(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、容器内に圧縮機構部とモータとを収納し、容器の接合部を溶接した全密閉型の圧縮機(以下、単に「密閉型圧縮機」という。)が知られている。従来の密閉型圧縮機の製造方法では、密閉型圧縮機に空気や窒素ガス等を圧縮した圧縮ガスを封入した後、圧縮ガスを封入した状態で密閉型圧縮機を水没させて、泡の発生を目視観察してリークの有無を確認していた。しかしながら、このような方法では、10
−5Pa・m
3/sec程度の検知精度しかなく、微小なリークを検知できないまま密閉型圧縮機を出荷してしまう可能性があった。
一方、検知精度を向上させるため、リーク検査の検知ガスとしてヘリウムガスを用いる方法が知られている。しかしながら、この方法を密閉型圧縮機の製造方法に適用する場合、下記の理由により、出荷前に検知ガスを一旦抜いて窒素等の内部酸化防止ガスと入れ替える必要があり、工数の増加や、検知ガスの回収設備の投資の増加に繋がる場合があった。
(1)ヘリウムガスはゴム等に対する浸透性が強いため、長期的には密閉型圧縮機のゴムからなる封止栓を通過して漏れてしまい、内部酸化防止効果が小さくなる。
(2)ヘリウムガスは高価であり、ヘリウムガスを多量に使用した場合には回収しないと製造コストが高くなる。
又、リーク検査の検知ガスとして、安価な水素ガスを用いる方法もある。しかしながら、この方法を密閉型圧縮機の製造方法に適用する場合、内部化学変化防止のため、出荷前に検知ガスを一旦抜いて窒素ガス等の不活性ガスと入れ替える必要があり、工数の増加や設備投資の増加に繋がる場合があった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の密閉型圧縮機の製造方法及び密閉型圧縮機を、図面を参照して説明する。
【0008】
以下、
図1を用いて、密閉型圧縮機の構成について説明する。
図1は、実施形態の密閉型圧縮機の断面図を含む概略構成を示す図である。
本実施形態では、密閉型圧縮機として、一例として回転式圧縮機を挙げて説明する。回転式圧縮機は、ロータリ式の圧縮機であり、内部に取り込まれる低圧の気体冷媒(流体)を圧縮して高温・高圧の気体冷媒とする。
【0009】
図1に示すように、密閉型圧縮機1は、圧縮機本体2と、アキュムレータ3と、を備える。
【0010】
圧縮機本体2は、回転軸20と、電動機部21と、圧縮機構部22と、円筒状の密閉容器23と、を備える。
電動機部21は、回転軸20を回転させる。
圧縮機構部22は、回転軸20の回転により気体冷媒を圧縮する。
密閉容器23は、回転軸20、電動機部21及び圧縮機構部22を収容する。
密閉容器23及び回転軸20は、軸線CLに沿って同軸状に配置される。軸線CLに沿う一端側(第1部分、
図1における上側)には電動機部21が配置され、他端側(第2部分、
図1における下側)には圧縮機構部22が配置される。以下、軸線CLに沿う方向を単に軸方向といい、軸線CLに直交する方向を径方向、軸線CL周りの方向を周方向という。
【0011】
電動機部21は、インナーロータ型のDCブラシレスモータである。電動機部21は、筒状の固定子21aと、円柱状の回転子21bと、を備える。
【0012】
固定子21aは、密閉容器23の内壁面に焼嵌め等により固定される。固定子21aは、例えば複数の磁性鋼板を軸方向に積層して形成される。固定子21aには、図示しないインシュレータを介してコイルが巻装される。
【0013】
回転子21bは、固定子21aの内側に径方向に間隔をあけて配置される。回転子21bは、ロータ鉄心21cを備える。
ロータ鉄心21cは、回転軸20のうち軸方向の一端部に圧入固定される。ロータ鉄心21cは、例えば複数の磁性鋼板を軸方向に積層して形成される。ロータ鉄心21cの外周部分には、ロータ鉄心21cを軸方向に貫通する複数の収容孔21dが形成される。収容孔21dは、ロータ鉄心21cを軸方向から見た平面視で例えば長方形状とされる。収容孔21dは、周方向に等間隔に複数配置される。各収容孔21dには、ネオジム等の希土類からなる平板状の永久磁石21eがそれぞれ収容される。
【0014】
ロータ鉄心21cの軸方向両端側には、一対の端板21f,21gが設けられる。ロータ鉄心21cは、一対の端板21f,21gにより挟持される。各端板21f,21gは、環状を有し、非磁性材料により形成される。各端板21f,21gは、収容孔21dを軸方向の両側からそれぞれ覆う。各端板21f,21g及びロータ鉄心21cのそれぞれは、それらを軸方向に貫通するカシメピン21hによって軸方向に積層された状態で固定される。
【0015】
圧縮機構部22は、第一シリンダ22aと、第二シリンダ22bと、を備えている。第二シリンダ22bは、第一シリンダ22aに対して軸方向の他端側(第2端、
図1における上側よりも下側に近い位置)に位置する。
各シリンダ22a,22bは、筒状とされ、仕切板22cを挟んで軸方向で突き合わされる。又、第一シリンダ22aに対して軸方向の一端側(第1端、
図1における下側よりも上側に近い位置)には、第一シリンダ22aを軸方向の一端側から覆う主軸受22dが設けられる。第二シリンダ22bに対して軸方向の他端側(第2端、
図1における上側よりも下側に近い位置)には、第二シリンダ22bを軸方向の他端側から覆う副軸受22eが設けられる。第一シリンダ22a、仕切板22c及び主軸受22dにより画成される空間は、第一シリンダ室22s1を構成する。第二シリンダ22b、仕切板22c及び副軸受22eにより画成された空間は、第二シリンダ室22s2を構成する。
【0016】
回転軸20は、各シリンダ室22s1,22s2内を貫通して設けられる。回転軸20は、主軸受22d及び副軸受22eに回転可能に支持される。回転軸20のうち、第一シリンダ室22s1内に位置する部分には第一偏心部20aが形成され、第二シリンダ室22s2内に位置する部分には第二偏心部20bが形成される。各偏心部20a,20bは、軸方向から見た平面視で同形同大とされる。各偏心部20a,20bは、周方向に180°の位相差をもって、軸線CLに対して径方向に同一量ずつ偏心する。
【0017】
第一偏心部20aには、第一ローラ20cが嵌合される。第二偏心部20bには、第二ローラ20dが嵌合される。各ローラ20c,20dは、回転軸20の回転に伴い、各ローラ20c,20dの外周面が各シリンダ22a,22bの内周面に摺接しながら偏心回転可能に構成される。
【0018】
アキュムレータ3は、気液分離器である。アキュムレータ3は、吸い込みパイプ31を通して圧縮機本体2の各シリンダ22a,22bに接続される。アキュムレータ3で気液分離された気体冷媒は、各シリンダ室22s1,22s2に取り込まれる。
【0019】
アキュムレータ3の上端側には、後述の圧縮ガスや検知ガス(ヘリウムガスと窒素ガスとの混合ガス)を封入する入口管3aが上方に突出して設けられる。一方、圧縮機本体2の上端側には、入口管3aから封入された圧縮ガスや検知ガスを吐出する吐出管2aが上方に突出して設けられる。入口管3a及び吐出管2aのそれぞれには、ゴム栓等の封止栓3b,2bがそれぞれ着脱可能に取り付けられる。
【0020】
以下、
図1〜
図4を用いて、密閉型圧縮機の製造方法について説明する。
図2は、実施形態の密閉型圧縮機の製造方法のフローチャートを示す図である。
図3は、実施形態の水没・目視による事前リーク検査の説明図である。
図4は、実施形態のヘリウムリークディテクタによるリーク検査の説明図である。
【0021】
図1及び
図2に示すように、先ず、密閉型圧縮機1に、圧縮ガスとして高圧空気を封入する(ステップS1)。高圧空気の封入は、入口管3a及び吐出管2aのそれぞれに封止栓3b,2bを取り付けて行う。密閉型圧縮機1に封入される高圧空気の圧力は、例えば、4MPa程度とする。
尚、圧縮ガスは、空気に限らず窒素ガス等を用いてもよい。
【0022】
次に、水没・目視による事前リーク検査(以下、「水没目視検査」という。)を行う(ステップS2)。水没目視検査においては、高圧空気が封入された密閉型圧縮機1について、相対的に大きなリークの有無を確認する。
【0023】
具体的に、
図3に示すように、高圧空気が封入された複数(例えば
図3では五つ)の密閉型圧縮機1を、供給ライン41にのせて、順次、水槽40に浸漬(水没)させる。水没目視検査は、高圧空気が封入された密閉型圧縮機1を水没させた状態で、水槽40の水面から発生する気泡の有無を目視で確認することにより行う。
【0024】
水没目視検査が行われた後、密閉型圧縮機1を水槽40から取り出し、入口管3a及び吐出管2aのそれぞれから封止栓3b,2bを取り外す。これにより、密閉型圧縮機1に封入された高圧空気が外部に放出される。密閉型圧縮機1から高圧空気を放出した後、密閉型圧縮機1を供給ライン41にのせて次工程に移す。
【0025】
水没目視検査工程において、目視で気泡が確認された場合には(ステップS3:YES)、密閉型圧縮機1についてリーク箇所の補修を行う(ステップS5)。リーク箇所の補修が行われた密閉型圧縮機1は、再度、水没目視検査に供される(ステップS2)。
【0026】
水没目視検査工程において、目視で気泡が確認されなかった場合には(ステップS3:NO)、密閉型圧縮機1を塗装する(ステップS4)。その後、塗装された密閉型圧縮機1を乾燥させる(ステップS4)。
尚、密閉型圧縮機1を塗装、乾燥せずに、水没目視検査工程を経た密閉型圧縮機1をそのまま次工程に移してもよい。
【0027】
次に、密閉型圧縮機1の性能検査を行う(ステップS6)。性能検査においては、例えば、密閉型圧縮機1の性能を確認するための電気的な検査を行う。
【0028】
次に、密閉型圧縮機1に、後述するリーク検査の検知ガスとして、ヘリウムガスと窒素ガスとの混合ガスを封入する(封入工程、ステップS7)。例えば、混合ガスは、窒素ガス用のボンベ及びヘリウムガス用のボンベをそれぞれ用意し、混合器で窒素ガスとヘリウムガスとを混合することにより得られる。
【0029】
混合ガスの封入は、入口管3a及び吐出管2aのそれぞれに封止栓3b,2bを取り付けて行う(
図4参照)。密閉型圧縮機1に封入される混合ガスの圧力は、例えば、0.2MPa程度とする。
尚、リーク検査時の混合ガスの圧力は、密閉型圧縮機1の出荷時の圧力と同じである。
【0030】
混合ガスの全圧Pmに対するヘリウムガスの分圧Phの割合(Ph/Pm)は、10%以上且つ50%以下とする。
この数値範囲には、下記の理由がある。
(1)仮に、混合ガスの全圧Pmに対するヘリウムガスの分圧Phの割合(Ph/Pm)が10%未満であると、ヘリウムガスの割合が小さくなり過ぎて、高いリーク検知精度を確保できない場合がある。
(2)一方、前記割合(Ph/Pm)が50%を超えると、ヘリウムガスの割合が大きくなり過ぎて、検知ガスのコストが高くなる。又、仮にヘリウムガスが全部抜けてしまうと、窒素ガスの割合が50%未満となり、内部酸化防止効果や内部化学変化防止効果を十分に得ることができなくなる懸念がある。
【0031】
次に、ヘリウムリークディテクタによる密閉型圧縮機1からのヘリウムガスのリーク検査(以下、単に「リーク検査」という。)を行う(リーク検査工程、ステップS8)。ヘリウムリークディテクタは、ヘリウムガスを用いて密閉型圧縮機1の溶接個所の漏れ(リーク)を調べる検知器である。リーク検査においては、混合ガスが封入された密閉型圧縮機1について、微小リークの有無を確認する。
【0032】
具体的に、
図4に示すように、先ず、被試験体として、前記混合ガスが封入された密閉型圧縮機1を用意する。以下、被試験体を符号1で示すことがある。
次に、被試験体1をヘリウムリークディテクタ50の前にセットする。そして、被試験体1の周囲をプローブ51により探索し、被試験体1の漏洩箇所から漏れてきたヘリウムガスをヘリウムリークディテクタ50により検知する。
【0033】
リーク検査において、ヘリウムガスの漏れが検知されなかった場合には(ステップS9:YES)、リーク検査を行った後の被試験体1を合格品として、混合ガスを封入した状態で、密閉型圧縮機1を出荷する(ステップS10)。
【0034】
リーク検査において、ヘリウムガスの漏れが検知された場合には(ステップS9:NO)、リーク検査を行った後の被試験体1を不合格品として破棄する(ステップS11)。
【0035】
上述のように、本実施形態では、リーク検査の検知ガスとしてヘリウムガスと窒素ガスとの混合ガスを密閉型圧縮機1に封入するため、検知ガスとしてヘリウムガスを用いることができ、高いリーク検知精度を得ることができる。又、検知ガスとしてヘリウムガスのみを用いる場合と比べて、ヘリウムガスの使用量が削減されるため、低コスト化が図れる。又、混合ガスには窒素ガスが含まれるため、密閉型圧縮機1の内部の酸化防止効果や化学変化防止効果を得ることができる。
又、リーク検査を行った後に混合ガスを封入した状態で密閉型圧縮機を出荷するため、検知ガスとしてヘリウムガスや水素ガスのみを用いる場合に対して、出荷前に検知ガスを一旦抜いて窒素ガスと入れ替える手間が省かれ、製造工程が削減できる。又、検知ガスを一旦抜いて回収する必要がないため、検知ガスの回収設備に投資する必要がなくなる。
よって、高いリーク検知精度を得ると共に、工数の増加や設備投資の増加を抑制することができる。
【0036】
仮に、混合ガスの全圧Pmに対するヘリウムガスの分圧Phの割合(Ph/Pm)が10%未満であると、ヘリウムガスの割合が小さくなり過ぎて、高いリーク検知精度を確保できない場合がある。一方、前記割合(Ph/Pm)が50%を超えると、ヘリウムガスの割合が大きくなり過ぎて、検知ガスのコストが高くなる。又、仮にヘリウムガスが全部抜けてしまうと、窒素ガスの割合が50%未満となり、内部酸化防止効果や内部化学変化防止効果を十分に得ることができなくなる懸念がある。
これに対し、本実施形態では、前記割合(Ph/Pm)が10%以上且つ50%以下であるため、高いリーク検知精度を確保しつつ、検知ガスの高コスト化を抑制することができる。
一般に、ヘリウムガスによるリーク検査では、10
−9Pa・m
3/sec程度の検知精度があるとされている。本実施形態によれば、前記割合(Ph/Pm)が少なくとも10%確保されれば、10
−8Pa・m
3/sec程度の検知精度を維持できる。これは、検知精度としては十分なレベルである。
又、前記割合(Ph/Pm)は多くても50%であるため、検知ガスとしてヘリウムガスを用いても検知ガスの高コスト化を抑制することができる。
又、仮にヘリウムガスが全部抜けたとしても、窒素ガスの割合が少なくとも50%確保されるため、内部酸化防止効果や内部化学変化防止効果を十分に得ることができる。
【0037】
又、封入工程の前に水没目視検査を行うため、仮に密閉型圧縮機1に比較的大きいリークが存在しても、そのような密閉型圧縮機1は封入工程の前工程で除外される。そのため、リーク検査で比較的大きいリークが発生したり、リークしたヘリウムガスが周辺に浮遊したりすることが抑制される。よって、ヘリウムリークディテクタ50がヘリウムガスを誤検知することを抑制できる。
【0038】
仮に、水没目視検査を塗装工程の後に行うと、密閉型圧縮機1の溶接部分に比較的大きいリークが存在した場合に、塗装が邪魔となりリーク箇所の補修溶接が困難となり、且つ、補修後の再塗装が必要となる。
これに対し、本実施形態では、水没目視検査を塗装工程の前に行うため、密閉型圧縮機1の溶接部分に比較的大きいリークが存在しても、リーク箇所の補修溶接が容易にできる。そのため、溶接部分にリークが存在してもリーク箇所を補修して後工程に流すことができ、歩留りの低下を抑制できる。
又、ヘリウムは分子量が小さいので、塗装工程の後でリーク検査工程を行ってもヘリウムガスのリークは検知可能であり、塗装工程後の乾燥作業を容易に行うことができると共に、性能検査にも悪影響を及ぼすことはない。
【0039】
又、本実施形態に係る密閉型圧縮機1は、ヘリウムガスと窒素ガスとの混合ガスが封入された状態で出荷されるため、ヘリウムガスによるリーク検査を行うことができると共に、内部酸化防止効果や内部化学変化防止効果を維持しつつ出荷することができる。
【0040】
上記実施形態では、密閉型圧縮機1の一例として回転式圧縮機を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、往復圧縮機(レシプロ圧縮機)や斜板式圧縮機、ダイヤフラム式圧縮機、ツインスクリュー圧縮機、シングルスクリュー圧縮機、スクロール圧縮機、ルーツ式圧縮機、スライドベーン型圧縮機等の他の容積圧縮機に適用してもよい。他にも、遠心式圧縮機や軸流式圧縮機等のターボ圧縮機等、様々な圧縮機に適用することができる。
【0041】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、密閉型圧縮機1のリーク検査の検知ガスとして、ヘリウムガスと窒素ガスとの混合ガスを密閉型圧縮機に封入する封入工程と、封入工程の後に密閉型圧縮機1からのヘリウムガスの漏れを検査するリーク検査工程と、を含み、リーク検査工程の後に、混合ガスを封入した状態で、密閉型圧縮機1を出荷することにより、高いリーク検知精度を得ると共に、工数の増加や設備投資の増加を抑制することができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。