特許第6359499号(P6359499)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6359499耐冷熱衝撃フラックス組成物、ソルダペースト組成物および電子回路基板
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  • 特許6359499-耐冷熱衝撃フラックス組成物、ソルダペースト組成物および電子回路基板 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359499
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】耐冷熱衝撃フラックス組成物、ソルダペースト組成物および電子回路基板
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20180709BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20180709BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20180709BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
   B23K35/363 D
   B23K35/363 C
   B23K35/363 E
   H05K3/34 512C
   !B23K35/26 310A
   !C22C13/00
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-189093(P2015-189093)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-64717(P2017-64717A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】新井 正也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】勝山 司
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−062913(JP,A)
【文献】 特開2015−039718(JP,A)
【文献】 特開2010−094719(JP,A)
【文献】 特開2015−160234(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/104693(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/26
C22C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)合成樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、
前記合成樹脂(A)は、(A−1)メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂を含み、
前記活性剤(B)は、(B−1)臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸と、(B−2)下記一般式(1)で表される化合物とを含み
前記臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸(B−1)と前記下記一般式(1)で表される化合物(B−2)との配合比は、それぞれ15:85から70:30であることを特徴とするフラックス組成物。
【化1】
(式中、R、R、RおよびRは水素または炭素数1から4のアルキル基を表し、これらは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10重量%から90重量%であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)と、前記臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸(B−1)と、前記上記一般式(1)で表される化合物(B−2)との配合比は、それぞれ86:10:4から94:1:5であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
ロジン樹脂を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
フラックス組成物を加熱して形成するフラックス固化物に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた後の前記フラックス固化物の接着力が0.2N/mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフラックス組成物とはんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項8】
前記はんだ合金粉末は、錫および鉛を含む合金、錫および鉛並びに銀、ビスマスおよびインジウムの少なくとも1種を含む合金、錫および銀を含む合金、錫および銅を含む合金、錫、銀および銅を含む合金、錫およびビスマスを含む合金のいずれかから選定されることを特徴とする請求項7に記載のソルダペースト組成物。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のソルダペースト組成物を基板上に印刷し、
前記ソルダペースト組成物を印刷した前記基板上に電子部品を搭載し、
前記電子部品を搭載した前記基板を所定の温度でリフローすることで前記はんだ合金粉末からなるはんだ接合部と前記フラックス組成物からなるフラックス残渣を有するはんだ接合体を形成する方法であって、
当該方法により形成された前記はんだ接合体に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与える前と与えた後のはんだシェア強度の低下率が50%以下であることを特徴とするはんだ接合体の形成方法。
【請求項10】
電子回路基板の製造方法であって、
基板上に電極およびソルダレジスト膜を形成し、
請求項7または請求項8に記載のソルダペースト組成物を基板上に印刷し、
前記ソルダペースト組成物を印刷した前記基板上に電子部品を搭載し、
前記電子部品を搭載した前記基板を所定の温度でリフローすることで前記はんだ合金粉末からなるはんだ接合部と前記フラックス組成物からなるフラックス残渣を有するはんだ接合体が前記基板上に形成され、
前記フラックス残渣は前記基板および前記ソルダレジスト膜の少なくとも一方と前記電子部品との間に介在し、
前記はんだ接合体に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与える前と与えた後のはんだシェア強度の低下率が50%以下であることを特徴とする電子回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成された電極と電子部品等とをはんだ付けする際に使用されるフラックス組成物およびこれを用いたソルダペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品を基板に実装する際に使用されるソルダペースト組成物には、はんだ合金粉末や基板上の金属酸化物の除去や、はんだ合金粉末の表面張力の低下による濡れ性の向上を目的としてフラックス組成物が配合される。
【0003】
このフラックス組成物は、基板上への電子部品の実装後、フラックス残渣としてはんだ接合部やその近傍、例えば基板上や電子部品の端子・リードフレーム等に付着したまま残ることとなる。ここでこのようなフラックス残渣はその性質上、亀裂が発生し易いという問題がある。そしてフラックス残渣に亀裂が生じると、この亀裂を通して水分が電子回路基板の回路部分に浸透して回路をショートさせたり、その回路の金属を腐食させたりするという問題が生じる。
【0004】
またフラックス残渣の亀裂発生を抑制するようなフラックス組成物であっても、例えばこれを用いて電子部品を搭載した電子回路基板が−40℃から125℃といった寒暖の差が激しい環境下に置かれる場合、その激しい冷熱衝撃によりフラックス残渣に亀裂が発生してしまうという問題がある。
【0005】
更にはこのような寒暖の差が激しい環境下においては、実装された電子部品と基板との熱膨張係数の差によってはんだ接合部に大きな応力が発生する。そしてこの応力によりはんだ接合部は塑性変形を繰り返すため、フラックス残渣のみならずはんだ接合部にも亀裂が発生し易くなる。
【0006】
またこの繰り返しの応力の負荷により(亀裂が発生していない)亀裂先端付近のはんだに応力が集中し、発生した亀裂がはんだ接合部のより深くに進展し易くなる。このようにはんだ接合部に発生した亀裂が著しく進展した場合には、最終的に電子部品と基板との電気的な接続が損なわれてしまうという問題がある。
【0007】
このような問題を解決する方法として、電子部品と絶縁膜との間にはんだ部から浸出したフラックスの残渣が介在しており、前記フラックスに用いるアクリル樹脂のガラス転移点が−40℃以下または当該フラックス残渣の軟化温度以上であり、−40℃から当該フラックス残渣の軟化温度までの温度範囲における線膨張係数の最大値が300×10−6/K以下であるフラックス残渣を有するはんだ接合構造が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/104693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年においては、例えば自動車のエンジンルーム内といったような寒暖差がより大きく、しかも激しい振動も負荷されるような環境下における電子回路基板の使用が増えてきている。またこのような環境下に置かれる電子回路基板においても更なる小型化、高密度化の要求は増しており、フラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果に加え、はんだ接合部のボイド抑制およびフラックス飛散の抑制、フラックス残渣の良好な絶縁性等が求められている。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、特にその使用時に−40℃から125℃といった寒暖の差が激しく冷熱衝撃の大きい環境下に置かれる電子回路基板に用いられた場合であっても、フラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏し、更にはんだ接合部のボイドおよびフラックス飛散の抑制、フラックス残渣の良好な絶縁性を奏するフラックス組成物およびこれを用いたソルダペースト組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明のフラックス組成物は、(A)合成樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、前記合成樹脂(A)は、(A−1)メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂を含み、前記活性剤(B)は、(B−1)臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸と、(B−2)下記一般式(1)で表される化合物とを含むことをその特徴とする。
【0012】
【化1】
(式中、R、R、RおよびRは水素または炭素数1から4のアルキル基を表し、これらは同一でも異なっていてもよい。)
【0013】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10重量%から90重量%であることをその特徴とする。
【0014】
(3)上記(1)または(2)に記載の構成にあって、前記メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)と、前記臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸(B−1)と、前記上記一般式(1)で表される化合物(B−2)との配合比は、それぞれ86:10:4から94:1:5であることをその特徴とする。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明のフラックス組成物は、酸化防止剤を更に含むことをその特徴とする。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明のフラックス組成物は、ロジン樹脂を更に含むことをその特徴とする。
【0017】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明のフラックス組成物は、これを加熱して形成するフラックス固化物に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた後の前記フラックス固化物の接着力が0.2N/mm以上であることをその特徴とする。
【0018】
(7)本発明のソルダペースト組成物は、上記(1)から(6)のいずれか1に記載のフラックス組成物とはんだ合金粉末とを含むことをその特徴とする。
【0019】
(8)上記(7)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末は、錫および鉛を含む合金、錫および鉛並びに銀、ビスマスおよびインジウムの少なくとも1種を含む合金、錫および銀を含む合金、錫および銅を含む合金、錫、銀および銅を含む合金、錫およびビスマスを含む合金のいずれかから選定されることをその特徴とする。
【0020】
(9)本発明のはんだ接合体は、上記(7)または(8)のいずれかに記載のソルダペースト組成物を用いて形成され、前記はんだ接合体に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与える前と与えた後のはんだシェア強度の低下率が50%以下であることをその特徴とする。
【0021】
(10)本発明の電子回路基板は、基板上に搭載される電子部品と、前記基板上に形成される電極と、前記基板上に形成されるソルダレジスト膜と、上記(7)または(8)に記載のソルダペースト組成物を用いて形成されるフラックス残渣とはんだ接合部とからなるはんだ接合体とを有する電子回路基板であって、前記フラックス残渣は前記基板および前記ソルダレジスト膜の少なくとも一方と前記電子部品との間に介在し、前記はんだ接合体に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与える前と与えた後のはんだシェア強度の低下率が50%以下であることをその特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフラックス組成物およびこれを用いたソルダペースト組成物は、特にその使用時に−40℃から125℃といった寒暖の差が激しく冷熱衝撃の大きい環境下に置かれる電子回路基板に用いられた場合であっても、フラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏し、更にはんだ接合部のボイドおよびフラックス飛散の抑制、フラックス残渣の良好な絶縁性を奏することができる。
【0023】
またこのようなフラックス残渣およびはんだ接合部を有する電子回路基板は、例えば自動車のエンジンルーム内といった寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きいのみならず、激しい振動も負荷されるような過酷な環境下においても、十分な接合信頼性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る電子回路基板の断面を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のフラックス組成物、ソルダペースト組成物、はんだ接合体および電子回路基板の一実施形態を以下に詳述する。
【0026】
1.フラックス組成物
本実施形態のフラックス組成物は、(A)合成樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含む。
【0027】
(A)合成樹脂
本実施形態のフラックス組成物に用いられる合成樹脂(A)には、メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)が含まれる。
当該アクリル樹脂(A−1)の中でも、メタクリル酸と炭素数2から6のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂、更にはメタクリル酸と炭素数2のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂は、形成されるフラックス残渣(フラックス固化物)のべたつきを抑え且つ良好な亀裂抑制効果を奏することから、特に好ましく用いられる。
【0028】
当該アクリル樹脂(A−1)の酸価は30mgKOH/gから150mgKOH/gであることが好ましく、その重量平均分子量は3,000Mwから30,000Mwであることが好ましい。
また当該アクリル樹脂(A−1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10重量%から90重量%であることが好ましい。
【0029】
また前記アクリル樹脂(A−1)の生成に用いられるモノマー類にはメタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマー以外のモノマーを含めても良く、更には炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーを2種以上含めても良い。当該モノマー類に炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーを2種以上含める場合、例えば炭素数2のアルキル基を有するモノマーと炭素数4のアルキル基を有するモノマーというように、それぞれ異なる炭素数のアルキル基を有するモノマーを含めることが好ましい。この中でも特に、炭素数2のアルキル基を有するモノマーと炭素数6のアルキル基を有するモノマーの併用が好ましい。
【0030】
更に前記アクリル樹脂(A−1)の生成に用いられるモノマー類は、メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとをそれぞれ4:96から20:80の割合で含めることが好ましい。
【0031】
また前記合成樹脂(A)には、前記アクリル樹脂(A−1)以外のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、マレイン酸樹脂、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等およびこれらを天然樹脂で変性したもの等のその他の合成樹脂を含めることができる。その他の合成樹脂としては酸価を有するものも有さないものもいずれも使用することができるが、酸価を有するものが好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
なお、本実施形態において、合成樹脂(A)とは天然樹脂、変性天然樹脂以外の樹脂を意味する。
【0032】
前記合成樹脂(A)として前記アクリル樹脂(A−1)とその他の合成樹脂とを併用する場合、合成樹脂(A)全体の酸価は30mgKOH/gから150mgKOH/gであることが好ましい。またこの場合、合成樹脂(A)全量の配合量はフラックス組成物全量に対して10重量%から90重量%であることが好ましい。
【0033】
(B)活性剤
本実施形態のフラックス組成物には、活性剤(B)として(B−1)臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸と(B−2)下記一般式(1)で表される化合物とを含めることが好ましい。
【0034】
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは水素または炭素数1から4のアルキル基を表し、これらは同一でも異なっていてもよい。)
【0035】
前記臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸(B−1)の中でも脂肪酸の炭素数は3から6が好ましく、更には臭素原子が当該脂肪酸の少なくとも2位に配置されていることが好ましい。
このような脂肪酸(B−1)としては、例えば2−ブロモプロピオン酸、2−ブロモ酪酸、2−ブロモヘキサン酸、2,3ジブロモプロピオン酸、2,3−ジブロモコハク酸等が挙げられる。これらの中でも特に1つの臭素原子を有する2−ブロモプロピオン酸、2−ブロモ酪酸、2−ブロモヘキサン酸が好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
また当該脂肪酸(B−1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.1重量%から4重量%であることが好ましい。当該配合量をこの範囲とすることで、基板上のランドへの腐食性抑制とフラックス残渣の良好な絶縁抵抗性を向上させることができる。
【0036】
また前記一般式(1)で表される化合物(B−2)は、ピコリン酸、6−メチルピコリン酸、6−エチルピコリン酸、3−シクロプロピルピコリン酸、4−シクロプロピルピコリン酸、5−ブチルプロピルピコリン酸、6−シクロブチルピコリン酸等が挙げられる。これらの中でも特にピコリン酸が好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
また前記一般式(1)で表される化合物(B−2)の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.1重量%から4重量%であることが好ましい。当該配合量をこの範囲とすることで、ソルダペーストの良好な印刷性とフラックス残渣の良好な絶縁抵抗性を向上させることができる。
【0037】
前記脂肪酸(B−1)と前記一般式(1)で表される化合物(B−2)との配合比は、それぞれ15:85から70:30であることが好ましい。
【0038】
本実施形態のフラックス組成物には、前記活性剤(B)として、前記脂肪酸(B−1)および前記上記一般式(1)で表される化合物(B−2)以外のその他の活性剤を含めることができる。その他の活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩等を配合することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
前記活性剤(B)として前記脂肪酸(B−1)と前記一般式(1)で表される化合物(B−2)とその他の活性剤とを併用する場合、活性剤(B)全量の配合量はフラックス組成物全量に対して6重量%から14重量%であることが好ましい。
【0039】
本実施形態のフラックス組成物は、前記メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)と、前記臭素原子およびカルボキシル基を有する炭素数2から6の脂肪酸(B−1)と前記上記一般式(1)で表される化合物(B−2)とを含むことにより、これを用いたソルダペースト組成物がボイド抑制、フラックス飛散抑制およびフラックス残渣の絶縁性といったソルダペースト組成物に求められる特性を有しつつ、更に形成されるフラックス残渣に良好な接着力を付与することができることから、寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下においてもフラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏することができる。
【0040】
またこのようなフラックス残渣は、これに−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた後のその接着力を0.2N/mm以上に保つことができる。
【0041】
なお、特に前記アクリル樹脂(A−1)と、前記脂肪酸(B−1)と、前記一般式(1)で表される化合物(B−2)との配合比率がそれぞれ86:10:4から94:1:5である場合に、特に上記効果を奏することができる。
【0042】
(C)チキソ剤
本実施形態のフラックス組成物に用いられるチキソ剤(C)としては、例えばヒマシ油、水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
前記チキソ剤(C)の配合量は、フラックス組成物全量に対して3重量%から15重量%であることが好ましい。
【0043】
(D)溶剤
本実施形態のフラックス組成物に用いられる溶剤(D)としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
前記溶剤(D)の配合量は、フラックス組成物全量に対して20重量%から40重量%であることが好ましい。
【0044】
(E)酸化防止剤
本実施形態のフラックス組成物には、はんだ合金粉末の酸化を抑える目的で酸化防止剤(E)を使用することができる。このような酸化防止剤(E)としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特にヒンダードフェノール系酸化剤が好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
前記酸化防止剤(E)の配合量は特に限定されないが、一般的にはフラックス組成物全量に対して0.5重量%から5重量%程度であることが好ましい。
【0045】
(F)ロジン樹脂
本実施形態のフラックス組成物には、合成樹脂(A)以外の樹脂として、ロジン樹脂(F)を使用することができる。前記アクリル樹脂(A−1)とロジン樹脂(F)とを併用すると、リフロー中のはんだ合金粉末表面の酸化膜の除去をより効率よく行うことができる。
このようなロジン樹脂(F)としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン、およびロジンを重合化、水添化、不均一化、アクリル化、マレイン化、エステル化、およびフェノール付加反応等を行ったロジン誘導体、変性ロジン樹脂等を使用することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
またロジン樹脂(F)としては、酸価を有するものも有さないものもいずれも使用することができるが、酸価を有するものが好ましく用いられる。
前記ロジン樹脂(F)の配合量は、フラックス組成物全量に対して20重量%以下であることが好ましい。
【0046】
また本実施形態のフラックス組成物には、つや消し剤、消泡剤等の添加剤を使用することができる。当該添加剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して10重量%以下、特に5重量%以下であることが好ましい。
【0047】
なお本明細書において、本実施形態のフラックス組成物を加熱して形成するフラックス固化物とは、フラックス組成物のみを加熱して形成するものと、当該フラックス組成物とはんだ合金粉末とを含むソルダペースト組成物を用いて電子回路基板上に電子部品を実装した場合に当該電子基板上に形成されるフラックス残渣の両方を意味する。
【0048】
2.ソルダペースト組成物
本実施形態のソルダペースト組成物は、上記フラックス組成物とはんだ合金粉末とを混合することにより得られる。
前記はんだ合金粉末としては、例えば錫および鉛を含む合金、錫および鉛並びに銀、ビスマスおよびインジウムの少なくとも1種を含む合金、錫および銀を含む合金、錫および銅を含む合金、錫、銀および銅を含む合金、錫およびビスマスを含む合金等を用いることができる。またこれら以外にも、例えば錫、鉛、銀、ビスマス、インジウム、銅、亜鉛、ガリウム、アンチモン、金、パラジウム、ゲルマニウム、ニッケル、クロム、アルミニウム、リン等を適宜組合せたはんだ合金粉末を使用することができる。なお、上記に挙げた元素以外であってもその組合せに使用することは可能である。
これらの中でも特に錫、銀および銅を含むはんだ合金粉末、例えば錫−鉛系はんだ合金、錫−銀系合金はんだ、錫−銀−銅系はんだ合金、錫−銀−銅−ビスマス系はんだ合金、錫−銀−銅−インジウム系はんだ合金、錫−銀−銅−ビスマス−インジウム系はんだ合金の粉末が好ましく用いられる。
【0049】
前記はんだ合金粉末の配合量は、ソルダペースト組成物全量に対して65重量%から95重量%であることが好ましい。より好ましい配合量は85重量%から93重量%であり、特に好ましい配合量は89重量%から92重量%である。
前記はんだ合金粉末の配合量が65重量%未満の場合には、得られるソルダペースト組成物を用いた場合に充分なはんだ接合が形成されにくくなる傾向にある。他方はんだ合金粉末の含有量が95重量%を超える場合にはバインダとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ合金粉末とを混合しにくくなる傾向にある。
【0050】
本実施形態のソルダペースト組成物は上記フラックス組成物を使用することにより、ボイド抑制、フラックス飛散抑制およびフラックス残渣の絶縁性といったソルダペースト組成物に求められる特性を有しつつ、更に形成されるフラックス残渣に良好な接着力を付与することができる。このようなフラックス残渣は、寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下においてもその接着力を発揮しはんだ接合部に発生する応力を抑制するため、フラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏することができる。
またこのようなフラックス残渣は、これに−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた後のその接着力を0.2N/mm以上に保つことができる。
【0051】
3.はんだ接合体/電子回路基板
本実施形態のはんだ接合体は、上記ソルダペースト組成物を用いて形成されることが好ましい。また例えば、上記はんだ合金粉末からなるソルダボールと上記フラックス組成物とを用いて形成されてもよい。なお、はんだ接合体とは、はんだ接合部およびこれに接着するようにまたはこの近傍に形成されるフラックス残渣を指す。
【0052】
前記はんだ接合体を有する電子回路基板は、例えば基板上の所定の位置に電極およびソルダレジスト膜を形成し、所定のパターンを有するマスクを用いて本実施形態のソルダペースト組成物を印刷し、当該パターンに適合する電子部品を所定の位置に搭載し、これをリフローすることにより作製される。
このようにして作製された電子回路基板は、前記電極上にはんだ接合部が形成され、当該はんだ接合部は当該電極と電子部品とを電気的に接合する。
また前記基板上にははんだ接合部に接着するようにまたはこの近傍にフラックス残渣が付着しており、当該フラックス残渣は、前記基板および前記ソルダレジスト膜の少なくとも一方と前記電子部品との間に介在してこれらを接着している。
【0053】
このようなはんだ接合体は、上記フラックス組成物を使用することにより、ボイド抑制、フラックス飛散抑制およびフラックス残渣の良好な絶縁性に加え、フラックス残渣が良好な接着力を有する。このようなフラックス残渣は、寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下においてもその接着力を発揮しはんだ接合部に発生する応力を抑制するため、フラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏することができる。
またこのようなはんだ接合体は、これに−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた場合であっても、当該冷熱衝撃試験の前と後のはんだシェア強度の低下率を50%以下に抑制することができる。
【0054】
なお、特に前記フラックス残渣が前記はんだ接合部に接着し、且つ前記基板および前記ソルダレジスト膜の少なくとも一方と前記電子部品との間に介在してこれらを接着している構成、特に前記基板および前記ソルダレジスト膜の少なくとも一方、前記電子部品および前記はんだ接合部により囲まれる空間を埋めるようにこれらに接着している構成の場合、上記効果をより奏することができる。また前記フラックス残渣は、基板上のこれ以外の場所や、前記電子部品の他の場所に付着するように形成されていてもよい。
【0055】
なお、本実施形態の電子回路基板に実装される電子部品の種類は特に限定されないが、例えばチップコンデンサ、チップLEDといったチップ型部品を実装する際に特にその効果をより発揮することができる。
【0056】
このような電子回路基板は、自動車のエンジンルーム内といった寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下においても好適に用いることができ、高い信頼性を保つことができる。
【0057】
以下、図1を用いて本実施形態の電子回路基板の一例を説明する。
【0058】
当該実施形態に係る電子回路基板100は、基板1、電極2、ソルダレジスト膜3、はんだ接合体4、はんだ接合部41、フラックス残渣42、電子部品5、電子部品の外部電極6および電子部品の端部7とからなる。
電極2およびソルダレジスト膜3は基板1上に形成されている。はんだ接合体4ははんだ接合部41とフラックス残渣42とからなり、はんだ接合部41は、電極2と外部電極6とを電気的接合するように形成されている。またフラックス残渣42は、はんだ接合部4、および電子部品5の基板1側表面とこれに対向するソルダレジスト膜3表面とに接着するよう形成されている。更にフラックス残渣42は、ソルダレジスト膜3とはんだ接合部41と端部7に接着するようにも形成されている。
【0059】
フラックス残渣42は良好な接着力を有し、これに−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた後のその接着力を0.2N/mm以上に保つことができる。これにより、フラックス残渣42は電子回路基板100が寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下に置かれた場合であってもその接着力を発揮してはんだ接合部41に発生する応力を抑制するため、フラックス残渣42およびはんだ接合部41の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏することができる。
【0060】
またはんだ接合体4はこのような構成により、これに−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた場合であっても、当該冷熱衝撃試験の前と後のはんだシェア強度の低下率を50%以下に抑制することができる。
なお、特に図1のようにフラックス残渣42が電子部品5の基板1側表面とこれに対向するソルダレジスト膜3の表面との隙間を埋めるように形成されている場合、フラックス残渣42およびはんだ接合部41の亀裂発生およびその進展の抑制効果を向上することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては基板1上にソルダレジスト膜3が形成された状態で電子部品5が実装されているが、例えばセラミック基板のように基板上にソルダレジスト膜を形成しない基板上に電子部品を実装した電子回路基板であっても同様の効果を奏する。
【0062】
また本明細書において、前記フラックス固形物(フラックス残渣)の接着力は、以下の測定方法にて測定される。
【0063】
フラックス組成物またはこれを用いたソルダペースト組成物を用いて基板上にチップ部品を表面実装し、当該基板上にフラックス固形物を形成する。当該フラックス固形物は前記チップ部品と前記基板の両方に接着するように形成される。
その後、冷熱衝撃試験装置等を用いて前記基板に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えて試験基板を作製する。
【0064】
そして当該試験基板上に形成されたフラックス固形物について、オートグラフ等を用いてその接着力を測定する。測定の条件はJIS規定C60068−2−21に準拠する。測定に用いるジグは端面が平坦で部品寸法と同等以上の幅を持つせん断ジグとする。測定にあたっては、当該せん断ジグを前記冷熱衝撃試験後のチップ部品側面に突き当てて所定のせん断速度にて基板に平行な力を加えてその最大試験力を求め、この値を前記チップ部品の面積で除してフラックス固形物の接着力を算出する。この時、せん断高さは部品高さの1/4以下とし、せん断速度は5mm/分とする。
【0065】
更に本明細書において、前記はんだ接合体のはんだシェア強度およびその低下率は、以下の測定方法にて測定される。
【0066】
ソルダペースト組成物を用いて基板上にチップ部品を表面実装し、当該基板上にはんだ接合体を形成する。当該チップ部品を実装した基板についてオートグラフ等を用いてそのはんだシェア強度を測定する。
その後、冷熱衝撃試験装置等を用いて前記基板に−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えて試験基板を作製する。
【0067】
次いで、当該試験基板上にあるはんだ接合体について、オートグラフ等を用いてそのはんだシェア強度を測定する。
冷熱衝撃試験前後のはんだシェア強度測定の条件はJIS規定C60068−2−21に準拠する。測定に用いるジグは端面が平坦で部品寸法と同等以上の幅を持つせん断ジグとする。測定にあたっては、当該せん断ジグを基板のチップ部品側面に突き当てて所定のせん断速度にて基板に平行な力を加えてその最大試験力を求め、この値をはんだシェア強度とする。この時、せん断高さは部品高さの1/4以下とし、せん断速度は5mm/分とする。
【0068】
そして、冷熱衝撃試験前のはんだ接合体のはんだシェア強度に対し、冷熱衝撃試験後により低下したはんだシェア強度の割合を百分率で示した値をはんだシェア強度の低下率(%)とする。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)の合成
以下の成分および手順にて、アクリル樹脂(A−1)を作製した。
メタクリル酸10重量%、2−エチルヘキシルメタクリレート51重量%、ラウリルアクリレート39重量%を混合した溶液を作製した。
その後、撹拌機、流管および窒素導入管とを備えた500mlの4つ口フラスコにジエチレングリコールモノヘキシルエーテル200gを仕込み、これを110℃に加熱した。その後、上記溶液300gにアゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(製品名:V−601、和光純薬(株)製)を0.2重量%から5重量%を加えてこれを溶解させた。
この溶液を上記4つ口フラスコに1.5時間かけて滴下し、当該4つ口フラスコ内にある成分を110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、メタクリル酸と炭素数2以上のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂(A−1)を得た。なお、当該アクリル樹脂(A−1)の重量平均分子量は7,800Mw、酸価は40mgKOH/g、ガラス転移温度は−47℃であった。
【0071】
フラックス組成物
表1に記載の各成分を混練し、実施例1から6、9から11、参考例7、8および比較例1に係る各フラックス組成物を得た。なお、特に記載のない限り、表1に記載の数値は重量%を意味するものとする。
【0072】
【表1】
【0073】
<フラックス残渣接着力>
各フラックス組成物について、フラックス残渣の接着力を測定した。その測定方法は以下の通りである。また測定した数値を表2に示す。
【0074】
はんだ付パターンを有していない、ソルダレジストを備えたガラスエポキシ基板を各フラックス組成物につき5枚用意し、これに3.2mm×1.6mmサイズのチップ部品と、当該チップ部品を実装するために形成された開口を持つ厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記各ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各フラックス組成物を印刷し、前記チップ部品を搭載した。その後、酸素濃度1,500±500ppmの窒素雰囲気下において、ピーク温度を240℃に設定したリフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各基板を加熱し、フラックス残渣にて当該各基板と前記チップ部品とを接着した。
次に、前記各5枚の基板からそれぞれ1枚を試験前基板として残し、それ以外の各基板を−40℃(30分間)〜125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)に入れ、上記冷熱衝撃サイクルを2,000サイクルまで、500サイクル毎に各基板を1枚ずつ取り出しつつ、上記冷熱サイクルを繰り返す環境下に曝し、各試験基板を作製した。
【0075】
前記各試験前基板と各試験基板について、それぞれ前記チップ部品の接着力(フラックス残渣の接着力)をオートグラフ(製品名:EZ−L−500N、(株)島津製作所製)を用いて測定した。測定条件は、JIS規定C60068−2−21に準拠した。また接着力の測定に際しては、ジグは端面が平坦で部品寸法と同等以上の幅を持つせん断ジグを用いた。このせん断ジグを前記チップ部品側面に突き当てて所定のせん断速度で基板に平行な力を加えて最大試験力を求め、この値をフラックス残渣の接着力(N)とした。またこの値を前記チップ部品の面積で除してフラックス残渣の接着力(N/mm)を算出した。この時、せん断高さは部品高さの1/4以下とし、せん断速度は5mm/分とした。
なお表2には、上記冷熱衝撃サイクルを2,000サイクル繰り返した後のフラックス残渣の接着力(N)および(N/mm)を記載した。
【0076】
次に、上記各フラックス組成物11.0重量%と、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金粉末(平均粒径20μmから36μm)89.0重量%とを混合し、実施例1から6、9から11、参考例7、8および比較例1に係る各ソルダペースト組成物を作製した。
【0077】
各ソルダペースト組成物について、はんだ接合部のはんだシェア強度低下率、はんだ亀裂進展性、はんだシェア強度低下率、はんだ亀裂進展抑制、ボイド抑制、ボール抑制、銅板腐食抑制および絶縁抵抗を測定し、その結果に基づき評価を行った。これらの測定方法および評価方法は以下の通りである。またその評価結果を表2に示す。
【0078】
<はんだシェア強度低下率>
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよびチップ部品を接続する電極(1.6mm×1.0mm)とを備えたガラスエポキシ基板を各ソルダペースト組成物につき5枚と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記各ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、前記チップ部品を搭載した。その後、酸素濃度1,500±500ppmの窒素雰囲気下において、ピーク温度を240℃に設定したリフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各基板を加熱し、はんだ接合体を有する各基板を作製した。
次に、前記各5枚の基板からそれぞれ1枚を試験前基板として残し、それ以外の各基板を−40℃(30分間)〜125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)に入れ、上記冷熱衝撃サイクルを2,000サイクルまで、500サイクル毎に各基板を1枚ずつ取り出しつつ、上記冷熱サイクルを繰り返す環境下に曝し、各試験基板を作製した。
【0079】
前記各試験前基板と各試験基板について、それぞれ前記チップ部品のシェア強度をオートグラフ(製品名:EZ−L−500N、(株)島津製作所製)を用いて測定した。測定条件は、JIS規定C60068−2−21に準拠した。また接着力の測定に際しては、ジグは端面が平坦で部品寸法と同等以上の幅を持つせん断ジグを用いた。このせん断ジグを前記チップ部品側面に突き当てて所定のせん断速度で基板に平行な力を加えて最大試験力を求め、この値をシェア強度とした。この時、せん断高さは部品高さの1/4以下とし、せん断速度は5mm/分とした。
そして、前記各試験前基板のシェア強度に対し、各試験基板のシェア強度の割合を百分率で示した値を強度低下率(%)として求めた。なお表2においては、上記冷熱衝撃サイクルを2,000サイクル繰り返した試験基板でのシェア強度低下率(%)を求め、以下の通り評価した。
◎:シェア強度低下率が35%以下
○:シェア強度低下率が35%を超え、40%以下
△:シェア強度低下率が40%を超え、45%以下
×:シェア強度低下率が45%超え
【0080】
<はんだ亀裂進展抑制>
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよびチップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたガラスエポキシ基板を各ソルダぺースト組成物につき5枚と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクとを用意した。
前記各ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、前記チップ部品を搭載した。その後、酸素濃度1500±500ppmの窒素雰囲気下において、リフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて以下のリフロー条件にて前記各基板をリフローし、はんだ接合体を形成した。
リフロー条件
プリヒート:170℃から190℃、110秒間、ピーク温度:245℃
200℃以上の時間は65秒間、220℃以上の時間は45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
次に、前記各5枚の基板を−40℃(30分間)〜125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)に入れ、上記冷熱衝撃サイクルを3,000サイクルまで、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000サイクルの時点で各基板を1枚ずつ取り出しつつ、上記冷熱サイクルを繰り返す環境下に曝し、各試験基板を作製した。
【0081】
そして、前記各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol−25、丸本ストルアス(株)製)を用いて前記各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、そのはんだ接合部の組織内部に進行した亀裂を走査電子顕微鏡(製品名:TM−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、以下のように評価した。なお、各サイクルにおける評価チップ数は20個とした。
○:2,501から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生した
△:2,001から2,500サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生した
×:2,000サイクル未満ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生した
【0082】
<ボイド抑制>
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよびチップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクとを用意した。
前記各ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、前記チップ部品を搭載した。その後、酸素濃度1500±500ppmの窒素雰囲気下において、リフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて以下のリフロー条件にて前記各基板をリフローし、各試験基板を作製した。
リフロー条件
プリヒート:170℃から190℃、110秒間、ピーク温度:245℃
200℃以上の時間は65秒間、220℃以上の時間は45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
【0083】
次に、前記各試験基板の表面状態をX線透過装置(製品名:SMX−160E、(株)島津製作所製)で観察して、はんだ接合部が形成されている領域に占めるボイドの総面積の割合(ボイドの面積率)を測定した。そして各試験基板中40箇所のランドにおけるボイドの面積率の平均値を求め、以下のように評価した。
○:ボイドの面積率の平均値が10%以下であって、ボイド発生の抑制効果が良好
△:ボイドの面積率の平均値が10%超え15%以下であって、ボイド発生の抑制効果が十分
×:ボイドの面積率の平均値が15%超え20%以下であって、ボイド発生の抑制効果が不十分
【0084】
<ボール抑制>
ボイド抑制試験と同様の条件にて各試験基板を作製した。
次いで、前記各試験基板をX線透過装置(製品名:SMX−160E、(株)島津製作所製)で観察し、前記チップ部品の周辺およびその下面に発生したボール数をカウントし、以下のように評価した。
○:実装された10個のチップ部品の周辺およびその下面に発生したボール数が0個
△:実装された10個のチップ部品の周辺およびその下面に発生したボール数が0個超え5個以下
×:実装された10個のチップ部品の周辺およびその下面に発生したボール数が5個超え10個以下
【0085】
<銅板腐食抑制>
各ソルダペーストについてJIS規定Z 3284(1994)に準拠し各試験基板を作製および銅板腐食試験を行い、以下のように評価した。
○:腐食なし
×:腐食あり
【0086】
<絶縁抵抗>
各ソルダペーストについてJIS規定Z 3284(1994)に準拠し各試験基板を作製し、その電極間の絶縁抵抗を85℃、85%R.H.(相対湿度)、印加電圧32V直流の条件下で測定し、以下のように評価した。
○:測定初期値が1.0×10Ω以上
△:測定初期値が1.0×10Ω以上、1.0×10Ω未満
×:測定初期値が1.0×10Ω未満
【0087】
【0088】
以上、実施例に示す通り、本実施例のフラックス組成物は、−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を2,000サイクル与えた後の接着力を0.2N/mm以上に保つことができる。そのため、これを用いたソルダペースト組成物がボイド抑制、フラックス飛散抑制およびフラックス残渣の絶縁性といったソルダペースト組成物に求められる特性を有しつつ、更に形成されるフラックス残渣に良好な接着力を付与することができ、寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下においてもフラックス残渣およびはんだ接合部の亀裂発生およびその進展の抑制効果を奏することができる。そしてこれに起因して、はんだ接合体のシェア強度の低下も抑性される。
このようなフラックス組成物およびソルダペースト組成物を用いた電子回路基板は、特に高信頼性が要求されると共に寒暖の差が激しく冷熱衝撃が大きい環境下においても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 電極
3 ソルダレジスト膜
4 はんだ接合体
41 はんだ接合部
42 フラックス残渣
5 電子部品
6 外部電極
7 端部
100 電子回路基板

図1