(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
釣り用リール及び自転車などのアウトドアグッズには、表面に陽極酸化皮膜が形成され、装飾が施された軽金属製の金属部品が広く採用される。
【0003】
このような金属部品では、アルマイト皮膜などの陽極酸化皮膜上の微細孔中に、染料を吸着させて着色し、金属部品の表面にロゴなどの文字や画像が描かれ、装飾される。従来の装飾方法として、例えば、電解発色法、電解着色法、浸漬着色法等での着色が知られており、近年では、多色で文字及び画像等を金属部品の表面の陽極酸化皮膜に形成するインクジェット方式の着色による装飾技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
釣り用リール及び自転車などのアウトドアグッズには、表面が平坦ではないものも多くあり、このような場合では、従来の浸漬方法等での着色が優位であるが、基本的には、単色での着色となるため、複色の場合では、染色工程を繰り返し(一般的に、ダブルアルマイト染色)が、必要となり、その都度、染色工程、マスキング工程、脱色(脱染)工程を繰り返す必要がある、非常に煩雑となる。(特許文献2参照)
一方で、平坦な部分であれば、複色で文字や画像等が描けるインクジェット方式での装飾(着色、プリント処理)が一般的には、優位である。
【0005】
これらの特徴を生かし、アルマイト被膜された素材の表面にインクジェット方式による着色(プリント処理)を行い、プリント処理された素材を染料にドブ漬けして、プリント処理された以外の部分に色付け処理を行うものも提案されている。しかし、プリント処理された表面にまで、色付け処理が行われるため、インクジェット方式による染色がくすんだり、色落ちしたりするおそれがある(特許文献3参照)。
【0006】
インクジェット方式においては、陽極酸化皮膜が形成された金属部品の表面におけるインクの吸収性及び定着性が特に重要とされる。定着性が悪いと、先に付与されたインク滴と、後に付与されたインク滴とが混色して所望の色再現性や鮮明性が得られなくなる。また、被記録材表面の濡れが悪いと、表面でインクがはじかれてしまうので、良好な画像が得られない。
【0007】
そこで、陽極酸化皮膜を脱水及び活性化処理する着色技術が提案されている(特許文献4参照)。従来の着色技術では、脱水及び活性化処理された陽極酸化皮膜の所定の位置に記録ヘッドの吐出口より画像信号に応じてインク滴を飛翔させる。そして、記録ヘッドの複数回の走査により間引き画像を複数回記録することにより所望の画像を形成し、インクジェット方式による着色処理を行う。その後、記録画像を形成した陽極酸化皮膜から、そこに付着したインクに含まれる染料を陽極酸化皮膜中に染着させ、インク滴に含まれる余分な成分を除去する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インクジェット方式によって、陽極酸化皮膜上に文字及び/又は画像を形成すると、多色での表現を実現できる。しかし、金属部品の表面が三次元的な複雑な曲面を有する場合、ノズルヘッドと金属部品との距離が離れてしまうと、インクジェット方式による金属部品の表面の着色が難しいとともに精度良く着色できない。
【0010】
本発明の課題は、表面に陽極酸化皮膜が形成された金属部品の表面の着色を、浸漬による着色と、インクジェット方式による着色とを組み合わせて、容易かつ精度良く装飾(着色)を行えるようすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金属部品は、表面に陽極酸化皮膜が形成された金属製の金属部品である。金属部品は、第1領域と、第2領域と、少なくとも一つの第3領域と、を備える。第1領域は、陽極酸化皮膜の少なくとも一部に浸漬着色によって色付けされて配置される。第2領域は、第1領域の少なくとも一部に、インクジェット方式によって脱色されて配置される。少なくとも一つの第3領域は、第2領域の少なくとも一部に、インクジェット方式によって色付けされて配置される。
【0012】
この金属部品では、浸漬着色法によって、第1領域が陽極酸化皮膜の少なくとも一部に配置され、第1領域の少なくとも一部に脱色されて、金属部品の元の金属色になった第2領域が配置される。この第2領域の少なくとも一部に文字及び/又は画像を含む第3領域が配置される。すなわち、浸漬着色法とインクジェット方式の着色法とを組み合わせて着色するものであり、浸漬着色法によって着色された第1領域の少なくとも一部をインクジェット方式によって脱色された第2領域とし、脱色された第2領域の少なくとも一部にインクジェット方式によって着色された第3領域を形成する。
【0013】
ここでは、浸漬着色法によって着色された第1領域の少なくとも一部を脱色して(第2領域)、インクジェット方式によって着色する(第3領域)ため、それぞれの染色が混ざることなく、両領域とも、鮮明な染色となる。
【0014】
しかも、脱色をインクジェット方式によって行うので、マスキング処理等を行うことなく、複雑な脱色であっても、精度良く行え、その工程を簡略にできる。
【0015】
第1領域は、水性染料で着色されてもよい。この場合には、第1領域の少なくとも一部をインクジェット方式によって脱色する処理が容易になる。
【0016】
第3領域は、溶剤系染料で着色されてもよい。この場合には、着色された第3領域の耐久性及び耐食性が向上する。
【0017】
第3領域の少なくとも一部は、インクジェット方式によって第1領域と色相、明度及び彩度の少なくともいずれかが異なるように着色されてもよい。この場合には、着色された第1領域と第3領域とを視覚的に識別しやすくなる。
【0018】
第3領域は、第2領域内に複数配置されてもよい。この場合には、着色された複数の第3領域が配置されるので、複数の画像又は文字群を、間隔を隔てて配置できる。
【0019】
金属はアルミニウム合金及びマグネシウム合金のいずれかであってもよい。この場合には、金属部品の軽量化を図ることができる。
【0020】
金属部品は釣り具用部品であってもよい。この場合には、釣り具用部品において、意匠性を向上させることができる。
【0021】
釣り具用部品は釣り用リールの部品であってもよい。この場合には、釣り用リールの部品において、意匠性を向上させることができる。
【0022】
釣り具用部品は釣り竿の部品であってもよい。この場合には、釣り竿の部品において、意匠性を向上させることができる。
【0023】
金属部品は自転車用部品であってもよい。この場合には、自転車用部品において、意匠性を向上させることができる。
【0024】
本発明の別の発明に係る金属で構成された金属部品の表面装飾方法は、皮膜形成工程と、第1次着色処理工程と、脱色工程と、第2次着色処理工程と、を含む。皮膜形成工程では、金属部品の表面に陽極酸化皮膜を形成する。第1次着色処理工程では、陽極酸化皮膜が形成された表面を、浸漬処理により着色する。脱色工程では、着色された表面の少なくとも一部を、インクジェット方式により脱色する。2次着色処理工程では、脱色された表面の少なくとも一部を、インクジェット方式により着色する。
【0025】
金属はアルミニウム合金及びマグネシウム合金のいずれかであってもよい。この場合には、金属部品の軽量化を図ることができる。
【0026】
第1次着色処理工程では、水性染料で着色してもよい。この場合には、第1次着色処理された領域をインクジェット方式によって脱色する処理が容易になる。
【0027】
第2次着色処理工程では、溶剤系染料で着色してもよい。この場合には、第2次着色処理された領域の耐久性及び耐食性が向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、浸漬着色法とインクジェット方式の着色法とを組み合わせて、浸漬着色法によって着色された第1領域の少なくとも一部をインクジェット方式によって脱色された第2領域とし、脱色された第2領域の少なくとも一部にインクジェット方式によって着色された第3領域を形成するため、浸漬着色法によって着色された第1領域の少なくとも一部を脱色して(第2領域)、インクジェット方式によって着色する(第3領域)ため、それぞれの染色が混ざることなく、両領域とも、鮮明な染色となる。
【0029】
しかも、脱色をインクジェット方式によって行うので、マスキング処理等を行うことなく、複雑な脱色であっても、精度良く行え、その工程を簡略にできる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
図1において、本発明の第1実施形態による金属部品を採用した両軸受リール(釣り用リールの一例)100は、ベイトキャスト用の円形のリールである。両軸受リール100は、リール本体1と、リール本体1の一側(本実施形態では、リール本体1の右側)に配置されたスプール回転用のハンドル2と、ハンドル2のリール本体1から離れる側に配置されたドラグ力調整用のドラグ調整ノブ3と、リール本体1に回転自在に支持されたスプール12と、を備えている。
【0032】
ハンドル2は、ドラグ調整ノブ3の軸方向に並べて配置される。ハンドル2は、ハンドルアーム2aと、ハンドルアーム2aの両端に回転自在に装着されたハンドル把手2bと、を有する。第1実施形態では、ハンドル2がドラグ調整ノブ3の内側に配置されるが、ハンドル2の外側に配置されてもよい。
【0033】
リール本体1は、アルミニウム合金又はマグネシウム合金等の軽金属製の部材である。リール本体1は、フレーム5と、フレーム5の両側方に配置された第1側カバー6及び第2側カバー7と、を有する。第1実施形態では、リール本体1は、アルミニウム合金製である。リール本体1の内部には、糸巻用のスプール12が回転自在かつ着脱自在に装着されている。フレーム5は、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置された第1側板8及び第2側板9と、第1側板8と第2側板9を一体で連結する上下の連結部10と、を有する。図示しない下側の連結部には、両軸受リール100を釣り竿のリールシートに装着するための竿装着脚部14が設けられる。
【0034】
第1側カバー6は、扁平有底筒状に部材であり、第1側板8の外側面をカバーする。第1側カバー6は、本発明の第1実施形態に係る釣り用リール用部品であり、装飾が施された金属部品の一例である。第1側カバー6は、第2側カバー7側から挿入されたネジ部材によって第1側板8に着脱可能に装着される。第2側カバー7は、第2側板9の外側面をカバーする。
【0035】
第1側カバー6は、表面に微細孔を有するアルマイト皮膜(陽極酸化皮膜の一例)が形成されたアルミニウム合金製の金属部品である。第1側カバー6は、第1領域20と、第2領域22と、少なくとも一つの第3領域24と、を備える。第1実施形態では、第3領域24は、3つ設けられる。第1領域20は、アルマイト皮膜の少なくとも一部に浸漬着色によって色付けされて配置される。第1領域20は、水性染料が貯留された浴槽に第1側カバー6を浸漬させて形成される。したがって、第1実施形態では、着色工程の当初は、第1側カバー6の表面全体が第1領域20になる。第2領域22は、第1領域20の少なくとも一部に、インクジェット方式によって脱色されて配置される。したがって、第1実施形態では、第2領域22は、第3領域24を含んで形成される。第2領域22は、脱色されるため、金属色がそのまま見える。少なくとも一つの第3領域24は、第2領域22の少なくとも一部に、インクジェット方式によって色付けされて配置される。第1実施形態では、第3領域24は、脱色された第2領域22の一部にインクジェット方式で溶剤系染料によって着色された、例えば3つの文字画像群(S,M,O)によって構成される。着色工程が終わった時点では、第1実施形態では、第1側カバー6の外周部に、水性染料で着色された第1領域20が配置され、第1領域20の内周部に脱色された第2領域22が配置され、第2領域22内にインクジェット方式で溶剤系染料によって着色された第3領域24が配置される。ここで、第3領域24の少なくとも一部は、浸漬着色された第1領域20と、インクジェット方式によって、色相、明度及び彩度の少なくともいずれかが異なるように着色される。第1実施形態では、第3領域24と、第1領域20に対して、色相、明度及び彩度の全てが異なるように着色される。
【0036】
なお、本明細書では、
図1において、第1領域20は、水溶性の染料で着色され、また、第3領域24は、溶剤系の染料で着色されているため、その染料の違い、金属部材への定着性の相違等で、それぞれ、色相、明度及び彩度の少なくともいずれかが異なるように着色される。
【0037】
次に、本発明の金属部品の装飾方法の一実施形態を、
図2に示すフローチャート及び
図3に示す装飾方法の各工程の断面状態を説明する断面模式図を参照して説明する。装飾方法を実施する前に、予め加工され、かつ脱脂処理後洗浄された第1側カバー6の素材6aを用意する。
図2に示すように、素材6aの装飾方法は皮膜形成工程(ステップS1)と、第1次着色工程(ステップS2)と、脱色工程(ステップS3)と、第2次着色工程(ステップS4)と、封孔処理工程(ステップS5)と、を含む。
【0038】
図2のステップS1では、素材6aの表面をアルマイト処理し、
図3に示すアルマイト皮膜26を素材6aの表面に形成する。アルマイト皮膜26の形成方法は公知の方法を用いる。例えば、電解質液の浴中に素材6aを陽極として負極との間に通電し、陽極酸化によって素材6aの表面にアルマイト皮膜26を形成する。アルマイト皮膜26を形成すると、素材6aの表面に開口する多数の微細孔26aが形成される。
【0039】
ステップS2の第1次着色処理工程では、表面に陽極酸化皮膜が形成された素材6aを水性染料が貯留された浴槽に所定時間浸漬させて、素材6aの表面を浸漬処理によって着色する。これによって、
図3に示すように、各微細孔26aに水性染料26bが入り込み、素材6aの表面にあるアルマイト皮膜26が、水性染料によって着色される。したがって、第1着色処理では、基本的には任意の一色によって着色される。
【0040】
なお、第1次着色処理工程後には、水道水等での洗浄処理、その後、設定温度での乾燥処理等が後処理として行われるが、ここでは、これらの処理についての説明は省略する。
【0041】
また、従来のように、マスキング処理等を施し、浸漬処理による第1次着色処理工程を繰り返して、複数色の着色を施してもよい。
【0042】
ステップS3の脱色処理では、着色された表面の少なくとも一部を、インクジェット方式により脱色する。例えば、インクジェット方式によって、水性染料が入り込んだそれぞれの微細孔26aの少なくとも一部に向けて脱色液を噴射し、微細孔26aに入り込んだ水性染料26bを除去して脱色する。これによって、金属色のアルマイト皮膜26が表面に表れる。
【0043】
ここでは、インクジェット方式で脱色処理を行うので、従来、脱色を行う場合に必要であったマスキング処理等を施すことなく、脱色処理が可能となる。
【0044】
ステップS4の第2次着色処理では、脱色されたアルマイト皮膜26の表面の少なくとも一部を、インクジェット方式により着色する。したがって、第2次着色処理では、多色画像及び文字での装飾が可能である。例えば、インクジェット方式によって、水性染料が除去されたそれぞれの微細孔26aの少なくとも一部に向けて溶剤系染料26cを噴射し、微細孔26aの少なくとも一部に溶剤系染料26cを入り込ませる。
【0045】
なお、第2次着色処理工程後には、そこに付着したインクに含まれる染料を陽極酸化皮膜中に染着させ、インク滴に含まれる余分な成分を除去する処理や、水道水等での洗浄処理、その後、設定温度での乾燥処理等が後処理として行われるが、ここでは、これらの処理についての説明は省略する。
【0046】
ステップS5の封孔処理では、多数の微細孔26aを表面側で閉じる、水和処理する。水和処理としては、公知の水蒸気法、沸騰水法、酢酸ニッケル法などがあげられる。この、水和処理によって発生した水和物が微細孔26aを塞ぐ。
【0047】
このような装飾方法を実施することによって、水性染料で着色された第1領域20と、脱色された第2領域22と、溶剤系染料で着色された第3領域24が形成される。
【0048】
このような構成の金属部品では、浸漬着色法とインクジェット方式の着色法とを組み合わせて、浸漬着色法によって着色された第1領域20の少なくとも一部をインクジェット方式によって脱色された第2領域22とし、脱色された第2領域22の少なくとも一部にインクジェット方式によって着色された第3領域24を形成する。このように、浸漬着色法によって着色された第1領域20の少なくとも一部を脱色して(第2領域22)、インクジェット方式によって着色する(第3領域24)ため、それぞれの染色が混ざることなく、両領域20,24とも、鮮明な染色となる。
【0049】
しかも、脱色をインクジェット方式によって行うので、マスキング処理等を行うことなく、複雑な脱色であっても、精度良く行え、その工程を簡略にできる。
【0050】
<第2実施形態>
第1実施形態では、金属部品として、釣り具としての釣り用リールの部品を開示したが、第2実施形態では、釣り具としての釣り竿の部品を開示する。
図4において、釣り竿30は、例えば繊維強化樹脂製の竿本体31と、釣り用リールを装着するためのリールシート32と、を備える。リールシート32には、例えば、第1実施形態の両軸受リール100の場合、竿装着脚部14が装着される。
【0051】
リールシート32は、例えば合成樹脂製の概ね筒状のシート本体33と、竿装着脚部14の一端を係止する第1係止部34と、竿装着脚部14の他端を係止する第2係止部35と、金属製の銘版36とを有する。第1係止部34はシート本体33と一体に形成される。第2係止部35は、シート本体33に螺合し、竿本体31の長手方向に移動可能である。
【0052】
銘版36は、本発明の第2実施形態による金属部品の一例である。銘版36は、シート本体33の竿装着脚部14が装着される面に接着などの適宜の固定手段によって固定される。銘版36は、例えば、アルミニウム合金製である。銘版36は、第1実施形態と同様な構造の第1領域40と、第2領域42と、第3領域44と、を備える。第1領域40は、浸漬着色された水性染料によって色付けされて配置される。第2領域42は第1領域40の少なくとも一部に、インクジェット方式によって脱色されて配置される。第3領域44は、脱色された第2領域42の少なくとも一部にインクジェット方式で溶剤系染料によって着色された、例えば3つの文字画像群(S,M,O)によって構成される。第2実施形態では、第1領域40は、銘版36の周縁部に配置される。第2領域42は、第1領域40の内側に配置される。第3領域44は、第2領域42内に長手方向に間隔を隔てて3つ配置される。
【0053】
このような第2実施形態においても、第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0054】
<第3実施形態>
第1実施形態及び第2実施形態では、金属部品として、釣り具の部品を開示したが、第3実施形態では、自転車用部品を開示する。
図5において、自転車のクランク50は、アルミニウム合金製の金属部品である。クランク50は、自転車のクランク軸に着脱可能、かつクランク軸と一体回転可能に連結される。
【0055】
クランク50は、第1領域60と、第2領域62と、第3領域64とを備える。また、クランク50は、一端に設けられ、クランク軸が連結される第1連結孔52と、他端に設けられペダルの軸と連結される第2連結孔54と、を有する。
【0056】
第1領域60、第2領域62及び第3領域64の装飾方法は第1実施形態と同様である。第1領域60は、浸漬着色された水性染料によって色付けされて配置される。第2領域62は第1領域40の少なくとも一部に、インクジェット方式によって脱色されて配置される。第3領域64は、脱色された第2領域62の少なくとも一部にインクジェット方式で溶剤系染料によって着色された、例えば3つの文字画像群(S,M,O)によって構成される。第2実施形態では、第1領域60は、クランク50の
図5の平面の周囲、背面、及び側面に配置される。第2領域62は、平面において第1領域60の内側に配置される。第3領域64は、第2領域62内に長手方向に間隔を隔てて3つ配置される。
【0057】
このような構成の第3実施形態においても、第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0058】
<特徴>
上記実施形態は、下記のように表現可能である。
【0059】
(A)金属部品である第1側カバー6(又は銘版36、クランク50)は、表面に陽極酸化皮膜が形成された金属製の部品である。金属部品は、第1領域20(又は40,60)と、第2領域22(又は42,62)と、少なくとも一つの第3領域24(又は44,64)と、を備える。第1領域20(又は40,60)は、アルマイト皮膜26の少なくとも一部に浸漬着色によって色付けされて配置される。第2領域22(又は42,62)は、第1領域20(又は40,60)の少なくとも一部に、インクジェット方式によって脱色されて配置される。少なくとも一つの第3領域24(又は44,64)は、第2領域22(又は42,62)の少なくとも一部に、インクジェット方式によって色付けされて配置される。
【0060】
この第1側カバー6(又は銘版36、クランク50)では、浸漬着色法によって、単色の第1領域20(又は40,60)がアルマイト皮膜26の少なくとも一部に配置され、第1領域20(又は40,60)の少なくとも一部に脱色されて金属色になった第2領域22(又は42,62)が配置される。この第2領域22(又は42,62)の少なくとも一部に文字及び又は画像を含む第3領域24(又は44,64)が配置される。すなわち、浸漬着色法とインクジェット方式の着色法とを組み合わせて着色するとともに、浸漬着色法によって着色された第1領域20(又は40,60)の少なくとも一部をインクジェット方式によって脱色した後に第3領域24(又は44,64)を着色する。
【0061】
ここでは、第1側カバー6(又は銘版36、クランク50)を浸漬着色法とインクジェット方式の着色法とを組み合わせて着色することで、それぞれの染色が混ざることなく、両領域とも、鮮明な染色となる。
【0062】
しかも、脱色をインクジェット方式によって行うので、マスキング処理等を行うことなく、複雑な脱色であっても、精度良く行え、その工程を簡略にできる。
【0063】
(B)第1領域20(又は40,60)は、水性染料で着色されてもよい。この場合には、第1領域20(又は40,60)の少なくとも一部をインクジェット方式によって脱色する処理が容易になる。
【0064】
(C)第3領域24(又は44,64)は、溶剤系染料26cで着色されてもよい。この場合には、着色された第3領域24(又は44,64)の耐久性及び耐食性が向上する。
【0065】
(D)第1領域20は、浸漬方式によって水溶性の染料で着色され、また、第3領域24は、インクジェット方式によって溶剤系の染料で着色されているため、その染料の違い、金属部材への定着性の相違等で、それぞれ、色相、明度及び彩度の少なくともいずれかが異なるように着色され、視覚的に識別しやすくなる。
【0066】
(E)第3領域24(又は44,64)は、第2領域22(又は42,62)内に複数配置されてもよい。この場合には、着色された複数の第3領域24(又は44,64)が配置されるので、複数の画像又は文字群を、間隔を隔てて配置できる。
【0067】
(F)金属はアルミニウム合金及びマグネシウム合金のいずれかであってもよい。この場合には、第1側カバー6(又は銘版36、クランク50)の軽量化を図ることができる。
【0068】
(G)金属部品は第1側カバー6(又は銘版36)であってもよい。この場合には、釣り具用部品において、意匠性を向上させることができる。
【0069】
(H)釣り具用部品は第1側カバー6であってもよい。この場合には、釣り用リールの部品において、意匠性を向上させることができる。
【0070】
(I)釣り具用部品は銘版36であってもよい。この場合には、釣り竿30の部品において、意匠性を向上させることができる。
【0071】
(J)金属部品はクランク50であってもよい。この場合には、自転車用部品において、意匠性を向上させることができる。
【0072】
(K)本発明の別の発明に係る金属で構成された金属部品の表面装飾方法は、皮膜形成工程と、第1次着色処理工程(ステップS2)と、脱色工程(ステップS3)と、第2次着色処理工程(ステップS4)と、を含む。皮膜形成工程(ステップS1)では、金属部品の表面にアルマイト皮膜26を形成する。第1次着色処理工程(ステップS2)では、アルマイト皮膜26が形成された表面を、浸漬処理により着色する。脱色工程(ステップS3)では、着色された表面の少なくとも一部を、インクジェット方式により脱色する。2次着色処理工程(ステップS4)では、脱色された表面の少なくとも一部を、インクジェット方式により着色する。
【0073】
(L)金属はアルミニウム合金及びマグネシウム合金のいずれかであってもよい。この場合には、金属部品の軽量化を図ることができる。
【0074】
(M)第1次着色処理工程(ステップS4)では、水性染料26bで着色してもよい。この場合には、第1次着色処理された領域をインクジェット方式によって脱色する処理が容易になる。
【0075】
(N)第2次着色処理工程で(ステップS2)は、溶剤系染料26cで着色してもよい。この場合には、第2次着色処理された領域の耐久性及び耐食性が向上する。
【0076】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0077】
(a)上記3つの実施形態では、第3領域24、44,64のいずれも同じ文字画像にしたが、本発明はこれに限定されない。第3領域では、インクジェット方式で着色するため、写真やイラストなどの種々の多色画像で着色可能である。
【0078】
(b)上記3つの実施形態では、第2領域22、42、62の一部に、第3領域24、44,64を着色して設けたが、本発明はこれに限定されない。第2領域22、42、62の全体に着色して第3領域24、44,64を設けてもよい。この場合、金属部品の表面には、第2領域が見えなくなることとなる。
【0079】
(c)上記3つの実施形態では、陽極酸化皮膜が表面に形成された金属として、アルミニウム合金を開示したが本発明はこれに限定されない。例えば、マグネシウム合金でもよい。
【0080】
(d)上記3つの実施形態では、金属部品として、釣り用リールの部品(第1側カバー6)、釣り竿用の部品(銘版36)、及び自転車用部品(クランク50)を開示したが、本発明はこれに限定されない。微細孔を有する陽極酸化皮膜が表面に形成された全ての金属部品に本発明を適用できる。