特許第6358869号(P6358869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358869
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】鋳型の製法
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20180709BHJP
   B22C 9/12 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   B22C1/22 B
   B22C9/12 A
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-125395(P2014-125395)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-2573(P2016-2573A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄一郎
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−264463(JP,A)
【文献】 特開2013−244502(JP,A)
【文献】 特開2008−055468(JP,A)
【文献】 特開2014−065048(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/030795(WO,A1)
【文献】 特開2012−076113(JP,A)
【文献】 特開2012−115870(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0060778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00, 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機化合物をバインダー成分とする粘結剤にて鋳物砂を被覆せしめてなる、常温下において流動性を有する乾態のコーテッドサンドを用い、これを、50℃以上130℃以下の温度に加熱、保持された成形型の成形キャビティ内に充填した後、100℃未満の温度及び0.01〜0.1MPaの加圧下の水蒸気と、二酸化炭素、窒素、アルゴン又はそれらの何れかの混合気体からなるキャリアガスとを、該水蒸気の圧力と該キャリアガスの圧力の割合が1:1.2〜1:となるように調整して、該成形型内に同時に導入せしめ、該充填されたコーテッドサンド間に通気させることにより、該成形型内において該コーテッドサンドを被覆する粘結剤を湿らせた後、該加熱された成形型内で保持することによって、かかる成形型内に充填されたコーテッドサンドを固化乃至は硬化せしめることを特徴とする鋳型の製法。
【請求項2】
前記水溶性有機化合物が、アルカリレゾール樹脂である請求項1に記載の鋳型の製法。
【請求項3】
前記水蒸気と前記キャリアガスとが、個別に供給されて、前記成形型に設けられた通気口を通じて、前記成形キャビティ内に導入せしめられる請求項1又は請求項2に記載の鋳型の製法。
【請求項4】
前記水蒸気と前記キャリアガスとが予め混合された後、前記成形型に設けられた通気口を通じて、前記成形キャビティ内に導入せしめられる請求項1又は請求項2に記載の鋳型の製法。
【請求項5】
前記キャリアガス中に、硬化剤として、アルキレンカーボネート及び/又は有機エステルが含有せしめられている請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型の製法。
【請求項6】
前記水蒸気が、1秒〜60秒の間、前記成形型に供給される請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型の製法。
【請求項7】
前記コーテッドサンドが30℃以上の温度に予熱された後、前記成形型の成形キャビティ内に充填せしめられる請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型の製法。
【請求項8】
前記水蒸気と前記キャリアガスとが前記成形型の成形キャビティ内に導入される際に、該成形型の成形キャビティ内の雰囲気が系外に強制排出せしめられる請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型の製法。
【請求項9】
前記成形型の成形キャビティ内を減圧状態とした後、前記水蒸気と前記キャリアガスとが導入せしめられる請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型の製法。
【請求項10】
前記成形型内での保持中に、該成形型内に熱風又は過熱水蒸気が通気せしめられる請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の製法に係り、特に、常温下において流動性を有する乾態のコーテッドサンドを用いた鋳造用鋳型の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属溶湯の鋳造に用いられる鋳型の一つとして、耐火性骨材からなる鋳型砂乃至は鋳物砂を、所定の粘結剤にて被覆してなるコーテッドサンドを用いて、目的とする形状に造型して得られたものが、用いられてきており、例えば、日本鋳造工学会編の「鋳造工学便覧」、第78〜90頁には、そのような粘結剤として、水ガラスの如き無機系粘結剤の他、フェノール樹脂やフラン樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を用いた有機系粘結剤が明らかにされており、また、それら粘結剤を用いて自硬性鋳型を造型する手法も、明らかにされている。
【0003】
また、特開2012−115870号公報には、上記した粘結剤のうち、水溶性無機化合物、糖類、水溶性熱可塑性樹脂から選ばれる粘結剤にて、鋳物砂を被覆せしめてなる粘結剤コーテッド耐火物(レジンコーテッドサンド)を用いた鋳型の製造方法の一つが、明らかにされている。そこでは、かかるレジンコーテッドサンドを充填した成形型内に、水蒸気を吹き込んで、水蒸気の凝縮潜熱でレジンコーテッドサンドを加熱すると共に、水蒸気の凝縮水にてレジンコーテッドサンドのコーティング層の粘結剤を湿らせて、粘着性を与えた後、粘結剤を乾燥して固化させることにより、目的とする鋳型が、製造されているのである。
【0004】
しかしながら、水蒸気の凝縮水でレジンコーテッドサンドの被覆層の粘結剤を湿らせて粘着性を与える際に、水蒸気のみを通気するだけでは、均一に水蒸気が通気され難く、そのために、被覆層の粘結剤の溶解にムラが生じる恐れがあった。特に、通気口のように、水分が多く通る箇所や砂温が低い箇所の粘結剤は、いち早く溶解して、粘結剤が流され、シミツキ現象(成形型表面に鋳物砂が付着して、残留することにより、造型される鋳型表面が凹凸となる現象)が発生したり、乾燥不足による鋳型の強度低下や造型不良等の原因になるという問題が内在している。
【0005】
一方、成形型温が高く、砂温の高い箇所では、水蒸気が凝縮し難いために、粘結剤が流されて、シミツキ現象が発生する心配はないものの、水蒸気の凝縮による水分の供給が少なくなるところから、より多くの水蒸気の通気が必要となる。しかるに、上記した通気口や砂温の低い箇所では、水蒸気が多く消費されるようになるところから、成形型温が高く、砂温の高い箇所には、水蒸気が回らずに、粘結剤の溶解が行われ得ず、鋳型表面のボロつきや粘結剤の溶解不足による強度低下や造型不良の問題が生じることとなる。また、そのような不安定な造型条件の下で製造された鋳型は、物性にバラツキが生じるために、水蒸気を通気するのみの製造方法では、比較的小さくて、単純な形状の鋳型であれば、それほど大きな問題を生じることはないが、形状の大きいものや複雑な形状の鋳型を造型する場合にあっては、粘結剤の溶解ムラや鋳型物性のバラツキが大きくなり、その製造条件の最適化が困難である等の問題も内在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−115870号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「鋳造工学便覧」第78〜90頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、シミツキの低減、乾燥不足による造型不良の低減、強度不足の低減、鋳型表面のボロつき低減、鋳型物性のバラツキ低減を図ることにより、鋳型の製造条件の最適化を行い易くすると共に、外観と物性の良い健全な鋳型を有利に製造し得る手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載から把握され得る発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0010】
(1)水溶性有機化合物をバインダー成分とする粘結剤にて鋳物砂を被覆せしめてなるコーテッドサンドを用い、これを、50℃以上130℃以下の温度に加熱、保持された成形型の成形キャビティ内に充填した後、水蒸気とキャリアガスとを、該水蒸気の圧力と該キャリアガスの圧力の割合が1:1〜1:6となるように調整して、該成形型内に同時に導入せしめ、該充填されたコーテッドサンド間に通気させることにより、該成形型内において該コーテッドサンドを被覆する粘結剤を湿らせた後、該加熱された成形型内で保持することによって、かかる成形型内に充填されたコーテッドサンドを固化乃至は硬化せしめることを特徴とする鋳型の製法。
(2)前記水溶性有機化合物が、アルカリレゾール樹脂である前記態様(1)に記載の鋳型の製法。
(3)前記水蒸気と前記キャリアガスとが、個別に供給されて、前記成形型に設けられた通気口を通じて、前記成形キャビティ内に導入せしめられる前記態様(1)又は前記態様(2)に記載の鋳型の製法。
(4)前記水蒸気と前記キャリアガスとが予め混合された後、前記成形型に設けられた通気口を通じて、前記成形キャビティ内に導入せしめられる前記態様(1)又は前記態様(2)に記載の鋳型の製法。
(5)前記水蒸気が、100℃未満の温度において、0.01〜0.1MPaの加圧下で前記成形型に供給される前記態様(1)乃前記態様(4)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(6)前記キャリアガスが、二酸化炭素、窒素、アルゴン、又はそれらの何れかの混合気体である前記態様(1)乃至前記態様(5)の何れか1項に記載の鋳型の製法。
(7)前記キャリアガス中に、硬化剤として、アルキレンカーボネート及び/又は有機エステルが含有せしめられている前記態様(1)乃至前記態様(6)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(8)前記水蒸気が、1秒〜60秒の間、前記成形型に供給される前記態様(1)乃至前記態様(7)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(9)前記コーテッドサンドが、常温下において流動性を有する乾態のものである前記態様(1)乃至前記態様(8)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(10)前記コーテッドサンドが30℃以上の温度に予熱された後、前記成形型の成形キャビティ内に充填せしめられる前記態様(1)乃至前記態様(9)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(11)前記水蒸気と前記キャリアガスとが前記成形型の成形キャビティ内に導入される際に、該成形型の成形キャビティ内の雰囲気が系外に強制排出せしめられる前記態様(1)乃至前記態様(10)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(12)前記成形型の成形キャビティ内を減圧状態とした後、前記水蒸気と前記キャリアガスとが導入せしめられる前記態様(1)乃至前記態様(11)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
(13)前記成形型内での保持中に、該成形型内に熱風又は過熱水蒸気が通気せしめられる前記態様(1)乃至前記態様(12)の何れか1つに記載の鋳型の製法。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明に従う鋳型の製法によれば、所定のコーテッドサンドを、50℃〜130℃の温度の成形型のキャビティ内に充填した後、水蒸気とキャリアガスとを、それら水蒸気とキャリアガスの圧力割合が所定の範囲内となるように調整して、成形型内に導入せしめ、そしてその充填されたコーテッドサンド間に通気させることにより、コーテッドサンドを被覆する粘結剤を湿らせた後、成形型内において保持して、かかる充填されたコーテッドサンドを固化乃至硬化せしめるようにすることにより、目的とする鋳型の造型に際して、成形型の成形キャビティ内へ水蒸気の通気性が著しく向上せしめられ得たのであり、以て、造型される鋳型における固化又は硬化のムラを抑制乃至は阻止することにより、外観が向上され、また鋳型強度等の物性に優れた、健全な鋳型を有利に製造することが可能となったのである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ところで、本発明に従う鋳型の製法において用いられるコーテッドサンドは、所定の水溶性有機化合物をバインダー成分とする粘結剤にて、鋳物砂を被覆せしめることによって得られるものであって、所定大きさの耐火性骨材からなる鋳物砂と、その表面を覆うように形成されてなる粘結剤の被覆層とから、構成されている。
【0013】
そして、そのようなコーテッドサンドは、一般に、加熱された耐火性骨材(鋳物砂)に対して、水溶性有機化合物をバインダー成分とする粘結剤の水性溶液を混和せしめ、更にその混和物から水分等の媒体を蒸散させることにより、換言すれば水溶性有機化合物の水性溶液から水分等の媒体を蒸発させることによって、容易に製造され得るものであって、有利には、粘結剤のバインダー成分である水溶性有機化合物からなる乾燥した被覆層が耐火性骨材の表面に形成されてなる、乾態のものであり、これによって良好な常温流動性を有しているものである。特に、本発明にあっては、そのようなコーテッドサンドの水分率が、0.5質量%以下となるように、有利には0.3質量%以下となるように、調整されている。なお、そのような水分率の下限は、限りなく0に近づく程よいことが認められている。このように、水溶性有機化合物の被覆層を設けたコーテッドサンドを、水分率の極めて低い、水分のない乾態で用いることにより、サラサラな状態となって、有効な常温流動性が付与された、優れた特性を有するものとなるのであって、これにより、鋳型造型のための成形型の成形キャビティ内へのコーテッドサンドの充填性が、効果的に高められ得て、健全な鋳型を有利に得ることが出来る他、鋳型強度の向上にも有効に寄与せしめ得るのである。
【0014】
なお、そのようなコーテッドサンドを構成する耐火性骨材(鋳物砂)としては、鋳型の基材として機能する耐火性物質であって、従来から鋳型用として用いられている各種の耐火性粒状材料が何れも用いられ得、具体的には、ケイ砂や再生ケイ砂をはじめ、アルミナサンド、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド等の特殊砂や、フェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系粒子、アルミナ系粒子、ムライト系粒子等の多孔質粒子及びこれらの再生粒子;アルミナボール、マグネシアクリンカー等を挙げることが出来る。なお、これらの耐火性骨材は、新砂であっても、或いは鋳物砂として鋳型の造型に一回或いは複数回使用された再生砂又は回収砂であっても、更には、そのような再生砂や回収砂に新砂を加えて、混合せしめてなる混合砂であっても、何等差支えない。そして、そのような耐火性骨材は、一般に、AFS指数で40〜80程度の粒度のものとして、好ましくは、鋳型造型時に水蒸気の通気と乾燥をし易くするために、60程度以下の粒度のものとして、用いられることとなる。
【0015】
また、粘結剤は、バインダー成分として水溶性有機化合物を主成分として含むものであって、水性溶液の形態において用いられることとなる。本発明にあっては、この水溶性有機化合物としては、代表的には、熱硬化性樹脂が用いられることとなるが、また、水溶性バインダーとして公知の他の合成高分子や糖類、タンパク質等も用いることが出来、更に、このような水溶性有機化合物を主成分として、必要に応じて滑剤や塩類等の他の公知の添加剤を配合して、含有せしめるようにすることも出来る。
【0016】
そして、そのような水溶性有機化合物である熱硬化性樹脂としては、レゾール型、ノボラック型、ベンジリックエーテル型等のフェノール樹脂の他、フラン樹脂、ポリオール樹脂、アミンポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂等を挙げることが出来る。また、これらの樹脂に必要に応じて添加される硬化剤としては、イソシアネート化合物、有機エステル類、ヘキサメチレンテトラミン等の公知のものを挙げることが出来、更に硬化触媒として、第三級アミン、ピリジン誘導体、有機スルホン酸等の公知のものが、適宜に用いられることとなる。
【0017】
さらに、本発明においては、上記の熱硬化性樹脂の中でも、フェノール樹脂が、好ましく用いられる。このフェノール樹脂は、よく知られているように、フェノール類とアルデヒド類とを反応触媒の存在下で反応させることによって得られるものである。
【0018】
ここで、かかるフェノール樹脂の製造に用いられるフェノール類とは、フェノール又はフェノールの誘導体のことである。例えば、フェノールの他に、レゾルシノール、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの多官能性のもの、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、3,5−キシレノール、2,4又は2,6−キシレノール等のo−、m−又はp−置換のフェノール類を挙げることが出来、更に塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノール等も用いることが出来る。また、これらは、単独で用いても、複数を混合して用いることも可能である。
【0019】
また、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることが出来、このアルデヒド類の一部を、フルフラールに置き換えて使用することも可能である。このうち、アルデヒド類は、水溶液の形態で用いることが最適であり、例えばホルマリンが、好適なものとして挙げられる。
【0020】
さらに、フェノール樹脂を得るためのフェノール類とアルデヒド類との配合比率としては、フェノール類とアルデヒド類のモル比が1:0.6〜1:3.5の範囲となる割合において採用され、特に、1:1.5〜1:2.5の範囲となる割合が、有利に用いられることとなる。
【0021】
そして、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を得るために、上記したフェノール類とアルデヒド類とを反応せしめる反応触媒としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、或いはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸等の有機酸、更に酢酸亜鉛等を用いることが出来る。また、レゾール型フェノール樹脂を調製する場合には、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることが出来、更にジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミド等の脂肪族の第1級、第2級、第3級アミンを用いることや、N,N−ジメチルベンジルアミン等の芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5−ナフタレンジアミン等の芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミン、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物等を用いることが出来る。
【0022】
また、このようにして得られるフェノール樹脂を希釈して使用する場合においては、希釈用の溶剤として、アルコール類、ケトン類、エステル類、多価アルコール等を用いることも可能である。
【0023】
特に、本発明にあっては、上述したフェノール樹脂の一つである水溶性アルカリフェノール樹脂、換言すればアルカリレゾール樹脂が、水溶性有機化合物として、好適に用いられることとなる。この水溶性のアルカリフェノール樹脂(レゾール樹脂)は、フェノール類を、大量のアルカリ性物質の存在下において、例えばフェノール類に対するアルカリ性物質のモル数が0.01〜2.0倍モル、好ましくは0.3〜1.2倍モル、より好ましくは0.5〜1.0倍モルとなる割合の下において、アルデヒド類と反応させることによって、得られるアルカリ性のフェノール樹脂(レゾール樹脂)である。なお、ここで用いられるアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物等であり、それらが、単独で、或いは2種以上を混合して、用いられることとなる。
【0024】
なお、上述の如き水溶性有機化合物をバインダー成分とする粘結剤や鋳物砂(耐火骨材)を用いてコーテッドサンドを製造するに際して、その製造方法としては、特に限定されるものではなく、ドライホットコート法やセミホットコート法、コールドコート法、粉末溶剤法等の従来から公知の方法が、何れも、採用され得るところであるが、本発明にあっては、例えば、ワールミキサーやスピードミキサー等の混練機内で予熱された鋳物砂と粘結剤とを混練した後、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤が必要に応じて加えられると共に、送風冷却により、塊状内容物を粒状に崩壊させて、ステアリン酸カルシウム等の滑剤を加える、所謂ドライホットコート法が、通常、採用されることとなる。
【0025】
ところで、上記のようにして得られたコーテッドサンドを用いて、本発明に従って、目的とする鋳型を造型するに際しては、先ず、かかるコーテッドサンドを、目的とする鋳型を与える成形型の成形キャビティ内に充填し、次いで、水蒸気とキャリアガスとを、それら水蒸気圧及びキャリアガス圧を調整して吹き込み、コーテッドサンドの充填相内を通過せしめ、そして乾燥するまで、成形型内で保持することにより、充填されたコーテッドサンドの固化乃至は硬化が行なわれるようにするのである。
【0026】
その際、乾態のコーテッドサンドが充填せしめられる、金型や木型等の成形型は、予め加熱により保温されていることが望ましく、その加熱された成形型内で一定時間保持されることによって、水蒸気によって湿らされたコーテッドサンドを乾燥させて、コーテッドサンドの固化または硬化が有利に進行せしめられ得るのである。なお、成形型の加熱による保温温度としては、一般に、50℃以上130℃以下が採用され、好ましくは60℃以上120℃以下、更に好ましくは80℃以上120℃以下の温度が、採用されることとなる。この保温温度が高くなり過ぎると、成形型の表面にまで蒸気が通り難くなり、強度が低下するようになるのであり、また温度が低くなり過ぎると、造型された鋳型の乾燥に時間を要するようになる他、樹脂が型表面に付着して、シミツキが惹起され易くなる。
【0027】
加えて、かかる成形型内に充填せしめられる乾態のコーテッドサンドも、有利には、予熱されていることが望ましい。一般に、30℃以上の温度に加温されたコーテッドサンドを、成形型に充填せしめるようにすることによって、得られる鋳型の抗折強度がより有利に高められ得ることとなるのである。このようなコーテッドサンドの加温温度としては、好ましくは30〜100℃程度とされ、特に、40〜80℃程度の温度に加温されたコーテッドサンドが、有利に用いられることとなる。
【0028】
そして、上記の如く加熱された成形型内に、具体的には、その成形キャビティ内に、乾態のコーテッドサンドを充填せしめた後、そこに形成される充填相内に、成形型に設けられた通気口を通じて、水蒸気とキャリアガスを加圧下で同時に通気させて、かかる充填相を構成するコーテッドサンドを湿らせることにより、相互に結合させて連結せしめ、一体的な鋳型形状のコーテッドサンド集合体(結合物)が形成されるのである。なお、本発明では、実用的には、硬化剤が添加されることとなるところから、充填相は硬化されたものとなるが、単に、固化されたものであっても、何等差支えない。
【0029】
また、上述の如き水蒸気及びキャリアガスは、水蒸気圧とキャリアガス圧とを所定の範囲に調整して、通気せしめられることとなるのである。これにより、水蒸気の粘性が低下するようになるところから、キャビティ内に充填されたコーテッドサンド間への水蒸気の通気性が向上され、粘結剤の溶解ムラの低減に効果を発揮することとなる。特に、通気口のように、水分が多く通る箇所に対して、偏った水分の付着が防止されるようになるところから、コーテッドサンドの一部の粘結剤が早く溶解されて、流されることが、有利に抑制乃至は防止され、以て、鋳型全体の物性強度のムラがなく、成形することが出来るのである。しかも、キャビティ内への水蒸気の通気による水分のバラツキがなくなるために、乾燥や硬化が促進されるようになる。なお、そのような水蒸気圧とキャリアガス圧とは、後述するように、一定割合に調整して、同時に導入、通気せしめられることが必要であり、この同時的な通気によって、水蒸気を均一に通気せしめることが出来るのである。なお、ここで、水蒸気及びキャリアガスの同時通気とは、各々の通気開始の誤差が1秒以内、好ましくは0.5秒以内に行われるようにすることである。
【0030】
なお、そのような成形型の通気口を通じて吹き込まれて、コーテッドサンドの充填相内を通気せしめられる水蒸気は、水分を含んだものである必要があり、飽和水蒸気であることが望ましい。水蒸気の温度としては、一般には、70〜150℃程度の飽和水蒸気が用いられるが、本発明においては、高温の水蒸気温度を採用すると、その生産のために多量のエネルギーが必要となるところから、特に、100℃未満の水蒸気温度が有利に採用されることとなる。この時の水蒸気の圧力としては、ゲージ圧で、0.01〜0.1MPa程度、より好ましくは0.05〜0.1MPa程度の値が有利に採用されるのである。
【0031】
また、水蒸気の通気と一緒に吹き込まれるキャリアガスとしては、空気や、二酸化炭素(炭酸ガス)等の反応性ガスや、窒素、アルゴンなどの不活性ガス等が用いられることとなる。このうち、空気には、酸素が混在しており、この酸素が加熱条件によってはバインダーと反応して酸化劣化せしめることで、強度が低下する恐れもあるところから、キャリアガスとしては、特に、二酸化炭素、窒素、アルゴンガス又はそれらの何れかの混合気体が、有利に用いられることとなる。水蒸気と、二酸化炭素、窒素、又はアルゴンガスの何れかと一緒に通気することにより、キャビティ内の酸素が低減されるようになるため、鋳型の強度劣化の恐れを回避することが出来るのである。なお、水溶性バインダーがアルカリレゾール樹脂の場合には、二酸化炭素の雰囲気中で硬化を行うと、二酸化炭素がアルカリレゾール樹脂を中和することで、硬化が有利に促進されることとなるため、特に望ましいと言うことが出来る。
【0032】
このように、キャリアガスが、水蒸気と一緒に通気せしめられることにより、上述の水蒸気の粘性を下げて、水蒸気の通気性を向上させる効果が得られるのであるが、バインダー成分としての水溶性有機化合物に応じて、反応性ガスを水蒸気と一緒に通気することにより、上述の効果に加えて、コーテッドサンドの硬化の促進を行うことが可能となる。水溶性有機化合物がフェノール樹脂、特に水溶性アルカリフェノール樹脂(レゾール樹脂)である場合において、反応性ガスとして二酸化炭素を用いることにより、粘結剤を中和することで、その固化をより促進させることが可能である。このキャリアガスの圧力としては、ゲージ圧で、一般に0.01〜0.6MPa程度、より好ましくは0.05〜0.4MPa程度の値が、有利に採用される。
【0033】
なお、このような水蒸気とキャリアガスとの同時通気に際して、必要に応じて、硬化剤として、アルキレンカーボネート及び/ 又は有機エステルを、共に通気乃至は導入せしめることにより、バインダー成分である水溶性有機化合物のより一層迅速な硬化を図るようにすることも、有効である。そして、そのような硬化剤としてのアルキレンカーボネート及び/又は有機エステルの導入は、一般に、キャリアガス中に含有せしめられてなる形態において実施されることとなるが、それらアルキレンカーボネートや有機エステルは、あくまでも、補助的に使用されるものであって、その使用に際しては、特に、それらの漏出によって環境に悪影響を及ぼさないように、配慮される必要がある。また、かかるアルキレンカーボネートや有機エステルは、一般に、キャリアガスの100質量部に対して、1〜10質量部程度の割合において、用いられることとなる。
【0034】
ここで、かかるアルキレンカーボネートや有機エステルは、何れも、アルカリレゾール樹脂の硬化剤として公知のものであって、その公知の各種のものの中から、適宜に選定されて、用いられることとなる。その中で、例えば、アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4 − エチルジオキソロン、4− ブチルジオキソロン、4 , 4 − ジメチルオキソロン、4 , 5 − ジメチルジオキソロン等を挙げることが出来、また、有機エステルとしては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、乳酸エチル、クエン酸トリエチル、コハク酸ジメチル、マロン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、シュウ酸ジメチル、アクリル酸メチル、エチレングリコールジアセテート、ジアセチン、トリアセチン等のカルボン酸エステル類や、γ − ブチロラクトン、γ − カプロラクトン、δ − バレロラクトン、δ − カプロラクトン、β − プロピオラクトン、ε − カプロラクトン等のラクトン類を挙げることが出来る。中でも、蟻酸メチル、トリアセチン、γ − ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が、好適に用いられることとなる。
【0035】
ところで、上記の如き水蒸気とキャリアガスとの成形型内への同時導入に際しては、水蒸気の圧力とキャリアガスの圧力の割合は、キャリアガスで水蒸気の粘性を下げるようにするために、1:1以上とする必要があり、一方、水蒸気を通気して成形型内の加熱で乾燥する際に、水蒸気とキャリアガスの圧力の割合が高くなり過ぎると、水蒸気が薄くなって、水蒸気がコーテッドサンドを湿らせるよりも早く乾燥してしまうようになるところから、水蒸気圧とキャリアガス圧との割合は、1:6以下とする必要がある。好ましくは、水蒸気圧とキャリアガス圧の割合は、1:1.2〜1:5の範囲であることが望ましい。また、成形する鋳型が大きい場合や複雑形状の場合には、成形型の温度を下げて、キャリアガスの割合を高めにして、通気することが望ましい。
【0036】
なお、これらのガスの圧力については、砂型造型時の分圧ではなく、造型前に配管を閉塞した際の各々のガスの圧力値を見たものである。これらの圧力の比の範囲内で、水蒸気及びキャリアガスを通気することにより、成形型内に形成される鋳型に、満遍なく、水蒸気を通気させることが出来るのであり、しかも水蒸気の通気時間及び鋳型の乾燥時間が短時間で済み、造型速度を短縮することが出来ることとなるのである。また、水蒸気の温度が100℃未満の場合、水蒸気圧は0.1MPa以下となるが、この水蒸気圧と同じか、それ以上の圧力で、キャリアガスを通気できるので、通気の圧力を高めることが出来、コーテッドサンドの通気性が悪い場合においても、造型が可能となる利点があり、大きな鋳型や複雑な形状の鋳型であっても、通気のムラや物性のバラツキを防止して、外観が良好で、物性の安定した鋳型を有利に得ることが出来る。
【0037】
また、かくの如き水蒸気やキャリアガスを通気させる方法としては、一般に、成形型に設けた共用の通気口から、水蒸気やキャリアガスを共に吹き込み、成形型の成形キャビティ内に充填されたコーテッドサンド(相)内を通気せしめる手法が、採用される。更に、その通気時間としては、かかる充填されたコーテッドサンドの表面に水蒸気を供給して、その表面の粘結剤である水溶性有機化合物(バインダー成分)を充分に湿らせ、コーテッドサンドを相互に結合(接合)し得るような時間が、成形型の大きさや通気口の数等によって、適宜に選定されることとなる。この時の水蒸気の通気が、一般に、1秒程度から60秒程度までの通気時間、好ましくは3秒〜40秒、より好ましくは5秒〜30秒程度の通気時間が採用されることとなる。この水蒸気の通気時間が短くなり過ぎると、コーテッドサンド表面を充分に湿らせることが、困難となるからであり、また通気時間が長くなり過ぎると、コーテッドサンド表面の粘結剤が溶解、流出することで、成形型へのシミツキを発生させる恐れ等が生じるからである。また、キャリアガスの通気は、水蒸気の通気と同時に通気を開始して、水蒸気と同じ通気時間を採用しても良く、湿らせた粘結剤の乾燥を早めるために、水蒸気より長い通気時間としても良い。
【0038】
さらに、このような成形型内に充填されたコーテッドサンド間における水蒸気及びキャリアガスの通気性の向上は、かかる成形型の排気口から型内の雰囲気を吸引しつつ、水蒸気及びキャリアガスの通気を行なうことによって、更に高めることが可能である。また、成形型の成形キャビティ内を予め減圧状態とした後、水蒸気とキャリアガスが導入せしめられるようにすることも、有効な手法である。加えて、通気口や排気口の位置を適切に設定し、ガスの流路の長さを最適化することが、複雑形状中子等の製造に重要である。場合によっては、複数の通気口、排気口を使用し、ガス通気のシミュレーション等を行うことも有効である。
【0039】
なお、水蒸気とキャリアガスの通気は、成形型内へ通気できるのであれば、その方法は特に限定されないが、成形型に通気する前に、水蒸気とキャリアガスとを混合された状態で同時に通気することが望ましい。成形型に通気する前に混合させておくことで、水蒸気をキャリアガスで均一に薄められるので、成形型への水蒸気の通気がよりムラなく均一に行うことができる。成形型の通気口に連通する流路中に、水蒸気の流路とキャリアガスの流路を合流させて、成形型へ通気させる流路を形成し、この合流部分に空間部を設け、水蒸気とキャリアガスを、そのような空間部で混合させる方法や、水蒸気の通気口とキャリアガスの通気口を対向する位置に設けて、互いの気体がぶつかるようにして、混合させた後、導入する方法や、流路中にスタティックミキサーなどの混合手段を設ける方法等も、採用可能である。
【0040】
そして、本発明にあっては、水蒸気及びキャリアガスによる通気の後に、成形型内に充填されたコーテッドサンドを乾燥させると共に、その固化乃至は硬化を図るべく、かかる加熱された成形型内で、コーテッドサンドの充填相の保持が行われ、これによって、目的とする特性を有する鋳型が有利に形成されることとなるのである。なお、このような成形型内での保持の時間としては、水溶性有機化合物の種類や成形型の温度、水蒸気やキャリアガスの通気条件、硬化剤の使用の有無等によって、適宜に選定されるところであるが、一般に、30秒〜20分程度、好ましくは1分〜10分程度、より好ましくは1分〜5分程度が採用される。
【0041】
特に、本発明にあっては、このような成形型内での保持中に、かかる水蒸気によって湿ったコーテッドサンドの充填相を積極的に乾燥させるべく、加熱乾燥空気の如き熱風や、過熱水蒸気を吹き込み、かかる充填相に通気せしめるようにする手法が、好適に採用される。そのような熱風の温度としては、50℃〜200℃、好ましくは80℃〜180℃が良く、また過熱水蒸気の温度としては、100℃〜300℃、好ましくは110℃〜220℃が望ましい。このような熱風や過熱水蒸気の通気によって、コーテッドサンドの充填相の内部にまで迅速に乾燥させて、かかる充填相の固化乃至は硬化をより一層有利に促進せしめ、以て、硬化速度を有利に高めると共に、得られる鋳型の抗折強度等の特性をも、有利に高め得ることとなる他、鋳型の造型時間の短縮にも、有利に寄与せしめ得るのである。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の幾つかの実施例を用いて、本発明の構成を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明は、そのような実施例の記載によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。なお、以下の実施例や比較例において、部及び百分率は、特に断りのない限りにおいて、何れも、質量基準にて示されている。また、実施例や比較例で得られた鋳型の状態及び鋳型の抗折強度の測定は、それぞれ、以下のようにして行った。
【0043】
−抗折強度(kgf/cm2 )の測定−
以下の各実施例及び比較例において得られた幅:25.4mm×高さ:25.4mm×長さ:200mmの大きさの試験片について、その破壊荷重を、測定器(高千穂精機株式会社製:デジタル鋳物砂強度試験機)を用いて、測定して、その測定された破壊荷重を用いて、抗折強度を、下記の式により、算出した。
抗折強度=1.5×LW/ab2
[但し、L:支点間距離(cm)、W:破壊荷重(kgf)、a:試験片の幅(cm)、b:試験片の厚み(cm)]
【0044】
―鋳型の外観の観察―
上記した幅:25.4mm×高さ:25.4mm×長さ:200mmの大きさの試験片を成形した時の外観について、目視で、観察、評価した。即ち、10名のパネラーが、成形された試験片(鋳型)の外観を、以下の基準で、それぞれ評価し、その平均レベルで、評価を行った。なお、本発明においては、レベル3以上を合格とする。また、レベル1では、試験片が崩壊するため、抗折強度を測定することが出来なかった。
レベル1:形状が崩壊する状態。
レベル2:一部欠損するが、ある程度の形状が取れる状態。
レベル3:成形型への砂の付着や表面のパサつきはあるが、ほぼ形状が取れる状態。
レベル4:完成した形状が取れる状態。
【0045】
−CSの製造例−
先ず、鋳物砂として、A5(再生ケイ砂、商品名:旭有機材工業株式会社)を準備すると共に、水溶性有機化合物であるアルカリレゾール樹脂の水溶液として、市販品:HPR830( 商品名: 旭有機材工業株式会社製) を準備した。
【0046】
そして、約120℃ の温度に加熱した上記の再生ケイ砂(A5)を、混練機(遠州鉄工株式会社製スピードマラー) に投入し、更に、前記アルカリレゾール樹脂水溶液を、鋳物砂の100部に対して、固形分換算で、1.5部の割合で添加して、50秒間の混練を行ない、その後、送風を行なって、水分を蒸発せしめる一方、砂粒塊が崩壊するまで、攪拌混合せしめた。その後、ステアリン酸カルシウムを、鋳物砂の100部に対して0.1部の割合で添加して、10秒間混合した後に、取り出すことにより、常温で自由流動性のある乾態のコーテッドサンド(CS1)を得た。
【0047】
−鋳型の造型例1(実施例1)−
上記のCSの製造例にて得られた、20℃の温度のCS1を、100℃に加熱した成形型内に、0.3MPaのゲージ圧力にて吹き込んで、充填した後、更に0.05MPaのゲージ圧力の、温度が約81℃の水蒸気を、20秒間吹き込むと共に、この水蒸気の吹込みと同時に、0.1MPaのゲージ圧力の二酸化炭素(炭酸ガス)の吹込みを、流量8L/minにおいて開始して、成形型内に充填したコーテッドサンド相に通気せしめた。なお、二酸化炭素は、水蒸気と同時に吹き込んで、60秒間吹き込みを行った。従って、二酸化炭素の通気は、水蒸気の通気終了後、40秒間続けられた。次いで、そのような水蒸気の通気が終了した後、二酸化炭素の通気を40秒間続けつつ、2分間、成形型内で加熱し、成形型内に充填されたCS1を硬化させることにより、試験片[25.4mm×25.4mm×200mm]として用いられる鋳型を、作製した。そして、この得られた試験片について、前述した試験法に従って、抗折強度及び鋳型の外観を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0048】
−鋳型の造型例2〜4(実施例2〜4)−
実施例1において、0.2MPa、0.25MPa、又は0.3MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。そして、この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0049】
−鋳型の造型例5〜8(実施例5〜8)−
実施例1において、0.075MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込む一方、0.1MPa、0.2MPa、0.25MPa、又は0.3MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0050】
−鋳型の造型例9〜12(実施例9〜12)−
実施例1において、0.1MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込む一方、0.1MPa、0.2MPa、0.25MPa、又は0.3MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0051】
−鋳型の造型例13〜14(実施例13〜14)−
実施例1において、成形型の温度を60℃として、0.075MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込む一方、0.1MPa又は0.3MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0052】
−鋳型の造型例15〜16(実施例15〜16)−
実施例1において、成形型の温度を80℃として、0.075MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込む一方、0.1MPa又は0.3MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0053】
−鋳型の造型例17〜18(実施例17〜18)−
実施例1において、成形型の温度を120℃として、0.075MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込む一方、0.1MPa又は0.3MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0054】
−鋳型の造型例19〜20(実施例19〜20)−
実施例1において、0.075MPaのゲージ圧力の水蒸気を10秒間又は40秒間吹き込む一方、0.1MPaのゲージ圧力のキャリアガスとしての二酸化炭素を同時に吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。そして、その得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0055】
−鋳型の造型例21〜24(比較例1〜4)−
実施例1において、0.05MPa、0.075MPa、0.1MPa、又は0.125MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込み、二酸化炭素は吹き込まないこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0056】
−鋳型の造型例25〜26(比較例5〜6)−
実施例1において、成形型の温度を80℃又は120℃として、0.075MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込み、二酸化炭素は吹き込まないこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0057】
−鋳型の造型例27(比較例7)−
実施例1において、0.4MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0058】
−鋳型の造型例28(比較例8)−
実施例1において、成形型の温度を140℃として、0.05MPaのゲージ圧力の水蒸気を吹き込む一方、0.1MPaのゲージ圧力の二酸化炭素を吹き込んだこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。この得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0059】
−鋳型の造型例29(比較例9)−
実施例5において、水蒸気と二酸化炭素を同時に通気せず、水蒸気を20秒間吹き込んだ後、二酸化炭素を60秒間通気せしめたこと以外は、実施例5と同様にして、試験片を作製した。そして、その得られた試験片についての測定結果を、下記表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
かかる表1の結果から明らかな如く、成形型内に通気せしめられる水蒸気の圧力が変化しても、成形型の加熱、保持温度が、本発明にて規定される範囲内の温度であり、また水蒸気とキャリアガスとしての二酸化炭素との圧力の割合が、1:1〜1:6の範囲内において、通気せしめられるようにすることによって、キャリアガスを通気しない場合に比べて、シミツキやボロツキ等の問題を惹起することなく、外観に優れた且つ強度等の物性の良好な鋳型を有利に得ることが出来ることが認められる。
【0062】
これに対して、比較例1〜6に示されるように、水蒸気のみが通気され、キャリアガスとしての二酸化炭素が通気されない場合にあっては、シミツキやボロツキ等の問題が惹起され、測定に必要な形状の試験片を得ることが出来ず、また、二酸化炭素が通気された場合にあっても、その圧力が水蒸気圧力に対して高くなり過ぎた比較例7にあっては、外観が悪化する等の問題を内在しており、更に、成形型の加熱保持温度が130℃よりも高い140℃である比較例8の場合にあっては、二酸化炭素が通気されても、シミツキ等の問題が惹起され、目的とする試験片を得ることが出来ないものであった。加えて、水蒸気と二酸化炭素とを同時通気するものではなく、水蒸気の通気の後、二酸化炭素の通気を行った比較例9においても、外観が悪化すると共に、鋳型強度も充分でないことが明らかとなった。