特許第6358942号(P6358942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358942エンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358942
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】エンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   G01N33/50 Z
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-247482(P2014-247482)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-109566(P2016-109566A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年7月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス http://www.shiga−med.ac.jp/〜jesmail/index.html ; 掲載日 平成26年11月26日 掲載アドレス http://www.shiga−med.ac.jp/〜jesmail/_userdata/JEIIS2014.pdf ; 掲載日 平成26年11月26日 第20回日本エンドトキシン・自然免疫研究会のプログラム・抄録集,第50頁,一般社団法人 日本エンドトキシン・自然免疫研究会 当番世話人 長岡 功 ; 発送日 平成26年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤田 優
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−143164(JP,A)
【文献】 特開2013−124905(JP,A)
【文献】 特開昭62−110153(JP,A)
【文献】 特開昭63−248399(JP,A)
【文献】 特表2005−522480(JP,A)
【文献】 Yuu Fujita,Saline and buffers minimize the action of interfering factors in the bacterial endotoxins test,Analytical Biochemistry,2011年,vol.409,p 46-53
【文献】 高橋淳吉,エンドトキシンの測定法と応用,エンドトキシン研究,2009年,vol.12,p113-118
【文献】 Y.Fujita & T.Nabetani,Iron sulfate inhibits limulus activity by induction of structural and qualitative changes in lipid A. , J Appl Microbiol,2014年 1月,116 (1),P89-99
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度が1 mM以上25 mM以下となるようにグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む溶液を調製し、
前記グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む溶液を試料に添加し、
前記試料に検出試薬を添加することを特徴とするエンドトキシンの測定方法。
【請求項2】
前記試料は非血液試料であることを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項3】
前記非血液試料は医薬品であることを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項4】
前記医薬品は医薬製剤、原薬、不活性添加物であることを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項5】
前記非血液試料は、薬品、試薬、培地であることを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項6】
前記試料は血液試料であることを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項7】
前記血液試料は血漿であることを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項8】
前記グルコース-1-リン酸又は前記グルコース-6-リン酸を含む溶液を添加した前記血漿を加熱処理し、加熱処理した血漿に検出試薬を添加することを特徴とする請求項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項9】
前記グルコース-1-リン酸又は前記グルコース-6-リン酸を含む溶液中の前記グルコース-1-リン酸又は前記グルコース-6-リン酸の濃度を1 mM以上5 mM以下に調製することを特徴とする請求項乃至の何れか一に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項10】
グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度が1 mM以上25 mM以下である溶液であることを特徴とするエンドトキシンの測定用試薬。
【請求項11】
前記溶液中の前記グルコース-1-リン酸又は前記グルコース-6-リン酸の濃度が1 mM以上5 mM以下であることを特徴とする請求項10に記載のエンドトキシンの測定用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシン(内毒素)は、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分の1つであるリポ多糖(LPS)であり、血中にごく微量混入することでも、致死性ショックや発熱、汎発性血管内凝固(DIC)等を引き起こすことがある。このため、生体内に直接導入される注射剤等の医薬品や医療用具におけるエンドトキシンの汚染管理は重要な問題であり、日本薬局方にエンドトキシン試験法が規定され、厳密な管理が要求されている(非特許文献1)。一方、敗血症などの全身性細菌感染の結果として起こる炎症状態において、血液中に、原因菌の一つであるグラム陰性菌に由来するエンドトキシンが検出されることも知られており、血中エンドトキシンは、グラム陰性菌による敗血症診断の指標の一つとしても用いられる。
【0003】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁外膜の内側に配置されたリピドAと呼ばれる脂質部分と、外側に配置される糖鎖部分とに大別され、糖鎖部分は、リピドA側のコア多糖と外側に配置されるO抗原特異多糖により構成される。また、リピドAは一般にβ-1,6-ジグルコサミン骨格を有し、種々の脂肪酸が結合した構造を有する。エンドトキシンの活性の本体はリピドAであることが知られている。
【0004】
医薬品においてエンドトキシンを検出する方法については、従来からいくつもの方法が検討されてきていたが、現在、日本薬局方に規定されているエンドトキシン試験法は、カブトガニ(Limulus polyphemus又はTachypleus tridentatus)の血球抽出成分より調製されたライセート試薬(リムルス試薬)を用いて、カブトガニの凝固系を利用して、グラム陰性菌由来のエンドトキシンを検出又は定量する方法(リムルス試験)である。
【0005】
リムルス試験は、エンドトキシンの測定系として、簡易で高感度な測定方法であり、医薬品分野に限らず幅広い分野で用いられている。その原理は、エンドトキシンがライセート試薬中のC因子と結合することで活性型C因子が生成されることによりカスケード反応が引き起こされる。最終的にはコアギュリンが生成・蓄積することにより白濁およびゲル化が生じ、これを指標にエンドトキシンを検出あるいはエンドトキシン濃度を算出するものである。このようなカブトガニの凝固系を利用したリムルス試験は、検出法の違いによりいくつかの方法に分けられる。例えば、ライセート試薬のゲル形成を指標とするゲル化法及び光学的変化を指標とする光学的測定法がある。光学的測定法には、ライセート試薬のゲル化過程における濁度変化を指標とする比濁法、及びライセート試薬中の合成基質の加水分解による発色を指標とする比色法がある。これら3つの検出法は、日本薬局方にも収載されている他、国際的にも幅広く採用されている(非特許文献2)。
【0006】
しかしながら、リムルス試験にも問題点がある。問題の一つとして、測定対象物質中に含まれる物質によってエンドトキシンによるC因子の活性化が抑制又は促進される現象が報告されており、このような物質は反応干渉因子と呼ばれる。医薬製剤に対しリムルス試験を行う場合、製剤に含まれる添加剤や有効成分そのものが反応干渉因子となることもあり得、このような反応干渉因子の存在がリムルス試験の最も大きな問題の一つとなっている。このため、日本薬局方収載のエンドトキシン試験では、試料溶液について、反応を促進又は阻害する因子の有無を調べる、反応干渉因子試験を行うことが規定されている。この反応干渉因子試験において、試料溶液が適合しない場合、すなわち試料溶液に反応干渉作用が認められる場合には、試験溶液から反応干渉作用を除くための対策が必要となる。
【0007】
試験溶液から反応干渉作用を除くための方法としては、試料溶液を希釈する方法が最も一般的であり、さらに、例えば、緩衝液を用いて反応干渉因子を中和する方法(非特許文献3)や、低濃度の界面活性剤を用いて反応干渉因子を中和する方法が報告されている。しかし、反応干渉因子によってはこれらの方法では中和効果を示さない物質もあり、また界面活性剤はそれ自体がエンドトキシン活性に影響を与える物質のため、十分に満足のいく方法とは言い難い。また、緩衝液を用いる方法では、緩衝液により非特異的な濁りが生じることで、正確なエンドトキシンの測定が困難となる場合があり、やはり十分に満足のいく方法とは言い難い。
【0008】
一方、敗血症診断の検査項目の一つのとして血液中のエンドトキシン濃度測定を行う場合にも、リムルス試験が採用されているが、ここでもやはり反応干渉作用が大きな問題となっている。敗血症診断の検査における主要な測定対象物質である血漿には様々なタンパク質が存在している。エンドトキシンはこれら血漿中のタンパク質と特異的または非特異的に結合することにより、リムルス反応を促進又は阻害してしまう。現在、このような血漿中のタンパク質による反応干渉作用に対し、採取した血漿を注射用水または低濃度の界面活性剤を含む注射用水で10倍に希釈し、その希釈液を70〜80℃で10分間加熱した後にライセート試薬に添加する希釈加熱方法(非特許文献4)が広く用いられている。しかしながら、このような希釈加熱方法を用いた場合にも、反応干渉作用を十分に中和することは困難であり、反応干渉作用の影響で偽陰性と診断される可能性があるため、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】第十六改正日本薬局方、厚生労働省、平成23年3月24日、p79〜83
【非特許文献2】棚本憲一、国立衛研報 126、p 19-33、2008
【非特許文献3】Yuu Fujita ら、Analytical Biochemistry 409、p 46-53、2011
【非特許文献4】高橋淳吉、エンドトキシン研究 12、p113-118、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するものであって、反応干渉因子の影響を低減するエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によると、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を、試料に添加し、検出試薬を添加することを特徴とするエンドトキシンの測定方法が提供される。
【0012】
エンドトキシンの測定方法において、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を溶液として試料に添加してもよい。
【0013】
エンドトキシンの測定方法において、試料は非血液試料であってもよい。
【0014】
エンドトキシンの測定方法において、非血液試料は医薬品であってもよい。
【0015】
エンドトキシンの測定方法において、医薬品は医薬製剤、原薬、不活性添加物であることが好ましい。
【0016】
エンドトキシンの測定方法において、非血液試料は薬品、試薬、培地であってもよい。
【0017】
非血液試料のエンドトキシンの測定方法において、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む溶液のグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度は1 mM以上25 mM以下が好ましい。
【0018】
エンドトキシンの測定方法において、試料は血液試料であってもよい。
【0019】
エンドトキシンの測定方法において、血液試料は血漿であってもよい。
【0020】
エンドトキシンの測定方法において、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を添加した血漿を加熱処理し、加熱処理した血漿に検出試薬を添加してもよい。
【0021】
血液試料のエンドトキシンの測定方法において、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む溶液のグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度は1 mM以上5 mM以下が好ましい。
【0022】
また、本発明の一実施形態によると、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含むことを特徴とするエンドトキシンの測定用試薬が提供される。
【0023】
エンドトキシンの測定用試薬は、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む溶液であることが好ましい。
【0024】
非血液試料を試料とする場合、エンドトキシンの測定用試薬の溶液において、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度が1 mM以上25 mM以下が好ましい。
【0025】
血液試料を試料とする場合、エンドトキシンの測定用試薬の溶液において、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸が1 mM以上5 mM以下の濃度が好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、反応干渉因子の影響を低減するエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法が提供される。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法は、医薬品中のエンドトキシンや血液中のエンドトキシンの測定に利用することができる。また、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法は、薬品、試薬、培地等の実験材料中のエンドトキシンの測定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例に係るエンドトキシン測定の結果を示す図である。
図2】本発明の実施例に係るラット血漿中のエンドトキシン測定の結果を示す図である。
図3】本発明の実施例に係るヒト血漿中エンドトキシン測定の結果を示す図である。
図4】本発明の実施例に係る敗血症モデルラットの血漿中のエンドトキシン測定の結果を示す図である。
図5】本発明の実施例に係る測定用試薬を用いて測定した敗血症モデルラットの血漿中のエンドトキシンの濃度と注射用水を用いて測定した敗血症モデルラットの血漿中のエンドトキシンの濃度との比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法について説明する。但し、本発明のエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0029】
リムルス試験における反応干渉は、その作用機序の一つとして、反応干渉因子がエンドトキシンに直接的に作用するものがあり、そのような反応干渉因子としては、硫酸鉄、シプロフロキサシン及びエピルビシンなどが知られている。本発明者は、このようなエンドトキシンに直接的に作用する反応干渉因子の影響を低減する方法を鋭意検討しているなかで、エンドトキシンの活性の本体であるリピドAの構造に着目するに至り、更なる検討の結果、これらの反応干渉因子がエンドトキシンの活性中心であるリピドAのリン酸基を介して、リピドAのグリコシド結合及びエステル結合を切断することにより、エンドトキシンの活性低下などの干渉作用を示すことを見出した(Y. Fujita and T. Nabetani、Journal of Applied Microbiology 116、p 89-99、2014)。大腸菌(E. coli)のリピドAを構造式(1)に示す。
【化1】
【0030】
この知見に基づき、本発明者が更なる検討を行ったところ、リピドAのβ-1,6-ジグルコサミン骨格がリン酸化した構造に類似する化合物である、グルコース-1-リン酸(構造式2)及びグルコース-6-リン酸(構造式3)を用いることにより、反応干渉因子の影響を低減可能であることを初めて見出した。このような知見は、これまでに報告されていないものである。
【化2】
【0031】
本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬は、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む。エンドトキシンの測定用試薬は、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む溶液であることが好ましい。溶液の溶媒としては、エンドトキシンの活性に影響しないものが好ましく、例えば、エンドトキシンフリーの注射用水が挙げられる。また、エンドトキシンの活性に影響しない範囲で、一般に用いられる緩衝液を用いてもよい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、BES緩衝液等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた、エンドトキシンの測定方法における試料としては、例えば、医薬品等の非血液試料、血清や血漿等の血液試料が挙げられる。医薬品としては、医薬製剤、原薬、不活性添加物等が挙げられる。医薬製剤としては、特に注射剤が挙げられる。なお、本明細書において、医薬製剤には、アルブミン製剤、免疫グロブリン製剤、血液凝固因子製剤等も含まれる。また、非血液試料として、医薬品以外に、薬品、試薬、培地等を試料とすることができる。なお、本明細書において、薬品、試薬、培地には、アルブミンやペプトン、アミノ酸等の生体由来の物質を含んでもよい。試料としては、上記列挙したものに限定されるわけではなく、この他にも、エンドトキシン汚染がないことを厳格に求められるもの、例えば、エンドトキシンフリーの水、医療器具、実験器具等も試料とすることができる。
【0033】
(非血液試料中のエンドトキシンの測定方法)
本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた非血液試料、特に医薬品中のエンドトキシンの測定方法について説明する。医薬品としては、固体、半固体、液体等様々な状態があり得るが、液体の医薬品中のエンドトキシンを測定する場合は、そのまま又は注射用水等で希釈し、試料とすることができる。また、固体、半固体の医薬品中のエンドトキシンを測定する場合は、注射用水等に溶解、懸濁等の周知の方法でエンドトキシン測定に適した状態にすることによって、試料とすることができる。
【0034】
本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬の溶液は、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度が1mM以上25 mM以下であることが好ましい。1 mMより低い濃度では、反応干渉因子の影響を十分に低減することはできない。一方、25 mMより高濃度では、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸がC因子に作用して、エンドトキシンの測定結果に影響を及ぼす懸念がある。非血液試料中のエンドトキシンを測定する場合、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬のグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度を5 mMとすることが好ましい。
【0035】
グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を注射用水等に溶解して、本発明に係る測定用試薬を1 mM以上25 mM以下の濃度となるように調製する。試料を本発明に係る測定用試薬で希釈する。あるいは試料に測定用試薬を添加した後に、更に注射用水等で希釈してもよい。また、試料を注射用水等で希釈してから、測定用試薬を添加してもよい。試料の希釈倍率に特に制限はないが、リムルス試験の検出限界を考慮して任意に設定可能である。例えば、2倍以上10000倍以下が好ましい。
【0036】
測定用試薬を添加した試料に検出試薬を添加する。検出試薬としては、リムルス試験に用いるLimulus polyphemus又はTachypleus tridentatus由来の公知のライセート試薬を用いることができる。また、C因子等のリコンビナントを用いることも可能である。検出試薬を添加後、37℃で所定時間インキュベートし、反応液の透過光率を測定する。透過光率の測定及びエンドトキシンの算出は公知の方法を用いることができる。
【0037】
非血液試料中のエンドトキシン測定においては、日本薬局方に規定されたエンドトキシン試験法に適合する方法を用いればよい。なお、本発明に係るエンドトキシンの測定方法は、市販のエンドトキシン測定キット等と、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を組み合わせることにより行ってもよい。
【0038】
本発明においては、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を含む測定用試薬を試料に添加することにより、反応干渉因子がエンドトキシンの活性に影響を及ぼすのを抑制することができる。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬において、糖にリン酸基が付加した部分がリピドAと構造的に類似しており、反応干渉因子に対してリピドAのリン酸基の部分とグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸が拮抗することで、直接的に反応干渉を抑制すると推測される。このため、従来に比して高感度にエンドトキシンを検出するとともに、高精度に定量することが可能である。
【0039】
(血液試料中のエンドトキシンの測定方法)
本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた血液試料、特に血液中のエンドトキシンの測定方法について説明する。血液中のエンドトキシンを測定する場合には、血清又は血漿を試料として用いることができるが、血漿を試料とすることが好ましい。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬の溶液は、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度が1 mM以上5 mM以下であることが好ましい。1 mMより低い濃度では、反応干渉因子の影響を十分に低減することはできない。一方、5 mMより高濃度では、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸により血漿中のタンパク質の沈殿が生じ、沈殿による白濁がエンドトキシンの測定結果に影響を及ぼす懸念がある。血漿中のエンドトキシンを測定する場合、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬のグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸の濃度を2.5 mMとすることが好ましい。
【0040】
グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を注射用水等に溶解して、本発明に係る測定用試薬を1 mM以上5 mM以下の濃度となるように調製する。試料を本発明に係る測定用試薬で希釈する。あるいは試料に測定用試薬を添加した後に、更に注射用水等で希釈してもよい。また、試料を注射用水等で希釈してから、測定用試薬を添加してもよい。試料の希釈倍率に特に制限はないが、リムルス試験の検出限界を考慮して任意に設定可能である。例えば、10倍以上10000倍以下が好ましい。
【0041】
測定用試薬を添加した試料は、さらに加熱処理を行うことで、エンドトキシン測定の精度を高めることができる。例えば、ヒトの血漿を試料とする場合には、70〜80℃で10分間の加熱を行うことが好ましい。
【0042】
測定用試薬を添加した試料に検出試薬を添加する。検出試薬としては、リムルス試験に用いるLimulus polyphemus又はTachypleus tridentatus由来の公知のライセート試薬を用いることができる。また、C因子等のリコンビナントを用いることも可能である。検出試薬を添加後、37℃で所定時間インキュベートし、反応液の透過光率を測定する。透過光率の測定及びエンドトキシンの算出は公知の方法を用いることができる。
【0043】
本発明に係るエンドトキシンの測定方法を用いることにより、エンドトキシンの活性に対する反応干渉因子の影響を低減することができる。このため、従来に比して高感度にエンドトキシンを検出するとともに、高精度に定量することが可能である。
【0044】
なお、本発明に係るエンドトキシンの測定方法は、市販のエンドトキシン測定キット等と、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を組み合わせることにより行ってもよい。
【実施例】
【0045】
上述した本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法の具体的な測定結果を示して、より詳細に説明する。
【0046】
(反応干渉因子存在下におけるエンドトキシン回収率測定)
上述したように、硫酸鉄、シプロフロキサシン及びエピルビシンなどは、エンドトキシンに対する直接的な反応干渉作用を有する。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬による反応干渉作用の抑制効果について検討した。
【0047】
実験条件は下記のとおりである。
エンドトキシン標準品:E. coli UKT-B由来LPS
添加濃度:0.05 EU/mL
測定方法:ライセート試薬を用いた比濁法
ライセート試薬:カブトガニ血球抽出物ES-II 凍結乾燥品
測定機器:トキシノメーター ET-6000/J
検量線範囲:0.1-0.025 EU/mL
【0048】
注射用水でエンドトキシン溶液を調製した(A液)。20 mMのグルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を含む0.2 mM硫酸鉄(FeSO4)、2 mM塩化アルミニウム(AlCl3)、2 mM塩化ガリウム(GaCl3)、1 mMシプロフロキサシン(CPFX)、1 mMミノサイクリン(MINO)、0.05 mg/mLエピルビシン(Epirubicin)及び1 mg/mLイリノテカン(Irinotecan)の各溶液を調製した(B液)。A液及びB液を等量混合して、C液とした(G1P又はG6Pの最終濃度:10 mM)。C液をライセート試薬に添加し、37℃でインキュベートして、透過光率を測定し、エンドトキシンの回収率を算出した。
【0049】
比較例として、B液としてG1P又はG6Pの代わりに、注射用水(Water)、20mMグルコース溶液(Glu)、20mMリン酸緩衝液(PB)を用いて、同様に測定を行った。
【0050】
測定結果を図1に示す。図1は、グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた実施例と、注射用水、グルコース溶液及びリン酸緩衝液を用いた比較例について、反応干渉因子存在下におけるエンドトキシン回収率を示す。
【0051】
グルコース-1-リン酸(G1P)は、測定に用いたほとんどの反応干渉因子において、リン酸緩衝液と同等以上の反応干渉因子の抑制作用を示した。リン酸緩衝液は、多くの反応干渉因子に対して抑制作用を示すが、反応干渉因子としてエピルビシン(Epirubicin)又はイリノテカン(Irinotecan)を含む試料においては、リン酸緩衝液では干渉作用に対する抑制作用が著しく低くなった。しかし、本実施例のグルコース-1-リン酸(G1P)及びグルコース-6-リン酸(G6P)はエピルビシン(Epirubicin)又はイリノテカン(Irinotecan)の干渉作用に対しても優れた抑制作用を示した。グルコース-6-リン酸(G6P)は、グルコース-1-リン酸よりも抑制作用がわずかに低下するものの、反応干渉因子によるエンドトキシンへの干渉作用を抑制した。一方、G1PやG6Pと類似するグルコースでは反応干渉因子によるエンドトキシンへの干渉作用を抑制することはできなかった。この結果から、糖に付加したリン酸基が反応干渉因子に対してリピドAのリン酸基の部分と拮抗することにより、直接的に反応干渉を抑制することが推察される。
【0052】
本実施例においては、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、緩衝液と同等以上の中和効果が認められた。特に高い生理活性を有する抗がん剤においては緩衝液以上の中和効果を示しており、緩衝液で中和効果が不十分な物質に対してもより高い効果が期待できる。またグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、緩衝液を用いた場合に生じることがある非特異的な濁りを考慮する必要がないため、より幅広い物質で用いることが可能である。
【0053】
(血漿中エンドトキシン測定)
上述したように、血中エンドトキシン濃度測定を行う場合、エンドトキシンはタンパク質と特異的又は非特異的に結合することにより、反応干渉が生じる。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬による反応干渉作用の抑制効果について検討した。
【0054】
(ラット血漿での検討)
ラットの全血から遠心分離により血漿を分離し、エンドトキシン標準品を添加して、血中エンドトキシン濃度測定を行った。実験条件は下記のとおりである。
被験動物:SD系ラット オス 6週齢(体重200〜230g)
採血:ヘパリン採血し、氷冷
血漿分離:4℃で700×g、3分
エンドトキシン標準品:E. coli UKT-B由来LPS
添加濃度:0.0025 EU/mL
測定方法:ライセート試薬を用いた比濁法
ライセート試薬:リムルスES-II シングルテストワコー
測定機器:トキシノメーター ET-6000/J
定量下限:0.000625 EU/mL
【0055】
試料として血漿にエンドトキシン濃度が0.025 EU/mLとなるよう添加し、実施例として、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いて血漿を10倍に希釈した。また、比較例として、G1P又はG6Pの代わりに、注射用水(Water)、20mMグルコース溶液(Glu)、20mMリン酸緩衝液(PB)を用いて、同様に希釈した。希釈した血漿を75℃で10分間加熱した。ライセート試薬に添加後に37℃でインキュベートし、透過光率を測定した。
【0056】
測定結果を図2に示す。注射用水(Water)で10倍希釈した場合、エンドトキシン回収率が10%程度であったのに対し、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いることにより、エンドトキシン回収率が15%以上となった。特に、G6Pを添加した場合では、50%強の高い回収率を達成することができた。一方、リン酸緩衝液ではエンドトキシン回収率の改善効果は僅かであった。この結果は、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬が血漿中タンパク質による反応干渉作用を抑制することを示す。
【0057】
注射用水で10倍希釈後に75℃10分間加熱する従来技術と比較して、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬では、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、ラット血漿中タンパク質による干渉作用を中和し、エンドトキシンの回収率が改善されることが示された。
【0058】
(ヒト血漿での検討)
ヒトの血漿を用いて、同様の検討を行った。ヒトの全血から遠心分離により血漿を分離した。血漿にエンドトキシン濃度が0.025 EU/mLとなるよう添加し、実施例として、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いて血漿を10倍に希釈した。また、比較例として、G1P又はG6Pの代わりに、注射用水(Water)、2.5 mMグルコース溶液(Glu)、2.5 mMリン酸緩衝液(PB)を用いて、同様に希釈した。希釈した血漿を70℃で10分間加熱した。ライセート試薬に添加後に37℃でインキュベートし、透過光率を測定した。
【0059】
測定結果を図3に示す。注射用水で10倍希釈した場合、エンドトキシン回収率が45%程度であったのに対し、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いることにより、エンドトキシン回収率が55%以上となった。特に、G6Pを添加した場合では、75%の高い回収率を達成することができた。一方、リン酸緩衝液でもエンドトキシン回収率が若干改善したものの、G1P及びG6Pでの回収率には及ばなかった。この結果は、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬が血漿中タンパク質による反応干渉作用を抑制することを示す。
【0060】
注射用水で10倍希釈後に70℃10分間加熱する従来技術と比較して、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬では、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、ヒト血漿中タンパク質による干渉作用を中和し、エンドトキシンの高い回収率が得られることが示された。この結果から、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、高精度の血漿中エンドトキシン測定が可能となり、敗血症診断における偽陰性の抑制が期待できる。
【0061】
(in vivoでのエンドトキシン測定)
上述したように、in vitroでのエンドトキシン測定において、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬は反応干渉因子によるエンドトキシンへの干渉作用を有意に抑制した。次に、ラットを用いたin vivoでのエンドトキシン測定における干渉作用抑制効果について検討した。
【0062】
まず、敗血症モデルラットを作製した。実験条件は、以下の通りである。
被験動物:SD系ラット オス 6週齢(体重200〜230g)
敗血症モデル:盲腸結紮穿刺法(回腸側の盲腸端を結紮し、18G注射針で2ヶ所穿刺)
採血:処置4時間後にヘパリン採血し、氷冷
血漿分離:4℃で700×g、3分
希釈加熱:分離した血漿を注射用水又は2.5 mMグルコース-6-リン酸(G6P)で10倍希釈後、10分間加熱
測定方法:ライセート試薬を用いた比濁法
ライセート試薬:リムルスES-II シングルテストワコー
測定機器:トキシノメーター ET-6000/J
検量線用エンドトキシン:E. coli UKT-B由来LPS
定量下限:0.000625 EU/mL
【0063】
敗血症モデルラットの全血から遠心分離により血漿を分離した。分離した血漿を注射用水(Water)又は2.5 mMグルコース-6-リン酸(G6P)で10倍希釈後、75℃で10分間加熱し、ラット血漿中のエンドトキシンを測定した。図4は、敗血症モデルラットの血漿中のエンドトキシン測定の結果を示す図である。15匹のラットについて測定した結果、何れも、グルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、敗血症モデルラットの血漿においてもエンドトキシンの濃度が高い値を示した。この結果より、in vivoでも、グルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、試料中の反応干渉因子の影響を低減し、より高感度にエンドトキシン測定が可能であることが示された。
【0064】
図5に血漿中エンドトキシン濃度測定において、注射用水を用いて測定した場合と本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いて測定した場合との濃度の比較結果を示す。図5からも本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、全例において注射用水で希釈するよりも高い血中エンドトキシン濃度の値を示すことが明らかである。また、図5に示した2例(グラフ左下)については、注射用水(Water)での希釈を行った場合には、正常ラットの血漿中エンドトキシン濃度以下の値を示したが、グルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた場合には、正常ラットの血漿中エンドトキシン濃度以上の値を示しており、in vivoでも試料中の反応干渉因子の影響を低減し、偽陰性と判断される可能性の抑制が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5