特許第6358921号(P6358921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358921固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法、及び、セル間接続部材接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358921
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法、及び、セル間接続部材接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0226 20160101AFI20180709BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20180709BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20180709BHJP
【FI】
   H01M8/0226
   H01M8/12 101
   H01M8/0206
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-213840(P2014-213840)
(22)【出願日】2014年10月20日
(65)【公開番号】特開2015-201422(P2015-201422A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-75555(P2014-75555)
(32)【優先日】2014年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−202490(JP,A)
【文献】 特開2011−108621(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/131180(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルの空気極とセル間接続部材とを接合してなる固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、
前記セル間接続部材と前記空気極との間を、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成するプロセスを含み、
前記セル間接続部材の基材に、コバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnCo1−x)Co(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する保護膜を焼成して設けるプロセスを含み、
前記金属粉末は前記保護膜に含まれる金属元素であり、
前記接合ペーストは前記保護膜の形成材料と同系の酸化物材料をさらに含有する固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【請求項2】
前記保護膜の形成材料がコバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)であり、前記金属粉末がCoである請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【請求項3】
前記セル間接続部材の基材がSUS材である請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【請求項4】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられる空気極と、セル間接続部材を接合するセル間接続部材接合方法であって、
前記セル間接続部材と前記空気極との間を、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成するプロセスを含み、
前記セル間接続部材の基材に、コバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnCo1−x)Co(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する保護膜を焼成して設けるプロセスを含み、
前記金属粉末は前記保護膜に含まれる金属元素であり、
前記接合ペーストは前記保護膜の形成材料と同系の酸化物材料をさらに含有するセル間接続部材接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下、適宜「SOFC」と記載する。)用セルの空気極とセル間接続部材とを接合してなる固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法、およびセル間接続部材接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の説明では、本願に係る接合方法を使用するSOFC用セルの製造方法を主に説明する。
【0003】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子伝導性のセル間接続部材により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルは、例えば700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸素イオンの移動に伴って、一対の電極間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。セル間接続部材にはインターコネクタやインターコネクタを介してセル間を電気的に接続する部材(集電部材)等が該当する。インターコネクタは燃料と空気の隔壁となる部材である。
【0004】
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の燃料電池の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、合金が使用できるようになってきた。合金使用により、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0005】
また、SOFC用セルは、その製造工程において、セル間接続部材と空気極および燃料極との間の接触抵抗をできるだけ小さくしたり、接合にセラミックスペーストを用いる場合に必要な接合強度を得る目的で、それらを積層した状態で、燃料電池の作動温度よりも高い1000℃〜1250℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行う場合がある(例えば、特許文献1、2を参照。)。セラミックスぺーストでは接合強度が不足しており、Ag系の接合材であれば高強度が実現できるが、Agのマイグレーションにより、絶縁短絡を引き起こし、セルの急速劣化が生じる要因ともなる(例えば、特許文献5を参照。)。
【0006】
一方、SOFC用セルで利用されるセル間接続部材用の基材の表面に、単一系酸化物に不純物をドープしてなるn型半導体保護膜を形成し、このような保護膜形成処理を行うことによって、合金中に含まれるCrが飛散し易い6価の酸化物へと酸化されることを抑制しようとする技術もあった(例えば、特許文献3を参照。)。
【0007】
このようなSOFC用セルで利用されるセル間接続部材を空気極に接合する場合、通常空気極と同材料の接合材が用いられる場合が多い。同材料の接合材が用いられることで、空気極との間の接合性を高くするとともに、焼成条件を、特に合金からなるセル間接続部材が劣化しない温度以下とすることができる。また、セル間接続部材に設けられる保護膜材料に対しても十分な接合力を発揮する。
【0008】
また、接合材としてスピネル構造を備えた金属酸化物材料を用いることも検討されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−259643号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/131180号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2007/083627号パンフレット
【特許文献4】特許4866955号公報
【特許文献5】特開2011−159588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、空気極に用いられる材料を接合材として低温焼結して用いた場合には、燃料電池の長期使用に伴って徐々に劣化して、セル間接続部材上に設けた保護膜と接合材との間において破断剥離することがあることが見出された。これは、燃料電池の寿命が上記破断剥離により規制されることを意味し、燃料電池の寿命を実用レベルに向上する妨げになっているものと考えられる。
【0011】
また、接合材としてスピネル構造を備えた金属酸化物材料を用いる場合には、空気極とセル間接続部材とを直接接合することが考えられているものの、保護膜と接合材の破断剥離は問題とされておらず、防止保護膜と空気極との間を強固にかつ長期耐久性高く接合する技術は研究されていなかった。
さらに、SOFC用セルとしての性能上、空気極とセル間接続部材との接合部位においても、その部位の抵抗が従来物の抵抗と比較して同等程度であることが必須となる。
【0012】
そこで、本発明は上記実状に鑑み、長期使用によっても破断剥離の発生しにくく、部位の抵抗も従来物と同等程度となるセル間接続部材接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
今般、本発明者らは、保護膜と接合材の破断剥離が接合材における保護膜と接合している界面の内側部位にて発生しており、燃料電池の使用時の通電発熱による前記接合材の劣化が主な原因と考えられることを見出している。そして、上記問題を改善するために、燃料電池の製造時の加熱条件のほかに、燃料電池の使用条件を加味して前記接合材の材質を適切に選択する必要があることに想到した。
【0014】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法は、
固体酸化物形燃料電池用セルの空気極とセル間接続部材とを接合してなる固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、前記セル間接続部材と前記空気極との間を、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成するプロセスを含み、前記セル間接続部材の基材に、コバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnCo1−x)Co(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する保護膜を焼成して設けるプロセスを含み、
前記金属粉末は前記保護膜に含まれる金属元素であり、前記接合ペーストは前記保護膜の形成材料と同系の酸化物材料をさらに含有することを特徴とする。
【0015】
〔作用効果1〕
セル間接続部材と空気極との間を、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成することにより、接合ペーストは焼成により接合材となる。接合ペーストに含まれる金属粉末は、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である金属であって、すなわち酸化物ではない状態の金属粉末であるから、その全てまたは一部が焼成により酸化物に変化するので、接合材は導電性をもつことになる。これにより、固体酸化物形燃料電池用セルとして十分な接着強度と導電性を確保することができる。そして、それらを焼成する温度を燃料電池作動温度〜950℃の温度とすることにより、焼成・焼結に要する時間を必要以上に短くすることなく、低温で焼成することができ、燃料電池の構成要素に熱的な負荷をかけることなく燃料電池用セルを製造することができる。
【0017】
バルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnCo1−x)Co(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する保護膜は、基材として用いられる種々材料との密着性が高く、受熱に対する耐久性が高く、かつ、緻密層を形成した際にスピネル構造の酸素バリア性が高く、Cr飛散防止効果の高い保護膜に形成される。また、スピネル構造を有する保護膜材料の中でも上記の材料による保護膜は、基材、空気極等との熱膨張率の不一致(差)が小さく、特に製造工程(保護膜の焼成時)において、一度は晒される800℃〜1000℃の環境下においても基材、空気極等との熱膨張率の不一致(差)が小さいうえに、Crの飛散抑制効果がきわめて高いことが見出されている。
【0018】
上記の保護膜をセル間接続部材に設け、前記金属粉末を保護膜に含まれる金属元素とすることで、前記保護膜と前記空気極との間を、前記保護膜に含まれる金属元素のうち酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成するプロセスを行うことができる。この製造方法により、十分な接着強度を確保しつつ、スピネル酸化物単体を接合材として用いるよりも接触抵抗を低減できることが実験的に見出された。接合ペーストが焼成されてなる接合材に、保護膜に含まれるものと同じ金属元素が含有されることが、接合強度の向上と抵抗値の低減に寄与している。
【0020】
合ペーストが保護膜と同系の酸化物材料を含有するため、保護膜に対する接合力を強くすることができる。また、接合ペーストが金属粉末と酸化物材料の両方を含有するため、熱膨張率の観点からも接合のための材料として好適である。
ここで同系の酸化物材料とは、たとえばCoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)からなる保護膜に対してCoxMny4(0≦x、y≦3、x+y=3)、ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)からなる保護膜に対してZnzCoxMny4(0≦x、y、z≦3、x+y+z=3)のように、主要な元素構成が共通しているものをいう。
【0021】
〔構成
前記保護膜の形成材料をコバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)とし、前記金属粉末をCoとすることができる。
【0022】
〔作用効果
Coはコバルトマンガン系酸化物CoxMny4に含まれる金属元素であって、酸化物の状態で導電性を有し、さらに卑金属の一つでもある。このCoの金属粉末を接合ペーストに含有させることで、十分な接着強度をもち、長期にわたって高い電気伝導性を示すSOFC用セルを実現できることが実験的に明らかになっている。
【0023】
この点に関して、後述の実験結果で示すように、100%のコバルトマンガン系酸化物CoxMny4を接合ペーストとして使用する場合より、その接合ペーストにCoの金属粉末(接合ペーストの状態では、金属CoとしてCoが存在する)を含有することで、接合強度の向上、抵抗値低減の効果を得ることができる。接合ペーストにおけるCoの金属粉末の含有割合は、接合強度に関しては、その割合が高い方が好ましいことを発明者等は明らかにした。例えば、接合ペーストに含有される金属粉末と酸化物材料との全体に対する体積割合で、Coの金属粉末を10%より多くすることが好ましく、20%以上とすることが好ましく、また40%以上、さらには、80%以上、さらに好ましくは全体(100%)がCoの金属粉体であることが好ましい。一方、抵抗値に関しては、Coの金属粉末の含有割合は、40%以下とするのが好ましく、20%とするのがより好ましい。すなわち、接合強度の向上と抵抗値低減の効果を両立すべく、接合ペーストに含有される金属粉末と酸化物材料との全体に対する体積割合で、金属粉末を10%より大きく40%以下とするのが好ましく、20%以上40%以下とするのがより好ましい。
【0024】
〔構成
また、前記セル間接続部材の基材がSUS材であってもよい。
【0025】
〔作用効果
セル間接続部材の基材がSUSである場合、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。また、SUSはCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr23やMnCr24の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。本発明は、SUSの表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料をコーティングすることにより、Crを含む酸化被膜の成長を抑制し、Cr被毒の発生を抑制することができる。
【0026】
〔構成
また、本発明のセル間接続部材接合方法の特徴構成は、固体酸化物形燃料電池用セルに用いられる空気極と、セル間接続部材を接合するセル間接続部材接合方法であって、
前記セル間接続部材と前記空気極との間を、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成するプロセスを含み、前記セル間接続部材の基材に、コバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnCo1−x)Co(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する保護膜を焼成して設けるプロセスを含み、前記金属粉末は前記保護膜に含まれる金属元素であり、前記接合ペーストは前記保護膜の形成材料と同系の酸化物材料をさらに含有する点にある。
【0027】
〔作用効果
上記の接合方法によれば、セル間接続部材と空気極との間を、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成することにより、接合ペーストに含まれる金属粉末は、酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である金属であって、すなわち酸化物ではない状態の金属粉末であるから、その全てまたは一部が焼成により酸化物に変化するので、接合材は導電性をもつことになる。これにより、固体酸化物形燃料電池用セルとして十分な接着強度と導電性を確保することができる。そして、それらを焼成する温度を燃料電池作動温度〜950℃の温度とすることにより、焼成・焼結に要する時間を必要以上に短くすることなく、低温で焼成することができ、燃料電池の構成要素に熱的な負荷をかけることなくセル間接続部材と空気極とを接合することができる。
【0029】
記の保護膜をセル間接続部材に設け、前記金属粉末を保護膜に含まれる金属元素とすることで、前記保護膜と前記空気極との間を、前記保護膜に含まれる金属元素のうち酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末を含有する接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成するプロセスを行うこととなる。この接合方法により、十分な接着強度を確保しつつ、スピネル酸化物単体を接合材として用いるよりも接触抵抗を低減できることが実験的に見出された。接合ペーストが焼成されてなる接合材に、保護膜に含まれるものと同じ金属元素が含有されることが、接合強度の向上と抵抗値の低減に寄与している。
接合ペーストが保護膜と同系の酸化物材料を含有するため、保護膜に対する接合力を強くすることができる。また、接合ペーストが金属粉末と酸化物材料の両方を含有するため、熱膨張率の観点からも接合のための材料として好適である。
ここで同系の酸化物材料とは、たとえばCoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)からなる保護膜に対してCoxMny4(0≦x、y≦3、x+y=3)、ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)からなる保護膜に対してZnzCoxMny4(0≦x、y、z≦3、x+y+z=3)のように、主要な元素構成が共通しているものをいう。
【発明の効果】
【0036】
以上の構成を採用した結果、固体酸化物形燃料電池として耐久性が高く長期使用が可能なセルを製造することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】固体酸化物形燃料電池用セルの概略図
図2】固体酸化物形燃料電池の作動時の反応の説明図
図3】セル間接続部材接続構造の断面図
図4】接着強度の試験装置を示す概略図
図5】抵抗値の経時変化試験の結果を示すグラフ
図6】抵抗値の経時変化試験の結果を示すグラフ
図7】サーマルサイクル試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る燃料電池用セルを説明し、製造方法、実施例と比較例およびその試験例を示す。なお、以下に本発明の好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0039】
〔固体酸化物形燃料電池(SOFC)〕
図1および図2に示すSOFC用セルCは、酸素イオン伝導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸素イオンおよび電子伝導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子伝導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子伝導性の合金または酸化物からなるセル間接続部材1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。空気極31とセル間接続部材1とが密着配置されることで、空気極31側の溝2が空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能する。燃料極32とセル間接続部材1が密着配置されることで、燃料極32側の上記溝2が燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。セル間接続部材1はインターコネクタとセルC間を電気的に接続する部材が接続された構成となることもある。
【0040】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO3(例えばM=Mn,Fe,Co,Ni)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0041】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル間接続部材1の材料としては、電子伝導性および耐熱性の優れた材料であるLaCrO3系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金または酸化物が利用されている。
【0042】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル間接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル間接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、このような積層構造のセルスタックでは、上記セル間接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0043】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル間接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル間接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31において酸素分子O2が電子e-と反応して酸素イオンO2-が生成され、そのO2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH2がそのO2-と反応してH2Oとe-とが生成されることで、一対のセル間接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0044】
〔セル間接続部材〕
セル間接続部材1は、図1および図3に示すように、単セル3との間で空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成されている。なお基材11の材料としては、先に述べたようにCrを含有する合金または金属酸化物が用いられる。なお、基材11の表面に、次に述べる保護膜12を設けることでCr被毒を抑制することができ、固体酸化物形燃料電池用セルとして好適である。
【0045】
〔保護膜〕
基材11に設けられる保護膜12は、導電性セラミックス材料(金属酸化物微粒子)を含有する。保護膜12に含有させる金属酸化物としては、コバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)または亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)用いられる。あるいは、保護膜12にコバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnCo1−x)Co(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有させる。具体的には、平均粒径が0.1μm以上2μm以下のZn(Co,Mn)O4またはCo1.5Mn1.54、ZnCo24、MnCo24、Co34の微粒子が好適に用いられる。
【0046】
基材11への保護膜12の形成は、概略次のようにして行う。まず、金属酸化物微粒子を混合した混合液(塗料)を基材11に塗布し、乾燥・加熱等により塗膜を硬化させる。
続いて、基材11を500℃以上の高温で処理し、塗膜中の樹脂等の成分を焼き飛ばし、金属酸化物微粒子を焼結させる。
【0047】
塗膜の形成方法としては、ウエットコーティング法あるいはドライコーティング法が例示できる。
ウエットコーティング法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法が例示できる。
ドライコーティング法としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長(CVD)法、電気化学気相成長(EVD)法、イオンビーム法、レーザーアブレーション法、大気圧プラズマ成膜法、減圧プラズマ成膜法、溶射法、エアロゾルデポジション法(AD法)が例示できる。
【0048】
例えば電着塗装法によれば、以下のようにして基材11に保護膜12を形成することができる。
(1)ポリアクリル酸等のアニオン型樹脂を含有する電着液に、金属酸化物微粒子を1リットル当たり100gになるように分散させ、混合液を作成する。具体的には、質量比で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(1:1)〜(2:1)とする。
(2)混合液を満たした通電漕の中に基材11を浸して陽極とし、別に設けた陰極板との間に通電することにより、基材11の表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
(3)続いて、基材11に加熱処理を行うことで、基材11の表面に硬化した電着塗膜が形成される。加熱処理としては、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、それに続いて電着塗膜を硬化させる硬化乾燥とを行う。
(4)最後に、基材11を電気炉を使用して1000℃で2時間焼成し、保護膜12を備えたセル間接続部材1を得る。
【0049】
なお、電着塗装の条件は特に制限されず、塗装する金属の種類、混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、目標膜厚などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(混合液温度)10〜40℃、印加電圧10〜450V、電圧印加時間1〜10分とすればよい。
【0050】
〔セル間接続部材と空気極の接合〕
セル間接続部材1と空気極31は、保護膜12と空気極31との間を金属粉末が含有される接合ペーストで接着接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼成することにより接合される。すなわち、焼成により接合ペーストが接合材4となり、セル間接続部材1は、接合材4により空気極31に接合され、燃料電池用セルCとして形成される。さらに、その燃料電池用セルCを順次直列に接合することによって燃料電池のセルスタックが形成される(図1,3参照)。
【0051】
接合ペーストに含有される金属粉末は、保護膜12に含まれる金属元素のうち酸化物の状態で導電性を有しかつ卑金属である元素の金属粉末である。例えば、保護膜12にコバルトマンガン系酸化物CoxMny4(0<x、y<3、x+y=3)が含有されている場合、保護膜12に含まれる金属元素はCoおよびMnである。これらはいずれも卑金属であるが、Mnは酸化物の状態では絶縁物であるため、接合ペーストに混合する金属粉末としてはCoが適する。
【0052】
同様にして、保護膜12に亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMny4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)が含有されている場合は、接合ペーストに混合する金属粉末としてはZnおよびCoが適する。この場合も、Mnは上記理由から適さない。
【0053】
以下、本発明のSOFC用セルCの実施例について詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
ステンレス鋼材からなるセル間接続部材1用の基材11表面にCo1.5Mn1.54よりなる塗膜を設け、前記試験片を1000℃で2時間加熱する熱処理を行い(焼成工程)、基材11の表面に保護膜12を形成した試験片52を作成した。塗装の条件としては、焼成後の保護膜12の膜厚が5〜10μm程度になる条件にて、アニオン電着塗装を行った。
得られた試験片を、LSCF6428(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83-δ)からなる空気極31に対して、Co金属の粉末を含有する接合ペーストによって接合・接着し、燃料電池の作動温度(具体的には700℃程度)〜950℃の温度で焼成させて、試験用セルを得た。この例では、焼成温度を800℃とした。
【0055】
接触抵抗を確認するため、得られた試験用セルを、集電材(白金メッシュ)を介してSUSからなる一対の試験用電極間に挟持させ、800℃の燃料電池使用環境において試験用電極間の抵抗値の経時変化を調べた。
試験開始から300時間経過した時点の抵抗値は、76.33mΩcm2となった。固体酸化物形燃料電池用セルとして十分に低い抵抗値であり、実施例1に係る接合は高い電気伝導率を備えることが確認された。抵抗値の経時変化については、他の実施例・比較例の結果と合わせて後述する。
【0056】
接着強度を確認するため、引張試験機による接着強度試験を行った。試験の概要を図4に示す。試験片52を試験基板51に対して上記の接合ペーストを用いて接着・接合し、燃料電池の作動温度〜950℃の温度で焼結させて、試験部材を得た。試験片52の上面に、ワイヤー54をエポキシ樹脂53で接着して、試験基板51を固定した上でワイヤー54を引張試験機の引張部55で引張り、接合材4と試験片52とが剥離する際の力を測定した。
【0057】
本実施例1に係る試験部材では、17.80Nの力を加えたときに剥離が発生した。すなわち、実施例1に係る接合の接合強度は17.80Nであり、固体酸化物形燃料電池用セルに用いる接合として十分に高い接着強度を備えることが確認された。他の実施例・比較例との比較検討については後述する。
【0058】
〔実施例2〜5〕
上記実施例1と同様にして試験片52を作成し、Co金属の粉末を含有する接合ペーストに替えてCo金属粉末とCo2MnO4金属酸化物微粒子(以下「C2M」または「C2M微粒子」と記載する)を含有する接合ペーストを用いて試験片52と空気極31を接合・焼成し、試験用セルを得た。Co金属粉末とC2M微粒子の体積比を変えて実施例2〜5の試験用セルおよび試験部材を作成した。各実施例におけるCo金属粉末とC2M微粒子の体積比は次の通りである。
実施例2 Co:C2M=80:20
実施例3 Co:C2M=60:40
実施例4 Co:C2M=40:60
実施例5 Co:C2M=20:80
【0059】
実施例2〜5についての抵抗値経時変化の試験結果は、300時間経過時点で70〜81mΩcm2の範囲内であった。また、引張試験の結果は7.80〜12.10Nの範囲内であった。したがって、実施例2〜5に係る接合は、固体酸化物形燃料電池用セルとして十分な導電性と接着強度を備えることが確認された。
【0060】
〔比較例1〕
比較例1では、実施例1〜5と同様の試験片52に対し、C2M微粒子のみを含有する接合ペーストを用いて試験片52と空気極31とを接合・焼成して試験用セルを得た。
【0061】
〔比較例2〕
比較例2では、実施例1〜5と同様の試験片52に対し、貴金属である銀の金属粉末を接合ペーストに混合し、試験片52と空気極31とを接合・焼成して試験用セルを得た。
【0062】
〔抵抗値の経時変化試験(試験1)〕
抵抗値の経時変化試験を500時間程度行った結果を図5に示す。凡例中、「Co[100]/C2M[0]」とあるのは、実施例1のCo粉末のみを接合ペーストに含有させた試験用セルの結果を示す。「Co[80]/C2M[20]」とあるのは、実施例2のCo金属粉末とC2M微粒子(Co2MnO4金属酸化物微粒子)の体積比をCo:C2M=80:20とした試験用セルの結果を示す。
以下同様に、「Co[60]/C2M[40]」は実施例3(Co:C2M=60:40)、「Co[40]/C2M[60]」は実施例4(Co:C2M=40:60)、「Co[20]/C2M[80]」は実施例5(Co:C2M=20:80)を示す。
「Co[0]/C2M[100]」とあるのは、比較例1のC2M微粒子のみを用いた試験用セルの結果を示す。「Ag」とあるのは、比較例2の銀の金属粉末を混合した接合ペーストを用いた試験用セルの結果を示す。
【0063】
試験開始から300時間経過時の各試験用セルの抵抗値を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1〜5は、100〜200時間が経過した後は抵抗値の経時変化が小さくなり、500時間が経過した後も抵抗値は安定している。また、比較例1と比べて抵抗値が20mΩcm2以上も小さくなった。この試験結果より、Co金属粉末を接合ペーストに含有することにより、接触抵抗が小さくなり、電気伝導性が長期的に安定した固体酸化物形燃料電池用セルが得られることが分かる。
【0066】
比較例2の抵抗値は、試験開始から経時的に増加している。これは、接合材に含まれる銀の融点が低いため、800℃の環境下で銀が蒸発等により減少したことを示すと考えられる。これに対し実施例1〜5の抵抗値はより安定しており、固体酸化物形燃料電池用セルとして好適である。
【0067】
〔抵抗値の経時変化試験(試験2)〕
上述の抵抗値の経時変化試験を5000時間行った結果を図6に示す。この試験は、図5に結果を示す上述の試験1に用いた試験用セル(実施例1〜5および比較例1)を、引き続き同条件(800℃の燃料電池使用環境)の下におき、試験用電極間の抵抗値の経時変化を調べたものである。図6の凡例中、「Co[100]/C2M[0]」とあるのは、図5と同様に、実施例1のCo粉末のみを接合ペーストに含有させた試験用セルの結果を示す。「Co[80]/C2M[20]」とあるのは、実施例2のCo金属粉末とC2M微粒子(Co2MnO4金属酸化物微粒子)の体積比をCo:C2M=80:20とした試験用セルの結果を示す。以下同様のため省略する。
【0068】
比較例1(Co[0]/C2M[100])は時間が経過するにつれて抵抗値が少しずつ減少した。一方実施例1〜5は、1000時間経過した頃から抵抗値が徐々に増加した。5000時間経過時の抵抗値は、Co金属粉末の体積比が大きいほど大きくなった。
【0069】
抵抗値の経時的な増加は、接合ペーストに含有されたCo金属粉末が酸化されたことによると考えられる。また、Coの電子伝導率がCoMnOの電子伝導率よりも低いことにより、Co金属粉末の体積比が大きいほど5000時間経過時の抵抗値が大きくなったと考えられる。
【0070】
実施例1〜5に係る試験用セルの5000時間経過時の抵抗値は、いずれも固体酸化物形燃料電池用セルとして十分に低い抵抗値である。すなわち、実施例1〜5に係る接合は5000時間という長い時間が経過した後も高い電気伝導率を備えることが確認された。なお、実施例4および5は5000時間経過時の抵抗値が特に低く、Co金属粉末の体積比を40%以下とすることが好ましいことが確認された。また、Co金属粉末の体積比を20%から40%とすることが特に好適であると確認された。
【0071】
〔接着強度試験〕
実施例1〜5、比較例1および2の接着強度試験の結果を表2に示す。比較例1および3〜6については、引張試験機の測定下限より小さい力で試験片52が剥離したため、接合強度が測定できなかったため、接合強度を「(計測不可)」とした。すなわち、比較例1および3〜6の接合強度は実施例1〜5に比べて非常に小さく、Co金属粉末の混合により接合強度が大きく改善したことを示している。また、実施例1〜5の接合強度は、いずれも固体酸化物形燃料電池用セルとして十分に高い値である。すなわち、Co金属粉末の体積比を10%よりも大きくすることが好ましいことが確認された。また、Co金属粉末の体積比を20%以上とすることが特に好適であると確認された。
【0072】
【表2】
【0073】
〔サーマルサイクル試験〕
実施例1の試験用セルを、経時変化試験と同様に集電材(白金メッシュ)を介してSUSからなる一対の試験用電極間に挟持させ、通電して抵抗値を測定しながら、雰囲気温度を室温、800℃、室温に繰り返し変化させて抵抗値の変化を測定した(サーマルサイクル試験)。800℃への昇温は2〜3時間で行い、室温への変化は自然放冷により行った。試験は1200時間にわたって行い、上述の室温、800℃、室温に変化させるサーマルサイクルを72回行った。その結果を図7に示す。
【0074】
実施例1の試験用セルの抵抗値は、試験開始時から徐々に増加し、1200時間経過時には140mΩ/cm程度となった。1000時間を超えたあたりでは増加量は小さくなり、抵抗値140mΩ/cm程度で安定したものと認められる。
【0075】
サーマルサイクル試験は、燃料電池の起動停止工程を模擬した試験であるが、上述の結果から、実施例1の試験用セルは72回もの起動停止工程においてセル間接続部材1と空気極31との間で剥離等の問題を生じず、急速な劣化を起こさないことが確認された。なお燃料電池の通常の使用において、起動停止工程は1ヶ月に1回程度、すなわち年に12回程度行われる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の固体酸化物形燃料電池用セル製造方法によれば、接合強度および電気伝導性が高く長期にわたって安定して使用可能なSOFC用セルを提供することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 :セル間接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
4 :接合材
11 :基材
12 :保護膜
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :固体酸化物形燃料電池(SOFC)用セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7