【実施例】
【0045】
上述した本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬及びエンドトキシンの測定方法の具体的な測定結果を示して、より詳細に説明する。
【0046】
(反応干渉因子存在下におけるエンドトキシン回収率測定)
上述したように、硫酸鉄、シプロフロキサシン及びエピルビシンなどは、エンドトキシンに対する直接的な反応干渉作用を有する。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬による反応干渉作用の抑制効果について検討した。
【0047】
実験条件は下記のとおりである。
エンドトキシン標準品:E. coli UKT-B由来LPS
添加濃度:0.05 EU/mL
測定方法:ライセート試薬を用いた比濁法
ライセート試薬:カブトガニ血球抽出物ES-II 凍結乾燥品
測定機器:トキシノメーター ET-6000/J
検量線範囲:0.1-0.025 EU/mL
【0048】
注射用水でエンドトキシン溶液を調製した(A液)。20 mMのグルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を含む0.2 mM硫酸鉄(FeSO
4)、2 mM塩化アルミニウム(AlCl
3)、2 mM塩化ガリウム(GaCl
3)、1 mMシプロフロキサシン(CPFX)、1 mMミノサイクリン(MINO)、0.05 mg/mLエピルビシン(Epirubicin)及び1 mg/mLイリノテカン(Irinotecan)の各溶液を調製した(B液)。A液及びB液を等量混合して、C液とした(G1P又はG6Pの最終濃度:10 mM)。C液をライセート試薬に添加し、37℃でインキュベートして、透過光率を測定し、エンドトキシンの回収率を算出した。
【0049】
比較例として、B液としてG1P又はG6Pの代わりに、注射用水(Water)、20mMグルコース溶液(Glu)、20mMリン酸緩衝液(PB)を用いて、同様に測定を行った。
【0050】
測定結果を
図1に示す。
図1は、グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた実施例と、注射用水、グルコース溶液及びリン酸緩衝液を用いた比較例について、反応干渉因子存在下におけるエンドトキシン回収率を示す。
【0051】
グルコース-1-リン酸(G1P)は、測定に用いたほとんどの反応干渉因子において、リン酸緩衝液と同等以上の反応干渉因子の抑制作用を示した。リン酸緩衝液は、多くの反応干渉因子に対して抑制作用を示すが、反応干渉因子としてエピルビシン(Epirubicin)又はイリノテカン(Irinotecan)を含む試料においては、リン酸緩衝液では干渉作用に対する抑制作用が著しく低くなった。しかし、本実施例のグルコース-1-リン酸(G1P)及びグルコース-6-リン酸(G6P)はエピルビシン(Epirubicin)又はイリノテカン(Irinotecan)の干渉作用に対しても優れた抑制作用を示した。グルコース-6-リン酸(G6P)は、グルコース-1-リン酸よりも抑制作用がわずかに低下するものの、反応干渉因子によるエンドトキシンへの干渉作用を抑制した。一方、G1PやG6Pと類似するグルコースでは反応干渉因子によるエンドトキシンへの干渉作用を抑制することはできなかった。この結果から、糖に付加したリン酸基が反応干渉因子に対してリピドAのリン酸基の部分と拮抗することにより、直接的に反応干渉を抑制することが推察される。
【0052】
本実施例においては、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、緩衝液と同等以上の中和効果が認められた。特に高い生理活性を有する抗がん剤においては緩衝液以上の中和効果を示しており、緩衝液で中和効果が不十分な物質に対してもより高い効果が期待できる。またグルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、緩衝液を用いた場合に生じることがある非特異的な濁りを考慮する必要がないため、より幅広い物質で用いることが可能である。
【0053】
(血漿中エンドトキシン測定)
上述したように、血中エンドトキシン濃度測定を行う場合、エンドトキシンはタンパク質と特異的又は非特異的に結合することにより、反応干渉が生じる。本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬による反応干渉作用の抑制効果について検討した。
【0054】
(ラット血漿での検討)
ラットの全血から遠心分離により血漿を分離し、エンドトキシン標準品を添加して、血中エンドトキシン濃度測定を行った。実験条件は下記のとおりである。
被験動物:SD系ラット オス 6週齢(体重200〜230g)
採血:ヘパリン採血し、氷冷
血漿分離:4℃で700×g、3分
エンドトキシン標準品:E. coli UKT-B由来LPS
添加濃度:0.0025 EU/mL
測定方法:ライセート試薬を用いた比濁法
ライセート試薬:リムルスES-II シングルテストワコー
測定機器:トキシノメーター ET-6000/J
定量下限:0.000625 EU/mL
【0055】
試料として血漿にエンドトキシン濃度が0.025 EU/mLとなるよう添加し、実施例として、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いて血漿を10倍に希釈した。また、比較例として、G1P又はG6Pの代わりに、注射用水(Water)、20mMグルコース溶液(Glu)、20mMリン酸緩衝液(PB)を用いて、同様に希釈した。希釈した血漿を75℃で10分間加熱した。ライセート試薬に添加後に37℃でインキュベートし、透過光率を測定した。
【0056】
測定結果を
図2に示す。注射用水(Water)で10倍希釈した場合、エンドトキシン回収率が10%程度であったのに対し、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いることにより、エンドトキシン回収率が15%以上となった。特に、G6Pを添加した場合では、50%強の高い回収率を達成することができた。一方、リン酸緩衝液ではエンドトキシン回収率の改善効果は僅かであった。この結果は、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬が血漿中タンパク質による反応干渉作用を抑制することを示す。
【0057】
注射用水で10倍希釈後に75℃10分間加熱する従来技術と比較して、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬では、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、ラット血漿中タンパク質による干渉作用を中和し、エンドトキシンの回収率が改善されることが示された。
【0058】
(ヒト血漿での検討)
ヒトの血漿を用いて、同様の検討を行った。ヒトの全血から遠心分離により血漿を分離した。血漿にエンドトキシン濃度が0.025 EU/mLとなるよう添加し、実施例として、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いて血漿を10倍に希釈した。また、比較例として、G1P又はG6Pの代わりに、注射用水(Water)、2.5 mMグルコース溶液(Glu)、2.5 mMリン酸緩衝液(PB)を用いて、同様に希釈した。希釈した血漿を70℃で10分間加熱した。ライセート試薬に添加後に37℃でインキュベートし、透過光率を測定した。
【0059】
測定結果を
図3に示す。注射用水で10倍希釈した場合、エンドトキシン回収率が45%程度であったのに対し、2.5 mM グルコース-1-リン酸(G1P)又はグルコース-6-リン酸(G6P)を用いることにより、エンドトキシン回収率が55%以上となった。特に、G6Pを添加した場合では、75%の高い回収率を達成することができた。一方、リン酸緩衝液でもエンドトキシン回収率が若干改善したものの、G1P及びG6Pでの回収率には及ばなかった。この結果は、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬が血漿中タンパク質による反応干渉作用を抑制することを示す。
【0060】
注射用水で10倍希釈後に70℃10分間加熱する従来技術と比較して、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬では、グルコース-1-リン酸又はグルコース-6-リン酸を用いることにより、ヒト血漿中タンパク質による干渉作用を中和し、エンドトキシンの高い回収率が得られることが示された。この結果から、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、高精度の血漿中エンドトキシン測定が可能となり、敗血症診断における偽陰性の抑制が期待できる。
【0061】
(in vivoでのエンドトキシン測定)
上述したように、in vitroでのエンドトキシン測定において、本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬は反応干渉因子によるエンドトキシンへの干渉作用を有意に抑制した。次に、ラットを用いたin vivoでのエンドトキシン測定における干渉作用抑制効果について検討した。
【0062】
まず、敗血症モデルラットを作製した。実験条件は、以下の通りである。
被験動物:SD系ラット オス 6週齢(体重200〜230g)
敗血症モデル:盲腸結紮穿刺法(回腸側の盲腸端を結紮し、18G注射針で2ヶ所穿刺)
採血:処置4時間後にヘパリン採血し、氷冷
血漿分離:4℃で700×g、3分
希釈加熱:分離した血漿を注射用水又は2.5 mMグルコース-6-リン酸(G6P)で10倍希釈後、10分間加熱
測定方法:ライセート試薬を用いた比濁法
ライセート試薬:リムルスES-II シングルテストワコー
測定機器:トキシノメーター ET-6000/J
検量線用エンドトキシン:E. coli UKT-B由来LPS
定量下限:0.000625 EU/mL
【0063】
敗血症モデルラットの全血から遠心分離により血漿を分離した。分離した血漿を注射用水(Water)又は2.5 mMグルコース-6-リン酸(G6P)で10倍希釈後、75℃で10分間加熱し、ラット血漿中のエンドトキシンを測定した。
図4は、敗血症モデルラットの血漿中のエンドトキシン測定の結果を示す図である。15匹のラットについて測定した結果、何れも、グルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、敗血症モデルラットの血漿においてもエンドトキシンの濃度が高い値を示した。この結果より、in vivoでも、グルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、試料中の反応干渉因子の影響を低減し、より高感度にエンドトキシン測定が可能であることが示された。
【0064】
図5に血漿中エンドトキシン濃度測定において、注射用水を用いて測定した場合と本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いて測定した場合との濃度の比較結果を示す。
図5からも本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いることにより、全例において注射用水で希釈するよりも高い血中エンドトキシン濃度の値を示すことが明らかである。また、
図5に示した2例(グラフ左下)については、注射用水(Water)での希釈を行った場合には、正常ラットの血漿中エンドトキシン濃度以下の値を示したが、グルコース-6-リン酸(G6P)を含む本発明に係るエンドトキシンの測定用試薬を用いた場合には、正常ラットの血漿中エンドトキシン濃度以上の値を示しており、in vivoでも試料中の反応干渉因子の影響を低減し、偽陰性と判断される可能性の抑制が期待できる。