(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記状態推移確率算出部は、基準時点における前記対象者の状態を第1引数とし、基準時点よりも後の時点における前記対象者の状態を第2引数とした状態推移行列を導出し、
前記予防サービス効果算出部は、前記予防サービスの実施による通院状況の変化を示す値を含む予防サービス効果行列を前記状態推移行列に乗算することで、予防サービスの効果を算出する、
請求項2記載の予防サービス効果評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の予防サービス効果評価装置、および予防サービス効果評価プログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1のハードウェア構成と通信環境を示す図である。予防サービス効果評価装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ10と、記憶装置20と、ドライブ装置30と、入出力装置40と、通信インターフェース50とを備える。
【0009】
記憶装置20は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどを含む。記憶装置20には、プロセッサ10が実行するプログラムの他、予防サービス効果評価装置1が処理に用いる各種情報などが格納される。ドライブ装置30には、プログラムや各種情報を記憶した可搬型記憶媒体が装着される。入出力装置40は、キーボードやマウス、タッチパネル等の入力デバイス、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electroluminescence)表示装置などの表示装置を含む。
【0010】
通信インターフェース50は、ネットワークNWに接続するためのネットワークカードなどを含む。ネットワークNWは、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)などの通信ネットワークである。ネットワークNWには、予防サービス効果評価装置1に情報を提供する情報提供元装置70、予防サービス効果評価装置1からサービス提供を受ける端末装置80などが接続される。
【0011】
プロセッサ10が実行するプログラムは、予防サービス効果評価装置1の出荷時に予め記憶装置20に格納されていてもよいし、ドライブ装置30に装着された可搬型記憶媒体が記憶するものをインストールしてもよい。また、プロセッサ10が実行するプログラムは、ネットワークNWを介して他の装置からダウンロードされてもよい。
【0012】
なお、本実施形態では、予防サービス効果評価装置1がクラウドサービスを提供する装置であるものとして説明するが、予防サービス効果評価装置1は、利用者が直接操作することで評価結果を出力する装置であってもよい。
【0013】
図2は、予防サービス効果評価装置1の機能構成を示す図である。予防サービス効果評価装置1は、プロセッサ10がプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部として、データ取得部11と、状態判定部12と、状態推移確率算出部13と、予防サービス効果算出部14とを備える。また、予防サービス効果評価装置1は、記憶装置20内において、パラメータ格納部21と、加入者データ格納部22と、レセプトデータ格納部23と、健診データ格納部24と、予防サービス関連データ格納部25と、状態推移モデル格納部26とを備える。
【0014】
データ取得部11は、例えば、端末装置80に対して利用者が入力した対象年度および対象疾病の情報を端末装置80から通信部インターフェース50およびネットワークNWを介して受信し、受信した情報をパラメータ格納部21に格納する。また、データ取得部11は、例えば、加入者データ格納部22、レセプトデータ格納部23、健診データ格納部24、および予防サービス関連データ格納部25に格納されるデータを情報提供元装置70から通信部インターフェース50およびネットワークNWを介して受信する。そして、データ取得部11は、例えば対象者を共通のID(識別情報)で対応付ける等、処理に適した形式に整えた上で、それぞれの格納部に格納する。情報提供元装置70は、例えば、健康保険組合や医療機関、公的機関などが管理するデータベースサーバである。なお、これらに代えて(または、加えて)、データ取得部11は、入出力装置40に対して入力されたデータを各格納部に格納してもよい。
【0015】
状態判定部12は、レセプトデータや健診データなど、医療機関の利用状況を示すデータに基づいて、対象者の状態を判定する。対象者の状態には、未受診、受診といった通院状況を示す状態が含まれる。状態推移確率算出部13は、状態判定部12により判定された対象者の状態を、例えば年度間で比較し、ある状態から他の状態に推移した確率を算出する。予防サービス効果算出部14は、予防サービスの効果を算出する。これらの機能部の機能については、以降でより詳細に説明する。
【0016】
パラメータ格納部21には、状態推移モデルの生成の基準となる対象年度、および処理対象となる対象疾病の情報が格納される。加入者データ格納部22には、対象年度毎に、健康保険組合への加入者のデータが格納される。
図3は、加入者データ格納部22に格納される加入者データの一例を示す図である。図中、「個人ID」は、対象者の識別情報である。また、「脱退フラグ」は、例えば、当該対象年度において健康保険組合から脱退した場合に1が、健康保険組合への加入が維持されている場合に0が、それぞれ設定されるフラグである。
【0017】
レセプトデータ格納部23には、レセプトデータが格納される。レセプトデータとは、医療機関が保険者に請求する医療報酬の明細書であり、受診者が受けた診療に関して記述したものである。レセプトデータは、例えば、受診者の氏名、診療年月、受診施設、診断された疾病名、診療実日数、診療の種類、請求点数などを含む。レセプトデータを確認することにより、月を単位として、各対象者が指定月において受けた診療の種類と、その回数を確認することができる。
【0018】
健診データ格納部24には、対象年度毎に、健康診断の結果に関する健診データが格納されている。
図4は、健診データ格納部24に格納される健診データの一例を示す図である。
【0019】
予防サービス関連データ格納部25には、予防サービス関連データが格納される。予防サービス関連データとは、種々の疾病重症化予防サービスの実施に関連するデータであり、例えば(1)予防サービスとしての受講を促す通知が行われたか否か、(2)通知の結果として受講がなされたか否か、を対象者毎に格納したデータである。状態推移モデル格納部26には、例えば、予防サービス効果評価装置1の処理結果としての状態推移モデルが格納される。
【0020】
以下、予防サービス効果評価装置1により実行される処理の流れについて説明する。
図5は、第1の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1により実行される全体処理の流れを示すフローチャートである。まず、状態判定部12が、パラメータ格納部21に格納されているパラメータの中から、状態推移モデルの生成の基準となる対象年度、および処理対象となる対象疾病の情報を読み込む(ステップS100)。以下の説明では、対象疾病が糖尿病であるものとして説明する。
【0021】
状態判定部12は、加入者データ格納部22から対象年度における健康保険組合への加入者のデータを読み込む(ステップS102)。次に、状態判定部12は、ステップS102において読み込まれた各加入者について、対象年度におけるレセプトデータを、レセプトデータ格納部23から読み込む(ステップS104)。次に、状態判定部12は、ステップS102において読み込まれた各加入者について、対象年度に実施された健康診断に関するデータのうち、ステップS100で読み込まれた対象疾病に関するデータを、健診データ格納部24から読み込む(ステップS106)。検査値は、例えば糖尿病に関係するHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)である。これらのデータは、例えば、HDDやフラッシュメモリ等の補助記憶装置から読み出され、RAM等の作業用領域に展開されて後述の処理に用いられる。
【0022】
次に、状態判定部12は、ステップS102において読み込んだ対象年度の加入者から、所定の順番に従って一人の加入者を抽出する(ステップS108)。このとき、抽出可能な加入者が存在しない場合、ステップS112に進む。抽出可能な加入者が存在する場合、状態判定部12は、加入者状態判定処理を行う(ステップS110;
図6)。
【0023】
図5のステップS112以降の処理の説明に先立って、加入者状態判定処理について説明する。状態判定部12は、対象者の状態を、例えば、「未受診」、「受診」、「軽症」、「中症」、「重症」、「健常」、「脱退」という7つの状態のいずれかに分類する。「未受診」とは、対象疾病に罹患しているにも関わらず通院していない状態をいう。「受診」とは、対象疾病に罹患している可能性があり、検査等のために通院したが治療は行われていない状態をいう。「軽症」とは、対象疾病に罹患しているがその症状は軽度であり、軽度な治療(例えば投薬治療)が行われている状態をいう。「中症」とは、対象疾病に罹患しているがその症状は中度であり、中度な治療(例えばインシュリン注射)が行われている状態をいう。「重症」とは、対象疾病に罹患しており、その症状は重度であり、重度な治療(例えば人工透析治療)が行われている状態をいう。「健常」とは、対象疾病に罹患していない状態をいう。「脱退」とは、健康保険組合を脱退している状態をいう。これらの状態は、例えば、ステップS108において抽出された加入者の対象年度における、加入者データ、レセプトデータ、健診データを参照することにより判定される。
【0024】
図6は、状態判定部12により実行される加入者状態判定処理の流れを示すフローチャートである。まず、状態判定部12は、ステップS102で読み込んだ加入者のデータを参照し、対象者が健康保険組合に加入しているか否かを判定する(ステップS200)。対象者が健康保険組合に加入していない場合、状態判定部12は、対象者の状態を「脱退」と判定し(ステップS202)、本フローチャートの処理を終了する。
【0025】
対象者が健康保険組合に加入している場合、状態判定部12は、ステップS104で読み込んだレセプトデータを参照し、以下の処理を行う。状態判定部12は、対象者の対象年度におけるレセプト件数(レセプトデータの件数)が閾値N1以上であるか否かを判定する(ステップS204)。閾値N1は、任意の正の整数である。
【0026】
レセプト件数が閾値N1以上である場合、状態判定部12は、対象者が対象年度において重症治療を受けたか否かを判定する(ステップS206)。重症治療を受けた場合、状態判定部12は、対象者の状態を「重症」と判定し(ステップS208)、本フローチャートの処理を終了する。
【0027】
重症治療を受けていない場合、状態判定部12は、対象者が対象年度において中症治療を受けたか否かを判定する(ステップS210)。中症治療を受けた場合、状態判定部12は、対象者の状態を「中症」と判定し(ステップS212)、本フローチャートの処理を終了する。
【0028】
中症治療を受けていない場合、状態判定部12は、対象者が対象年度において軽症治療を受けたか否かを判定する(ステップS214)。軽症治療を受けた場合、状態判定部12は、対象者の状態を「軽症」と判定し(ステップS216)、本フローチャートの処理を終了する。
【0029】
軽症治療を受けていない場合、状態判定部12は、対象疾病の治療に関してステップS106で読み込んだデータを参照し、対象者の対象年度における対象疾病に関係する検査値が、閾値A1以上であるか否かを判定する(ステップS218)。検査値が閾値A1以上である場合、状態判定部12は、対象者の状態を「未受診」と判定し(ステップS222)、本フローチャートの処理を終了する。検査値が閾値A1未満である場合、状態判定部12は、対象者の状態を「受診」と判定し(ステップS220)、本フローチャートの処理を終了する。
【0030】
一方、ステップS204においてレセプト件数が閾値N1未満であると判定された場合、状態判定部12は、対象者の対象年度における対象疾病に関係する検査値が、閾値A2以上であるか否かを判定する(ステップS224)。閾値A2は、閾値A1と同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。検査値が閾値A2以上である場合、状態判定部12は、対象者の状態を「未受診」と判定し(ステップS222)、本フローチャートの処理を終了する。検査値が閾値A2未満である場合、状態判定部12は、対象者の状態を「健常」と判定し(ステップS226)、本フローチャートの処理を終了する。
【0031】
図5に戻り、ステップS112以降の処理について説明する。ステップS110の処理(
図6のフローチャートの処理)は、ステップS102において読み込まれた全ての加入者について行われる。全ての加入者についての処理を終了すると、ステップS112に進む。状態判定部12は、このフローチャートが実行される中で、対象年度を更新済であるか否かを判定する(ステップS112)。対象年度を更新済でない場合、状態判定部12は、対象年度を1つ進めて更新する(ステップS114)。そして、状態判定部12は、ステップS102〜S110までの処理を、更新した対象年度について実行する。この結果、当初設定された対象年度と、その次の年の対象年度との2年分について、それぞれ対象者の状態が判定されることになる。
【0032】
こうして2年分の加入者(対象年度で加入者であり、次の年度で脱退した者を含む)の状態が判定されると、状態推移確率算出部13は、以下の処理で積算される状態推移数を初期化する(ステップS116)。状態推移数は、例えば、式(1)で示す状態推移数行列Oの要素として積算される。状態推移数行列Oは、対象年度の状態を第1引数、対象年度の次の年度の状態を第2引数とした行列である。ステップS116の「初期化」とは、例えば、この行列の要素に対応するメモリ領域の値を全てゼロにすることを意味する。式中、nは「受診」、hは「未受診」、mは「軽症」、iは「中症」、dは「重症」、fは「健常」、eは「脱退」を、それぞれ示している。例えばn
hmは、対象年度から次の年度にかけて状態h「未受診」から状態n「受診」に推移した加入者の数を示している。
【数1】
【0033】
次に、状態推移確率算出部13は、ステップS102において読み込んだ対象年度の対象者から、所定の順番に従って一人の加入者を抽出する(ステップS118)。このとき、抽出可能な加入者が存在しない場合、ステップS124に進む。抽出可能な加入者が存在する場合、状態推移確率算出部13は、ステップS118において抽出した加入者について、対象年度の次の年度における状態が判定されているか否かを判定する(ステップS120;次年度判定)。対象年度の次の年度における状態が判定されている場合、状態推移確率算出部13は、前述した状態推移数行列Oにおける該当要素に1を加算し(ステップS122)、ステップS118に戻る。また、対象年度の次の年度における状態が判定されていない場合も、ステップS118に戻る。このような処理を、対象年度における全ての加入者について実行する。
【0034】
抽出可能な加入者が存在しなくなると、状態推移確率算出部13は、状態推移確率を算出する(ステップS124)。状態推移確率は、例えば、式(2)で示す状態推移確率行列Pによって表される。式中、p
xyは、対象年度に状態xと判定された加入者のうち、次の年度に状態yに推移した加入者の割合を示している。状態推移確率算出部13は、式(1)に示す状態推移数行列Oにおいて、行方向の合計値を求め、各行について各要素を行方向の合計値で除算することで、状態推移確率行列Pを導出する。状態推移確率行列Pは、行方向に加算していくと合計値が1になるようになっている。
図7は、状態推移確率行列Pの各要素が示す事象を概念的に示す図である。
【数2】
【0035】
状態推移確率行列Pが求められると、予防サービス効果算出部14は、予防サービス関連データ格納部25から、予防サービス関連データを読み込む(ステップS126)。そして、予防サービス効果算出部14は、ステップS126で読み込んだ予防サービス関連データに基づいて、予防サービスの効果算出のための演算を行う(ステップS128;
図8)。
【0036】
図8は、予防サービス効果算出部14により実行される予防サービス効果算出処理の流れを示すフローチャートである。まず、予防サービス効果算出部14は、ステップS126で読み込んだ予防サービス関連データに基づいて、ステップS118において抽出した加入者から、予防サービスを通知した予防サービス通知者を一人抽出する(ステップS300)。予防サービス通知者を一人抽出すると、予防サービス効果算出部14は、抽出した予防サービス通知者が、予防サービスを受講したか否かを判定する(ステップS302)。予防サービス効果算出部14は、予防サービス通知者が予防サービスを受講した場合、受講していない場合のいずれも、予防サービス通知者の行動変容があったか否かを判定する(ステップS304、S310)。
【0037】
予防サービス効果算出部14は、例えば、予防サービスが通知されてから(通知月を含めてもよいし、含めなくてもよい)所定期間(例えば数か月)以内のレセプト件数が、閾値以上である場合に、行動変容があったと判定する。その結果、予防サービス効果算出部14は、予防サービス通知者を、「受講/変容あり」、「受講/変容無し」、「未受講/変容あり」、「未受講/変容無し」の4つに分類する(ステップS306、S308、S312、S314)。
【0038】
全ての予防サービス通知者を抽出すると、予防サービス効果算出部14は、状態推移率αを算出する(ステップS316)。状態推移率αは、「受講/変容あり」に分類された予防サービス通知者の数n
crと、「未受講/変容あり」に分類された予防サービス通知者の数n
cnとの和を、予防サービス通知者の全体数n
allで除算して求められる(式(3)参照)。このようにして求められる状態推移率αは、予防サービス通知者のうち、予防サービスの通知によって行動に変容があった人の割合を示す値となる。
【数3】
【0039】
なお、状態推移率αは、「受講/変容あり」に分類された予防サービス通知者の数n
crを、予防サービス通知者の全体数n
allで除算して求めてもよい(式(4)参照)。このようにして求められる状態推移率αは、予防サービス通知者のうち、予防サービスの通知および受講によって行動に変容があった人の割合を示す値となる。
【数4】
【0040】
次に、予防サービス効果算出部14は、対象年度における状態人数比rを算出する(ステップS318)。状態人数比rは、式(5)で示すベクトルによって表される。ベクトル中の各要素は、対象年度における全対象者に対する、各状態の人数の割合を示している。式中、r
nは「受診」である人の割合であり、r
hは「未受診」である人の割合であり、r
mは「軽症」である人の割合であり、r
iは「中症」である人の割合であり、r
dは「重症」である人の割合であり、r
fは「健常」である人の割合であり、r
eは「脱退」である人の割合を、それぞれ示している。
【数5】
【0041】
ここで、予防サービス通知者(式(4)を採用する場合は予防サービス受講者)のみについて求めた仮想的な状態人数比r
aを考える。予防サービス通知の影響が、「受診」である人の割合r
nと、「未受診」である人の割合r
hに現れると仮定すると、状態人数比r
aは、式(6)で表されることになる。
【数6】
【0042】
ここで、予防サービス効果算出部で算出する予防サービス効果行列Qについて説明する。予防サービス効果算出部14は、状態人数比rに乗算することで状態人数比r
aが得られる予防サービス効果行列Qを算出する(ステップS322)。予防サービス効果行列Qは、関係式Q・r=r
aを満たす行列である。予防サービス通知の影響が、「受診」である人の割合r
nと、「未受診」である人の割合r
hに現れ、且つ予防サービス効果行列Qの行方向の合計値が1であるという正規化条件を満たすように定める場合、予防サービス効果行列Qは式(7)で表される。
【数7】
【0043】
従って、この式(7)をq
nn及びq
hhについて解くことにより、式(8)という関係を得ることができる。
【数8】
【0044】
そこで、改めてq
nn及びq
hhを予防サービス効果率qとして置くことにより、効果行列を式(9)に記載するように置くことができる。
【数9】
【0045】
以上により、予防サービス効果算出部14は、予防サービス効果率qを算出(ステップS320)した後で、予防サービス効果行列Qを算出することができる。
【0046】
図5の説明に戻る。予防サービス効果行列Qを算出すると、予防サービス効果算出部14は、例えば、予防サービス効果行列Qを状態推移確率行列Pに乗算することで、予防サービスの効果を反映した状態推移確率行列Paを、状態推移モデルとして算出し(ステップS130)、状態推移モデル格納部26に格納する。なお、予防サービス効果算出部14は、予防サービスの効果を反映した状態推移確率行列Paと共に、予防サービスの効果を反映しない状態推移確率行列Pを、状態推移モデルとして状態推移モデル格納部26に格納してもよい。そして、予防サービス効果評価装置1は、例えば端末装置80に、状態推移モデルを出力する(ステップS132)。
【0047】
この状態推移確率行列Paは、予防サービスの効果を表す情報である。例えば、状態推移確率行列Paから状態推移確率行列Pを減算することで、予防サービスの効果が状態推移確率のどの部分に現れるかを定量的に評価することができる。また、状態推移確率行列Paを年数分にわたりに乗算することで、2年後、3年後、…といった将来の状態推移確率行列Paを算出することができる。例えば、5年後の状態推移確率行列Paは、Pa
5で求められる。
【0048】
また、予防サービス効果算出部14は、状態推移確率行列Paに代えて(または、加えて)、他の指標値を、予防サービスの効果として出力してもよい。例えば、予防サービス効果算出部14は、状態推移率αを、式(10)〜(12)に示すように、サービスの良し悪しを表すサービス効果率βとサービスの実施の規模を表すサービス対象者率γとに分解して表現し、これらの指標値を出力することにより、サービスの効果とサービスの規模を勘案した評価を行うこともできる。
【数10】
【数11】
【数12】
【0049】
以上説明した第1の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1によれば、医療機関の利用状況を示す加入者データ、レセプトデータ、および健診データと、予防サービスの実施に関連するデータとを取得し、取得したデータに基づいて、予防サービスの実施による通院状況の変化を示す値(状態推移率α、予防サービス効果率q)を導出し、これらに基づく予防サービス効果行列Qを用いて予防サービスの効果を算出するため、予防サービスの効果を定量的に評価することができる。
【0050】
また、状態推移確率行列Pに予防サービス効果行列Qを乗算することで状態推移確率行列Paを求めるため、予防サービスに起因する状態推移確率の変化という、予防サービスの効果を定量化する上で有用な情報を得ることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。
図9は、第2の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1Aの機能構成を示す図である。第2の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1Aは、第1の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1が備える構成要素に加えて、状態予測部15と、状態予測結果比較部16と、状態予測結果格納部27と、状態比較結果格納部28とを備える。第2の実施形態において、パラメータ格納部21には、予測を行う期間(予測期間)の情報が格納される。
【0052】
状態予測部15は、対象年度から予測期間経過した年度における、予防サービスの効果を反映した状態人数と、予防サービスの効果を反映しない状態人数とを算出する。状態予測結果比較部16は、予防サービスの効果を反映した状態人数と予防サービスの効果を反映しない状態人数とを比較した結果を算出する。状態予測結果格納部27には、状態予測部15による処理結果が格納され、状態比較結果格納部28には、状態予測結果比較部16による処理結果が格納される。
【0053】
図10は、第2の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1Aにより実行される全体処理の流れを示すフローチャートである。まず、状態判定部12が、パラメータ格納部21に格納されているパラメータの中から、状態推移モデルの生成の基準となる対象年度、および処理対象となる対象疾病、および予測期間の情報を読み込む(ステップS400)。次に、状態判定部12は、加入者データ格納部22に格納されている、対象年度における健康保険組合への加入者のデータを読み込む(ステップS402)。次に、状態判定部12は、ステップS102において読み込まれた各加入者について、対象年度におけるレセプトデータを、レセプトデータ格納部23から読み込む(ステップS404)。次に、状態判定部12は、ステップS102において読み込まれた各加入者について、対象年度に実施された健康診断に関するデータのうち、ステップS100で読み込まれた対象疾病に関するデータを、健診データ格納部24から読み込む(ステップS406)。これらのデータは、例えば、HDDやフラッシュメモリ等の補助記憶装置から読み出され、RAM等の作業用領域に展開されて後述の処理に用いられる。
【0054】
次に、状態判定部12は、ステップS402において読み込んだ対象年度の加入者から、所定の順番に従って一人の加入者を抽出する(ステップS408)。このとき、抽出可能な加入者が存在しない場合、ステップS414に進む。抽出可能な加入者が存在する場合、状態判定部12は、加入者状態判定処理を行う(ステップS410)。加入者状態判定処理としては、第1の実施形態と同様、
図6のフローチャートに示す処理が行われる。加入者判定処理の結果は、状態予測部15により、対象年度において各状態に属する加入者の状態人数として加算する処理が行われる(ステップS412)。ステップS408〜S412の処理を、対象年度におけるすべての加入者に対して実行することにより、対象年度において各状態に所属する加入者の状態人数が算出される。各状態に属する加入者の状態人数は、状態人数ベクトルNとして表される(式(13)参照)。式中、n
xは、状態xに所属する加入者の人数を表している。
【数13】
【0055】
次に、状態予測部15は、状態推移モデルとしての、予防サービスの効果を反映しない状態推移確率行列Pと、予防サービスの効果を反映した状態推移確率行列Paとを状態推移モデル格納部26から読み込む(ステップS414)。次に、状態予測部15は、ステップS408〜S412で算出した状態人数を、状態人数の初期状態として設定する(ステップS416)。
【0056】
次に、状態予測部15は、設定年度の次年度における予防サービスの効果を反映した状態人数を、状態人数ベクトルNと状態推移確率行列Paの積N
TPaを求めることで算出する(ステップS418)。ここで、上付き文字のTは転置を表している。設定年度とは、初期状態として対象年度が設定され、ステップS418およびステップS420の処理が実行される度に1年繰り上げられる年度である。
【0057】
次に、状態予測部15は、設定年度の次年度における予防サービスの効果を反映しない状態人数を、状態人数ベクトルNと状態推移確率行列Pの積N
TPを求めることで算出する(ステップS420)。
【0058】
次に、状態予測部15は、予測期間分の算出が完了したか否かを判定する(ステップS422)。予測期間が例えば5年である場合、状態予測部15は、ステップS418およびステップS420の処理によって求められた状態人数を新たな状態人数とし、状態推移確率行列PaまたはPを乗算することを、5回繰り返し実行する。これによって、状態予測部15は、対象年度から予測期間y経過した年度における、予防サービスの効果を反映した状態人数N
TPa
yと、予防サービスの効果を反映しない状態人数N
TP
yとを算出することができる。これらの値は、状態予測結果格納部27に格納される。
【0059】
次に、状態予測結果比較部16は、予防サービスの効果を反映した状態人数N
TPa
yと、予防サービスの効果を反映しない状態人数N
TP
yとを比較し(ステップS424)、例えばこれらの差分{N
TPa
y−N
TP
y}を算出して状態比較結果格納部28に格納する。そして、予防サービス効果評価装置1Aは、例えば端末装置80に、状態比較結果を出力する(ステップS426)。
【0060】
また、第2の実施形態に係る状態予測結果比較部16は、状態人数の差分{N
TPa
y−N
TP
y}に、式(14)で表される費用ベクトルを乗算することで、予防サービスの効果による費用の変動量{N
TPa
y−N
TP
y}Cを算出し、この費用の変動量を予防サービス効果として出力してもよい。式中、c
xは、状態xの加入者に対する年間費用である。
【数14】
【0061】
以上説明した第2の実施形態に係る予防サービス効果評価装置1Aによれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、予防サービス効果を反映した状態人数の差分、或いはこれに基づく費用の変動量といった、直接的に理解しやすい指標値を算出することができる。
【0062】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、レセプトデータや健診データといった医療機関の利用状況を示すデータと、予防サービスの実施に関連する予防サービス関連データとを取得するデータ取得部11と、データ取得部11により取得されたデータに基づいて、予防サービスの実施による通院状況の変化を導出することで、予防サービスの効果を算出する予防サービス効果算出部14とを持つことにより、予防サービスの効果を定量的に評価することができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0064】
例えば、上記実施形態において、疾病の重症化度合いを、「軽症」、「中症」、「重症」の3段階としたが、疾病やその治療の特性に従って異なる回数の段階を設けた状態を設定してもよい。
【0065】
また、サービス効果行列Qの算出においては、サービスの効果が「受診」と「未受診」以外に及ばないものとしたが、他の状態にも及ぶものとしてサービス効果行列Qを算出してもよい。この際、サービス効果行列Qの各要素の値は必ずしも一意には定まらないため、サービス効果行列Qを状態推移確率行列に作用させた場合の状態推移確率において、特定の状態の状態推移確率の値が最大や最小になるなどの目標条件を設定して接近法等の手法を適用することで、サービス効果行列Qを導出してもよい。
【0066】
また、第2の実施形態において、予防サービスを実施した場合と実施しない場合の状態人数の差分、または費用変動を個別に比較するものとしたが、各状態に対応する費用などの重みを掛けて積算することにより、一つの評価値として、予防サービスを実施した場合に対するサービスを実施しない場合の効果を評価してもよい。
【0067】
また、予防サービスの効果を判断するためのデータとして、サービスを受講したかどうか、および行動変容の有無を基準としたデータを利用しているが、サービス受講者だけを対象とした行動変容を考えたり、行動変容の程度を考えたり、異なる種類の行動変容が複数ある場合を考えたりしたデータを活用してもよい。