特許第6358943号(P6358943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358943
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】運動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20180709BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   F16C29/06
   F16C33/66 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-251164(P2014-251164)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2016-114097(P2016-114097A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学
(72)【発明者】
【氏名】堀江 拓也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 衣梨子
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−79716(JP,A)
【文献】 特開2008−89045(JP,A)
【文献】 特開昭49−34643(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/074754(WO,A1)
【文献】 特開平7−317761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00− 31/06
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、
前記転動体が前記軌道レールの転走面との間で荷重を負荷しながら転走する複数の負荷通路を有すると共に、各負荷通路の一端から他端へと転動体を循環させる無負荷通路を複数有して前記軌道レールに沿って移動自在な移動ブロックと、
前記移動ブロックに貫通形成され、当該移動ブロックの外部から前記軌道レールに面した位置へ潤滑剤を供給する導入路と、
前記導入路の軌道レール側の出口と対向する位置で前記移動ブロックに固定され、前記導入路から送出された潤滑剤を前記各負荷通路の複数個所に対して供給する分散供給プレートと、を備え、
前記分散供給プレートは、
断面積が互いに異なる第一供給路及び第二供給路と、
前記移動ブロックの導入路から送出された潤滑剤を前記第一供給路又は第二供給路のいずれか一方へ選択的に導く分配片と、
を有することを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
前記分散供給プレートは二枚の板を重ねて貼り合わせてなり、貼り合わせ面に前記第一供給路及び第二供給路が互いに交わることなく設けられていることを特徴とする請求項1記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記分散供給プレートは三枚の板を重ねて貼り合わせてなり、一対の貼り合わせ面のうち、一方の貼り合わせ面に前記第一供給路が設けられ、他方の貼り合わせ面に前記第二供給路が設けられていることを特徴とする請求項1記載の運動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のワークテーブルや各種搬送装置の直線案内部あるいは曲線案内部において、テーブル等の可動体を往復動自在に案内する運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の運動案内装置は、軸方向に沿ってボールやローラ等の転動体の転走面が形成された軌道レールと、前記転走面を転走する多数の転動体を介して前記軌道レールに組み付けられると共に当該軌道レールに沿って往復動自在な移動ブロックと、を備えている。前記移動ブロックは転動体の無限循環路を有しており、転動体が無限循環路内を循環することにより移動ブロックは前記軌道レールに沿ってストロークを制限されることなく移動することが可能となっている。前記無限循環路は、転動体が前記移動ブロックと軌道レールとの間で荷重を負荷しながら転走する負荷通路と、この負荷通路と平行して設けられると共に前記転動体が荷重から解放された状態で転走する無負荷通路と、これら負荷通路と無負荷通路を繋ぐ方向転換路とから構成されている。
【0003】
このように構成された運動案内装置では、その使用にあたり、前記転動体そのものの摩耗や前記軌道レールの転走面の摩耗を防ぐために、前記軌道レール又は移動ブロックに対してグリースやオイルといった潤滑剤を定期的に供給する必要がある。ここで、オイルとは摺動面油又はタービン油、ISOVG32〜68等の液体状の潤滑油であり、グリースとはこのオイルに増ちょう剤を含有させたものであり、ゲル状で粘性の高いものである。
【0004】
潤滑剤の供給方法としては、前記移動ブロック内の無負荷通路又は方向転換路に対して当該移動ブロックの外部からグリース又はオイルを供給し、当該無負荷通路又は方向転換路の内部を通過する転動体に対して潤滑剤を付着させる方法が知られている。この方法では転動体に付着した潤滑剤が当該転動体の循環に伴って軌道レールの転走面に運ばれ、軌道レールの転走面は転動体を介して間接的に潤滑されている。その反面、この方法では軌道レールに対する移動ブロックの往復動の移動距離が短い場合に、無負荷通路において潤滑剤の付着した転動体が負荷通路にまで至らないことがあり、軌道レールの転走面に潤滑剤を付着させることができない懸念がある。
【0005】
一方、特許文献1には負荷通路を転走する転動体に対して潤滑剤を付着させるようにした運動案内装置が開示されている。この運動案内装置では、軌道レールに面した移動ブロックの内側に板状の油路形成部材を固定し、負荷通路を転走する転動体に対して前記油路形成部材から潤滑剤を供給している。前記移動ブロックには前記油路形成部材まで潤滑剤を送り込む導入路が設けられており、前記油路形成部材に対しては外部から潤滑剤を供給することが可能となっている。また、前記油路形成部材の一面には潤滑剤の供給路となる溝が設けられており、当該面を移動ブロックに密着させるようにして前記油路形成部材を移動ブロックに固定することで、前記移動ブロックの導入路から分岐した複数の供給路が前記油路形成部材と移動ブロックとの間に形成され、軌道レールの転走面を転がっている複数の転動体に対して数カ所から直接的に潤滑剤を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−79716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
使用する潤滑剤の種類は運動案内装置の使用環境によって変更され、例えば工作機械などのクーラントが飛散する環境ではオイルが用いられ、軌道レールに対して移動ブロックを高速で移動させる環境ではグリースが用いられる。前述の如く、前記グリースがゲル状であるのに対してオイルは液体状であり、両者の性質は異なる。このため、潤滑剤としてグリースを使用する場合には供給路の断面積を広く、潤滑剤としてオイルを使用する場合には供給路の断面積を狭くする必要がある。
【0008】
しかし、特許文献1の油路形成部材ではオイル又はグリースのいずれか一方にしか対応することができず、例えばグリースの使用を想定して前記供給路の断面積を設定すると、潤滑剤としてグリースではなくオイルを使用した場合に、当該オイルが過剰に供給されてしまう結果を招く。また、オイルの使用を想定して前記供給路の断面積を設定すると、潤滑剤としてグリースを使用した場合に、当該グリースが供給路内を流動し難くなり、転動体に対して潤滑剤を十分に供給できない結果を招く。
【0009】
特に、特許文献1の油路形成部材には供給路としての溝のみが形成されており、かかる油路形成部材を移動ブロックに固定することによって供給路が形成されるので、断面積の小さな供給路に対して強制的にグリースを注入すると、油路形成部材と移動ブロックの当接面からグリースが漏れ出す懸念がある。この点においても転動体に対して潤滑剤を十分に供給できないおそれがある。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、軌道レールに対する移動ブロックの往復動の距離が短い場合であっても当該軌道レールの転走面を確実に潤滑することが可能であると共に、潤滑剤としてオイル又はグリースのいずれも選択的に使用することが可能であり、これら潤滑剤を転動体及び軌道レールの転走面に対して確実に供給することが可能な運動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転動体が前記軌道レールの転走面との間で荷重を負荷しながら転走する複数の負荷通路を有すると共に、各負荷通路の一端から他端へと転動体を循環させる無負荷通路を複数有して前記軌道レールに沿って移動自在な移動ブロックと、前記移動ブロックに貫通形成され、当該移動ブロックの外部から前記軌道レールに面した位置へ潤滑剤を供給する導入路と、前記導入路の軌道レール側の出口と対向する位置で前記移動ブロックに固定され、前記導入路から送出された潤滑剤を各負荷通路の複数個所に対して供給する分散供給プレートと、を備えた運動案内装置であり、前記分散供給プレートは、断面積が互いに異なる第一供給路及び第二供給路と、前記移動ブロックの導入路から送出された潤滑剤を前記第一供給路又は第二供給路のいずれか一方へ選択的に導く切り換え部材と、を有している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記分散供給プレートは前記導入路から供給された潤滑剤を転動体の負荷通路の複数個所に対して供給するので、軌道レールに対する移動ブロックの往復動の距離が短い場合であっても、転動体を介して軌道レールの転走面を確実に潤滑することができる。また、前記分散供給プレートには断面積の異なる二つの供給路が形成されており、切り換え部材の設定によって、前記導入路から送出された潤滑剤をいずれか一方の供給路にのみ選択的に導くことができるので、流動性の異なるオイル又はグリースのいずれを潤滑剤として使用する場合であっても、前記転動体及び軌道レ―ルの転走面に対して確実に潤滑剤を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用した運動案内装置の一例を示す斜視図である。
図2図1に示す運動案内装置において移動ブロックからエンドプレートを取り除いた状態を示す正面図である。
図3】本発明の分散供給プレートの第一実施形態を示す分解斜視図である。
図4】本発明の分散供給プレートの第二実施形態を示す分解斜視図である。
図5】第二実施形態の分散供給プレートに用いるグリース用分配片を示す斜視図である。
図6】第二実施形態の分散供給プレートに用いるオイル用分配片を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を用いて本発明の運動案内装置を詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明を適用した運動案内装置の一例を示すものである。この運動案内装置は、直線状に延びる軌道レール1と、転動体としての多数のボール5を介して前記軌道レール1に組付けられた移動ブロック2とから構成されており、例えば工作機械のベッドやコラム等の固定部に対して前記軌道レール1を敷設し、前記移動ブロック2に対して各種の搬送対象物を搭載することで、かかる搬送対象物を軌道レール1に沿って僅かな運動抵抗のみで案内することができるようになっている。
【0016】
前記軌道レール1は長手方向に直交する断面が略四角形状に形成されている。この軌道レール1には長手方向に沿って所定の間隔で上面から底面に貫通するボルト取付け孔12が形成されており、このボルト取付け孔12に挿入した固定ボルトを用いて、軌道レール1をベッド、コラム等の固定部に対して強固に固定することができるようになっている。また、この軌道レール1の左右両側面には長手方向に沿って突部10がそれぞれ設けられている。各突部10の上下には一対のボール5の転走面11が設けられ、軌道レール1の全体としては4条のボール転走面11が設けられている。
【0017】
一方、前記移動ブロック2は、ブロック本体3と、前記軌道レール1に対する前記ブロック本体3の移動方向の両端に装着される一対のエンドプレート4とから構成されている。各エンドプレート4の外側にはシール部材40が装着されており、該シール部材40がエンドプレート4と軌道レール1との隙間を密封し、軌道レール1に付着した塵芥などが移動ブロック2の内部に侵入するのを防止している。
【0018】
図2は、前記軌道レール1に対する前記移動ブロック2の組み付け状態を示す正面図であり、説明の便宜上、前記移動ブロック2から前記エンドプレート4を取り除いて示してある。前記ブロック本体3は、前記搬送対象物の取付け面21を有する支持部3aと、軌道レール1の両側面に対向すると共に前記支持部3aと一体に形成された一対のスカート部3bとを有している。前記支持部3a及び一対のスカート部3bによって三方から囲まれた空間は、前記軌道レール1の上半分を収容する溝となっている。図1に示すように、前記エンドプレート4はこのブロック本体3の端部に装着されることから、かかるブロック本体3と略同一の形状に形成されている。また、前記ブロック本体3の支持部3aにはタップ穴20が設けられ、前記取付け面21に対して搬送対象物をボルトで固定することができる。
【0019】
前記軌道レール1に面したスカート部3bの内側には当該軌道レール1の転走面11に対向するボール5の負荷転走面30が設けられており、これら負荷転走面30と軌道レール1の転走面11とが対向することにより、ボール5が軌道レール1と移動ブロック2との間で荷重を負荷しながら転走する負荷通路31が構成されるようになっている。前記負荷転走面30は各スカート部3bの内側面に2条ずつ設けられ、前記ブロック本体3には4条の負荷通路31が設けられている。また、各スカート部3bには各負荷通路31に対応して当該負荷通路31と略平行にボール戻し通路32が設けられている。このボール戻し通路32の内径は、ボール5の直径よりも僅かに大きく設定されており、前記ボール5は荷重から開放された状態でこのボール戻し通路32内を転走する。
【0020】
各ボール戻し通路32は前記エンドプレート4に設けられた方向転換路44によって対応する負荷通路31と接続されている。図2中において前記負荷通路31と前記ボール戻し通路32との間に描かれた破線はこの方向転換路44を示している。各エンドプレート4には前記ブロック本体3に形成された4条の負荷転走面30に対応して4つの方向転換路44が設けられている。従って、前記ブロック本体3の軌道レール1に対する移動方向の両端面のそれぞれに前記エンドプレート4を装着すると、当該ブロック本体3に形成された負荷通路31及びボール戻し通路32の端部同士が前記方向転換路44によって連結され、前記ボール5の無限循環路が完成する。
【0021】
前記無限循環路内において、ボール5は前記負荷通路31において荷重を負荷しながら前記軌道レールのボール転走面と前記ブロック本体の負荷転走面を転走し、当該負荷転走面を転走し終えると、一方のエンドプレート4の方向転換路44に入り込んで荷重から開放される。その後、ボール5は方向転換路44からボール戻し通路32へ進入して、当該ボール戻し通路32内を前記負荷通路31における転走方向逆方向へ転走し、他方のエンドプレート4の方向転換路44を経て、再び負荷通路31に戻されて軌道レール1のボール転走面11と前記ブロック本体3の負荷転走面30との間で荷重を負荷する。
【0022】
これにより、前記移動ブロック2は前記無限循環路内におけるボール5の転動に伴って前記軌道レール1に沿って自在に移動可能であり、前記取付け面21に搭載した搬送対象物を軌道レール1に沿って案内することができる。
【0023】
尚、図2中において、符号33は前記エンドプレート4の固定に用いるタップ穴、符号34は軌道レール1の側面とブロック本体3のスカート部3bとの間を密封するシール部材である。
【0024】
図1に示す運動案内装置では前記無限循環路内を転走するボール同士の相互摩擦を軽減するため、互いに隣接するボール5とボール5との間にスペーサ6が挿入されている。しかし、スペーサ6を省略し、前記無限循環路内にボールのみを配列しても差し支えない。また、図1に示す運動案内装置では本発明の転動体としてボールを用いた例を説明しているが、かかる転動体はローラであっても差し支えない。
【0025】
図1及び図2で示した運動案内装置においては、前記負荷通路31を転走中のボール5に対して潤滑剤を供給するため、分散供給プレート7が前記ブロック本体3の支持部3aと前記軌道レール1との隙間に設けられている。前記軌道レール1に対する前記移動ブロック2の移動距離が短い場合、前記ボール5は無限循環路を一巡することなく負荷通路31を往復動することがあり、前記負荷通路31を転走しているボール5に対して潤滑剤を付着させると、その場合であってもボール5に付着した潤滑剤を負荷転走面30に対して万遍なく付着させることが可能となる。
【0026】
前記分散供給プレート7へ潤滑剤を導くため、前記ブロック本体3の支持部3aには導入路70が設けられている。この導入路70は前記支持部3aを貫通するように設けられて前記分散供給プレート7の取付け位置まで延びており、前記移動ブロック2の外部から当該導入路70を介して前記分散供給プレート7へ潤滑剤を供給することが可能である。
【0027】
図3は前記分散供給プレート7の詳細を示す分解斜視図である。前記分散供給プレート7は潤滑剤としてのオイル又はグリースの双方に対応している。グリースはオイルに増ちょう剤を添加したものであり、オイルに比べて流動性が劣る。このため、前記分散供給プレート7はその内部に断面積の異なる2系統の供給路、すなわちグリースに対応した第一供給路71及びオイルに対応した第二供給路72を備えており、潤滑剤の種類に応じてこれら第一供給路71と第二供給路72とを使い分けることができる。これら第一供給路71と第二供給路72は互いに交わることなく同一平面内に設けられている。また、前記第一供給路71は前記第二供給路72に比べて断面積が大きく、流動性の低いグリースであっても当該第一供給路71内を確実に先端まで流動することができる。これとは逆に、グリースに比べて流動性の良好なオイルについては、第一供給路71に比べて断面積の小さな第二供給路72を使用することで、当該オイルの過剰な供給を防止することができる。
【0028】
前記分散供給プレート7は第一プレート73及び第二プレート74を貼り合わせ、これらプレート73,74の間に前記第一供給路71及び第二供給路72を設けたものである。一方の第一プレート73には各供給路71,72に対応した複数の溝が設けられ、これら溝を塞ぐようにして第一プレート73と第二プレート74とを貼り合わせることで、2枚のプレートの間に前記第一供給路71及び第二供給路72が完成する。
【0029】
前記第一プレート73には前記ブロック本体3の導入路70に対応した位置に受け入れ孔75が貫通している。この受け入れ孔75は前記第二プレート74によって塞がれており、結果として前記分散供給プレート7には前記導入路70に対応した位置に潤滑剤を受け入れるための凹所が存在する。前記第一供給路71及び第二供給路72はその一端が前記受け入れ孔75に開口しており、他端は前記負荷通路31と対向する分散供給プレート7の長辺7aに開口して潤滑剤の吐出口を形成している。このため、前記ブロック本体3の導入路70から前記分散供給プレート7の受け入れ孔75に供給された潤滑剤は、かかる受け入れ孔75から第一供給路71又は第二供給路72に流入し、各供給路を流動した後に分散供給プレート7の長辺から押し出されて、前記負荷通路31を転走するボール5に対して直接的に供給される。
【0030】
前記受け入れ孔75には、潤滑剤としてグリースを使用する場合に対応したグリース用分配片76、オイルを使用する場合に対応したオイル用分配片77のいずれか一方が嵌合する。前記グリース用分配片76には前記第一供給路71と同じ断面積の接続路76aが設けられると共に、前記ブロック本体3の導入路70から前記接続路76aにグリースを導く貫通孔76bが設けられている。また、前記オイル用分配片77には前記第二供給路72と同じ断面積の接続路77aが設けられると共に、前記ブロック本体3の導入路70から前記接続路77aにオイルを導く貫通孔77bが設けられている。前記グリース用分配片76に設けられた貫通孔76bの内径は前記ブロック本体3の導入路70の内径と略同じであるが、オイル用分配片77に設けられた貫通孔77bの内径は前記導入路70の内径よりも小さく設定されており、かかる貫通孔77bによって前記分散供給プレート7に取り込まれるオイルの量が制限されている。前記ブロック本体3に設けられた導入路70はグリース及びオイルのいずれにも対応可能な内径、すなわちグリースの使用を想定した内径に形成されているが、前記分散供給プレート7ではグリース用の第一供給路71とオイル用の第二供給路72とを使い分けるため、かかるオイル用分配片77に潤滑剤の流量を制限する機能を与えている。
【0031】
また、前記第一供給路71と第二供給路72は前記受け入れ孔75に対して異なる方向から接続されており、グリース用分配片76又はオイル用分配片77のいずれか一方を前記受け入れ孔75に嵌合させるに当たってはその向きを異ならせる必要がある。例えばグリース用分配片76を嵌合させるのであれば、接続路76aが第一供給路71と接続されるように嵌合させ、あるいはオイル用分配片77を嵌合させるのであれば、接続路77aが第二供給路72と接続されるように嵌合させる。これにより、前記分散供給プレート7に内蔵された第一供給路71及び第二供給路72のうちから、潤滑剤の種類に応じた最適な供給路を選択することが可能となる。
【0032】
前記分散供給プレート7はその長手方向の両端に設けられた保持部78が前記一対のエンドプレート4によって保持される。すなわち、前記ブロック本体3の両端に一対のエンドプレート4を固定すると、前記分散供給プレート7はこれらエンドプレート4によって挟持されて前記ブロック本体3の支持部3aに対して位置決めされ、前記分散供給プレート7の受け入れ孔75に嵌合した分配片76(又は77)と前記導入路70が正対する。前記支持部3aと分散供給プレート7との間から潤滑剤が漏れだすのを防止するため、前記分配片76(又は77)とブロック本体3との間にはOリング、パッキング等のリング状の密封部材79が挟み込まれる。
【0033】
以上のように構成された本実施形態の運動案内装置では、前記移動ブロック2の導入路70から供給した潤滑剤が、前記分散供給プレート7の内部に設けられた供給路71,72を通じて、負荷通路31を転走しているボール5に対して直接的に供給されることになる。これにより、前記軌道レール1に対する移動ブロック2の往復動距離が短い場合であっても、ボール5に供給された潤滑剤を軌道レール1のボール転走面11又は移動ブロック2の負荷転走面30に対して確実に付着させることが可能となる。
【0034】
また、前記分散供給プレート7は互いに断面積の異なる第一供給路71及び第二供給路72を有しており、前記グリース用分配片76又はオイル用分配片77のいずれかを選択して前記分散供給プレート7に装着することで、使用する潤滑剤の種類に応じた最適な供給路を選択することができる。このため、潤滑剤としてグリースを使用する場合であれば、かかるグリースを確実に前記第一供給路71の先端にまで到達させて、前記負荷通路31を転走するボール5に対してグリースを付着させることが可能となる。一方、潤滑剤としてオイルを使用する場合であれば、断面積が小さな第二供給路72を選択することで、当該オイルが過剰にボール5に対して供給される無駄を防止することが可能となる。
【0035】
更に、前記分散供給プレート7はその内部に前記第一供給路71及び第二供給路72を内蔵しているので、前記移動ブロック2に設けられた導入路70と前記分散供給プレート7に装着される分配片76(又は77)との間の密封性のみ配慮すれば、たとえ高圧で潤滑剤を前記導入路70に供給したとしても、前記分散供給プレート7とブロック本体3のとの隙間から潤滑剤が漏出してしまうことはなく、この点においても前記負荷通路31を転走するボール5に対して潤滑剤を十分に供給することが可能となる。
【0036】
図4は前記分散供給プレートの他の実施形態を示す分解斜視図である。
【0037】
図3に示した分散供給プレート7は、第一プレート73と第二プレート74を貼り合わせ、前記第一プレート73にのみ前記第一供給路71及び第二供給路72となる溝を形成した。しかし、図4に示す分散供給プレート8は第一プレート80、第二プレート81及び第三プレート82からなる三枚の板材を貼り合わせて、一対の貼り合わせ面のうち、一方の貼り合わせ面にグリース用の第一供給路83を、他方の貼り合わせ面にオイル用の第二供給路84を形成している。前記第一プレート80には前記第一供給路83となる溝のみが形成され、前記第二供給路84となる溝は第三プレート82に形成されている。すなわち、前記第二プレート81を挟んで第一プレート80側には前記第一供給路83が、第三プレート側には第二供給路84が存在している。
【0038】
前記第一プレート80及び第二プレート81には前記ブロック本体3の導入路70に対応した位置に受け入れ穴85,86が貫通している。第一プレート80の受け入れ穴85は前記第一供給路83と接続されている。一方、前記第三プレート82には前記受け入れ穴85,86と重なる位置に受け入れ溝87が設けられており、この受け入れ溝87は前記第二供給路84と接続されている。従って、三枚のプレートを重ね合わせると、前記受け入れ孔85,86と前記受け入れ溝87とが組み合わさって、前記ブロック本体3の導入路70に対応した位置に潤滑剤を受け入れるための凹所が形成され、前記第一供給路及び第二供給路はこの凹所と接続された状態となる。
【0039】
図5及び図6は前記分散供給プレート8の凹所に嵌合する分配片を示すものであり、図5はグリース用分配片88を、図6はオイル用分配片89を示している。潤滑剤としてグリース又はオイルのいずれを使用するかに応じて、グリース用分配片88又はオイル用分配片89のいずれか一方が前記凹所に嵌合する。
【0040】
前記グリース用分配片88には前記第一供給路83と同じ断面積の接続路88aが設けられると共に、前記ブロック本体3の導入路70から前記接続路88aにグリースを導く接続溝88bが設けられている。このグリース用分配片88は二枚の板材88c,88dを貼り合わせて形成されており、前記接続路88a及び接続溝88bは一方の板材88cに形成されている。前記板材88dの厚さは、前記第二プレートの受け入れ穴86と前記第三プレートの受け入れ溝87とを重ねた深さに設定されており、前記グリース用分配片88を分散供給プレート8に嵌合させると、前記板材88cに形成された接続路88aが前記第一プレート80の受け入れ孔85の内部で第一供給路83と正対し、前記ブロック本体3の導入路70に供給されたグリースが前記接続路88aを介して第一供給路83に流動するようになっている。
【0041】
一方、前記オイル用分配片89には前記第二供給路84と同じ断面積の接続路89aが設けられると共に、前記ブロック本体3の導入路70から前記接続路89aにグリースを導く貫通孔89bが設けられている。前記接続路89aは当該オイル用分配片の底面に設けられているので、かかるオイル用分配片を前記分散供給プレートに嵌合させた場合、前記第一プレート80の受け入れ孔85に開口する前記第一供給路83は前記オイル用分配片89によって塞がれ、第三プレートの受け入れ溝87に開口する第二供給のみが前記接続路89a及び貫通孔89bを介して前記ブロック本体3の導入路70と接続されることになる。これにより、前記オイル用分配片89を用いた場合には、移動ブロック2の導入路70に供給したオイルが前記分散供給プレート8の第二供給路84に流動することになる。
【0042】
従って、図4に示した分散供給プレート8を用いた場合も、前記グリース用分配片88又はオイル用分配片89のいずれかを選択して前記分散供給プレート8に装着することで、使用する潤滑剤の種類に応じた最適な供給路を選択することができ、潤滑剤としてグリース又はオイルのいずれを使用した場合でも、前記負荷通路31を転走するボール5を最適に潤滑することが可能となる。
【0043】
また、この分散供給プレート8では、第二プレート81を挟んでグリース用の第一供給路83及びオイル用の第二供給路84が配置されているので、各供給路83,84が同一平面内で互いに交差することはなく、図3に示した分散供給プレート7と比較して前記ボール5に対する潤滑剤の吐出口を多数配置することが可能となる。すなわち、その分だけ前記負荷通路31を転走する多数のボール5に対して略均一に潤滑剤を供給することが可能である。
【0044】
尚、本発明を適用可能な運動案内装置は図1及び図2に限定されるものではない。本発明の分散供給プレートは移動ブロックと軌道レールとの隙間に配置されるものであれば、例えば、その配置は軌道レールの側面と移動ブロックのスカート部の間であっても差し支えない。
【符号の説明】
【0045】
1…軌道レール、2…移動ブロック、5…ボール(転動体)、7…分散供給プレート、70…導入路、71…第一供給路、72…第二供給路、76…グリース用分配片、77…オイル用分配片
図1
図2
図3
図4
図5
図6