【実施例】
【0066】
[1]1,5−AFは、NLRP1、NLRP3、NLRC4及びAIM2が関連する全てのインフラマソーム経路を介したプロカスパーゼ1の活性化を抑制した
[実施例1]
インフラマソームの構成成分であるNLRは、細胞内の病原体等を認識するパターン認識受容体であり、これにDAMPsやPAMPsが結合することによりインフラマソームが活性化される。NLRは多くのものが知られているが、本実施例においてはNLRの代表としてNLRP1、NLRP3、NLRC4、AIM2を活性化する薬剤を用いて実験を行った。各NLRを活性化するものとして以下の薬剤を用いた:
NLRP1 Anthrax PAとLF(ANT)(List Biologist社)
NLRP3 ATP、nigericin(NIG)、尿酸塩(MSU)、Imject Alum Ajuvant(ALU)
NLRC4 フラジェリンFLA
AIM2 poly(dA:dT)(POL)(Sigma社)、リポフェクタミン2000(LIP)(Invitrogen社)。
【0067】
本実施例において、Nakahira,Kらの方法(Nat.Immunol.12 (2011)222−30)に従ってマウス由来骨髄マクロファージを作製した。C57/BL6の雄性マウスの大腿骨及び脛骨より、骨髄幹細胞を抽出し、L929細胞より抽出した培養上清液(M−CSFを含む)を25%含むDMEM液体培地(10%FBS及び2%ペニシリンストレプトマイシン含有)中で6日間培養し、マクロファージへと分化させた。6日間経過後に、マウス由来骨髄マクロファージを回収し、細胞数を調節し、各デッシュにまきなおし、オーバーナイトで接着させた後に、LPS、及びインフラマソームを誘導する薬剤を添加した。
【0068】
最初に、TLRsからの刺激(シグナル1)でpro−IL−1β(IL−1βの前駆体)及びpro−IL−18(IL−18の前駆体)を細胞質内で作らせる目的で、LPSの添加を行った。LPSは、Invitrogen社のUltrapure LPSを使用し、100ng/ml濃度で4時間刺激を行った。
【0069】
その後、1,5−AFを30分間インキュベートし、さらにインフラマソームを誘導する薬剤を添加した。
【0070】
NLRP1を活性化する場合は、Anthrax PAとLF(ANT)を5 μg/mlずつ入れ6時間インキュベートして誘導した。NLRP3の場合は、ATP 5mMで1時間、ニゲリシン(Nigericin:NIG) 5μMで1時間、Imject Alum Ajuvant(ALU) 200μg/mlで6時間、尿酸塩(MSU) 150μg/mlで6時間インキュベートして誘導した。NLRC4の場合は、フラジェリン(FLA)2.5μg/mlで6時間インキュベートして誘導した。AIM2の場合は、リポフェクタミン2000(LIP)を使用し、poly(dA:dT)(POL)をトランスフェクションさせることで誘導した。IL−1βやIL−18の定量はR&D社のELISAキットを用いて行った。
【0071】
実施例1の結果を
図5−8に示す。
図5−8より、1,5−AFは、NLRP1、NLRP3、NLRC4及びAIM2が関連する全てのインフラマソーム経路を介したプロカスパーゼ1の活性化によるIL−1β、IL−18の生成を抑制したことがわかる。
図5−8に示す結果について以下に説明する。
【0072】
LPSで刺激した骨髄マクロファージのメディウム中にATP、ニゲリシン、尿酸塩又はアラムを添加することによりNLRP3インフラマソーム経路を活性化した。LPSでインキュベートした骨髄マクロファージに対して、サルモネラ菌の菌体成分を抽出したフラジェリン(FLA)を添加することによりNLRC4インフラマソーム経路を活性化した。LPSでインキュベートした骨髄マクロファージに対して、DNAを抽出したpoly(dA:dT)(POL)を、リポフェクタミン2000を使用してトランスフェクションすることによりAIM−2インフラマソーム経路を活性化した。
【0073】
アラム(ALU)又は尿酸塩(MSU)は、NLRP3経路を活性化する代表的な分子である。LPSで刺激した骨髄マクロファージにアラム又は尿酸塩を加えるとNLRP3インフラマソームが活性化された(Nature Immunology, 2013 May;14(5):454−60)。これに対し、1,5−AFが存在する場合には、アラム又は尿酸塩によるNLRP3インフラマソームの活性化は抑制された(
図9も参照)。
【0074】
細菌毒素の一種であるニゲリシン(NIG)はNLRPsを活性化し、カスパーゼ1を介してIL−1β及びIL−18を再生、放出させて、炎症を引き起こす。LPSで刺激した骨髄マクロファージにニゲリシンを加えるとインフラマソームが活性化された。これに対し、1,5−AFが存在する場合には、ニゲリシンによるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1β及びIL−18の産生、放出は強く抑制された(
図10も参照)。
【0075】
ATPはNLRP3経路でインフラマソームを活性化する。LPSで刺激した骨髄マクロファージにATPを加えるとインフラマソームが活性化された。これに対し、1,5−AFが存在する場合には、ATPによるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1β及びIL−18の産生、放出は抑制された(
図11も参照)。また、アンヒドログルコース(AG)及びフルクトースと比較して、1,5−AFはATPによるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1β及びIL−18の産生、放出を濃度依存性に抑制した(
図11参照)。
【0076】
炭疽菌毒素(anthorax toxin:ANT)はNLRP1経路でインフラマソームを活性化する。炭疽菌毒素は強い肺障害を起こし、バイオテロに使用される危険性からその対策が急がれている。LPSで刺激した骨髄マクロファージに炭疽菌毒素を加えるとNLRP1インフラマソームが活性化された。これに対し、1,5−AFが存在する場合には、炭疽菌毒素よるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1β及びIL−18の産生、放出は強く抑制された(
図12も参照)。
【0077】
フラジェリン(FLA)はNLRP4を活性化し、カスパーゼ1を介してIL−1β及びIL−18を再生、放出させて、炎症を引き起こす。フラジェリン(FLA)は、鞭毛を有する細菌(ピロリ菌等)の鞭毛の構成タンパク質の一種で、樹状細胞等に発現しているトール様受容体5(Toll like receptor 5)を介して炎症を惹起する。LPSで刺激した骨髄マクロファージにフラジェリンを加えるとインフラマソームが活性化された。これに対し、1,5−AFが存在する場合には、フラジェリンによるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1β及びIL−18の産生、放出は強く抑制された(
図13も参照)。
【0078】
宿主の2重鎖DNA(dsDNA)はAIM2/ASC経由でカスパーゼを活性化して、IL−1β及びIL−18を産生放出し、炎症を引き起こすことが判明している。dsDNAとしてpoly(dA:dT)(POL)で骨髄マクロファージを刺激した。1,5−AFが存在する場合には、コントロールに比べ、1,5−AFを添加した群の培養上清中のIL−1βの産生は顕著に抑制されており、1,5−AFがAIM2/ASC経路からのインフラマソーム活性化を抑制していることが実証された(
図14も参照)。
【0079】
[2](i)LPSとATPの両方の刺激があったもののみプロカスパーゼ−1のカスパーゼ1への活性化とIL−1β前駆体(proIL−1β)のIL−1βへの成熟化、細胞外への分泌が起きた
(ii)1,5−AFはインフラマソームの活性化を介したプロカスパーゼ1からカスパーゼ1への活性化を抑制した
[実施例2]
実施例1同様に、本実験はNakahira,Kらの方法(Nat.Immunol.12 (2011)222−30)に従ってマウス由来骨髄マクロファージを作製し、実験を行った。C57/BL6の雄性マウスの大腿骨及び脛骨より、骨髄幹細胞を抽出し、L929細胞より抽出した培養上清液(M−CSFを含む)を25%含むDMEM液体培地(10%FBS及び2%ペニシリンストレプトマイシン含有)中で6日間培養し、マクロファージへと分化させた。6日間経過後に、マウス由来骨髄マクロファージを回収し、細胞数を調節し、各デッシュにまきなおし、オーバーナイトで接着させた後に、LPS、及びインフラマソームを誘導する薬剤を添加した。
【0080】
最初に、TLRsからの刺激(シグナル1)でpro−IL−1β(IL−1βの前駆体)を細胞質内で作らせる目的で、LPSの添加を行った。LPSは、invivoGen社のUltrapure LPSを使用し、100ng/ml濃度で4時間刺激を行った。
【0081】
その後、1,5−AFを30分間インキュベートし、さらにインフラマソームを誘導する薬剤を添加した。NLRP3の場合は、ATP 5mMで時間インキュベートし誘導した。各サンプルの細胞と上清各分を電気泳動にかけ、カテプシンB抗体(Santa Cruz社、sc−13985)、ASC抗体(Santa Cruz社、sc−22514−R)、カスパーゼ−1抗体(Santa Cruz社、sc−514)、IL−1β抗体(Biovision社、5129−100)、β−アクチン抗体(Sigma社、A1978)を用いて、ウエスタンブロッティングを行った。
【0082】
実施例2の結果を
図15に示す。
図15より、LPSとATPの両方の刺激があったもののみプロカスパーゼ−1のカスパーゼ1への活性化とIL−1β前駆体(proIL−1β)のIL−1βへの成熟化、細胞外への分泌が起きたことがわかる。そして、1,5−AFはインフラマソームの活性化を介したプロカスパーゼ1からカスパーゼ1への活性化を抑制することが明らかとなった。
【0083】
[3]1,5−AFは実験的アルツハイマー病やパーキンソン病に使われる神経障害因子であるロテノンによるインフラマソーム活性化を抑制した
[実施例3]
ワイルドタイプマウスより腹腔マクロファージを抽出し、これにLPSを添加してプライミングした後に、インフラマソームを誘導する薬剤としてロテノン(rotenon)を添加(1時間)して上清中のIL−1βの定量をELISAキットを用いて行った。ロテノンは、ミトコンドリア障害因子であり、実験的アルツハイマー病やパーキンソン病に使われる神経障害因子である。ミトコンドリアが障害されると、障害ミトコンドリアから大量のATPが放出されて、インフラマソームが活性化されて炎症が惹起されることが知られている。神経系の場合にはこのことがアルツハイマー病やパーキンソン病の原因となることがわかっている。
【0084】
1,5−AFは、ロテノンによるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1βの産生、放出を抑制した(
図16)。
【0085】
[4]1,5−AFをALIの代表的モデルに腹腔内投与すると顕著に肺組織像と気管支肺胞洗浄液中の炎症性細胞浸潤が抑制された
[実施例4]
C57/BL6ワイルドマウスにLPSを経気管投与してALIモデルを作製した。LPS(エンドトキシン)を経気管投与すると激しい肺障害が惹起され、これはALIの代表的モデルとされている(Gustavo Matute−Bello,et al. “Animal models of acute lung injury”, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 295: L379−L399, 2008)。急性肺障害(acute lung injury, ALI)や急性呼吸促拍症候群(acute respiratory distress syndrome, ARDS)はインフラマソーム活性化に伴う代表的な疾患である。
【0086】
作製したマウス(ALIモデル)に1,5−AFを腹腔内投与すると顕著に肺組織像と気管支肺胞洗浄液中の炎症性細胞浸潤が抑制された(
図17)。
【0087】
[5]1,5−AFをSIRSモデルに投与すると顕著に生存率が改善された
[実施例5]
C57/BL6ワイルドタイプマウスにLPSを腹腔内投与してSIRSモデルを作製した。全身性にインフラマソームが活性化されるとIL−1β等の炎症性サイトカインが全身を循環しSIRSを引きおこし、臨床上も重要な病態となっている。
【0088】
作製したマウス(SIRSモデル)に治療群として1,5−AFを100mg/kg、LPS投与2、6、12、24時間後に投与し、5日間観察したところ、顕著に生存率が改善された(
図18)。
【0089】
[6]1,5−AFはプロカスパーゼ1のカスパーゼ1への活性化を抑制して炎症性細胞死を抑制した
[実施例6]
プロカスパーゼ1のカスパーゼ1への活性化は、単にpro−IL−1βとpro−IL−18のIL−1β、IL−18への活性化で免疫担当細胞を病巣部へリクルートするのみでなく、プログラム化された炎症性細胞死(pyroptosis)をも引き起こす。これらは新しい炎症の概念である。本発明者らは、1,5−AFがプロカスパーゼ1のカスパーゼ1への活性化を抑制して、炎症性細胞死を抑制することを検証した。
【0090】
マウス骨髄細胞をLPSで4時間インキュベーションしてプライミングし、次に1,5−AFと30分間インキュベーションした後に、完全に1,5−AFを洗い去り、次にニゲリシン(5μM)で1時間インキュベーションして、炎症性細胞死を検討した。
【0091】
3つのサンプルについての結果を表1に示す。LPSとニゲリシンを加えたものは、炎症性細胞死が誘導されて、生細胞数はLPS単独に比べ、約1/6に減少していたが、1,5―AF(10mg/ml)を添加した場合、炎症性細胞死した細胞数は約1/3程度に収まり、細胞死は抑制され、生細胞数は50%近くまで増加した。すなわち1,5−AFによりニゲリシンによる炎症性細胞死は抑制された。
【表1】
【0092】
[7]1,5−AFはアポトーシス関連スペック様カード蛋白質(ASC)を標的とする
[実施例7]
ASCを発現させたHEK細胞をエンドトキシン刺激し(第1刺激)、次にpoly(dA:dT)を加えた(第2刺激)場合、
図19の列5のようにASCモノマーは、ダイマー、トリマー及びテトラマーを形成した。しかしながら、1,5−AFの存在下では、このようなASCモノマーの重合体は観察されなかった(
図19の6列参照)。つまり、1,5−AFはASCの重合を抑制していることが示唆された。結果として1,5−AFは
図3−2に示されるASC重合阻害を介してカスパーゼ1の生成を阻害して、結果的にIL−1b、IL−18の産生を抑制しているものといえる。
【0093】
[8]1,5−AFは、シリカによるインフラマソーム活性化を抑制した
[実施例8]
マウス骨髄単核球を培養し、シリカ(珪酸マグネシウム:50μg/ml)による刺激した後、1,5-AF(5μg/ml)を添加して1時間後、IL−18の濃度を測定した(
図20a)。同様に、各濃度のシリカで骨髄単核球を刺激した後、5時間後に1,5−AF(2〜10mg/ml)加え、IL−1βの濃度を測定した(
図20b)。
【0094】
1,5−AFは、シリカによるインフラマソーム活性化、すなわちIL−18、IL−1βの産生、放出を抑制した(
図20)。
【0095】
石綿肺のモデル実験において、炎症を抑制し、石綿肺防止剤として利用できることが分かった。
【0096】
[9]1,5−AFは、炭疽菌毒素によるインフラマソーム活性化IL−1βの産生、放出を抑制した
[実施例9]
マウス骨髄単核球を炭疽菌毒素(anthorax toxin:1mg/ml)又はアラム(50μg/ml)で4時間培養刺激した後、1,5−AF(5mg/ml)を添加して、2時間後のIL−1βの濃度を測定した(
図21)。アラムはポジティブコントロールとして使用した。
【0097】
1,5−AFは、炭疽菌毒素によるインフラマソーム活性化、すなわちIL−1βの産生、放出を抑制した(
図21)。
【0098】
炭疽菌によるバイオテロへの防御剤として利用できることが分かった。
【0099】
[10]1,5−AFは、LPS+シリカ又はATPで刺激したヒト末梢血単核細胞に対してもIL−1βの放出を抑制する効果を有する
[実施例10]
ヒト末梢血を採取し、Lymphoprep(Ficoll)を使用してヒト末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。PBMCを、DMEM+10%FBS培地に当たり0.1x10
6個/ウェルずつまいて、実験に用いた。LPS 500ng/mlで3時間プライミング処理した。1,5−AF(2〜10mg/ml)を加え、30分インキュベートした後にシリカ(250μg/ml)で2時間刺激した後、上清を回収した。
【0100】
[実施例11]
ヒト末梢血を採取し、Lymphoprep(Ficoll)を使用してヒト末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。PBMCを、DMEM+10%FBS培地に当たり0.1x10
6個/ウェルずつまいて実験に用いた。LPS 500ng/mlで3時間プライミング処理した。1,5−AF(2〜10mg/ml)を加え、30分インキュベートした後にATP(2〜5mM)で1時間刺激した後、上清を回収した。
【0101】
1,5−AFは、LPS+ATPで刺激したヒト末梢血単核細胞に対してもIL−1βの放出を抑制する効果を有することが分かった(
図22)。