(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らは、NOxセンサ素子のガス検出部の周囲に多孔質保護層を設けることで、Ip2セルの電流に大きな誤差を生じる可能性があるという課題が存在することを見出した。特に、NOxセンサ素子のIp2セルに流れる電流は、nA(ナノアンペア)オーダーの極く微小な電流であり、この微小電流に少しでも誤差(誤電流)が含まれると、NOxガス濃度に大きな測定誤差が生じる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、測定室と、第1ポンプセルと、第2ポンプセルと、を有するガス検出部、及び前記ガス検出部の周囲を被覆する多孔質保護層、を設けるガスセンサ素子を備えたNOxセンサが提供される。測定室には、測定対象ガスが導入される。第1ポンプセルは、固体電解質体と、該固体電解質体上に形成された一対の第1電極とを有し、前記測定室に導入された前記測定対象ガスに対する酸素の汲み出し又は汲み入れを行う。第2ポンプセルは、固体電解質体と、該固体電解質体上に形成された一対の第2電極とを有し、第1ポンプセルにて酸素の汲み出し又は汲み入れが行われた前記測定室内の前記測定対象ガス中のNOxガス濃度に応じた電流が流れる。このガスセンサは、前記多孔質保護層に含まれるアルカリ金属の含有量が所定の許容範囲内の値であり、前記許容範囲が150ppm未満である、ことを特徴とする。
発明者らは、多孔質保護層にNaやKなどのアルカリ金属が所定の許容範囲以上含まれている場合には、このアルカリ金属が、NOxセンサ素子内の第2ポンプセルの酸素移動機能に影響を与えてしまい、第2ポンプセルを流れる、測定室内の測定対象ガス中のNOxガス濃度に応じた電流に大きな誤差を生じることを見出した。
そこで、このNOxセンサによれば、多孔質保護層に含まれるアルカリ金属の含有量を所定の許容範囲内の値である150ppm未満としているので、第2ポンプセルの酸素移動機能への影響を軽減でき、第2ポンプセルを流れる電流の誤差を低減することができる。
【0009】
(2)上記NOxセンサにおいて、前記許容範囲が120ppm以下である、ものとしてもよい。
この構成によれば、アルカリ金属に起因する第2ポンプセルを流れる電流の誤差を更に低減することができる。
【0010】
(3)上記NOxセンサにおいて、前記許容範囲が100ppm以下である、ものとしてもよい。
この構成によれば、アルカリ金属に起因する第2ポンプセルを流れる電流の誤差を更に低減することができる。
【0011】
(4)上記NOxセンサにおいて、前記多孔質保護層は、2層以上の多層構造を有しており、前記多孔質保護層の各層について、アルカリ金属の含有量が前記所定の許容範囲内の値である、ものとしてもよい。
この構成によれば、各層についてアルカリ金属の含有量が十分に小さな範囲になるので、第2ポンプセルを流れる電流の誤差を更に低減することができる。なお、多孔質保護層のうち、ガスセンサ素子と接触する内側層だけでなく、外側層においてもアルカリ金属の含有量が所定の許容範囲内の値とすることが好ましい。これは、ガスセンサ素子が被水したとき、外側層に付着した水分にアルカリ金属が溶け込み、更にこの水分が保護層内を浸透することで内側層まで到達し、上述の問題が発生するといった事象を抑制することができるためである。
【0012】
(5)上記NOxセンサにおいて、前記測定室は、第1拡散抵抗部を介して測定対象ガスが導入される第1測定室と、前記第1測定室において酸素の汲み出し又は汲み入れが行われた前記測定対象ガスが第2拡散抵抗部を介して導入される第2測定室と、を有し、前記第1ポンプセルは、前記第1測定室に導入された前記測定対象ガスに対する酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、前記第2ポンプセルは、前記第2測定室に導入される測定対象ガス中のNOxガス濃度に応じた電流が流れる、ものとしてもよい。
このような測定室が第1測定室、第2測定室を有し、第1ポンプセルが第1測定室内に導入された測定対象ガスに対する酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、第2ポンプセルが第2測定室に導入される測定対象ガス中のNOxガス濃度に応じた電流が流れる構成のNOxセンサであっても、多孔質保護層に含まれるアルカリ金属の含有量を所定の許容範囲内の値である150ppm未満としているので、第2ポンプセルの酸素移動機能への影響を軽減でき、第2ポンプセルを流れる電流の誤差を低減することができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガスセンサ素子や、ガスセンサ、そのガスセンサを備えるガス検出装置、そのガス検出装置を搭載する車両、及び、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.NOxセンサの構造
図1は、一実施形態におけるNOxセンサの内部構造を示す概略断面図である。このNOxセンサ200は、軸線CL方向に延びるガスセンサ素子210を備えている。ガスセンサ素子210は、主体金具217の貫通孔218内において、セラミックホルダ219や滑石220やセラミックスリーブ221を貫くように配置されている。ガスセンサ素子210の後端側の外表面には、複数の電極パッド222が設けられている。これらの電極パッド222は、外部回路(図示せず)から接続されたリード線223の先端側に設けた接続端子224と接触して電気的に接続されている。ガスセンサ素子210の先端部(図中の下端部)には、NOxガスの濃度測定のための各種の測定室を有するガス検出部211が設けられている。ガス検出部211の周囲は、多孔質保護層212で被覆されている。
【0016】
図2は、ガスセンサ素子210の外観を示す斜視図である。ガスセンサ素子210は、板状の素子部240と、板状のヒータ250とが積層された積層部材である。ガスセンサ素子210のガス検出部211と反対側の端部(後端側)には、ガスセンサ素子210の第1主面231及び第2主面232に複数の電極パッド222が形成されている。なお、
図2では、ガス検出部211を覆う多孔質保護層212(
図1)は図示が省略されている。
【0017】
図3は、ガス検出部211の断面図である。ガス検出部211は、第1固体電解質体102上に一対の第1電極103、104を備えた第1ポンプセル105と、第2固体電解質体106上に一対の第2電極107、108を備えた第2ポンプセル109と、第3固体電解質体110上に一対の第3電極111、112を備えた酸素濃度検知セル113とを有している。また、第2固体電解質体106と第3固体電解質体110との間には、基準酸素室114が設けられている。この基準酸素室114には、第2電極の一方の電極(第2外側電極)108と、第3電極の一方の電極(基準電極)112とが対向して配置されている。さらに、基準酸素室114には、ガスセンサの製造時に基準酸素室が変形して2つの電極108、112が接触しないように、2つの電極108、112間に電気絶縁性の多孔質材料からなる絶縁保護層115が形成されている。
【0018】
第1固体電解質体102と第2固体電解質体106の間には、第1測定室130が設けられている。第1測定室130の入口(
図3では左端)には、第1拡散抵抗部131が配置され、この第1拡散抵抗部131を介して外部から測定対象ガスである排気ガスEXが導入される。この第1測定室130に対しては、第1ポンプセル105によって、酸素の汲み出し又は汲み入れが行われる。第1測定室130の出口(
図3では右端)には、第2拡散抵抗部141を介して第1測定室130と連通する第2測定室140が形成されている。この第2測定室140は、第3固体電解質体110を貫通して第1固体電解質体102と第2固体電解質体106との間に形成されている。
【0019】
NOxガス濃度の測定時において、酸素濃度検知セル113では、基準電極112側から検知電極111側へ微弱な電流が流される。このため、排気ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室130内の検知電極111から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって第3固体電解質体110内を流れ、基準酸素室114内に移動する。つまり、検知電極111と基準電極112との間で電流が流されることによって、第1測定室130内の酸素が基準酸素室114内に送り込まれる。この結果、基準酸素室114は、所定の酸素濃度に維持される。また、第2測定室140内のNOxガス濃度に応じて、第2ポンプセル109(Ip2セル)に電流(Ip2電流)が流れる。外部のセンサ制御装置(図示省略)は、第2ポンプセル109を流れるIp2電流を検出し、その電流値から排ガス中のNOxガス濃度を決定する。
【0020】
ガス検出部211の周囲は、多孔質保護層212で被覆されている。すなわち、多孔質保護層212は、ガスセンサ素子210の先端にあるガス検出部211の全周を覆うように形成されている。
図3の例では、多孔質保護層212は、内側多孔質層213と、外側多孔質層214とで構成される2層構造を有する。これらの多孔質層213,214は、ガス透過が可能な三次元網目構造の気孔を有している。内側多孔質層213は、外側多孔質層214よりも高い気孔率を有するように構成されていることが好ましい。こうすることにより、被毒物質や水滴が、気孔率のより小さな外側多孔質層214で効果的に捕捉されるので、ガス検出部211まで到達し難い。また、内側多孔質層213の断熱性が高いので、仮に外側多孔質層214側が被水して冷却されてもガス検出部211が急冷され難くなり、ガスセンサ素子100が被水によって損傷することを効果的に抑制できる。
【0021】
内側多孔質層213は、セラミック粒子とセラミック繊維とを含むスラリーをディップ法、印刷法、スプレー法等により塗布した後、焼成することによって形成することができる。セラミック粒子としては、例えばアルミナ、シリカ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライト、炭化珪素、窒化珪素、チタニアの群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を挙げることができる。セラミック繊維としては、例えばアルミナ、シリカ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライト、炭化珪素、窒化珪素、チタニアの群から選ばれる1種以上のセラミック繊維を挙げることができる。セラミック粒子とセラミック繊維とを含むスラリーを焼結することによって、内側多孔質層213の骨格中に気孔を形成することができる。また、スラリーに焼失性の造孔材を添加したものを焼結すれば、造孔材が焼失した部分が気孔となるので、内側多孔質層213の気孔率を高めることができる。造孔材としては、例えばカーボン、樹脂製ビーズ、有機又は無機バインダの粒子、等を用いることができる。内側多孔質層213の気孔率は、例えば50〜75%の範囲が好ましい。
【0022】
外側多孔質層214は、例えばアルミナ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトの群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を焼成することによって形成することができる。これらのセラミック粒子を含むスラリーを焼結することにより、セラミック粒子間の隙間や、スラリー中の有機又は無機バインダが焼失する際に、外側多孔質層214の骨格中に気孔が形成される。外側多孔質層214の気孔率は、例えば30〜50%の範囲が好ましい。
【0023】
なお、多孔質保護層212は、上述した2層構造に限らず、1層構造や、3層以上の多層構造としてもよい。この場合に、多孔質保護層212を構成する各層は、ガス透過性を有するセラミック製の多孔質層であれば良く、例えば、上述した内側多孔質層213や外多孔質層214を含む各種の層から選択して利用することが可能である。
【0024】
B.多孔質保護層の組成とIp2オフセットとの関係
上述したように、排ガス中のNOxガス濃度は、
図2の第2ポンプセル109(Ip2セル)を流れるIp2電流から決定される。Ip2電流は、nA(ナノアンペア)オーダーの極く微小な電流であり、この微小電流に少しでも誤差(誤電流)が含まれると、NOxガス濃度に大きな測定誤差が生じる可能性がある。発明者らは、多孔質保護層にNaやKなどのアルカリ金属が所定の許容範囲以上含まれていると、このアルカリ金属が、NOxセンサ素子内の第2ポンプセル109の酸素移動機能に影響を与えてしまい、Ip2電流に大きな誤差を生じさせてしまうことを見出した。
【0025】
そこで、多孔質保護層212の組成に起因するIp2電流の誤差を低減するために、多孔質保護層212の各層に含まれるアルカリ金属の含有量を、150ppm未満とすることが好ましく、120ppm以下とすることが更に好ましく、100ppm以下とすることが最も好ましい。なお、本明細書において、「ppm」は、重量ppmを意味する。アルカリ金属は、一般に、Li,Na,K,Rb,Csを含んでいる。これらの各種のアルカリ金属の含有量の合計を上述の許容範囲内の値とすることが好ましい。但し、これらのアルカリ金属の中で、Ip2電流への影響は、特にNa、Kが大きく、他のアルカリ金属の影響は比較的小さいと推定される。従って、NaとKの含有量の合計を上述の許容範囲内の値としてもよい。
【0026】
Ip2電流に対するアルカリ金属の影響は、以下のようなメカニズムによるものと推定される。すなわち、多孔質保護層212にNaなどのアルカリ金属が多量に含まれていると、このアルカリ金属が、ガス検出部211の固体電解質102,106,110における酸素移動を幇助してしまい、この結果、Ip2電流を増加させてしまうものと推定される。従って、多孔質保護層212中のアルカリ金属の含有量をある程度以下に低下させることによって、このようなIp2電流の増加を抑制することが可能である。
【0027】
多孔質保護層212中のアルカリ金属の含有量は、多孔質保護層212の原料をイオン交換樹脂で処理することによって低下させることが可能である。イオン交換処理後のアルカリ金属の含有量は、(a)イオン交換樹脂の使用量の増加と、(b)イオン交換処理の処理時間(撹拌時間)の長期化と、(c)イオン交換処理用のスラリーにおける水量の増加と、の3つの手段のうちの1つ以上を組み合わせることによって低下させることができる。
【0028】
図4は、実施例における多孔質保護層212の形成工程を示すフローチャートである。ここでは、
図3で説明した2層構造の多孔質保護層212を使用した。内側多孔質層213の原料としては、アルミナ粒子とアルミナ繊維とアルミナゾルとを用いた。また、外側多孔質層214の原料としては、アルミナ粒子とスピネル(MgAl
2O
4)粒子とアルミナゾルとを用いた。
【0029】
工程S110では、まず、多孔質保護層212の個々の粉末原料に水を加えたもの(イオン交換処理用スラリー)を作成し、工程S120でイオン交換樹脂を用いてアルカリ金属を除去した。これらの工程S110,S120は、多孔質保護層212の個々の原料に対して行うことが好ましい。但し、実施例で使用した多孔質保護層212の組成では、スピネル粒子以外の原料にアルカリ金属が含まれていなかったので、工程S110,S120の処理は、スピネル粒子のみについて行った。イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂を使用することができる。実施例において、イオン交換樹脂としては、オルガノ株式会社製のアンバーライト(オルガノ株式会社の商標)を使用した。このイオン交換処理の後に、工程S130において乾燥を行い、水分を除去した。
【0030】
工程S140では、内側多孔質層213となるスラリーAと、外側多孔質層214となるスラリーBを、以下のように調整した。
<スラリーAの調整>
アルミナ粒子(平均粒径0.1μm)20vol%、アルミナ繊維20vol%、カーボン粉末(平均粒径20.0μm)60vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらにエタノールを添加し攪拌して、適切な粘度になるように調製した。平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めた。
<スラリーBの調整>
アルミナ粒子(平均粒径0.1μm)40vol%、スピネル粒子(平均粒径40μm)60vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらにエタノールを添加して攪拌して、適切な粘度になるように調製した。平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めた。
【0031】
工程S150では、まず、ガスセンサ素子210の先端側の表面(表裏面及び両側面)に、内側多孔質213用のスラリーAを、ディップ(浸漬)法で150μmの厚みになるよう塗布した。その後、スラリーA中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥した。次に、内側多孔質層213の表面に、外側多孔質層214用のスラリーBを、ディップ(浸漬)法、又はスプレー法で350μmの厚みになるよう塗布した。その後、スラリーB中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥した。工程S160では、大気中、1100℃で3時間の条件で内側多孔質層213及び外側多孔質層214を焼成した。
【0032】
なお、工程S120において、イオン交換樹脂の使用量とイオン交換処理の処理時間とを調整することによって、多孔質保護層212(具体的には外側多孔質層214)におけるNa含有量が異なる複数のサンプルを作成した。
【0033】
図5は、外側多孔質層214におけるNa含有量とIp2オフセットとの関係の実験結果を示すグラフである。「Ip2オフセット」とは、検出対象のガスにNOxガスが含まれていない場合におけるNOxガス濃度の検出値(ppm)である。具体的には、Ip2電流がゼロであればIp2オフセットもゼロであり、Ip2電流がゼロでなければ、これに応じてIp2オフセット(NOxガス濃度値)もゼロで無い値となる。なお、排ガスを用いた実際のNOxガス濃度の検出時には、このIp2オフセットを考慮したNOxガス濃度が検出される。
【0034】
図5に示すように、外側多孔質層214中のNa濃度としては、300ppm、150ppm、100ppm、80ppm、測定不能、の5種類について、それぞれ複数のサンプルを準備して実験を行った。なお、「測定不能」とは、Na濃度の測定方法(ICP発光分光分析)の検出限界以下であったことを意味する。各サンプルのNa濃度値は、1の位を丸めた値である。Na濃度の測定は、下記の手順で行った。
【0035】
<Na濃度の測定手順>
(1)ガスセンサ素子210から外側多孔質層214を剥がし、剥がした外側多孔質層214を0.5g秤量し、Pt坩堝に入れる。
(2)水:硫酸=1:3の硫酸溶液15mlを、Pt坩堝に加える。
(3)テフロン(登録商標)の容器にPt坩堝をいれ、フタをし、密封する。
(4)テフロン(登録商標)の容器をさらにステンレス容器に入れ、フタをして密封する。
(5)ステンレス容器を230℃の恒温槽に入れ、16時間加温処理し(昇温、降温時間を除いて230℃で16時間維持)、試料を溶解させる。
(6)得られた溶解液に水を加え、100mlの試料にする。
(7)この試料について、ICP発光分光分析(ICP−AES)を用いて諸元素の定性分析を行い、Naの試験濃度値を記録する。なお、外側多孔質層214からは、Na以外のアルカリ金属は検出されなかった。
(8)Naの試験濃度値及び予め求めておいた検量線から、Naの実濃度値を決定する。
【0036】
Ip2オフセットの測定は、多孔質保護層212が先端部に形成されたガスセンサ素子210単体を、主体金具217等(
図1)に組み付けた評価用NOxセンサを作製して行った。この評価用NOxセンサを大気中において駆動し、Ip2電流を測定してIp2オフセット(NOxガス濃度相当値)を求めた。この際、酸素濃度検知セル113の抵抗値が300Ωとなるように、ヒータ250の温度制御を行った。
【0037】
図5に示されているように、外側多孔質層214のNa濃度が300ppmのサンプルでは、Ip2オフセット(NOxガス濃度相当値)が5ppm以上であり、極めて大きい。また、Na濃度が150ppmのサンプルでは、Ip2オフセットが3ppm以上であり、依然としてかなり大きいままである。一方、Na濃度が150ppm未満であれば、Ip2オフセットも3ppm未満となり、実用上は十分使用可能なレベルとなる。また、Na濃度を120ppm以下とすれば、かなり良好な性能が得られるものと推定される。更に、Na濃度を100ppm以下とすれば、Ip2オフセットは2ppm以下となり、極めて良好な特性が得られる。また、Na濃度が100ppmと、80ppmと、測定不能と、のいずれのサンプルでも、Ip2オフセットが0〜2ppmの狭い範囲で安定していることが理解できる。この実験結果を考慮すると、外側多孔質層214のNa濃度は、150ppm未満とすることが好ましく、120ppm以下とすることが更に好ましく、100ppm以下とすることが最も好ましい。
【0038】
図6は、Ip2オフセットに対する各種のアルカリ金属の影響の実験結果を示すグラフである。この実験では、多孔質保護層212で被覆されていないガス検出部211に4種類のアルカリ金属塩(Na
2SiO
3,NaCl,K
2CO
3,Na
2CO
3)の顆粒をそれぞれ付着させたサンプルと、アルカリ金属塩の顆粒を付着させていないサンプルとに関して、Ip2オフセットの時間変化を測定した。具体的には、まず、多孔質保護層212が形成されていないガスセンサ素子210単体を、主体金具217に組み付けた評価用NOxセンサを作製して、大気中でIp2オフセットの測定を行った。また、評価用NOxセンサの側面のうち、第2ポンプセル109(Ip2セル)が形成されている固体電解質体106の側面に、それぞれのアルカリ金属塩の顆粒(サイズ100μm〜200μm)を付着させて、大気中でIp2オフセットの測定を行った。この際、酸素濃度検知セル113の抵抗値が300Ωとなるように、ヒータ250の温度制御を行った。
【0039】
アルカリ金属塩の顆粒を付着させていない評価用NOxセンサ(
図6の「付着なし」)では、Ip2オフセットが約0ppmであった。一方、K
2CO
3とNa
2CO
3の顆粒をそれぞれ付着させたサンプルでは、Ip2オフセットが約10ppmに達した。また、Na
2SiO
3とNaClの顆粒をそれぞれ付着させたサンプルでは、Ip2オフセットが約40ppmに達した。このように、Naのみでなく、KもIp2オフセットに対してかなりの悪影響を与える可能性があることが確認された。
【0040】
図6と
図5の実験結果を考慮すると、多孔質保護層212の各層において、NaとKの合計の含有量を150ppm未満とすることが好ましく、120ppm以下とすることが更に好ましく、100ppm以下とすることが最も好ましい。なお、
図6の結果からは、他のアルカリ金属(Li,Rb,Cs)も同様に、Ip2オフセットに悪影響を与える可能性があることが推定される。この点を考慮すれば、多孔質保護層212の各層において、アルカリ金属全体の含有量を150ppm未満とすることが好ましく、120ppm以下とすることが更に好ましく、100ppm以下とすることが最も好ましい。
【0041】
図7は、外側多孔質層214にスピネル以外のセラミック粒子を用いた場合のIp2オフセットを示している。この実験では、外側多孔質層214のセラミック粒子として、スピネルの代わりに、ムライトと、SiO
2と、MgOと、Y
2O
3と、Al
2O
3の5種類のセラミック粒子をそれぞれ用いたサンプルについて
図5と同様の試験を行った。多孔質保護層212の作成方法は、
図4に即して説明した方法と同じである。これらの5種類のセラミック粒子についても、そのアルカリ金属の含有量を100ppm以下とした。
図7の実験結果によれば、スピネル以外のセラミック粒子を用いた場合にも、Ip2オフセットが、スピネルを用いた場合(
図5の「Na測定不能」)とほぼ同程度の小さな値(2ppm以下)に収まっていることが理解できる。従って、スピネル以外のセラミック粒子を用いた場合にも、スピネルを用いた場合と同様に、アルカリ金属の含有量を150ppm未満とすることが好ましく、120ppm以下とすることが更に好ましく、100ppm以下とすることが最も好ましい。
【0042】
なお、多孔質保護層212の形成に関して、上述した工程S110,S120の処理を行う前のスピネル粒子の粉末原料を用いて、工程S110〜工程S130の処理を行わずに、本実施例と同様に工程S140〜工程S160を行い、多孔質保護層212を形成したサンプルを複数作成する。この場合に、作成された複数のサンプルの外側多孔質層214のNa含有量(Na濃度)を、上述したNa濃度の測定手順にて求めた場合、Na濃度は、170ppm〜340ppmの範囲内となった。つまり、イオン交換処理を行わずにスピネル粒子の粉末原料をそのまま用いて形成した多孔質保護層212は、150ppm未満の許容範囲内に含まれなかった。
【0043】
C.変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0044】
・変形例1:
多孔質保護層212としては、1層構造のものを使用することができ、また、3層以上の構造のものを使用することも可能である。また、多孔質保護層212の各層の組成としては、上述した実施例以外の他の種々の組成を利用することができる。なお、2層以上の多層構造の多孔質保護層212を使用する場合には、その各層について、そのアルカリ金属の含有量を150ppm未満とすることが好ましく、120ppm以下とすることが更に好ましく、100ppm以下とすることが最も好ましい。このようにすることで、アルカリ金属に起因する第2ポンプセルに流れるIp2電流の誤差を更に低減ことができる。なお、多孔質保護層212のうち、ガスセンサ素子と接触する内側層だけでなく、外側層においてもアルカリ金属の含有量が所定の許容範囲内の値とすることが好ましい理由は、ガスセンサ素子が被水したとき、外側層に付着した水分にアルカリ金属が溶け込み、更にこの水分が保護層内を浸透することで内側層まで到達し、Ip2電流の誤差が増大するといった事象を抑制することができるためである。
【0045】
・変形例2:
NOxセンサのセンサ素子構造としては、上記実施形態の種々の構造を採用可能である。例えば、上記実施形態では、NOxセンサ素子を構成する固体電解質層を3層としたが、固体電解質層を2層としてもよい。固体電解質層が2層であるNOxセンサ素子構造は、例えば特開2004−354400号公報(
図3)に記載されている。この構成では、酸素濃度検知セルが第1測定室に設けられているのではなく、第2測定室に設けられている。
さらには、上記実施形態では、第1測定室、第2測定室を有するNOxセンサ素子であったが、これに限られず、1つの測定室のみを有するNOxセンサ素子であってもよい。