【実施例】
【0030】
<フッ化マンガン酸カリウムの合成>
以下、本発明の実施例と比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
実施例1のフッ化マンガン酸カリウム(K
2MnF
6)を、非特許文献1に記載のBode法に準じて作製した。容量2000mlのフッ素樹脂製ビーカーに濃度40質量%のフッ化水素酸800mlを入れ、フッ化水素カリウム粉末(和光純薬工業製、特級試薬)260g及び過マンガン酸カリウム粉末(和光純薬工業製、試薬一級)12gを溶解させた。このフッ化水素酸溶液を撹拌しながら、30%過酸化水素水(和光純薬工業製、特級試薬)8mlを少しずつ滴下した。過酸化水素水の滴下量が一定量を越えると黄色粉末が析出し始め、反応液の色が紫色から変化し始めた。過酸化水素水8mlを滴下後、しばらく撹拌を続けた後に撹拌を止め、析出粉末を沈殿させた。沈殿後、上澄み液を除去してメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。その後、ろ過により析出粉末を回収し、更に乾燥を行ってメタノールを完全に蒸発除去して実施例1のフッ化マンガンカリウム(原料Aという)を得た。なお、フッ化マンガン酸カリウムの析出反応は、−5℃に設定した恒温槽(エチレングリコール水溶液)に前記フッ素樹脂製ビーカーをセットし、水溶液の温度が0℃を超えない条件で実施した。
【0031】
<実施例2>
実施例2では、フッ化水素酸水溶液のフッ化水素濃度を60質量%とした以外は、実施例1と同じ方法により、フッ化マンガン酸カリウム(原料Bという)を合成した。
【0032】
<比較例1>
比較例1では、フッ化マンガン酸カリウムを常温で析出させた以外は、実施例1と同じ方法により、フッ化マンガン酸カリウム(原料Cという)を合成した。
【0033】
<比較例2>
比較例2では、恒温槽の設定温度を10℃として、またフッ化マンガン酸カリウム析出反応時の温度を10〜15℃とした以外は、実施例1と同じ方法により、フッ化マンガン酸カリウム(原料Dという)を合成した。
【0034】
<フッ化マンガン酸カリウム中の、カリウム及びマンガン含有濃度>
参考として、実施例1及び比較例1のフッ化マンガン酸カリウム(即ち原料Aと原料C)に含まれるカリウム及びマンガンの含有濃度をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析により測定した。原料Aのカリウム及びマンガン濃度はそれぞれ31.9質量%、22.2質量%であり、原料Cのカリウム及びマンガン濃度は、それぞれ33.0質量%、20.9質量%であり、いずれもフッ化マンガン酸カリウム(K
2MnF
6)の量論組成比で算出されるK:31.6質量%、Mn:22.2質量%に近い値であった。
【0035】
<フッ化マンガン酸カリウムのX線光電子分光分析>
実施例1、2及び比較例1、2のフッ化マンガン酸カリウム(即ち原料A、原料B、原料C、原料D)の、X線光電子分光分析による測定を、サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製K−Alpha型で行った。フッ化マンガン酸カリウムは専用の粉末測定用の試料ホルダーに、試料面が平らになるように充填した。
測定条件は、以下の通りである。
X線源:モノクロメータ付きAlKα線
帯電中和:低速電子と低速Ar+イオンの同軸照射型のデュアルビーム
検出角度:90°
出力:36W
測定領域:約400μm×200μm
パスエネルギー:50eV
測定範囲:Mn2pスペクトルの632〜670eV
データ:0.1eV/step、50msecで取り込み、積算回数は5回
【0036】
<X線光電子分光分析データの解析>
X線光電子分光分析で得られたデータは、サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製K−Alpha型に付属している解析ソフトThermo Avantageを用いて解析した。なお、得られた結合エネルギースペクトルに関する結合エネルギー補正は、C1sスペクトルにおけるC−C結合(284.8eV)で行った。
【0037】
実施例1(即ち原料A)の結合エネルギー補正を行った結合エネルギースペクトル図を
図1に、また
図1の一部を拡大した
図2を示す。なお、これらのスペクトル図で、結合エネルギーが633eV〜638eVの領域の信号強度の平均カウント数をバックグラウンド値とした。次に、結合エネルギーが643〜644eVの領域で一番大きい信号強度のカウント数から、上記バックグラウンド値を差し引いた信号強度値Aと、結合エネルギーが645〜646eVの領域で一番大きい信号強度のカウント数から、上記バックグラウンド値を差し引いた信号強度値Bを求めた。実施例1の信号強度値A/信号強度値Bの比の値は、0.70であった。同様にして、実施例2(原料B)、比較例1(原料C)、比較例2(原料D)に関する信号強度値A/信号強度値Bの比の値は、それぞれ0.59、1.31、0.97であった。これらの値は表1に記載した。
【0038】
<マンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体の合成>
次に実施例1、2及び比較例1、2のフッ化マンガン酸カリウム(即ち原料A、原料B、原料C、原料D)を原料に用いて、以下の方法により、マンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体を合成した。
【0039】
<実施例3>
常温下で、容量2000mlのフッ素樹脂製ビーカーに濃度55質量%フッ化水素酸1000mlを入れ、フッ化水素カリウム粉末(和光純薬工業製、特級試薬)127.5g溶解させて水溶液を調製した。この水溶液を撹拌しながら、二酸化ケイ素粉末(デンカ製、FB−50R、非晶質、比表面積0.4m
2/g)34.5gと、実施例1のフッ化マンガン酸カリウム(原料A)粉末4.5gを入れた。粉末を水溶液に加えると二酸化ケイ素の溶解熱により、水溶液温度が上昇し、溶液温度は粉末を添加して約3分後に最高温度(約40℃)に到達し、その後は二酸化ケイ素の溶解が終了したために溶液温度は下降した。なお、白色の二酸化ケイ素粉末を加えると直ちに水溶液中で黄色粉末が生成し始めていることが確認されていることから、二酸化ケイ素粉末の溶解と黄色粉末の析出が同時に起こっていた。
【0040】
二酸化ケイ素粉末が完全に溶解した後、しばらく水溶液を撹拌し、黄色粉末の析出を完了させた後、溶液を静置して固形分を沈殿させた。沈殿確認後、上澄み液を除去し、濃度20質量%のフッ化水素酸及びメタノールを用いて黄色粉末を洗浄し、更にこれをろ過して固形分をろ過回収し、更に乾燥処理により、残存メタノールを蒸発除去した。乾燥処理終了後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収した。これを実施例3のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体(蛍光体Aという)とした。
【0041】
<実施例4>
実施例3のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体の合成で用いた実施例1のフッ化マンガン酸カリウム粉末を、実施例2のフッ化マンガン酸カリウム粉末(原料B)に置き換えた以外は、実施例3と同じ方法により、実施例4のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体(蛍光体Bという)を得た。
【0042】
<比較例3>
実施例3のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体の合成で用いた実施例1のフッ化マンガン酸カリウム粉末を、比較例1のフッ化マンガン酸カリウム粉末(原料C)に置き換えた以外は、実施例3と同じ方法により、比較例3のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体(蛍光体Cという)を得た。
【0043】
<比較例4>
実施例3のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体の合成で用いた実施例1のフッ化マンガン酸カリウム粉末を、比較例2のフッ化マンガン酸カリウム粉末(原料D)に置き換えた以外は、実施例3と同じ方法により、比較例4のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体(蛍光体Dという)を得た。
【0044】
<マンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体のX線回折パターン>
参考として、実施例3で得られたマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体(蛍光体A)の黄色粉末を、X線回折装置を用いて、X線回折パターンを測定した結果、いずれもヘキサフルオロケイ酸カリウム(K
2SiF
6)結晶と同一パターンであり、マンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウムが単相で得られたことを確認した。
【0045】
<蛍光体のメディアン径測定>
実施例3、4及び比較例3、4のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体(即ち、蛍光体A、蛍光体B、蛍光体C、蛍光体D)の粒度分布を、測定溶媒としてエタノールを使用し、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製LC13 320)により測定し、得られた累積粒度分布曲線から、各蛍光体の体積基準のメディアン径(D50)を求め、表2に示した。なお、なお、実施例3、4及び比較例3、4の蛍光体(蛍光体A、蛍光体B、蛍光体C、蛍光体D)のメディアン径はほぼ同じであった。
【0046】
<蛍光体の吸収率、内部量子効率、外部量子効率測定>
実施例3、4及び比較例3、4のマンガン付活ヘキサフルオロケイ酸カリウム蛍光体について、常温における波長455nmの青色光で励起した時の量子効率などを、次の方法により求めた。
【0047】
即ち、積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源としてのXeランプから455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD−7000)により測定した。その際、450〜465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0048】
次に、凹型のセルに表面が平滑になるように、蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465〜800nmの範囲で算出した。
【0049】
得られた前記三種類のフォトン数から、吸収率=(Qex−Qref)/Qex×100、内部量子効率=Qem/(Qex−Qref)×100、外部量子効率=Qem/Qex×100を求めた。実施例3、4及び比較例3、4の蛍光体に関する、波長455nm励起での吸収率、内部量子効率、外部量子効率を表2に併せて示す。
【0050】
<単色パッケージの作製と信頼性評価>
さらに次の方法により、実施例3、4及び比較例3、4の蛍光体を一種類ずつ実装する、実施例5、6及び比較例5、6の単色パッケージの作製し、その信頼性を評価した。
【0051】
<単色パッケージの作製>
実施例3の蛍光体(蛍光体A)を、シリコーン樹脂(信越化学製KER−2500)に添加し、脱泡・混練後、ピーク波長450nmの青色LED素子を接合した表面実装タイプのパッケージにポッティングし、更にそれを熱硬化させることにより、実施例5の単色パッケージを作製した。物蛍光体/シリコーン樹脂の配合比は、30/70質量%とした。得られた実施例5の単色パッケージを通電発光させた際の全光束を、大塚電子製の全光束測定装置(直径300mm積分半球と分光光度計/MCPD−9800の組合せ)により測定した。一種の蛍光体に対して、5個の単色パッケージを測定し、その平均値を算出した。次に、それぞれのフッ化物蛍光体を用いた単色パッケージを温度85℃、相対湿度85%の恒温恒湿槽(エスペック製、SH−642)の中で、1000時間通電点灯させた後、再びの全光束を測定し、初期値に対する全光束の保持率を算出した。1000時間通電点灯後の、実施例5の単色パッケージの全光束維持率は89%であり、表3に示した。
【0052】
同様に、実施例4の蛍光体(蛍光体B)を用いて実施例6の単色パッケージを、比較例3(蛍光体C)の蛍光体を用いて比較例5の単色パッケージを、比較例4の蛍光体(蛍光体D)を用いて比較例6の単色パッケージそれぞれ作製し、それぞれの全光束維持率を測定し、表3に併せて示した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表1〜表3の結果から、本発明のフッ化マンガン酸カリウムは、優れた特性を有するマンガン付活複フッ化物蛍光体の原料であることが判る。