(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン基板の表面に第1のフォトレジスト層を形成し、該第1のフォトレジスト層を、電鋳する領域を開口させ、且つその開口内に該第1のフォトレジスト層が島状に残るようにパターニングする工程と、
前記第1のフォトレジスト層をマスクとして、前記シリコン基板をエッチングして所望の深さの溝を形成した後、前記第1のフォトレジスト層を除去する工程と、
前記シリコン基板の前記溝内を含む表面に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上に第2のフォトレジスト層を形成し、該第2のフォトレジスト層をパターニングして、前記溝上を含む電鋳部品の平面形状に相当する開口を形成する工程と、
前記導電膜を一方の電極とする電鋳によって、前記第2のフォトレジスト層の前記開口内の前記導電層上に電鋳部材を堆積させる工程と、
前記電鋳部材の上面を、前記第2のフォトレジスト層と共に、前記シリコン基板の前記溝内に島状に残った部分が露出しないように研削及び研磨して平坦化する工程と、
前記シリコン基板を、前記電鋳部材を形成した面と反対側の面から少なくとも前記溝の底面まで研削及び研磨して除去する工程と、
前記第2のフォトレジスト層を除去して、前記電鋳部材に、前記シリコン基板の前記溝内に島状に残った部分が埋め込まれた電鋳部品を取り出す工程と、
を有することを特徴とする電鋳部品の製造方法。
前記電鋳部品の前記電鋳部材を、前記溝内に堆積する部分と前記溝外に堆積する部分とによって厚さが異なる段付き形状に形成することを特徴とする請求項1に記載の電鋳部品の製造方法。
前記シリコン基板を研削及び研磨して除去する工程において、該シリコン基板に対する研削レートを前記電鋳部材に対する研削レートより大きくして、前記シリコン基板の前記島状に残った部分が前記電鋳部材の表面から引き込んだ状態で埋め込まれるようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載の電鋳部品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された製造方法では、銅支持体及びPMMA層に対して精密な機械加工を施す必要があり、且つ電鋳によって製造される構造体はニッケル等の金属のみからなるものである。
また、特許文献2に開示された製造方法によれば、異なる材料の部材を密着接合した部品を製造できるが、シリコン基板上に埋め込み酸化膜を介してシリコンデバイス形成層を有するSOI基板を使用する必要がある。このような普通のシリコン基板とは違う特殊な基板を用いることで製造工程が複雑になりコストも上昇してしまうという問題がある。また、段差を有する部品を製造できず、最初に形成される部分の高さはシリコンデバイス形成層の厚さに規制されるという制約もある。
【0007】
この発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、普通のシリコン基板を使用した簡単な方法で、任意の深さにシリコン部が埋め込まれた電鋳部品を精度よく製造すること、及びそれによって、軽くて充分な強度がある電鋳部品、さらに段差を有する電鋳部品
も提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による電鋳部品の製造方法は、上記の目的を達成するため次の各工程を有する。
(a)シリコン基板の表面に第1のフォトレジスト層を形成し、その第1のフォトレジスト層を、電鋳する領域を開口させ、且つその開口内に第1のフォトレジスト層が島状に残るようにパターニングする工程
(b)上記第1のフォトレジスト層をマスクとして、上記シリコン基板をエッチングして所望の深さの溝を形成した後、上記第1のフォトレジスト層を除去する工程、
(c)上記シリコン基板の上記溝内を含む表面に導電膜を形成する工程
(d)上記導電膜上に第2のフォトレジスト層を形成し、その第2のフォトレジスト層をパターニングして、上記溝上を含む電鋳部品の平面形状に相当する開口を形成する工程
(e)上記導電膜を一方の電極とする電鋳によって、上記第2のフォトレジスト層の上記開口内の上記導電層上に電鋳部材を堆積させる工程
(f)上記電鋳部材の上面を、上記第2のフォトレジスト層と共に
、シリコン基板の溝内に島状に残った部分が露出しないように研削及び研磨して平坦化する工程
(g)上記シリコン基板を、上記電鋳部材を形成した面と反対側の面から少なくとも上記溝の底面まで研削及び研磨して除去する工程
(h)上記第2のフォトレジスト層を除去して、上記電鋳部材に、上記シリコン基板の上記溝内に島状に残った部分が埋め込まれた電鋳部品を取り出す工程
【0009】
上記電鋳部品の上記電鋳部材を、上記溝内に堆積する部分と上記溝外に堆積する部分とによって厚さが異なる段付き形状に形成することができる。
上記シリコン基板を研削及び研磨して除去する工程において、そのシリコン基板に対する研削レートを上記電鋳部材に対する研削レートより大きくして、上記シリコン基板の上記島状に残った部分が上記電鋳部材の表面から引き込んだ状態で埋め込まれるようにしてもよい。
【0010】
上記シリコン基板を研削及び研磨して除去する工程において、そのシリコン基板に対する研削レートを上記電鋳部材に対する研削レートより小さくして、上記シリコン基板の上記島状に残った部分が上記電鋳部材の表面から突出した状態で埋め込まれるようにしてもよい。
また、この発明による電鋳部品は、電鋳可能な金属からなる金属部とシリコン部とによって構成され、シリコン部は、金属部に埋め込まれるように配置され、シリコン部の先端は、金属部の表面から露出しており、シリコン部の他端は、金属部の表面から露出していないことを特徴とする。
上記電鋳部品は時計の部品であってもよい。
さらに、上記電鋳部品は、ベアリングであって、金属部は、肉厚円板状であり、シリコン部は、金属部の中心の周囲に複数設けられ、シリコン部の先端は、金属部の端面から引き込まれていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明による電鋳部品の製造方法によれば、普通のシリコン基板を使用した簡単な方法で、任意の深さにシリコン部が埋め込まれた電鋳部品を精度よく製造することができる。それによって、軽くて充分な強度がある電鋳部品、さらに段差を有する電鋳部品も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
〔製造方法の実施形態〕
この発明による電鋳部品の製造方法の一実施形態を
図1〜
図3によって説明する。
図1はその製造工程を説明するための各工程における断面図であり、
図2はその電鋳工程における電鋳槽内の配置状態を示す模式的な断面図である。
図3は、
図1の(h)に示す電鋳部品の下面図であり、
図1の(h)は
図3のA−A線に沿う断面図に相当する。
この発明による電鋳部品の製造方法はLIGA法を応用した製造方法である。
【0014】
図1において、(a)はシリコン(Si)からなるシリコン基板1を用意する工程であり、(b)は、シリコン基板1の表面(図の上面)に第1のフォトレジスト層2を形成し、その第1のフォトレジスト層2をパターニングして、電鋳する領域に開口2cを形成する工程である。その際、製造する電鋳部品に埋め込むシリコン部に対応する部分上にフォトレジスト部2a,2bが島状に残るようにパターニングする。
【0015】
この工程ではまず、シリコン基板1の表面に、数100μm程度の均一な厚さにポジ型のフォトレジストをスピンコーティング等によって塗布して、第1のフォトレジスト層2を形成する。
そして、その第1のフォトレジスト層2上に、開口2cに対応する部分以外の部分を遮光するフォトマスクをセットし、紫外線やX線などを照射して露光した後、アルカリ溶液等で現像して、感光した部分を除去することによってパターニングして、開口2c及び島状のフォトレジスト部2a,2bを形成する。
フォトレジストとしてネガ型のフォトレジストを使用してもよい。その場合は、開口2cに対応する部分だけを遮光するフォトマスクを使用する。
【0016】
その後、パターニングした第1のフォトレジスト層2をエッチングのマスクとして、シリコン基板1にエッチング(ここではドライエッチング)処理を行って、後にシリコン部を埋め込む深さに応じた所望の深さの溝(凹陥部)1cを精度よく形成することができる。その際、その溝1c内に、フォトレジスト部2a,2bの下部のシリコン部1a,1bが島状に残る。そして、剥離液に浸漬して第1のフォトレジスト層2を除去すると、(c)に示す状態になる。
【0017】
次に、(d)の工程で、シリコン基板1の溝1c内を含む表面に導電膜3を形成する。その導電膜3はシードメタルとも称され、銅(Cu)又は金(Au)などの良導電性金属の膜を、スパッタ等によって1μm〜2μm程度の均一な厚さに形成する。
【0018】
そして、(e)の工程で、導電膜3上に第2のフォトレジスト層4を形成し、その第2のフォトレジスト層4をパターニングして、シリコン基板1の溝1c及びシリコン部1a,1b上を含む電鋳部品の平面形状に相当する開口4aを形成する。ここまでの工程によって電鋳型5を作成する。
この工程ではまず、導電層2上に、製造しようとする電鋳部品の本体部の厚さより厚く、数100μm〜500μm程度の均一な厚さに、ポジ型のフォトレジストをスピンコーティング等によって塗布して第2のフォトレジスト層4を形成する。
【0019】
そして、その第2のフォトレジスト層4上に、開口4aに対応する部分以外の部分を遮光するフォトマスクをセットし、紫外線やX線などを照射して露光した後、アルカリ溶液等で現像して、感光した部分を除去することによってパターニングして、開口4aを形成する。その際、第2のフォトレジスト層4の一部がシリコン基板1の溝1c内に形成されてもよい。
フォトレジストとしてネガ型のフォトレジストを使用する場合は、開口4aに対応する部分だけを遮光するフォトマスクを使用する。
【0020】
その後、導電膜3を一方の電極とする電鋳によって、第2のフォトレジスト層4の開口4a内の導電膜3上に電鋳部材6を堆積させる工程(電鋳工程)を実施すると、(f)に示す状態になる。
この工程では、
図2に示すような電鋳槽15内の電解液16の浴中に、前述した(e)の工程で作成した電鋳型5を、第2のフォトレジスト層4側を対向電極17と対向させて浸漬する。そして、電鋳型5の導電膜3と対向電極17との間に、電源18によって直流電圧を印加する。この場合、対向電極17が正電極(陽極)となり、導電膜3が負電極(陰極)となる。
【0021】
対向電極17の材料は、電鋳部材6と同じ金属であり、例えばニッケル(Ni)である。電解液16は電鋳する金属に応じた電解液を使用し、ニッケルを電鋳する場合はニッケル電解液、例えばスルファミン酸ニッケル水和塩を含む水溶液を使用する。電鋳材料としては、ニッケルに限らず、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、鉄(Fe)、これらの金属を含む合金など、電鋳可能な全ての材料を使用できる。
【0022】
そして、電解液16中で対向電極17から電気分解された金属イオンが、
図2に矢示Fで示す方向に泳動して、電鋳型5の溝1c内を含む第2のフォトレジスト層4の開口4a内の導電層2上に電着し、電鋳部材6として堆積していく。その結果、
図1の(f)に示すように、電鋳部材6が第2のフォトレジスト層4の表面から幾分突出して盛り上がる程度の厚さに電鋳を行う。
このとき、この実施形態ではその電鋳部材6が、溝1c内に堆積した部分と溝1c外に堆積した部分とによって厚さが異なる段付き形状になり、溝1c内に堆積した部分に、シリコン基板1の一部であるシリコン部1a,1bが入り込んでいる。
【0023】
次に、
図1に示す(g)の工程で、電鋳部材6の上面を第2のフォトレジスト層4と共に研削及び研磨して平坦化し、所定の厚さの段部を有する電鋳部材6′を形成する。当然ながら、その電鋳部材6′も段付き形状であり、溝1c内の部分にシリコン部1a,1bが入り込んでいる。
そして、シリコン基板1を、電鋳部材6′を形成した面と反対側の面から研削及び研磨して、少なくとも溝1cの底面に達するまで除去する工程を実行する。その際、平坦化した第2のフォトレジスト層4及び電鋳部品6′の上面に、必要に応じて補強支持板又は保護シール等を貼り付けて支持すれば、研削及び研磨によるシリコン基板1の除去を容易に行うことができる。
【0024】
その後、剥離液に浸漬して第2のフォトレジスト層4を除去し、電鋳部材6′外の余分なシリコン部も除去すれば、(h)に示すように、シリコン基板1の一部であるシリコン部1a,1bが、導電膜3a,3bを介して電鋳部材6′内に溝1cの深さ分だけ残って埋め込まれた、段付きの電鋳部品10を完成して取り出すことができる。
【0025】
この電鋳部品10の下面形状は、例えば
図3に示すようになるが、円形や楕円形、その他任意の形状に形成することができる。埋め込むシリコン部の数や深さ及び平面形状なども任意に変更できる。
また、シリコン基板1に対するエッチング加工の回数を増やせば、電鋳部品10の段数を増やし、その各段部ごとにシリコン部を埋め込むこともできる。
【0026】
このように、この発明による電鋳部品の製造方法によれば、精密な機械加工や特殊なSOI基板などを使用する必要がなく、普通のシリコン基板を使用した簡単な方法で、任意の深さにシリコン部が埋め込まれた電鋳部品を精度よく製造することができる。その電鋳部品に段差を設けることも容易である。
【0027】
そして、製造された電鋳部品は、所要個所に所要形状のシリコン部が埋設された金属部品であるから、同一形状の金属のみからなる部品と比較して軽い。また、金属部品を軽量化するために透孔や堀り溝を形成したものと比較して、シリコン部の埋め込みによって充分な強度を保つことができる。シリコン部は導電膜を介して電鋳部材であるニッケル等の金属に埋め込まれ、密着性が高い三層構造になっている。
【0028】
また、
図1の(g)に示した状態から、シリコン基板1を、電鋳部材6′を形成した面と反対側の面から研削及び研磨して除去する工程において、研削及び研磨するパッド等の硬度や押付け力を調整することによって、シリコン基板1のシリコンと電鋳部材6′の金属に対する研削レートを変えることができる。
シリコンに対する研削レートを金属に対する研削レートより大きくすれば、電鋳部材6′よりもシリコン部1a,1bが余分に研削されて、
図4に示すように、シリコン部1a′,1b′が、電鋳部材6′の下面より幾分引き込んで埋め込まれた状態の電鋳部品10Aになる。そのシリコン部1a′,1b′が、電鋳部材6′の下面より幾分引き込んだ凹部は、潤滑油の油溜り等に利用できる。
例えば、金属がニッケルの場合、酸化剤を除いたスラリーを用いた上で、通常の研磨と比較して柔らかいソフトパッドを用いて、通常研磨よりも回転数を上げることによりシリコンの研磨レートをニッケルよりも上昇させることができる。
【0029】
逆に、シリコンに対する研削レートを金属に対する研削レートより小さくすれば、シリコン部1a,1bよりも電鋳部材6′の方が余分に研削されて、
図5に示すように、シリコン部1a,1bが、余分に研削された電鋳部材6″′の下面から幾分突出して埋め込まれた状態の電鋳部品10Bになる。そのシリコン部1a,1bの突出部は、他の部品とも当接するツメや、位置決め突起などに利用できる。
この発明の製造方法によれば、機械式時計やアナログ式水晶時計などの時計の精密部品をはじめ、カメラや計測器、その他種々の精密機器の電鋳部品を、強度を保ちながら軽量化することができる。
例えば、金属がニッケルの場合、通常の研磨と比較して柔らかいソフトパッドを用いて、通常の研磨よりも高圧・低速回転させて研磨することでニッケルの研磨レートをシリコンよりも上昇させることができる。
【0030】
〔電鋳部品の実施形態〕
次に、上述したようなこの発明による電鋳部品の製造方法によって製造した電鋳部品の種々の実施形態について説明する。
まず、その電鋳部品が歯車である実施形態を
図6及び
図7によって説明する。
図6はその歯車の平面図、
図7は
図6のB−B線に沿う断面図である。
この歯車(ギア)20は電鋳による金属製の平歯車であり、外周に多数の歯を所定のピッチで形成した歯部21とそれより肉厚のボス部22からなり、中心に回転軸を貫通させ
る軸孔23が形成されている。
【0031】
ボス部22には、
図7の下面側に複数の円柱状のシリコン部24が埋め込まれている。その各シリコン部24は、回転軸線に対して対称に且つ等角度間隔に配置され、偏心が生じないようにしている。なお、シリコン部24のボス部22と接する表面に形成された導電膜は図示を省略している。
この歯車20は、ボス部22の金属の一部がシリコンに置き換わっているので、全て金属の場合より軽量であり、しかも充分な強度を有する。また、歯部21とボス部22とは段差を有している。
平歯車に限らず、小歯車(カナ)や、プーリ、ローラ、回転円板などの部品も、同様にボス部などにシリコン部を埋め込んだものにすることができる。
【0032】
続いて、電鋳部品が腕時計等の文字板である実施形態を
図8及び
図9によって説明する。
図8はその文字板の平面図、
図9は
図8のC−C線に沿う断面図である。
この文字板30は電鋳による金属製の円形の文字板であり、その表(おもて)面30aは塗装され、円周方向に沿って30°間隔で1時間ごとの目盛マークと時を示す1〜12の数字が形成されている。中心には指針軸を貫通させる軸孔31が設けられている。
【0033】
この実施形態では、
図9に示すように、外周付近の所定環状領域は厚さが幾分薄い肉薄部32になっており、その内側領域が厚さが幾分厚い肉厚部33になっている。その肉厚部33には、
図8に破線で示すように、中心に対して対称に4個の同一の扇形形状のシリコン部34が下面側から埋め込まれている。この例でも、シリコン部34の肉厚部33と接する表面に形成された導電膜は図示を省略している。
この文字板30も、肉厚部33の金属の一部がシリコンに置き換わっているので、全て金属の場合より軽量であり、しかも充分な強度を有する。また、肉薄部32と肉厚部33とで段差を有している。この形状は、この文字板が組み込まれる腕時計等の内部構造に対応した形状の例であって、自由に変更が可能である。もちろん、全体を均一な厚さに形成することもできる。
【0034】
なお、埋め込まれるシリコン部の形状や個数は適宜変更できる。文字板の平面形状も円形に限らず、方形や楕円形、正八角形など任意の形状に変更できる。
また、腕時計の文字板に限らず、懐中時計や置時計あるいは計測器などの文字板にも適用できる。
【0035】
次に、
図4によって説明した、シリコン部1a′,1b′が、電鋳部材6′の下面より幾分引き込んで埋め込まれた電鋳部品10Aの具体的な実施形態を説明する。
図10はその電鋳部品がラックである実施形態の移動方向に沿う縦断面図である。
このラック40は、電鋳による金属製の直線状に延びるラックであり、本体部41の下面に一定のピッチで平行に複数の歯42が形成されている。そして、動作時にはその歯42が図示していないピニオンの歯と噛み合って、矢示D方向へ往復移動する。
【0036】
このラック40の歯42の歯先面側から歯高に相当する深さまで、シリコン部43が埋め込まれ、その先端が歯先面から幾分引き込んでおり、歯先に僅かな凹部42bが形成されている。
したがって、このラック40も、歯42の金属の一部がシリコンに置き換わっているので、全て金属の場合より軽量であり、しかも充分な強度を有する。また、本体部41と歯42とで段差を有している。さらに、シリコン部43の内蔵によって歯42の緩衝性が高まることと、歯先に形成された僅かな凹部42bが潤滑油の油溜まりの役目を果すので、歯の磨耗を防止し、長期間に亘ってスムーズに動作する。
なお、このようにラックや歯車の歯内にシリコン部を埋め込むことによって、軽量化と
歯の緩衝性を高める効果が得られるので、シリコン部の先端面を歯先面より引き込めず、歯先面と同一面にしてもよい。
【0037】
図11は、電鋳部品が回転体のベアリングである実施形態の径方向に沿う断面図である。
回転体50の回転中心部にベアリング(軸受け)60を固着しており、回転体50はベアリング60と共に矢示E方向に往復回動又は回転する。
そのベアリング60は、電鋳による金属製の肉厚円板状のベアリングであり、中心に回転軸を貫通させる軸孔61が設けられている。また、その中心に対して対称に且つ等角度間隔で、複数(図示の例では4個)の円柱状のシリコン部62が、図示していない回転軸支持部材(
図11におけるベアリング60の手前側にある)と対向する端面側から埋め込まれている。
【0038】
そして、その各シリコン部62の先端が、ベアリング60の上記端面から若干引き込んでおり、その端面に複数の凹部が形成されている。
したがって、このベアリング60も、その金属の一部がシリコンに置き換わっているので、全て金属の場合より軽量であり、しかも充分な強度を有する。さらに、回転軸支持部材と対向する端面の凹部が潤滑油の油溜まりの役目を果すので、その油が回転軸支持部材及び回転軸との間を潤滑して摩擦を低減し、長期間に亘ってスムーズに回動又は回転する。
回転体50は、レバー、プーリ、ローラ、歯車などの何れでもよい。
【0039】
このように、前述したこの発明の製造方法によって製造した電鋳部品は、時計、カメラ計測器、その他種々の精密機器の部品を、強度を保って軽量化できる。また、歯車やベアリング等の潤滑性を長期に亘って維持できるようにすることも可能である。
【0040】
以上、この発明の実施形態について説明してきたが、その実施形態の各部の具体的な構成や処理の内容等は、そこに記載したものに限るものではない。
また、この発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に記載された技術的特徴を有する以外は、何ら限定されるものではないことは言うまでもない。
さらに、以上説明してきた実施形態の構成例、動作例及び変形例等は、適宜変更又は追加したり一部を削除してもよく、相互に矛盾しない限り任意に組み合わせて実施することも可能であることは勿論である。