【実施例】
【0039】
以下に本発明の実施例について説明する。
【0040】
(第1の実施例)
軟磁性合金粉末は、組成式がFe
82.4B
9Si
5P
3Cu
0.6である合金を融解し、水アトマイズ法により上記組成のアモルファス相の軟磁性合金粉末を作製して使用した。この軟磁性合金粉末の平均粒径は約50μmであった。
【0041】
結合材は、信越化学工業株式会社製の熱硬化性のシリコーン樹脂であるKR220Lと、住友ベークライト株式会社製の熱硬化性のフェノール樹脂であるPC−1を使用した。結合材の溶液は、イソプロピルアルコール(IPA)にKR220LとPC−1を溶解して作製した。熱硬化性のシリコーン樹脂と熱硬化性のフェノール樹脂との配合割合は、全樹脂分に対する熱硬化性のシリコーン樹脂の質量割合を、実施例として0.10、0.25、0.50、0.70、0.75、0.90とし、比較例として0.00、1.00とした。
【0042】
次に、上述の軟磁性合金粉末と結合材の溶液を、横ブレード型の撹拌造粒機に投入して混合、解砕及び造粒を行った後、目開き0.5mmのメッシュを通して造粒粉とした。結合材の溶液の投入量は、軟磁性合金粉末に対する結合材の溶液の全樹脂分が、2.5質量%となるようにした。結合材の溶液に含まれるイソプロピルアルコール(IPA)は、横ブレード型の撹拌造粒機の撹拌翼の高速回転による摩擦熱で蒸発させることができた。尚、温風を造粒機の槽内に送り込んで溶媒を蒸発させても良い。
【0043】
上記の造粒粉を、金型に投入し、約490MPaの圧力で加圧成形し、外径13mm、内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。この圧粉体を、赤外線加熱装置を用いて435℃、20分間の熱処理を行い、アモルファス相の軟磁性合金粉末中にαFe(−Si)結晶相を析出させてFe基ナノ結晶合金粉末とし、圧粉磁芯を得た。昇温速度は約40℃/分である。
【0044】
作製した圧粉磁芯について、形状と質量を測定し、圧粉磁芯の密度を算出した。絶縁抵抗は、圧粉磁芯の径方向の厚さに対して100Vの直流電圧を加え、直流抵抗を測定することで評価した。次に圧粉磁芯に巻線を行い、インピーダンスアナライザを用い周波数20kHzにおいて比透磁率を測定した。またB−Hアナライザを用いて周波数20kHz、磁束密度150mTにおけるコア損失を測定した。
【0045】
図1に、全樹脂分に対するシリコーン樹脂の質量割合と、圧粉磁芯の密度との関係を示す。
図1において、シリコーン樹脂の質量割合が0.75を超えると、圧粉磁芯の密度が低下し、シリコーン樹脂の質量割合が0.9と1.0では大きく減少しており、特にシリコーン樹脂だけの場合には密度の低下が大きく、軟磁性粉末の充填が困難になっていることが判る。一方シリコーン樹脂の質量割合が0.75以下では、軟磁性粉末は高い充填密度を得ていることが判る。
【0046】
図2に、全樹脂分に対するシリコーン樹脂の質量割合と、圧粉磁芯の比透磁率との関係を示す。
図2において、シリコーン樹脂の質量割合が0.75を超えると、圧粉磁芯の比透磁率は低下し、シリコーン樹脂の質量割合が0.9と1.0では大きく減少しており、特にシリコーン樹脂だけの場合には比透磁率の低下が大きいことが判る。
図1と
図2を見比べてみると、シリコーン樹脂の質量割合に対する圧粉磁芯の密度と比透磁率との関係は同様な傾向を示しており、シリコーン樹脂の質量割合が0.9、1.0の比透磁率の低下は、軟磁性粉末の充填が不十分となったことによる圧粉磁芯の密度の低下によるものと推定することができる。
【0047】
図3に、全樹脂分に対するシリコーン樹脂の質量割合と、圧粉磁芯の直流抵抗との関係を示す。
図3において、シリコーン樹脂の質量割合が0の場合は、圧粉磁芯の直流抵抗が大きく低下することが判る。シリコーン樹脂の質量割合が0.1以上では、直流抵抗は十分な値を有している。
【0048】
図4に、全樹脂分に対するシリコーン樹脂の質量割合と、圧粉磁芯のコア損失との関係を示す。
図4において、シリコーン樹脂の質量割合が0の場合には、コア損失は300mW/cm
3を超えており、シリコーン樹脂の質量割合が0.1以上と比較して大きくなっている。またシリコーン樹脂の質量割合が0.9と1.0の場合には、150mTで励磁することができなかったが、比透磁率の低下によるものと思われる。
【0049】
全樹脂分に対するシリコーン樹脂の質量割合を0.25として作製した圧粉磁芯を、中心軸に垂直な断面で切断し、切断面を研磨した。切断面のFeとSiの分布を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて分析を行った。
図5に分析結果の一例を示す。
【0050】
図5において、3はFe基ナノ結晶合金粉末粒子に相当し、FeとSiの両方が検出されている。1で示した部分は、Fe基ナノ結晶合金粉末粒子の表面でSiが多く検出されている結合材の領域を、2で示した部分は、軟磁性合金粉末の表面でSiの検出が少ないまたは検出されなかった結合材の領域を示す。
【0051】
結合材において検出されているSiは、熱硬化性のシリコーン樹脂に含まれる。したがって
図5より、本発明の圧粉磁芯は、Fe基ナノ結晶合金粉末の粒子の表面において、熱硬化性のシリコーン樹脂が相対的に多い領域と、相対的に少ない領域を有することが判る。すなわち熱硬化性のシリコーン樹脂と熱硬化性のフェノール樹脂の成分比が異なる領域を有することが判る。
【0052】
以上述べたように、本発明は、軟磁性合金粉末の表面において、熱硬化性のシリコーン樹脂と熱硬化性のフェノール樹脂の成分比が異なる領域を有することにより、絶縁性が良好でかつ比透磁率に優れた圧粉磁芯を得ることができる。
【0053】
(第2の実施例)
次に、本発明の第2の実施例は、複数の結合材に、第1の実施例で使用した信越化学工業株式会社製の熱硬化性のシリコーン樹脂であるKR220Lと、住友ベークライト株式会社製の熱硬化性のフェノール樹脂であるPC−1に加えて、三菱ガス化学株式会社製の熱硬化型のキシレン樹脂であるPR−1440Mも使用した。
【0054】
結合材の配合割合は、全樹脂分に対して、シリコーン樹脂の質量割合を0.50、フェノール樹脂の質量割合を0.40、そしてキシレン樹脂の質量割合を0.10とした。また、溶媒にはメタノールを使用した。
【0055】
上記以外は、第1の実施例と同じ条件で圧粉磁芯の作製を行った。また第1の実施例と同様に、作製した圧粉磁芯について、形状と質量を測定し、圧粉磁芯の密度を算出した。絶縁抵抗は、圧粉磁芯の径方向の厚さに対して100Vの直流電圧を加え、直流抵抗を測定することで評価した。次に圧粉磁芯に巻線を行い、インピーダンスアナライザを用い周波数20kHzにおいて比透磁率を測定した。またB−Hアナライザを用いて周波数20kHz、磁束密度150mTにおけるコア損失を測定した。
【0056】
本実施例における圧粉磁芯の密度は、5.09g/cm
3であり、比透磁率は、25が得られた。また直流抵抗は、約3×105MΩで、コア損失は、294mW/cm
3であった。これらの値は、第1の実施例におけるシリコーン樹脂の質量割合が0.25の場合とほぼ同等であり、圧粉磁芯として良好な特性が得られていることが判る。
【0057】
第1の実施例と同様に、本実施例の圧粉磁芯を、中心軸に垂直な断面で切断し、切断面を研磨し、切断面のFeとSiの分布を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて分析を行ったところ、
図5に示す第1の実施例の場合と同様に、Fe基ナノ結晶合金粉末粒子の表面でSiが多く検出されている結合材の領域と、Siの検出が少ないまたは検出されなかった結合材の領域を観察することができた。したがって本実施例においても、Fe基ナノ結晶合金粉末粒子の表面は、熱硬化性のシリコーン樹脂と熱硬化性のフェノール樹脂および熱硬化性のキシレン樹脂の成分比が異なる領域を有する。
【0058】
以上述べたように、本発明は、軟磁性合金粉末の表面において、複数の結合材の成分比が異なる領域を有することにより、絶縁性が良好でかつ比透磁率に優れた圧粉磁芯を得ることができる。
【0059】
本発明は、以上説明した実施例に限定されるものではなく,本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。