【課題を解決するための手段】
【0022】
二重特異キメラ蛋白質は、非常に多様な種類と形態で開発されており、2種以上の抗原に同時に結合することができるため、従来のモノクローナル抗体と比較して治療効果に優れた抗体新薬として期待されている。本発明は、従来のIgG形態の抗体にDARPinを結合させた新しい概念の二重特異キメラ蛋白質を提案する。
【0023】
DARPin(designed ankyrin repeat protein;参照文献:Chapter 5.“Designed Ankyrin Repeat Proteins(DARPins):From Research to Therapy”,Methods in Enzymology,vol503:101〜134 (2012);and“Efficient Selection of DARPins with Sub−nanomolar Affinities using SRP Phage Display”,J.Mol.Biol.(2008)382,1211−1227)は、標的蛋白質に対して高い特異性と高い結合親和性を示す遺伝子工学的に作製された抗体擬似蛋白質(antibody mimetic protein)である。DARPinは、天然アンキリン(ankyrin)蛋白質に由来するもので、アンキリン繰り返し単位体(ankyrin repeat motif)が2個以上または3個以上、例えば、4または5個繰り返された構造を有する。前記繰り返し単位体が3個、4個、または5個繰り返されたDARPinの場合、分子量がそれぞれ約10kDa、14kDa、または約18kDa程度である。
【0024】
DARPinは、主に、構造的機能を果たすコア部分と、標的と結合する標的結合部分とを含み、前記コア部分は、保存されたアミノ酸配列を有し、前記標的結合部分は、前記コアの外側に位置する部分で、標的に応じて異なるアミノ酸配列を有する。
【0025】
DARPinは、標的特異性のように抗体と類似する特性を有するため、従来の抗体、例えば、IgG形態の抗体またはその抗原結合断片と結合させて、新たな形態の二重特異キメラ蛋白質に作製することができる。
【0026】
使用可能なDARPinの例を下記の表1にまとめており、これらのヌクレオチド配列を
図21A〜
図21Gに例示した。
【0027】
【表1】
【0028】
そこで、本発明の一例は、(a)DARPin、および(b)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(抗原結合断片、例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。他の例は、(a)DARPinを、(b)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。
【0029】
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記抗体および/または抗原結合断片は、DARPinと同一であるか(この場合、認識部位が異なる)、互いに異なる抗原を標的とするものであってよい。したがって、前記二重特異キメラ蛋白質は、異なる抗原を標的とするか、同一の抗原の互いに異なる認識部位を標的とする二重特異抗体として使用できる。
【0030】
前記抗体は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)から選択されたものであってよい。
【0031】
前記IgG形態の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、例えば、IgG1またはIgG2サブタイプの形態であってよい。前記IgG形態の抗体は、2個の重鎖と、2個の軽鎖とを含み、それぞれの重鎖および軽鎖は、ジスルフィド結合を通して結合され、2個の重鎖−軽鎖構造体を形成し、前記形成された2個の重鎖−軽鎖は、重鎖のFc部位でジスルフィド結合を通して連結されている形態を有する。前記IgG形態の抗体は、両方の重鎖−軽鎖構造体に同一の抗原に対する抗原結合部位を含むことで1つの抗原を標的とする単一標的抗体、または両方の重鎖−軽鎖構造体に互いに異なる抗原に対する抗原結合部位を含むことで2つの抗原を標的とする二重特異キメラ蛋白質であってよい。
【0032】
前記scFv−Fc形態の抗体は、1つの抗原に対する抗原結合部位を有する1つのscFv−Fc断片を含むモノマー形態の単一標的抗体、または同一の抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の単一標的抗体であるか、異なる抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の二重特異キメラ蛋白質であってよい。前記Fcは、哺乳類のIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、例えば、IgG1またはIgG2、具体的には、ヒトIgG1またはIgG2サブタイプに由来するものであってよい。前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体が二重特異キメラ蛋白質の場合、これらが標的とする2つの抗原のうちの1つの抗原は、DARPinが標的とする物質と同一のものであってよい。
【0033】
前記「抗原結合部位」は、抗原と特異的に結合する部分を含むポリペプチドを意味するもので、重鎖相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)、軽鎖相補性決定領域(CDR)、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)を意味するものである。
【0034】
また、前記DARPinは、前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体のC末端、N末端、または結合可能なすべての部位に連結されたものであってよい。例えば、前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体の抗原結合能力の保存を考慮して、前記DARPinは、前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体のFc部分のC末端に連結されたものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0035】
前記二重特異キメラ蛋白質が、DARPinと、IgG形態の抗体およびscFv−Fc形態の抗体の組み合わせを含む場合、DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体の連結順序には特別な制限がない。場合によっては、連結順序に応じて他の効能を示したり抗体発現率などが異なることがあるが、通常所望の抗体の効能には影響がない。例えば、前記二重特異キメラ蛋白質は、IgG形態の抗体、前記IgG形態の抗体のC末端に連結されたDARPin、および前記DARPinのC末端に連結されたscFv−Fc形態の抗体を含むものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0036】
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記DARPinは、同一のアミノ酸配列を有するDARPinが1個以上、例えば、1〜10個、1〜5個、または1〜3個繰り返し含まれるか、同一または互いに異なる蛋白質を標的とし、互いに異なるアミノ酸配列を有する2種以上、例えば、2〜10種、2〜5種、または2〜3種が含まれるとよい。DARPinが2個以上または2種以上含まれる場合、前記2個以上または2種以上のDARPinは、互いに連結されて繰り返し体の形態で抗体に結合されてよく、前記DARPinまたはその繰り返し体は、IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体の各鎖のC末端、N末端、および結合可能な部位のうちの1つ以上に連結されてよい。
【0037】
前記二重特異キメラ蛋白質は、前記DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体と同一または異なる抗原を標的とする抗体の抗原結合断片を1種以上(例えば、1〜5種または1〜3種)を追加的に含むことができる。前記抗原結合断片は、抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)であってよく、二重特異キメラ蛋白質の結合可能なすべての部位、例えば、前記二重特異キメラ蛋白質の重鎖(例えば、Fc部位)のC末端または軽鎖のC末端、またはDARPinのC末端などに結合されてよい。
【0038】
前記DARPinと、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体、scFv−Fc内の重鎖可変部位と軽鎖可変部位、scFv−FcとscFv−Fc(ダイマーを形成する場合)、および前記抗原結合断片、DARPin、およびIgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、リンカーを介するか介することなく連結できる。前記リンカーは、ペプチドリンカーであってよく、複数のリンカーが使用された場合、互いに同一または異なるものであってよい。前記ペプチドリンカーは、1〜100個または2〜50個(例えば、5〜25個、1〜10個、または2〜5個)の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであってよく、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。前記ペプチドリンカーは、例えば、Gly、Asnおよび/またはSer残基を含むことができ、Thrおよび/またはAlaのような中性アミノ酸も含まれてよい。ペプチドリンカーに適したアミノ酸配列は当業界で公知である。一方、前記リンカーは、前記二重特異キメラ蛋白質の機能に否定的影響を与えない限度内で、その長さを多様に決定することができる。例えば、前記ペプチドリンカーは、Gly、Asn、Ser、ThrおよびAlaからなる群より選択された1種以上を、計1〜100個、2〜50個、または5〜25個を含んでなるものであってよい。一例において、前記ペプチドリンカーは、(G4S)n(nは(G4S)の繰り返し数)であって、1〜10の整数、例えば、2〜5の整数)で表現されるものであってよい。
【0039】
DARPinは、抗原に対して高い親和性を有しながらも、一般的な抗体断片(例えば、scFv、Fabなど)より分子量が小さく、安定性に優れることから、物性(例えば、体内pharmacokinetic(PK)properties)および体内安定性の側面で有利であり、他の蛋白質との融合が容易で、安定性および物性に優れた二重特異キメラ蛋白質の作製などに有利に使用できる。
【0040】
一方、上皮細胞成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor;EGFR)は、HERファミリーの受容体チロシンキナーゼ(Receptor Tyrosine Kinases;RTKs)の一員である。様々な種類のヒト悪性腫瘍から、EGFRの過発現、遺伝子増幅、突然変異、または再配列などが頻繁に観察され、癌治療の不良な予後および悪い臨床的結果に関連する。このような理由から、これらのEGFRは、抗癌療法において重要な標的となる。
【0041】
したがって、一例において、前記DARPinは、EGFRを標的とする、つまり、EGFRに特異的に結合する抗EGFR DARPin(またはEGFR結合DARPin)であってよい。この場合、(a’)抗EGFR DARPin、および(b’)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質が提供される。他の例は、(a’)抗EGFR DARPinを、(b’)抗体(例えば、IgG形態の抗体)、抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。前記抗EGFR DARPin、および抗体および/または抗体断片を含む二重特異キメラ蛋白質は、EGFRを含むことで2以上の抗原または2以上の認識部位をターゲットとする二重特異抗体として使用できる。
【0042】
本発明で使用される抗EGFR DARPinは、DARPin固有の構造を有しながら、EGFRに特異的に結合するすべてのDARPinであってよく、例えば、論文(Steiner D.,Forrer,P.,and A.Plueckthun,(2008)JMB382:1211−1227)に開示された4種の抗EGFR DARPinの中から選択された1種以上であってよい。前記4種の抗EGFR DARPinのアミノ酸配列は次の通りである。
【0043】
抗EGFR DARPin−01(配列番号109):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnaddtwgwtplhlaayqghleivevllkngadvnaydyigwtplhlaadghleivevllkngadvnasdyigdtplhlaahnghleivevllkhgadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
抗EGFR DARPin−67(配列番号110):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnatdndgntplhlsawighleivevllkhgadvnaddllgmtplhlaadtghleivevllkygadvnardtrgktplhlaardghleivevllkhdadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
抗EGFR DARPin−68(配列番号111):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnafdywgmtplhlaadnghleivevllkhgadvnasdnfgftplhlaafyghleivevllkhgadvnafdmwgntplhlaaqnghleivevllkngadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
抗EGFR DARPin−69(配列番号112):
dlgkklleaaragqddevrilmangadvnaddnagrtplhlaanfghleivevllkngadvnakghhcntplhlaawaghleivevllkygadvnadddegytplhlaadigdleivevllkygadvnawdmygrtplhlaasaghleivevllkygadvnaqdkfgktafdisidngnedlaeilq
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、抗EGFR DARPinと同一または互いに異なる抗原を標的とするものであってよい。同一の抗原を標的とする場合、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体と、抗EGFR DARPinが認識および/または結合する抗原のエピトープが互いに異なっていてよい。
【0044】
先に説明したように、EGFRは、抗癌治療における主な標的であるため、EGFR(HER1、ErbB−1)以外の腫瘍関連蛋白質、具体的には、細胞のシグナル伝達に関連する蛋白質、例えば、各種シグナル伝達分子(例えば、各種成長因子)、各種受容体(例えば、受容体チロシンキナーゼ蛋白質など)などの細胞膜蛋白質などを標的とすれば、より上昇した癌治療効果を得ることができる。したがって、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体が抗EGFR DARPinと異なる抗原、つまり、EGFR以外の抗原を標的(認識)とするものの場合、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体の抗原は、それぞれ独立して腫瘍関連蛋白質、例えば、各種成長因子およびEGFRを除いた受容体チロシンキナーゼ蛋白質からなる群より選択された1種以上であってよい。前記成長因子は、例えば、EGF(Epidermal growth factor)、PDGF(Platelet−derived growth factor)、FGF(fibroblast growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)などを含むことができる。前記受容体チロシンキナーゼ蛋白質は、各種成長因子の受容体などを含み、具体的には、HER2、HER3などを含むErbBファミリー、インスリン受容体、PDGF受容体(Platelet−derived growth factor receptor;PDGFR)、FGF受容体(fibroblast growth factor receptor;FGFR)、VEGF受容体(vascular endothelial growth factor receptor;PDGFR)、c−Metなどを含むHGF受容体(hepatocyte growth factor receptor;HGFR)、Trk受容体(tropomyosin−receptor−kinase receptor)、Eph受容体(Ephrin receptor)、AXL受容体、LTK受容体(Leukocyte receptor tyrosine kinase)、TIE受容体、ROR受容体(receptor tyrosine kinase−like orphan receptor)、DDR受容体(Discoidin domain receptor)、RET受容体、KLG受容体、RYK受容体(related to receptor tyrosine kinase receptor)、MuSK受容体(Muscle−Specific Kinase receptor)などを含むことができる。一実施形態において、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、それぞれ独立してc−Met、HER2、HER3、VEGFなどからなる群より選択された1種以上を抗原として認識するものであってよい(
図1参照)。
【0045】
前記IgG形態の抗体は、IgG1またはIgG2サブタイプの形態であってよい。前記IgG形態の抗体の構造は先に説明した通りである。前記IgG形態の抗体は、両方の重鎖−軽鎖構造体に同一の抗原に対する抗原結合部位を含むことで1つの抗原を標的とする単一標的抗体、または両方の重鎖−軽鎖構造体に互いに異なる抗原に対する抗原結合部位を含むことで2つの抗原を標的とする二重特異キメラ蛋白質であってよい。前記scFv−Fc形態の抗体は、1つの抗原に対する抗原結合部位を有する1つのscFv−Fc断片を含むモノマー形態の単一標的抗体、または同一の抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の単一標的抗体であるか、異なる抗原に対する抗原結合部位を含む2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたダイマー形態の二重特異キメラ蛋白質であってよい。前記IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体が二重特異キメラ蛋白質の場合、これらが標的とする2つの抗原のうちの1つは、EGFRであってよく、前記抗EGFR DARPinと同一または異なる部分を認識および/または結合するものであってよい。
【0046】
前記「抗原結合部位」の定義は先に説明した通りであり、前記腫瘍関連蛋白質、例えば、前記各種成長因子およびEGFRを除いた受容体チロシンキナーゼ蛋白質からなる群より選択された1種以上の抗原と特異的に結合する部分を含むポリペプチド、例えば、前記抗原に対する抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)であってよい。
【0047】
前記抗EGFR DARPinは、前記抗体(例えば、IgG形態の抗体)または抗体断片(例えば、scFv−Fc形態の抗体)のC末端、N末端、または結合可能なすべての部位に連結されたものであってよい。例えば、前記抗体または抗体断片の抗原結合能力の保存を考慮して、前記抗EGFR DARPinは、前記抗体または抗体断片のFc部分のC末端に連結されたものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0048】
前記二重特異キメラ蛋白質が、抗EGFR DARPinと、IgG形態の抗体およびscFv−Fc形態の抗体の組み合わせを含む場合、抗EGFR DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体の連結順序には特別な制限がない。場合によっては、連結順序に応じて他の効能を示したり抗体発現率などが異なることがあるが、通常、所望の抗体の効能には影響がない。例えば、前記二重特異キメラ蛋白質は、IgG形態の抗体、前記IgG形態の抗体のC末端に連結された抗EGFR DARPin、および前記抗EGFR DARPinのC末端に連結されたscFv−Fc形態の抗体を含むものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0049】
前記二重特異キメラ蛋白質において、前記抗EGFR DARPinは、同一のアミノ酸配列を有するDARPinが1個以上、例えば、1〜10個、1〜5個、または1〜3個繰り返し含まれるか、異なる配列を有する抗EGFR DARPinが2種以上、例えば、2〜10種、2〜5種、または2〜3種が含まれるとよい。異なる配列を有する抗EGFR DARPinの場合、これらが認識および/または結合するEGFR上のエピトープは、それぞれ異なっていてよい。また、前記抗EGFR DARPinに加えて、EGFR以外の蛋白質を標的とする1種以上、例えば、1〜10種、1〜5種、または1〜3種のDARPinが追加的に含まれるとよい。DARPinが2個以上または2種以上含まれる場合、前記2個以上または2種以上のDARPinは、互いに連結されて繰り返し体の形態で抗体に結合されてよく、前記DARPinまたはその繰り返し体は、IgG形態の抗体またはscFv−Fc形態の抗体の各鎖のC末端、N末端、および結合可能な部位のうちの1つ以上に連結されてよい。例えば、前記抗EGFR DARPinは、前記のような配列番号109の抗EGFR DARPin、配列番号110の抗EGFR DARPin、配列番号111の抗EGFR DARPin、および配列番号112の抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上が1個〜10個、1〜5個、または1〜3個繰り返された形態で、前記IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体のC末端、N末端、または結合可能なすべての部位(例えば、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体の重鎖、例えば、Fc部位のC末端または軽鎖のC末端など)に連結されたものであってよい。例えば、前記抗EGFR DARPinは、配列番号109の抗EGFR DARPin、配列番号110の抗EGFR DARPin、配列番号111の抗EGFR DARPin、および配列番号112の抗EGFR DARPinからなる群より選択された1種以上を含むか、前記1種以上のEGFR DARPinが2個〜10個繰り返された形態であってよい。
【0050】
前記二重特異キメラ蛋白質は、前記抗EGFR DARPin、IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体と同一または異なる抗原を標的とする抗体の抗原結合断片を1種以上(例えば、1〜5種または1〜3種)追加的に含むことができる。前記抗原結合断片は、前記各種成長因子および受容体チロシンキナーゼ蛋白質からなる群より選択された1種以上の抗原に対する抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)であってよく、前記二重特異キメラ蛋白質のすべての結合可能な部位(例えば、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体の重鎖、例えば、Fc部位のC末端または軽鎖のC末端、または抗EGFR DARPinのC末端など)に結合されてよい(
図2参照)。例えば、前記抗原結合断片は、以下に説明されるc−Metに対する抗原結合部位(抗c−Met抗体の抗原結合部位)、HER2に対する抗原結合部位、HER3に対する抗原結合部位、EGFRに対する抗原結合部位、VEGFに対する抗原結合部位などからなる群より選択された1種以上であってよい。
【0051】
前記抗EGFR DARPinと、IgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体、scFv−Fc内の重鎖可変部位と軽鎖可変部位、scFv−FcとscFv−Fc(ダイマーを形成する場合)、および前記抗原結合断片、DARPin、およびIgG形態の抗体および/またはscFv−Fc形態の抗体は、リンカーを介するか介することなく連結できる。前記リンカーは、ペプチドリンカーであってよく、その具体的な内容は先に説明した通りである。
【0052】
前記抗EGFR DARPinは、抗原に対して高い親和性を有しながらも、一般的な抗EGFR抗体断片(例えば、scFv、Fabなど)より分子量が小さく、安定性に優れることから、物性(例えば、体内pharmacokinetic(PK)properties)および体内安定性の側面で有利であり、他の蛋白質との融合が容易で、安定性および物性に優れた二重特異キメラ蛋白質の作製に有利に使用できる。
【0053】
一例において、前記IgG形態の抗体、およびscFv−Fc形態の抗体は、c−Metを標的とする抗c−Met抗体であってよい。この場合、抗EGFR DARPin、および抗c−Met抗体またはその断片を含む二重特異キメラ蛋白質は、EGFRとc−Metを標的とする二重特異抗体であってよい。
【0054】
c−Metは、EGFRと互いに相互作用をして腫瘍に関連する様々な機序に関与する代表的な受容体チロシンキナーゼ蛋白質である。これらの蛋白質は、癌細胞の増殖、癌細胞の侵入、新生血管の生成などを誘導する。また、これらの蛋白質は、互いに相互作用をすることにより互いのシグナル伝達経路に関与し、それぞれの治療剤に対する耐性まで誘発させることがある。さらに、EGFRに対する標的治療剤(Erbitux、Tarceva、Iresaなど)の投与で獲得された耐性には、c−Metの過発現と突然変異が関連しているという研究結果が報告されている。したがって、EGFRとc−Metを同時に阻害することにより、従来の薬物の副作用、耐性などの問題を解決する可能性が高い上に、単一標的を阻害する場合より上昇した治療効果を収めることができ、従来の薬物に対して効果がなかった癌種にも効果を奏することができると期待される。
【0055】
また、c−Metだけを単独で標的とする抗体は、制約的な種類の癌において癌増殖抑制効能を示し、c−Metが過発現する場合、大部分でEGFRの過発現が伴う場合が多いことから、c−Met標的治療剤に対する耐性克服のためにも、c−Met/EGFRを同時に阻害することが有利である。
【0056】
したがって、本発明の一例は、(a’’)抗EGFR DARPin、および(b’’)IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質を提供する。他の例は、(a’’)抗EGFR DARPinを、(b’’)IgG形態の抗HER2抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。前記抗EGFR DARPinが2種以上連結されたものの場合、前記製造方法は、2種以上、例えば、2〜10種、2〜5種、または2〜3種の抗EGFR DARPinを連結(例えば、直列に連結)させる段階を、前記抗EGFR DARPinを、IgG形態の抗HER2抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階の前または後に、追加的に含むことができる。
【0057】
抗c−Met抗体は、c−Metを細胞内に移動させて分解を誘導する機能を有するものであってよく、このような特性によって、抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、c−Metの分解だけでなく、EGFRの分解も誘導して、agonismなしにより上昇した抗癌活性を示すことができる。前記二重特異キメラ蛋白質の適用時、EGFRクラスタリング(EGFR clustering)が観察され、前記二重特異キメラ蛋白質の上昇した効能は、このようなEGFRクラスタリングによって、関連するPTKなどが共にクラスタリングされて形成されたシグナル伝達複合体(signal complex)全体を、c−Metと共に細胞内に移動させて分解することによって得られると見られる。このような前記二重特異キメラ蛋白質の増進した抗癌活性は、c−MetのリガンドであるHGF(Hepatocyte growth factor)の存在時により増進可能であり、c−Metが過発現した細胞(例えば、癌細胞)においてより明確に現れる。また、前記二重特異キメラ蛋白質は、従来の抗c−Met抗体または抗EGFR抗体などのEGFR標的治療剤に対して獲得された耐性の克服が可能で、耐性獲得細胞においても効果を発揮することを特徴とする。このように、前記抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、従来の分解機序と差別化された機序によってより増進した効果を示す。
【0058】
一具体例において、抗c−Met抗体は、c−Metに作用して細胞内移動(internalization)および分解(degradation)を誘導するすべての抗体またはその抗原結合断片であってよい。前記抗c−Met抗体は、c−Metの特定部位、例えば、SEMAドメイン内の特定部位をエピトープとして認識するものであってよい。
【0059】
前記「c−Met蛋白質」は、肝細胞成長因子と結合する受容体チロシンキナーゼを意味する。前記c−Met蛋白質は、すべての種に由来するものであってよく、例えば、ヒトc−Met(例えば、NP_000236)、猿c−Met(例えば、Macaca mulatta、NP_001162100)などのような霊長類由来のもの、またはマウスc−Met(例えば、NP_032617.2)、ラットc−Met(例えば、NP_113705.1)などのようなげっ歯類由来のものなどであってよい。前記蛋白質は、例えば、GenBank Aceession Number NM_000245に提供されたヌクレオチド配列によって暗号化されたポリペプチド、またはGenBank Aceession Number NM_000236に提供されたポリペプチド配列によって暗号化された蛋白質、またはその細胞外ドメインを含む。受容体チロシンキナ−ゼc−Metは、例えば、癌発生、癌転移、癌細胞移動、癌細胞侵入、新生血管の生成過程などの様々な機序に関与する。
【0060】
HGF(Hepatocyte growth factor)の受容体であるc−Metは、細胞外部位、膜透過部位、細胞内部位の3つの部分に区分され、細胞外部位の場合、二硫化結合によってα−小単位体とβ−小単位体とが連結された形態で、HGF結合ドメインであるSEMAドメイン、PSIドメイン(plexin−semaphorins−integrin homology domain)、およびIPTドメイン(immunoglobulin−like fold shared by plexins and transcriptional factors domain)からなる。c−Met蛋白質のSEMAドメインは、配列番号79のアミノ酸配列を有するものであってよく、c−Metの細胞外部位に存在するドメインであって、HGFが結合する部位に相当する。SEMAドメイン中の特定部位、例えば、106番目から124番目までに相当する配列番号71のアミノ酸配列を有する領域は、c−Met蛋白質のSEMAドメイン内のエピトープ中の2番と3番のプロペラドメインの間のループ(loop)部位に相当し、本発明で提案される抗c−Met抗体のエピトープとして作用することができる。
【0061】
用語「エピトープ(epitope)」は、抗原決定部位(antigenic determinant)であって、抗体によって認知される抗原の一部分を意味すると解釈される。一具体例によれば、前記エピトープは、c−Met蛋白質のSEMAドメイン(配列番号79)内の連続した5個以上のアミノ酸を含む部位、例えば、c−Met蛋白質のSEMAドメイン(配列番号79)内の106番目から124番目までに相当する配列番号71内に位置する連続した5個〜19個のアミノ酸を含むものであってよい。例えば、前記エピトープは、配列番号71のアミノ酸配列中、配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸からなるものであってよく、例えば、配列番号71、配列番号72、または配列番号73のアミノ酸配列を有するポリペプチドであってよい。
【0062】
前記配列番号72のアミノ酸配列を有するエピトープは、c−Met蛋白質のSEMAドメイン内の2番と3番のプロペラ構造のドメインの間のループ部位のうち最も外側に位置した部位に相当し、前記配列番号73のアミノ酸配列を有するエピトープは、一具体例による抗体または抗原結合断片が最も特異的に結合する部位である。
【0063】
したがって、抗c−Met抗体は、配列番号71のアミノ酸配列中、配列番号73(EEPSQ)を含む連続した5〜19個のアミノ酸を含むエピトープに特異的に結合するものであってよく、例えば、配列番号71、配列番号72、または配列番号73のアミノ酸配列を有するエピトープに特異的に結合する抗体または抗原結合断片であってよい。
【0064】
一具体例によれば、前記抗c−Met抗体は、
配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR−H1、配列番号5のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列内の3番目から10番目までのアミノ酸を含む連続した8〜19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H2、および配列番号6のアミノ酸配列、配列番号85のアミノ酸配列、または配列番号85のアミノ酸配列内の1番目から6番目までのアミノ酸を含む連続した6〜13個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−H3からなる群より選択された1つ以上の重鎖相補性決定領域(CDR)、または前記1つ以上の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変部位;
配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR−L1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR−L2、および配列番号9のアミノ酸配列、配列番号86のアミノ酸配列、または配列番号89のアミノ酸配列内の1番目から9番目までのアミノ酸を含む9〜17個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するCDR−L3からなる群より選択された1つ以上の軽鎖相補性決定領域、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変部位;
前記重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域の組み合わせ;または
前記重鎖可変部位および軽鎖可変部位の組み合わせを含むものであってよい。
【0065】
前記配列番号4〜配列番号9はそれぞれ、下記の一般式I〜一般式VIで表されるアミノ酸配列である。
【0066】
一般式I
Xaa
1−Xaa
2−Tyr−Tyr−Met−Ser(配列番号4)
一般式II
Arg−Asn−Xaa
3−Xaa
4−Asn−Gly−Xaa
5−Thr(配列番号5)
一般式III
Asp−Asn−Trp−Leu−Xaa
6−Tyr(配列番号6)
一般式IV
Lys−Ser−Ser−Xaa
7−Ser−Leu−Leu−Ala−Xaa
8−Gly−Asn−Xaa
9−Xaa
10−Asn−Tyr−Leu−Ala(配列番号7)
一般式V
Trp−Xaa
11−Ser−Xaa
12−Arg−Val−Xaa
13(配列番号8)
一般式VI
Xaa
14−Gln−Ser−Tyr−Ser−Xaa
15−Pro−Xaa
16−Thr(配列番号9)
前記一般式Iにおいて、Xaa
1は、存在しないかProまたはSerであり、Xaa
2は、GluまたはAspであり、
前記一般式IIにおいて、Xaa
3は、AsnまたはLysであり、Xaa
4は、AlaまたはValであり、Xaa
5は、AsnまたはThrであり、
前記一般式IIIにおいて、Xaa
6は、SerまたはThrであり、
前記一般式IVにおいて、Xaa
7は、His、Arg、GlnまたはLysであり、Xaa
8は、SerまたはTrpであり、Xaa
9は、HisまたはGlnであり、Xaa
10は、LysまたはAsnであり、
前記一般式Vにおいて、Xaa
11は、AlaまたはGlyであり、Xaa
12は、ThrまたはLysであり、Xaa
13は、SerまたはProであり、
前記一般式VIにおいて、Xaa
14は、Gly、AlaまたはGlnであり、Xaa
15は、Arg、His、Ser、Ala、GlyまたはLysであり、Xaa
16は、Leu、Tyr、PheまたはMetである。
【0067】
一具体例において、前記CDR−H1は、配列番号1、配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−H2は、配列番号2、配列番号25、および配列番号26からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−H3は、配列番号3、配列番号27、配列番号28、および配列番号85からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0068】
前記CDR−L1は、配列番号10、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、および配列番号106からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−L2は、配列番号11、配列番号34、配列番号35、および配列番号36からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。前記CDR−L3は、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号37、配列番号86、および配列番号89からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0069】
一具体例において、前記抗体または抗原結合断片は、配列番号1、配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−H1)、配列番号2、配列番号25、および配列番号26からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−H2)、および配列番号3、配列番号27、配列番号28、および配列番号85からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−H3)を含む重鎖可変部位;および配列番号10、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、および配列番号106からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−L1)、配列番号11、配列番号34、配列番号35、および配列番号36からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−L2)、および配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号37、配列番号86、および配列番号89からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(CDR−L3)を含む軽鎖可変部位を含むものであってよい。
【0070】
一具体例によれば、抗c−Met抗体または抗原結合断片において、前記重鎖可変部位は、配列番号17、配列番号74、配列番号87、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、または配列番号94のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変部位は、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号75、配列番号88、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、または配列番号107のアミノ酸配列を含むものであってよい。
【0071】
所望の抗原を被免疫動物に免疫させて生産する動物由来抗体は、一般に、治療目的でヒトに投与時、免疫拒絶反応が起こることがあり、このような免疫拒絶反応を抑制すべく、キメラ抗体(chimeric antibody)が開発された。キメラ抗体は、遺伝子工学的方法を利用して、抗−アイソタイプ(anti−isotype)反応の原因とされる動物由来抗体の不変領域をヒト抗体の不変領域に置換したものである。キメラ抗体は、動物由来抗体に比べて、抗−アイソタイプ反応において相当部分改善されたが、相変わらず動物由来のアミノ酸が可変部位に存在していて、潜在的な抗−イディオタイプ(anti−idiotypic)反応に対する副作用を抱えている。このような副作用を改善すべく開発されたのが、ヒト化抗体(humanized antibody)である。これは、キメラ抗体の可変部位のうち、抗原の結合に重要な役割を果たすCDR部位をヒト抗体のフレームワーク(framework)に移植して作製される。
【0072】
ヒト化抗体を作製するためのCDRグラフト(grafting)技術において最も重要なのは、動物由来抗体のCDR部位を最もよく受け入れる最適化されたヒト抗体を選定することであり、このために、抗体データベースの活用、結晶構造の分析、分子モデリング技術などが活用される。しかし、最適化されたヒト抗体の骨格に動物由来抗体のCDR部位を移植しても、動物由来抗体の骨格に位置しながら、抗原の結合に影響を与えるアミノ酸が存在する場合があるので、抗原結合力が保存されない場合が相当数存在することから、抗原結合力を復元するための追加的な抗体工学技術の適用は必須といえる。
【0073】
一実施形態によれば、前記抗体は、マウス由来の抗体、マウス−ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト由来抗体であってよい。前記抗体は、生体から分離されたものであってよい。
【0074】
完全な抗体は、2個の全長軽鎖および2個の全長重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖と二硫化結合で連結されている。抗体の不変領域は、重鎖不変領域と、軽鎖不変領域とに分けられ、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)、およびエプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとして、ガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)およびアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)タイプを有する。
【0075】
用語「重鎖(heavy chain)」は、抗原に特異性を付与するために、十分な可変部位の配列を有するアミノ酸配列を含む可変部位ドメインV
H、および3個の不変領域ドメインC
H1、C
H2およびC
H3と、ヒンジ(hinge)を含む全長重鎖およびその断片をすべて含む意味で解釈される。また、用語「軽鎖(light chain)」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変部位の配列を有するアミノ酸配列を含む可変部位ドメインV
L、および不変領域ドメインC
Lを含む全長軽鎖およびその断片をすべて含む意味で解釈される。
【0076】
用語「CDR(complementarity determining region)」は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の高可変部位(hypervariable region)のアミノ酸配列(相補性決定領域)を意味する。重鎖および軽鎖はそれぞれ、3つのCDRを含むことができる(CDRH1、CDRH2、CDRH3、およびCDRL1、CDRL2、CDRL3)。前記CDRは、抗体が抗原またはエピトープに結合するにあたり、主な接触残基を提供することができる。一方、本明細書において、用語「特異的に結合」または「特異的に認識」は、当業者に通常公知の意味と同一のものであって、抗原および抗体が特異的に相互作用して免疫学的反応を行うことを意味する。
【0077】
用語「抗原結合断片」は、免疫グロブリン全体の構造に対するそれの断片で、抗原が結合可能な部分を含むポリペプチドの一部を意味する。一具体例において、前記抗原結合断片は、scFv、(scFv)
2、Fab、Fab’またはF(ab’)
2であってよいが、これに限定されない。前記抗原結合断片のうち、Fabは、軽鎖および重鎖の可変部位と、軽鎖の不変領域、および重鎖の1番目の不変領域(C
H1)を有する構造で、1つの抗原結合部位を有する。
【0078】
Fab’は、重鎖C
H1ドメインのC−末端に1つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有する点からFabと差がある。
【0079】
F(ab’)
2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしつつ生成される。Fvは、重鎖可変部位および軽鎖可変部位だけを有している最小の抗体片で、Fv断片を生成する組換え技術は当業界で広く公知である。
【0080】
二重鎖Fv(two−chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位とが連結されており、単鎖Fv(single−chain Fv)は、一般に、ペプチドリンカーを介して重鎖の可変部位と単鎖の可変部位とが共有結合で連結されるか、またはC−末端で直接連結されていて、二重鎖Fvと同様に、ダイマーのような構造をなすことができる。前記ペプチドリンカーは、1〜100個または2〜50個の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであってよく、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。
【0081】
前記抗原結合断片は、蛋白質加水分解酵素を用いて得られ(例えば、全体抗体をパパインで制限切断すればFabが得られ、ペブシンで切断すればF(ab’)
2断片が得られる)、遺伝子組換え技術によって作製することができる。
【0082】
用語「ヒンジ領域(hinge region)」は、抗体の重鎖に含まれている領域であって、CH1およびCH2領域の間に存在し、抗体内の抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能を果たす領域を意味する。
【0083】
動物由来抗体がキメラ化(chimerization)過程を経ると、動物由来のIgG1ヒンジは、ヒトIgG1ヒンジに置換されるが、動物由来のIgG1ヒンジは、ヒトIgG1ヒンジに比べてその長さが短く、2個の重鎖の間の二硫化結合(disulfide bond)が3個から2個に減少し、ヒンジの硬直性(rigidity)が互いに異なる効果を示す。したがって、ヒンジ領域の変形(modification)は、ヒト化抗体の抗原結合の効率性を増加させることができる。前記ヒンジ領域のアミノ酸配列を変形させるためのアミノ酸の欠失、付加または置換方法は当業者によく知られている。
【0084】
そこで、本発明の一実施形態において、抗原結合の効率性を増進させるために、前記抗c−Met抗体または抗原結合断片は、1つ以上のアミノ酸が欠失、付加または置換されてアミノ酸配列が変形したヒンジ領域を含むものであってよい。例えば、前記抗体は、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、または配列番号104のアミノ酸配列を有するヒンジ領域、または配列番号105のアミノ酸配列を有するヒンジ領域(非変形ヒトヒンジ領域)を含むものであってよい。より具体的には、前記ヒンジ領域は、配列番号100または配列番号101のアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0085】
一実施形態において、抗c−Met抗体は、受託番号KCLRF−BP−00220のハイブリドーマ細胞から生産される、c−Met蛋白質の細胞外部位(extracellular region)に特異的に結合する単クローン抗体であってよい(大韓民国公開特許第2011−0047698号参照;前記文献は本明細書に参照として組み込まれる)。前記抗c−Met抗体は、大韓民国公開特許第2011−0047698号に定義された抗体をすべて含むことができる。
【0086】
前記抗c−Met抗体の前記定義されたCDR部位または軽鎖可変部位と重鎖可変部位を除いた軽鎖不変領域と重鎖不変領域は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)の軽鎖不変領域と重鎖不変領域であってよい。
【0087】
一実施形態によれば、前記抗c−Met抗体は、
配列番号62のアミノ酸配列(このうち、1番目から17番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列、配列番号64のアミノ酸配列(このうち、1番目から17番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列、配列番号66のアミノ酸配列(このうち、1番目から17番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、および配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む重鎖;および
配列番号68のアミノ酸配列(このうち、1番目から20番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列、配列番号70のアミノ酸配列(このうち、1番目から20番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである)、配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列、および配列番号108のアミノ酸配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖を含むものであってよい。
【0088】
例えば、前記抗−c−Met抗体は、
配列番号62のアミノ酸配列または配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号68のアミノ酸配列または配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号64のアミノ酸配列または配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号68のアミノ酸配列または配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号66のアミノ酸配列または配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号68のアミノ酸配列または配列番号68の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号62のアミノ酸配列または配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号70のアミノ酸配列または配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号64のアミノ酸配列または配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号70のアミノ酸配列または配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;または
配列番号66のアミノ酸配列または配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号70または配列番号70の21番目から240番目までのアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号62のアミノ酸配列または配列番号62の18番目から462番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号108のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;
配列番号64のアミノ酸配列または配列番号64の18番目から461番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号108のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体;および
配列番号66のアミノ酸配列または配列番号66の18番目から460番目までのアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号108のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体からなる群より選択されたものであってよい。
【0089】
一方、前記配列番号70のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、ヒトのカッパ不変領域からなる軽鎖であり、配列番号68のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前記配列番号70のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて36番(kabat numberingに従う、配列番号68内の62番目のアミノ酸の位置)のヒスチジン(His)がチロシン(Tyr)に置換された形態のポリペプチドである。前記置換によって、一具体例による抗体の生産量が増加できる。また、前記配列番号108のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前記配列番号68のアミノ酸配列中の1番目から20番目までのシグナルペプチドを除いた21番目から240番目までのアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいてkabat numberingによる27eの位置(kabat numberingに従う;配列番号108内の32番目の位置;CDR−L1の内部)のセリン(Ser)がトリプトファン(Trp)に置換されたもので、前記置換によって、一実施形態による抗体の活性(例えば、c−Metに対する結合親和性、c−Metの分解活性、およびAktのリン酸化抑制活性など)がより増進できる。
【0090】
一実施形態において、前記抗c−Met抗体は、配列番号106の軽鎖相補性決定領域、配列番号107の軽鎖可変部位、または配列番号108の軽鎖を含む抗c−Met抗体であってよい。
【0091】
一例において、前記抗c−Met抗体は、IgG形態の抗体、例えば、IgG1またはIgG2サブタイプ形態の抗体であってよい。前記IgG形態の抗体の構造は先に説明した通りである。
【0092】
前記IgG形態の抗c−Met抗体は、抗体の両方の重鎖−軽鎖構造体にc−Metに対する抗原結合部位、例えば、前記重鎖CDR、軽鎖CDR、またはこれらの組み合わせ、または重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせを含むc−Metに対する単一標的抗体であってよい。他の例において、IgG形態の抗c−Met抗体は、抗体の一方の重鎖−軽鎖構造体にc−Metに対する抗原結合部位、例えば、前記重鎖CDR、軽鎖CDR、またはこれらの組み合わせ、または重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせを含み、他方の重鎖−軽鎖構造体には、c−Met以外の抗原に対する抗原結合部位を含む二重特異(二重標的)抗体であってよい。この場合、前記c−Met以外の抗原は、EGFRであってよい。
【0093】
さらに他の例において、IgG形態の抗c−Met抗体は、両方の重鎖−軽鎖構造体にc−Metに対する抗原結合部位を含むIgG形態のc−Metに対する単一標的抗体のFcのc末端に、リンカーを介するか介することなく、c−Met以外の抗原に対する抗原結合部位、例えば、c−Met以外の抗原に対する抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)を含む上下非対称型二重特異キメラ蛋白質であってよい。この場合、前記c−Met以外の抗原は、EGFRであってよい。前記リンカーは先に説明した通りである。
【0094】
他の例において、前記抗c−Met抗体は、scFv−Fc形態の抗体であってよい。前記scFv−Fc形態の抗体は、c−Metに対する抗原結合部位、例えば、前記重鎖CDR、軽鎖CDR、またはこれらの組み合わせ、または重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせを含む1個のscFv−Fc断片を含むモノマー形態のc−Metに対する単一標的抗体、または前記c−Metに対する抗原結合部位を有する2個のscFv−Fc断片がFc部位で結合されたホモダイマー形態のc−Metに対する単一標的抗体であるか、前記c−Metに対する抗原結合部位を有する1つのscFv−Fc断片と、c−Met以外の抗原に対する抗原結合部位を有するscFv−Fc断片とがFc部位で結合されたヘテロダイマー形態の二重特異キメラ蛋白質であってよい。この場合、前記c−Met以外の抗原は、EGFRであってよい。
【0095】
他の例において、前記二重特異キメラ蛋白質は、抗EGFR DARPinおよびc−Met以外の腫瘍関連蛋白質、例えば、各種シグナル伝達分子、各種受容体などからなる群より選択されたものに対するIgG形態またはscFv−Fc形態の抗体を含むものであってよい。前記シグナル伝達分子は、各種成長因子、例えば、EGF、PDGF、FGF、VEGFなどからなる群より選択されたものであってよい。前記受容体は、前記シグナル伝達分子と特異的に結合する受容体であって、例えば、EGFR、HER2、HER3などを含むErbBファミリー、PDGFR、FGFR、VEGFR、c−Metを除いたHGFRなどからなる群より選択されたものであってよい。
【0096】
例えば、前記IgG形態またはscFv−Fc形態の抗体は、以下からなる群より選択された抗原結合部位を有するものであってよい。
【0097】
(1)HER2に対する抗原結合部位:トラスツズマブ(Trastuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine:T−DM1)などからなる群より選択された抗HER2抗体の抗原結合部位、例えば、前記抗体の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変部位、軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(例えば、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2)、または配列番号113のアミノ酸配列を有する重鎖可変部位、配列番号114のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(この時、前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位は、前記ペプチドリンカーによるかよることなく連結)であってよい。
【0098】
<抗HER2抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号113)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS
<抗HER2抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号114)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKR
(2)HER3に対する抗原結合部位:配列番号115のアミノ酸配列を有する重鎖可変部位、配列番号116のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(この時、前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位は、前記ペプチドリンカーによるかよることなく連結)であってよい。
【0099】
<抗HER3抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号115)
QVQLQESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMSWVRQAPGKGLEWVANINRDGSASYYVDSVKGRFTISRDDAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDRGVGYFDLWGRGTLVTVSSAST
<抗HER3抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号116)
QSALTQPASVSGSPGQSITISCTGTSSDVGGYNFVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSDRPSGVSDRFSGSKSGNTASLIISGLQADDEADYYCSSYGSSSTHVIFGGGTKVTVLG
(3)抗EGGFR/抗HER3二重特異キメラ蛋白質:配列番号117のアミノ酸配列を有する重鎖可変部位、配列番号118のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部位、またはこれらの組み合わせ(この時、前記重鎖可変部位と軽鎖可変部位は、前記ペプチドリンカーによるかよることなく連結)であってよい。
【0100】
<抗EGFR/HER3抗体の重鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号117)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTLSGDWIHWVRQAPGKGLEWVGEISAAGGYTDYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARESRVSFEAAMDYWGQGTLVTVSS
<抗EGFR/HER3抗体の軽鎖可変部位のアミノ酸配列>(配列番号118)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQNIATDVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSEPEPYTFGQGTKVEIK
前記抗EGFR DARPinと腫瘍関連蛋白質に対する抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、EGFRの活性阻害だけでなく、他の腫瘍関連蛋白質の活性を同時に阻害することによって、より上昇した治療効果を得ることができる。より具体的には、前記抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、抗c−Met抗体の細胞内在化(internalization)および分解(degradation)活性によって、c−MetおよびEGFRの活性阻害だけでなく、c−MetおよびEGFRを分解させて総量を減少させることによって、より根本的な遮断を可能にする。したがって、前記抗EGFR DARPinと抗c−Met抗体を含む二重特異キメラ蛋白質は、従来の抗EGFR抗体に耐性が生じた患者へ適用時にも有効な効果を得ることができる。
【0101】
発明の他の側面は、前記二重特異キメラ蛋白質を有効成分として含む医薬組成物を提供する。他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質を有効成分として含む癌の予防および/または治療用医薬組成物を提供する。さらに他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質の薬学的有効量を、癌の予防および/または治療を必要とする患者に投与する段階を含む癌の予防および/または治療方法が提供される。前記癌の予防および/または治療方法は、前記投与する段階の前に、癌の予防および/または治療を必要とする患者を確認する段階を追加的に含むことができる。さらに他の例は、前記二重特異キメラ蛋白質の癌の予防および/または治療のための用途が提供される。前記二重特異キメラ蛋白質は、前記のような(a’)抗EGFR DARPin、および(b’)IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質、または(a’’)抗EGFR DARPin、および(b’’)IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせを含む二重特異キメラ蛋白質であってよい。
【0102】
前記癌は、EGFRおよび/またはc−Metの過発現(過生産)および/または異常な活性化に関連する癌であってよい。前記癌は、固形癌または血液癌であってよく、例えば、これに制限されないが、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜癌、皮膚癌、皮膚または眼球内黒色腫、直膓癌、肛門付近癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、肝細胞癌、胃腸癌、胃癌、すい臓癌、膠芽腫、頸部癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、陰門癌、甲状腺癌、および頭頸部癌、脳癌、骨肉腫などからなる群より選択された1種以上であってよい。特に、前記癌は、従来の抗癌剤、例えば、前記EGFRに対する拮抗剤に対して耐性が生じた癌であってよい。前記癌の予防および/または治療効果は、癌細胞の成長抑制だけでなく、癌細胞の移動、侵襲、転移などによる癌の悪化を抑制することも含む。前記治療可能な癌は、原発性癌と転移性癌を含むことができる。
【0103】
前記二重特異キメラ蛋白質は、薬学的に許容される担体、希釈剤、および/または賦形剤などと共に提供されてよい。
【0104】
前記薬学的に許容される担体は、抗体の製剤化に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどからなる群より選択された1種以上であってよいが、これに限定されるものではない。前記医薬組成物は、前記成分のほか、医薬組成物の製造に通常使用される希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択された1種以上を追加的に含むことができる。
【0105】
前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物は、経口または非経口で投与することができる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、および直腸内投与などで投与することができる。経口投与時、蛋白質またはペプチドは消化されることから、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、胃での分解から保護されるように剤形化されなければならない。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動可能な任意の装置によって投与されてよい。
【0106】
前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年令、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度、および反応感応性のような要因によって多様に処方できる。例えば、前記二重特異キメラ蛋白質および医薬組成物の1日投与量は、二重特異キメラ蛋白質の量を基準として、0.001〜100mg/kg、または0.02〜10mg/kgの範囲であってよい。用語「薬学的有効量」は、所望の効果、例えば、癌を予防または治療する上で効果を奏する量を意味する。
【0107】
前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物は、当該当業者が容易に実施可能な方法により、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することによって単位用量の形態で製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤、または乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤を追加的に含むことができる。
【0108】
また、前記医薬組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤とは順次的または同時に投与されてよい。
【0109】
一方、前記二重特異キメラ蛋白質または医薬組成物は、抗体または抗原結合断片を含むため、免疫リポソームとして剤形化されてよい。抗体を含むリポソームは、当業界で広く知られている方法により製造されてよい。前記免疫リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびポリエチレングリコール−誘導体化されたホスファチジルエタノールアミンを含む脂質組成物であって、逆相蒸発法によって製造できる。例えば、抗体のFab’断片は、ジスルフィド−交替反応によってリポソームに接合できる。ドキソルビシンのような化学療法剤が追加的にリポソーム内に含まれるとよい。
【0110】
前記医薬組成物の投与対象または前記予防および/または治療方法の投与対象患者は、哺乳類、例えば、ヒト、猿などの霊長類、またはラット、マウスなどのげっ歯類などであってよいが、これに制限されるものではなく、従来の抗癌剤、例えば、EGFRに対する拮抗剤(例えば、抗体)および/または抗c−Met抗体に対して耐性が生じた癌患者であってよい。
【0111】
先に説明したように、DARPinは、物性(例えば、pharmacokinetic(PK)properties)および体内安定性に優れ、従来の抗体、例えば、IgG形態の抗体と融合して二重特異キメラ蛋白質に作製される場合、DARPinが標的とする抗原を含む2種以上の抗原を同時に標的にすることができるだけでなく、IgG形態の抗体の物性および/または安定性を増進させることができる。このように、従来のIgG形態の抗体にDARPinを融合させることにより、従来の二重特異キメラ蛋白質の最も大きい問題とされていた安定性の問題を改善し、より増進した抗体効能を得ることができる。
【0112】
したがって、本発明の一例は、(a)DARPinを、(b)IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む抗体の効能増進方法を提供する。他の例は、(a’)抗EGFR DARPinを、(b’)IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む抗体の効能増進方法を提供する。さらに他の例は、(a’’)抗EGFR DARPinを、(b’’)IgG形態の抗c−Met抗体、scFv−Fc形態の抗c−Met抗体、またはこれらの組み合わせに連結させる段階を含む抗c−Met抗体の効能増進方法を提供する。
【0113】
前記抗c−Met抗体の効能増進は、2種以上の抗原を標的とすることによって得られる相乗効果、抗体の薬物としての物性、例えば、薬物動力学的な物性(pharmacokinetic(PK)properties)の増進、体内または体外安定性の増進、抗c−Met抗体に対する耐性の克服、抗c−Met抗体の副作用(agonism)の低減、またはこれらのすべてを意味するものであってよい。
【0114】
前記抗体の効能増進方法において、DARPin、抗EGFR DARPin、IgG形態の抗体、scFv−Fc形態の抗体、これらの連結形態などの具体的な内容は先に説明した通りである。
【0115】
他の例は、前記記載した二重特異キメラ蛋白質を暗号化する核酸分子を提供する。前記核酸分子は、適切なベクターに含まれている形態で提供されてよい。したがって、他の例は、前記核酸分子を含む組換えベクターを提供する。用語「ベクター」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段を意味する。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、およびバクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびアデノ−関連ウイルスベクターのようなウイルスベクターを含む。前記組換えベクターにおいて、前記蛋白質複合体をコーディングする核酸分子は、プロモーターに作動的に連結されてよい。用語「作動可能に連結された(operatively linked)」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味する。前記調節配列は、「作動可能に連結(operatively linked)」されることにより、他のヌクレオチド配列の転写および/または解読を調節することができる。前記組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクター、または発現のためのベクターとして構築されてよい。前記発現用ベクターは、当業界で植物、動物または微生物において外来の蛋白質を発現するのに使用される通常のものを使用することができる。前記組換えベクターは、当業界で公知の多様な方法により構築できる。
【0116】
他の例は、前記核酸または前記組換えベクターを含む(形質転換された)組換え細胞を提供する。前記ポリヌクレオチドまたはこれを含む組換えベクターの宿主細胞内への運搬(導入)は、当業界で広く知られている運搬方法を利用することができる。前記運搬方法は、例えば、宿主細胞が原核細胞の場合、CaCl
2方法または電気穿孔方法などを用いることができ、宿主細胞が真核細胞の場合には、微細注入法、カルシウムホスフェート沈殿法、電気穿孔法、リポソーム−媒介形質感染法、および遺伝子ボンバードメントなどを用いることができるが、これに限定しない。
【0117】
前記形質転換された宿主細胞を選別する方法は、選択標識によって発現する表現型を利用して、当業界で広く知られている方法により容易に実施することができる。例えば、前記選択標識が特定の抗生剤耐性遺伝子の場合には、前記抗生剤が含まれている培地で形質転換体を培養することにより、形質転換体を容易に選別することができる。
【0118】
前記二重特異キメラ蛋白質は、前記核酸分子を前記細胞で発現(例えば、前記細胞を前記核酸分子の発現を許容する条件下で培養)させる段階、および、選択的に、前記発現した二重特異キメラ蛋白質を一般的な方法で分離および/または精製する段階によって生産されてよい。したがって、一例は、前記核酸分子を前記細胞で発現させる段階を含む前記二重特異キメラ蛋白質の製造方法を提供する。