(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、飲料食品等の金属製缶詰用缶体の内面および外面には、熱硬化性樹脂を主成分とする溶剤型塗料が塗布されていた。これは、内容物の風味を保つこと、缶詰用缶体素材である金属の腐食を防止すること、あるいは缶詰用缶体外面の意匠性の向上や印刷面の保護などを目的としていた。しかし、溶剤型塗料は塗膜を形成するために高温での加熱が必要であり、また、加熱時に多量の溶剤が発生するため、作業の安全性および環境への影響の面で問題があった。そのため、最近は、溶剤を用いない熱可塑性樹脂による金属の被覆が提案されている。特に、熱可塑性樹脂の中でもポリエステル樹脂は加工性、耐熱性などに優れることから、ポリエステル樹脂をベースとした金属ラミネート用フィルムの開発が進められている。
【0003】
ポリエステル等の樹脂フィルムをラミネート(被覆)したラミネート金属板(樹脂被覆金属板)を飲料食品等の缶詰用缶体の缶蓋材に適用した場合、生産性を上げるために、高速に缶蓋の巻締めを行うと、缶蓋外面側フィルムに、フィルム割れやフィルム削れが発生するという問題があった。また、レトルト処理などの高温殺菌処理の際にポリエステル樹脂中の環状三量体が樹脂フィルム表面に析出し意匠性を損なうことや、レトルト処理中に樹脂フィルム層そのものが白く濁ったように変色する現象(白化現象)が発生することなどの問題があった。一方で、缶蓋内面に用いられる樹脂には内容物に対する耐食性(耐内容物性)や、内容物と長期接触した際の密着性が要求される。
【0004】
このような問題を改善する方法として、特許文献1には、金属板の両面に熱可塑性樹脂フィルムを被覆し、缶蓋外面側の熱可塑性樹脂フィルム層の非晶化率を60%以上とし、缶蓋内面側の熱可塑性樹脂フィルム層の一部に配向結晶層を残し耐巻締め性が良好な両面フィルムラミネート缶蓋を提供する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、缶体外面側にエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルを30〜50質量%、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルを50〜70質量%の比率で配合したポリエステルであるフィルムを被覆した金属板が記載されている。これにより、最短半結晶化時間を100秒以下にすることでレトルト処理の熱を利用して結晶化させ、結晶化速度を速くしてフィルムに白斑(白化)が発生することを防止している。この金属板は容器内面側に二層構造となるポリエステル樹脂層を有し、上層のポリエステル樹脂層がポリエチレンテレフタレートもしくは酸成分として、イソフタル酸を6モル%以下の比率で共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートであることも記載されている。加えて、上層のポリエステル樹脂層は、オレフィン系ワックスを0.1〜5質量%含有し、下層のポリエステル樹脂層が酸成分としてイソフタル酸を10モル%以上22モル%以下の比率で共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートであることも記載されている。同様に、特許文献3〜6には、外面フィルムの耐白化性を向上させる技術が記載されている。
【0006】
特許文献7には、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル30〜50質量%と、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル50〜70質量%とを含有するポリエステル組成物が開示されている。これにより、レトルト処理時の変色を抑制する技術が記載されている。また特許文献7には、樹脂の融点を規定して熱融着させる際に界面を溶融させる技術も記載されている。また、特許文献8および9にも、レトルト処理時の変色を抑制する技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献10には、缶内面には接触角が70°〜120°であるポリエステルフィルムを用い、缶外面には、結晶化温度120℃以下であるPET−PBTを貼り合わせて耐白化性を向上させる技術が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の缶体を形成する缶蓋を一実施形態として、図面を参照して、詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0018】
<レーザーラマン分光法>
まず、
図1を参照し、本発明に適用されるレーザーラマン分光法の測定方法について説明する。
図1に示すように、金属板1の両面に樹脂フィルム2がラミネートされた樹脂被覆金属板10において、一方の面の樹脂フィルム2に対して、レーザー発振器3から発振されたレーザー光4を入射し、散乱したラマン散乱光5を分光器6で分光する。レーザーラマン分光法で照射されるレーザー光4のビーム径はレンズ7により可変となっており、必要な測定領域サイズでの結晶化度の評価が可能となる。そして、照射されるレーザー光4のビーム径を絞ることによって、樹脂フィルム2の微小領域における結晶化度の評価が可能になる。本実施の形態では、
図1に示すレーザーラマン分光法の測定方法により、樹脂フィルム2の厚さ方向断面の、任意の部位における結晶化度を評価した。
【0019】
ここで、レーザーラマン分光法から求められる1730cm
−1近傍のラマンバンド(C=O伸縮振動由来)のピーク半値幅は、樹脂フィルム2の密度と反比例の関係にあることが知られている。一方で、樹脂フィルム2の密度と体積分率結晶化度との間には、以下の式(1)の関係があることが知られている。
【0021】
したがって、1730cm
−1近傍のラマンバンド(C=O伸縮振動由来)のピーク半値幅を測定することによって、レーザー光4を照射した部分の樹脂フィルム2の密度を求めることができる。更に上記式(1)に従って、樹脂フィルム2の体積分率結晶化度(以後、結晶化度と称す)を求めることができる。
【0022】
また、レーザーラマン分光法で1615cm
−1近傍に見られるラマンバンドはベンゼン環C=C伸縮振動由来である。C=C伸縮振動については、照射するレーザー光4を偏光させて、樹脂フィルム2表面に対し水平である偏光面で測定したラマンバンド強度と垂直である偏光面で測定したラマンバンド強度との比から結晶化度を測定することが可能である。
【0023】
<金属板>
本発明に用いられる樹脂被覆金属板10の下地となる金属板1には、缶詰用缶体の缶蓋や缶胴の金属材料として使用されている表面処理鋼板やアルミニウム板を用いることができる。金属板1には、下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物となる二層皮膜の表面処理鋼板であるティンフリースチール(以下TFS)等が好適であるが、それに限定されず、クロムを他の金属に置き換えたクロムフリー表面処理鋼板を使用することができる。TFSの場合、金属クロム、およびクロム水酸化物層の付着量は特に限定されないが、加工性や耐食性の観点から、金属クロム層は70〜200mg/m
2、クロム水酸化物層は10〜30mg/m
2の範囲とすることが望ましい。
【0024】
<金属板に被覆される樹脂フィルム>
本発明に用いられる樹脂被覆金属板10において、金属板1の2つの面のうち、樹脂被覆金属板10から缶蓋が形成される際に缶蓋の外面側となる面に熱融着される樹脂フィルム2は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを主体とした熱可塑性樹脂フィルムAで構成される。また、缶蓋の内面側となる面に熱融着される樹脂フィルム2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主体とした熱可塑性樹脂フィルムBで構成される。
【0025】
外面側の樹脂フィルムAのPBT/PETの組成比(wt%)が、(PBT/PET)=(40/60)〜(80/20)で、内面側の樹脂フィルムBがPET95mol%以上であり、熱可塑性樹脂フィルムAにおけるPBT由来の融点は熱可塑性樹脂フィルムBのPET由来の融点より25℃以上低い。
【0026】
外面側の樹脂フィルムAは、レーザーラマン分光法で樹脂フィルム2表面に対し水平である偏光面で測定した1615±10cm
−1のラマンバンド強度(I
0)と、垂直である偏光面で測定した1615±10cm
−1のラマンバンド強度(I
90)とのラマンバンド強度比(I
90/I
0)が、0.60以上、好ましくは0.70以上である。ここで、表面に対し水平である偏光面で測定された1615±10cm
−1のラマンバンド強度(I
0)は、表面方向の結晶成分が多いほど大きな値となる。一方、垂直である偏光面で測定された1615±10cm
−1のラマンバンド強度(I
90)は、厚み方向の結晶成分が多いほど大きな値になる。よって、ラマンバンド強度比(I
90/I
0)が大きな値になれば、表面方向の結晶成分が減少し、厚み方向の結晶成分が増加することを意味する。
【0027】
缶蓋13を缶胴19の端縁フレンジ部に二重巻締めして巻締部20を形成する際には、巻締めロールが缶蓋外面側の樹脂フィルムAの表面を加圧しながら、表面方向に沿って高速で移動する。延伸された樹脂フィルムAは、延伸過程で表面方向の結晶成分が大きくなっている。その状態で巻締めが行われると、弱い分子間で結合が切れやすく、樹脂フィルムAの損傷を招く。そこで樹脂フィルムAに対して垂直方向の結晶成分が必要となってくる。その割合は、ラマンバンド強度比が0.60以上であればよい。更に、ラマンバンド強度比が0.70以上であることが好ましい。ラマンバンド強度比が0.60未満の場合、表面方向の結晶成分が多いため、高速巻締め時に樹脂フィルムAが削れてしまう。また、同時に熱融着される缶蓋13内面側の樹脂フィルムBの結晶化度が変化し、樹脂フィルムBの密着性が劣化する。
【0028】
一方、缶蓋13内面側の樹脂フィルムBは、レーザーラマン分光法で樹脂フィルムBの表面に対し水平である偏光面で測定した1730±10cm
−1のラマンバンドの半値幅が、15〜20cm
−1、好ましくは、16〜19cm
−1とする。このラマンバンドの半値幅が15cm
−1より小さい場合、低融点である外面側の樹脂フィルムAが製造過程でラミロール等に付着してしまい、製造性を阻害する。このラマンバンドの半値幅が20cm
−1より大きいと、結晶化が不十分なため内面側の樹脂フィルムBの密着性が不十分となり、耐内容物性にも劣る。
【0029】
缶蓋に用いる樹脂被覆金属板10を製造する場合、缶蓋13外面側の樹脂フィルムAと内面側の樹脂フィルムBとは同時に熱融着が行われるため、外面側の樹脂フィルムAを上記のような結晶化度にするには内面側の樹脂フィルムBを適正に選択する必要がある。検討の結果、内面側樹脂フィルムBのPET由来の融点が250℃以上265℃以下であり、外面側の樹脂フィルムAにおけるPBT由来の融点より25℃以上高いことが適正であることが分かった。融点差が25℃未満だと、外面側の樹脂フィルムAの結晶化度を下げることができず、ラマンバンド強度比で0.60以上を達成できない。融点差を25℃以上にするためには、PET由来の融点を250℃以上にする必要がある。一方、PET由来の融点が265℃を超えると、外面側の樹脂フィルムAの融点を大きく超えて、製造時に後述するラミロールに樹脂フィルム2Aが付着するというトラブルが発生しかねない。
【0030】
ここで、
図2を参照し、内外面樹脂フィルム2を熱融着する方法について説明する。例えば、
図2に示すように、金属板1を金属帯加熱装置11にて一定温度以上に昇温させた後、樹脂フィルム2を圧着ロール12(以後、ラミロール12と称す)により加熱金属板1に圧接させる。これにより、金属板1の表面に樹脂フィルム2を熱融着させて(以降、ラミネートと称する場合もある)、本発明の缶蓋に用いる樹脂被覆金属板10を製造することができる。この場合、ラミロール12を金属板1に圧接させ熱融着させることが必要である。
【0031】
以下、ラミネート条件の詳細について説明する。熱融着開始時の金属板1の温度は、樹脂フィルム2の融点を基準として、+5℃〜+40℃の範囲とすることが望ましい。熱融着法によって、金属板1と樹脂フィルム2との層間の密着性を確保するためには、密着界面におけるポリエステル樹脂の熱流動が必要である。金属板1の温度を、樹脂フィルム2の融点を基準として+5℃以上の温度とすることで、各層間における樹脂が熱流動し、界面における濡れ性が相互に良好となって、優れた密着性を得ることができる。金属板1の温度を+40℃超としても、更なる密着性の改善効果が期待できないこと、樹脂フィルム2の溶融が過度となり、ラミロール12表面の型押しによる表面荒れ、ラミロール12への溶融物の転写などの問題が生じる懸念があることにより、+40℃以下とすることが好ましい。
【0032】
ラミネート時に樹脂フィルム2が受ける熱履歴としては、樹脂フィルム2の融点以上で、ラミロールと相互に接している時間が5msec以上であることが望ましい。これは、界面における濡れ性が良好となるためである。相互に接している時間に樹脂フィルム2は熱で金属板1界面近傍から溶融する。樹脂フィルム2の熱伝導度はきわめて小さいため、5〜40msecで樹脂フィルム2表層は融点に達することはないものの、この時間が長くなると融点に近い温度まで上昇し、ラミロール12に溶着する懸念がある。この観点からも40msec以下とすることが望ましい。更に、10〜25msecであれば、より好ましい。
【0033】
このようなラミネート条件を達成するためには、150mpm以上の高速操業に加え、熱融着中の冷却も必要である。例えば、
図2中ラミロール12は内部水冷式であり、冷却水を通過させることで、樹脂フィルム2が過度に加熱されるのを抑制することができる。更に、内外面樹脂フィルム1、2それぞれのラミロール12の冷却水温度を独立に変化させることで、樹脂フィルム2の熱履歴をコントロールできるため、好適である。内面側の樹脂フィルム2の方が高融点なので、ラミロール12の温度も高めに設定し、外面側のラミロール12の温度は低めに設定するのが好ましい。たとえば、内面側のラミロール12の温度を120℃にして、外面側のラミロール12の温度を80℃にすると言ったように温度差を設けるのが好ましい。ラミロール12の温度は、50℃〜130℃の範囲で適宜調整すると良い。
【0034】
ラミロール12の加圧は、面圧として9.8〜294N/cm
2(1〜30kgf/cm
2)とすることが望ましい。ラミロール12の加圧が9.8N/cm
2未満の場合、たとえ熱融着開始時の温度が樹脂フィルム2の融点に対して+5℃以上で十分な流動性が確保できたとしても、金属板1表面に樹脂フィルム2を押し広げる力が弱いため十分な被覆性が得られない。その結果、密着性、耐食性(耐内容物性)などの性能に影響を及ぼす可能性がある。また、ラミロール12の加圧が294N/cm
2超となると、樹脂被覆金属板10の性能に不都合は生じないものの、ラミロール12にかかる力が大きく装置に強度が必要となることから設備の大型化を招くため不経済である。よって、ラミロール12の加圧は、好適には9.8〜294N/cm
2である。
【0035】
外面側の樹脂フィルムAは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエチレンテレフタレート(PET)を主体とし、PBT/PET樹脂組成比(wt%)が、(PBT/PET)=(40/60)〜(80/20)である。PBT比率がこの範囲より少ない場合、レトルト処理時に白化してしまい好ましくない。レトルト処理時の白化については後述する。PBT比率が多くなると、水蒸気雰囲気下での加熱により、密着性等が悪化し、好ましくない。
【0036】
内面側に用いる樹脂フィルムBの組成は、ポリエチレンテレフタレートが95mol%以上である。95mol%未満だと、共重合成分を含めたその他成分が混入し、内容物へ溶出し耐内容物性が劣化してしまう。またその他成分の添加により融点が低下してしまい、金属板1との熱融着性(密着性)が劣化する。
【0037】
なお、加工性、耐熱性や耐食性を損なわない範囲で内外面側の樹脂フィルム2の材料に他のジカルボン酸成分、グリコール成分、その他の樹脂成分を共重合させてもよい(内面側では、5mol%未満とする)。ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族カルボン酸、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などを例示できる。
【0038】
グリコール成分としては、エチレングリコールまたはブタンジオール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族グリコール、ジエチレングリコールなどを例示できる。前記ジカルボン酸成分およびグリコール成分は2種以上を併用してもよい。
【0039】
なお、必要に応じて、蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、結晶核剤等を配合できる。例えば、外面側となる樹脂フィルムAに、ジスアゾ系顔料を使用すれば透明性に優れながら着色力が強く、展延性に富むため、製蓋後も光輝色のある外観が得られる。顔料を添加する場合は、30PHR以下とすることが好ましい。ここで、顔料の添加量は、顔料を添加した樹脂層に対する(下層の樹脂層に添加した場合は、下層の樹脂層に対する)割合(樹脂量に対する外割)である。ジスアゾ系顔料としては、カラーインデックス(C.I.登録の名称)が、ピグメントイエロー12、13、14、16、17、55、81、83、180、181のうちの少なくとも1種類を用いることができる。特に、色調(光輝色)の鮮映性、レトルト殺菌処理環境での耐ブリーディング性(顔料がフィルム表面に析出する現象に対する抑制能)などの観点から、分子量が大きくPET樹脂への溶解性が乏しい顔料が望ましく、分子量が700以上の、ベンズイミダゾロン構造を有するC.I.ピグメントイエロー180がより好ましく用いられる。
【0040】
樹脂フィルム2を形成する樹脂材料は、その製法によって限定されることはない。例えば、次の方法(1),(2)などを利用して、樹脂材料を形成することができる。
【0041】
(1)テレフタル酸、エチレングリコール、および共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合させて共重合ポリエステルとする方法。
(2)ジメチルテレフタレート、エチレングリコール、および共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法。
【0042】
共重合ポリエステルの製造においては、必要に応じて、蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などの添加物を添加してもよい。
【0043】
本発明で用いられるポリエステル樹脂は、機械的特性、ラミネート性、フレーバー性を向上させる点からポリエステルの重量平均分子量は、5000〜100000の範囲であるものが好ましく、10000〜80000の範囲が更に好ましい。また、本発明のポリエステル樹脂の厚みは5μm以上、50μm以下であることが好ましく、更に8μm以上30μm以下、特に10μm以上25μm以下の範囲であることが好ましい。
【0044】
<レトルト時の白化について>
ポリエステル樹脂フィルム2を被覆させた金属板10を用いて製造された缶蓋13を、缶胴19の端縁部に巻締めた缶体18についてレトルト殺菌処理を行なうと、多くの場合、外面側の樹脂フィルムAが白化する現象が見られる。これは樹脂フィルムA内に微細な気泡が形成され、これら気泡によって光が散乱した結果、白く濁った外観を呈するものである。加えて、この樹脂フィルムAに形成される気泡は以下のような特徴を有する。まず、これらの気泡は、缶体18を乾熱環境下で加熱しても形成されない。また、缶体に内容物を充填せずに空き缶のままレトルト殺菌処理を行っても気泡は形成されない。気泡は外面側の樹脂フィルムAの厚み方向全域にわたって観察されるわけではなく、金属板1に接している界面近傍において観察される。以上の特徴から、レトルト殺菌処理に伴う外面側の樹脂フィルムAでの気泡の形成は、以下のメカニズムによって起こると考えられる。
【0045】
レトルト殺菌処理開始当初から缶体は高温水蒸気にさらされ、水蒸気の一部は外面側樹脂フィルムAの内部へと浸入し、金属板1との界面近傍まで到達する。レトルト殺菌処理開始当初、外面側樹脂フィルムAと金属板1との界面近傍は内容物によって内面から冷却されているので、界面に侵入した水蒸気は凝縮水となる。次いで、レトルト殺菌処理の時間経過とともに、内容物の温度も上昇し、金属板1との界面の凝縮水は再気化を起こす。気化した水蒸気は再び樹脂フィルムAを通って外へ脱出するが、このときの凝縮水の跡が気泡となると推定される。気泡が金属板1との界面近傍でのみ観察されるのは、凝縮水が形成される場所が界面近傍であるためと考えられる。加えて、熱せられた金属板1との接触により溶けた界面近傍の樹脂が、冷却、固化した後も機械的に軟らかく変形性に富む非晶性樹脂であり、変形しやすく、気泡を形成しやすいためと考えられる。したがって、レトルト殺菌処理時に缶外面側の樹脂フィルムAに気泡が形成されず白化が抑制されるためには、外面側樹脂フィルムAに関して、レトルト殺菌処理の熱で速やかに非晶性ポリエステル層を結晶化させ、非晶層の強度をアップさせることが有効である。
【0046】
以上、説明したように、本実施の形態の樹脂被覆金属板10を用いた缶蓋13を缶胴19の底蓋として巻締めして用いた缶体18によれば、缶蓋13の外面側の樹脂フィルムAは、樹脂被覆金属板10に対し高速で巻締めを行った場合でも、フィルム削れやフィルム割れが発生せず耐巻締め性に優れ、更にレトルト処理後の外観の意匠性に優れ、容器の内面側の樹脂フィルムBは、耐内容物性に優れ、内容物に接触した状態でレトルト処理を施しても密着性を保持することができる。
【0047】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【0048】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明する。冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した厚さ0.18mm、幅977mmの鋼板を脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い、金属板1としてクロムめっき鋼板(TFS)を製造した。クロムめっきは、CrO
3、F
−、SO
42−を含むクロムめっき浴でクロムめっき、中間リンス後、CrO
3、F
−を含む化成処理液で電解した。その際、電解条件(電流密度・電気量等)を調整して、金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量とを、Cr換算でそれぞれ120mg/m
2、15mg/m
2にした。
【0049】
次いで、金属帯のラミネート装置を用い、前記で得たクロムめっき鋼板を金属帯加熱装置で加熱し、ラミロールで前記クロムめっき鋼板の両面に樹脂フィルムをラミネート(熱融着)し、樹脂被覆金属板(ラミネート鋼板)10を製造した。ラミロールは内部水冷式とし、ラミネート中に冷却水を強制循環することにより、樹脂フィルム2接着中のラミネート鋼板10の冷却を行った。レーザーラマン分光法によるラマンバンド強度比は、金属帯へのラミネート条件の変更により調整した。
【0050】
使用された樹脂フィルム(二軸延伸ポリエステルフィルム)2の特性を下記(1)の方法により測定し評価した。また、以上の方法で製造されたラミネート鋼板10の特性を下記(2)〜(6)の方法により測定し評価した。表1は、ラミネートされた樹脂フィルムの特性およびラミネート条件と、各ラミネート鋼板10の評価結果を示す。
【0051】
(1)レーザーラマン分光法による測定
(1−1)蓋外面側の樹脂フィルムAのラマンバンド強度比(I
90/I
0)
ラミネート鋼板10の断面研磨サンプルを作製し、下記測定条件にて、蓋外面側の樹脂フィルムAの断面方向に対して垂直なレーザー偏光面で、1μm毎に1615±10cm
−1のラマンバンド強度を測定し、表層側から5μmの測定値の平均値をラマンバンド強度(I
0)とした。また、樹脂フィルムAの断面方向に平行なレーザー偏光面で、表層側から1μm毎に1615±10cm
−1のラマンバンド強度を測定し、表層側から5μmの測定値の平均値をラマンバンド強度(I
90)とし、上述したラマンバンド強度比(I=I
90/I
0)を求めた。
【0052】
(1−2)蓋内面側の樹脂フィルムBのラマンバンド半値幅
ラミネート鋼板10の断面研磨サンプルを作製し、下記測定条件にて、蓋内面側の樹脂フィルムBの断面方向に平行なレーザー偏光面で、1μm毎に1730±10cm
−1のラマンバンドの半値幅を測定し、表層側から5μmの測定値の平均値を求めた。
【0053】
(測定条件)
励起光源:半導体レーザー(λ=532nm)
顕微倍率:×100
アパーチャ:25μmφ
【0054】
(2)耐巻締め性
ラミネート鋼板10をプレス装置を用いて缶蓋形状に打ち抜き、周知の工程で加工し、平板状のパネル部14の外周部にチャックウオール15が形成され、その外方に湾曲したシーミングパネル16が形成された缶蓋形状とし、シーミングパネル16の内側に周知のシール材17を塗布乾燥して、
図3に示す通称200径の缶蓋(底蓋)13を形成した。次いで、1分間に800缶の速度で、溶接缶胴19の端縁フレンジ部に缶蓋13を巻締めた。缶蓋巻締め部20の(外面側)樹脂フィルムAの状態を観察し、以下の評点に従って耐巻締め性を評価した。
【0055】
(評点)
◎:蓋材50枚のうち、フィルム削れの発生無し。
○:蓋材50枚のうち、1〜5枚でフィルム削れが発生。
△:蓋材50枚のうち、6〜10枚でフィルム削れが発生。
×:蓋材50枚のうち、11枚以上でフィルム削れが発生。
【0056】
(3)耐レトルト白化性
蓋外面側の樹脂フィルムAの耐レトルト白化性を評価した。具体的には、本発明の缶蓋13を溶接缶胴19の底蓋として巻締めた缶体18内に常温の水道水を充填した後、別途、上蓋21を巻締めて密閉し、
図5に示す缶体を形成した。その後、この水充填缶体底部を下向きにして、蒸気式レトルト釜の中に配置し、125℃、30分間、レトルト処理を行った。レトルト処理後、缶蓋13外面側樹脂フィルムAの外観変化を目視で観察し、以下の評点に従って耐レトルト白化性を評価した。
【0057】
(評点)
◎:外観変化無し。
○:外観にかすかな曇り(フィルム表面積の5%未満)発生。
△:外観にかすかな曇り(フィルム表面積の5%以上10%未満)発生。
×:外観が白濁(フィルム表面積の10%以上で白化発生)。
【0058】
(4)密着性(湿潤密着性)
ラミネート鋼板10の平板サンプル(幅15mm、長さ120mm)を切り出した。切り出されたサンプルの長辺側端部から樹脂フィルム2の一部を剥離する。剥離された樹脂フィルム2を、剥離された方向とは逆方向(角度:180°)に開き、50gの重りを固定して、レトルト処理(125℃、30分)を行った。レトルト処理後の樹脂フィルム2の剥離長さを測定し、密着性として、成形前フィルム湿潤密着性(2次密着性)を以下の評点に従って評価した。
【0059】
(評点)
◎:10mm未満
○:10mm以上、20mm未満
×:20mm以上
【0060】
(5)耐内容物性(蓋内面側の樹脂フィルムの被覆性)
上記(2)と同様に溶接缶胴19の底部に本発明の缶蓋13を巻締め、
図5に示す形状の缶体18(内容量180ml)を作製した。水道水を充填後、缶体18上部に上蓋21を巻締め密封し、レトルト処理(125℃、30分間)を行った。レトルト処理後に、水充填缶体18が室温になってから、容器上部の蓋を開け、缶体に電解液(NaCl1%溶液)を50ml注入後、缶体と電解液との間に6Vの電圧を付加し、この時に測定される電流値を評価した。以下の評点に従って、耐内容物性として、蓋内面側の樹脂フィルムBの被覆性を評価した。
【0061】
(評点)
◎:0.01mA以下
○:0.01mA超、0.1mA以下
△:0.1mA超、1mA以下
×:1mA超
【0062】
(6)製造性
上述の通りに樹脂被覆金属板10の製造を行い、ラミロール12等への樹脂フィルム2の付着有無を観察し、以下の評点に従って製造性を評価した。
【0063】
(評点)
○:フィルム付着無し
×:フィルム付着有り
【0065】
表1から、本発明の範囲内であれば、耐巻締め性・耐レトルト白化性・密着性・耐内容物性・製造性いずれも優れることが分かった。
【0066】
比較例1,2より、外面側樹脂組成において、PBT比率が低い場合には耐白化性に劣り、PBT比率が高い場合には密着性に劣ることが分かった。また、比較例3〜5より、外面側樹脂フィルムAのラマンバンド強度比が0.60未満の場合には、結晶構造が不適切なため、耐巻締め性に劣ることが分かった。また、比較例6,7より、内面側樹脂フィルムBのラマンバンドの半値幅が、15cm
−1より小さい場合には内面側の樹脂フィルム密着性が劣り製造性も劣る一方、20cm
−1より高い場合には耐内容物性に劣ることが分かった。