(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359487
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】遠心鋳造装置、及びその装置における接種剤の散布方法
(51)【国際特許分類】
B22D 13/02 20060101AFI20180709BHJP
B22D 13/10 20060101ALI20180709BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
B22D13/02 502P
B22D13/10 502K
B22D27/20 C
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-116321(P2015-116321)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-1052(P2017-1052A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】澤田 健二
(72)【発明者】
【氏名】宮城 光治
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−201470(JP,A)
【文献】
実開昭53−119409(JP,U)
【文献】
特開平01−044255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 13/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転するモールド(1)と、そのモールド(1)と相対的にモールド(1)の軸心方向に移動してモールド(1)内に進退する溶湯鋳込み用トラフ(5)と、そのトラフ(5)に付設されてエアーブローによりその先端開口から接種剤(b)を散布する接種管(10)と、を有する遠心鋳造装置であって、
上記接種管(10)の先端に下面開口(12)のパイプ(11)を延設し、前記パイプ(11)内にその長さ方向に所要間隔で上下方向の複数の隔壁(13a、13b、13c)を設け、その各隔壁(13)に透孔(14a、14b、14c)を形成したことを特徴とする遠心鋳造装置。
【請求項2】
上記各隔壁(13)を、上記パイプ(11)の先端に向かって下り傾斜に設けたことを特徴とする請求項1に記載の遠心鋳造装置。
【請求項3】
上記各透孔(14a、14b、14c)を同一軸(e)上としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心鋳造装置。
【請求項4】
上記各透孔(14a、14b、14c)の大きさをパイプ(11)先端に向かって順々に小さくしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の遠心鋳造装置。
【請求項5】
軸心回りに回転するモールド(1)と、そのモールド(1)と相対的にモールド(1)の軸心方向に移動してモールド(1)内に進退する溶湯鋳込み用トラフ(5)と、そのトラフ(5)に付設されてエアーブローによりその先端開口から接種剤(b)を散布する接種管(10)と、を有する遠心鋳造装置における、前記接種管(10)による前記モールド(1)内への接種剤(b)の散布方法であって、
上記接種管(10)からその軸方向前方に吹き出される接種剤(b)を、前記接種管(10)の軸方向に所要間隔に設けた複数の隔壁(13a、13b、13c)で遮るとともに、その各隔壁の透孔(14a、14b、14c)に前記接種剤(b)を通過させて、前記接種剤(b)を散布することを特徴とする遠心鋳造装置における接種剤の散布方法。
【請求項6】
上記各隔壁(13a、13b、13c)を、上記エアーブローの吐出方向に向かって下り傾斜に設けて、隔壁に遮られた接種剤(b)を斜め前方に散布するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の遠心鋳造装置における接種剤の散布方法。
【請求項7】
上記各透孔(14a、14b、14c)を同一軸(e)上としたことを特徴とする請求項5又は6に記載の遠心鋳造装置における接種剤の散布方法。
【請求項8】
上記各透孔(14a、14b、14c)の大きさを接種管(10)先端に向かって順々に小さくしたことを特徴とする請求項5乃至7の何れか一つに記載の遠心鋳造装置における接種剤の散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダクタイル鋳鉄管等を製造する遠心鋳造装置、及びその装置における接種剤の散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄からなるダクタイル鋳鉄管の製造、例えば、
図1に示す、NS形ダクタイル鋳鉄管の遠心鋳造は、円筒形モールド(鋳型)1をローラ2により回転し、取鍋3から三角取鍋4を介して鋳込用トラフ5に溶湯cを送り込み、そのトラフ5をモールド1内の軸心方向に移動して溶湯cをモールド1内に鋳込んで(注湯し)、所要厚の円筒状溶湯層(鋳鉄管)Aを形成する(特許文献1、段落0025、
図8参照)。
【0003】
このとき、球状黒鉛鋳鉄では、機械的性質を改善するために接種を行う。しかし、この接種効果のフェーディング速度が大きいので、できるだけ溶湯cを鋳込む直前に接種することが好ましい。このため、上記トラフ5を用いる遠心鋳造においては、トラフ5の横又は下方に接種用配管(接種管)10を付設し、エアーブローによりその配管10先端開口から、接種剤bを注入された溶湯cに直接に吹き付けたり、モールド1内面に散布したりするようにしている(特許文献2、要約、段落0002、
図1、
図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−288475号公報
【特許文献2】特開2001−293546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の接種管10による吹きつけ(散布)は、
図5に示すように、接種管10の先端に下向きのエルボ管(パイプ)を取付け、そのエルボ管6から、モールド1内面に接種剤bを吹き付けている。
このエルボ管6からの接種剤bの吹き付けは、接種剤bが狭い範囲に強く当たり、溶湯cが乱れやすく、その乱れにより跳ねた溶湯cが成型品(鋳鉄管)Aの外面に咬み込んだりして、鋳鉄管Aの外観品質に悪影響を与える。
この溶湯cの乱れをなくすために、エア圧を下げると、円滑な接種剤bの搬送及び吹き付けができなくなったり、接種管10の詰まりを招いたりする。このため、エア圧を下げることはできない。
また、エルボ管6による接種は、接種剤bが狭い範囲に吹きつけられて固まりとなり、その固まりがモールド1の回転に伴いその内面にスパイラル状に付着してその内面広範囲に均一に散布されにくく、接種剤bが固まった所では、上記と同様に、鋳鉄管Aの外面に咬み込んで鋳鉄管Aの外観品質に悪影響を与える。
【0006】
この発明は、以上の実状の下、エア圧を下げることなく、接種剤bをモールド内面広範囲に均一に散布するようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、この発明は、接種管10から吐出される接種剤bがその管10の軸方向に段階的にモールド内面に向かうようにしたのである。
モールド1内面に向かう接種剤bが接種管(モールド)の軸方向に段階的になれば、それに応じて吹き付け力(エア圧)が抑制されるとともに、接種剤bもモールド内面広範囲に均一に散布される。このため、エア圧を下げることなく、溶湯cの乱れが抑制されて咬み込みも抑制される。
【0008】
この発明に係る遠心鋳造装置としては、軸心回りに回転するモールドと、そのモールドと相対的にモールドの軸心方向に移動してモールド内に進退する溶湯鋳込み用トラフと、そのトラフに設けられてエアーブローによりその先端開口から接種剤を散布する接種管と、を有する遠心鋳造装置において、前記接種管の先端に下面が開口のパイプを延設し(延ばして設け)、そのパイプ内に長さ方向に所要間隔で上下方向の複数の隔壁を設け、その各隔壁に透孔を形成した構成を採用することができる。
上記パイプは、接種管と同一軸上としたり、上向き傾斜や下向き傾斜としたり、さらにそれらにおいて、側方に(横向きに)傾斜したりさせることができ、それらの傾斜角度は円滑な接種ができるように実験などによって適宜に設定する。
【0009】
この構成において、上記各隔壁を、上記パイプの先端に向かって下り傾斜に設けたものとすれば、接種剤が溶湯の送り出される(注湯される)方向に向かうため、その接種作用が円滑になる。
また、上記各透孔を同一軸上とすれば、隔壁を接種剤が円滑に通過し、さらに、透孔の大きさをパイプ先端に向かって順々に小さくすれば、隔壁を通過する接種剤も徐々に少なくなって広範囲かつ均一な接種剤の散布が行われる。
【0010】
また、この発明に係る遠心鋳造装置における接種剤の散布方法としては、軸心回りに回転するモールドと、そのモールドと相対的にモールドの軸心方向に移動してモールド内に進退する溶湯鋳込み用トラフと、そのトラフに付設されてエアーブローによりその先端開口から接種剤を散布する接種管と、を有する遠心鋳造装置における、前記接種管による接種剤の散布(供給・接種)方法において、前記接種管からその軸方向前方に吹き出される接種剤を、前記
接種管の軸方向に所要間隔に設けた複数の隔壁で遮るとともに、その各隔壁の透孔に接種剤を通過させて、前記接種剤を散布する構成を採用することができる。
【0011】
このようにすれば、吹き出される接種剤を隔壁で遮るため、その隔壁に当たった接種剤は下方に落下するとともに、隔壁の透孔を通過した接種剤はさらにつぎの隔壁に当たって落下する作用が行われて、接種剤がモールド内面広範囲に均一に散布され、溶湯の乱れも抑制されて咬み込みも抑制される。
この構成においても、上記各隔壁を、上記エアーブローの吐出方向に向かって下り傾斜に設けて、隔壁に遮られた接種剤を斜め前方に散布するようにすることができる。また、上記各透孔を同一軸上としたり、各透孔の大きさを接種管先端に向かって順々に小さくしたりすることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のように構成して、接種管から吐出される接種剤をその管の軸方向に向かって段階的にモールド内面に向かうようにしたので、吹き付け力が抑制されてその吹き付け力(エア圧)を下げる必要はなく、また、接種剤も広範囲に均一に散布されて、溶湯の乱れも抑制されて咬み込みも抑制される。このため、外観品質の改善された鋳鉄管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明に係る遠心鋳造装置の一実施形態の概略断面図
【
図3】同要部の側面図又は断面図を示し、(a)は左側面、(b)は
図2のI−I線断面図、(c)は右側面
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態を
図1〜
図3に示し、この実施形態の遠心鋳造装置は、
図1に示す、NS形ダクタイル鋳鉄管Aを遠心鋳造するものであって、従来と同様に、円筒形モールド1をローラ2により回転し、取鍋3から三角取鍋4を介して鋳込用トラフ5に溶湯cを送り込み、そのトラフ5をモールド1内の軸心方向に移動して溶湯cをモールド1内に鋳込むとともに、トラフ5横の配管(接種管)10から、エアーブローにより接種剤bを吐出させて、所要厚の円筒状溶湯層(鋳鉄管)Aを形成するものである。図中、Bは中子であり、中子装着機によりモールド1に装着する。
【0015】
このような遠心鋳造装置において、この実施形態は、上記接種管であるパイプ10の先端に同一軸上の下面開口12の(下面にスリットが形成された)断面逆U字状のパイプ11をフランジ15を介して設け(連結し)、その開口12を有するパイプ11内にその長さ方向に所要間隔で上下方向の複数の隔壁13a、13b、13c、13d(総称符号:13)を設けている。
両パイプ10、11は、フランジ15を介してボルト止め接続せずに、ねじ込み接続したり、一本のパイプで構成したりすることもできる。パイプ11の先端は、溶湯cの注湯に影響されないように、トラフ5の先端より後側(
図1において右側)の適宜の位置に設定する。
【0016】
各隔壁13の間隔は、等間隔などとしたり、パイプ11の先端に向かって徐々に狭くしたり、逆に徐々に広くしたり等と任意であり、最適な接種剤bの散布ができるように実験等によって適宜に設定する。また、隔壁13の数も任意であり、開口12もパイプ11の全長に無くても良い。さらに、最終隔壁13dは省略し得る。パイプ11の長さも、隔壁13の間隔等を考慮して同様に最適な接種剤bの散布ができるように実験等によって適宜に設定する。
各隔壁13はパイプ11の先端に向かって下り傾斜になっている。また、各隔壁13a、13b、13cには同一軸e(パイプ11の軸心)上に透孔14a、14b、14c(総称符号14)を形成し、その各透孔14の大きさをパイプ11先端に向かって順々に小さくしている。この透孔14の大きさ変化度合いも、最適な接種剤bの散布ができるように実験等によって適宜に設定する。
【0017】
この構成の遠心鋳造装置によるダクタイル鋳鉄管Aの製造時、パイプ10、11を介し、エアーブローにより吐出される接種剤bは、複数の隔壁13がその吐出方向に順々に設けられ、かつ透孔14も順々に小さくなっているため、
図2に示す、エアーブローの強さも矢印のように段階的に弱くなるとともに、接種剤bの各隔壁13の通過量も段階的に少なくなり、やがて、最終の透孔のない隔壁(蓋板)13dに当たって下方に落下する。
このように、モールド1内面に向かう接種剤bの量(吹き付け量)がモールド1の軸方向に段階的になり、それに応じて吹き付け力が抑制されるとともに、接種剤bも広範囲に均一に散布されるため、溶湯cの乱れも抑制されて咬み込みも抑制される。
【0018】
このとき、隔壁13がパイプ11の先端に向かって下り傾斜になっているため、エアーブローも必要以上に弱くならず、接種剤bが広範囲に円滑に吐出(散布)される。その隔壁13の傾斜角度θは、接種剤bが円滑に散布されるように実験などによって適宜に決定すれば良いが、この実施形態においては、θ=45度とした。
その隔壁13(13a、13b、13c、13d)を下方に鉛直に下げた実施形態を
図4に示す。このとき、隔壁13を右に傾斜(パイプ11の後端に向かって下り傾斜)したものとすることもできる。
【0019】
上記実施形態において、上記パイプ11は、接種管10と同一軸上でなくても、従来のベント管のように、下向き傾斜としたり、逆に上向き傾斜としたりすることができ、さらにそれらにおいて、側方に傾斜したりさせることができ、その傾斜角度は円滑な接種ができるように実験などによって適宜に設定する。
上記透孔14a、14b、14cは、同一軸上でなくても、上下左右にずれていても良い。また、その大きさも、パイプ11の先端に向かって順々に小さくすることなく、同一であったり、前後が逆(前の透孔が後の透孔より小さい)であったり等と、接種剤bの広範囲の円滑な吐出が行われる限りにおいて、任意である。
さらに、上記透孔14は、一の隔壁13に複数あっても良く、極端には、網構造であっても良い。網構造の場合、そのメッシュ度合いを調整することによって、接種剤bの各隔壁13の通過量を調整する。
【0020】
上記実施形態はNS形鋳造管Aの遠心鋳造の場合であったが、S形、US形、UF形、K形、T形、U形、PN形、PII形等の各形の鋳鉄管Aの遠心製造にこの発明を採用し得ることは勿論である。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0021】
A 鋳鉄管
b 接種剤
c 溶湯
1 モールド(鋳型)
2 モールド支持ローラ
3 取鍋
4 三角取鍋
5 注湯用トラフ
6 エルボ管
10 接種管(パイプ)
11 接種剤散布用パイプ
12 パイプ11の開口(スリット)
13、13a、13b、13c、13d 隔壁
14、14a、14b、14c 透孔
15 接続用フランジ