(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
〔積層微多孔性フィルム〕
本実施形態の積層微多孔性フィルムは、融点T
mAを有する第1の樹脂組成物を含む第1の微多孔性フィルムと、前記融点T
mAよりも低い融点T
mBを有する第2の樹脂組成物を含む第2の微多孔性フィルムと、を備え、気孔率が、50〜70%であり、突刺強度が、4.0〜6.0Nである。
【0019】
第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物は、JIS K−7121に準拠した方法で測定したそれぞれの融点(以下、単に「融点」ともいう。)T
mA及びT
mBがT
mA>T
mBという関係を満足するものであれば、その組成は同質であっても異質であってもよい。ここで、T
mAは第1の樹脂組成物の融点、T
mBは第2の樹脂組成物の融点を示す。
【0020】
第1の樹脂組成物の融点T
mAと第2の樹脂組成物の融点T
mBとの差(T
mA−T
mB)は、好ましくは5.0℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。融点の差(T
mA−T
mB)が5.0℃以上であることにより、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、異常電流により電池の内部温度が上昇した際に、低融点の樹脂層が溶融しても高融点の樹脂層は溶融することなく保持されやすい傾向にある。その結果、電池用セパレータのフィルム形状又はシート形状が保持され、安全性がより向上する傾向にある。一方で、第1の樹脂組成物の融点T
mAと第2の樹脂組成物の融点T
mBとの差(T
mA−T
mB)は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは50℃以下である。融点の差(T
mA−T
mB)が150℃以下であることにより、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、異常電流により電池の内部温度が上昇した際に、低融点の樹脂層が溶融しても高融点の樹脂層は溶融することなく保持されやすい傾向にある。その結果、電池用セパレータのフィルム形状又はシート形状が保持され、安全性がより向上する傾向にある。
【0021】
積層微多孔性フィルムは、第1の微多孔性フィルムと第2の微多孔性フィルムとの積層体であるが、それらの積層の態様は特に限定されない。その態様の具体例としては、1つの第1の微多孔性フィルムと1つの第2の微多孔性フィルムとからなる積層微多孔性フィルム(a)、1つの第1の微多孔性フィルムとその両側に積層された第2の微多孔性フィルムとからなる積層微多孔性フィルム(b)、1つの第2の微多孔性フィルムとその両側に積層された第1の微多孔性フィルムとからなる積層微多孔性フィルム(c)、第1の微多孔性フィルム−第2の微多孔性フィルム−第1の微多孔性フィルム−第2の微多孔性フィルムというように、それぞれの微多孔性フィルムが交互に配置された積層微多孔性フィルム(d)が挙げられる。このなかでも、本発明の効果をより有効かつ確実に発揮する観点から、積層微多孔性フィルム(c)の態様が好ましい。
【0022】
〔第1及び第2の微多孔性フィルム〕
第1及び第2の微多孔性フィルムは、後述する第1及び第2の樹脂フィルムを、延伸して多孔化することにより得られるものであることが好ましい。
【0023】
(第1の樹脂組成物)
第1の樹脂組成物としては、特に限定されないが、樹脂、及び必要に応じて添加され得る任意の添加剤を含むものが挙げられる。なお、本明細書において、「樹脂組成物」とは、1種類の樹脂(高分子材料)のみからなるものも含む概念であり、2種類以上の樹脂の混合物であってもよく、さらに任意の添加剤を含有してもよい。
【0024】
第1の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン及びエチレン−プロピレン共重合体のようなポリオレフィン;エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のオレフィン炭化水素を単量体成分として含む重合体が挙げられる。このなかでも、ポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。このような樹脂を用いることにより、電池用セパレータに求められる複数の特性をより良好に兼ね備えることができる。第1の樹脂組成物に含まれる樹脂は、1種単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリプロピレンとは、ポリプロピレンを単量体成分として含む重合体であれば特に限定されず、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。コポリマーである場合、ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、コポリマーである場合、共重合成分に限定はなく、例えば、エチレン、ブテン及びヘキセンが挙げられる。共重合成分は、1種単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。ポリプロピレンがコポリマーである場合、ポリプロピレンの共重合割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0026】
ポリプロピレンは、1種単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。また、ポリプロピレンを得る際に用いられる重合触媒としては、特に限定されないが、例えば、チーグラー・ナッタ系の触媒及びメタロセン系の触媒が挙げられる。
【0027】
また、ポリプロピレンの立体規則性に関しても特に制限はなく、アイソタクチック又はシンジオタクチックのポリプロピレンが用いられる。
【0028】
ポリプロピレンは、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよい。また、得られる微多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる結晶性や融点を有する2種以上のポリプロピレンを特定の配合比率で配合したものであってもよい。
【0029】
ポリプロピレンは、特開昭44−15422号公報、特開昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報、特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレンであってもよい。さらに、ポリプロピレンは、上述のポリプロピレンと変性ポリプロピレンとの任意の割合の混合物であってもよい。
【0030】
第1の樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)(ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kgの荷重下で測定。以下同様。)は、好ましくは0.10〜20g/10分であり、より好ましくは0.10〜10g/10分であり、さらに好ましくは0.1〜5.0g/10分である。MFRが上記範囲内であることにより、積層微多孔性フィルムの成形性がより向上する傾向にある。
【0031】
第1の樹脂組成物に含まれる樹脂の含有量は、第1の樹脂組成物の総量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0032】
第1の樹脂組成物は、第2の樹脂組成物よりも高い融点を有する。第1の樹脂組成物の融点T
mAは、好ましくは150〜280℃であり、より好ましくは150〜250℃であり、さらに好ましくは150〜230℃である。第1の樹脂組成物の融点T
mAが上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの破膜温度と成膜性のバランスがより良好となる傾向にある。第1の樹脂組成物の融点T
mAは、用いる樹脂の種類及び必要に応じて用いる添加剤により調整することができる。
【0033】
また、第1の樹脂組成物の密度は、好ましくは900〜930kg/m
3であり、より好ましくは910〜930kg/m
3であり、さらに好ましくは910〜920kg/m
3であり、最も好ましくは910〜915kg/m
3である。第2の樹脂組成物の密度が900kg/m
3以上であることにより、透気性のより良好な積層微多孔性フィルムが得られる傾向にある。また、第2の樹脂組成物の密度が930kg/m
3以下であることにより、延伸する際に膜が破断し難くなる傾向にある。
【0034】
(第2の樹脂組成物)
第2の樹脂組成物としては、融点TmAよりも低い融点TmBを有する限り特に限定されないが、例えば、樹脂、及び必要に応じて添加され得る任意の添加剤を含むものが挙げられる。
【0035】
第2の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン炭化水素を単量体成分として含む重合体であるポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステルが挙げられる。このなかでも、第2の樹脂組成物は、ポリエチレンを含むエチレン系樹脂組成物であることが好ましく、いわゆる高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含む樹脂組成物であることがより好ましく、高密度ポリエチレンを含む樹脂組成物であることがさらに好ましい。このような樹脂組成物であることにより、電池用セパレータに求められる複数の特性をより良好に兼ね備えることができる。第2の樹脂組成物に含まれる樹脂は、1種単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
【0036】
なお、「ポリエチレン」とは、そのモノマーの主成分がエチレンであるポリマーをいう。ここで「主成分」とは、エチレンがポリエチレンのモノマーの全体量に対して50質量%以上を占めることを意味し、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上、特に好ましくは100質量%、すなわち全量を占めることを意味する。
【0037】
第2の樹脂組成物は、第1の樹脂組成物よりも低い融点を有する。第2の樹脂組成物の融点T
mBは、好ましくは100℃〜150℃であり、より好ましくは100〜145℃であり、さらに好ましくは100〜140℃である。第2の樹脂組成物の融点T
mBが上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた際、電池の安全性が飛躍的に向上する傾向にある。第2の樹脂組成物の融点T
mBは、用いる樹脂の種類及び必要に応じて用いる添加剤により調整することができる。
【0038】
第2の樹脂組成物に含まれる樹脂の含有量は、第1の樹脂組成物の総量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0039】
第2の樹脂組成物のMFRは、好ましくは0.010〜10g/10分であり、より好ましくは0.10〜3.0g/10分であり、さらに好ましくは0.10〜2.0g/10分であり、最も好ましくは0.10〜1.0g/10分である。MFRが0.010g/10分以上であることにより、第2の微多孔性フィルムにフィッシュアイが発生し難くなる傾向にある。また、MFRが10g/10分以下であることにより、ドローダウンが起こり難くなり、成膜性が良好となる傾向にある。
【0040】
また、第2の樹脂組成物の密度は、好ましくは945〜970kg/m
3であり、より好ましくは955〜970kg/m
3であり、さらに好ましくは960〜967kg/m
3であり、最も好ましくは963〜967kg/m
3である。第2の樹脂組成物の密度が945kg/m
3以上であることにより、透気性のより良好な積層微多孔性フィルムが得られる傾向にある。また、第2の樹脂組成物の密度が970kg/m
3以下であることにより、延伸する際に膜が破断し難くなる傾向にある。
【0041】
第1及び第2の樹脂組成物は、任意の添加剤を含んでもよい。任意の添加剤としては、特に限定されないが、例えば、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機充填材及び強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が挙げられる。
【0042】
積層微多孔性フィルムの気孔率は、50%〜70%であり、好ましくは53%〜65%、より好ましくは56%〜60%である。気孔率が50%以上であることにより、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、イオン透過性がより向上する。一方、気孔率が70%以下であることにより、積層微多孔性フィルムの機械強度がより向上する。積層微多孔性フィルムの気孔率は、各層を構成する樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。例えば、樹脂組成物の組成を高密度にすること、熱延伸温度を高くすること、あるいは延伸倍率を高くすることにより、気孔率を高めることができる。積層微多孔性フィルムの気孔率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
積層微多孔性フィルムの突刺強度は、好ましくは4.0〜10Nであり、より好ましくは4.0〜8.0Nであり、さらに好ましくは4.0〜6.0Nである。突刺強度が上記範囲内であることにより、電極間の短絡による電池不良がより抑制される傾向にある。突刺強度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0044】
積層微多孔性フィルムの透気度は、好ましくは10〜5000秒/100ccであり、より好ましくは50〜1000秒/100ccであり、さらに好ましくは100〜500秒/100ccである。透気度が5000秒/100cc以下であることにより、積層微多孔性フィルムのイオン透過性がより向上する傾向にある。一方、透気度が10秒/100cc以上であることにより、積層微多孔性フィルムの欠陥が少なく、品質がより均等になる傾向にある。なお、本実施形態の積層微多孔性フィルムの透気度は、各層を構成する樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。また、透気度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
積層微多孔性フィルムの膜厚は、好ましくは5.0μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは15μm以上である。膜厚が5.0μm以上であることにより、機械的強度がより向上する傾向にある。また、積層微多孔性フィルムの膜厚は、好ましくは16μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは12μm以下である。膜厚が16μm以下であることにより、電池の小型化に更に有効となる傾向にある。積層微多孔性フィルムの膜厚は、各樹脂フィルムの厚さ、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。また、積層微多孔性フィルムの膜厚は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
〔積層微多孔性フィルムの製造方法〕
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法としては、例えば、Tダイやサーキュラーダイを用い、共押出法により各樹脂フィルムを積層した積層フィルムを成形した後、その積層フィルムを延伸して多孔化する方法(a);各樹脂フィルムを別々に押出成形した後、ラミネート法により各樹脂フィルムを貼り合せて積層した積層フィルムを形成し、その後、その積層フィルムを延伸して多孔化する方法(b);各樹脂フィルムを別々に押出成形して更に延伸してそれぞれ多孔化した微多孔化フィルムを得た後にそれらの微多孔化フィルムを貼合する方法(c)が挙げられる。これらの中でも、得られる積層微多孔性フィルムに要求される物性やイニシャル/ランニングコストの観点から、共押出法により各樹脂フィルムを積層した積層フィルムを成形した後、その積層フィルムを延伸して多孔化する方法(a)が好ましい。一方、透気性に関しては方法(a)よりは若干劣るものの、積層微多孔性フィルムの熱収縮率を小さくできるという観点からは方法(c)も好ましい。
【0047】
以下、方法(a)を中心により詳細に説明する。本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、融点T
mAを有する第1の樹脂組成物を含む第1の樹脂フィルムと、前記融点T
mAよりも低い融点T
mBを有する第2の樹脂組成物を含む第2の樹脂フィルムと、を有する積層フィルムを、共押出法により形成する共押出工程と、前記共押出工程で得られた積層フィルムを、乾式法により、延伸して、積層微多孔性フィルムを形成する延伸工程と、をこの順で有する。
【0048】
なお、本明細書において「樹脂フィルム」とは、樹脂組成物をフィルム状に成形したものを示し、これを延伸して多孔化することにより「微多孔性フィルム」を得ることができる。
【0049】
〔共押出工程〕
共押出工程は、融点T
mAを有する第1の樹脂組成物を含む第1の樹脂フィルムと、前記融点T
mAよりも低い融点T
mBを有する第2の樹脂組成物を含む第2の樹脂フィルムと、を有する積層フィルムを、共押出法により形成する工程である。
【0050】
方法(a)〜(d)のいずれの製造方法においても、押し出し後のドロー比、すなわち、フィルムの巻取速度(単位:m/分)を樹脂組成物の押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値は、好ましくは10〜500、より好ましくは100〜400、更に好ましくは150〜350の範囲である。この値が10〜500であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性が更に向上する。また、フィルムの巻取速度が、好ましくは2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分になるようにフィルムを巻き取る。巻取速度が2〜400m/分であることにより、得られる積層積層微多孔性フィルムの透気性が更に向上する。
【0051】
〔積層フィルム〕
積層フィルムは、融点T
mAを有する第1の樹脂組成物を含む第1の樹脂フィルムと、前記融点T
mAよりも低い融点T
mBを有する第2の樹脂組成物を含む第2の樹脂フィルムと、を有する。第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物は、JIS K−7121に準拠した方法で測定した融点(以下、単に「融点」ともいう。)T
mA及びT
mBが、T
mA>T
mBを満足するものであれば、その組成は同質であっても異質であってもよい。ここで、T
mAは第1の樹脂組成物の融点を示し、T
mBは第2の樹脂組成物の融点を示す。
【0052】
第1の樹脂組成物の融点T
mAと第2の樹脂組成物の融点T
mBとの差(T
mA−T
mB)は、好ましくは5.0℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。融点の差(T
mA−T
mB)が5.0℃以上であることにより、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、異常電流により電池の内部温度が上昇した際に、低融点の樹脂層が溶融しても高融点の樹脂層は溶融することなく保持されやすい傾向にある。その結果、電池用セパレータのフィルム形状又はシート形状が保持され、安全性がより向上する傾向にある。一方で、第1の樹脂組成物の融点T
mAと第2の樹脂組成物の融点T
mBとの差(T
mA−T
mB)は、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下である。融点の差(T
mA−T
mB)が150℃以下であることにより、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、異常電流により電池の内部温度が上昇した際に、低融点の樹脂層が溶融しても高融点の樹脂層は溶融することなく保持されやすい傾向にある。その結果、電池用セパレータのフィルム形状又はシート形状が保持され、安全性がより向上する傾向にある。
【0053】
積層フィルムは、第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムの積層体であるが、それらの積層の態様は特に限定されない。その態様の具体例としては、1つの第1の微多孔性フィルムと1つの第2の微多孔性フィルムとからなる積層フィルム(a)、1つの第1の微多孔性フィルムとその両側に積層された第2の微多孔性フィルムとからなる積層フィルム(b)、1つの第2の微多孔性フィルムとその両側に積層された第1の微多孔性フィルムとからなる積層フィルム(c)、第1の微多孔性フィルム−第2の微多孔性フィルム−第1の微多孔性フィルム−第2の微多孔性フィルムというように、それぞれの樹脂フィルムが交互に配置された積層フィルム(d)が挙げられる。このなかでも、本発明の効果をより有効かつ確実に発揮する観点から、上記(c)の態様が好ましい。
【0054】
(第1の樹脂組成物)
第1の樹脂組成物としては、特に限定されず、上記と同様のものが挙げられる。
【0055】
(第2の樹脂組成物)
第2の樹脂組成物としては、特に限定されず、上記と同様のものが挙げられる。このなかでも、エチレン系樹脂組成物が好ましい。エチレン系樹脂組成物を用いることにより、電池用セパレータに求められる複数の特性をより良好に兼ね備えることができる。
【0056】
〔熱処理工程〕
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、共押出工程の後、延伸工程の前に、得られた積層フィルムに対し、熱処理(アニール)を施す熱処理工程をさらに有することが好ましい。アニール方法としては、特に限定されないが、例えば、積層フィルムを加熱ロール上に接触させる方法;積層フィルムを加熱気相中に曝す方法;積層フィルムを芯体上に巻き取り、加熱気相又は加熱液相中に曝す方法;及びこれらを組み合わせて行う方法等が挙げられる。
【0057】
方法(a)において、積層フィルムのアニールを行う場合の加熱温度は、好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、より好ましくは(T
mB−15)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mB−10)℃以上(T
mB−2.0)℃以下である。加熱温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの接着強度がより向上する傾向にある。
【0058】
方法(a)において、積層フィルムをアニールする場合の加熱時間は、好ましくは10秒間〜100時間であり、より好ましくは1分間〜10時間であり、さらに好ましくは1時間〜6時間である。加熱時間が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの接着強度がより向上する傾向にある。
【0059】
なお、方法(b)又は(c)において、第1の樹脂組成物から構成される第1の樹脂フィルム(以下、「高融点樹脂フィルム」ともいう。)を単独でアニールする場合の加熱温度は、好ましくは(T
mA−50)℃以上(T
mA−2.0)℃以下であり、より好ましくは(T
mA−40)℃以上(T
mA−10)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mA−40)℃以上(T
mB−5.0)℃以下である。加熱温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスがより向上する傾向にある。なお、加熱時間は適宜決定され、特に限定されない。
【0060】
一方、方法(b)又は(c)において、第2の樹脂組成物から構成される第2の樹脂フィルム(以下、「低融点樹脂フィルム」ともいう。)を単独でアニールする場合の加熱温度は、好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、より好ましくは(T
mB−15)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mB−10)℃以上(T
mB−2.0)℃以下である。加熱温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスがより向上する傾向にある。なお、加熱時間は適宜決定され、特に限定されない。
【0061】
なお、上記加熱処理の条件は、積層フィルムを構成する樹脂組成物の組成等により適宜決定することができる。
【0062】
上記のようにアニールは各樹脂フィルムを積層する前に行ってもよく、積層した後に行ってもよい。積層する前にアニールを施す場合、高融点樹脂フィルム及び低融点樹脂フィルムのそれぞれに適した条件でアニールを施すことができる。これにより、気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスが更に良好な積層微多孔性フィルムが得られる傾向にある。一方、積層した後にアニールを施す場合、つまり、積層フィルムにアニールを施す場合、非晶部の比率が高いアニール前の樹脂から構成される樹脂フィルム同士を積層することになるため、樹脂フィルム同士の接着強度が高い積層微多孔性フィルムが得られる傾向にある。なお、樹脂フィルム同士は、例えば熱圧着により積層されてもよい。
【0063】
〔延伸工程〕
延伸工程は、共押出工程で得られた積層フィルムを、乾式法により、延伸して、積層微多孔性フィルムを形成する工程である。ここで「乾式法」とは、溶剤を用いない延伸開孔方法をいう。
【0064】
延伸方法としては、特に限定されないが、例えば、冷延伸及び/又は熱延伸が挙げられ鵜。
【0065】
延伸工程としては、特に限定されないが、例えば、冷延伸工程及び/又は熱延伸工程を含むことが好ましく、少なくとも熱延伸工程を含むことがより好ましく、冷延伸工程及び熱延伸工程を含むことがさらに好ましい。以下、各工程についてより詳細説明する。
【0066】
なお、上記方法(a)及び方法(b)のように、予め第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムと、を積層した積層フィルムを形成する場合、その積層フィルムに対して第1の延伸を施して延伸積層フィルムを得る冷延伸工程を含むことが好ましい。また、上記方法(c)のように、第1の樹脂フィルムと、第2の樹脂フィルムと、を別々に多孔化した後にそれらを積層する場合、各樹脂フィルムに対して第1の延伸を施して延伸積層フィルムを得る冷延伸工程を含むことが好ましい。
【0067】
(冷延伸工程)
方法(a)及び方法(b)において、積層フィルムに対して冷延伸を施す場合、冷延伸工程における延伸温度は、好ましくは−20℃以上(T
mB−60)℃以下であり、より好ましくは0℃以上50℃以下であり、さらに好ましくは0℃以上45℃以下である。冷延伸工程における延伸温度が−20℃以上であることにより、破断をより抑制できる傾向にある。また、冷延伸工程における延伸温度が(T
mB−60)℃以下であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの気孔率及び透気度がより向上する傾向にある。ここで、「冷延伸における延伸温度」は、冷延伸工程におけるフィルムの表面温度を意味する。フィルムの表面温度は、接触式温度計により測定することができる(以下同様)。
【0068】
方法(c)において、高融点樹脂フィルムを単独で冷延伸する場合の延伸温度は、好ましくは−20℃以上90℃以下であり、より好ましくは0℃以上50℃以下であり、さらに好ましくは0℃以上45℃以下である。冷延伸工程における延伸温度が−20℃以上であることにより、破断をより抑制できる傾向にある。また、冷延伸工程における延伸温度が90℃以下であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの気孔率及び透気度がより向上する傾向にある。
【0069】
一方、方法(c)において、低融点樹脂フィルムを単独で冷延伸する場合の延伸温度は、好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、より好ましくは(T
mB−25)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mB−15)℃以上(T
mB−2)℃以下である。冷延伸工程における延伸温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの気孔率、透気度、及び熱収縮率のバランスがより向上する傾向にある。
【0070】
方法(a)〜(c)において、冷延伸工程における延伸倍率は、好ましくは1.05倍〜2.0倍であり、より好ましくは1.1倍〜2.0倍であり、さらに好ましくは1.1倍〜1.18倍である。冷延伸工程における延伸倍率が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性がより向上する傾向にある。冷延伸は、少なくとも一方向に行い、フィルムの押出し方向(MD)及びフィルムの幅方向(TD)の両方向に行ってもよい。このなかでも、得られる積層微多孔性フィルムの透気性の観点から、フィルムの押し出し方向にのみ一軸延伸を行うことが好ましい。
【0071】
(熱延伸工程)
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、冷延伸工程の後に、冷延伸の延伸温度よりも高い温度で第2の延伸を施して積層微多孔性フィルムを得る熱延伸工程を含むことが好ましい。
【0072】
方法(a)及び方法(b)において、積層フィルムに対して熱延伸を施す場合、熱延伸工程における延伸温度は、好ましくは(T
mB−60)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、よより好ましくは(T
mB−45)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2.0)℃以下である。熱延伸工程における延伸温度が(T
mB−60)℃以上であることにより、破断をより抑制できる傾向にある。また、熱延伸工程における延伸温度が(T
mB−2.0)℃以下であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの気孔率及び透気度がより向上する傾向にある。ここで、「熱延伸工程における延伸温度」とは、熱延伸工程におけるフィルムの表面温度を意味する。
【0073】
方法(a)及び方法(b)において、熱延伸工程における延伸倍率は、好ましくは1.05倍〜5.0倍であり、より好ましくは1.1倍〜5.0倍であり、さらに好ましくは2.0倍〜5.0倍である。熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、MD、TDの両方向に行ってもよいが、冷延伸の延伸方向と同じ方向に行うことが好ましく、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行うことである。
【0074】
方法(c)において、高融点樹脂フィルムを単独で熱延伸する場合、熱延伸工程における延伸温度は、好ましくは90℃以上150℃以下であり、より好ましくは100℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは110℃以上150℃以下である。熱延伸工程における延伸温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気度がより向上する傾向にある。
【0075】
また、方法(c)において、高融点樹脂フィルムを単独で熱延伸する場合、熱延伸工程における延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上5.0倍以下であり、より好ましくは1.1倍以上5.0倍以下であり、さらに好ましくは2.0倍以上5.0倍以下である。熱延伸工程における延伸倍率が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気度がより向上する傾向にある。熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、MD、TDの両方向に行ってもよいが、冷延伸の延伸方向と同じ方向に行うことが好ましく、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行うことである。
【0076】
一方、方法(c)において、低融点樹脂フィルムを単独で熱延伸する場合、熱延伸工程における延伸温度は、好ましくは(T
mB−60)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、より好ましくは(T
mB−45)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2.0)℃以下である。熱延伸工程における延伸温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気度がより向上する傾向にある。
【0077】
また、方法(c)において、低融点樹脂フィルムを単独で熱延伸する場合、熱延伸工程における延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上5.0倍以下であり、より好ましくは1.1倍以上5.0倍以下であり、さらに好ましくは2.0倍以上5.0倍以下である。熱延伸工程における延伸倍率が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気度がより向上する傾向にある。熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、MD、TDの両方向に行ってもよいが、冷延伸の延伸方向と同じ方向に行うことが好ましく、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行うことである。
【0078】
冷延伸工程及び熱延伸工程を行う順番は、特に限定されないが、例えば、冷延伸工程後に熱延伸工程を行う方法、熱延伸工程後に冷延伸工程を行う方法が挙げられる。このなかでも、得られる積層微多孔性フィルムの透気性の観点から、冷延伸工程後に熱延伸工程を行う方法が好ましい。
【0079】
〔熱固定工程〕
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、延伸工程の後に、積層微多孔性フィルムに熱固定を施す熱固定工程を含むことが好ましい。熱固定工程を有することにより、延伸時に作用した応力残留による積層微多孔性フィルムの延伸方向への収縮を抑制できる上、得られる積層微多孔性フィルムの層間剥離強度を向上させることができる傾向にある。この熱固定の方法としては、熱固定後の積層微多孔性フィルムの長さが、熱固定前の長さから3〜50%減少する程度に熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」という。)、延伸方向の寸法が熱固定前後で変化しないように固定する方法が挙げられる。
【0080】
方法(a)及び方法(b)において、積層フィルムに対して熱固定を施す場合、熱固定温度は、好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、より好ましくは((T
mB−25)℃以上(T
mB−2.0)℃以下であり、さらに好ましくはT
mB−15)℃以上(T
mB−2.0)℃以下である。熱固定温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気度がより向上する傾向にある。ここで、「熱固定温度」とは、熱固定時の積層フィルムの表面温度を意味する。
【0081】
方法(c)において、高融点樹脂フィルムを単独で熱固定する場合、熱固定温度は、好ましくは100℃以上160℃以下であり、より好ましくは120℃以上160℃以下であり、さらに好ましくは130℃以上155℃以下である。熱固定温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの熱収縮率がより低下する傾向にある。
【0082】
一方、方法(c)において、低融点樹脂フィルムを単独で熱固定する場合、熱固定温度は、好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、より好ましくは(T
mB−25)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、さらに好ましくは(T
mB−15)℃以上(T
mB−2)℃以下である。熱固定温度が上記範囲内であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの熱収縮率がより低下する傾向にある。
【0083】
上記冷延伸工程、熱延伸工程、その他の延伸工程及び熱固定工程においては、ロール、テンター、オートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、1軸方向及び/又は2軸方向に延伸又は熱固定する方法を採用し得る。これらの中でも、本実施形態で得られる積層微多孔性フィルムに要求される物性及び用途の観点から、ロールによる2段階以上の1軸延伸又は熱固定を施すことが好ましい。
【0084】
なお、方法(b)においては、積層フィルムにおける各樹脂フィルム間の剥離強度の観点から、高融点樹脂フィルム及び低融点樹脂フィルムを加熱されたロール間に通し、熱圧着することが好ましい。この場合、各樹脂フィルムは、原反ロールスタンドから巻き出され、加熱されたロール間でニップされ圧着されることで積層されてもよい。積層の際は、各樹脂フィルムの熱処理後の弾性回復率が実質的に低下しないように熱圧着するのが好ましい。そのように熱圧着するには、例えば、熱圧着温度を調節すればよい。各樹脂フィルムを別々に押出成形して、更に延伸してそれぞれ多孔化した微多孔化フィルムを得た後にそれらの微多孔化フィルムを貼合する場合も同様である。
【0085】
方法(b)において、加熱されたロールの温度、換言すると熱圧着温度は、好ましくは120℃以上140℃以下であり、より好ましくは125℃以上135℃以下であり、さらに好ましくは127℃以上132℃以下である。熱圧着温度が120℃以上であることにより、積層フィルムにおける各樹脂フィルム間の剥離強度が高くなり、その後の各延伸工程で剥がれが生じ難くなる傾向にある。また、熱圧着温度が140℃以下であることにより、低融点樹脂フィルムが溶解してその弾性回復率が低下することをより抑制でき、所期の課題を解決し得る積層微多孔性フィルムが、さらに得られやすくなる傾向にある。
【0086】
方法(b)において、熱圧着におけるニップ圧は、好ましくは1.0〜3.0kg/cm
2である。また、巻き出し速度は、好ましくは0.50〜8.0m/分である。さらに、積層フィルムの剥離強度は、好ましくは3.0〜60g/15mmであり、上記から明らかなとおり、熱圧着温度を調整することにより制御することができる。なお、積層フィルムの剥離強度は、積層フィルムの一端を一部剥離したサンプルにおいて、剥離した両フィルムの一端を引張試験機の所定位置にセットし、300mm/分の速度で長さ方向に伸長することによって剥離するときの張力を測定することにより測定することができる。
【0087】
〔電池用セパレータ〕
本実施形態の電池用セパレータは、上記積層微多孔性フィルムを含む。本実施形態における積層微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的にはリチウム二次電池用セパレータとして好適に用いられる。また、その他、各種分離膜としても用いられる。
【0088】
本実施形態によれば、電気抵抗と耐電圧とのバランスが良好で、熱収縮率の小さい積層微多孔性フィルム及びその製造方法、並びにそれを用いた電池用セパレータを提供することができる。さらに驚くべきことに、それに加えて熱収縮率の小さい積層微多孔性フィルムを得ることができる。
【0089】
なお、本明細書中の各物性は、特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【実施例】
【0090】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施形態
はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種特性の評価方法は以下のとおりである。
【0091】
(1)融点
融点をJIS K−7121に準拠した方法により、樹脂組成物の融点を測定した。この測定を少なくとも3回実施し、その平均値を融点の値とした。
【0092】
(2)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準拠して、ポリプロピレンについては210℃、2.16kgの条件で、ポリエチレンについては190℃、2.16kgの条件でMFR(単位:g/10分)を測定した。この測定を少なくとも3回実施し、その平均値をMFRの値とした。
【0093】
(3)密度
樹脂組成物の密度(単位:kg/m
3)をJIS K7112に準拠して測定した。この測定を少なくとも3回実施し、その平均値を密度の値とした。
【0094】
(4)膜厚(μm)
積層微多孔性フィルムの膜厚を、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)にて測定した。この測定を少なくとも5回実施し、その平均値を密度の値とした。
【0095】
(5)気孔率(%)
積層微多孔性フィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量とから下記式を用いて気孔率を算出した。この測定を少なくとも5回実施し、その平均値を気孔率の値とした。
気孔率(%)=(積層微多孔性フィルムの体積(cm
3)−積層微多孔性フィルムの質量(g)/積層微多孔性フィルムを構成する樹脂組成物の密度(g/cm
3))/積層微多孔性フィルムの体積(cm
3)×100
【0096】
(6)透気度(秒/100cc)
JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて積層微多孔性フィルムの透気度を測定した。なお、膜厚の測定値に基づいて、膜厚20μm当たりの透気度に換算し、上記測定を少なくとも5回実施して、その平均値を透気度の値とした。
【0097】
(7)電気抵抗(Ω・cm
2)
図1に示すSUS製のセルを準備した。ここで、
図1中の符号1はセル本体、符号2はポリテトラフルオロエチレンシール、符号3はばね、符号4は電解液を含浸した積層微多孔性フィルムを示す。
【0098】
円形状に切り出したフィルムサンプルに電解液を含浸させ、
図1に示すセル1内に設置して、このセル1を−30℃に設定したオーブン内に収容し、十分に時間が経過してオーブン内の温度が−30℃で安定した後、まず、積層微多孔性フィルムサンプル1枚当たりの電気抵抗(Rs1)を測定した。
【0099】
次いでオーブンからセル1を取り出し、電解液を含浸させた積層微多孔性フィルムサンプルをセル内にさらに5枚、
図1の下から上に向かって積層させて収容し、このセルを−30℃のオーブン内に収容し、十分に時間が経過してオーブン内の温度が−30℃で安定した後、フィルムサンプル計6枚当たりの電気抵抗(Rs6)を測定した。
【0100】
積層微多孔性フィルムサンプルの電気抵抗は、上記のRs1、Rs6から次式により算出した。
電気抵抗(Ω・cm
2)={[Rs6(Ω)−Rs1(Ω)]/5}×2.00(cm
2)
【0101】
この測定を少なくとも5回実施し、その平均値を電気抵抗の値とした。なお、電解液には、富山薬品工業株式会社製LIPASTE−EP2BL/FSI1T(商品名)を用いた。電気抵抗は日置電機株式会社製HIOKI3532−80ケミカルインピーダンスメータ(商品名)を用いて測定し、100kHzにおけるインピーダンスの実数部分(レジスタンス)を電気抵抗の値とした。また、
図1に示した電極の有効面積は2.00cm
2とした。
【0102】
(8)突刺強度
(株)カトーテック社製のハンディー圧縮試験器「KES−G5型」に、直径1mm、先端の曲率半径0.5mmの針を装着し、温度23±2℃、針の移動速度0.2cm/secで積層微多孔性フィルムの突刺試験を行った。なお、膜厚の測定値に基づいて、膜厚20μm当たりに換算したものを突刺強度とした。すなわち、下記式に基づいて、突刺強度を求めた。この測定を、少なくとも5回実施し、その平均値を突刺強度の値とした。
突刺強度(N)=測定した突刺強度×20/膜厚
【0103】
(9)耐電圧性
表面を清浄にしたΦ35mmの電極に、50mm×50mmのフィルムサンプルを挟み、電極に電圧を印加して徐々にその電圧を上昇させていき、0.5mAの電流が流れてスパークする際の電圧値を測定した。この測定を、同じフィルムサンプルの面内において、少なくとも20点の異なるポイントで測定し、その平均値を記録した。この際、耐電圧性について、下記評価基準に基づいて評価した。
◎:2.3kV以上
○:1.7kV以上2.3kV未満
×:1.7kV未満
【0104】
(10)熱収縮率
積層微多孔性フィルムから12cm×12cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルのMD、TDにそれぞれ10cm間隔で2つずつ(計4つ)の印を付け、サンプルを紙で挟んだ状態で、120℃のオーブン中に60分間静置した。オーブンからサンプルを取り出し冷却した後、MD、TDの印間の長さ(cm)を測定し、下記式にてMD及びTDの熱収縮率を算出した。この測定を、少なくとも5回実施し、その平均値を熱収縮率の値とした。
MDの熱収縮率(%)=(10−加熱後のMDの長さ(cm))/10×100
TDの熱収縮率(%)=(10−加熱後のTDの長さ(cm))/10×100
【0105】
尚、使用した樹脂は以下の通りである。
ポリプロピレン(a−1):プロピレンホモポリマー、融点が165℃、MFRが0.5g/10分
ポリプロピレン(a−2):プロピレンホモポリマー、融点が165℃、MFRが1.7g/10分
ポリプロピレン(a−3):プロピレンホモポリマー、融点が165℃、MFRが2.1g/10分
ポリエチレン(b−1):融点が136℃、MFRが0.25g/10分
ポリエチレン(b−2):融点が136℃、MFRが0.32g/10分
ポリエチレン(b−3):融点が136℃、MFRが1.30g/10分
【0106】
[実施例1]
ポリプロピレン(a−1)を、口径20mm、L/D(L:押出機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:押出機の内径(m)。以下、同じ。)=30、220℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、ポリエチレン(b−1)を、口径20mm、L/D=30、200℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚3.0mmの共押Tダイ(180℃)から押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂に25℃の冷風を当て、95℃に冷却したキャストロールでドロー比200倍、巻き取り速度15m/分の条件で巻き取り、外層が高融点樹脂フィルム(A−1)、内層が低融点樹脂フィルム(B−1)の構造を有する3層積層フィルム(Af−1)を成形した(共押出工程)。この積層フィルム(Af−1)に対して130℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で6時間アニールを施した(アニール工程)。
【0107】
次に、アニール後の積層フィルムを25℃の温度で縦方向に1.3倍で一軸延伸して、延伸積層フィルムを得た(冷延伸工程)。次いで、延伸積層フィルムを120℃の温度で縦方向に3.0倍で一軸延伸して積層微多孔性フィルムを得た(熱延伸工程)。その後、130℃の温度で0.8倍に緩和させて熱固定を施し(熱固定工程)、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、電気抵抗、突刺強度及び熱収縮率を測定し、耐電圧性を評価した。その結果を表1に示す。
【0108】
[実施例2]
ポリエチレン(b−1)の代わりに、ポリエチレン(b−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、電気抵抗、突刺強度及び熱収縮率を測定し、耐電圧性を評価した。その結果を表1に示す。
【0109】
[比較例1]
ポリプロピレン(a−1)の代わりに、ポリプロピレン(a−2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、電気抵抗、突刺強度及び熱収縮率を測定し、耐電圧性を評価した。その結果を表1に示す。
【0110】
[比較例2]
ポリプロピレン(a−1)の代わりに、ポリプロピレン(a−3)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、電気抵抗、突刺強度及び熱収縮率を測定し、耐電圧性を評価した。その結果を表1に示す。
【0111】
[比較例3]
ポリプロピレン(a−1)の代わりに、ポリプロピレン(a−3)を用い、ポリエチレン(b−2)の代わりに、ポリエチレン(b−3)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、電気抵抗、突刺強度及び熱収縮率を測定し、耐電圧性を評価した。その結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
本実施形態の積層微多孔性フィルム(実施例1、2)は、いずれも、極めて低い電気抵抗及び高い耐電圧性を示し、また熱収縮率も小さかった。
【0114】
これに対し、突刺強度が低い積層微多孔性フィルムを用いた比較例1、2の積層微多孔性フィルムは、低い電気抵抗は示すものの、低い耐電圧性を示した。また、気孔率が低い比較例3の積層微多孔性フィルムは、低い耐電圧性は示すものの、高い電気抵抗を示した。この事から、特定の気孔率・突刺強度を有した微多孔性フィルムが電気抵抗と耐電圧性とのバランスが良好であることを見出した。