(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の燃料集合体を装荷した炉心を内包する原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器の周囲のドライウェル空間と、前記ドライウェル空間と気密壁で区分された圧力抑制室空間と、前記圧力抑制室空間内に水張りして形成した圧力抑制プールと、前記ドライウェル空間と前記圧力抑制プールとを接続するベント管と、非凝縮性ガスを前記圧力抑制室空間から前記ドライウェル空間に貫流するための真空破壊弁と、前記原子炉圧力容器と前記ドライウェル空間と前記圧力抑制室空間と前記圧力抑制プールと前記ベント管と前記真空破壊弁とを内包する鋼製の原子炉格納容器と、
前記原子炉格納容器の外側に配置された生体遮蔽壁と、
前記原子炉格納容器と前記生体遮蔽壁との間に気密性を有するように形成された格納容器冷却領域と、
前記格納容器冷却領域内に水張りして形成した格納容器冷却水プールと、
前記格納容器冷却領域の外部であって、前記格納容器冷却水プールの水位面より上方に配置した熱交換器と、
前記格納容器冷却領域と前記熱交換器の上端とを接続する上流側配管と、
前記格納容器冷却水プールの水位面より下方の前記格納容器冷却領域と前記熱交換器の下端とを接続する下流側配管と、
一端側を前記下流側配管の前記格納容器冷却水プールの水位面より上方の部位に接続し、他端側を前記格納容器冷却領域の外部に開口した外部開放ラインとを備えた
ことを特徴とする静的原子炉格納容器冷却系。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第1の実施の形態の構成を示すシステム系統図である。本実施の形態における静的原子炉格納容器冷却系は沸騰水型原子力発電プラントに適用されている。
図1において、沸騰水型原子力発電プラントは、原子炉圧力容器7と、炉心8と、原子炉格納容器10と、静的原子炉格納容器冷却系とを備えている。原子炉格納容器10は、鋼製であり、生体遮へい壁22によりその外周を気密に覆われている。
【0019】
原子炉圧力容器7の内部には、複数の燃料集合体(図示せず)が装荷された炉心8が配置されている。原子炉圧力容器7には、主蒸気管23や図示しない給水配管などが接続されている。
【0020】
原子炉格納容器10は、原子炉圧力容器7を取り囲み、その内部を互いに区分して、上部ドライウェル11と、下部ドライウェル12と、圧力抑制室空間部13aと冷却材を充填した圧力抑制プール14とから構成される圧力抑制室13とを備えている。上部ドライウェル11と下部ドライウェル12とによりドライウェル空間を形成している。ドライウェル空間と圧力抑制室空間部13aとは、気密壁であるダイヤラムフロア15やペデスタル16で区分されている。原子炉格納容器10の内部は、万一の水素爆発発生に対する備えとして、空気を窒素に置換することで酸素を排除している。
【0021】
下部ドライウェル12は原子炉圧力容器7の真下の領域で、円環状の圧力抑制室13に取り囲まれている。また、下部ドライウェル12には、原子炉圧力容器支持スカート20を介して原子炉圧力容器7を支持するペデスタル16(気密壁)が設置されている。下部ドライウェル12は、原子炉圧力容器支持スカート20により、上部ドライウェル11と区分されている。また、圧力抑制室空間部13aは、圧力抑制室13の上部に配置されたダイヤフロムフロア15(気密壁)により、上部ドライウェル11と区分されている。
【0022】
ペデスタル16の壁内には、垂直ベント管17が設置されている。垂直ベント管17は、その一端が上部ドライウェル11に開放され、その他端が圧力抑制プール14の冷却水中で水平ベント管18に接続されている。水平ベント管18は圧力抑制プール14に開口している。垂直ベント管17には連通管19が設けられていて、この連通管19によって下部ドライウェル12と上部ドライウェル11とが空間的に接続されている。また、ペデスタル16の上方には、圧力抑制室空間部13aで生じた非凝縮性ガスを下部ドライウェル12に貫流させるための真空破壊弁24が設置されている。
【0023】
静的原子炉格納容器冷却系は、原子炉格納容器10と生体遮へい壁22との間の気密領域である格納容器冷却領域6と、格納容器冷却領域6内であり、かつ圧力抑制室プール14の外側に設けた格納容器冷却水プール5と、格納容器冷却水プール5のプール水を冷却するための熱交換器1と、熱交換器1の上部(上流側)と格納容器冷却領域6の上部とを接続する上流側配管2と、熱交換器1の下部(下流側)と格納容器冷却領域6の下部とを接続する下流側配管3と、熱交換器1を静的に起動するために、L字状に形成され、一端を下流側配管3に接続し、他端を上方に向けて外部に開口した外部開放ライン4とを備えている。
【0024】
熱交換器1は、上部側に設けられ、格納容器冷却領域6の上部と上流側配管2により接続された上流側ヘッダ1aと、下部側に設けられ、格納容器冷却領域6の下部と下流側配管3により接続された下流側ヘッダ1bと、その上端部が上流側ヘッダ1aに接続され、その下端部が下流側ヘッダ1bに接続される複数の伝熱管1cとを備えている。
【0025】
格納容器冷却領域6は原子炉格納容器10の外側に、熱交換器1は格納容器冷却領域6の外側にそれぞれ配置している。熱交換器1の下端及び外部開放ライン4の一端側の接続部位21は格納容器冷却水プール5の水位面より上方に配置している。
【0026】
このように構成された静的原子炉格納容器冷却系においては、原子力発電プラントの通常運転時、格納容器冷却領域6の空間部は空気で満たされている。同様に、上流側配管2と、熱交換器1と、外部開放ライン4の各内部も空気で満たされている。一方、下流側配管3の内部は、格納容器冷却水プール5の水位面より下方は水で満たされ、水位面より上方は空気で満たされている。
【0027】
このような、原子力発電プラントの通常運転時の状態、つまり静的原子炉格納容器冷却系の初期状態は、自然の圧力バランスから自動的に達成されるものであり、特段の操作や動力を必要としない。格納容器除熱能力を高める目的から、上流側配管2の格納容器冷却領域6との接続場所は、格納容器冷却領域6の上端近傍に配置するのが望ましい。また、下流側配管3の内部領域を可能な限り水没状態にする目的から、下流側配管3の格納容器冷却領域6との接続場所は格納容器冷却領域6の下端近傍に配置するのが望ましい。
【0028】
本発明の第1の実施の形態の一の構造的特徴は、静的原子炉格納容器冷却系の構成に弁やポンプを含まない点にある。このため、弁操作やポンプ起動に起因する起動失敗を原理的に排除できる。また、本発明の第1の実施の形態の他の構造的特徴は、格納容器冷却水プール5の水位面より下方の下流側配管3の内部を水没させている点にある。このことにより、下流側配管3から熱交換器1への蒸気や空気の逆流が防止され、上流側配管2、熱交換器1、下流側配管3の順の1方向に、蒸気および水の安定した流量を確保できる。
【0029】
次に、主蒸気管1本の大破断(大破断LOCA)を想定した場合を一例として、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第1の実施の形態の動作を説明する。
【0030】
図1において、主蒸気管23が破断すると、原子炉圧力容器7で発生した蒸気が破断口から流出し、原子炉圧力容器7内の水位9及び圧力が低下する。主蒸気隔離弁(図示せず)は、主蒸気管流量大の信号によって全閉し、主蒸気隔離弁閉信号によってスクラム信号が発生し、全ての制御棒が炉心8に挿入されることで原子炉は停止する。
【0031】
スクラムにより原子炉が停止した後も、定格熱出力の数%以下と小さく、かつ時間と共に指数関数的に減少するものの、炉心8内に存在する核分裂生成物(FP)の原子核崩壊に伴って発生する崩壊熱により蒸気が発生し続けるため、原子炉圧力容器7内の冷却材は減少し続ける。このため、原子炉圧力容器7内の水位9を維持することで炉心8を継続的に冷却しつつ、炉心で発生する蒸気を凝縮させることで原子炉格納容器10の圧力上昇を緩和し、原子炉格納容器10から崩壊熱を系外に除去する必要がある。
【0032】
まず、発生蒸気の凝縮について説明する。主蒸気管23の破断口から上部ドライウェル11に蒸気が流出することで上部ドライウェル11の圧力が増加し、垂直ベント管17内の水位を押し下げる。水平ベント管18のベント管蒸気流出口より低い位置まで垂直ベント管17内水位が押し下げられることで、上部ドライウェル11から圧力抑制プール14に窒素及び蒸気が流入する。圧力抑制プール14に流入した窒素は圧力抑制室空間部13aに蓄積して原子炉圧力容器7の圧力を上昇させるが、上部ドライウェル11の体積と圧力抑制室空間部13aの体積の割合を適切な範囲に設計することで圧力上昇幅が一定以下となるように調整している。
【0033】
ここで、圧力抑制室空間部13aに流入した非凝縮性ガスにより、圧力抑制室空間部13aの圧力に対して、例えば、ドライウェル空間の圧力が負圧になった場合には、真空破壊弁24が開動作し、圧力抑制室空間部13aに流入した非凝縮性ガスを下部ドライウェル12へ貫流する。この結果、圧力抑制室空間部13aの圧力とドライウェル空間の圧力の差が増大することを抑制できる。
【0034】
一方、圧力抑制プール14に流入した蒸気は圧力抑制プール14の未飽和水によって凝縮されて水に戻されるため、発生蒸気による原子炉格納容器10の圧力上昇を抑制できる。
【0035】
次に原子炉圧力容器7内の水位9の維持及び原子炉格納容器10からの除熱について説明する。大LOCAが発生しても、外部電源もしくは非常用電源を利用できる場合には、非常時炉心冷却系(ECCS)の主要設備の一つである残留熱除去系(RHR)を用いて、原子炉圧力容器7への注水(LPFL)、原子炉格納容器10へのスプレイ注水、及び圧力抑制プール14の冷却を行う事ができる。原子炉圧力容器7への注水によって水位9を炉心8より上方に維持することで、炉心8を継続的に安定冷却しつつ、原子炉格納容器10から除熱することで、大LOCAを安全に収束させることができる。
【0036】
しかし、深層防護の思想として、設計基準事故を超える事故として、例えば海水による冷却機能が失われる最終ヒートシンク喪失(LUHS)発生を想定した場合は、上述したRHRの除熱機能が使用できないため、圧力抑制プール14の水温が徐々に上昇すると共に、原子炉格納容器10の圧力が徐々に上昇を続ける状況となる虞がある。このような設計基準事故を超える事故発生に対して、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第1の実施の形態は以下のように動作する。
【0037】
大LOCAが発生して主蒸気管23から原子炉格納容器10内に蒸気が放出されると、上部ドライウェル11及び下部ドライウェル12に存在する窒素は垂直ベント管17及び水平ベント管18を介して圧力抑制室空間部13aに移行する。さらに、大LOCA状態が継続すると、上部ドライウェル11及び下部ドライウェル12の窒素はほぼ全量圧力抑制室空間部13aに移行し、上部ドライウェル11及び下部ドライウェル12は原子炉圧力容器7の破断した主蒸気管23から放出される蒸気で満たされる。
【0038】
垂直ベント管17及び水平ベント管18を介して圧力抑制プール14に蒸気が流入することで圧力抑制プール14のプール水温が上昇すると、圧力抑制プール14と格納容器冷却水プール5の各プール水の温度差を駆動力として、原子炉格納容器10の鋼製壁を介して圧力抑制プール14から格納容器冷却水プール5へと放熱され、圧力抑制プール14のプール水が冷却されると共に格納容器冷却水プール5のプール水が加熱される。
【0039】
LOCA時の原子炉格納容器10の圧力は最大で3気圧程度まで高まるため、圧力抑制プール14のプール水の飽和温度は100℃を超える。これに対して、格納容器冷却領域6は外部開放ライン4を介して大気と接続されているため、大気圧に等しく、格納容器冷却水プール5において、プール水は100℃で沸騰する。発生した蒸気は、蒸気発生前に格納容器冷却領域6を満たしていた空気とともに、上流側配管2を介して、熱交換器1へ導入する。熱交換器1へ導かれた空気と蒸気は、蒸気のみが熱交換器1で凝縮され、凝縮水は下流側配管3へ落下し、空気のみが外部開放ライン4の他端から放出される。
【0040】
外部開放ライン4の一端側の接続部位21が熱交換器1の下流側に設置されていて、かつ下流側配管3の内部は水で満たされているため、下流側配管3を介して外部開放ライン4への蒸気流出は発生せず、格納容器冷却領域6で発生した蒸気は必ず上流側配管2と熱交換器1とを介して外部開放ライン4に導かれる。本実施の形態によれば、格納容器冷却領域6で発生した蒸気が熱交換器1を介さずに外部に放出される可能性を原理的に排除できる。このため、外部開放ライン4を介して水蒸気が外部に放出されることによる格納容器冷却水プール5の喪失を防ぐ事ができる。
【0041】
上述したように、空気だけが外部開放ライン4の他端から外部に押し出されることで、格納容器冷却領域6は、ほぼ蒸気で満たされた状態になる。このような状態になると、格納容器冷却領域6が空気で満たされた状態よりも、原子炉格納容器10の鋼製壁を介した上部ドライウェル11の高温蒸気から格納容器冷却領域6の100℃の低温蒸気への熱伝達効率が増加し、原子炉格納容器10を更に効率良く除熱できるようになる。また、非凝縮性ガスである空気が排除されるため、熱交換器1の除熱性能を最大限発揮できるようになる。
【0042】
また、何らかの理由によって格納容器冷却領域6内の蒸気が凝縮して格納容器冷却領域6内の気圧が下がった場合でも、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第1の実施の形態は、外部開放ライン4を介して空気を取り込むことができるため、外気圧によって格納容器冷却領域6が圧壊する虞は無い。
【0043】
上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第1の実施の形態によれば、弁操作やポンプ起動のような動的な方法によらず、完全に静的な方法で格納容器冷却水プール5の冷却設備を起動・動作させることができる。これにより格納容器冷却水プール5の水量を維持することができるため、原子炉格納容器10を長期にわたって安定して冷却し続けることが可能となり、信頼性の高い静的原子炉格納容器冷却系及び原子力発電プラントを提供できる。
【実施例2】
【0044】
以下、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第2の実施の形態を図面を用いて説明する。
図2は本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第2の実施の形態の構成を示すシステム系統図である。
図2において、
図1に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0045】
本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第2の実施の形態において、静的原子炉格納容器冷却系の構成は
図2に示すように、大略第1の実施の形態と同じであるが、外部開放ライン4上に、下流側配管3から外部方向への流れを許容し、外部から下流側配管3方向への流れを阻止する逆止弁25を設けた点と、生体遮へい壁22の格納容器冷却水プール5のプール水位面より上方に、格納容器冷却領域6と外部とを連通可能な格納容器冷却系用真空破壊弁26を設けた点と、外部開放ライン4の他端の排出先を十分に高い位置から外部に排出できる排気塔27に変更した点が異なる。
【0046】
次に、本実施の形態において、設計基準事故を超える事故として、主蒸気管1本の大破断(大LOCA)、かつ最終ヒートシンクが使用できない、最終ヒートシンク喪失(LUHS)の発生を想定した場合の動作について説明する。なお、原子炉格納容器10の機能、LUHSを伴わない大LOCA時の事象推移は第1の実施の形態と同じであるため、説明を省略し、大LOCA+LUHS発生時の静的原子炉格納容器冷却系の動作について主に説明する。
【0047】
大LOCAが発生して主蒸気管23から原子炉格納容器10内に蒸気が放出されると、上部ドライウェル11及び下部ドライウェル12に存在する窒素は垂直ベント管17及び水平ベント管18を介して圧力抑制室空間部13aに移行する。さらに、大LOCA状態が継続すると、上部ドライウェル11及び下部ドライウェル12の窒素はほぼ全量圧力抑制室空間部13aに移行し、上部ドライウェル11及び下部ドライウェル12は原子炉圧力容器7の破断した主蒸気管23から放出される蒸気で満たされる。
【0048】
垂直ベント管17及び水平ベント管18を介して圧力抑制プール14に蒸気が流入することで圧力抑制プール14のプール水温が上昇すると、圧力抑制プール14と格納容器冷却水プール5の各プール水の温度差を駆動力として、原子炉格納容器10の鋼製壁を介して圧力抑制プール14から格納容器冷却水プール5へと放熱され、圧力抑制プール14のプール水が冷却されると共に格納容器冷却水プール5のプール水が加熱される。
【0049】
LOCA時の原子炉格納容器10の圧力は最大で3気圧程度まで高まるため、圧力抑制プール14のプール水の飽和温度は100℃を超える。これに対して、格納容器冷却領域6は外部開放ライン4を介して大気と接続されているため、大気圧に等しく、格納容器冷却水プール5において、プール水は100℃で沸騰する。発生した蒸気は、蒸気発生前に格納容器冷却領域6を満たしていた空気とともに、上流側配管2を介して、熱交換器1へ導入する。熱交換器1へ導かれた空気と蒸気は、蒸気のみが熱交換器1で凝縮され、凝縮水は下流側配管3へ落下し、空気のみが外部開放ライン4から逆止弁25を介して放出される。
【0050】
外部開放ライン4の一端側の接続部位21が熱交換器1の下流側に設置されていて、かつ下流側配管3の内部は水で満たされているため、下流側配管3を介して外部開放ライン4への蒸気流出は発生せず、格納容器冷却領域6で発生した蒸気は必ず上流側配管2と熱交換器1とを介して外部開放ライン4に導かれる。本実施の形態によれば、格納容器冷却領域6で発生した蒸気が熱交換器1を介さずに外部に放出される可能性を原理的に排除できる。このため、外部開放ライン4を介して水蒸気が外部に放出されることによる格納容器冷却水プール5の喪失を防ぐ事ができる。
【0051】
本実施の形態においては、外部開放ライン4に逆止弁25を設置しているため、外部に押し出された空気が熱交換器1へ逆流する虞が無く、熱交換器1の蒸気凝縮性能を常に最大限に発揮させることができる。
【0052】
上述したように、空気だけが外部開放ライン4の他端から外部に押し出されることで、格納容器冷却領域6は、ほぼ蒸気で満たされた状態になる。このような状態になると、格納容器冷却領域6が空気で満たされた状態よりも、原子炉格納容器10の鋼製壁を介した上部ドライウェル11の高温蒸気から格納容器冷却領域6の100℃の低温蒸気への熱伝達効率が増加し、原子炉格納容器10を更に効率良く除熱できるようになる。また、非凝縮性ガスである空気が排除されるため、熱交換器1の除熱性能を最大限発揮できるようになる。
【0053】
また、何らかの理由によって格納容器冷却領域6内の蒸気が凝縮して格納容器冷却領域6内の気圧が下がった場合でも、本実施の形態は、格納容器冷却系用真空破壊弁26を介して外部空気や非凝縮性ガスを取り込む(貫流する)ことができるため、外気圧によって格納容器冷却領域6が圧壊する虞は無い。
【0054】
また、本実施の形態は、万一、鋼製の原子炉格納容器10から小規模の漏えいが発生して格納容器冷却領域6に核分裂生成物(FP)を含む気体が漏えいしたとしても、この漏えいした気体を外部開放ライン4経由で排気塔27に導き、十分に高い位置から外部に放出することができる。この結果、外部被ばくのリスクを更に低減することができる。
【0055】
上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第2の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0056】
以下、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第3の実施の形態を図面を用いて説明する。
図3は本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第3の実施の形態の構成を示すシステム系統図である。
図3において、
図1及び
図2に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0057】
本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第2の実施の形態において、静的原子炉格納容器冷却系の構成は
図3に示すように、大略第1の実施の形態と同じであるが、熱交換器1を空冷用垂直ダクト28内に配置した点と、外部開放ライン4の一端側の接続部位21を熱交換器1の下流側ヘッダ1aの上方の部位とした点と、外部開放ライン4の他端を下方に向けて熱交換器1より下の位置で開口した点が異なる。空冷用垂直ダクト28は上部及び下部を大気開放した筒状の流路で、空気の流れを整流化して自然循環力を高めることができる。筒状流路の断面形状は円形流路や矩形流路等、種々の形状を用いることができる。
【0058】
次に、本実施の形態において、設計基準事故を超える事故として、主蒸気管1本の大破断(大LOCA)、かつ最終ヒートシンクが使用できない、最終ヒートシンク喪失(LUHS)の発生を想定した場合の動作について説明する。なお、空冷用垂直ダクト28の設置、外部開放ライン4の排出先変更、及び外部開放ラインの接続先を熱交換器1の下流側ヘッダ1aに変更したこと以外の構成については、第1の実施の形態と同じであるため、説明を省略し、これらを変更したことによる効果のみを説明する。
【0059】
熱交換器1の管内で蒸気が凝縮することで熱交換器1の管外の空気温度が上昇する。高温空気の密度は低温空気の密度より小さいため、暖められた熱交換器1の管外の空気は浮力によって上昇し、低温の空気が下方から自動的に供給される、いわゆる自然循環力が得られる。しかし、空冷用垂直ダクト28を設置せずに、熱交換器1を単に設置した場合には、浮力によって上昇した空気が熱交換器1の上方にある大量の空気と速やかに混合して浮力を失い、自然循環力を十分に確保できない場合がある。熱交換器1を空冷用垂直ダクト28内に設置することで、暖まった空気と混合する空気の量を制限できるので、空冷用垂直ダクト28を設けない場合に比して強い自然循環力を確保することができる。
【0060】
また、本実施の形態では、外部開放ライン4の他端の開口を空冷用垂直ダクト28の下方に配置している。これにより、原子炉格納容器10を介して暖められた格納容器冷却領域6の空気や熱交換器1で凝縮しきれなかった高温蒸気を空冷用垂直ダクト28入口付近に放出することができる。空冷用垂直ダクト28入口付近に放出された高温蒸気や高温空気は自らの浮力によって空冷用垂直ダクト28内を上昇する際に、熱交換器1の管外で発生するものとは別の自然循環力を発生させることができる。
【0061】
このように、本実施の形態においては、空冷用垂直ダクト28内に強い自然循環力を発生させることができ、熱交換器1での蒸気凝縮性能を向上させることができる。
【0062】
ところで、本実施の形態のように、外部開放ライン4の他端の開口を下方に向けて配置すると、何らかの原因によって格納容器冷却水プール5のプール水が誤って流出する可能性がある。本実施の形態においては、外部開放ライン4の一端側の接続部位21を下流側配管3などの配管部より大きな体積の熱交換器1の下流側ヘッダ1aの上方とすることで、凝縮水の誤放出のリスクを小さくしている。
【0063】
上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第3の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第3の実施の形態によれば、熱交換器1を空冷用垂直ダクト28内に配置したので、熱交換器1の除熱性能を更に向上させることができる。この結果、信頼性の高い静的原子炉格納容器冷却系及び原子力発電プラントが提供できる。
【実施例4】
【0065】
以下、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第4の実施の形態を図面を用いて説明する。
図4は本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第4の実施の形態の構成を示すシステム系統図である。
図4において、
図1乃至
図3に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0066】
本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第4の実施の形態において、静的原子炉格納容器冷却系の構成は
図4に示すように、大略第1の実施の形態と同じであるが、熱交換器1を冷却するための熱交換器冷却プール29を設け、熱交換器1を熱交換器冷却プール29の熱交換器冷却プール水30の中に水没させるように構成した点が異なる。熱交換器冷却プール29の底面は、格納容器冷却水プール5のプール水面より上方に配置されている。外部開放ライン4の一端側の接続部位21は、熱交換器冷却プール29の外部にほとんどの部分を延伸した下流側配管3の格納容器冷却水プール5のプール水面より上方の部位であり、外部開放ライン4の他端は上方に向けて開口されている。
【0067】
次に、本実施の形態において、設計基準事故を超える事故として、主蒸気管1本の大破断(大LOCA)、かつ最終ヒートシンクが使用できない、最終ヒートシンク喪失(LUHS)の発生を想定した場合の動作について説明する。なお、熱交換器冷却プール29および熱交換器冷却プール水30以外の構成については、第1の実施の形態と同じであるため、説明を省略し、これらを変更したことによる効果のみを説明する。
【0068】
熱交換器1で必要となる除熱量は時間と共に変化する。上述したように、スクラム後の炉心8は崩壊熱を放出し続けるため、事故後の崩壊熱を継続して除熱して原子炉格納容器10を冷却する必要がある。崩壊熱の放出量は時間と共に指数関数的に減少するため、事故後初期には大きな除熱量が必要となり、事故後時間が経過した後は少ない除熱量が必要となる。第1の実施の形態から第3の実施の形態までのように、空冷タイプの熱交換器1を用いる場合は、事故後初期の大きな崩壊熱量を除去できるように熱交換器1のサイズ(伝熱面積)を決定する必要があり、熱交換器1のサイズが比較的大きなものになることが予想される。
【0069】
本実施の形態においては、熱交換器1を熱交換器冷却プール水30の中に水没させる構成としている。一般に未飽和水や飽和水の熱伝達率は空気の熱伝達率の20倍以上あるため、事故後初期の大きな除熱量を比較的サイズの小さい熱交換器で実現することができる。
【0070】
事故後の崩壊熱を熱交換器1で除去し続けると熱交換器冷却プール水30の温度が上昇して沸騰に至る。沸騰によって水位が低下して、熱交換器1が熱交換器冷却プール水30の水面上に露出すると、熱交換器1の露出部は水冷却から蒸気冷却に変化する。このことにより、熱交換器1での除熱量は低下するが、事故後の時間が経過すると除去すべき崩壊熱量が減少しているので、熱交換器1の除熱量が低下しても対応可能になる。熱交換器1が完全に水面上に露出した後は他の実施の形態と同様に、空冷式熱交換器として機能するようになる。
【0071】
上述したように、本実施の形態においては、第1の実施の形態と同様の効果を維持することができる。また、熱交換器1のサイズを、事故後初期の高い崩壊熱量を空冷除去可能な大きさに設計するのではなく、事故後長時間経過したときの減少した崩壊熱量を空冷除去可能な大きさに設計できる。このことにより、熱交換器1を小型化できるとともに信頼性が高く、かつ経済性に優れた静的原子炉格納容器冷却系及び原子力発電プラントを提供できる。
【0072】
上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第4の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
なお、本実施の形態では図示していないが、第3の実施の形態のように、熱交換器冷却プール29内を区分して空冷用垂直ダクト28を設けることで自然循環力を高めることもできる。このような構成とすることで、熱交換器1が水冷式から空冷式に変化した後の空冷式熱交換器の除熱性能を高めることができるので、熱交換器1のサイズを更に低減することが可能となる。
【0074】
また、第2の実施の形態のように外部開放ライン4の上に逆止弁25を設け、かつ格納容器冷却領域6の上部に格納容器冷却系用真空破壊弁26を設けることで、外部開放ライン4から熱交換器1への空気の逆流を防ぐ事もできる。これにより、熱交換器1への空気混入による熱交換性能低下リスクを低減することが可能になる。
【実施例5】
【0075】
以下、本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態を図面を用いて説明する。
図5は本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態の構成を示すシステム系統図、
図6Aは本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態を構成する水位制御フロート弁の高水位のときの動作を示す概念図、
図6Bは本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態を構成する水位制御フロート弁の低水位のときの動作を示す概念図である。
図5乃至
図6Bにおいて、
図1乃至
図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0076】
本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態において、静的原子炉格納容器冷却系の構成は
図5に示すように、大略第4の実施の形態と同じであるが、熱交換器冷却プール29を下方に拡大し、その底面は、原子炉格納容器10の底面と大略同じ高さに配置した点と、熱交換器冷却プール29の底部近傍と格納容器冷却水プール5の底部近傍とを接続する注水ライン31を設けた点と、注水ライン31の格納容器冷却水プール5側の端部に、水位自動制御機能を備えた注水弁32を設けた点と、外部開放ライン4の一端側の接続部位21を熱交換器1の下流側ヘッダ1aの上方の部位とした点と、外部開放ライン4の他端を下方に向けて熱交換器1の下部ヘッダ1aより下方の位置で外部に開口した点が異なる。
【0077】
注水弁32の水位自動制御機能とは、格納容器冷却水プール5の水位に応じて、注水弁32の開閉を制御し、熱交換器冷却プール29から格納容器冷却水プール5へ供給される水量を制御するものであって、本実施の形態においては、水位制御フロート弁を用いる。
図6A及び
図6Bを用いて水位制御フロート弁である注水弁32を説明する。
【0078】
図6A及び
図6Bにおいて、注水弁32は、注水ライン31の格納容器冷却水プール5側の端部開口を塞止/開放する蓋部32aと、格納容器冷却水プール5のプール水の水面に浮かぶフロート部33と、蓋部32aとフロート部33とを連結する逆L字状のロッド部32bとを備えている。蓋部32aの下端部は、注水ライン31の格納容器冷却水プール5側の開口下端部に軸支されていて、蓋部32aが直立して注水ライン31の格納容器冷却水プール5側の端部開口を全面的に覆った場合に、注水弁32は閉となる。一方、蓋部32aが直立状態から下端部を軸に傾いて注水ライン31の格納容器冷却水プール5側の端部開口の覆いが除去された場合に、注水弁32は開となる。
【0079】
図6Aに示すように、格納容器冷却水プール5の水位が高い場合には、フロート33による浮力によりロッド部32bで連結された蓋部32aが直立するので、注水弁32は閉止する。一方、
図6Bに示すように、格納容器冷却水プール5の水位が低い場合には、フロート33が下方に移動し、ロッド部32bで連結された蓋部32aが下端部を軸に傾くので、注水弁32は開動作する。このように、注水弁32は、格納容器冷却水プール5の水位に応じて自動的に注水ライン31の連通/遮断を制御できる。
【0080】
次に、本実施の形態において、設計基準事故を超える事故として、主蒸気管1本の大破断(大LOCA)、かつ最終ヒートシンクが使用できない、最終ヒートシンク喪失(LUHS)の発生を想定した場合の動作について説明する。なお、注水ライン31、注水弁32、外部開放ライン4の配置以外は、第4の実施の形態と同じであるため、説明を省略し、これらを変更したことによる効果のみを説明する。
【0081】
例えば、熱交換器1による除熱性能が崩壊熱除去に十分では無い場合、熱交換器1で凝縮できない蒸気が外部開放ライン4を介して外部に放出される。このような場合、格納容器冷却水プール5の水位が減少することで、原子炉格納容器10の冷却性能が低下し、原子炉格納容器10の健全性が低下する虞がある。
【0082】
本実施の形態においては、格納容器冷却水プール5の水位が低下すると、注水ライン31の格納容器冷却水プール5側に設置した注水弁32が自動的に開き、熱交換器冷却プール29の熱交換器冷却プール水30を格納容器冷却水プール5に供給するので、原子炉格納容器10の冷却性能の劣化を防止できる。
【0083】
格納容器冷却水プール5の水位が一定値まで上昇すると注水弁32が自動的に閉止して必要以上の冷却水が格納容器冷却水プール5に移行するのを防ぐ。この機能により、格納容器冷却水プール5の水位は圧力抑制プール14水位と同程度以下に維持することができるので、格納容器冷却水プール5の水圧による原子炉格納容器10の圧壊を防ぐことが可能になる。
【0084】
しかしながら、万一、フロート弁の閉止機能が作動しなかった場合には、格納容器冷却水プール5の水位が増加するので、原子炉格納容器10が圧壊する虞がある。この可能性を完全に排除するため、本実施の形態においては、外部開放ライン4の他端側の開口を外部開放ライン4の一端側より下方に配置している。このことにより、格納容器冷却水プール5の水位が増加した場合でも、外部開放ライン4の一端側の接続部位21を介して余分な水が外部に排出されるため、格納容器冷却水プール5の水位は、最大でも、外部開放ライン4の一端側の接続部位21の高さに制限することができる。
【0085】
ところで、本実施の形態のように、外部開放ライン4の他端の開口を下方に向けて配置すると、何らかの原因によって格納容器冷却水プール5のプール水が誤って流出する可能性がある。本実施の形態においては、外部開放ライン4の一端を下流側配管3などの配管部より大きな体積の熱交換器1の下流側ヘッダ1aの上方の部位21に接続することで、凝縮水の誤放出のリスクを小さくしている。
【0086】
上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
また、上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態によれば、熱交換器冷却プール29の底部近傍と格納容器冷却水プール5の底部近傍とを接続する注水ライン31と水位自動制御機能を備えた注水弁32とを設けたので、上述した第4の実施の形態と同様の効果を維持しながら、格納容器冷却水プール5の水位低下に伴う原子炉格納容器10の冷却性能の劣化を防止できる。この結果、信頼性の高い静的原子炉格納容器冷却系及び原子力発電プラントが提供できる。
【0088】
また、上述した本発明の静的原子炉格納容器冷却系および原子力発電プラントの第5の実施の形態によれば、熱交換器冷却プール29の底部近傍と格納容器冷却水プール5の底部近傍とを接続する注水ライン31と水位自動制御機能を備えた注水弁32とを設けたので、上述した第4の実施の形態と同様の効果を維持しながら、熱交換器1の除熱性能を低く設計することが可能になる。この結果、経済性に優れた静的原子炉格納容器冷却系及び原子力発電プラントが提供できる。
【0089】
なお、本発明は上述した第1乃至第5の実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。