特許第6358912号(P6358912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358912
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】ラミネート紙容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 3/22 20060101AFI20180709BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20180709BHJP
   B65D 81/34 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   B65D3/22 B
   B32B27/10
   B65D81/34 U
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-200584(P2014-200584)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69021(P2016-69021A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152930
【氏名又は名称】株式会社日本デキシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】清水 崇広
(72)【発明者】
【氏名】永田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】橋本 香奈
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊夫
【審査官】 小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−231191(JP,A)
【文献】 特開2013−237480(JP,A)
【文献】 特開2001−206342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 3/22
B32B 27/10
B65D 81/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなる板状の底部材と、少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、その下端へと前記底部材が加熱溶着された筒状の胴部材とを有するラミネート紙容器であって、
前記底部材の容器内面に積層された樹脂層が、融点150〜300℃の単独重合体を含み、
前記胴部材の容器内面に積層された樹脂層が、融点100〜145℃であり、且つ前記単独重合体と同一のモノマー単位を有する共重合体を含み、
前記底部材の容器内面の樹脂層を構成する単独重合体はポリプロピレンホモポリマーであり、
前記胴部材の容器内面の樹脂層を構成する共重合体はプロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体であることを特徴とするラミネート紙容器。
【請求項2】
前記胴部材の容器内面の樹脂層を構成する共重合体が、前記単独重合体と同一のモノマー単位をモノマー全量中50モル%以上有する共重合体であることを特徴とする請求項1記載のラミネート紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラミネート紙容器、特に電子レンジで使用可能な高耐熱性と、加熱溶着後の胴部と底部の優れた接着強度とを兼ね備えたラミネート紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料や食品用の紙容器として、容器内面に樹脂層を設けたラミネート紙基材からなる紙容器が広く用いられている。このラミネート樹脂層は、紙基材への防水性や強度を付与するだけではなく、容器成形時に胴部と底部とを加熱溶着(ヒートシール)するために重要な役割を果たしている。このようなラミネート紙容器としては、ヒートシール性や柔軟性等の観点から、一般にポリエチレン樹脂を積層した紙基材が用いられることが多い。他方、電子レンジで加熱することが可能な高耐熱性の紙容器が求められているものの、ポリエチレン樹脂(融点約110〜130℃)は耐熱性が十分でなく、電子レンジで加熱する際に容器内面の樹脂層が溶解してしまうおそれがあり、不向きであった。
【0003】
これに対して、近年、ポリエチレン樹脂よりも融点の高いポリプロピレン樹脂(融点約165℃)やポリエチレンテレフタレート樹脂(融点約260℃)を積層したラミネート紙基材を用いた高耐熱性の紙容器が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、これら融点の高い樹脂を積層したラミネート紙基材は、胴部と底部の樹脂層を加熱溶融して接着する際、従来よりも高温で加熱可能な特殊な製造設備が必要となり、製造コストが増加してしまうほか、高温での加熱溶着の際に紙基材が変質してしまうおそれもあった。あるいは、従来の製造設備を用いて胴部と底部を加熱溶着したとしても、十分な接着強度が得られず、溶着箇所より漏れが発生したり、容器の強度が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−18100号公報
【特許文献2】特開2004−18101号公報
【特許文献3】特開2012−62099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電子レンジで使用可能な高い耐熱性と、加熱溶着後の胴部と底部の優れた接着強度とを兼ね備えたラミネート紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、胴部と底部とからなるカップ状のラミネート紙容器内に飲食品を収容した状態で電子レンジにより加熱した場合、胴部周辺ではそれほどでもないものの、底部周辺で著しく温度が上昇し、特に底部内面のラミネート樹脂層において加熱による損傷が生じやすいことが明らかとなった。そして、底部に用いるラミネート紙基材の樹脂層を比較的融点の高い単独重合体(ホモポリマー)とし、胴部に用いるラミネート紙基材の樹脂層を比較的融点が低く、且つ底部に用いられる単独重合体と同一のモノマー単位を有する共重合体(二元共重合体や三元共重合体等)とすることで、電子レンジでも使用可能な高耐熱性を示し、さらに、既存の製造設備を用いて加熱溶着した場合であっても、胴部と底部の接着強度に優れたラミネート紙容器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかるラミネート紙容器は、少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなる板状の底部材と、少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、その下端へと前記底部材が加熱溶着された筒状の胴部材とを有するラミネート紙容器であって、前記底部材の容器内面に積層された樹脂層が、融点150〜300℃の単独重合体を含み、前記胴部材の容器内面に積層された樹脂層が、融点100〜145℃であり、且つ前記単独重合体と同一のモノマー単位を有する共重合体を含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のラミネート紙容器において、前記胴部材の容器内面の樹脂層を構成する共重合体が、前記単独重合体と同一のモノマー単位をモノマー全量中50モル%以上有する共重合体であることが好ましい。また、本発明のラミネート紙容器において、前記底部材の容器内面の樹脂層を構成する単独重合体がポリプロピレンホモポリマーであり、前記胴部材の容器内面の樹脂層を構成する共重合体がプロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子レンジでも使用可能な高耐熱性を示し、さらに、既存の製造設備を用いて加熱溶着した場合であっても、胴部と底部の接着強度に優れたラミネート紙容器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例にかかるラミネート紙容器10の(a)正面図及び(b)断面図である。
図2】本発明の一実施例にかかるラミネート紙容器10の要部拡大断面図である[(a):底部,(b):胴部,(c)胴部と底部との接合部分,(d)胴部の接合部分]。
図3】実施例1及び比較例1のラミネート紙容器の電子レンジ加熱試験後の底部の電子顕微鏡写真図である。
図4】ポリプロピレンホモポリマー(PPホモポリマー)ラミネート紙とエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマー(EPBターポリマー)ラミネート紙を各組み合わせにて加熱溶着した後の接着強度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の構成について詳しく説明する。図1に、本発明の一実施例にかかるラミネート紙容器10の(a)正面図及び(b)断面図を示す。図1(a),(b)に示すように、本発明の一実施例にかかるラミネート紙容器10は、円板状の底部材12と、上方から下方へとテーパー状に縮径された円筒状の胴部材14とからなり、円筒状の胴部材14の下端へと底部材12が接合されている。
【0012】
図2に、ラミネート紙容器10の要部拡大断面図[(a):底部,(b):胴部,(c)胴部と底部との接合部分,(d)胴部の接合部分]を示す。
図2(a)に示すように、底部材12は、紙基材12aの上面、すなわち容器内面となる面に樹脂層12bが設けられている。なお、底部材12の樹脂層12aは、本実施形態のように容器内面となる一方の面に設けられていればよく、あるいは紙基材の両面に樹脂層が設けられていてもよい。また、紙基材の一方の面に複数の樹脂層が積層されていてもよい。
【0013】
底部材12の容器内面に積層される樹脂層12bには、融点150〜300℃の単独重合体(ホモポリマー)が含まれる。使用可能な単独重合体としては、例えば、ポリプロピレンホモポリマー(融点約165℃)やポリエチレンテレフタレートホモポリマー(融点約260℃)が挙げられ、特にポリプロピレンホモポリマーを好適に使用することができる。なお、ポリエチレンホモポリマーは融点が約110〜130℃であり、このような融点150℃未満の単独重合体を底部材の樹脂層に用いると、飲食品を収容して電子レンジで加熱した場合、容器内面の樹脂層が溶解してしまうことがある。一方で、融点が300℃を超える単独重合体を用いると、胴部材との加熱溶着において十分な接着強度が得られない場合がある。さらに好ましくは、単独重合体の融点は150〜200℃である。なお、紙基材の容器内面となる面に複数の樹脂層が積層されていてもよいが、この場合、最も内側の樹脂層が、融点150〜300℃の単独重合体を含んでいる必要がある。また、底部材の樹脂層は前記単独重合体のみから構成されていてもよく、あるいは30質量%以下、望ましくは10質量%以下の範囲であれば、その他のポリマーを混合したブレンドポリマーによって樹脂層が形成されていてもよい。
【0014】
また、図2(b)に示すように、胴部材14は、紙基材14aを基材として、その両面に樹脂層14bが設けられたラミネート紙により形成されている。なお、本実施形態においては、容器の内面と外面の双方を保護するため、紙基材14aの両面に樹脂層14bが設けられているものの、本発明の胴部材としては、少なくとも紙基材の容器内面側となる一方の面において樹脂層が設けられていればよい。また、両面に樹脂層が設けられている場合、それぞれの樹脂層が異なる種類の樹脂からなっていてもよい。あるいは、紙基材の一方の面に複数の樹脂層が積層されていてもよい。必要に応じてバリアー層を設けてもよい。また、油、アルコール等が浸み込まないように、胴部材14の端面にスカイブ法等による端面処理を施してもよい。
【0015】
ここで、胴部材14の容器内面に積層される樹脂層14bには、融点100〜145℃であり、且つ底部材12の樹脂層12bに用いられる単独重合体と同一のモノマー単位を含む共重合体(二元共重合体や三元共重合体等)が含まれる。例えば、底部材に用いる単独重合体がポリプロピレンホモポリマーである場合、胴部材に用いる共重合体としては、プロピレンをモノマー単位として有する共重合体、例えば、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−プロピレンブロックコポリマー、エチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマー等が挙げられる。あるいは、底部材に用いる単独重合体がポリエチレンテレフタレートホモポリマーである場合、胴部材に用いる共重合体としては、テレフタル酸及びエチレングリコールをモノマー成分とし、例えば、イソフタル酸やシクロヘキサンジメタノール等の共重合モノマー成分を添加して重合した共重合体が挙げられる。また、胴部材に用いるこれらの共重合体としては、融点100〜145℃のものを用いる必要があるものの、一般に単独重合体よりも共重合体の方が融点が低いことから、添加する共重合モノマーの種類や量によって融点を適宜調整することができる。紙基材の容器内面となる側に複数の樹脂層が設けられていてもよいが、この場合、最も内側の樹脂層を上記融点100〜145℃の共重合体とする必要がある。また、胴部材の樹脂層は前記共重合体のみから構成されていてもよく、あるいは30質量%以下、望ましくは10質量%以下の範囲であれば、その他のポリマーを混合したブレンドポリマーによって樹脂層が形成されていてもよい。
【0016】
なお、胴部材の容器内面の樹脂層として融点100℃未満の共重合体を用いると、飲食品を収容して電子レンジで加熱した場合、容器内面の樹脂層が溶解してしまうことがある。一方で、融点が145℃を超える共重合体を用いると、容器の製造過程における加熱溶着後の接着強度が十分に得られない場合がある。さらに好ましくは、共重合体の融点は120〜145℃である。胴部材に用いる共重合体としては、底部材に用いられる単独重合体と同一のモノマー単位をモノマー全量中50モル%以上、好ましくは80モル%以上含んでいることが望ましい。胴部材の共重合体において、底部材の単独重合体と同一のモノマー単位の含量が少なすぎると、胴部材と底部材との接着強度が十分に得られない場合がある。なお、底部材に用いる単独重合体と胴部材に用いる共重合体の特に好適な組み合わせとして、ポリプロピレンホモポリマーとエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーが挙げられる。
【0017】
紙基材へと樹脂を積層する方法としては、従来公知の手段を用いればよいが、例えば、紙基材の一方の表面へと樹脂を押出機から溶融押出ラミネートする方法が挙げられる。紙基材の表面へと積層される樹脂層の膜厚は、一般に10〜100μmの範囲である。膜厚が10μm未満の場合、ピンホール等が発生する場合があり、100μmを超えると、不経済であるほか、容器の組立に支障が生じる場合がある。紙基材としては、100〜400g/mの範囲の坪量のものが好ましい。また、ラミネート特性を改善するため、紙基材へと樹脂をラミネートする際、さらにコロナ放電照射処理、あるいはオゾン吹き付け処理等を行なってもよい。
【0018】
本実施形態のラミネート紙容器10の底部材12は、円板状部分と、その周縁部が略直角に折り曲げて形成された屈曲部分とを有している。他方、胴部材14は、扇状のラミネート紙を丸めて両端同士を重ね合わせ、図2(d)に示すように、重ね合わせた部分の樹脂層14b同士を加熱溶着することによって、上方から下方へとテーパー状に縮径された円筒状に形成されている。また、胴部材14の円筒上端部には外巻きにカールされたカール部分が形成され、円筒下端部には略180°内側方向に折り曲げられた折り返し部分が形成されている。そして、図2(c)に示すように、底部材12の屈曲部分が、胴部材14の折り返し部分によって挟みこまれ、底部材の樹脂層12bと胴部材の樹脂層14bとが加熱溶着によって接合されている。なお、加熱溶着の方法としては、いずれも熱風、伝熱、電子線等、従来公知の手段を用いることができる。
【0019】
図2(d)に示すように、胴部材14の接合部においては、融点100〜145℃の共重合体からなる樹脂層14b同士が加熱溶着されている。これらは比較的融点の低い共重合体同士であるため、既存の製造設備を用いて加熱溶着することで、優れた接着強度が得られる。他方、図2(c)に示すように、底部材12と胴部材14との接合部においては、融点150〜300℃の単独重合体を含む樹脂層12bと融点100〜145℃の共重合体を含む樹脂層14bとが加熱溶着されている。ここで、仮に融点150〜300℃の単独重合体同士を加熱溶着しようとすると、既存の製造設備では溶着温度まで加熱できないため、十分な接着強度が得られない。あるいは、それよりも高い温度で加熱溶着を行なうとすると、特殊な製造設備とする必要があり、製造コストが増加してしまうほか、高温での加熱溶着のため紙基材が変質してしまうおそれもある。これに対し、本発明のように、融点150〜300℃の単独重合体と、融点100〜145℃であり、該単独重合体と同一のモノマー単位を含む共重合体との組み合わせであれば、既存の製造設備で加熱溶着を行なっても十分な接着強度が得られる。
【0020】
なお、本発明者らが電子レンジ加熱時の容器内部での加熱状態について詳しく検討した結果、胴部と底部とからなるカップ状のラミネート紙容器内に飲食品を収容した状態で電子レンジにより加熱した場合、胴部の周辺では温度上昇はそれほどでもないものの、底部周辺で著しく温度が上昇し、特に底部内面のラミネート樹脂層において加熱による損傷が生じやすいことが明らかとなった。これは、容器の形状や飲食品の種類、マイクロ波照射装置の種類にもよるものの、マイクロ波加熱の際に底部周辺へと電界が集中することで、特に底部周辺において強く加熱されることや、底部周辺で熱対流が起こりにくく、加熱された飲食品の熱の逃げ場が少ないためと考えられる。また、これには、飲食品内部での熱対流の起こり易さ等に加えて、一般的に、粘度が高かったり、油を多く含んでいる飲食品の場合に、底部内面の樹脂の加熱損傷が生じやすいこともわかった。これに対して、胴部周辺では飲食品内部の熱対流が生じ、上方に向かって熱が逃げるため、胴部内面の樹脂は過度に加熱されることがなく、加熱損傷を受けにくい。したがって、特に底部のラミネート紙基材において、例えば、ポリプロピレンホモポリマーのような高耐熱性の樹脂を用いる必要がある一方、胴部に用いるラミネート樹脂には、これよりも低い融点の共重合体、例えば、エチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーを使用しても、電子レンジで使用可能な程度の容器の耐熱性を十分に保つことができる。
【0021】
ここで、先に述べたように、ポリプロピレンホモポリマー等のような高耐熱性樹脂は、従来よりも高温で加熱溶着する必要があり、あるいは既存の製造設備を用いて加熱溶着したとしても溶着温度まで加熱できないため、十分な接着強度を得ることができない。これに対し、例えば、高耐熱性のポリプロピレンホモポリマーと、これと同一のモノマー単位を有するエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーとの組み合わせならば、既存の製造設備を用いて加熱溶着することができ、十分な接着強度が得られる。このため、本発明のラミネート紙容器においては、底部材のラミネート樹脂層を融点150〜300℃の単独重合体、胴部材のラミネート樹脂層を融点100〜145℃で、且つ底部材の単独重合体と同一のモノマー単位を含む共重合体とすることによって、電子レンジで使用可能な高耐熱性と、加熱溶着後の底部材−胴部材間の優れた接着強度とを両立させている。
【0022】
本実施形態のラミネート紙容器10は、底部材が円板状であるカップ形状の容器であるものの、形状はこれに限定されず、例えば、底部材が矩形板状の直方体あるいは立方体形状の容器であってもよい。また、必要に応じて、別途製造された蓋材等によって容器を密封し、電子レンジで加熱する際、蓋材を外すか、あるいは一部を開封して使用するものであってもよい。また、本発明のラミネート紙容器は、特に電子レンジで加熱する用途のみに留まらず、その他の加熱方法、例えば、電熱器による加熱や蒸し加熱であっても、同等の効果を発揮し得ると考えられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例1(底部/胴部:PPホモポリマー/EPBターポリマー)
底部材用ラミネート紙:坪量250g/mの原紙の表面に、コロナ放電処理を行ないながら押出ラミネート機のTダイより285℃でポリプロピレンホモポリマー(PHA03A:サンアロマー社製;融点164℃,MFR42g/10min,密度0.9g/cm)を押し出し、チルロールにより冷却しながら加圧して、ポリプロピレンホモポリマーを厚さ30μmとなるように積層し、底部材用のPPホモポリマーラミネート紙を得た。
【0025】
胴部材用ラミネート紙:坪量300g/mの原紙の表面に、コロナ放電処理を行ないながら押出ラミネート機のTダイより285℃でエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマー(FL02C:日本ポリプロ社製,融点138℃,MFR20g/10min,密度0.9g/cm)を押し出し、チルロールにより冷却しながら加圧して、エチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーを厚さ40μmとなるように積層した。また、同様にしてもう一方の表面に厚さ30μmとなるようにエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーを積層し、胴部材用のEPBターポリマーラミネート紙を得た。なお、試験に用いたEPBターポリマー(FL02C:日本ポリプロ社製)の構成モノマー比(モル比)を分析したところ、エチレン:プロピレン:1−ブテン=6.6:91.7:1.7であった。
【0026】
底部材用のPPホモポリマーラミネート紙は円形に、胴部材用のラミネート紙は扇形になるように打抜型を用いて打ち抜き、それぞれ円形ブランク、扇形ブランクとした。胴部材に用いる扇型ブランクは、丸めた両端を、紙容器成形機により溶着面温度が140〜240℃となるように熱風を送風して加熱溶着し、下方へとテーパー状に縮径された円筒状に成形した。その後、図2(c)に示したように、円筒の上端部にカール加工を施して外巻きのカール部分を形成し、円筒下端部には略180°内側方向に折り曲げられた折り返し部分を形成した。他方、底部材に用いる円形ブランクには、その周縁部を略直角に折り曲げて屈曲部分を形成した。底部材の屈曲部分を、胴部材の折り返し部分に挟みこみ、紙容器成形機により溶着面温度が140〜240℃となるように熱風を送風して加熱溶着し、底部材と胴部材とを一体化して、実施例1のラミネート紙容器(144φ×75mm)を得た。
【0027】
比較例1(底部/胴部:EPBターポリマー/EPBターポリマー)
底部材用ラミネート紙及び胴部材用ラミネート紙として、いずれもEPBターポリマーラミネート紙を用いたほかは、実施例1と同様にして、比較例1のラミネート紙容器を得た。
比較例2(底部/胴部:PPホモポリマー/PPホモポリマー)
底部材用ラミネート紙及び胴部材用ラミネート紙として、いずれもPPホモポリマーラミネート紙を用いたほかは、実施例1と同様にして、比較例2のラミネート紙容器を得た。
比較例3(底部/胴部:EPBターポリマー/PPホモポリマー)
底部材用ラミネート紙としてEPBターポリマーラミネート紙、胴部材用ラミネート紙としてPPホモポリマーラミネート紙を用いたほかは、実施例1と同様にして、比較例3のラミネート紙容器を得た。
【0028】
<耐熱性試験>
上記実施例及び比較例のラミネート紙容器に、市販ビーフカレーを想定したモデル液(塩濃度約2wt%,粘度約3mPa・s(80℃),油濃度約1wt%)を充填し、電子レンジ(HEALSIO AX−HC2−R:シャープ社製)に入れ、出力600Wの条件で8分間加熱した。加熱後の容器の胴部内面及び底部内面の損傷状態について、下記基準に基づいて目視により評価した。
○:損傷が認められない。
□:若干損傷が認められるが、ほとんど問題ない。
△:損傷が認められ、外観上問題となる。
×:著しく損傷が認められる。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、底部材をPPホモポリマーラミネート紙とした実施例1,比較例2では、いずれも電子レンジ加熱後の底部内面の損傷は認められなかった。これに対して、底部材がEPBターポリマーラミネート紙である比較例1,3では、電子レンジ加熱後、底部内面において著しい損傷が生じていた。他方、胴部材については、PPホモポリマーラミネート紙、EPBターポリマーラミネート紙のいずれの場合も、内面樹脂の損傷は認められなかった。
【0031】
また、図3に、電子レンジ加熱後の実施例1及び比較例1のラミネート紙容器の底部内面を撮影した電子顕微鏡写真図を示す。図3より、実施例1の底部内面の樹脂層は一様に平滑なままであるのに対し、比較例1では、底部内面のEPBターポリマーが部分的に溶解し、樹脂層表面が不均一になっていることが確認できる。
【0032】
つづいて、PPホモポリマーラミネート紙、EPBターポリマーラミネート紙及びPEホモポリマーラミネート紙を用い、各種の組み合わせにて加熱溶着した際の接着強度について評価した。
<接着性試験>
PPホモポリマーラミネート紙:坪量300g/mの原紙の表面に、コロナ放電処理を行ないながら押出ラミネート機のTダイより285℃でポリプロピレンホモポリマー(PHA03A:サンアロマー社製;融点164℃,MFR42g/10min,密度0.9g/cm)を押し出し、チルロールにより冷却しながら加圧して、ポリプロピレンホモポリマーを厚さ40μmとなるように積層した。また、同様にしてもう一方の表面に厚さ30μmとなるようにPPホモポリマーを積層し、PPホモポリマーラミネート紙を得た。
【0033】
EPBターポリマーラミネート紙:坪量300g/mの原紙の表面に、コロナ放電処理を行ないながら押出ラミネート機のTダイより285℃でエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマー(FL02C:日本ポリプロ社製,融点138℃,MFR20g/10min,密度0.9g/cm)を押し出し、チルロールにより冷却しながら加圧して、エチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーを厚さ40μmとなるように積層した。また、同様にしてもう一方の表面に厚さ30μmとなるようにエチレン−プロピレン−1−ブテンターポリマーを積層し、EPBターポリマーラミネート紙を得た
【0034】
PEホモポリマーラミネート紙:坪量280g/mの原紙の表面に、コロナ放電処理を行ないながら押出ラミネート機のTダイより285℃で低密度ポリエチレン(ペトロセンLW04−1:東ソー社製,融点133℃,MFR6.5g/10min,密度0.94g/cm)を押し出し、チルロールにより冷却しながら加圧して、ポリエチレンを厚さ40μmとなるように積層し、PEホモポリマーラミネート紙を得た
【0035】
以上で得られたPPホモポリマーラミネート紙、EPBターポリマーラミネート紙、PEホモポリマーラミネート紙を用い、(1)PPホモポリマー/EPBターポリマー、(2)EPBターポリマー/EPBターポリマー、(3)PPホモポリマー/PPホモポリマー、(4)PEホモポリマー/PPホモポリマー、(5)PEホモポリマー/EPBターポリマーのそれぞれの組み合わせにて、ヒートシール機(TP0701:テスター産業社製)を用い、圧力2kg/cm×温度230℃,250℃,270℃の各種条件にて加熱溶着した。溶着後の各ラミネート紙について、引っ張り試験機(オートグラフAGS−X:島津製作所製)を用い、試験片幅15mm、つかみ具間50mm、引張速度300mm/minの条件で、接着強度(引張強度)を測定した。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示すように、(1)PPホモポリマー/EPBターポリマーあるいは(2)EPBターポリマー/EPBターポリマーの組み合わせにおいては、シーラー設定温度230〜270℃で加熱して溶着した後、引張強度が約4〜7N/15mmであり、いずれも良好な接着強度が得られた。これに対して、(3)PPホモポリマー/PPホモポリマーの組み合わせでは、(1)又は(2)の約半分程度の引張強度しか得られず、接着強度に劣っていた。すなわち、(3)PPホモポリマー同士の場合、シーラー設定温度230〜270℃で加熱溶着しても、十分な接着強度が得られないことがわかった。また、PEホモポリマーを使用した(4)、(5)の組み合わせでは、さらに接着強度が低く、いずれも溶着されていない疑似接着状態であった。
【0038】
なお、(1)PPホモポリマー/EPBターポリマーの組み合わせでは加熱溶着後の接着強度が良好であったのに対して、(5)PEホモポリマー/EPBターポリマーの組み合わせでは加熱溶着できなかったことから、単独重合体と共重合体との組み合わせにおいて構成モノマー単位がわずかに共通しているだけでは、加熱溶着特性の点で不十分であると考えられる。すなわち、(5)で用いられたEPBターポリマーには、PEホモポリマーと共通するエチレンモノマーが含まれているものの、モル比がモノマー全体の6.6モル%と少量であり、この程度モノマー単位が共通しているだけでは、優れた加熱溶着特性は得られない。
【0039】
以上のように、底部材内面をPPホモポリマー、胴部材内面をEPBターポリマーとして形成したラミネート容器は、実施例1として示したように、電子レンジ加熱後において底部内面、胴部内面ともに樹脂層の損傷を生じることなく、また、底部−胴部の接合部がPPホモポリマー/EPBターポリマーの組み合わせからなっているため、上記(1)として示したように、従来の溶着温度で加熱溶着した場合も、優れた接着強度が得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0040】
10 ラミネート紙容器
12 底部
14 胴部
図1
図2
図3
図4