【0015】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)モータの回転伝達をオルダムカップリングを用いてスピンドルを回転させる機構とする。
(2)リニアレールを用いることにより水平併進振動によって計測を行なう機構とする。
(3)鉛直方向荷重に対しリニアレールによって支持する構造とする。
(4)これらに対しモータをスピンドルに直結する状態、すなわちモータ部と筐体部が連動して振動する場合には、機構部全体の慣性質量が増大し、計測困難や精度悪化を招き、実用上問題が発生する虞がある。
(5)本発明ではオルダムカップリングを用いるが、偏心を許容し且つ等速で回転伝達が可能なカップリングであればオルダムカップリングに含むものとする。
(6)下記する実施例に付属する図面はイメージしやすいように模式的に表したものであり、用途としては計測開始のゼロ点出しと、構造体をバネ・マス系にし、且つ実用上低回転周波数での計測を行なうためバネは柔らかいものとする。
(7)アンバランスによる振幅はTVDの場合では、±1ミリ以内とする。
(8)変位はギャップセンサによって検出を行なう。
(9)回転はサーボモータのエンコーダにより検知する。
(10)検出された変位データをFFTにかけ、アンバランスによる変位のみを抽出し、このデータをモータの回転波形と組み合わせ、どの角度にて振幅が最大であるかを計算させることで、アンバランス箇所を算出する。
【実施例】
【0016】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0017】
図1及び
図2に示すように、当該実施例に係る回転アンバランス測定装置11は、測定試料である回転体(試料とも称する、
図4参照)51における回転アンバランス部(重心オフセット部)Pの円周上位置及び大きさを測定するために用いられる装置であって、脚部21a及び天板部21bを備える静止テーブル21と、静止テーブル21の天板部21b上に設置された併進振動用リニアレール22と、併進振動用リニアレール22に沿って直線的に往復動可能とされた移動テーブル23と、移動テーブル23に軸受25を介して回転可能に接続されたスピンドル31と、スピンドル31の上端部に設けられた回転体保持部32と、スピンドル31の下方に配置されスピンドル31を回転させる回転駆動源41と、回転駆動源41の駆動軸41a及びスピンドル31間の接続部に設けられたオルダムカップリング42と、移動テーブル23の移動周期及び移動量を測定するギャップセンサよりなるテーブル変位測定部(図示せず)と、回転体保持部32に保持された回転体51の回転位置を測定するロータリエンコーダよりなる回転位置測定部(図示せず)と、移動テーブル23の初動位置を規定する弾性要素(センタリングバネ)よりなるテーブル初動位置規定部43とを有している。測定試料である回転体51としては例えば
図4に示すような、ハブ52、ゴムリング53および質量体リング(プーリ)54の組み合わせよりなるダイナミックダンパであって、このような製品には製作直後、回転アンバランスが存在するため、その円周上位置及び大きさを測定し、ドリルによる穿孔などによって、回転アンバランスを解消する。
【0018】
併進振動用リニアレール22は、互いに平行に並べられた2本の直動式リニアレール本体22aを備え、各リニアレール本体22aに2個ずつリニアレールガイ22bを組み付けたものであって、都合4個のリニアレールガイド22bを平面田の字状に並べ、その上に平板状の移動テーブル23が水平に固定されている。リニアレールガイド22b及び移動テーブル23よりなる組立移動体は、自走はせず、外部から荷重が作用するとこれを駆動力としてリニアレール本体22aに沿って移動する。また、移動テーブル23に固定した連結板23aと静止テーブル21の天板部21bとの間にゴムマウント状のセンタリングバネよりなるテーブル初動位置規定部43が介装されているので、リニアレールガイド22b及び移動テーブル23よりなる組立移動体は外部から荷重が作用するとテーブル初動位置規定部43を弾性変形させつつ移動し、荷重が作用しなくなるとテーブル初動位置規定部43が弾性復帰するので、その復元力を駆動力として初動位置に復帰する。
【0019】
移動テーブル23の平面中央に貫通穴が設けられ、貫通穴にフランジ付き円筒体よりなる筐体部24が差し込み固定され、この筐体部24の内周に軸受25を介してスピンドル31が回転可能に貫挿保持され、スピンドル31の上端部に円盤状の回転体保持部32が一体に設けられている。円盤状の回転体保持部32はその上に回転体51の種類ごとの固定治具(図示せず)を設置し、この治具をもって回転体51を同軸上に固定する。
【0020】
回転駆動源41は、具体的には回転モータよりなり、静止テーブル21の下段テーブル21cに固定され、上向きの駆動軸41aを備え、この駆動軸41aがオルダムカップリング42を介してスピンドル31と接続されている。オルダムカップリング42は、駆動軸42a及びスピンドル31の偏心を許容し且つ等速で回転トルクを伝達可能なカップリングであって、このような機能を備えていればその名称の如何を問わず本発明におけるオルダムカップリング42の範疇に属するものとする。以下、回転駆動源41をモータとも称し、駆動軸41aをモータシャフトとも称する。
【0021】
上記したように当該実施例では、静止テーブル21上にリニアレール本体22aを設置し、リニアレール本体22a上にリニアレールガイド22bを配置し、さらに移動テーブル23をリニアレールガイド22bへ固定している。したがって移動テーブル23の運動軌跡は、テーブル水平面上をリニアレール22によって規制された方向のみ、併進運動が可能となる。また移動テーブル23の平面中央に筐体部24を固定し、筐体部24を貫通するようにスピンドル31を設置し、筐体部24及びスピンドル31間に軸受25を介装したため、スピンドル31は独立して回転し、アンバランスによる遠心力を移動テーブル23へ伝達する。
【0022】
スピンドル31上部の回転体保持部32に、各試料51の治具を固定する。
図1及び
図2では簡明な例としてセンターボルトを表記しているが、エアチャック等によって自動機構による固定を行なうことも可能である。
【0023】
スピンドル31下部にオルダムカップリング32によって連結されたモータ41が静止テーブル21の下段テーブル21cに固定されている。ここでオルダムカップリング32を用いることによってその特性上、回転体51のアンバランスによる遠心力が発生して、スピンドル31の鉛直方向軸とモータシャフト41aの鉛直方向の軸がずれるような、いわゆる偏心状態でも等角速度で回転を伝達できるため、移動テーブル23は安定した併進往復動を行なうことが可能である。
【0024】
また、静止テーブル21と移動テーブル23間にセンタリングバネよりなるテーブル初動位置規定部41が介装されているので、測定開始前には自動でスピンドル31がセンタリングできる機構になっている。
【0025】
上記構成の回転アンバランス測定装置11においては、測定試料である回転体51を回転体保持部32に装着し、回転駆動源41を駆動して回転トルクをスピンドル31に伝達し、スピンドル31、回転体保持部32及びこれに保持された回転体51を回転させる。回転体51に回転アンバランスが存在しなければ移動テーブル23は併進振動用リニアレール22上を移動しないところ、回転体51に回転アンバランスが存在すると、偏った遠心力Fが発生するため、これにより移動テーブル23が併進振動用リニアレール22上を移動し、回転体51の回転とともに往復動を繰り返す。そしてこの移動テーブル23の往復動の周期及び振幅並びに回転体51の回転位置をギャップセンサよりなるテーブル変位測定部及びロータリエンコーダよりなる回転位置測定部にて測定することにより、移動テーブル23の往復動の周期及び回転体51の回転位置から回転体51における回転アンバランスの円周上位置を特定し、移動テーブル23の往復動の振幅(ピーク値)から回転アンバランスの大きさを特定する。
【0026】
次に、本発明の実施例に係る回転アンバランス測定装置11の特徴を、上記従来技術と比較しつつ説明する。
【0027】
(1)先ず、上記従来技術において、ベルト駆動によって、振動方向へ変位した場合にベルト張力が変化した場合に生じる回転変動は、本発明実施例では、オルダムカップリング42を使用しているため、併進振動中においても安定した駆動をスピンドル31へ伝達することが可能となる。
【0028】
(2)上記従来技術に係る垂直方向トーションバー方式においては、校正試料は単純に試料51の質量や慣性モーメントを合わせるのではなく、この方式に設置した状態における校正重量および揺動運動中心点と校正重心点間距離を考慮した慣性モーメント、すなわちこの方式における機構部としての慣性モーメントを一致させる必要がある。これに対し本発明実施例では、併進振動機構を導入しているため、校正試料は各試料51と重量のみ一致させれば良い。そのため様々な試料51の計測を行なう場合や、新規の試料51の校正試料の手配において容易に製作することが可能となる。
【0029】
(3)上記従来技術に係る水平方向トーションバー方式においては、板バネの曲げ方向によって筐体部68を保持していたが、本発明実施例では、リニアレール22にてテーブル23の水平方向の変位規制を行なうとともに、垂直方向の荷重支持を可能としている。
【0030】
(4)回転方式について
従来技術における試料回転方式は
図3に示したように、駆動プーリ64がベルト65を介して受動プーリ66を駆動させているため、計測時に試料51を回転させた場合、そのアンバランスによって、
図6に示したように駆動プーリ64の中心点を回転中心として、受動プーリ66および筐体部68は振り子運動を行なう。このときベルト張力は刻々と変化しており、つまり回転変動を生じながら振り子運動を行なっていることになる。このような回転変動は、アンバランスとは別の振動を併発させる要因となり、アンバランス計測精度の悪化を招いてしまう。これに対し本発明実施例における試料51の回転方式は、
図1及び
図2に示したようにモータ41による駆動力をオルダムカップリング42を介してスピンドル31へ伝達し、試料51を回転させる。ここでオルダムカップリング42の特性上、アンバランスの遠心力によって併進往復動を行なうと、鉛直方向におけるモータ41の軸とスピンドル31の軸がずれる、いわゆる偏心状態となるが、モータ41の駆動は等角速度にてスピンドル31へ伝達を行なうことが可能となるため、従来技術にあるようなアンバランスとは別の振動が発生することはなく、計測精度の向上が期待できる。
【0031】
(5)校正試料について
従来技術における垂直方向トーションバー方式(懸垂式揺動運動)における校正試料の条件として、質量および校正試料をこの方式の設備に設置した状態にて、計測機構部における慣性モーメントを一致させる必要がある。ここで慣性モーメントについては
図5に示したように、垂直方向トーションバー方式(懸垂式揺動運動)における機構的な特性から、各試料51によって鉛直方向における重心位置は変化するため、鉛直方向重心位置と揺動回転中心点間との距離を考慮したうえで、質量を設定しなければならない。これに対し本発明実施例における校正試料は
図1及び
図2に示したように、筐体部24および試料51の変位方向をリニアレール22を導入することによって、アンバランスによる変位を水平併進方向へと規制を行なっているため、校正試料は質量のみを一致させれば良く、よって従来方式と比較した場合に容易に校正試料の製作や設定などが可能である。
【0032】
(6)筐体部支持方法について
従来技術の水平方向トーションバー方式(水平式揺動運動)における筐体部68の支持方法は
図5に示したように、板バネの長手方向における曲げによって支持を行なっている。ここで一般的にアンバランス計測設備を生産ラインにて導入する場合には、計測後アンバランス量を補正するためにドリル加工できる機構を計測設備に追加している。そのため水平方向トーションバー方式(水平式揺動運動)にてドリル加工を行なう場合、板バネの曲げだけによって支持することは不十分であるため、加工時における荷重をアシストする機構の追加が必要となってくる。これに対し本発明実施例における支持方式は
図1及び
図2に示したように、リニアレール22によって鉛直方向の荷重支持を行なうことが可能であるため、水平方向トーションバー方式(水平式揺動運動)のように、荷重アシスト機構の導入は不要である。
【0033】
したがって本発明実施例によれば、上記従来技術と比較して回転変動の現象による計測精度の向上および、従来技術方式における欠点を払拭した計測設備であると云える。