(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
柱と接合される複数の梁用の主筋を備え、前記梁用の主筋の少なくとも一部の降伏点又0.2%耐力は、JISG3112で規定する普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きく、
前記梁用の主筋は、前記普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きい少なくとも一部としての高強度鉄筋と、前記普通鉄筋と、前記高強度鉄筋の端部と前記普通鉄筋の端部とを接続する機械式継手とを備え、
前記高強度鉄筋の端部及び前記普通鉄筋の端部には、螺合部がそれぞれ形成され、
前記普通鉄筋の端部は高強度化され、
前記機械式継手は、前記螺合部のそれぞれに螺合するカプラーを備え、
前記カプラーの軸方向長さは、前記普通鉄筋の前記螺合部の軸方向長さの2倍であり、
前記高強度鉄筋の前記螺合部の軸方向長さは、前記カプラーの軸方向長さと同等以上である
ことを特徴とする鉄筋構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般的な設計による鉄筋構造では、接合部分の許容せん断力(せん断耐力)を大きくするためには、コンクリートを構成する材料を変えてコンクリート強度を大きくするか、又は、前述の式からわかる通り、柱せいDを大きくして接合部の断面積を大きくしなければならない。また、梁せいを大きくすることでも接合部の断面積を大きくすることはできる。
コンクリート強度を大きくすると、コストがかかる。また、接合部の断面積を大きくすると、柱全体や梁全体の断面積も大きくなり、居住空間が狭くなってしまう。
特許文献1は、強度が変化する鉄筋どうしを確実に継手するという課題を解決するために主筋を部分的に補強したものであり、居住空間が狭くなってしまうことは特許文献1では解決できるものではない。
【0006】
本発明の目的は、梁用の主筋の耐力を大きくでき、梁の断面積を小さくできる鉄筋構造および鉄筋構造の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鉄筋構造は、柱と接合される複数の梁用の主筋を備え、前記梁用の主筋の少なくとも一部の降伏点又0.2%耐力は、JISG3112で規定する普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きく、前記梁用の主筋は、前記普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きい少なくとも一部としての高強度鉄筋と、前記普通鉄筋と、前記高強度鉄筋の端部と前記普通鉄筋の端部とを接続する機械式継手とを備え、前記高強度鉄筋の端部及び前記普通鉄筋の端部には、螺合部がそれぞれ形成され、
前記普通鉄筋の端部は高強度化され、前記機械式継手は、前記螺合部のそれぞれに螺合するカプラーを備え、前記カプラーの軸方向長さは、前記普通鉄筋の前記螺合部の軸方向長さの2倍であり、
前記高強度鉄筋の前記螺合部の軸方向長さは、前記カプラーの軸方向長さと同等以上であることを特徴とする。
この構成の本発明では、梁用の主筋の少なくとも一部の降伏点又は0.2%耐力は、J
ISG3112において鉄筋コンクリート用鋼棒として規定する普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きいため、梁用の主筋の少なくとも一部が高強度である。このため、
梁用の各主筋を細くできて隣り合う主筋どうしの間隔を小さくでき、これによって、梁の断面積を小さくできる。
【0008】
ここで、高強度鉄筋には、降伏点又は0.2%耐力が490〜1000N/mm
2のものが用いられる。また、普通鉄筋には、降伏点又は0.2%耐力が295〜390N/mm
2のものが用いられる。
また、本発明では、前述の作用効果に加えて、高強度鉄筋の端部と普通鉄筋の端部とが機械式継手で接続されることで主筋が構成されるため、主筋の構成前は、高強度鉄筋と普通鉄筋とを別体として管理できる。従って、鉄筋構造の施工時に、梁構成ユニットを構成する高強度鉄筋の端部から先の構成を省くことができる。このため、梁構成ユニットの大型化を阻止できる。しかも、高強度鉄筋と普通鉄筋との溶接は困難であるが、本発明では、これらを高強度鉄筋と普通鉄筋とを機械式継手で接合したので、高強度鉄筋と普通鉄筋とを強固に結合できる。従って、梁構成ユニットの形成、移動、接合などの作業を容易ならしめ、施工作業性を向上させることができる。
また、この構成の本発明では、梁用の主筋は高強度鉄筋と普通鉄筋とを備えるので、主筋の全部分を高強度にするよりも、コストが低くて済む。
【0009】
これに対し、特許文献1では、梁用の普通強度の主筋の任意部分が熱処理により高強度化される。このため、主筋は、普通強度部分と高強度部分とが一体的に連続して形成される。このような主筋は、高強度部分の端部から普通強度部分が延びて形成され、全体として長尺なものとなってしまう。なお、高強度部分や普通強度部分の長さは、鉄筋構造の強度などの所定条件のもとに設定されるので、前記所定条件を無視して各部分の長さを短くすることはできない。鉄筋構造は、複数の梁用の主筋とせん断補強筋とで構成される複数の梁構成ユニットを、施工現場で相互に接合させ又は柱と接合させることによって施工される。しかし、特許文献1では、主筋が長尺なものとなるために梁構成ユニットの大型化を招き、梁構成ユニットの形成、移動、接合が大がかりな作業となる可能性がある。その結果、施工作業性の向上を図り難い。以上述べた問題点は、前述したように本発明で解消できる。
【0010】
また、本発明では、カプラーに高強度鉄筋及び普通鉄筋の螺合部をそれぞれ螺合させることで、高強度鉄筋の端部と普通鉄筋の端部とを簡単に接続することができる。例えば、次のようにして接続できる。
先ず、高強度鉄筋及び普通鉄筋のいずれか一方の螺合部にカプラーを回転させて螺合させ、次に、高強度鉄筋及び普通鉄筋のいずれか他方の螺合部を前記一方の螺合部に隣接させ、続いて、カプラーを逆回転させて前記他方の螺合部にも螺合させる。このようにして高強度鉄筋の端部と普通鉄筋の端部とを簡単に接続できる。
また、カプラーと高強度鉄筋及び普通鉄筋の螺合部との螺合長さは調整可能であるため、高強度鉄筋と普通鉄筋との相互の軸方向位置を何度も調整できる。このため、施工時に梁の軸方向寸法に変更があっても、螺合長さの調整により対応可能である。
また、本発明では、前記高強度鉄筋の前記螺合部の軸方向長さは、前記カプラーの軸方向長さと同等以上であることが好ましい。
【0013】
本発明では、前記機械式継手は、前記普通鉄筋の強度と同等以上の強度を有していることが好ましい。
この構成の本発明では、機械式継手が、普通鉄筋の強度と同等以上の強度を有した普通鉄筋用の継手であるため、主筋に引張力が作用した場合、最終的に普通鉄筋の母材破断を生じさせることができる。このため、例えば高強度鉄筋が曲げモーメントの大きい柱梁接合部に配置され、かつ、普通鉄筋が曲げモーメントの小さい高強度鉄筋間の中央部に配置された場合に、鉄筋構造全体の耐力を向上させることができる。
【0014】
本発明では、前記高強度鉄筋は、前記梁用の主筋のうち、前記柱と接合される柱梁接合部を含む構成が好ましい。
この構成の本発明では、前記高強度鉄筋は、柱と接合される柱梁接合部を含む。柱梁接合部は、梁にかかる応力が集中するので、梁用の主筋のうち、少なくとも柱梁接合部が高強度になり、柱梁接合部における梁の耐力を向上できる。
【0015】
本発明では、前記梁は、前記梁用の主筋の軸方向と交差する平面内において前記梁用の主筋を囲んで配筋された複数の梁用のせん断補強筋を備え、前記複数の梁用のせん断補強筋の降伏点又は0.2%耐力は前記普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きい構成が好ましい。
この構成の本発明では、梁用のせん断補強筋の降伏点又は0.2%耐力は普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きいため、せん断補強筋が負担できるせん断力が大きくなり、その分、梁のコンクリート断面の負担分が小さくできる。これによって、梁の断面積をさらに小さくできる。
【0016】
本発明の鉄筋構造の施工方法は、柱と接合される複数の梁用の主筋を備え、前記梁用の主筋は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定する普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きい高強度鉄筋と、前記普通鉄筋と、前記高強度鉄筋の端部と前記普通鉄筋の端部とを接続する機械式継手とを備え、前記高強度鉄筋の端部及び前記普通鉄筋の端部には、螺合部がそれぞれ形成され、
前記普通鉄筋の端部は高強度化され、前記機械式継手は、前記螺合部のそれぞれに螺合するカプラーを備え、前記カプラーの軸方向長さは、前記普通鉄筋の前記螺合部の軸方向長さの2倍であり、前記高強度鉄筋の前記螺合部の軸方向長さは、前記カプラーの軸方向長さと同等以上である鉄筋構造の施工方法であり、前記高強度鉄筋を複数配置するとともに柱用主筋を接合して梁構成ユニットを構成し、前記カプラーを回転させて前記高強度鉄筋の前記螺合部に螺合させる工程と、前記梁構成ユニットを現場の所定位置に配置し、前記高強度鉄筋の前記螺合部及び前記普通鉄筋の前記螺合部の各端面を互いに当接させる工程と、前記梁構成ユニットを配置する工程の後、前記カプラーを逆回転させて前記普通鉄筋の前記螺合部に螺合させることにより、前記普通鉄筋の端部と前記高強度鉄筋の端部とを前記カプラーで接続する工程と、を含むことを特徴とする。
この構成の本発明では、前述した作用効果に加えて、機械式継手で普通鉄筋に接続する高強度鉄筋を複数配置し、これに柱用主筋を接合することで、小型の梁構成ユニットを構成できる。すなわち、端部に普通鉄筋部分が形成されていない短尺の高強度鉄筋を利用して梁構成ユニットを構成できるので、この梁構成ユニットの小型化を図れる。梁構成ユニットの小型化により、これを施工現場でクレーンや人手により移動、配置させる作業を容易に行える。しかも、互いに溶接が困難な高強度鉄筋と普通鉄筋とを機械式継手で接続することで、高強度鉄筋と普通鉄筋とを強固に結合できる。その結果、施工作業性を向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の目的は、梁用の主筋の耐力を大きくでき、梁の断面積を小さくでき、しかも、施工作業性を向上できる鉄筋構造および鉄筋構造の施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は鉄筋構造1の全体を示す模式図であり、
図2は鉄筋構造1の要部断面図であり、
図3の(A)及び(B)は、機械式継手213を示す概略図であり、
図4は、機械式継手213を示す断面図であり、
図5は、各鉄筋の接続手順を説明する概略図である。なお、
図2において、符号200を分かり易く図示するため、柱3の一部(せん断補強筋32、主筋31の一部)を省略したが、この一部で柱3(せん断補強筋32、主筋31)が切断されているわけではない。
【0020】
図1及び
図2に示すように、建物は、複数の梁2と、梁2と接合する複数の柱3とを備えた複数階建ての鉄筋コンクリート造りであり、鉄筋構造1にコンクリート100が打設されている。
梁2と柱3との接合形態としては、十字形接合S1、ト形接合S2、L形接合S3やT形接合S4があり、本実施形態は、これらの接合S1〜S4の柱梁接合部に適用される。以下では、十字形接合S1を例にとって説明する。
【0021】
梁2は梁せいD0を有し、その鉄筋構造1は、垂直方向に延びて等間隔に配筋された複数の梁2用の主筋21と、主筋21の軸方向と交差する平面(
図2における紙面と垂直な平面)内において主筋21を囲んで等間隔に配筋されて梁2のせん断強度を補強する複数の梁2用のせん断補強筋22とを備える。
【0022】
主筋21は、降伏点又は0.2%耐力が、JISG3112で規定する普通鉄筋(以下、単に普通鉄筋という)の降伏点又は0.2%耐力よりも大きい高強度鉄筋211と、普通鉄筋212と、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とを接続する機械式継手213とを備える。高強度鉄筋211の降伏点又は0.2%耐力は490MPa(N/mm
2)以上1000MPa(N/mm
2)以下、例えば900MPa(N/mm
2)である。普通鉄筋212の降伏点又は0.2%耐力は295MPa(N/mm
2)以上390MPa(N/mm
2)以下、例えば390MPa(N/mm
2)である。また、主筋21は、丸鋼でも、異形棒鋼でもよい。
【0023】
高強度鉄筋211は、梁2の柱3との接合部分である柱梁接合部200を含め、柱梁接合部200よりも水平方向一方側の一方領域201と柱梁接合部200よりも水平方向他方側の他方領域202に延びている。一方領域201の一端部と柱梁接合部200の他端部との間の距離T1は、梁せいD0の約1.1倍〜1.3倍となっている(T1≒D0×1.1〜D0×1.3)。同様に、他方領域202の一端部と柱梁接合部200の他端部との間の距離T2は、梁せいD0の約1.1倍〜1.3倍となっている(T2≒D0×1.1〜D0×1.3)。この距離T1,T2は、隣り合う柱3間の層間寸法を梁せいD0の4倍としたとき、高強度鉄筋211の降伏点又は0.2%耐力と、普通鉄筋212の降伏点又は0.2%耐力との比から求められる。
【0024】
高強度鉄筋211は、
図4に示すように、水平方向に延びた鉄筋本体211Aと、鉄筋本体211Aの水平方向両端部にそれぞれ形成された螺合部としての雄ねじ部211Bとを備えている。雄ねじ部211Bの軸方向長さは、後述するカプラー本体213Bの軸方向長さと同等以上である。
このような高強度鉄筋211は、主筋21の母材である普通鉄筋を図示しない加熱コイル内に通して、全体に焼入れすることによって形成される。
【0025】
普通鉄筋212は、
図4に示すように、高強度鉄筋211と同軸上に直列に配置される。普通鉄筋212は、水平方向に延びた鉄筋本体212Aと、鉄筋本体212Aの水平方向両端部にそれぞれ形成された螺合部としての雄ねじ部212Bとを備えている。雄ねじ部212Bの軸方向長さは、後述するカプラー本体213Bの軸方向長さの2分の1以上である。雄ねじ部212Bは、そのねじ切り方向が雄ねじ部211Bと同じである。
【0026】
機械式継手213は、雄ねじ部211B,212Bが水平方向で近接するところに配置される断面六角形状のカプラー213Aを備えている。
カプラー213Aは、
図3に示すように、筒状のカプラー本体213Bと、カプラー本体213Bの内周面に規定された貫通孔213Cと、カプラー本体213Bの内周面に形成された雌ねじ部213Dとによって構成される。
カプラー213Aは、普通鉄筋212の強度よりも高い強度を有している。貫通孔213Cには雄ねじ部211B,212Bが配され、雌ねじ部213Dは、これら雄ねじ部211B,212Bと螺合する。この螺合により、機械式継手213は、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とを機械的に接続している。
【0027】
せん断補強筋22は、普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力(390MPa)よりも大きい降伏点又は0.2%耐力(900MPa)を有するウルボン1275(高周波熱錬(株)の商品名)である。
せん断補強筋22は、柱梁接合部200を含め、主筋21が延びている方向に配筋される。
【0028】
柱3を構成する鉄筋構造1は、垂直方向に延びて所定間隔を空けて配筋された複数の柱3用の主筋31と、主筋31の軸方向と交差する平面(
図2における紙面と垂直な平面)内において主筋31を囲んで等間隔に主筋31の延出方向に配筋されて柱3のせん断強度を補強する複数の柱3用のせん断補強筋32とを備える。主筋31及びせん断補強筋32は普通鉄筋である。
【0029】
以下、鉄筋構造1の施工方法について説明する。
先ず、複数の高強度鉄筋211を水平方向に延びた状態で等間隔に配筋し、この複数の高強度鉄筋211を複数のせん断補強筋22で囲む。この複数のせん断補強筋22は水平方向に等間隔に配筋する。これにより、高強度の梁構成ユニットを複数形成する。
一方、複数の普通鉄筋212を水平方向に延びた状態で等間隔に配筋し、この複数の普通鉄筋212を複数のせん断補強筋22で囲む。この複数のせん断補強筋22も水平方向に等間隔に配筋する。これにより、普通強度の梁構成ユニットを複数形成する。
このような各梁構成ユニットは、施工現場に持ち込む前に形成可能であるが、これに限られず、施工現場でも形成可能である。
【0030】
次に、機械式継手213を高強度鉄筋211の両端部にそれぞれ接続する。
具体的には、先ず、カプラー213Aの一端を高強度鉄筋211の雄ねじ部211Bの先端に当接させる。つづいて、このカプラー213Aを回転させて、雌ねじ部213Dを雄ねじ部211Bに螺合させる。そのまま回転をつづけて雄ねじ部211Bを貫通孔213Cに挿入し、雄ねじ部211Bの先端を、カプラー213Aの他端に到達させる(
図5参照)。このとき、雄ねじ部211Bの先端は、カプラー213Aの他端から突出させる。
なお、前述した突出までさせなくても、雄ねじ部211Bの先端が雄ねじ部212Bの先端に対面できる位置にあればよく、例えば前記他端と面一にしてもよい。
【0031】
次に、施工現場で各梁構成ユニットを所定位置に配置する。
高強度鉄筋211の鉄筋本体211Aは梁2に接合させて高強度の柱梁接合部200を形成する。また、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とは水平方向で同軸上に直列にそれぞれ配置する。
【0032】
次に、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを接続する。
具体的には、先ず、高強度鉄筋211の雄ねじ部211Bの先端の端面211Cを普通鉄筋212の雄ねじ部212Bの先端の端面212Cに対向させ、これら端面211C,212Cを当接させる。つづいて、雄ねじ部211Bに螺合した状態のカプラー213Aを逆回転させて、雌ねじ部213Dを雄ねじ部212Bに螺合させ、そのまま回転をつづけて貫通孔213Cに挿入する(
図4参照)。
【0033】
このように、カプラー213Aの回転、逆回転で雌ねじ部213Dを雄ねじ部211B,212Bに螺合させることで、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを接続する。
これにより、高強度鉄筋211、普通鉄筋212を回転させなくても、これらを相互に接続することができ、各梁構成ユニットの接続を簡単に行うことができる。
以上のようにして、鉄筋構造1の施工が行われる。なお、このように施工された鉄筋構造1にコンクリート100が打設されることで鉄骨構造となる。
【0034】
本実施形態では、以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態の鉄筋構造1では、高強度鉄筋211の降伏点又は0.2%耐力が普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きいため、梁2用の主筋21の高強度鉄筋211から構成される部分が高強度である。このため、梁2用の各主筋21を細くできて隣り合う主筋21どうしの間隔を小さくでき、これによって、梁2の断面積を小さくできる。
【0035】
(2)梁2用の主筋21は高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを備えるので、主筋21の全部分を高強度にするよりも、コストが低くて済む。
【0036】
(3)主筋21が、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とが機械式継手213で接続されて構成されるため、鉄筋構造1の施工時に、梁構成ユニットを構成する高強度鉄筋211の端部から先の構成を省くことができる。このため、梁構成ユニットの大型化を阻止できる。しかも、高強度鉄筋211と普通鉄筋212との溶接は困難であるが、本実施形態では、これらを機械式継手213で接続したので、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを強固に結合できる。従って、梁構成ユニットの形成、移動、接合などの作業を容易ならしめ、施工作業性を向上させることができる。
【0037】
(4)カプラー213Aに高強度鉄筋211及び普通鉄筋212の螺合部としての雄ねじ部211B,212Bをそれぞれ螺合させることで、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とを簡単に接続することができる。また、カプラー213Aと高強度鉄筋211及び普通鉄筋212の雄ねじ部211B,212Bとの螺合長さは調整可能であるため、高強度鉄筋211と普通鉄筋212との相互の軸方向位置を何度も調整できる。このため、施工時に梁2の軸方向寸法に変更があっても、螺合長さの調整により対応可能である。
【0038】
(5)機械式継手213が、普通鉄筋212の強度よりも高い強度を有した普通鉄筋用の継手であるため、主筋21に引張力が作用した場合、最終的に普通鉄筋212の母材破断を生じさせることができる。このため、例えば高強度鉄筋211が曲げモーメントの大きい柱梁接合部200に配置され、かつ、普通鉄筋212が曲げモーメントの小さい高強度鉄筋211間の中央部に配置された場合に、鉄筋構造1全体の耐力を向上させることができる。
【0039】
(6)また、梁2用のせん断補強筋22の降伏点又は0.2%耐力は普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力よりも大きいため、せん断補強筋22が負担できるせん断力が大きくなり、その分、梁2のコンクリート断面の負担分が小さくできる。これによって、梁2の断面積をさらに小さくできる。
【0040】
(7)また、高強度鉄筋211は柱梁接合部200を含む。柱梁接合部200は、梁2にかかる応力が集中するので、梁2用の主筋21のうち、少なくとも柱梁接合部200が高強度になり、柱梁接合部200における梁2の耐力を向上できる。
【0041】
(8)前述した鉄筋構造1の施工方法では、前述した鉄筋構造1の作用効果に加えて、機械式継手213で普通鉄筋212に接続する高強度鉄筋211を複数配置し、これに柱用主筋31を接合することで、小型の柱構成ユニットを構成できる。すなわち、端部に普通鉄筋部分が形成されていない短尺の高強度鉄筋211を利用して梁構成ユニットを構成できるので、この梁構成ユニットの小型化を図れる。梁構成ユニットの小型化により、これを施工現場でクレーンや人手により移動、配置させる作業を容易に行える。しかも、互いに溶接が困難な高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを機械式継手213で接続することで、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを強固に結合できる。その結果、施工作業性を向上できる。
【0042】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0043】
前記実施形態では、カプラー213Aは、普通鉄筋212の強度よりも高い強度を有しているが、これに限定されず、主筋21に引張力が作用した場合、最終的に普通鉄筋212の母材破断を生じさせられればよい。従って、例えば、カプラー213Aは、普通鉄筋212の強度と同等の強度を有していてもよい。
【0044】
前記実施形態では、機械式継手213は、カプラー213Aを備えているが、この構成に加えて、雄ねじ部211B,212Bのうちの少なくともいずれか一方に螺合した少なくとも一つのロックナット214をさらに備えていてもよい。例えば、
図6に示すように、雄ねじ部211Bに螺合したロックナット214を備えていてもよい。このロックナット214は、カプラー213Aの回り止めを行う。
【0045】
前記実施形態では、カプラー213Aは、
図3の(B)に示すように断面六角形状であるが、これに限定されず、例えば、断面円形状、断面六角形状以外の断面多角形状であってもよい。
【0046】
前記実施形態では、雄ねじ部211B,212Bの先端は互いに対向し、当接するが、この構成に加えて、両先端を係合させる係合手段を備えていてもよい。この係合手段は、例えば、雄ねじ部211B,212Bのいずれか一方の先端に形成された係合凸部と、雄ねじ部211B,212Bのいずれか他方の先端に形成された係合凹部とを備える。このため、雄ねじ部211B,212Bの先端が互いに当接される際に、係合凸部と係合凹部とを係合させることができ、これにより、高強度鉄筋211と普通鉄筋212との相互の位置決めの容易化を図れる。
【0047】
前記実施形態では、カプラー213Aは、先の回転により高強度鉄筋211に接続し、後の逆回転により普通鉄筋212に接続したが、これに限られず、逆に、先に普通鉄筋212に接続し、後に高強度鉄筋211に接続してもよい。この場合、高強度鉄筋211の雄ねじ部211Bの軸方向長さはカプラー本体213Bの軸方向長さの2分の1以上あればよく、普通鉄筋212の雄ねじ部212Bの軸方向長さはカプラー本体213Bの軸方向長さと同等以上あればよい。
【0048】
前記実施形態では、高強度鉄筋211の端面211Cと普通鉄筋212の端面212Cとは互いに当接されるが、これに限定されず、例えば、端面211C,212Cは互いに離れていてもよい。
【0049】
前記実施形態では、機械式継手213は、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とを螺合により接続するカプラー213Aを備えて構成される
。
参考例として、例えば
図7に示すように、グラウト材215を介して接続するグラウト式継手216
を説明する。このグラウト式継手216は、スリーブ217と、スリーブ217に注入されるグラウト材215とを備える。
グラウト式継手216により互いに接続される鉄筋は、前述した高強度鉄筋211及び普通鉄筋212に代えて、例えば、異形鉄筋として形成される高強度鉄筋218及び普通鉄筋219で構成されてもよい。高強度鉄筋218と普通鉄筋219には、スリーブ217に対する挿入量を示すべくマーキングされたマーク部220が設けられていてもよい。
グラウト式継手216は、普通鉄筋219の強度と同等以上の強度を有していてもよい。
【0050】
スリーブ217は、筒状のスリーブ本体217Aと、スリーブ本体217Aの軸方向両端部にそれぞれ設けられた環状のシール217Bとを備える。スリーブ本体217Aには、螺合孔及び注入口(図示省略)が形成される。この螺合孔には、先端で高強度鉄筋218及び普通鉄筋219にそれぞれ圧接してこれらを仮止めする止めねじ217Cが螺合する。注入口からは、グラウト材215が注入される。
【0051】
グラウト式継手216を用いた高強度鉄筋218と普通鉄筋219との接続は、例えば次の通りに行われる。
先ず、スリーブ本体217Aの一端から高強度鉄筋218の端部及び普通鉄筋219の端部のうちのいずれか一方を挿入し、所定位置で止めねじ217Cにより仮止めする。次に、スリーブ本体217Aの他端から高強度鉄筋218の端部及び普通鉄筋219の端部のうちのいずれか他方を挿入し、所定位置で止めねじ217Cにより仮止めする。次に、注入口からグラウト材215を注入し、スリーブ本体217A内を充填する。
このようにして、高強度鉄筋218の端部と普通鉄筋219の端部とを接続する。
これにより、高強度鉄筋218と普通鉄筋219との相互の軸方向位置の設定自由度を広くでき、施工時に梁2の軸方向寸法に変更があっても対応可能である。また、高強度鉄筋218と普通鉄筋219との本止めは、グラウト材215を注入するだけで簡単に行うことができる。
【0052】
前記実施形態では、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とをカプラー213Aで接続し
ている。
参考例として、例えば
図8に示すように、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とを主筋21の軸方向と交差する方向において重ね合わせ、重ね合わされた部分を重ね継手300で機械的に接続
する場合を説明する。この重ね継手300は、前述の重ね合わされた部分に針金などの線材301を巻きつけて結線する。なお、重ね継手300を採用する場合、高強度鉄筋211の端部と普通鉄筋212の端部とには雄ねじ部211B,212Bが形成されていなくてもよい。
これにより、高強度鉄筋211と普通鉄筋212とを機械的に速やかに接続できる。また、施工時の梁2の軸方向寸法に変更があっても重ね合わせ量を調整することで対応可能である。
【0053】
また、前記実施形態では、全体が普通強度を有した普通鉄筋212を備えているが、これに限定されない。例えば、焼入れ等により一部(端部など)が高強度化された高強度部分を有した普通鉄筋を備えていてもよい。
【0054】
前記実施形態では、複数の高強度鉄筋211を複数のせん断補強筋22で囲んで鉄筋籠を形成することで高強度の柱構成ユニットを構成するが、これに限定されない。例えば、複数の高強度鉄筋211を複数のせん断補強筋22で囲んで鉄筋籠を形成し、さらにこの鉄筋籠にコンクリートを打設してプレキャストコンクリートを形成することで高強度の柱構成ユニットを構成してもよい。