(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態を、図面を用いて説明する。説明には、相互に直交するX軸、Y軸、Z軸からなる直交座標系を用いる。
【0011】
図1は、本実施形態に係るインクジェットヘッド10を示す斜視図である。インクジェットヘッド10は、インク管路に接続されるインクジェットヘッドである。インクジェットヘッド10は、1組の筐体20、マスクプレート41、支持ユニット70、インク循環系60、2つの放熱部材81などを備えている。
【0012】
図1に示されるように、筐体20は、ケース30とカバー40から構成されている。
【0013】
図2は、ケース30の斜視図である。また、
図3は、
図2におけるケース30を+Y側から見た図である。ケース30は、例えば熱伝導率が比較的高いアルミニウムからなる。ケース30は、
図2及び
図3を見るとわかるように、XZ面に平行な隔壁32と、隔壁32に形成されたU字状のフレーム部31の2部分を有している。
【0014】
ケース30を構成するフレーム部31は、隔壁32の上側の縁と、X軸方向両側の縁にわたって形成されている。フレーム部31の下端部には切欠き37が形成されている。ケース30では、隔壁32とフレーム部31によって空間30aが規定される。
【0015】
フレーム部31の上部には、空間30aに至る切欠き36が形成されている。
【0016】
図1に戻り、カバー40は、四角形板状のプレートである。カバー40も、ケース30と同様に、導電率の比較的高いアルミニウムからなる。
【0017】
図4は、インクジェットヘッド10を構成するマスクプレート41、インク循環系60、支持ユニット70、射出ユニット50、及び放熱部材81を示す展開斜視図である。
図4に示されるように、マスクプレート41は、長手方向をX軸方向とする枠状の部材である。マスクプレート41の下端部には、内側に突出する突出部41aが設けられている。
【0018】
図5は、射出ユニット50の展開斜視図である。
図5に示されるように、射出ユニット50は、ベース基板51、フレーム52、オリフィスプレート53を有している。
【0019】
ベース基板51は、長手方向をX軸方向とする長方形板状の部材である。ベース基板51は、例えばアルミナからなり、Y軸方向中央部には、X軸に沿って複数の開口51aが形成されている。また、開口51aの−Y側及び+Y側には、X軸に沿って複数の開口51bが形成されている。
【0020】
ベース基板51の上面には、2つのアクチュエータ54,55が配置されている。
図5に示されるように、アクチュエータ54,55は、開口51aのY軸方向両側に配置されている。
【0021】
アクチュエータ54,55は、X軸に沿って配列された台形の圧電素子から構成され、圧電素子に挟まれる空間が圧力室となっている。また、アクチュエータ54,55を構成する圧電素子は、ベース基板51の−Z側の面に形成される電極パターン(不図示)と接続されている。
【0022】
フレーム52は、長手方向をX軸方向とする枠状の部材である。フレーム52は、例えば、セラミックやアルミナ、又は、アルミニウム或いはステンレスからなる。フレーム52は、ベース基板51よりも一回り小さい。
【0023】
オリフィスプレート53は、ポリイミド等を素材とし、長手方向をX軸方向とする長方形のシートである。オリフィスプレート53には、X軸に沿って等間隔に円形の開口53aが形成されている。また、開口53aの+Y側には、X軸に沿って等間隔に円形の開口53bが形成されている。開口53a,53bは、インクジェットヘッド10を循環するインクを、記録媒体としての紙に吐出するためのノズルとして機能する。
【0024】
上述のように構成されるベース基板51、フレーム52、オリフィスプレート53は、ベース基板51の−Z側の面にフレーム52が接着され、フレーム52の−Z側の面にオリフィスプレート53が接着されることで一体化される。
【0025】
図6を参照するとわかるように、射出ユニット50には、フレキシブル基板91が接続される。フレキシブル基板91は、例えば絶縁フィルムと導体層からなるフレキシブル基板である。フレキシブル基板91は、中央に長手方向をX軸方向とする開口91aが形成され、開口91aの+Y側及び−Y側には、外縁から中央部に至るY軸に平行なスリットが形成されている。また、フレキシブル基板91の+Z側の面には、4つの駆動IC100が実装されている。
【0026】
図7に示されるように、フレキシブル基板91は、開口91aに射出ユニット50のフレーム52が挿入された状態で、ベース基板51に接着される。ベース基板51の−Z側の面に形成される電極パターンと、フレキシブル基板91の導体層とが電気的に接続される。その結果、駆動IC100A〜100Dと、射出ユニット50を構成する圧電素子とが接続される。ベース基板51に形成される電極パターンと駆動IC100A〜100Dは、アクチュエータを駆動するための駆動回路を構成する。射出ユニット50では、アクチュエータ55の圧電素子が、駆動IC100A,100Bによって駆動される。そして、アクチュエータ54の圧電素子が、駆動IC100C,100Dによって駆動される。
【0027】
フレキシブル基板91の−Y側及び+Y側には、2枚のリジッド配線基板92A,92Bが接続されている。リジッド配線基板92A,92Bの表裏面には、コネクタや半導体素子が実装されている。
【0028】
図8は、インク循環系60の展開斜視図である。
図8に示されるように、インク循環系60は、マニホールド63、パイプ62A〜62D、及び4つのコネクタ61A〜61Dを有している。
【0029】
コネクタ61A〜61Dは、パイプ同士を接続するための部材である。コネクタ61A〜61Dは上端部と下端部が一回り小さくなるように整形されている。コネクタ61A〜61Dの上端部は、インク管路を介してインクの循環を行う循環ポンプ及びインクが貯留されるインクタンクに接続される。また、コネクタ61A〜61Dの下端部には、パイプ62A〜62Dが接続される。
【0030】
パイプ62A〜62Dは、長手方向をZ軸方向とするパイプである。パイプ62A,62Bは、熱伝導性の良い材料(例えばアルミニウム,銅またはセラミックス)からなる。また、パイプ62C,62Dは、弾性を有するゴム或いはフッ素からなる。
【0031】
マニホールド63は、内部に流路が形成されたベース63aと、ベース63aに接着される2つのコネクタ64A,64Bを有している。
【0032】
コネクタ64A,64Bは、+Z方向へ突出する一対の接続部641,642を有している。接続部641,642は、上端部が一回り小さくなるように整形されている。コネクタ64Aでは、接続部641が接続部642の−X側に配置される。また、コネクタ64Bでは、接続部641が接続部642の+X側に配置される。つまり、マニホールド63では、接続部641が接続部642よりも外側に配置される。
【0033】
ベース63aは、射出ユニット50を構成するベース基板51に形成された複数の開口51aと、コネクタ64A,64Bの接続部642を接続するとともに、ベース基板51に形成された複数の開口51bと接続部641を接続する。
【0034】
マニホールド63を構成するコネクタ64Aの接続部641,642には、パイプ62A,62Cの下端が接続され、コネクタ64Bの接続部641,642には、パイプ62B,62Dの下端が接続される。そして、パイプ62A〜62Dの上端に、コネクタ61A〜61Dが接続される。マニホールド63、パイプ62A〜62D、コネクタ61A〜61Dが一体化され、インク循環系60が形成される。
【0035】
図9は、支持ユニット70の展開斜視図である。
図9に示されるように、支持ユニット70は、支持プレート71、シール部材72、支持部材73を有している。
【0036】
支持プレート71は、長手方向をX軸方向とする金属製の部材である。支持プレート71の両端部71bには、Z軸方向に貫通する開口71cが設けられている。支持プレート71には、Z軸方向に貫通する4つの開口71aが形成されている。
【0037】
シール部材72は、長手方向をX軸方向とするシート状の弾性部材である。シール部材72は、例えばゴム或いはフッ素ゴムからなる。シール部材72には、長手方向をX軸方向とする2つの長穴72aが形成されている。
【0038】
支持部材73は、長手方向をX軸方向とする直方体状の部材である。支持部材73の上面には、上方(+Z方向)に突出する2つの突出部73aが形成されている。突出部73aは、シール部材72に形成された長穴72aと同じ形状となるように整形されている。突出部73aには、上面から下方に貫通する2つの円形の開口73bが形成されている。2つの開口73bは、X軸方向に所定距離隔てて配置されている。また、支持部材73の両端部下方には、切欠き73cが形成されている。
【0039】
シール部材72は、支持部材73の突出部73aがシール部材72の長穴72aに挿入された状態で、支持部材73の上面に配置される。そして、支持プレート71は、シール部材72を介して、ボルトなどにより支持部材73に固定される。支持プレート71、シール部材72、支持部材73が一体化され、支持ユニット70が形成される。支持ユニット70では、各部材に形成された開口71a,73bがそれぞれ一致した状態になる。
【0040】
図10は、放熱部材81を示す斜視図である。放熱部材81は、例えば比較的熱伝導率が高いアルミニウムや銅からなる。
図10に示されるように、放熱部材81は、長手方向を鉛直方向(Z軸方向)とする部材である。放熱部材81の一側(+X側)には、上面から下面に至る複数のスリットと対をなして放熱フィン81aが形成されている。また、放熱部材81には、上面から下面に至る円形の孔81bが形成されている。
【0041】
次に、ケース30、カバー40、マスクプレート41、射出ユニット50、インク循環系60、支持ユニット70、放熱部材81を組み立てる手順を説明する。
【0042】
まず、
図11に示されるように、フレキシブル基板91及びリジッド配線基板92が接続された射出ユニット50のベース基板51に、インク循環系60のマニホールド63を構成するベース63aを接着する。そして、支持ユニット70を構成する支持プレート71の開口71aから、マニホールド63の接続部641,642が突出した状態で、支持ユニット70の支持部材73を、接続部641,642に接着する。
【0043】
次に、
図12に示されるように、マニホールド63を構成するコネクタ64A,64Bの接続部641にパイプ62A,62Bを接続し、接続部642にパイプ62C,62Dを接続し、パイプ62A〜62Dにコネクタ61A〜61Dを接続する。
【0044】
次に、
図13を参照するとわかるように、パイプ62A,62Bに、放熱部材81を装着する。パイプ62A,62Bと放熱部材81の間の熱伝導率を上げるために、放熱部材81に形成された孔81bの内壁面に、パイプ(排出管)62A,62Bの表面を密着させる。場合によっては、パイプ62A,62Bの表面と孔81bの内壁面に熱伝導率の高い接着剤や銀ペーストのようなものを塗り、熱伝導率を高める。放熱部材81の放熱部は、外側に位置した状態になっている。なお。パイプ62A,62Bと放熱部材81は一体形成されていてもよい。
【0045】
次に、支持ユニット70を構成する支持部材73の+Y側の面と−Y側の面に、ゴム或いはフッ素ゴムからなるシール部材95を介して、ケース30を、ボルトを用いて固定する。そして、ケース30を、ボルトを用いて、放熱部材81に固定する。放熱部材81は、インクジェットヘッド10自体の短手方向(Y軸方向)対して2つのケース30の間に配置されている。放熱部材81は、インクジェットヘッド10自体の長手方向(X軸方向)対して外部に露出している。
図14に示されるように、ケース30、支持ユニット70、放熱部材81が一体化される。ケース30と放熱部材81とが面接触することで、ケース30と放熱部材81との間の熱抵抗の増加が抑制される。
【0046】
次に、
図14に示されるように、リジッド配線基板92A,92Bに実装されたコネクタ921に、フレキシブルケーブル98A,98Bを接続し、フレキシブル基板91と、フレキシブル基板91に接続されたリジッド配線基板92A,92Bとを、ケース30の空間30aに収容する。
【0047】
次に、リジッド配線基板92A,92Bが、ケース30に位置した状態で、
図1に示されるように、ケース30に、カバー40を、ボルトを用いて取り付ける。そして、マスクプレート41を下方から射出ユニット50及びマニホールド63にかぶせ、マスクプレート41の突出部41aを、射出ユニット50のベース基板51の下面に接着する。マスクプレート41は、突出部41aが射出ユニット50のベース基板51に当接することで位置決めされ、マスクプレート41の上端部は、ケース30に形成された切欠き37に位置した状態になる。
【0048】
図15は、
図1に示されるインクジェットヘッド10のYZ断面を示す図である。以上のようにケース30、マスクプレート41、射出ユニット50、インク循環系60、支持ユニット70、放熱部材81が組み立てられた場合には、
図15に示されるように、ケース30、放熱部材81によって規定される空間にインク循環系60が収容される。そして、ケース30
、カバー40、支持ユニット70及びマスクプレート41によって規定される空間に、フレキシブル基板91とリジッド配線基板92A,92Bが収容される。
【0049】
インクジェットヘッド10では、ケース30とカバー40が接触する面が平面になっている。
図14の白抜き矢印に示されるカバー40とマスクプレート41の隙間に例えば接着剤やシリコン等を用いてシール処理を施す。フレキシブル基板91とリジッド配線基板92A,92Bが収容される空間が密閉され、
図1に示されるインクジェットヘッド10が完成する。インクジェットヘッド10は、支持ユニット70の開口71cを用いて、ボルトなどでプリンタ本体に固定することができる。
【0050】
インクジェットヘッド10では、コネクタ61A,61Bが、インクの排出系統に接続され、コネクタ61C,61Dが、インクの供給系統に接続される。このため、
図16の白抜き矢印に示されるように、インクは、供給管であるパイプ62C,62Dを介して、射出ユニット50に供給される。そして、排出管であるパイプ62A,62Bを介して、射出ユニット50から排出される。
【0051】
図14に示される駆動IC100から発生する熱は、ケース30や支持ユニット70を介して、放熱部材81に伝達される。放熱部材81は、外気と熱交換を行うとともに、射出ユニット50から排出されパイプ62A,62Bを流れるインクと熱交換を行う。インクジェットヘッド10は、外気と、射出ユニット50から排出されるインクによって冷却される。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド10では、駆動IC100から発生した熱が、放熱部材81に伝達される。そして、放熱部材81に伝達された熱が、外気と射出ユニット50から排出されるインクに放熱される。このため、インクジェットヘッド10を効率よく冷却することができる。また、放熱部材81は、主として射出ユニット50から排出されるインクとの間で熱交換を行う。このため、射出ユニット50のノズルへ流入するインクが、駆動IC100から発生する熱によって受ける悪影響が抑制される。したがって、射出ユニット50のノズルへ流入するインクが予熱されることにより粘度が変動することが少なくなり、安定的に印字を行うことが可能となる。
【0053】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10では、インクを排出するためのパイプ62A,62B(以下、排出パイプともいう)が、インクを供給するためのパイプ62C,62D(以下、供給パイプともいう)よりも外側に位置している。そして、排出パイプ62A,62Bに装着される放熱部材81の放熱部は、インクジェットヘッド10の外側に形成されている。このため、放熱部材81に伝達された熱の大部分を、供給パイプ62C,62Dとは反対の方向、すなわち、インクジェットヘッド10の外側へ向かう方向へ放熱することが可能となる。したがって、射出ユニット50のノズルへ流入するインクの温度上昇を抑制することができる。その結果、インクの粘度が一定に維持され、安定的に印字を行うことが可能となる。
【0054】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10では、インクジェットヘッド10からの熱を効率よく放熱することができる。このため、印字速度を向上させることが可能となる。
【0055】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10では、インクジェットヘッド10を効率よく冷却することができる。支持ユニット70の急激な熱膨張を抑制することができ、射出ユニット50を精度よく位置決めすることが可能となる。特に、インクジェットヘッド10を複数用いるプリンタにおいては、各インクジェットヘッド10相互間の位置関係の変動を抑制することができる。したがって、印字品質を向上させることが可能となる。
【0056】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10では、
図15に示されるように、ノズルとしての開口53aから吐出されるインクの制御を行う駆動IC100A,100Bと、ノズルとしての開口53bから吐出されるインクの制御を行う駆動IC100C,100Dとが別々に収容される。このため、4つの駆動IC100A〜100Dをまとめて収容する場合に比較して、1つの駆動IC100A〜100Dに対する放熱効率が向上し、各駆動IC100A〜100Dから発生する熱を効率的に放熱することが可能となる。
【0057】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10では、
図15に示されるように、駆動IC100A〜100Dが、ケース30に接触している。このため、駆動IC100A〜100Dから発生する熱を、効率的にケース30に伝えることができる。したがって、ケース30とカバー40からなる筐体20をヒートシンクとして利用することにより、駆動IC100A〜100Dから発生する熱を外部へ効率的に放熱することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態によって限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、インクジェットヘッド10が、2本の供給パイプ62C,62Dと、2本の排出パイプ62A,62Bを有している場合について説明した。これに限らず、インクジェットヘッド10は、供給パイプと排出パイプを一本ずつ備えていてもよく、3本以上の供給パイプ及び排出パイプを備えていてもよい。また、供給パイプと排出パイプは、対になっている必要はない。例えば、供給パイプ62C,62Dを1本の管路となるように構成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、排出パイプ62A,62Bが、供給パイプ62C,62Dの外側に位置している場合について説明した。放熱効率は落ちるが、供給パイプ62C,62Dが、排出パイプ62A,62Bの外側に位置していてもよい。
【0060】
上記実施形態に係るインクジェットヘッド10は一例であり、射出ユニット50に設けられる開口53a,53bの数や、射出ユニット50の大きさは、インクジェットヘッド10の用途や解像度に応じて、適宜変更することができる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。