特許第6359372号(P6359372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6359372DARPinを含む二重特異キメラ蛋白質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359372
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】DARPinを含む二重特異キメラ蛋白質
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20180709BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20180709BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20180709BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20180709BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180709BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180709BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180709BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180709BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C07K16/46
   C07K16/28ZNA
   C12N15/13
   C12P21/08
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   A61P35/00
   A61K39/395 T
【請求項の数】16
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2014-153278(P2014-153278)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2015-24994(P2015-24994A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2017年1月25日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0089120
(32)【優先日】2013年7月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鄭 光 鎬
(72)【発明者】
【氏名】高 榮 ▲しゅん▼
(72)【発明者】
【氏名】金 罠 京
(72)【発明者】
【氏名】リン ポウェイ
(72)【発明者】
【氏名】李 承 ▲げん▼
(72)【発明者】
【氏名】李 政 ▲いく▼
(72)【発明者】
【氏名】趙 美 英
(72)【発明者】
【氏名】黄 載 雄
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−504742(JP,A)
【文献】 特表2011−523400(JP,A)
【文献】 特表2012−522523(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051878(WO,A1)
【文献】 特表2015−532306(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/136482(WO,A1)
【文献】 特表2016−514098(JP,A)
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,2011年,Vol.286, No.48,p.41273-41285
【文献】 Journal of Molecular Biology,2008年,Vol.382, No.5,p.1211-1227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/46
C07K 16/28
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗EGFR DARPin、および
前記抗EGFR DARPinに連結されたIgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片、またはこれらの組み合わせを含
前記抗c−Met抗体または前記抗c−Met抗体断片は配列番号71のアミノ酸配列中の配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸からなるエピトープに結合する、二重特異キメラ蛋白質。
【請求項2】
前記抗EGFR DARPinは、配列番号109のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、配列番号110のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、配列番号111のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、および配列番号112のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上が1個または2個〜10個繰り返された形態である、請求項に記載の二重特異キメラ蛋白質。
【請求項3】
前記IgG形態の抗c−Met抗体またはscFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片は、
配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR−H1、配列番号5のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列内の3番目から10番目までのアミノ酸を含む連続した8〜19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H2、および配列番号6のアミノ酸配列、配列番号85のアミノ酸配列、または配列番号85のアミノ酸配列内の1番目から6番目までのアミノ酸を含む連続した6〜13個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H3からなる群より選択された1つ以上の重鎖相補性決定領域(CDR)、または前記1つ以上の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変部位;
配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR−L1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR−L2、および配列番号9のアミノ酸配列、配列番号86のアミノ酸配列、または配列番号89のアミノ酸配列内の1番目から9番目までのアミノ酸を含む9〜17個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−L3からなる群より選択された1つ以上の軽鎖相補性決定領域、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変部位;
前記重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域の組み合わせ;または
前記重鎖可変部位および軽鎖可変部位の組み合わせを含むものである、請求項またはに記載の二重特異キメラ蛋白質。
【請求項4】
前記CDR−H1は、配列番号1のアミノ酸配列、配列番号22のアミノ酸配列、配列番号23のアミノ酸配列、および配列番号24のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであり、
前記CDR−H2は、配列番号2のアミノ酸配列、配列番号25のアミノ酸配列、および配列番号26のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであり、
前記CDR−H3は、配列番号3のアミノ酸配列、配列番号27のアミノ酸配列、配列番号28のアミノ酸配列、および配列番号85のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであり、
前記CDR−L1は、配列番号10のアミノ酸配列、配列番号29のアミノ酸配列、配列番号30のアミノ酸配列、配列番号31のアミノ酸配列、配列番号32のアミノ酸配列、配列番号33のアミノ酸配列、および配列番号106のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであり、
前記CDR−L2は、配列番号11のアミノ酸配列、配列番号34のアミノ酸配列、配列番号35のアミノ酸配列、および配列番号36のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであり、
前記CDR−L3は、配列番号12のアミノ酸配列、配列番号13のアミノ酸配列、配列番号14のアミノ酸配列、配列番号15のアミノ酸配列、配列番号16のアミノ酸配列、配列番号37のアミノ酸配列、配列番号86のアミノ酸配列、および配列番号89のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものである、請求項に記載の二重特異キメラ蛋白質。
【請求項5】
前記IgG形態の抗c−Met抗体またはscFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片は、
配列番号17、配列番号74、配列番号87、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、または配列番号94のアミノ酸配列を含む重鎖可変部位、
配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号75、配列番号88、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、または配列番号107のアミノ酸配列を含む軽鎖可変部位、または
前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位の組み合わせを含むものである、請求項に記載の二重特異キメラ蛋白質。
【請求項6】
前記IgG形態の抗c−Met抗体は、
配列番号62のアミノ酸配列、配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列、配列番号64のアミノ酸配列、配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列、配列番号66のアミノ酸配列、および配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む重鎖;および
配列番号68のアミノ酸配列、配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列、配列番号70のアミノ酸配列、配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列、および配列番号108のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖を含むものである、請求項またはに記載の二重特異キメラ蛋白質。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の二重特異キメラ蛋白質を含む、医薬組成物。
【請求項8】
癌の予防または治療のためのものである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
抗EGFR DARPinを、IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含
前記抗c−Met抗体または前記抗c−Met抗体断片は配列番号71のアミノ酸配列中の配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸からなるエピトープに結合する、二重特異キメラ蛋白質の製造方法。
【請求項10】
前記DARPinは、配列番号109のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、配列番号110のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、配列番号111のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、および配列番号112のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上が1個または2個〜10個繰り返された形態である、請求項に記載の二重特異キメラ蛋白質の製造方法。
【請求項11】
前記IgG形態の抗c−Met抗体またはscFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片は、
配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR−H1、配列番号5のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列内の3番目から10番目までのアミノ酸を含む連続した8〜19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H2、および配列番号6のアミノ酸配列、配列番号85のアミノ酸配列、または配列番号85のアミノ酸配列内の1番目から6番目までのアミノ酸を含む連続した6〜13個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H3からなる群より選択された1つ以上の重鎖相補性決定領域(CDR)、または前記1つ以上の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変部位;
配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR−L1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR−L2、および配列番号9のアミノ酸配列、配列番号86のアミノ酸配列、または配列番号89のアミノ酸配列内の1番目から9番目までのアミノ酸を含む9〜17個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−L3からなる群より選択された1つ以上の軽鎖相補性決定領域、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変部位;
前記重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域の組み合わせ;または
前記重鎖可変部位および軽鎖可変部位の組み合わせを含むものである、請求項10に記載の二重特異キメラ蛋白質の製造方法。
【請求項12】
抗EGFR DARPinを、IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含
前記抗c−Met抗体または前記抗c−Met抗体断片は配列番号71のアミノ酸配列中の配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸からなるエピトープに結合する、抗c−Met抗体の効能増進方法。
【請求項13】
前記抗EGFR DARPinは、配列番号109のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、配列番号110のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、配列番号111のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPin、および配列番号112のアミノ酸配列を有する抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上が1個または2個〜10個繰り返された形態である、請求項12に記載の抗c−Met抗体の効能増進方法。
【請求項14】
前記IgG形態の抗c−Met抗体またはscFv−Fc形態の抗c−Met抗体断片は、
配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR−H1、配列番号5のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列内の3番目から10番目までのアミノ酸を含む連続した8〜19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H2、および配列番号6のアミノ酸配列、配列番号85のアミノ酸配列、または配列番号85のアミノ酸配列内の1番目から6番目までのアミノ酸を含む連続した6〜13個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H3からなる群より選択された1つ以上の重鎖相補性決定領域(CDR)、または前記1つ以上の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変部位;
配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR−L1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR−L2、および配列番号9のアミノ酸配列、配列番号86のアミノ酸配列、または配列番号89のアミノ酸配列内の1番目から9番目までのアミノ酸を含む9〜17個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−L3からなる群より選択された1つ以上の軽鎖相補性決定領域、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変部位;
前記重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域の組み合わせ;または
前記重鎖可変部位および軽鎖可変部位の組み合わせを含むものである、請求項12または13に記載の抗c−Met抗体の効能増進方法。
【請求項15】
請求項1〜のいずれか1項に記載の二重特異キメラ蛋白質をコードする、核酸分子。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸分子を含む、細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
DARPin(designed ankyrin repeat protein)を含む二重特異キメラ蛋白質(bispecific chimeric protein)、前記二重特異キメラ蛋白質を含む医薬組成物、前記二重特異キメラ蛋白質を製造する方法、およびDARPinを用いる抗体の副作用低減および/または効能増進方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
細胞内では多様な蛋白質が互いに相互作用して疾病を誘発させる様々な機序に関与している。これら蛋白質のうちの2つ以上を同時に阻害すると、1つの蛋白質を阻害する場合と比較して、上昇した疾病治療効果が得られるだけでなく、それぞれの阻害薬物に対する耐性の克服の可能性も高まる。このような理由から、様々な蛋白質を阻害可能な多様な二重特異キメラ蛋白質が開発されている。
【0003】
多くの二重特異キメラ蛋白質が開発されてはいるものの、臨床試験でその効能が立証されなかったり、様々な副作用が観察され、抗体治療剤として商用化されずにいる。このように抗体が商用化されない最も大きな理由の1つは、抗体の安定性および生産性が低いことにある。IgG形態を有する初期の二重抗体は、生産過程で抗体の軽鎖および重鎖のランダムな組み合わせが行われるにつれ、所望の1種類の二重抗体を分離、精製することが非常に難しいことから、大量生産の問題がある。また、IgG形態でない二重抗体の場合、蛋白質折り畳み(protein folding)、薬物動力学(pharmacokinetics)などの部分で薬物としての安定性が検証されていない。
【0004】
したがって、二重特異キメラ蛋白質の体内安定性および薬物としての物性を増進させる技術の開発が要求される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chapter 5.“Designed Ankyrin Repeat Proteins(DARPins):From Research to Therapy”,Methods in Enzymology,vol503:101〜134 (2012)
【非特許文献2】“Efficient Selection of DARPins with Sub−nanomolar Affinities using SRP Phage Display”,J.Mol.Biol.(2008)382,1211−1227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、DARPinの二重特異キメラ蛋白質(二重特異抗体接合体)の製造における用途に関するものである。前記DARPinを用いて製造された二重特異キメラ蛋白質は、副作用(agonism)が低減されたり、および/または効能が増進したものであり得る。
【0007】
より具体的には、本発明の一例は、DARPinを含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。
【0008】
他の例は、抗EGFR DARPinを含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。
【0009】
他の例は、抗EGFR DARPinと、抗−c−Met抗体を含むEGFRとc−Metに対する二重特異キメラ蛋白質を提供する。
【0010】
他の例は、エピトープが異なるEGFR DARPinを2個以上含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。
【0011】
他の例は、抗体にDARPinを結合させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。
【0012】
他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質を含む薬学組成物を提供する。
【0013】
他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質を有効成分として含む癌の予防および/または治療用組成物を提供する。
【0014】
他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質の薬学的有効量を、癌の予防および/または治療を必要とする患者に投与する段階を含む癌の予防および/または治療方法を提供する。
【0015】
他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質の癌の予防および/または治療のための用途を提供する。
【0016】
他の例は、DARPinを含む抗体の副作用低減および/または効能増進用組成物を提供する。
【0017】
他の例は、抗EGFR DARPinを含む腫瘍関連蛋白質に対する抗体の副作用低減および/または効能増進用組成物を提供する。
【0018】
他の例は、抗体にDARPinを結合させる段階を含む抗体の副作用を低減および/または効能を増進させる方法を提供する。
【0019】
他の例は、腫瘍関連蛋白質に対する抗体に抗EGFR DARPinを結合させる段階を含む腫瘍関連蛋白質に対する抗体の副作用を低減および/または効能を増進させる方法を提供する。
【0020】
他の例は、DARPinの抗体の副作用低減および/または効能増進のための用途を提供する。
【0021】
他の例は、抗EGFR DARPinの腫瘍関連蛋白質に対する抗体の副作用低減および/または効能増進のための用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
二重特異キメラ蛋白質は、非常に多様な種類と形態で開発されており、2種以上の抗原に同時に結合することができるため、従来のモノクローナル抗体と比較して治療効果に優れた抗体新薬として期待されている。本発明は、従来のIgG形態の抗体にDARPinを結合させた新しい概念の二重特異キメラ蛋白質を提案する。
【0023】
DARPin(designed ankyrin repeat protein;参照文献:Chapter 5.“Designed Ankyrin Repeat Proteins(DARPins):From Research to Therapy”,Methods in Enzymology,vol503:101〜134 (2012);and“Efficient Selection of DARPins with Sub−nanomolar Affinities using SRP Phage Display”,J.Mol.Biol.(2008)382,1211−1227)は、標的蛋白質に対して高い特異性と高い結合親和性を示す遺伝子工学的に作製された抗体擬似蛋白質(antibody mimetic protein)である。DARPinは、天然アンキリン(ankyrin)蛋白質に由来するもので、アンキリン繰り返し単位体(ankyrin repeat motif)が2個以上または3個以上、例えば、4または5個繰り返された構造を有する。前記繰り返し単位体が3個、4個、または5個繰り返されたDARPinの場合、分子量がそれぞれ約10kDa、14kDa、または約18kDa程度である。
【0024】
DARPinは、主に、構造的機能を果たすコア部分と、標的と結合する標的結合部分とを含み、前記コア部分は、保存されたアミノ酸配列を有し、前記標的結合部分は、前記コアの外側に位置する部分で、標的に応じて異なるアミノ酸配列を有する。
【0025】
DARPinは、標的特異性のように抗体と類似する特性を有するため、従来の抗体、例えば、IgG形態の抗体またはその抗原結合断片と結合させて、新たな形態の二重特異キメラ蛋白質に作製することができる。
【0026】
使用可能なDARPinの例を下記の表1にまとめており、これらのヌクレオチド配列を図21A図21Gに例示した。
【0027】
【表1】
【0028】
そこで、本発明の一例は、(a)DARPin、および(b)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(抗原結合断片、例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。他の例は、(a)DARPinを、(b)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。
【0029】
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記抗体および/または抗原結合断片は、DARPinと同一であるか(この場合、認識部位が異なる)、互いに異なる抗原を標的とするものであってよい。したがって、前記二重特異キメラ蛋白質は、異なる抗原を標的とするか、同一の抗原の互いに異なる認識部位を標的とする二重特異抗体として使用できる。
【0030】
前記抗体は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)から選択されたものであってよい。
【0031】
前記IgG形態の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、例えば、IgG1またはIgG2サブタイプの形態であってよい。前記IgG形態の抗体は、2個の重鎖と、2個の軽鎖とを含み、それぞれの重鎖および軽鎖は、ジスルフィド結合を通して結合され、2個の重鎖−軽鎖構造体を形成し、前記形成された2個の重鎖−軽鎖は、重鎖のFc部位でジスルフィド結合を通して連結されている形態を有する。前記IgG形態の抗体は、両方の重鎖−軽鎖構造体に同一の抗原に対する抗原結合部位を含むことで1つの抗原を標的とする単一標的抗体、または両方の重鎖−軽鎖構造体に互いに異なる抗原に対する抗原結合部位を含むことで2つの抗原を標的とする二重特異キメラ蛋白質であってよい。
【0032】
前記scFv−Fc形態の抗体は、1つの抗原に対する抗原結合部位を有する1つのscFv−Fc断片を含むモノマー形態の単一標的抗体、または同一の抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の単一標的抗体であるか、異なる抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の二重特異キメラ蛋白質であってよい。前記Fcは、哺乳類のIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、例えば、IgG1またはIgG2、具体的には、ヒトIgG1またはIgG2サブタイプに由来するものであってよい。前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体が二重特異キメラ蛋白質の場合、これらが標的とする2つの抗原のうちの1つの抗原は、DARPinが標的とする物質と同一のものであってよい。
【0033】
前記「抗原結合部位」は、抗原と特異的に結合する部分を含むポリペプチドを意味するもので、重鎖相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)、軽鎖相補性決定領域(CDR)、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)を意味するものである。
【0034】
また、前記DARPinは、前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体のC末端、N末端、または結合可能なすべての部位に連結されたものであってよい。例えば、前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体の抗原結合能力の保存を考慮して、前記DARPinは、前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体のFc部分のC末端に連結されたものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0035】
前記二重特異キメラ蛋白質が、DARPinと、IgG形態の抗体およびscFv−Fc形態の抗体の組み合わせを含む場合、DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体の連結順序には特別な制限がない。場合によっては、連結順序に応じて他の効能を示したり抗体発現率などが異なることがあるが、通常所望の抗体の効能には影響がない。例えば、前記二重特異キメラ蛋白質は、IgG形態の抗体、前記IgG形態の抗体のC末端に連結されたDARPin、および前記DARPinのC末端に連結されたscFv−Fc形態の抗体を含むものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0036】
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記DARPinは、同一のアミノ酸配列を有するDARPinが1個以上、例えば、1〜10個、1〜5個、または1〜3個繰り返し含まれるか、同一または互いに異なる蛋白質を標的とし、互いに異なるアミノ酸配列を有する2種以上、例えば、2〜10種、2〜5種、または2〜3種が含まれるとよい。DARPinが2個以上または2種以上含まれる場合、前記2個以上または2種以上のDARPinは、互いに連結されて繰り返し体の形態で抗体に結合されてよく、前記DARPinまたはその繰り返し体は、IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体の各鎖のC末端、N末端、および結合可能な部位のうちの1つ以上に連結されてよい。
【0037】
前記二重特異キメラ蛋白質は、前記DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体と同一または異なる抗原を標的とする抗体の抗原結合断片を1種以上(例えば、1〜5種または1〜3種)を追加的に含むことができる。前記抗原結合断片は、抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)であってよく、二重特異キメラ蛋白質の結合可能なすべての部位、例えば、前記二重特異キメラ蛋白質の重鎖(例えば、Fc部位)のC末端または軽鎖のC末端、またはDARPinのC末端などに結合されてよい。
【0038】
前記DARPinと、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体、scFv−Fc内の重鎖可変部位と軽鎖可変部位、scFv−FcとscFv−Fc(ダイマーを形成する場合)、および前記抗原結合断片、DARPin、およびIgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、リンカーを介するか介することなく連結できる。前記リンカーは、ペプチドリンカーであってよく、複数のリンカーが使用された場合、互いに同一または異なるものであってよい。前記ペプチドリンカーは、1〜100個または2〜50個(例えば、5〜25個、1〜10個、または2〜5個)の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであってよく、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。前記ペプチドリンカーは、例えば、Gly、Asnおよび/またはSer残基を含むことができ、Thrおよび/またはAlaのような中性アミノ酸も含まれてよい。ペプチドリンカーに適したアミノ酸配列は当業界で公知である。一方、前記リンカーは、前記二重特異キメラ蛋白質の機能に否定的影響を与えない限度内で、その長さを多様に決定することができる。例えば、前記ペプチドリンカーは、Gly、Asn、Ser、ThrおよびAlaからなる群より選択された1種以上を、計1〜100個、2〜50個、または5〜25個を含んでなるものであってよい。一例において、前記ペプチドリンカーは、(G4S)n(nは(G4S)の繰り返し数)であって、1〜10の整数、例えば、2〜5の整数)で表現されるものであってよい。
【0039】
DARPinは、抗原に対して高い親和性を有しながらも、一般的な抗体断片(例えば、scFv、Fabなど)より分子量が小さく、安定性に優れることから、物性(例えば、体内pharmacokinetic(PK)properties)および体内安定性の側面で有利であり、他の蛋白質との融合が容易で、安定性および物性に優れた二重特異キメラ蛋白質の作製などに有利に使用できる。
【0040】
一方、上皮細胞成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor;EGFR)は、HERファミリーの受容体チロシンキナーゼ(Receptor Tyrosine Kinases;RTKs)の一員である。様々な種類のヒト悪性腫瘍から、EGFRの過発現、遺伝子増幅、突然変異、または再配列などが頻繁に観察され、癌治療の不良な予後および悪い臨床的結果に関連する。このような理由から、これらのEGFRは、抗癌療法において重要な標的となる。
【0041】
したがって、一例において、前記DARPinは、EGFRを標的とする、つまり、EGFRに特異的に結合する抗EGFR DARPin(またはEGFR結合DARPin)であってよい。この場合、(a’)抗EGFR DARPin、および(b’)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質が提供される。他の例は、(a’)抗EGFR DARPinを、(b’)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。前記抗EGFR DARPin、および抗体および/または抗体断片を含む二重特異キメラ蛋白質は、EGFRを含むことで2以上の抗原または2以上の認識部位をターゲットとする二重特異抗体として使用できる。
【0042】
本発明で使用される抗EGFR DARPinは、DARPin固有の構造を有しながら、EGFRに特異的に結合するすべてのDARPinであってよく、例えば、論文(Steiner D.,Forrer,P.,and A.Plueckthun,(2008)JMB382:1211−1227)に開示された4種の抗EGFR DARPinの中から選択された1種以上であってよい。前記4種の抗EGFR DARPinのアミノ酸配列は次の通りである。
【0043】
抗EGFR DARPin−01(配列番号109):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnaddtwgwtplhlaayqghleivevllkngadvnaydyigwtplhlaadghleivevllkngadvnasdyigdtplhlaahnghleivevllkhgadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
抗EGFR DARPin−67(配列番号110):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnatdndgntplhlsawighleivevllkhgadvnaddllgmtplhlaadtghleivevllkygadvnardtrgktplhlaardghleivevllkhdadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
抗EGFR DARPin−68(配列番号111):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnafdywgmtplhlaadnghleivevllkhgadvnasdnfgftplhlaafyghleivevllkhgadvnafdmwgntplhlaaqnghleivevllkngadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
抗EGFR DARPin−69(配列番号112):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnaddnagrtplhlaanfghleivevllkngadvnakghhcntplhlaawaghleivevllkygadvnadddegytplhlaadigdleivevllkygadvnawdmygrtplhlaasaghleivevllkygadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、抗EGFR DARPinと同一または互いに異なる抗原を標的とするものであってよい。同一の抗原を標的とする場合、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体と、抗EGFR DARPinが認識および/または結合する抗原のエピトープが互いに異なっていてよい。
【0044】
先に説明したように、EGFRは、抗癌治療における主な標的であるため、EGFR(HER1、ErbB−1)以外の腫瘍関連蛋白質、具体的には、細胞のシグナル伝達に関連する蛋白質、例えば、各種シグナル伝達分子(例えば、各種成長因子)、各種受容体(例えば、受容体チロシンキナーゼ蛋白質など)などの細胞膜蛋白質などを標的とすれば、より上昇した癌治療効果を得ることができる。したがって、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体が抗EGFR DARPinと異なる抗原、つまり、EGFR以外の抗原を標的(認識)とするものの場合、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体の抗原は、それぞれ独立して腫瘍関連蛋白質、例えば、各種成長因子およびEGFRを除いた受容体チロシンキナーゼ蛋白質からなる群より選択された1種以上であってよい。前記成長因子は、例えば、EGF(Epidermal growth factor)、PDGF(Platelet−derived growth factor)、FGF(fibroblast growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)などを含むことができる。前記受容体チロシンキナーゼ蛋白質は、各種成長因子の受容体などを含み、具体的には、HER2、HER3などを含むErbBファミリー、インスリン受容体、PDGF受容体(Platelet−derived growth factor receptor;PDGFR)、FGF受容体(fibroblast growth factor receptor;FGFR)、VEGF受容体(vascular endothelial growth factor receptor;PDGFR)、c−Metなどを含むHGF受容体(hepatocyte growth factor receptor;HGFR)、Trk受容体(tropomyosin−receptor−kinase receptor)、Eph受容体(Ephrin receptor)、AXL受容体、LTK受容体(Leukocyte receptor tyrosine kinase)、TIE受容体、ROR受容体(receptor tyrosine kinase−like orphan receptor)、DDR受容体(Discoidin domain receptor)、RET受容体、KLG受容体、RYK受容体(related to receptor tyrosine kinase receptor)、MuSK受容体(Muscle−Specific Kinase receptor)などを含むことができる。一実施形態において、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、それぞれ独立してc−Met、HER2、HER3、VEGFなどからなる群より選択された1種以上を抗原として認識するものであってよい(図1参照)。
【0045】
前記IgG形態の抗体は、IgG1またはIgG2サブタイプの形態であってよい。前記IgG形態の抗体の構造は先に説明した通りである。前記IgG形態の抗体は、両方の重鎖−軽鎖構造体に同一の抗原に対する抗原結合部位を含むことで1つの抗原を標的とする単一標的抗体、または両方の重鎖−軽鎖構造体に互いに異なる抗原に対する抗原結合部位を含むことで2つの抗原を標的とする二重特異キメラ蛋白質であってよい。前記scFv−Fc形態の抗体は、1つの抗原に対する抗原結合部位を有する1つのscFv−Fc断片を含むモノマー形態の単一標的抗体、または同一の抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の単一標的抗体であるか、異なる抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の二重特異キメラ蛋白質であってよい。前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体が二重特異キメラ蛋白質の場合、これらが標的とする2つの抗原のうちの1つは、EGFRであってよく、前記抗EGFR DARPinと同一または異なる部分を認識および/または結合するものであってよい。
【0046】
前記「抗原結合部位」の定義は先に説明した通りであり、前記腫瘍関連蛋白質、例えば、前記各種成長因子およびEGFRを除いた受容体チロシンキナーゼ蛋白質からなる群より選択された1種以上の抗原と特異的に結合する部分を含むポリペプチド、例えば、前記抗原に対する抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)であってよい。
【0047】
前記抗EGFR DARPinは、前記抗体(例えば、IgG形態の抗体)または抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)のC末端、N末端、または結合可能なすべての部位に連結されたものであってよい。例えば、前記抗体または抗体断片の抗原結合能力の保存を考慮して、前記抗EGFR DARPinは、前記抗体または抗体断片のFc部分のC末端に連結されたものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0048】
前記二重特異キメラ蛋白質が、抗EGFR DARPinと、IgG形態の抗体およびscFv−Fc形態の抗体の組み合わせを含む場合、抗EGFR DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体の連結順序には特別な制限がない。場合によっては、連結順序に応じて他の効能を示したり抗体発現率などが異なることがあるが、通常、所望の抗体の効能には影響がない。例えば、前記二重特異キメラ蛋白質は、IgG形態の抗体、前記IgG形態の抗体のC末端に連結された抗EGFR DARPin、および前記抗EGFR DARPinのC末端に連結されたscFv−Fc形態の抗体を含むものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0049】
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記抗EGFR DARPinは、同一のアミノ酸配列を有するDARPinが1個以上、例えば、1〜10個、1〜5個、または1〜3個繰り返し含まれるか、異なる配列を有する抗EGFR DARPinが2種以上、例えば、2〜10種、2〜5種、または2〜3種が含まれるとよい。異なる配列を有する抗EGFR DARPinの場合、これらが認識および/または結合するEGFR上のエピトープは、それぞれ異なっていてよい。また、前記抗EGFR DARPinに加えて、EGFR以外の蛋白質を標的とする1種以上、例えば、1〜10種、1〜5種、または1〜3種のDARPinが追加的に含まれるとよい。DARPinが2個以上または2種以上含まれる場合、前記2個以上または2種以上のDARPinは、互いに連結されて繰り返し体の形態で抗体に結合されてよく、前記DARPinまたはその繰り返し体は、IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体の各鎖のC末端、N末端、および結合可能な部位のうちの1つ以上に連結されてよい。例えば、前記抗EGFR DARPinは、前記のような配列番号109の抗EGFR DARPin、配列番号110の抗EGFR DARPin、配列番号111の抗EGFR DARPin、および配列番号112の抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上が1個〜10個、1〜5個、または1〜3個繰り返された形態で、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体のC末端、N末端、または結合可能なすべての部位(例えば、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体の重鎖、例えば、Fc部位のC末端または軽鎖のC末端など)に連結されたものであってよい。例えば、前記抗EGFR DARPinは、配列番号109の抗EGFR DARPin、配列番号110の抗EGFR DARPin、配列番号111の抗EGFR DARPin、および配列番号112の抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上を含むか、前記1種以上のEGFR DARPinが2個〜10個繰り返された形態であってよい。
【0050】
前記二重特異キメラ蛋白質は、前記抗EGFR DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体と同一または異なる抗原を標的とする抗体の抗原結合断片を1種以上(例えば、1〜5種または1〜3種)追加的に含むことができる。前記抗原結合断片は、前記各種成長因子および受容体チロシンキナーゼ蛋白質からなる群より選択された1種以上の抗原に対する抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)であってよく、前記二重特異キメラ蛋白質のすべての結合可能な部位(例えば、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体の重鎖、例えば、Fc部位のC末端または軽鎖のC末端、または抗EGFR DARPinのC末端など)に結合されてよい(図2参照)。例えば、前記抗原結合断片は、以下に説明されるc−Metに対する抗原結合部位(抗c−Met抗体の抗原結合部位)、HER2に対する抗原結合部位、HER3に対する抗原結合部位、EGFRに対する抗原結合部位、VEGFに対する抗原結合部位などからなる群より選択された1種以上であってよい。
【0051】
前記抗EGFR DARPinと、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体、scFv−Fc内の重鎖可変部位と軽鎖可変部位、scFv−FcとscFv−Fc(ダイマーを形成する場合)、および前記抗原結合断片、DARPin、およびIgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、リンカーを介するか介することなく連結できる。前記リンカーは、ペプチドリンカーであってよく、その具体的な内容は先に説明した通りである。
【0052】
前記抗EGFR DARPinは、抗原に対して高い親和性を有しながらも、一般的な抗EGFR抗体断片(例えば、scFv、Fabなど)より分子量が小さく、安定性に優れることから、物性(例えば、体内pharmacokinetic(PK)properties)および体内安定性の側面で有利であり、他の蛋白質との融合が容易で、安定性および物性に優れた二重特異キメラ蛋白質の作製に有利に使用できる。
【0053】
一例において、前記IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体は、c−Metを標的とする抗c−Met抗体であってよい。この場合、抗EGFR DARPin、および抗c−Met抗体またはその断片を含む二重特異キメラ蛋白質は、EGFRとc−Metを標的とする二重特異抗体であってよい。
【0054】
c−Metは、EGFRと互いに相互作用をして腫瘍に関連する様々な機序に関与する代表的な受容体チロシンキナーゼ蛋白質である。これらの蛋白質は、癌細胞の増殖、癌細胞の侵入、新生血管の生成などを誘導する。また、これらの蛋白質は、互いに相互作用をすることにより互いのシグナル伝達経路に関与し、それぞれの治療剤に対する耐性まで誘発させることがある。さらに、EGFRに対する標的治療剤(Erbitux、Tarceva、Iresaなど)の投与で獲得された耐性には、c−Metの過発現と突然変異が関連しているという研究結果が報告されている。したがって、EGFRとc−Metを同時に阻害することにより、従来の薬物の副作用、耐性などの問題を解決する可能性が高い上に、単一標的を阻害する場合より上昇した治療効果を収めることができ、従来の薬物に対して効果がなかった癌種にも効果を奏することができると期待される。
【0055】
また、c−Metだけを単独で標的とする抗体は、制約的な種類の癌において癌増殖抑制効能を示し、c−Metが過発現する場合、大部分でEGFRの過発現が伴う場合が多いことから、c−Met標的治療剤に対する耐性克服のためにも、c−Met/EGFRを同時に阻害することが有利である。
【0056】
したがって、本発明の一例は、(a’’)抗EGFR DARPin、および(b’’)IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。他の例は、(a’’)抗EGFR DARPinを、(b’’)IgG形態の抗HER2抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。前記抗EGFR DARPinが2種以上連結されたものの場合、前記製造方法は、2種以上、例えば、2〜10種、2〜5種、または2〜3種の抗EGFR DARPinを連結(例えば、直列に連結)させる段階を、前記抗EGFR DARPinを、IgG形態の抗HER2抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階の前または後に、追加的に含むことができる。
【0057】
抗c−Met抗体は、c−Metを細胞内に移動させて分解を誘導する機能を有するものであってよく、このような特性によって、抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、c−Metの分解だけでなく、EGFRの分解も誘導して、agonismなしにより上昇した抗癌活性を示すことができる。前記二重特異キメラ蛋白質の適用時、EGFRクラスタリング(EGFR clustering)が観察され、前記二重特異キメラ蛋白質の上昇した効能は、このようなEGFRクラスタリングによって、関連するPTKなどが共にクラスタリングされて形成されたシグナル伝達複合体(signal complex)全体を、c−Metと共に細胞内に移動させて分解することによって得られると見られる。このような前記二重特異キメラ蛋白質の増進した抗癌活性は、c−MetのリガンドであるHGF(Hepatocyte growth factor)の存在時により増進可能であり、c−Metが過発現した細胞(例えば、癌細胞)においてより明確に現れる。また、前記二重特異キメラ蛋白質は、従来の抗c−Met抗体または抗EGFR抗体などのEGFR標的治療剤に対して獲得された耐性の克服が可能で、耐性獲得細胞においても効果を発揮することを特徴とする。このように、前記抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、従来の分解機序と差別化された機序によってより増進した効果を示す。
【0058】
一具体例において、抗c−Met抗体は、c−Metに作用して細胞内移動(internalization)および分解(degradation)を誘導するすべての抗体またはその抗原結合断片であってよい。前記抗c−Met抗体は、c−Metの特定部位、例えば、SEMAドメイン内の特定部位をエピトープとして認識するものであってよい。
【0059】
前記「c−Met蛋白質」は、肝細胞成長因子と結合する受容体チロシンキナーゼを意味する。前記c−Met蛋白質は、すべての種に由来するものであってよく、例えば、ヒトc−Met(例えば、NP_000236)、猿c−Met(例えば、Macaca mulatta、NP_001162100)などのような霊長類由来のもの、またはマウスc−Met(例えば、NP_032617.2)、ラットc−Met(例えば、NP_113705.1)などのようなげっ歯類由来のものなどであってよい。前記蛋白質は、例えば、GenBank Aceession Number NM_000245に提供されたヌクレオチド配列によって暗号化されたポリペプチド、またはGenBank Aceession Number NM_000236に提供されたポリペプチド配列によって暗号化された蛋白質、またはその細胞外ドメインを含む。受容体チロシンキナ−ゼc−Metは、例えば、癌発生、癌転移、癌細胞移動、癌細胞侵入、新生血管の生成過程などの様々な機序に関与する。
【0060】
HGF(Hepatocyte growth factor)の受容体であるc−Metは、細胞外部位、膜透過部位、細胞内部位の3つの部分に区分され、細胞外部位の場合、二硫化結合によってα−小単位体とβ−小単位体とが連結された形態で、HGF結合ドメインであるSEMAドメイン、PSIドメイン(plexin−semaphorins−integrin homology domain)、およびIPTドメイン(immunoglobulin−like fold shared by plexins and transcriptional factors domain)からなる。c−Met蛋白質のSEMAドメインは、配列番号79のアミノ酸配列を有するものであってよく、c−Metの細胞外部位に存在するドメインであって、HGFが結合する部位に相当する。SEMAドメイン中の特定部位、例えば、106番目から124番目までに相当する配列番号71のアミノ酸配列を有する領域は、c−Met蛋白質のSEMAドメイン内のエピトープ中の2番と3番のプロペラドメインの間のループ(loop)部位に相当し、本発明で提案される抗c−Met抗体のエピトープとして作用することができる。
【0061】
用語「エピトープ(epitope)」は、抗原決定部位(antigenic determinant)であって、抗体によって認知される抗原の一部分を意味すると解釈される。一具体例によれば、前記エピトープは、c−Met蛋白質のSEMAドメイン(配列番号79)内の連続した5個以上のアミノ酸を含む部位、例えば、c−Met蛋白質のSEMAドメイン(配列番号79)内の106番目から124番目までに相当する配列番号71内に位置する連続した5個〜19個のアミノ酸を含むものであってよい。例えば、前記エピトープは、配列番号71のアミノ酸配列中、配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸からなるものであってよく、例えば、配列番号71、配列番号72、または配列番号73のアミノ酸配列を有するポリペプチドであってよい。
【0062】
前記配列番号72のアミノ酸配列を有するエピトープは、c−Met蛋白質のSEMAドメイン内の2番と3番のプロペラ構造のドメインの間のループ部位のうち最も外側に位置した部位に相当し、前記配列番号73のアミノ酸配列を有するエピトープは、一具体例による抗体または抗原結合断片が最も特異的に結合する部位である。
【0063】
したがって、抗c−Met抗体は、配列番号71のアミノ酸配列中、配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸を含むエピトープに特異的に結合するものであってよく、例えば、配列番号71、配列番号72、または配列番号73のアミノ酸配列を有するエピトープに特異的に結合する抗体または抗原結合断片であってよい。
【0064】
一具体例によれば、前記抗c−Met抗体は、
配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR−H1、配列番号5のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列内の3番目から10番目までのアミノ酸を含む連続した8〜19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H2、および配列番号6のアミノ酸配列、配列番号85のアミノ酸配列、または配列番号85のアミノ酸配列内の1番目から6番目までのアミノ酸を含む連続した6〜13個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H3からなる群より選択された1つ以上の重鎖相補性決定領域(CDR)、または前記1つ以上の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変部位;
配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR−L1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR−L2、および配列番号9のアミノ酸配列、配列番号86のアミノ酸配列、または配列番号89のアミノ酸配列内の1番目から9番目までのアミノ酸を含む9〜17個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−L3からなる群より選択された1つ以上の軽鎖相補性決定領域、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変部位;
前記重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域の組み合わせ;または
前記重鎖可変部位および軽鎖可変部位の組み合わせを含むものであってよい。
【0065】
前記配列番号4〜配列番号9はそれぞれ、下記の一般式I〜一般式VIで表されるアミノ酸配列である。
【0066】
一般式I
Xaa−Xaa−Tyr−Tyr−Met−Ser(配列番号4)
一般式II
Arg−Asn−Xaa−Xaa−Asn−Gly−Xaa−Thr(配列番号5)
一般式III
Asp−Asn−Trp−Leu−Xaa−Tyr(配列番号6)
一般式IV
Lys−Ser−Ser−Xaa−Ser−Leu−Leu−Ala−Xaa−Gly−Asn−Xaa−Xaa10−Asn−Tyr−Leu−Ala(配列番号7)
一般式V
Trp−Xaa11−Ser−Xaa12−Arg−Val−Xaa13(配列番号8)
一般式VI
Xaa14−Gln−Ser−Tyr−Ser−Xaa15−Pro−Xaa16−Thr(配列番号9)
前記一般式Iにおいて、Xaaは、存在しないかProまたはSerであり、Xaaは、GluまたはAspであり、
前記一般式IIにおいて、Xaaは、AsnまたはLysであり、Xaaは、AlaまたはValであり、Xaaは、AsnまたはThrであり、
前記一般式IIIにおいて、Xaaは、SerまたはThrであり、
前記一般式IVにおいて、Xaaは、His、Arg、GlnまたはLysであり、Xaaは、SerまたはTrpであり、Xaaは、HisまたはGlnであり、Xaa10は、LysまたはAsnであり、
前記一般式Vにおいて、Xaa11は、AlaまたはGlyであり、Xaa12は、ThrまたはLysであり、Xaa13は、SerまたはProであり、
前記一般式VIにおいて、Xaa14は、Gly、AlaまたはGlnであり、Xaa15は、Arg、His、Ser、Ala、GlyまたはLysであり、Xaa16は、Leu、Tyr、PheまたはMetである。
【0067】
一具体例において、前記CDR−H1は、配列番号1、配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−H2は、配列番号2、配列番号25、および配列番号26からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−H3は、配列番号3、配列番号27、配列番号28、および配列番号85からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0068】
前記CDR−L1は、配列番号10、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、および配列番号106からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−L2は、配列番号11、配列番号34、配列番号35、および配列番号36からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−L3は、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号37、配列番号86、および配列番号89からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0069】
一具体例において、前記抗体または抗原結合断片は、配列番号1、配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−H1)、配列番号2、配列番号25、および配列番号26からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−H2)、および配列番号3、配列番号27、配列番号28、および配列番号85からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−H3)を含む重鎖可変部位;および配列番号10、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、および配列番号106からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−L1)、配列番号11、配列番号34、配列番号35、および配列番号36からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−L2)、および配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号37、配列番号86、および配列番号89からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−L3)を含む軽鎖可変部位を含むものであってよい。
【0070】
一具体例によれば、抗c−Met抗体または抗原結合断片において、前記重鎖可変部位は、配列番号17、配列番号74、配列番号87、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、または配列番号94のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変部位は、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号75、配列番号88、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、または配列番号107のアミノ酸配列を含むものであってよい。
【0071】
所望の抗原を被免疫動物に免疫させて生産する動物由来抗体は、一般に、治療目的でヒトに投与時、免疫拒絶反応が起こることがあり、このような免疫拒絶反応を抑制すべく、キメラ抗体(chimeric antibody)が開発された。キメラ抗体は、遺伝子工学的方法を利用して、抗−アイソタイプ(anti−isotype)反応の原因とされる動物由来抗体の不変領域をヒト抗体の不変領域に置換したものである。キメラ抗体は、動物由来抗体に比べて、抗−アイソタイプ反応において相当部分改善されたが、相変わらず動物由来のアミノ酸が可変部位に存在していて、潜在的な抗−イディオタイプ(anti−idiotypic)反応に対する副作用を抱えている。このような副作用を改善すべく開発されたのが、ヒト化抗体(humanized antibody)である。これは、キメラ抗体の可変部位のうち、抗原の結合に重要な役割を果たすCDR部位をヒト抗体のフレームワーク(framework)に移植して作製される。
【0072】
ヒト化抗体を作製するためのCDRグラフト(grafting)技術において最も重要なのは、動物由来抗体のCDR部位を最もよく受け入れる最適化されたヒト抗体を選定することであり、このために、抗体データベースの活用、結晶構造の分析、分子モデリング技術などが活用される。しかし、最適化されたヒト抗体の骨格に動物由来抗体のCDR部位を移植しても、動物由来抗体の骨格に位置しながら、抗原の結合に影響を与えるアミノ酸が存在する場合があるので、抗原結合力が保存されない場合が相当数存在することから、抗原結合力を復元するための追加的な抗体工学技術の適用は必須といえる。
【0073】
一実施形態によれば、前記抗体は、マウス由来の抗体、マウス−ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト由来抗体であってよい。前記抗体は、生体から分離されたものであってよい。
【0074】
完全な抗体は、2個の全長軽鎖および2個の全長重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖と二硫化結合で連結されている。抗体の不変領域は、重鎖不変領域と、軽鎖不変領域とに分けられ、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)、およびエプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとして、ガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)およびアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)タイプを有する。
【0075】
用語「重鎖(heavy chain)」は、抗原に特異性を付与するために、十分な可変部位の配列を有するアミノ酸配列を含む可変部位ドメインV、および3個の不変領域ドメインCH1、CH2およびCH3と、ヒンジ(hinge)を含む全長重鎖およびその断片をすべて含む意味で解釈される。また、用語「軽鎖(light chain)」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変部位の配列を有するアミノ酸配列を含む可変部位ドメインV、および不変領域ドメインCを含む全長軽鎖およびその断片をすべて含む意味で解釈される。
【0076】
用語「CDR(complementarity determining region)」は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の高可変部位(hypervariable region)のアミノ酸配列(相補性決定領域)を意味する。重鎖および軽鎖はそれぞれ、3つのCDRを含むことができる(CDRH1、CDRH2、CDRH3、およびCDRL1、CDRL2、CDRL3)。前記CDRは、抗体が抗原またはエピトープに結合するにあたり、主な接触残基を提供することができる。一方、本明細書において、用語「特異的に結合」または「特異的に認識」は、当業者に通常公知の意味と同一のものであって、抗原および抗体が特異的に相互作用して免疫学的反応を行うことを意味する。
【0077】
用語「抗原結合断片」は、免疫グロブリン全体の構造に対するそれの断片で、抗原が結合可能な部分を含むポリペプチドの一部を意味する。一具体例において、前記抗原結合断片は、scFv、(scFv)、Fab、Fab’またはF(ab’)であってよいが、これに限定されない。前記抗原結合断片のうち、Fabは、軽鎖および重鎖の可変部位と、軽鎖の不変領域、および重鎖の1番目の不変領域(CH1)を有する構造で、1つの抗原結合部位を有する。
【0078】
Fab’は、重鎖CH1ドメインのC−末端に1つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有する点からFabと差がある。
【0079】
F(ab’)抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしつつ生成される。Fvは、重鎖可変部位および軽鎖可変部位だけを有している最小の抗体片で、Fv断片を生成する組換え技術は当業界で広く公知である。
【0080】
二重鎖Fv(two−chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位とが連結されており、単鎖Fv(single−chain Fv)は、一般に、ペプチドリンカーを介して重鎖の可変部位と単鎖の可変部位とが共有結合で連結されるか、またはC−末端で直接連結されていて、二重鎖Fvと同様に、ダイマーのような構造をなすことができる。前記ペプチドリンカーは、1〜100個または2〜50個の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであってよく、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。
【0081】
前記抗原結合断片は、蛋白質加水分解酵素を用いて得られ(例えば、全体抗体をパパインで制限切断すればFabが得られ、ペブシンで切断すればF(ab’)断片が得られる)、遺伝子組換え技術によって作製することができる。
【0082】
用語「ヒンジ領域(hinge region)」は、抗体の重鎖に含まれている領域であって、CH1およびCH2領域の間に存在し、抗体内の抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能を果たす領域を意味する。
【0083】
動物由来抗体がキメラ化(chimerization)過程を経ると、動物由来のIgG1ヒンジは、ヒトIgG1ヒンジに置換されるが、動物由来のIgG1ヒンジは、ヒトIgG1ヒンジに比べてその長さが短く、2個の重鎖の間の二硫化結合(disulfide bond)が3個から2個に減少し、ヒンジの硬直性(rigidity)が互いに異なる効果を示す。したがって、ヒンジ領域の変形(modification)は、ヒト化抗体の抗原結合の効率性を増加させることができる。前記ヒンジ領域のアミノ酸配列を変形させるためのアミノ酸の欠失、付加または置換方法は当業者によく知られている。
【0084】
そこで、本発明の一実施形態において、抗原結合の効率性を増進させるために、前記抗c−Met抗体または抗原結合断片は、1つ以上のアミノ酸が欠失、付加または置換されてアミノ酸配列が変形したヒンジ領域を含むものであってよい。例えば、前記抗体は、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、または配列番号104のアミノ酸配列を有するヒンジ領域、または配列番号105のアミノ酸配列を有するヒンジ領域(非変形ヒトヒンジ領域)を含むものであってよい。より具体的には、前記ヒンジ領域は、配列番号100または配列番号101のアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0085】
一実施形態において、抗c−Met抗体は、受託番号KCLRF−BP−00220のハイブリドーマ細胞から生産される、c−Met蛋白質の細胞外部位(extracellular region)に特異的に結合する単クローン抗体であってよい(大韓民国公開特許第2011−0047698号参照;前記文献は本明細書に参照として組み込まれる)。前記抗c−Met抗体は、大韓民国公開特許第2011−0047698号に定義された抗体をすべて含むことができる。
【0086】
前記抗c−Met抗体の前記定義されたCDR部位または軽鎖可変部位と重鎖可変部位を除いた軽鎖不変領域と重鎖不変領域は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)の軽鎖不変領域と重鎖不変領域であってよい。
【0087】
一実施形態によれば、前記抗c−Met抗体は、
配列番号62のアミノ酸配列(このうち、1番目から17番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列、配列番号64のアミノ酸配列(このうち、1番目から17番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列、配列番号66のアミノ酸配列(このうち、1番目から17番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、および配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む重鎖;および
配列番号68のアミノ酸配列(このうち、1番目から20番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列、配列番号70のアミノ酸配列(このうち、1番目から20番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列、および配列番号108のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖を含むものであってよい。
【0088】
例えば、前記抗−c−Met抗体は、
配列番号62のアミノ酸配列または配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号68のアミノ酸配列または配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号64のアミノ酸配列または配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号68のアミノ酸配列または配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号66のアミノ酸配列または配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号68のアミノ酸配列または配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号62のアミノ酸配列または配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号70のアミノ酸配列または配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号64のアミノ酸配列または配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号70のアミノ酸配列または配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;または
配列番号66のアミノ酸配列または配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号70または配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号62のアミノ酸配列または配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号108のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号64のアミノ酸配列または配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号108のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;および
配列番号66のアミノ酸配列または配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号108のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体からなる群より選択されたものであってよい。
【0089】
一方、前記配列番号70のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、ヒトのカッパ不変領域からなる軽鎖であり、配列番号68のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前記配列番号70のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて36番(kabat numberingに従う、配列番号68内の62番目のアミノ酸の位置)のヒスチジン(His)がチロシン(Tyr)に置換された形態のポリペプチドである。前記置換によって、一具体例による抗体の生産量が増加できる。また、前記配列番号108のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前記配列番号68のアミノ酸配列中の1番目から20番目までのシグナルペプチドを除いた21番目から240番目までのアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいてkabat numberingによる27eの位置(kabat numberingに従う;配列番号108内の32番目の位置;CDR−L1の内部)のセリン(Ser)がトリプトファン(Trp)に置換されたもので、前記置換によって、一実施形態による抗体の活性(例えば、c−Metに対する結合親和性、c−Metの分解活性、およびAktのリン酸化抑制活性など)がより増進できる。
【0090】
一実施形態において、前記抗c−Met抗体は、配列番号106の軽鎖相補性決定領域、配列番号107の軽鎖可変部位、または配列番号108の軽鎖を含む抗c−Met抗体であってよい。
【0091】
一例において、前記抗c−Met抗体は、IgG形態の抗体、例えば、IgG1またはIgG2サブタイプ形態の抗体であってよい。前記IgG形態の抗体の構造は先に説明した通りである。
【0092】
前記IgG形態の抗c−Met抗体は、抗体の両方の重鎖−軽鎖構造体にc−Metに対する抗原結合部位、例えば、前記重鎖CDR、軽鎖CDR、またはこれらの組み合わせ、または重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせを含むc−Metに対する単一標的抗体であってよい。他の例において、IgG形態の抗c−Met抗体は、抗体の一方の重鎖−軽鎖構造体にc−Metに対する抗原結合部位、例えば、前記重鎖CDR、軽鎖CDR、またはこれらの組み合わせ、または重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせを含み、他方の重鎖−軽鎖構造体には、c−Met以外の抗原に対する抗原結合部位を含む二重特異(二重標的)抗体であってよい。この場合、前記c−Met以外の抗原は、EGFRであってよい。
【0093】
さらに他の例において、IgG形態の抗c−Met抗体は、両方の重鎖−軽鎖構造体にc−Metに対する抗原結合部位を含むIgG形態のc−Metに対する単一標的抗体のFcのc末端に、リンカーを介するか介することなく、c−Met以外の抗原に対する抗原結合部位、例えば、c−Met以外の抗原に対する抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)を含む上下非対称型二重特異キメラ蛋白質であってよい。この場合、前記c−Met以外の抗原は、EGFRであってよい。前記リンカーは先に説明した通りである。
【0094】
他の例において、前記抗c−Met抗体は、scFv−Fc形態の抗体であってよい。前記scFv−Fc形態の抗体は、c−Metに対する抗原結合部位、例えば、前記重鎖CDR、軽鎖CDR、またはこれらの組み合わせ、または重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせを含む1個のscFv−Fc断片を含むモノマー形態のc−Metに対する単一標的抗体、または前記c−Metに対する抗原結合部位を有する2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたホモダイマー形態のc−Metに対する単一標的抗体であるか、前記c−Metに対する抗原結合部位を有する1つのscFv−Fc断片と、c−Met以外の抗原に対する抗原結合部位を有するscFv−Fc断片とがFc部位で結合されたヘテロダイマー形態の二重特異キメラ蛋白質であってよい。この場合、前記c−Met以外の抗原は、EGFRであってよい。
【0095】
他の例において、前記二重特異キメラ蛋白質は、抗EGFR DARPinおよびc−Met以外の腫瘍関連蛋白質、例えば、各種シグナル伝達分子、各種受容体などからなる群より選択されたものに対するIgG形態またはscFv−Fc形態の抗体を含むものであってよい。前記シグナル伝達分子は、各種成長因子、例えば、EGF、PDGF、FGF、VEGFなどからなる群より選択されたものであってよい。前記受容体は、前記シグナル伝達分子と特異的に結合する受容体であって、例えば、EGFR、HER2、HER3などを含むErbBファミリー、PDGFR、FGFR、VEGFR、c−Metを除いたHGFRなどからなる群より選択されたものであってよい。
【0096】
例えば、前記IgG形態またはscFv−Fc形態の抗体は、以下からなる群より選択された抗原結合部位を有するものであってよい。
【0097】
(1)HER2に対する抗原結合部位:トラスツズマブ(Trastuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine:T−DM1)などからなる群より選択された抗HER2抗体の抗原結合部位、例えば、前記抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)、または配列番号113のアミノ酸配列を有する重鎖可変部位、配列番号114のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(この時、前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位は、前記ペプチドリンカーによるかよることなく連結)であってよい。
【0098】
<抗HER2抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号113)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS
<抗HER2抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号114)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKR
(2)HER3に対する抗原結合部位:配列番号115のアミノ酸配列を有する重鎖可変部位、配列番号116のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(この時、前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位は、前記ペプチドリンカーによるかよることなく連結)であってよい。
【0099】
<抗HER3抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号115)
QVQLQESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMSWVRQAPGKGLEWVANINRDGSASYYVDSVKGRFTISRDDAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDRGVGYFDLWGRGTLVTVSSAST
<抗HER3抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号116)
QSALTQPASVSGSPGQSITISCTGTSSDVGGYNFVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSDRPSGVSDRFSGSKSGNTASLIISGLQADDEADYYCSSYGSSSTHVIFGGGTKVTVLG
(3)抗EGGFR/抗HER3二重特異キメラ蛋白質:配列番号117のアミノ酸配列を有する重鎖可変部位、配列番号118のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(この時、前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位は、前記ペプチドリンカーによるかよることなく連結)であってよい。
【0100】
<抗EGFR/HER3抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号117)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTLSGDWIHWVRQAPGKGLEWVGEISAAGGYTDYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARESRVSFEAAMDYWGQGTLVTVSS
<抗EGFR/HER3抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号118)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIATDVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSEPEPYTFGQGTKVEIK
前記抗EGFR DARPinと腫瘍関連蛋白質に対する抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、EGFRの活性阻害だけでなく、他の腫瘍関連蛋白質の活性を同時に阻害することによって、より上昇した治療効果を得ることができる。より具体的には、前記抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、抗c−Met抗体の細胞内在化(internalization)および分解(degradation)活性によって、c−MetおよびEGFRの活性阻害だけでなく、c−MetおよびEGFRを分解させて総量を減少させることによって、より根本的な遮断を可能にする。したがって、前記抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、従来の抗EGFR抗体に耐性が生じた患者へ適用時にも有効な効果を得ることができる。
【0101】
発明の他の側面は、前記二重特異キメラ蛋白質を有効成分として含む医薬組成物を提供する。他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質を有効成分として含む癌の予防および/または治療用医薬組成物を提供する。さらに他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質の薬学的有効量を、癌の予防および/または治療を必要とする患者に投与する段階を含む癌の予防および/または治療方法が提供される。前記癌の予防および/または治療方法は、前記投与する段階の前に、癌の予防および/または治療を必要とする患者を確認する段階を追加的に含むことができる。さらに他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質の癌の予防および/または治療のための用途が提供される。前記二重特異キメラ蛋白質は、前記のような(a’)抗EGFR DARPin、および(b’)IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質、または(a’’)抗EGFR DARPin、および(b’’)IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質であってよい。
【0102】
前記癌は、EGFRおよび/またはc−Metの過発現(過生産)および/または異常な活性化に関連する癌であってよい。前記癌は、固形癌または血液癌であってよく、例えば、これに制限されないが、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜癌、皮膚癌、皮膚または眼球内黒色腫、直膓癌、肛門付近癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、肝細胞癌、胃腸癌、胃癌、すい臓癌、膠芽腫、頸部癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、陰門癌、甲状腺癌、および頭頸部癌、脳癌、骨肉腫などからなる群より選択された1種以上であってよい。特に、前記癌は、従来の抗癌剤、例えば、前記EGFRに対する拮抗剤に対して耐性が生じた癌であってよい。前記癌の予防および/または治療効果は、癌細胞の成長抑制だけでなく、癌細胞の移動、侵襲、転移などによる癌の悪化を抑制することも含む。前記治療可能な癌は、原発性癌と転移性癌を含むことができる。
【0103】
前記二重特異キメラ蛋白質は、薬学的に許容される担体、希釈剤、および/または賦形剤などと共に提供されてよい。
【0104】
前記薬学的に許容される担体は、抗体の製剤化に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどからなる群より選択された1種以上であってよいが、これに限定されるものではない。前記医薬組成物は、前記成分のほか、医薬組成物の製造に通常使用される希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択された1種以上を追加的に含むことができる。
【0105】
前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物は、経口または非経口で投与することができる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、および直腸内投与などで投与することができる。経口投与時、蛋白質またはペプチドは消化されることから、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、胃での分解から保護されるように剤形化されなければならない。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動可能な任意の装置によって投与されてよい。
【0106】
前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年令、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度、および反応感応性のような要因によって多様に処方できる。例えば、前記二重特異キメラ蛋白質および医薬組成物の1日投与量は、二重特異キメラ蛋白質の量を基準として、0.001〜100mg/kg、または0.02〜10mg/kgの範囲であってよい。用語「薬学的有効量」は、所望の効果、例えば、癌を予防または治療する上で効果を奏する量を意味する。
【0107】
前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物は、当該当業者が容易に実施可能な方法により、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することによって単位用量の形態で製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤、または乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤を追加的に含むことができる。
【0108】
また、前記医薬組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤とは順次的または同時に投与されてよい。
【0109】
一方、前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物は、抗体または抗原結合断片を含むため、免疫リポソームとして剤形化されてよい。抗体を含むリポソームは、当業界で広く知られている方法により製造されてよい。前記免疫リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびポリエチレングリコール−誘導体化されたホスファチジルエタノールアミンを含む脂質組成物であって、逆相蒸発法によって製造できる。例えば、抗体のFab’断片は、ジスルフィド−交替反応によってリポソームに接合できる。ドキソルビシンのような化学療法剤が追加的にリポソーム内に含まれるとよい。
【0110】
前記医薬組成物の投与対象または前記予防および/または治療方法の投与対象患者は、哺乳類、例えば、ヒト、猿などの霊長類、またはラット、マウスなどのげっ歯類などであってよいが、これに制限されるものではなく、従来の抗癌剤、例えば、EGFRに対する拮抗剤(例えば、抗体)および/または抗c−Met抗体に対して耐性が生じた癌患者であってよい。
【0111】
先に説明したように、DARPinは、物性(例えば、pharmacokinetic(PK)properties)および体内安定性に優れ、従来の抗体、例えば、IgG形態の抗体と融合して二重特異キメラ蛋白質に作製される場合、DARPinが標的とする抗原を含む2種以上の抗原を同時に標的にすることができるだけでなく、IgG形態の抗体の物性および/または安定性を増進させることができる。このように、従来のIgG形態の抗体にDARPinを融合させることにより、従来の二重特異キメラ蛋白質の最も大きい問題とされていた安定性の問題を改善し、より増進した抗体効能を得ることができる。
【0112】
したがって、本発明の一例は、(a)DARPinを、(b)IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む抗体の効能増進方法を提供する。他の例は、(a’)抗EGFR DARPinを、(b’)IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む抗体の効能増進方法を提供する。さらに他の例は、(a’’)抗EGFR DARPinを、(b’’)IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む抗c−Met抗体の効能増進方法を提供する。
【0113】
前記抗c−Met抗体の効能増進は、2種以上の抗原を標的とすることによって得られる相乗効果、抗体の薬物としての物性、例えば、薬物動力学的な物性(pharmacokinetic(PK)properties)の増進、体内または体外安定性の増進、抗c−Met抗体に対する耐性の克服、抗c−Met抗体の副作用(agonism)の低減、またはこれらのすべてを意味するものであってよい。
【0114】
前記抗体の効能増進方法において、DARPin、抗EGFR DARPin、IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、これらの連結形態などの具体的な内容は先に説明した通りである。
【0115】
他の例は、前記記載した二重特異キメラ蛋白質を暗号化する核酸分子を提供する。前記核酸分子は、適切なベクターに含まれている形態で提供されてよい。したがって、他の例は、前記核酸分子を含む組換えベクターを提供する。用語「ベクター」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段を意味する。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、およびバクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびアデノ−関連ウイルスベクターのようなウイルスベクターを含む。前記組換えベクターにおいて、前記蛋白質複合体をコーディングする核酸分子は、プロモーターに作動的に連結されてよい。用語「作動可能に連結された(operatively linked)」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味する。前記調節配列は、「作動可能に連結(operatively linked)」されることにより、他のヌクレオチド配列の転写および/または解読を調節することができる。前記組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクター、または発現のためのベクターとして構築されてよい。前記発現用ベクターは、当業界で植物、動物または微生物において外来の蛋白質を発現するのに使用される通常のものを使用することができる。前記組換えベクターは、当業界で公知の多様な方法により構築できる。
【0116】
他の例は、前記核酸または前記組換えベクターを含む(形質転換された)組換え細胞を提供する。前記ポリヌクレオチドまたはこれを含む組換えベクターの宿主細胞内への運搬(導入)は、当業界で広く知られている運搬方法を利用することができる。前記運搬方法は、例えば、宿主細胞が原核細胞の場合、CaCl方法または電気穿孔方法などを用いることができ、宿主細胞が真核細胞の場合には、微細注入法、カルシウムホスフェート沈殿法、電気穿孔法、リポソーム−媒介形質感染法、および遺伝子ボンバードメントなどを用いることができるが、これに限定しない。
【0117】
前記形質転換された宿主細胞を選別する方法は、選択標識によって発現する表現型を利用して、当業界で広く知られている方法により容易に実施することができる。例えば、前記選択標識が特定の抗生剤耐性遺伝子の場合には、前記抗生剤が含まれている培地で形質転換体を培養することにより、形質転換体を容易に選別することができる。
【0118】
前記二重特異キメラ蛋白質は、前記核酸分子を前記細胞で発現(例えば、前記細胞を前記核酸分子の発現を許容する条件下で培養)させる段階、および、選択的に、前記発現した二重特異キメラ蛋白質を一般的な方法で分離および/または精製する段階によって生産されてよい。したがって、一例は、前記核酸分子を前記細胞で発現させる段階を含む前記二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0119】
本発明で提供される二重特異キメラ蛋白質、例えば、抗EGFR DARPinと、抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、従来の抗cMet抗体と比較して、次のような増進した効果を期待することができる。
【0120】
1.IgG−DARPin形態の二重特異キメラ蛋白質プラットホームの構築
2.EGFR DARPin配列の汎用化
3.新たなMOA(mechanism of action)によるEGFR活性の阻害
4.従来の抗c−Met抗体、抗HER2抗体、または抗EGFR治療剤より増加した癌細胞抑制効果
5.従来の抗c−Met抗体、抗HER2抗体、または抗EGFR治療剤に対して耐性を有する癌細胞の抑制効果
6.EGFR/METの併用投与またはEGFR/HER2の併用投与と比較して、優れた効能を発揮するIgG−DARPin形態の二重特異キメラ蛋白質の確保
【図面の簡単な説明】
【0121】
図1】一実施形態にかかる抗EGFR DARPinを用いた多様な二重特異キメラ蛋白質の製造過程を模式的に示したものである。
図2】一実施形態にかかる抗EGFR DARPinを用いた多様な二重特異キメラ蛋白質の製造過程を模式的に示したものである。
図3】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質の製造過程を模式的に示したものである。
図4】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質の物性を示す結果である。
図5】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のEGF competitionの程度を示すグラフである。
図6】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のA431細胞においてEGFRのリン酸化阻害の程度を示すグラフである。
図7】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のSNU5細胞株に対する増殖阻害の程度を示すグラフである。
図8】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のMKN45細胞株に対する増殖阻害の程度を示すグラフである。
図9】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のH1993細胞株に対する増殖阻害の程度を示すグラフである。
図10】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のA431細胞株に対する増殖阻害の程度を示すグラフである。
図11】抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質によるc−MetおよびEGFRのInternalizationを示す蛍光イメージである。
図12】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質処理によるc−Met(上段)およびEGFR(下段)の発現量の変化を示すグラフである。
図13】一実施形態にかかる抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質の製造過程を模式的に示したものである。
図14】一実施形態にかかる抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質の物性を示す結果である。
図15】一実施形態にかかる抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質のMKN45細胞株に対する増殖阻害の程度を示すグラフである。
図16】抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質によるEGFRおよびHER2のInternalizationを示す蛍光イメージである。
図17】一実施形態にかかる抗EGFR/HER3抗体/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の製造過程を模式的に示したものである。
図18】一実施形態にかかる抗EGFR/HER3抗体/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の物性を示す結果である。
図19】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR(E01+E69)DARPin二重特異キメラ蛋白質の製造過程を模式的に示したものである。
図20】一実施形態にかかる抗c−Met/抗EGFR(E01+E69)DARPin二重特異キメラ蛋白質の物性を示す結果である。
図21A】多様なDARPinの塩基配列を示す。
図21B】多様なDARPinの塩基配列を示す。
図21C】多様なDARPinの塩基配列を示す。
図21D】多様なDARPinの塩基配列を示す。
図21E】多様なDARPinの塩基配列を示す。
図21F】多様なDARPinの塩基配列を示す。
図21G】多様なDARPinの塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0122】
以下、本発明を実施例および試験例を通してより詳細に説明する。しかし、これらの実施例および試験例は、本発明を例示するためのもので、本発明を制限すると解釈されてはならない。
【0123】
参考例1:抗c−Met抗体の作製
1.1.c−Metに対するマウス抗体‘AbF46’の生産
1.1.1.マウスの免疫化
ハイブリドーマ細胞株の開発に必要な免疫化されたマウスを得るために、5匹のマウスに、1匹あたり100μgのヒトのc−Met/Fc融合蛋白質(R&D Systems)と、同量の完全フロイントアジュバントを混合して、4−6週齢のBALB/cマウス(Japan SLC,Inc.)の腹腔内に注射した。2週後に、前記と同様の方法で、前記抗原として使用されたヒトのc−Met/Fc融合蛋白質を、前記注射した量の半分である50μgを、同量の不完全フロイントアジュバントと混合して、マウスの腹腔内に注射した。1週後、最後のブースティング(boosting)が行われ、3日後に、前記マウスの尾から採血して血清を得た後、1/1000にPBSで希釈して、ELISAでc−Metを認知する抗体の力価が増加することを確認した。前記結果で抗体の量が十分に得られるマウスを選別し、下記の細胞融合過程を行った。
【0124】
1.1.2.細胞融合およびハイブリドーマの製造
細胞融合実験3日前に、50μgのPBSに、ヒトのc−Met/Fc融合蛋白質の混合物をBALB/cマウス(Japan SLC,Inc.)の腹腔内に注射し、免疫化されたマウスを麻酔した後、体の左側に位置した脾臓を摘出した。摘出した脾臓をメッシュで粉砕して細胞を分離し、培養培地(DMEM、GIBCO、Invitrogen)と混合して、脾臓細胞懸濁液を調製した。前記懸濁液を遠心分離して細胞層を回収した。前記得られた脾臓細胞1x10個と、骨髄腫細胞(Sp2/0)1×10個を混合した後、遠心分離して細胞を沈殿させた。前記遠心分離された沈殿物を徐々に分散させ、培養培地(DMEM)に入っている45%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG)(1ml)を処理し、37℃で1分間維持させた後、培養培地(DMEM)1mlを添加した。以降、培養培地(DMEM)10mlを1分間添加し、37℃の水で5分間放置した後、50mlに合わせて再び遠心分離した。細胞沈殿物を分離培地(HAT培地)で1〜2×10/ml程度に再懸濁させ、96ウェル(well)プレートに0.1mlずつ分注した後、37℃の二酸化炭素培養器で培養して、ハイブリドーマ細胞群を作製した。
【0125】
1.1.3.c−Met蛋白質に対する単クローン抗体を生産するハイブリドーマ細胞の選別
前記参考例1.1.2で製造されたハイブリドーマ細胞群のうち、c−Met蛋白質にだけ特異的に反応するハイブリドーマ細胞を選別するために、ヒトのc−Met/Fc融合蛋白質とヒトのFc蛋白質を抗原として用いたELISA分析方法によってスクリ−ニングした。
【0126】
マイクロタイタープレートに、ヒトのc−Met/Fc融合蛋白質を、1ウェルあたりそれぞれ50μl(2μg/ml)ずつ加えてプレート表面に付着させ、反応しない抗原は洗浄して除去した。c−MetでないFcに結合される抗体を選別して除外させるために、ヒトのFc蛋白質を、前記と同様の方法でプレート表面に付着させた。
【0127】
前記参考例1.1.2で得られたハイブリドーマ細胞の培養液を、前記用意されたそれぞれのウェルに50μlずつ加えて1時間反応させた後、リン酸緩衝溶液−トゥイーン20(TBST)溶液で十分に洗浄し、反応しない培養液を除去した。これに、ヤギ抗−マウスIgG−西洋ワサビペルオキシダーゼ(goat anti−mouse IgG−HRP)を加えて、1時間、室温で反応させた後、TBST溶液で十分に洗浄した。次に、ペルオキシダーゼの基質溶液(OPD)を加えて反応させ、その反応の程度は、ELISA Readerで450nmにおける吸光度を測定して確認した。
【0128】
前記のような反応程度の確認によって、ヒトのFcには結合せず、ヒトのc−Met蛋白質にだけ特異的に高い結合力を有する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株を繰り返し選別した。繰り返し選別によって得られたハイブリドーマ細胞株を制限稀釈して、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株1個のクローンを最終的に得た。最終選別されたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、2009年10月6日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である、大韓民国、ソウル、鍾路区、蓮建洞所在の韓国細胞株研究財団に寄託し、受託番号KCLRF−BP−00220が付与された(韓国公開特許第2011−0047698号参照)。
【0129】
1.1.4.モノクローナル抗体の生産および精製
前記参考例1.1.3で得られたハイブリドーマ細胞を無血清培地で培養し、培養液からモノクローナル抗体を生産精製した。
【0130】
まず、10%(v/v)FBSが含まれている培養培地(DMEM)50mlで培養された前記ハイブリドーマ細胞を遠心分離し、細胞沈殿物を20mlのPBSで2回以上洗浄し、FBSが除去された状態で、前記細胞沈殿物を培養培地(DMEM)培地50mlに再懸濁させた後、3日間、37℃の二酸化炭素培養器で培養した。
【0131】
以降、遠心分離して、抗体を生産する細胞を除去し、抗体の分泌した培養液を分離して、4℃に保管するか、直ちに集めて、抗体の分離精製に使用した。親和性カラム(Protein Gagarose column;Pharmacia、USA)を装着したAKTA精製機器(GE Healthcare)を用いて、前記用意された培養液50ml〜300mlから抗体を純粋精製した後、蛋白質凝集用フィルタ(Amicon)を用いてPBSで上層液を置換し、精製された抗体を保管し、後の実施例に使用した。
【0132】
1.2.c−Metに対するキメラ抗体chAbF46の作製
一般に、マウス抗体は、治療目的でヒトに注入された時、免疫拒絶反応(immunogenicity)を示す可能性が高いことから、これを解決するために、前記参考例1.1.で作製されたマウス抗体AbF46から、抗原の結合に関連する可変領域(variable region)を除いた不変領域(constant region)を、ヒトIgG1抗体の配列に置換するキメラ抗体chAbF46を作製した。
【0133】
重鎖に相当するヌクレオチド配列は‘EcoRI−signal sequence−VH−NheI−CH−TGA−XhoI’(配列番号38)で、軽鎖に相当するヌクレオチド配列は‘EcoRI−signal sequence−VL−BsiWI−CL−TGA−XhoI’(配列番号39)で構成されるようにそれぞれデザインして遺伝子を合成した。以降、Invitrogen社のOptiCHOTM Antibody Express Kit(Cat no.12762−019)に含まれているpOptiVECTM−TOPO TA Cloning Kitに前記重鎖に相当するヌクレオチド配列を有するDNA切片(配列番号38)を、pcDNATM3.3−TOPO TA Cloning Kit(Cat no.8300−01)に前記軽鎖に相当するヌクレオチド配列を有するDNA切片(配列番号39)を、それぞれEcoRI(NEB、R0101S)とXhoI(NEB、R0146S)制限酵素を用いて、クローニングすることにより、キメラ抗体の発現のため重鎖を含むベクターおよび軽鎖を含むベクターをそれぞれ構築した。
【0134】
前記構築されたベクターはそれぞれ、Qiagen Maxiprep kit(Cat no.12662)を用いて増幅され、臨時発現はFreestyleTM MAX293Expression System(invitrogen)を用いて行った。使用された細胞株は293F cellであり、FreeStyleTM293Expression Mediumを培地として用いて浮遊培養方式で培養された。臨時発現1日前の細胞を5×10cells/mlの濃度で用意した後、24時間経過後、cell数が1×10cells/mlとなった時、臨時発現を進行させた。FreestyleTM MAX reagent(invitrogen)を用いたliposomal reagent法で形質導入(transfection)を進行させ、15mlのtubeに重鎖DNA:軽鎖DNA=1:1の割合でDNAを用意してOptiProTM SFM(invtrogen)2mlと混合し(A)、他の15mlのチューブにFreestyleTM MAX reagent100μlとOptiProTM SFM2mlを混合(B)した後、(A)と(B)とを混合して15分間インキュベートした後、1日前に用意した細胞に混合液を徐々に入れ混ぜた。形質導入完了後、37℃、湿度80%、8%CO、130rpmの培養器で5日間培養した。
【0135】
以降、10%(v/v)FBSの添加されたDMEM培地で、37℃、5%COの条件下で5時間培養した後、FBSの添加されていないDMEM培地で、48時間、37℃、5%COの条件下で培養した。
【0136】
前記培養された細胞を遠心分離して上澄液をそれぞれ100ml取って、AKTA Prime(GE healthcare)を用いて精製した。AKTA PrimeにProtein Aカラム(GE healthcare、17−0405−03)を設け、培養液を5ml/minの流速で流した後、IgG elution buffer(Thermo Scientific、21004)で溶出させた。得られた溶出物をPBSバッファーに交換し、最終的にキメラ抗体AbF46(以下、chAbF46と名づける)を精製した。
【0137】
1.3.キメラ抗体chAbF46からヒト化抗体huAbF46の作製
1.3.1.重鎖のヒト化(Heavy chain humanization)
H1−heavyおよびH3−heavy2種のデザインのために、まず、Ig Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を通して、前記参考例1.2で精製されたマウス抗体AbF46のVH遺伝子と最も相同性が高いヒトの生殖腺(germline)遺伝子を分析した。その結果、VH3−71がアミノ酸レベルで83%の相同性を有することを確認し、マウス抗体AbF46のCDR−H1、CDR−H2、CDR−H3をKabat numberingで定義し、マウス抗体AbF46のCDR部分がVH3−71のフレームワークに導入されるようにデザインした。この時、30番(S→T)、48番(V→L)、73番(D→N)、78番(T→L)のアミノ酸は、元々、マウスAbF46抗体のアミノ酸配列にback−mutationした。以降、H1は、追加的に83番(R→K)と84番(A→T)のアミノ酸に突然変異を与え、最終的にH1−heavy(配列番号40)とH3−heavy(配列番号41)を構築した。
【0138】
H4−heavyのデザインのために、ヒト抗体のフレームワーク配列を調べた結果、AbF46抗体のマウスの骨格配列と配列が非常に類似すると同時に、従来の最も安定的と知られているVH3サブタイプを用いて、Kabat numberingで定義されたマウス抗体AbF46のCDR−H1、CDR−H2、CDR−H3を導入した。これにより、H4−heavy(配列番号42)を構築した。
【0139】
1.3.2.軽鎖のヒト化(Light chain humanization)
H1−light(配列番号43)およびH2−light(配列番号44)の2種のデザインのために、Ig Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を通して、マウス抗体AbF46のVL遺伝子と最も相同性が高いヒト生殖腺遺伝子を分析した。その結果、VK4−1がアミノ酸レベルで75%の相同性を有することを確認し、マウス抗体AbF46のCDR−L1、CDR−L2、CDR−L3をKabat numberingで定義し、マウス抗体AbF46のCDR部分がVK4−1の骨格に導入されるようにデザインした。この時、H1−lightは、36番(Y→H)、46番(L→M)、49番(Y→I)の3個のアミノ酸を逆変異させ、H2−lightは、49番のアミノ酸(Y→I)1個だけをback−mutationして構築した。
【0140】
H3−light(配列番号45)のデザインのために、Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を通して、マウス抗体AbF46のVL遺伝子と最も相同性が高いヒト生殖腺遺伝子を分析した結果のうち、前記VK4−1のほか、VK2−40を選定した。マウス抗体AbF46VLとVK2−40は、アミノ酸レベルで61%の相同性を有することを確認し、マウス抗体AbF46のCDR−L1、CDR−L2、CDR−L3をKabat numberingで定義し、マウス抗体AbF46のCDR部分がVK4−1の骨格に導入されるようにデザインした。この時、H3−lightは、36番(Y→H)、46番(L→M)、49番(Y→I)の3個のアミノ酸を逆変異させて構築した。
【0141】
H4−light(配列番号46)のデザインのために、ヒト抗体のフレームワーク配列を調べた結果、従来の最も安定的と知られているVk1 subtypeを用いて、Kabat numberingで定義されたマウス抗体AbF46のCDR−L1、CDR−L2、CDR−L3を導入した。この時、H4−lightは、36番(Y→H)、46番(L→M)、49番(Y→I)の3個のアミノ酸を追加的にback−mutationして構築した。
【0142】
以降、Invitrogen社のOptiCHOTM Antibody Express Kit(Cat no.12762−019)に含まれているpOptiVECTM−TOPO TA Cloning Kitに前記重鎖に相当するヌクレオチド配列を有するDNA切片(H1−heavy;配列番号47、H3−heavy;配列番号48、H4−heavy;配列番号49)を、pcDNATM3.3−TOPO TA Cloning Kitに前記軽鎖に相当するヌクレオチド配列を有するDNA切片(H1−light;配列番号50、H2−light;配列番号51、H3−light;配列番号52、H4−light;配列番号53)を、それぞれEcoRI(NEB、R0101S)とXhoI(NEB、R0146S)制限酵素を用いて、クローニングすることにより、ヒト化抗体の発現のためのベクターを構築した。
【0143】
前記構築されたベクターはそれぞれ、Qiagen Maxiprep kit(Cat no.12662)を用いて増幅され、臨時発現はFreestyleTM MAX293Expression System(invitrogen)を用いて進行した。使用された細胞株は293F cellであり、FreeStyleTM293Expression Mediumを培地として用いて浮遊培養方式で培養された。臨時発現1日前の細胞を5×10cells/mlの濃度で用意した後、24時間経過後、cell数が1×10cells/mlとなった時、臨時発現を進行させた。FreestyleTM MAX reagent(invitrogen)を用いたliposomal reagent法で形質導入を進行させ、15mlのtubeに重鎖DNA:軽鎖DNA=1:1の割合でDNAを用意してOptiProTM SFM(invtrogen)2mlと混合し(A)、他の15mlのtubeにFreestyleTM MAX reagent100μlとOptiProTM SFM2mlを混合(B)した後、(A)と(B)とを混合して15分間インキュベートした後、1日前に用意した細胞に混合液を徐々に入れ混ぜた。形質導入完了後、37℃、湿度80%、8%CO、130rpmのincubatorで5日間培養した。
【0144】
前記培養された細胞を遠心分離して上澄液各100mlを取って、AKTA Prime(GE healthcare)を用いて精製した。AKTA PrimeにProtein Aカラム(GE healthcare、17−0405−03)を設け、培養液を5ml/minの流速で流した後、IgG elution buffer(Thermo Scientific、21004)で溶出した。これをPBS bufferに交換し、最終的にヒト化抗体AbF46(以下、huAbF46と名づける)を精製した。一方、後の実施例で使用したヒト化抗体huAbF46の重鎖、軽鎖の組み合わせは、H4−heavy(配列番号42)およびH4−light(配列番号46)である。
【0145】
1.4.huAbF46抗体のscFvライブラリーの作製
huAbF46抗体の重鎖可変部位および軽鎖可変部位を用いてhuAbF46抗体のscFvを作製するための遺伝子をデザインした。それぞれ重鎖可変部位および軽鎖可変部位を‘VH−リンカー−VL’の形態となるようにし、前記リンカーは‘GLGGLGGGGSGGGGSGGSSGVGS’(配列番号54)のアミノ酸配列を有するようにデザインした。このようにデザインされたhuAbF46抗体のscFvをコーディングするポリヌクレオチド(配列番号55)をバイオニアに依頼して合成し、これを発現させるためのベクターを配列番号56に示した。
【0146】
以降、前記ベクターから発現した結果物を分析し、c−Metに特異的な結合力を示すことを確認した。
【0147】
1.5.親和度成熟(affinity maturation)のためのライブラリー遺伝子の作製
1.5.1.標的CDRの選定およびプライマーの作製
huAbF46抗体の親和性成熟(affinity maturation)のために6つの相補性決定部位(CDR)を、前記作製されたマウス抗体AbF46から‘Kabat numbering’によって定義した。それぞれのCDRは下記の表2の通りである。
【0148】
【表2】
【0149】
抗体CDRのランダム配列導入のために、次のようにプライマーを作製した。従来のランダム配列導入方式は、突然変異を与えようとする部位に同一の割合の塩基(25%A、25%G、25%C、25%T)が導入されるようにNコドンを用いたが、本実施例では、huAbF46抗体のCDRにランダム塩基を導入するために、各CDRのアミノ酸をコーディングする3個の野生型ヌクレオチド中の1番目および2番目のヌクレオチドの85%はそのまま保存し、残りの3個の塩基をそれぞれ5%ずつ導入する方式を採った。また、3番目のヌクレオチドは、同一に(33%G、33%C、33%T)が導入されるようにプライマーをデザインした。
【0150】
1.5.2.huAbF46抗体のライブラリーの作製およびc−Metに対する結合力の確認
CDRのランダム配列の導入による抗体ライブラリー遺伝子の構築は、前記参考例1.5.1のような方法で作製されたプライマーを用いて行った。鋳型としてhuAbF46抗体のscFvを含むポリヌクレオチドを用いて、図1に示す方法のように、2個のPCR切片を作製し、これを重複拡張重合酵素連鎖反応(overlap extension PCR)方法により、所望のCDRだけがそれぞれ突然変異したhuAbF46抗体のscFvライブラリー遺伝子を確保して作製された6つのCDRをそれぞれ標的とするライブラリーを構築した。
【0151】
このように作製されたライブラリーは、野生型と各ライブラリーのc−Metに対する結合力を確認し、それぞれのライブラリーは、野生型に比べてc−Metに対する結合力が大部分低下する傾向を示したが、一部でc−Metに対する結合力が維持される突然変異を確認した。
【0152】
1.6.作製されたライブラリーから親和度の改善された抗体の選別
前記構築されたライブラリーからc−Metに対するライブラリーの結合力を向上させた後、それぞれの個別クローンからscFvの遺伝子配列を分析した。確保された遺伝子配列はそれぞれ下記の表3の通りであり、これをIgG形態に変換した。下記のクローンのうち、L3−1、L3−2、L3−3、L3−5から生産された4種の抗体を選別して後続の実験を行った。
【0153】
【表3】
【0154】
1.7.選別された抗体のIgGへの変換
選別された4種の抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドは‘EcoRI−signal sequence−VH−NheI−CH−XhoI’(配列番号38)で構成され、重鎖の場合、親和性の成熟後に、抗体のアミノ酸が変更されなかったので、huAbF46抗体の重鎖をそのまま使用した。ただし、ヒンジ領域は、ヒトIgG1のヒンジでないU6−HC7ヒンジ(配列番号57)に置換した。軽鎖は‘EcoRI−signal sequence−VL−BsiWI−CL−XhoI’で構成されるようにそれぞれデザインして遺伝子を合成し、親和性の成熟後に、選別された前記4種の抗体の軽鎖可変部位を含んでコードするポリヌクレオチド(配列番号58〜配列番号61)をバイオニアに依頼して合成した。以降、Invitrogen社のOptiCHOTM Antibody Express Kit(Cat no.12762−019)に含まれているpOptiVECTM−TOPO TA Cloning Kitに前記重鎖に相当するヌクレオチド配列を有するDNA切片(配列番号38)を、pcDNATM3.3−TOPO TA Cloning Kit(Cat no.8300−01)に前記軽鎖に相当するヌクレオチド配列を有するDNA切片(L3−1由来のCDR−L3を含むDNA切片:配列番号58、L3−2由来のCDR−L3を含むDNA切片:配列番号59、L3−3由来のCDR−L3を含むDNA切片:配列番号60、L3−5由来のCDR−L3を含むDNA切片:配列番号61)を、それぞれEcoRI(NEB、R0101S)とXhoI(NEB、R0146S)制限酵素を用いて、クローニングすることにより、親和性の成熟した抗体の発現のためのベクターを構築した。
【0155】
前記構築されたベクターはそれぞれ、Qiagen Maxiprep kit(Cat no.12662)を用いて増幅され、臨時発現はFreestyleTM MAX293Expression System(invitrogen)を用いて進行した。使用された細胞株は293F cellであり、FreeStyleTM293Expression Mediumを培地として用いて浮遊培養方式で培養された。臨時発現1日前の細胞を5×10cells/mlの濃度で用意した後、24時間経過後、細胞数が1×10cells/mlとなった時、臨時発現を進行させた。FreestyleTM MAX reagent(invitrogen)を用いたliposomal reagent法で形質導入を進行させ、15mlのチューブに重鎖DNA:軽鎖DNA=1:1の割合でDNAを用意し、OptiProTM SFM(invtrogen)2mlと混合し(A)、他の15mlのチューブにFreestyleTM MAX reagent100μlとOptiProTM SFM2mlを混合(B)した後、(A)と(B)とを混合して15分間インキュベートした後、1日前に用意した細胞に混合液を徐々に入れ混ぜた。形質導入完了後、37℃、湿度80%、8%CO、130rpmの培養器で5日間培養した。
【0156】
前記培養された細胞を遠心分離して上澄液各100mlを取って、AKTA Prime(GE healthcare)を用いて精製した。AKTA PrimeにProtein Aカラム(GE healthcare、17−0405−03)を設け、培養液を5ml/minの流速で流した後、IgG elution buffer(Thermo Scientific、21004)で溶出した。これをPBS bufferに交換し、最終的に親和力の成熟した4種の抗体(以下、huAbF46−H4−A1(L3−1由来)、huAbF46−H4−A2(L3−2由来)、huAbF46−H4−A3(L3−3由来)、およびhuAbF46−H4−A5(L3−5由来)と名づける)を精製した。
【0157】
1.8.不変領域および/またはヒンジ領域の置換されたhuAbF46−H4−A1の製造
前記参考例1.7で選別された4種の抗体のうち、c−Metとの結合親和性が最も高く、Aktのリン酸化およびc−Metの分解の程度が最も低いと測定されたhuAbF46−H4−A1を対象に、ヒンジ領域または不変領域およびヒンジ領域の置換された抗体を作製した。
【0158】
huAbF46−H4−A1の重鎖可変部位、U6−HC7ヒンジおよびヒトのIgG1不変領域からなる重鎖、およびhuAbF46−H4−A1の軽鎖可変部位およびヒトのカッパ(kappa)不変領域からなる軽鎖からなる抗体をhuAbF46−H4−A1(U6−HC7);huAbF46−H4−A1の重鎖可変部位、ヒトのIgG2ヒンジおよびヒトのIgG1不変領域からなる重鎖、およびhuAbF46−H4−A1の軽鎖可変部位およびヒトのカッパ不変領域からなる軽鎖からなる抗体をhuAbF46−H4−A1(IgG2hinge);huAbF46−H4−A1の重鎖可変部位、ヒトのIgG2ヒンジおよびヒトのIgG2不変領域からなる重鎖、およびhuAbF46−H4−A1の軽鎖可変部位およびヒトのカッパ不変領域からなる軽鎖からなる抗体をhuAbF46−H4−A1(IgG2Fc)とそれぞれ名づけた。また、一方、前記3種の抗体は、生産量増大のために、ヒトのカッパ不変領域からなる軽鎖の36番のヒスチジン(His)をすべてチロシン(Tyr)に置換した。
【0159】
前記3種の抗体を作製するために、huAbF46−H4−A1の重鎖可変部位、U6−HC7ヒンジおよびヒトのIgG1不変領域からなるポリペプチド(配列番号62)をコードするポリヌクレオチド(配列番号63)、huAbF46−H4−A1の重鎖可変部位、ヒトのIgG2ヒンジおよびヒトのIgG1不変領域からなるポリペプチド(配列番号64)をコードするポリヌクレオチド(配列番号65)、huAbF46−H4−A1の重鎖可変部位、ヒトのIgG2ヒンジおよびヒトのIgG2不変領域からなるポリペプチド(配列番号66)をコードするポリヌクレオチド(配列番号67)、36番のヒスチジンがチロシンに置換されたhuAbF46−H4−A1の軽鎖可変部位およびヒトのカッパ不変領域からなるポリペプチド(配列番号68)をコードするポリヌクレオチド(配列番号69)をバイオニアに依頼して合成した。以降、Invitrogen社のOptiCHOTM Antibody Express Kit(Cat no.12762−019)に含まれているpOptiVECTM−TOPO TA Cloning Kitに前記重鎖に相当する塩基配列を有するDNA切片を、pcDNATM3.3−TOPO TA Cloning Kit(Cat no.8300−01)に前記軽鎖に相当する塩基配列を有するDNA切片を挿入して、前記抗体の発現のためのベクターを構築した。
【0160】
前記構築されたベクターはそれぞれ、Qiagen Maxiprep kit(Cat no.12662)を用いて増幅され、臨時発現はFreestyleTM MAX293Expression System(invitrogen)を用いて進行した。使用された細胞株は293F細胞であり、FreeStyleTM293Expression Mediumを培地として用いて浮遊培養方式で培養された。臨時発現1日前の細胞を5×10cells/mlの濃度で用意した後、24時間経過後、細胞数が1×10cells/mlとなった時、臨時発現を進行させた。FreestyleTM MAX reagent(invitrogen)を用いたliposomal reagent法で形質導入を進行させ、15mlのチューブに重鎖DNA:軽鎖DNA=1:1の割合でDNAを用意してOptiProTM SFM(invtrogen)2mlと混合し(A)、他の15mlのチューブにFreestyleTM MAX reagent100μlとOptiProTM SFM2mlを混合(B)した後、(A)と(B)とを混合して15分間インキュベートした後、1日前に用意した細胞に混合液を徐々に入れ混ぜた。形質導入完了後、37℃、湿度80%、8%CO、130rpmの培養器で5日間培養した。
【0161】
前記培養された細胞を遠心分離して上澄液各100mlを取って、AKTA Prime(GE healthcare)を用いて精製した。AKTA PrimeにProtein Aカラム(GE healthcare、17−0405−03)を設け、培養液を5ml/minの流速で流した後、IgG elution buffer(Thermo Scientific、21004)で溶出した。これをPBS bufferに交換し、最終的に3種の抗体(huAbF46−H4−A1(U6−HC7)、huAbF46−H4−A1(IgG2hinge)、huAbF46−H4−A1(IgG2Fc))を精製した。このうち、本発明にかかる抗c−Met抗体を代表してhuAbF46−H4−A1(IgG2Fc)を選択して下記の実施例に使用し、便宜上、前記抗体をL3−1Y−IgG2と名づけた。
【0162】
実施例1:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の作製1
前記参考例1で作製されたL3−1Y−IgG2のc−末端に4種の抗EGFR DARPin(配列番号109、110、111、および112)をそれぞれ融合させ、4種の抗c−Met抗体/抗EGFR DARPin融合体(抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質)を作製した(図3参照)。L3−1Y−IgG2抗体の重鎖と抗EGFR DARPinは、10個のアミノ酸で構成された‘GGGGSGGGGS’(G4S)2リンカーを用いて‘L3−1Y−IgG2重鎖−(G4S)2−抗EGFR DARPin’の形態で作製した。
【0163】
前記4種の抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質に対してBiacoreによる親和度確認試験(下記の実施例2を参照)を行い、このうち、最も高い親和度でEGFR(R&D systems)に結合する1種を選抜し、これをME−19(E01DARPin(配列番号109)を含む)と名づけた。
【0164】
実施例2:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の物性およびEGFRの親和度
前記実施例1で製造されたME−19二重抗体の物性を調べるために、前記抗体を精製し、TSKG3000SWXLカラム(Tosho)が装着されたHPLC装備(WATERS2695)に、20ugの抗体を0/5ml/minの速度で注入し、サイズ排除クロマトグラフィーを行った。
【0165】
前記結果を図4に示した。図4において、「1」は可溶性ダイマー(soluble dimer)に対するピーク定量値、「2」はモノマーに対するピーク定量値を示す。図4から明らかなように、前記選抜されたME−19は、可溶性ダイマーの形成が非常に少ないことが(<1)観察され、非常に安定した分子であることが分かる。
【0166】
前記作製されたME−19二重抗体(抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質)の2種の抗原(c−Met/EGFR)に対する各親和度を、BiacoreT100(GE)を用いて確認した。ヒトFab結合剤(GE Healthcare)をCM5チップ(#BR−1005−30、GE)の表面に製造会社の説明書に従って固定化させた。約90〜120RUのME−19二重抗体を捕獲し、多様な濃度のEGFR−Fc(#344−ER、R&D Systems)を前記捕獲された抗体に注入した。これに、10mM Glycine−HCl(pH1.5)溶液を注入して前記表面を再生させた(regenerated)。親和度を測定するために、前記実験から得られたデータを、BIAevaluation software(GE Healthcare、Biacore T100 evaluation software)を用いてフィッティングした。
【0167】
前記得られた結果を表4に示した。
【0168】
【表4】
【0169】
表4から確認されるように、前記実施例1で作製された二重特異キメラ蛋白質ME−19は、Biacoreを用いて測定時、EGFRに対してKD=0.35nMの非常に高い親和度を保有することが明らかになった。
【0170】
実施例3:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質のEGF competition試験
前記実施例1で作製された二重特異キメラ蛋白質ME−19のEGFの競合(competition)の可否を確認するために、ELISA法を利用した競合アッセイ(competition assay)を実施した。96−well immunoplate(Nunc)に0.25ug/wellのEGFR(#344−ER、R&D Systems)をコーティングした後、20ng/mlの濃度のbiotinylated EGF(invitrogen)と順次に希釈したME−19を混合して分注し、常温で2時間反応させた。前記反応物を0.05%(w/v)のTween20を含むPBSで5回洗浄した後、これに、HRP(Horse radish peroxidase)が結合されている抗−ストレプトアビジン抗体(#21140、Thermo scientific)を各wellに分注し、常温で1時間反応させた。前記と同様に洗浄した後、発色反応を誘導するために、TMB substrate(eBioscience)を各wellに分注した後、405nmにおける吸光度を測定した。比較のために、二重特異キメラ蛋白質ME−19の代わりに、Erbitux(Merck)を用いて、同様の方法で試験を行った。
【0171】
前記測定結果を図5に示した。図5のように、前記二重特異キメラ蛋白質ME−19がEGFに対して競合(competition)することを確認した。従来の抗体であるErbituxと比較した時、ME−19は、EGFがEGFRに結合されることを比較的に弱く妨害する。
【0172】
実施例4:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質のEGFRのリン酸化阻害効果試験
前記実施例1で作製された二重特異キメラ蛋白質ME−19のEGFRのリン酸化阻害効果を確認するために、human epidermoid carcinomaであるA431細胞株においてphospho−EGFR測定実験を実施した。96−well cell culture plateに2×10cells/ウェルの量でA431細胞(ATCC)を分注した後、37℃、5%COで24時間培養した。前記培養した細胞から培地を除去した後、無血清培地(#30−2002、ATCC)を分注して18時間培養した。前記培養した細胞に二重特異キメラ蛋白質ME−19を5ug/mlの濃度で分注して30分間培養後、200ng/mlの濃度のEGF(R&D systems)を添加して30分間さらに培養した。培養が終わった細胞は溶解した後、phospho−EGFR detection kit(Cell signaling)を用いて405nmにおける吸光度を測定することにより、前記二重特異キメラ蛋白質によるEGFRのリン酸化の程度を測定した。比較のために、二重特異キメラ蛋白質ME−19の代わりに、Erbitux(#ET509081213、Merck)(陽性対照群)を用いて、同様の方法で試験を行った。
【0173】
前記得られた結果を図6に示した。図6において、mediaで記載された結果は、何ら抗体も処理しない場合の結果である。図6のように、c−Metの発現が低いA431細胞において、ME−19の場合、特異にも、natural EGFを処理する場合(media)よりも多くEGFRのリン酸化を増加させることが明らかになった。このような結果は、ME−19がA431細胞にEGFRを過リン酸化(hyper phosphorylation)させてEGFRシグナル伝達経路を撹乱させることを示唆する。
【0174】
実施例5:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の細胞増殖阻害効果試験
前記実施例1で作製された二重特異キメラ蛋白質ME−19の癌細胞増殖阻害効果の試験を行うために、SNU5細胞株(韓国細胞株銀行KCLB No.00005)、MKN45細胞株(韓国細胞株銀行KCLB No.80103)、H1993細胞株(ATCC CRL−5909)、およびA431細胞株(ATCC)に対する細胞増殖阻害効果の試験を行った。
【0175】
すべての細胞株は、RPMI1640培地(#11875−093、Gibco)に10%(v/v)FBSと1%(v/v)Penicilin−Streptomycinを添加し、5%COおよび37℃の条件で培養した。細胞増殖分析(Cell proliferation assay)のために、各細胞株を1×10cell/ウェルの濃度で96ウェルプレートで継代培養しながら、実施例1で作製された抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質ME−19を5ug(microgram)/mlの量で処理し、72時間培養した。陰性対照群として抗体を添加しない培地を使用し、陽性対照群として市販中のEGFR阻害剤であるErlotinib(Erで表示;#S1023、Selleckchem;2uM(micromole))、Erbitux(Ebtで表示;#ET509081213、Merck;5ug/ml)、参考例1で作製されたL3−1Y−IgG2抗体5ug/ml、および参考例1で作製されたL3−1Y抗体とErbituxとの併用処理した群をそれぞれ使用した。
【0176】
培養後、Cell Counting Kit−8 assay(Dojindo Molecular Technologies、Gaithersburg、MD)を用いて、製造会社の指示に従って細胞増殖の程度を分析した。簡略に説明すれば、72時間培養後、CCK8 solutionを10ul(microliter)ずつ、各wellに添加して2.5時間を追加培養した後、マイクロプレートリーダーで450nmにおける吸光度を読み出した。
【0177】
前記得られた結果を、図7(SNU5)、図8(MKN45)、図9(H1993)、および図10(A431)にそれぞれ示した。図7および図10において、コントロールは抗体を処理しない培地であり、図8および図9のY軸のCell proliferation indexはCCK8で測定した細胞増殖数値を意味する。図7図9のように、ME−19は、c−Metが過発現するSNU5およびMKN45のような胃癌細胞とc−Met/EGFRがすべて過発現するH1993細胞において、いずれもL3−1Y−IgG2およびErbituxの単独投与および併用投与時より優れた抗癌効能を示すことが確認された。また、図10のように、ME−19は、c−Metの発現が低いA431細胞において、L3−1Y−IgG2の単独投与時より優れた抗癌効能を示す。
【0178】
実施例6:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質によるc−MetとEGFRのInternalization
MKN45胃癌細胞株(韓国細胞株銀行KCLB No.80103)を4X10cell/wellの量で用意し、これに、参考例1で用意したL3−1Y−IgG2、cetuximab(#ET509081213、Merck)、および実施例1で作製されたME−19を、それぞれ単独処理または併用処理の方法で、各ウェルあたり1ug/mlの濃度となるように(併用処理の場合、それぞれ1ug/mlとなるように)添加し、2時間、37℃でインキュベーティングした。これに、4%(v/v)ホルムアルデヒドを15分間処理して細胞をプレートに固定させ、PBSで3回洗浄した。その後、ブロッキングバッファー(0.5%(v/v)triton x−100 and 5%(v/v)donkey serum)を常温で1時間処理した後、c−MetおよびEGFRに対する一次抗体(c−Met一次抗体;#FAB3582A、R&D systems、EGFR一次抗体;#5616、Cell signaling)を1:100に希釈し、100μlの量で、15時間、4℃で処理した。PBSで3回洗浄した後、二次抗体(#A21433、Invitrogen)を1:2000に希釈し、100ulの量で、1時間、常温で処理し、再びPBSで3回洗浄して、mounting medium(#H−1200、Vector)としてplateを用意した。前記用意された細胞を、Confocal顕微鏡(Zeiss、LSM710)で細胞を観察した。
【0179】
前記得られた結果を図11に示した。図11に示されているように、L3−1Y−IgG2を単独処理した場合、c−Metだけが細胞内に移動し、EGFRは、相変わらず細胞膜に位置するのに対し、ME−19を処理する場合には、c−MetとEGFRがいずれも細胞内に移動することを確認することができる。
【0180】
前記結果をまとめると、DARPinが適用されたME−19は、従来のEGFR阻害抗体とは異なるメカニズムによってEGFRの機能を阻害すると見られる。
【0181】
実施例7:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質による標的受容体の発現量の減少
抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質による標的受容体であるc−MetとEGFRの発現量の減少を確認するために、ヒトの胃癌細胞株であるMKN45(韓国細胞株銀行KCLB No.80103)とSNU638(ATCC)を、2x10cell/ウェルの量で96ウェルプレートに継代培養しながら、L3−1Y−IgG2、Erbitux、およびME19をそれぞれ5ug/mlの量で処理して24時間培養した。陰性対照群(control)として抗体を添加しない培地を使用した。培養後、細胞をComplete Lysis−M(#04719956001、Roche)で溶解した後、細胞溶解物を収集した。c−Metの発現量測定のために、Total cMet detection ELISA kit(DYC358E、R&D systems)を、EGFRの発現量測定のために、Total EGF Receptor ELISA kit(#7297、Cell Signaling)を製造会社の指示に従って使用した。
【0182】
前記得られた結果を図12に示した。図12に示されているように、L3−1Y−IgG2とME19は、陰性対照群に比べてc−Metの発現量を顕著に減少させた。Erbituxは、EGFRの発現量に影響を与えないのに対し、ME19は、c−Metの発現量(上段参照)だけでなく、EGFRの発現量(下段参照)も顕著に減少させることが分かる。
【0183】
実施例8:抗HER2/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の作製
Herceptin(Roche)のc−末端に抗EGFR DARPin(配列番号109)を融合させ、抗HER2抗体/抗EGFR DARPin融合体(抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質)を作製した(図14参照)。Herceptin抗体の重鎖と抗EGFR DARPinを、10個のアミノ酸で構成された‘GGGGSGGGGS’(G4S)2リンカーを用いて連結し、‘Herceptin重鎖−(G4S)2−抗EGFR DARPin’の形態で作製した。
【0184】
前記作製された抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質をH2E−01と名づけた。
【0185】
実施例9:抗HER2/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の物性およびEGFRの親和度
前記実施例8で製造された抗HER2/抗EGFR DARPin二重抗体H2E−01の物性を調べるために、前記抗体を精製し、TSKG3000SWXLカラム(Tosho)が装着されたHPLC装備(WATERS2695)に、20μgの抗体を0/5ml/minの速度で注入し、HPLCを用いてサイズ排除クロマトグラフィーを行った。
【0186】
前記結果を図14に示した。図14において、「1」は可溶性ダイマー(soluble dimer)に対するピーク定量値、「2」はモノマーに対するピーク定量値を示す。図14から明らかなように、前記抗HER2/抗EGFR DARPin二重特異抗体H2E−01は、実施例1で作製されたME−19の場合と同様に、可溶性ダイマーの形成が非常に少ないことが(<1)観察され、非常に安定した分子であることが分かる。
【0187】
前記作製された抗HER2/抗EGFR DARPin二重抗体の2種の抗原(HER2/EGFR)に対する各親和度を、BiacoreT100(GE)を用いて確認した。ヒトFab結合剤(GE Healthcare)を、CM5チップ(#BR−1005−30、GE)の表面に製造会社の説明書に従って固定化させた。約90〜120RUの二重抗体を捕獲し、多様な濃度のEGFR−Fc(#344−ER、R&D Systems)を前記捕獲された抗体に注入した。これに、10mM Glycine−HCl(pH1.5)溶液を注入して前記表面を再生させた(regenerated)。親和度を測定するために、前記実験から得られたデータを、BIAevaluation software(GE Healthcare、Biacore T100 evaluation software)を用いてフィッティングした。
【0188】
前記得られた結果を表5に示した。
【0189】
【表5】
【0190】
表5から確認されるように、前記実施例8で作製された二重特異キメラ蛋白質は、Biacoreを用いて測定時、EGFRおよびHER2に対して、KD=0.03または<0.01nMの非常に高い親和性を保有することが明らかになった。
【0191】
実施例10:抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質の細胞増殖阻害効果試験
前記実施例8で作製された二重特異キメラ蛋白質H2E−01の癌細胞増殖阻害効果の試験を行うために、MKN45細胞株(韓国細胞株銀行KCLB No.80103)に対する細胞増殖阻害効果の試験を行った。
【0192】
MKN45細胞株を、RPMI1640培地(#11875−093、Gibco)に10%(v/v)FBSと1%(v/v)Penicilin−Streptomycinを添加し、5%COおよび37℃の条件で培養した。細胞増殖アッセイのために、各細胞株を、1×10cell/ウェルの濃度で96ウェルプレートで継代培養しながら、実施例8で作製された抗HER2/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質を5μg/mlの量で処理し、72時間培養した。陰性対照群として抗体を添加しない培地を使用し、陽性対照群として市販中のEGFR阻害剤のErbitux(#ET509081213、Merck;5ug/ml)、HER2阻害剤のHerceptin(Trastuzumab、Roche;5ug/ml)、およびHerceptin抗体とErbitux抗体との併用処理した群をそれぞれ使用した。
【0193】
培養後、Cell Counting Kit−8 assay(Dojindo Molecular Technologies、Gaithersburg、MD)を用いて、製造会社の指示に従って細胞増殖の程度を分析した。簡略に説明すれば、72時間培養後、CCK8 solutionを10ul(microliter)ずつ、各wellに添加して2.5時間を追加培養した後、マイクロプレートリーダーで450nmにおける吸光度を読み出した。
【0194】
前記得られた結果を図15に示した。図15のように、抗HER2/抗EGFR DARPin二重抗体は、MKN45のような胃癌細胞においてHerceptinおよびErbituxの単独投与および併用投与時より優れた抗癌効能を示すことが確認された。
【0195】
実施例11:抗HER2/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質によるHER2およびEGFRのInternalization
MKN45胃癌細胞株(韓国細胞株銀行KCLB No.80103)を4X10cell/wellの量で用意し、これに、Trastuzumab(Roche)、Cetuximab(#ET509081213、Merck)、および実施例8で作製された抗HER2/抗EGFR DARPin二重抗体H2E−01を、それぞれ単独処理または併用処理の方法で、各ウェルあたり1μg/mlの濃度となるように(併用処理の場合、それぞれ1μg/mlとなるように)添加し、2時間、37℃でインキュベーティングした。これに、4%(v/v)ホルムアルデヒドを15分間処理して細胞をプレートに固定させ、PBSで3回洗浄した。その後、ブロッキングバッファー(0.5%(v/v)triton x−100および5%(v/v)donkey serum)を常温で1時間処理した後、HER2およびEGFRに対する一次抗体(HER2一次抗体:#280003Z、Invitrogen;EGFR一次抗体:#5616、Cell signaling)を1:100に希釈し、100μlの量で、15時間、4℃で処理した。PBSで3回洗浄した後、二次抗体(#A21433、Invitrogen)を1:2000に希釈し、100ulの量で、1時間、常温で処理し、再びPBSで3回洗浄し、mounting medium(#H−1200、Vector)としてplateを用意した。前記用意された細胞を、Confocal顕微鏡(Zeiss、LSM710)で細胞を観察した。
【0196】
前記得られた結果を図16に示した。図16に示されているように、HerceptinとErbituxの併用処理した場合、EGFRとHER2が相変わらず細胞膜に位置しているのに対し、二重抗体を処理する場合には、EGFRとHER2が細胞内に移動することを確認することができる。
【0197】
前記結果をまとめると、DARPinが適用された抗HER2/抗EGFR DARPin二重抗体は、従来のEGFRまたはHER2阻害抗体とは異なるメカニズムによってEGFRおよびHER2の機能を阻害すると見られる。
【0198】
実施例12:抗EGFR/HER3抗体/抗EGFR DARPin融合体
抗EGFR/HER3抗体RG−7597のc−末端に抗EGFR DARPin(配列番号109)を融合させ、抗EGFR/HER3抗体/抗EGFR DARPin融合体(抗HER3/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質)を作製した(図17参照)。RG−7597抗体の重鎖とDARpinは、10個のアミノ酸で構成された‘GGGGSGGGGS’(G4S)2リンカーを用いて、‘RG−7597重鎖−(G4S)2−抗EGFR DARPin’の形態で作製した。前記抗EGFR/HER3抗体RG−7597は、次のような重鎖可変部位(配列番号117)および軽鎖可変部位(配列番号118を有するもので、IgG1Fcを用いて作製した。
【0199】
<抗EGFR/HER3抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号117)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTLSGDWIHWVRQAPGKGLEWVGEISAAGGYTDYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARESRVSFEAAMDYWGQGTLVTVSS
<抗EGFR/HER3抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号118)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIATDVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSEPEPYTFGQGTKVEIK
前記製造された抗EGFR/HER3抗体/抗EGFR DARPin融合体をEH3E−01と名づけた。
【0200】
このように製造された抗EGFR/HER3/抗EGFR DARPin二重抗体EH3E−01の物性を調べるために、前記抗体を精製し、TSKG3000SWXLカラム(Tosho)が装着されたHPLC装置(WATERS2695)に、20μgの抗体を0/5ml/minの速度で注入し、HPLCを用いてサイズ排除クロマトグラフィーを行った。
【0201】
前記結果を図18に示した。図18において、「1」は可溶性ダイマー(solubledimer)に対するピーク定量値、「2」はモノマーに対するピーク定量値を示す。図18から明らかなように、前記製造された抗体EH3E−01は、実施例1で作製されたME−19の場合と同様に、可溶性ダイマーの形成が非常に少ないことが(<1%)観察され、非常に安定した分子であることが分かる。
【0202】
実施例13:抗c−Met/抗EGFR DARPin二重特異キメラ蛋白質の作製2
前記参考例1で作製された抗c−Met抗体L3−1Y−IgG2のc−末端に2個の抗EGFR DARPin(DARPin−01:配列番号109;DARPin−69:配列番号112)を融合させ、EGFR DARPinがIgGタイプの抗c−Met抗体の各ダイマーのc−末端に2個ずつ結合された抗c−Met抗体/抗EGFR DARPin融合体(抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質)を作製した(図19参照)。L3−1Y−IgG2抗体の重鎖とDARpin−01は、10個のアミノ酸で構成された‘GGGGSGGGGS’(G4S)2リンカーを用いて連結し、DARPin−01とDARPin−69も、10個のアミノ酸で構成された‘GGGGSGGGGS’(G4S)2リンカーを用いて連結した。したがって、最終形態は、‘L3−1Y−IgG2重鎖−(G4S)2−抗EGFR DARPin−01−(G4S)2−抗EGFR DARPin−69’の形態である。
【0203】
このように製造された抗c−Met/抗EGFR二重特異キメラ蛋白質をME−28と名づけた。
【0204】
このように製造された抗c−Met/抗EGFR DARPin二重抗体の物性を調べるために、前記抗体を精製し、TSKG3000SWXLカラム(Tosho)が装着されたHPLC装置(WATERS2695)に、20μgの抗体を0/5ml/minの速度で注入し、HPLCを用いてサイズ排除クロマトグラフィーを行った。
【0205】
前記結果を図20に示した。図20において、「1」は可溶性ダイマー(soluble dimer)に対するピーク定量値、「2」はモノマーに対するピーク定量値を示し、‘3’と‘4’はそれぞれ、分解された二重抗体断片を示すと推定される。図20から明らかなように、前記選抜された抗c−Met/抗EGFR DARPinは、実施例1で作製されたME−19の場合とは異なり、可溶性ダイマーまたは多重体の形成が増加することが(>5)観察され、反面、親和性は増加することが観察された。
【0206】
前記作製された抗c−Met/抗EGFR DARPin二重抗体のEGFRに対する親和度を、Biacore T100(GE)を用いて確認した。ヒトFab結合剤(GE Healthcare)を、CM5チップ(#BR−1005−30、GE)の表面に製造会社の説明書に従って固定化させた。約90〜120RUの二重抗体を捕獲し、多様な濃度のEGFR−Fc(#344−ER、R&D Systems)を前記捕獲された抗体に注入した。これに、10mM Glycine−HCl(pH1.5)溶液を注入して前記表面を再生させた(regenerated)。親和度を測定するために、前記実験から得られたデータを、BIAevaluation software(GE Healthcare、Biacore T100 evaluation software)を用いてフィッティングした。
【0207】
前記得られた結果を表6に示した。
【0208】
【表6】
【0209】
表6から確認されるように、前記作製された二重特異キメラ蛋白質は、Biacoreを用いて測定時、EGFRに対してKD<0.01nMが非常に高い親和度を保有することが明らかになった。
図1
図2
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図5
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図20
図21A
図21B
図21C
図21D
図21E
図21F
図21G
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]