化学工業(株)製:アルコックス(登録商標)E−45)の3質量%水溶液と、溶剤としてイソプロピルアルコールと、分散剤と、表面調整剤とを撹拌混合し、これにより塗液を得た。塗液に含まれるバインダーの質量は塗液に含まれる炭素繊維の質量に対して固形分で3%であった。また、塗液の粘度は1000mPa・sであった。
【0124】
厚さ20μm及び幅280mmの長尺なアルミニウム箔(その材質:1N30)の片面上にその全面に亘って塗液をナイフコーターにより塗工して、アルミニウム箔上に塗工層を形成するとともに、塗工層を乾燥炉により乾燥して塗工層に含まれる溶剤を除去し、これにより、炭素繊維層がアルミニウム箔上に形成された塗工箔を得た。塗工層に含まれた炭素繊維の塗工量は30g/mであった。
【0125】
次いで、塗工箔を直径5mmのアルミニウム製巻き芯(その材質:1050)にロール状に巻いてロール体を得た。そして、外径70mm及び肉厚3mmのアルミニウム製外装パイプ(その材質:1070)内にロール体を挿入配置し、これによりロール体の外周面の全体を外装パイプで覆った。ロール体の外周面が外装パイプで覆われた状態では、ロール体の外周面の略全体が外装パイプの内周面に密着していた。
【0126】
その後、直径70mm及び厚さ3mmの円板状のアルミニウム製蓋体(その材質:1050)を外装パイプの長さ方向の一端面にその開口を閉塞するように重ね合わせ、この状態で外装パイプの一端に蓋体を両者の重合せ部にて溶接により固着した。これにより、外装パイプの一端開口だけを蓋体で閉塞した。
【0127】
次いで、ロール体をオーブンによって大気中にて500℃の温度で3時間加熱し、これによりロール体の炭素繊維層に含まれるバインダーを除去した。
【0128】
そして、加熱された状態のロール体を、押出加工装置のコンテナ内に外装パイプの閉塞された端を押出方向の先頭にして充填した。コンテナ温度と押出加工ダイス温度は共に500℃であった。そして、ロール体を押出速度1mm/minで押出加工し、これにより、アルミニウムと炭素繊維との複合材を得た。
【0129】
複合材は、その全体に亘ってひび割れ等の表面欠陥が発生しておらず、成型性は非常に良好であった。また、複合材において、炭素繊維層とアルミニウム箔とは複合材の半径方向において交互に積層状に重なり合っていた。また、炭素繊維層内にはアルミニウム箔のアルミニウムが十分に浸透しており、更に、炭素繊維層を挟んだ両側に配置された両アルミニウム箔同士が十分に接合されていた。したがって、複合材は高い強度を有していた。
【0130】
複合材の押出方向(即ち複合材の長さ方向)の熱伝導率は300W/(m・K)、その線膨張係数は6×10−6/Kであった。複合材の押出方向に直交する方向(即ち複合材の半径方向)の熱伝導率は120W/(m・K)、その線膨張係数は20×10−6/Kであった。
【0131】
<実施例2>
実施例2では、アルミニウムと炭素繊維との複合材を次の手順で製造した。
【0132】
長さ200μm及び平均繊維直径10μmの炭素繊維(三菱樹脂(株)製:K223HM)と、バインダーとしてアクリル系樹脂と、溶剤としてプロピレングリコールエチルエーテルアセテートと、分散剤と、表面調整剤とを撹拌混合し、これにより塗液を得た。塗液に含まれるバインダーの質量は塗液に含まれる炭素繊維の質量に対して固形分で20%であった。また、塗液の粘度は1500mPa・sであった。
【0133】
厚さ20μm及び幅280mmの長尺なアルミニウム箔(その材質:1N30)の片面上にその全面に亘って塗液をナイフコーターにより塗工して、アルミニウム箔上に塗工層を形成するとともに、塗工層を乾燥炉により乾燥して塗工層に含まれる溶剤を除去し、これにより、炭素繊維層がアルミニウム箔上に形成された塗工箔を得た。塗工層に含まれた炭素繊維の塗工量は20g/mであった。
【0134】
次いで、塗工箔を直径5mmのアルミニウム製巻き芯(その材質:1050)にロール状に巻いてロール体を得た。そして、外径70mm及び肉厚3mmのアルミニウム製外装パイプ(その材質:1070)内にロール体を挿入配置し、これによりロール体の外周面の全体を外装パイプで覆った。ロール体の外周面が外装パイプで覆われた状態では、ロール体の外周面の略全体が外装パイプの内周面に密着していた。
【0135】
その後、直径70mm及び厚さ3mmの円板状のアルミニウム製蓋体(その材質:1050)を外装パイプの長さ方向の一端面にその開口を閉塞するように重ね合わせ、この状態で外装パイプの一端に蓋体を両者の重合せ部にてカシメにより固着した。これにより、外装パイプの一端開口だけを蓋体で閉塞した。
【0136】
次いで、ロール体をオーブンによって大気中にて500℃の温度で3時間加熱し、これによりロール体の炭素繊維層に含まれるバインダーを除去した。
【0137】
そして、加熱された状態のロール体を、押出加工装置のコンテナ内に外装パイプの閉塞された端を押出方向の先頭にして充填した。コンテナ温度と押出加工ダイス温度は共に500℃であった。そして、ロール体を押出速度1mm/minで押出加工し、これにより、アルミニウムと炭素繊維との複合材を得た。
【0138】
複合材は、その全体に亘ってひび割れ等の表面欠陥が発生しておらず、成型性は非常に良好であった。また、複合材において、炭素繊維層とアルミニウム箔とは複合材の半径方向において交互に積層状に重なり合っていた。また、炭素繊維層内にはアルミニウム箔のアルミニウムが十分に浸透しており、更に、炭素繊維層を挟んだ両側に配置された両アルミニウム箔同士が十分に接合されていた。したがって、複合材は高い強度を有していた。
【0139】
複合材の押出方向(即ち複合材の長さ方向)の熱伝導率は250W/(m・K)、その線膨張係数は10×10−6/Kであった。複合材の押出方向に直交する方向(即ち複合材の半径方向)の熱伝導率は100W/(m・K)、その線膨張係数は21×10−6/Kであった。
【0140】
<実施例3>
実施例3では、上記実施例2において外装パイプの一端開口を閉塞しなかったことを除いて、上記実施例1と同じ手順によりアルミニウムと炭素繊維との複合材を製造した。
【0141】
複合材の押出方向の先頭部にのみひび割れが発生していたが、複合材の押出方向の中間部分にはひび割れ等の表面欠陥は発生していなかった。したがって、成型性はやや良好であった。さらに、複合材の押出方向の中間部分よりも後尾側の部分は、アルミニウムの含有量が複合材の押出方向の中間部分よりも若干多かった(換言すると、炭素繊維の含有量が複合材の押出方向の中間部分よりも若干少なかった)。
【0142】
複合材の押出方向の中間部分の物性(熱伝導率、線膨張係数)は、上記実施例2と略同じであった。
【0143】
<比較例1>
比較例1では、上記実施例1において炭素繊維の代わりに平均粒径180μmの炭素粉末(昭和電工(株)製:ショーカライザー(登録商標)−S)を用いたことを除いて、上記実施例1と同じ手順によりアルミニウムと炭素との複合材を製造することを試みた。その結果、ロール体を押出加工すると、ロール体が固まらないでアルミニウム箔が押し出された。したがって、成型性は悪かった。そのため、複合材の物性(熱伝導率、線膨張係数)を測定することができなかった。
【0144】
<比較例2>
比較例2では、上記実施例1において塗工層に含まれた炭素繊維の塗工量が50g/mであったことを除いて、上記実施例1と同じ手順によりアルミニウムと炭素繊維との複合材を製造した。
【0145】
複合材には割れ部が部分的に発生していた。複合材を切断してその切断面を観察すると、複合材の内部に小さな隙間が多数発生していた。そのため、複合材から物性(熱伝導率、線膨張係数)を測定するための試験片を採取しようとしたが、隙間が多いため測定に適する試験片を採取することができなかった。
【0146】
以上の実施例1〜3及び比較例1、2の結果を表1にまとめて示す。
【0147】
【表1】
【0148】
なお、表1中の「成型性」欄において、「○」は成型性が非常に良好であったこと、「△」は成型性がやや良好であったこと、及び、「×」は成型性が悪かったことを意味している。
【0149】
また、表1中の「外装」欄において、「パイプと蓋体」とは、外装体として外装パイプを用いるとともに、外装パイプの一端開口を蓋体で閉塞したことを意味している。また、「パイプ」とは、外装体として外装パイプを用いるとともに、外装パイプの両端開口をそれぞれ閉塞しなかったことを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、アルミニウムと炭素繊維との複合材の製造方法、及び、アルミニウムと炭素繊維との複合材に利用可能である。
【符号の説明】
【0151】
1:アルミニウム箔
2:炭素繊維
3:バインダー
4:溶剤
5:塗液
6:塗工層
7:炭素繊維層
8:塗工箔
10:ロール体
15:外装体
16:外装パイプ
17:蓋体
20:アルミニウムと炭素繊維との複合材
40:塗工装置
47:オーブン
50:押出加工装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11