(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属やセラミックスなどの結晶性材料は、構成する原子や分子が一定のパターンに従って配列し、配列パターン(方位情報)により、結晶性材料の特性が異なる。したがって、結晶性材料の方位情報は、材料の特性を明らかにし、制御するための重要な情報である。この結晶性材料の方位情報は、電子線後方散乱回折(electron back scattering diffraction)(本明細書においては、“EBSD”という。)法により解析することができる。EBSD法は、走査電子顕微鏡を使用し、EBSDにより得られるEBSDパターン(:菊池線回折パターン)に基づき結晶方位を解析する方法である。
【0003】
図3は、従来の反射型EBSD法の測定原理を示す模式図である。
図3に示すように、走査電子顕微鏡内にバルク試料31を配置し、バルク試料31の表面に電子線(e-)を照射し、表層部から反射する電子線の回折パターン(反射EBSDパターン)を取得する。バルク試料31に入射する電子線(e-)の光軸に垂直な面32とバルク試料31とのなす好ましい角度は、60°〜70°である。EBSDパターンは、EBSDパターン検出器の蛍光スクリーン33で取得し、試料表面上で電子線を走査することにより、方位情報をマッピングする。このようにして、結晶性材料の所定の局所領域における結晶方位を知ることができる。
【0004】
一方、透過型EBSD法が知られている(非特許文献1参照)。
図4は、従来の透過型EBSD法の測定原理を示す模式図である。
図4に示すように、走査電子顕微鏡内に薄膜試料41を配置し、対物レンズ44から薄膜試料41に電子線(e-)を照射し、透過する電子線による回折パターン(透過EBSDパターン)をEBSDパターン検出器の蛍光スクリーン43により取得し、試料上で電子線を走査することにより方位情報をマッピングする。薄膜試料を使用することにより試料中の電子線の広がりを減らすことができ、透過型EBSD法では、通常の反射型EBSD法と比較して、より微細な構造の分析が可能である。
【0005】
図4に示すように、薄膜試料41の法線方向45と電子線の光軸とのなす角度をαとすると、薄膜試料41に入射する電子線の光軸に垂直な面42と薄膜試料41とのなす角度もαである。試料の傾斜角αは、透過EBSDパターンの解像度及び透過EBSDパターンをマッピングして得られる方位マップ像の解像度が良好である点で、0°〜40°が好ましく、10°〜30°が特に好ましい。また、対物レンズ44の下端から、薄膜試料41の測定部位までの距離WD(working distance)は、透過EBSDパターン及び方位マップ像の解像度が良好である点で、3mm〜9mmが好ましく、3mm〜5mmが特に好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反射型EBSD法と透過型EBSD法とでは、試料の好ましい配置が異なるため、試料の測定部位から発生するEBSDによる電子線の方向が異なる。したがって、反射による回折電子線を検出するために配置したEBSDパターン検出器を使用して、透過による回折電子線を検出しようとすると、透過EBSDパターンの歪が大きくなり、EBSDパターンの検出可能範囲が狭くなりやすい。また、歪が大きいことから、パターン中のバンドの検出も難しくなり、指数付けの精度の劣化につながり易い。
【0008】
本発明の課題は、EBSDパターン検出器の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方に、好ましい条件で対応することができるEBSDパターン検出装置を提供することにある。また、本発明は、EBSDパターン検出器の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方において、撮影するEBSDパターンの歪みが小さく、EBSDによる電子線の検出可能範囲が広いEBSD検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のEBSD検出装置は、電子線源と、電子線源からの電子線を集束する集束レンズと、電子線をさらに集束することにより試料上に電子プローブを形成する対物レンズと、試料上で電子プローブを走査する走査コイルとを備える。また、ほぼ鉛直下向きに入射する電子線により試料から生じるEBSDパターンを検出するEBSDパターン検出器と、入射する電子線に対する試料の傾斜角及び配置を変更する試料ホルダーとを備え、EBSDパターンにより試料の結晶方位を解析する。本発明のEBSD検出装置では、EBSDパターン検出器において、
EBSDパターン検出器の配置を変更することなく、EBSDパターンを撮影する撮像素子部の試料に対する仰角
を調整
することにより、反射型EBSD法と透過型EBSD法の双方により解析が可能である。
【0010】
撮像素子部は、上端部にヒンジを備え、ヒンジにより撮像素子部をEBSDパターン検出器本体と回動自在に連結し、EBSDパターン検出器の長手方向に前進又は後進する棒状体で撮像素子部を回動することにより撮像素子部の試料に対する仰角を調整する態様が好ましい。また、撮像素子部は、撮像素子部を構成要素とするカメラと一体化している形態が可能である。かかる撮像素子部の仰角は、20度〜50度に調整する態様が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のEBSD検出装置では、EBSDパターン検出器の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方に、好ましい条件で対応することができる。また、EBSDパターン検出器の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方で、歪の小さいEBSDパターンが得られ、回折電子線の検出範囲を広くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のEBSD検出装置は、電子線源と、電子線源からの電子線を集束する集束レンズと、電子線をさらに集束することにより試料上に電子プローブを形成する対物レンズとを備える。また、試料上で電子プローブを走査する走査コイルと、EBSDパターン検出器と、試料ホルダーとを備える。EBSDパターン検出器は、ほぼ鉛直下向きに入射する電子線により試料から生じるEBSDパターンを検出する。また、使用する試料ホルダーは、入射する電子線に対する試料の傾斜角及び配置を変更し、かかるEBSD検出装置により、EBSDパターンに基づき試料の結晶方位を解析することができる。
【0014】
図1は、本発明のEBSD検出装置の検出部位における模式図であり、撮像素子部2とカメラ電源部13とが分離している態様を示す。
図1(a)は、反射型EBSD法により、対物レンズ7から電子線を照射して、バルク試料5の結晶方位を検出する態様を示す。反射型EBSD法における試料5の好ましい傾斜角δは、60°〜70°である。
図1(a)に例示する態様では、反射型EBSD法を使用する上で、対物レンズ7と、試料5と、EBSDパターンを撮影する撮像素子部2とが好ましい配置関係となるように調整されている。このため、試料5の測定部位から撮像素子部2に垂直に下ろした点(キャリブレーション点)が撮像素子部2の中央に位置し、撮像素子部2が試料5の測定部位を正面から捉えている。したがって、反射による回折電子線6は、撮像素子部2に十分に取り込まれ、歪が小さい反射EBSDパターンを得ることができる。
【0015】
図1(b)及び
図1(c)は、透過型EBSD法により、対物レンズ7から電子線を照射し、結晶性薄膜試料8の結晶方位を検出している態様を示す。
図1(b)に示すように、透過型EBSD法において、試料8の好ましい傾斜角αは、10°〜30°であり、対物レンズ7の下端から、試料8の測定部位までの距離WDは、3mm〜5mmが好ましい。したがって、好ましい傾斜角αとWDとなるように配置すると、透過による回折電子線の放出する方向はある程度定まる。
【0016】
ここに、
図1(b)におけるEBSDパターン検出器1と撮像素子部2との配置は、
図1(a)に示す反射型EBSD法における好ましい配置と同様である。このため、
図1(b)に示すように、透過による回折電子線3の一部は、撮像素子部2の撮像範囲を越えている。また、試料8の測定部位から撮像素子部2に下ろした垂線の足(キャリブレーション点)が、撮像素子部2の上部エッジ付近にあり、撮像素子部2は、透過による回折電子線3を斜めから捉えている。このため、撮像素子部2の下部では、上部と比較して透過EBSDパターン中のバンドの幅が拡大し、透過EBSDパターンに歪が生じる。
【0017】
そこで、
図1(c)に示すように、撮像素子部2を傾け、試料8に対する仰角βを設けることにより、透過による回折電子線3を撮像素子部2に十分に取り込み、透過による回折電子線3の検出範囲を広くすることができる。また、
図1(c)に示すように、キャリブレーション点が撮像素子部2の中央にあり、撮像素子部2は、試料8の測定部位を正面に見上げ、透過による回折電子線3を正面から捉えているため、透過EBSDパターンの歪が減少する。
【0018】
本発明のEBSD検出装置は、EBSDパターン検出器1における撮像素子部2の試料8に対する仰角βが調整可能である。このため、反射型EBSD法により結晶方位を解析した後、EBSDパターン検出器1の配置を変更することなく、好ましい検出条件で透過型EBSD法により結晶方位を解析することができる。また、EBSDパターン検出器1の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方において、撮影するEBSDパターンの歪みが小さく、EBSDによる電子線の検出範囲が広いEBSD検出装置を提供することができる。ここに、撮像素子部2の試料8に対する仰角βとは、
図1(c)に示すように、撮像素子部2の撮像面2bに直交する方向9と水平面10とのなす角度をいう。
【0019】
透過型EBSD法により結晶方位を解析するときの仰角βの好ましい範囲は、WD値、試料8の傾斜角α、撮像素子部2の配置などにより異なるが、一般的には、透過による回折電子線の検出範囲を広くすることができ、歪の小さいパターンが得られる点で、20°以上が好ましく、25°以上がより好ましい。一方、仰角βを大きくするにつれて、EBSDパターンに関与することなく、試料を透過する電子線(e
−)などをより多く取り込み、検出結果が明るくなり、パターンのコントラストが低下する傾向がある。このため、仰角βは、50°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。
【0020】
撮像素子部の仰角βの調整方法としては、
図1(c)に例示するように、撮像素子部2の上端部にヒンジ11を設け、ヒンジ11により、撮像素子部2をEBSDパターン検出器1の本体と回動自在に連結する。EBSDパターン検出器1は、長手方向に前進し又は後進する棒状体4を備え、
図1(c)に示すように、棒状体4で撮像素子部2を回動することにより、撮像素子部2の試料8に対する仰角βを調整することができる。
図1に示す例では、棒状体4は、撮像素子部2の下部に当接し、棒状体4を長手方向に前進することにより、即ち
図1(c)において右方向に移動することにより、仰角βを大きくすることができる。また、棒状体4を長手方向に後進することにより、即ち
図1(c)において左方向に移動することにより、仰角βを小さくし、かかる方法により好ましい仰角βを設定することができる。
【0021】
一方、本発明のEBSD検出装置を使用することにより、透過型EBSD法により結晶方位を解析した後、EBSDパターン検出器の配置をそのまま保持して、反射型EBSD法により結晶方位を解析することができる。
図2は、本発明のEBSD検出装置の検出部位における模式図である。
図2(a)は、透過型EBSD法により、結晶性薄膜試料8の結晶方位を検出している態様を示す。
図2(a)に示すように、透過型EBSD法における好ましい配置は、試料8の傾斜角αが、10°〜30°であり、WDが、3mm〜5mmであり、撮像素子部2の仰角βが20°〜50°である。透過型EBSD法では、
図2(a)に示すような配置関係とすることにより、透過による回折電子線3の検出範囲を広くすることができ、歪の小さい透過EBSDパターンが得られる。
【0022】
図2(b)及び
図2(c)は、反射型EBSD法により、バルク試料5の結晶方位を検出している態様を示す。
図2(b)に示すように、反射型EBSD法において、試料5の好ましい傾斜角δは、60°〜70°であり、試料5の配置により、反射による回折電子線6の放出する方向はある程度定まる。
図2(b)におけるEBSDパターン検出器1と撮像素子部2との配置は、
図2(a)における透過型EBSD法における好ましい配置と同様である。したがって、
図2(b)に示す態様では、キャリブレーション点が撮像素子部2の下部に位置し、撮像素子部2は、反射による回折電子線6を斜めから捉えている。このため、撮像素子部2の上部では、下部と比較して、反射EBSDパターン中のバンドの幅が拡大し、歪の大きい反射EBSDパターンが生じる。
【0023】
そこで、
図2(c)に示すように、撮像素子部2の仰角βを0°とすることにより、撮像素子部2の正面に試料5の測定部位が配置することになり、反射による電子線6を正面から捉えているため、パターンの歪を小さく抑えることができる。このように本発明のEBSD検出装置は、EBSDパターン検出器1における撮像素子部2の仰角βが調整可能である。このため、透過型EBSD法により結晶方位を解析した後、EBSDパターン検出器1の配置を変更することなく、好ましい検出条件で反射型EBSD法により結晶方位を解析することができる。
【0024】
また、EBSDパターン検出器1の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方において、EBSDパターンの歪みが小さく、回折電子線の検出可能範囲が広いEBSD検出装置を提供することができる。
図2(c)に示す例では、仰角β=0°に調整したが、EBSD検出装置の測定態様に応じて、仰角βを好ましい値に調整することができ、調整方法は、前述のとおり、ヒンジ11と棒状体4により容易に行うことができる。
【0025】
図5は、本発明のEBSD検出装置の検出部位における模式図であり、撮像素子部2が、撮像素子部2を構成要素とするカメラ2aと一体化している態様を示す。
図5(a)は、反射型EBSD法により、対物レンズ7から電子線を照射し、バルク試料5の結晶方位を解析する態様を示す。
図5(a)に示すように、反射型EBSD法における好ましい態様は、試料5の傾斜角δが60°〜70°である。また、
図5(a)に示す例では、撮像素子部2の仰角は0°である。かかる態様では、EBSDパターン検出器1における撮像素子部2の中央にキャリブレーション点が位置しているため、反射による回折電子線6の検出範囲が広く、歪が小さい反射EBSDパターンを検出することができる。
【0026】
図5(b)は、透過型EBSD法により、結晶性薄膜試料8の結晶方位を解析している態様を示す。
図5(b)に示すように、透過型EBSD法における好ましい測定態様は、試料8の傾斜角αが、10°〜30°であり、WDが、3mm〜5mmである。
図5(b)に示す例では、透過による回折電子線3の方向に対応して、撮像素子部2の仰角βが20°〜50°となるように調整している。したがって、キャリブレーション点が撮像素子部2の中央にあるため、透過による回折電子線3の検出範囲が広く、透過EBSDパターンの歪を小さくすることができる。
【0027】
したがって、
図5に例示するEBSD検出装置においても、撮像素子部2の仰角βを調整可能であるため、反射型EBSD法により解析した後、EBSDパターン検出器1の配置を変更することなく、好ましい検出条件で、透過型EBSD法により解析することができる。また、EBSDパターン検出器の配置を変更することなく、反射型EBSD法と透過型EBSD法の両方において、EBSDによる電子線の検出範囲が広く、歪みが小さいパターンを得ることができる。
【0028】
図5に例示するEBSDパターン検出器1では、撮像素子部2の仰角βの調整方法は、
図5(a)に示すように、撮像素子部2が、上端部にヒンジ11を備え、ヒンジ11により、撮像素子部2をEBSDパターン検出器1の本体と回動自在に連結する。EBSDパターン検出器1は、長手方向に前進又は後進する棒状体4を備え、撮像素子部2と棒状体4とはヒンジ11aにより回動自在に連結している。そこで、
図5(b)に示すように、棒状体4で撮像素子部2を回動させ、撮像素子部2の試料8に対する仰角βを調整する。即ち
図5(a)に示す態様において、棒状体4を長手方向に前進(:
図5(a)で右方向に移動)することにより、
図5(b)に示すように、撮像素子部2の仰角βを大きくすることができる。
【0029】
図5に示す態様では、撮像素子部2は、撮像素子部2を構成要素とするカメラ2aと一体化しているため、カメラ2a本体の重心が撮像素子部2上にない。しかし、かかる態様においても、
図5(a)に示すように、棒状体4により撮像素子部2を所定の位置に保持することにより、撮像素子部2の仰角βが所定の値となるように調整することができる。