(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359440
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】スポーツサイエンス用人工環境制御室
(51)【国際特許分類】
F24F 11/80 20180101AFI20180709BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
F24F11/80
F24F7/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-252855(P2014-252855)
(22)【出願日】2014年12月15日
(65)【公開番号】特開2016-114291(P2016-114291A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】505335256
【氏名又は名称】富士医科産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074251
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100066223
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 政美
(72)【発明者】
【氏名】中島 茂
【審査官】
渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−007171(JP,A)
【文献】
特開2011−191016(JP,A)
【文献】
特開平03−045852(JP,A)
【文献】
特開平08−226738(JP,A)
【文献】
特開2013−064519(JP,A)
【文献】
特開2014−020688(JP,A)
【文献】
特開2015−072161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/80
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の環境条件(温度・湿度)を設定した状態で各種の測定機器によって被験者の身体への影響を調査する評価を行う人工環境制御室であって、人工環境試験室内に送風する空気を指定の温度環境に制御する制御装置と、空気を人工環境試験室内に送風する送風装置とを備え、
該制御装置は、2台の冷凍機に夫々凍能力が異なる冷却器を2台ずつ配設し、各冷却器に夫々膨張弁を配した構成とし、4系統の冷却器と8式の膨張弁との組み合わせにより指定の温度環境ごとに対応して室内の環境条件(温度・湿度)を制御するように構成したことを特徴とするスポーツサイエンス用人工環境制御室。
【請求項2】
前記制御装置は、自動的に温度・湿度を制御する為に、前記人工環境試験室の室内を指定の温度環境ごとに対応して制御する前記膨張弁の組み合わせが予め選択されると共に、温度環境を指定する設定画面を設け、該設定画面から温度環境を指定すると、人工環境試験室内が指定された温度環境に制御されるように構成した請求項1記載のスポーツサイエンス用人工環境制御室。
【請求項3】
前記送風装置は、人工環境試験室内の上部に配置された筒状の換気ダクトと、該換気ダクトの表面を覆うように装着された布製フィルターとを備え、室内に空気を無風状態で循環させるように構成した請求項1記載のスポーツサイエンス用人工環境制御室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験室内の環境(温度・湿度・室内空気循環量・外気導入量)を各温度帯・湿度帯を基に負荷計算を設定している操作マトリックスから各空気調和の機器へ指示し適正な制御を行い設定条件の環境を再現する制御室に係り、各種の計測機器を使用しながら環境条件と被験者の身体への影響を測定する最新の運動生理学の研究に好適なスポーツサイエンス用人工環境制御室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からスポーツ科学の研究分野で使用されている環境試験室は一般的な環境試験室で温度・湿度が設定できる一般汎用型か若しくは特別に製作された特注型の装置を使用していた。スポーツ科学研究用として特化した人工環境制御室はなかった。すなわち、一般的な試験室内で環境(温度・湿度)を設定又は変化させ、各種の計測機器を使用しながら環境条件と被験者の身体への影響を測定する運動生理学の研究に主に使用されている。
【0003】
近年、スポーツ科学研究の国際的な情報交流と多様化の時代に有って環境試験室も研究分野の専門性が求められ従来の一般的な汎用型環境試験室ではできない分野の研究にこたえる新たな機能を持つ装置が研究者から要望されている。例えば、具体的な事案として、第1に試験室の気流が被験者に当たる為微量な皮膚温が測定できないこと。第2に、同じく気流が皮膚に当たる為皮膚からの蒸発を正確に測定できないこと。第3に、安静時気流の影響で代謝が変化すること。第4に低温20℃以下の湿度制御が出来ないこと。第5に、温度・湿度制御が悪い。第6に、室内の騒音が高く居住性が悪いことなどが、従来の環境試験室を利用している研究者からの意見である。
【0004】
ところが、これまでの装置としては、スポーツサイエンス用として使用されるものはなく、例えば、代謝熱量測定装置として、被験者の炭酸ガスの排出量と酸素の消費量とを測定する代謝熱量測定装置が特許文献1に記載されているにすぎない。この測定装置は、炭酸ガスの排出量及び酸素消費量を測定し、エネルギー消費量や消化された栄養物の量を調査する装置である。この測定には、人工呼吸装置を介して一様の炭酸ガスと酸素の成分を有する混合室内に流入し、炭酸ガスセンサ及び酸素センサにより、患者のエネルギー消費を計算するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6-28652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の代謝熱量測定装置により、被験者の呼吸によって代謝熱量を測定することが可能になっているが、いずれも被験者に直接装着する導管や、呼吸導管、マスクなどを用いることで、できるだけ正確な測定を試みようとしている。ところが、従来の代謝熱量測定装置では、日常の環境で消費する代謝熱量を測定することはできなかった。
【0007】
最近の運動生理学(Exercise Physiology)では、身体と運動に関する広範囲な研究領域で、様々な研究の課題に対応する装置が必要になっている。すなわち、運動と骨格筋、運動と神経系、運動と代謝、運動と呼吸循環、運動と内分泌、運動と内部環境及び外部環境、運動と体力・疲労、運動処方と運動療法、運動と健康、運動と加齢などの研究内容がある。
【0008】
この様な研究に関する試験を推進するためには、温度・湿度の条件を任意に変化させ、試験室で各種の計測機器を使用しながら環境条件と被験者の身体への影響を研究する必要が、このような環境条件を制御できる装置は提供されていなかった。
【0009】
そこで本発明は、上述の課題を解消すべく創出されたもので、特に低温環境の測定を可能にすることで、運動生理学などの試験が正確になり、最新のスポーツ医科学から温熱環境試験などに適応したスポーツサイエンス用人工環境制御室の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成すべく本発明における第1の手段は、室内の環境条件(温度・湿度)を設定した状態で各種の測定機器によって被験者の身体への影響を調査する評価を行う人工環境制御室であって、人工環境試験室P内に送風する空気を指定の温度環境に制御する制御装置10と、空気を人工環境試験室P内に送風する送風装置20とを備え、該制御装置10は、
2台の冷凍機14に夫々凍能力が異なる冷却器11を2台ずつ配設し、各冷却器11に夫々膨張弁12を配した構成とし、4系統の冷却器11と8式の膨張弁12との組み合わせにより指定の温度環境ごとに対応して室内の環境条件(温度・湿度)を制御するように構成したことにある。
【0011】
第2の手段において、環境の温度・湿度・室内循環量・外気導入量を設定条件の負荷計算能力を作成した操作マトリックス表に従い自動的に温度・湿度・循環量・外気量を制御する為に、前記制御装置10は、前記人工環境試験室Pの室内を指定の温度環境ごとに対応して制御する前記膨張弁12の組み合わせが予め選択されると共に、温度環境を指定する設定画面13を設け、該設定画面13から温度環境を指定すると、人工環境試験室P内が指定された温度環境に制御されるように構成している。
【0013】
第
3の手段において、前記送風装置20は、人工環境試験室P内の上部に配置された筒状の換気ダクト22と、該換気ダクト22の表面を覆うように装着された布製フィルター23とを備え、室内の空気を無風状態で循環させるように構成したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に記載のごとく、制御装置10は、複数台の冷却器11に夫々冷凍能力が異なる複数個の膨張弁12を装着し、操作マトリックスからの指令により自動的に使用する電磁弁・冷却能力の膨張弁を選択して冷却器を選択する。そして室内の環境条件(温度・湿度)を制御するように構成したことにより、特に低温環境の測定が可能になり、運動生理学における各種の試験を正確に行えるようになった。
すなわち、4系統の前記冷却器11と8式の膨張弁12とを組み合わせることにより指定の温度環境に制御するように構成しているので、温度環境を低温から中、高温に至るまで極めて細かく高精度で制御することができる。
しかも、従来のように、冷却器の露点温度が低いと、霜が付着して低温の制御ができなくなるといった不都合も解消できるので、多量の外気換気が必要な場合でも、正確な温度調整が可能になる。
この結果、特に、運動生理学における各種の試験に好適なものになる。すなわち、低温時の低湿度から高温時の高湿度まで広範囲な試験研究が実施できる。低温時は冬場のウインタースポーツの環境を創出し・高温は夏季の環境を設定する事ができる。体温調整の試験研究分野では熱中症等の試験研究にも利用することができる。
このように、従来の環境試験室では20℃以下の低温低湿の試験はできない領域であったが、本発明によると、低温低湿の環境が身体に与える影響を試験できるように開発されており、特に、冬季の試験条件が再現できることが大きな特長になっている。
【0015】
請求項2のように、設定画面13に表示された中から指定の温度環境を選択すると、人工環境試験室Pが指定された温度環境に制御されるように構成しているので、操作マトリックス表から手動で設定する必要が無くなり、人工環境試験室Pの温度環境を指定の温度に設定する操作が極めて単になり、だれでも容易に操作することができる。
【0017】
請求項
3のように、送風装置20は、空気を送風する送風機21と、人工環境試験室P内の上部に配置された筒状の換気ダクト22と、該換気ダクト22の表面を覆うように装着された布製フィルター23とを備え、室内の空気を無風状態で循環させるように構成しているので、低温の空気を直接被験者に当てずに室内の温度調整ができるので、極めて正確なデータが得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明で制御する人工環境試験室の一実施例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の制御装置と送風装置との設置例を示す要部斜視図である。
【
図4】本発明の制御装置一実施例を示す概略構成図である。
【
図5】指定の温度環境ごとに膨張弁を組み合わせている状態の操作マトリックス表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、人工環境試験室P内の温度や湿度(以下、温度環境と称する)を制御する人工環境制御装置である(
図1参照)。本発明の主要構成は、制御装置10と送風装置20とで構成されている(
図2参照)。
【0021】
制御装置10は、人工環境試験室P内に送風する空気にて室内を指定の温度環境に制御する装置である。この制御装置10は、複数台の冷却器11に夫々冷凍能力が異なる複数個の膨張弁12を装着し、少なくとも2台以上の冷却器11から膨張弁12を選択して温度環境を制御するように構成している(
図2参照)。
【0022】
図示例の制御装置10は、2台の冷凍機14に夫々冷却器11を2台ずつ配設し、各冷却器11に夫々膨張弁12を配した構成とする(
図3参照)。このように、4系統の冷却器11と8式の膨張弁12とを組み合せることにより、細かく指定された56パーターンの温度環境に制御するように構成している(
図5参照)。
【0023】
すなわち、図示の膨張弁12は、各膨張弁12に1〜8まで番号を割り当て、指定の温度環境に制御する膨張弁12を予め選択する(
図2参照)。そして、例えば人工環境試験室Pを室温5度、湿度50%の温度環境に制御する場合、番号1、3、5、7の付いた膨張弁12を使用する(
図5参照)。この場合、4台の冷却器11をすべて稼働することになる。このような制御によると、従来の制御では困難であった温度領域の制御が可能になる(表1参照)。
【0024】
【表1】
表1は、スポーツ医科学で室内CO2濃度管理に使用される一般の環境試験室を、本発明制御装置と従来の空気調和機とで制御した例を示している。この表において面積が広い枠が本発明で制御した温度環境を示し、面積が狭い枠が従来の空気調和機で制御したな温度環境を示している。すなわち、湿度を35%に保つ条件の場合、従来の低温制御は、室温20度が限界であったが、本発明によると、室温5度までの低温制御が可能になっている。
【0025】
また、人工環境試験室Pを室温30度、湿度50%の温度環境に制御する場合、番号2又は4と、番号6又は8の付いた膨張弁12の組み合わせが選択されている(
図5参照)。この場合、2台の冷却器11の稼働で足りることになる(
図4参照)。このように、通常は冷却器1の高温膨張弁(SV2)と、冷却器2の高温膨張弁(SV4)を交互に切り替えながら制御する。そして、これらの冷却器11で制御できなくなった場合に、冷却器3の高温膨張弁(SV6)と、冷却器4の高温膨張弁(SV8)を使用して制御する。一方、低温時は、4台の冷却器11をすべて使用することで、室温5度〜20度までの範囲で湿度20%の温度環境や、室温20度で湿度10%の温度環境などに制御することができる(
図5参照)。
【0026】
本発明では、2台の冷凍機14を使用しているので、仮に一方の冷凍機14が故障した場合でも、残る予備の冷凍機14を稼働させることで、試験を続けることができる(
図3参照)。尚、図示例では、冷却器11の制御と共に、加熱ヒーター15や加湿器16により人工環境試験室P内の温度環境を調整する。
【0027】
更に、これら指定の温度環境ごとに対応する膨張弁12の組み合わせを予め選択して複数の温度環境を指定する設定画面13を配置し、この設定画面13から温度環境を指定すると、人工環境試験室Pが指定された温度環境に制御されるように構成している。図示例では、制御盤30の制御画面32に設定画面13を表示するものである(
図1参照)。
【0028】
図5に示す設定画面13の指定温度は、0度〜40度まで5度ごととし、相対湿度の指定は、20%〜80%までの10%ごとに対応するように表示している。温度環境の指定は、この温度と湿度の組み合わせごとに指定される。また、図示例では、人工環境試験室Pを特定の環境温度に制御するために、膨張弁12の選択と共に、送風装置20の使用や、膨張弁12を開く電磁弁17の切替え時間なども予め設定している。尚、温度環境の設定は、図示例に限らず任意に変更できることは言うまでもない。
【0029】
送風装置20は、空気を人工環境試験室P内に送風する装置であり、送風機21と換気ダクト22とを備えている。送風機21は、空気を送風するファンなどで、換気ダクト22は、室内の上部に配置された筒状の部材である。図示例では、制御装置10で温度制御した空気を、送風機21で人工環境試験室P内に送風するもので、人工環境試験室Pの室内上部には、布製フィルター23を被覆した換気ダクト22を配置している。
【0030】
換気ダクト22の表面に布製フィルター23を覆うことで、室内に空気を無風状態で循環させるように構成している。すなわち、布製フィルター23は、吹き出し口の風を抑制し、人工環境試験室Pの上部空間から室内を無風にして空気を循環させるようにしている。この布製フィルター20は、ポリプロピレン製のフィラメント糸で設けられており、吹き出し口の風を抑制するほか、布製フィルター20からの塵埃の発生がなく、カビの発生を抑制し、送風機21で送風された塵埃を補足する作用もある。
【0031】
人工環境試験室Pの内部に外気を導入する場合は、外気処理装置40が使用される(
図3参照)。この外気処理装置40は、外気処理冷凍機41にて温度調整した外気エアーを除湿器42にて調整し、吸気ファン43と排気ファン44とで人工環境試験室P内を循環換気するものである。また、図中、符号31はシーケンサーを示している。
【0032】
尚、本発明は図示の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での設計変更は自由に行えるものである。
【符号の説明】
【0033】
P 人工環境試験室
10 制御装置
11 冷却器
12 膨張弁
13 設定画面
14 冷凍機
15 加熱ヒーター
16 加湿器
17 電磁弁
20 送風装置
21 送風機
22 換気ダクト
23 布製フィルター
30 制御盤
31 シーケンサー
32 制御画面
40 外気処理装置
41 外気処理冷凍機
42 除湿器
43 吸気ファン
44 排気ファン