(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
760〜940MPaの引張強度および少なくとも50%の穴広げ率(hole expansion ratio)を有する熱間圧延鋼ストリップを製造するためのプロセスであって、
前記熱間圧延鋼ストリップが、フェライトと、ベイナイトと、少なくとも3%のマルテンサイト(前記フェライト相および前記ベイナイト相の総体積は80%以上である)と、所望により、テンパリングされたマルテンサイト、残留オーステナイトおよび/または30nm以下の平均直径を有する微細炭化物もさらに含んでなる最終微細構造を有し、
前記微細構造が、パーライトおよび/または粗Fe3Cを含有せず、質量%で:
・0.07〜0.15%のC、
・0.65〜1.30%のMn、
・0.6〜1.4%のCr、
・0.005〜0.35%のSi、
・0.03%以下のP、
・0.05%までのS、
・0.001%までのB、
・0.07〜0.2%のTi、
・0.003〜0.6%のAl、
・0.01%までのN、
・残部鉄および製鉄プロセスに起因する不可避の不純物、
からなる、プロセスであって;
・連続キャスティング、薄スラブキャスティング、ベルトキャスティングまたはストリップキャスティングによって、所望によりカルシウム処理された、前記組成の鋼スラブまたは厚ストリップを提供する工程と、
・所望により、続けて鋼スラブまたはストリップを最大で1300℃の再加熱温度で再加熱する工程と、
・前記スラブまたは厚ストリップを熱間圧延し、前記最終熱間圧延パスの間に前記鋼鉄が依然としてオーステナイトであるように、Ar3より高い熱間圧延完了温度にて前記熱間圧延プロセスを完了させる工程と、
・前記熱間圧延ストリップを少なくとも20℃/sの冷却速度で連続冷却または断続冷却によってMs〜Bsのコイリング温度まで冷却する工程と、
を含んでなることを特徴とする、プロセス。
連続冷却または断続冷却による前記熱間圧延ストリップの冷却が少なくとも30℃/sの冷却速度である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼ストリップを製造するためのプロセス。
連続冷却または断続冷却による前記熱間圧延ストリップの冷却が最大で150℃/sの冷却速度である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼ストリップを製造するためのプロセス。
【背景技術】
【0002】
高強度での成形性の向上は、幅広い市場にとって望ましい。特に、法令が燃費および安全性における改善を推し進めている自動車産業では、より強力で形成可能な高強度鋼へ向かう流れがある。高強度および超高強度ストリップ鋼は、自動車メーカーに車両構造の軽量化の可能性ならびに電気自動車およびハイブリッド車への移行に起因する重量増加に対抗するチャンスを提供する。加えて、高強度および超高強度鋼は、最新の乗用車の性能および耐衝撃損壊性を決定するのに重要な役割を果たす。
【0003】
近年、高強度および成形性の要件を満たすためにいわゆる多相鋼が開発された。二相(DP)鋼(フェライトとマルテンサイトとを含んでなる)および変態誘起塑性(TRIP)鋼(フェライトとベイナイトと残留オーステナイトとを含んでなる)をはじめとするそのような鋼鉄は、高強度で高い一様伸び(uniform elongation)び全伸び(total elongation)を提供する。
【0004】
多くの用途に関して、引張伸び(tensile elongation)は成形性の重要な指標とみなすことができるが、ある形成経路および稼働中の性能については他のパラメータが重要である場合がある。特に、高い延伸端部延性(穴広げ性)は、ホワイトボディおよびシャシおよびサスペンション内の幅広い適用について非常に重要であり得る。硬質相および軟質相の混合物を含んでなるが高い引張伸びを提供する、DPおよびTRIP鋼で見られるもののような通常の多相微細構造は、概して延伸端部延性試験で成績がよくない。
【0005】
最近、延伸端部延性が著しく改善された新種の鋼鉄の開発に努力が向けられている。ナノ析出フェライト鋼(Nano Precipitated Ferrite Steel)、複合相鋼(Complex phase steel)およびいわゆる第3世代AHSSをはじめとするそのような鋼鉄は、引張延性と延伸端部延性との間でより良好なバランスがとられるように設計される。複合相鋼は、冷間圧延アニーリングおよび熱間圧延状態の両方で最も商業的に利用されるこれらの変異体である。
【0006】
複合相鋼の微細構造は、フェライトをベイナイトおよびマルテンサイトとともに含んでなる。そのような構造は、ある程度の引張延性と引きかえに、DP鋼よりもはるかに改善された延伸端部延性を示す。しかしながら、所望により、は、引張延性が延伸端部延性と引きかえにされる。例としては、ストレッチ性よりむしろ曲げ性が必要とされるロール成形品、事前に穴があけられているブランクから形成される部品、そのデザインがプレス成形の間に高い端部変形をもたらす部品が挙げられる。
【0007】
複合相鋼はさらに、概してDPまたはTRIP鋼よりも成形前に高い降伏強度を示す。成形前の高い降伏比もまた、ロール成形での形状制御に関して有利である可能性があり、成形部品で所望の強度を達成し、これらの部品はほとんど変形せず、また形成された成分全体にわたって均一な強度を達成する。高い降伏強度はまた、衝突においても有益である可能性がある。高い降伏強度および微細構造のより優れた均一性は、シャシおよびサスペンションの用途において特に重要な疲労性能に関しても有益であり得る。
【0008】
CP鋼の複雑な性質はプロセスの厳しい管理を要求する。3相はランアウトテーブルまたはコイル上で形成されなければならない。必要とされる複雑な冷却パターンを達成できないために、コイル間およびコイル内の機械的特性の許容されない変動の原因となる可能性がある。プロセス変動に反応せず、コイル間およびコイル内で一貫した特性を可能にする化学的性質は、商業的CP鋼の製造にとって重要な要件である。
【0009】
本発明の目的は、760〜940MPaの引張強度を有する熱間圧延鋼ストリップを製造するための方法を提供することである。
【0010】
もう1つの目的は、760〜940MPaの引張強度を有する熱間圧延鋼ストリップを製造することである。
【0011】
もう1つの目的は、高い降伏強度と均一な微細構造と良好な穴広げ特性とを有する熱間圧延鋼ストリップを製造することである。
【0012】
1以上の本発明の目的は、760〜940MPaの引張強度および少なくとも50%の穴広げ率を有する熱間圧延鋼ストリップを製造するためのプロセスによって達成され、この鋼鉄は、フェライトとベイナイトと少なくとも3%のマルテンサイト(ここで、フェライト相とベイナイト相との総体積は80%以上である)と、所望により、テンパリングされたマルテンサイト、残留オーステナイトおよび/または30nm以下の平均直径を有する微細炭化物とを含んでなる最終微細構造を有し、この微細構造はパーライトおよび/または粗Fe3Cを含有せず、重量%で:
・0.07〜0.15%のC、
・0.65〜1.30%のMn、
・0.6〜1.4%のCr、
・0.005〜0.8%のSi、
・0.06%までのP、
・0.05%までのS、
・0.001%までのB、
・0.07〜0.2%のTi、
・0.003〜0.6%のAl、
・0.01%までのN、
・所望により、MnS介在物制御のためのカルシウム処理と合致した量のカルシウム、またはMnS介在物制御のための処理と合致した量のREM、
・残部鉄および製鉄プロセスに起因する不可避の不純物、
を含んでなり、
このプロセスは、
・連続キャスティング、薄スラブキャスティング、ベルトキャスティング、またはストリップキャスティングによって所望によりカルシウム処理された、前記組成の鋼スラブまたは厚ストリップを提供する工程と、
・所望により、続けてこの鋼スラブまたはストリップを最大で1300℃の再加熱温度で再加熱する工程と、
・このスラブまたは厚ストリップを熱間圧延し、最終熱間圧延パスの間で鋼鉄が依然としてオーステナイトであるように熱間圧延プロセスをAr
3より高い熱間圧延完了温度で完了させる工程と、
・少なくとも20℃/sの冷却速度でMs〜Bsのコイリング温度まで連続冷却または断続冷却(interrupted cooling)することによって熱間圧延されたストリップを冷却する工程と、を含んでなる。
【0013】
好ましい実施形態は、従属クレームで開示される。
【0014】
化学成分を次に記載する。ちなみに、化学組成に関連して以下の説明全体にわたって用いられる「%」という表現は、重量パーセント(wt.%)を意味する。
【0015】
炭素(C)は硬化性および固溶強化を提供する。Cは、Tiを含有する炭化物を形成し、これはフェライトマトリックス中で微細に析出して、鋼板に高強度を付与する。また、Cはマルテンサイトの形成を可能にするために充分な硬化性を保証する。しかしながら、Cの量が0.07%未満である場合、マルテンサイトは形成されない。C量が0.15%を超える場合、ベイナイトを犠牲にしてマルテンサイトの過度の形成が促進され、伸びフランジ性および点溶接性が低下する。炭素添加は点溶接性を保証するために0.15%未満、好ましくは0.13%未満でなければならない。
【0016】
マンガン(Mn)は著しい固溶強化を提供し、硬化性を増大させ、フェライト変態温度およびフェライト変態速度を抑制する。Mnは、好ましくは1wt%以下、好ましくは0.95%以下でなければならない。このレベルよりも高いMn含有量はフェライトの成長速度の過度の遅延に至り、したがって充分なフェライトを形成するためにフェライト変態範囲で冷却停止(cooling arrest)の適用が必要とされる。Mnはまた、オーステナイト相中のC拡散を促進することによってセメンタイト形成を抑制し、硬化相の形成に寄与する働きもする。しかしながら、Mn含有量が0.65%より低い場合、セメンタイト形成を抑制する効果は充分ではない。また、Mn含有量が1.30%を超える場合、分離が顕著になり、鋼鉄の加工性を低下する。Mnの好適な最大値は1.0%である。
【0017】
ケイ素(Si)は顕著な固溶強化を提供し、セメンタイトおよびパーライトの形成を遅らせ、かくして粗炭化物の形成を抑制し、穴広げ性(hole expansivity)を増強する。これに関して、鋼鉄が0.005%以上、好ましくは0.1%以上のSiを含有することが望ましい。好ましくは、工業生産ではパーライト形成を防止するために、Siは0.4wt%より多くなくてはならない。しかしながら、Siが0.8%を超える量で添加される場合、鋼板の表面特性が損なわれ、鋼板のめっき特性は悪影響を受ける。さらに、熱間圧延中の摩擦は高いケイ素レベルで深刻な問題になる可能性がある。めっき特性および/または圧延荷重がパーライト形成よりも重大な懸念である場合、Siの好適な最大値は0.35%である。
【0018】
リン(P)は固溶強化の促進に有効であるが、さらに、粒子境界への偏析の結果として鋼鉄の伸びフランジ性を減少させる。さらに、Pは熱間加工温度での脆化の原因となる可能性がある。これらの理由から、Pの量はできるだけ少なくなければならない。最大許容リン含有量は0.06%以下であり、好ましくは0.03%以下である。
【0019】
イオウ(S)は、潜在的にTiまたはMnの硫化物を形成し、したがってTiおよびMnの有効量を減少させる。加えて、MnS介在物は、特に熱間加工の間に伸長される場合、穴広げ性の有意な低下の原因となる可能性がある。そのようなわけで、S含有量はできるだけ少なくければならず、最大で0.05%以下、好ましくは最大で0.01%、またはなお一層好ましくは最大で0.005%でなければならない。
【0020】
キャスティング前に脱酸素のためにアルミニウム(Al)を添加する。過剰のAlを添加して、Siの添加を補完してもよい。なぜなら、アルミニウムは炭化物形成に対して同等の効果があるからである。Al添加を用いてベイナイト変態を加速することができる。好適な最小値は0.03%である。
【0021】
チタン(Ti)は、微細な複合炭化物を形成することによって析出強化および微粒化をもたらし、したがって本発明において重要な元素の1つである。しかしながら、Ti含有量が0.07%より低い場合、複合炭化物の微細な析出物は、高い安定性で760MPa以上の高強度を得るのが困難になるほど多量に形成されない。一方、Tiが0.20%を超える量で添加される場合、形成される複合炭化物は粗くなり、鋼板の強度を低下させる。好適な最大値は0.15%である。
【0022】
Tiとカップリングして比較的粗い窒化物を形成し、それによって有効なTiの量を減少させ、したがって穴広げ性の減少をもたらしつつ強度を低下させる窒素(N)の量はできるだけ少なくなければならない。したがって、最大窒素含有量は0.01%(100ppm)以下、好ましくは0.005%以下である。
【0023】
Cr+Mn:は、工業的に関連する冷却条件下でフェライトとベイナイトとマルテンサイトとを含んでなる構造を形成するために充分な硬化性を保証するために、1.2〜2.5の範囲内にあるべきである。
【0024】
本発明は、中炭素と、現在市販のCP鋼で見られるよりも低いMnおよび高いCr添加物を含んでなるバランスのとれた組成物を利用する。MnのCrでの部分置換は、過度にフェライト変態温度を抑制することなく、したがってフェライトの成長を遅らせることなく、所望の生成物を得るために充分な硬化性を維持する。そのようなバランスのとれた化学的性質は、微細構造および、Mnリッチな商業的化学について可能であるよりも広範囲の冷却条件下でCP仕様に適合する特性を提供することが示されている。連続冷却および断続冷却経路の両方と一致した特性をもたらすことができることにより、Crに基づく化学的性質がプロセスおよび寸法の変動に対してより強固であること、そしてそれらが一貫した生成物を提供するのにより適していることが明らかになる。
【0025】
本発明は、より多くのフェライトをCP微細構造中に導入するが、歪みの局所化および損傷不耐性の原因となる強度の局所的不均一性を制限するような方法で導入することによって成形性要件のバランスをもたらす。このことは、微粒化とTiでの析出強化との組み合わせによって行うことができる。さらに、マルテンサイトがフェライトと相互作用せず、したがって歪み局所化および損傷の原因となる粒子規模の不均一性を導入しないことを保証するような方法で一様および全伸びを改善する複合効果を生じるために、わずかなマルテンサイトを導入する。これは、フェライトとマルテンサイトとの中間の強度を有するベントナイトの第3相内にマルテンサイトを埋め込むことによって行うことができる。
【0026】
微細構造がフェライトとベイナイトとマルテンサイトとを含んでなることは必須である。微細構造は、わずかなテンパリングされたマルテンサイト、残留オーステナイトおよび微細炭化物も含んでもよい。微細構造は粗Fe
3Cおよびパーライトを含んでなるものであってはならない。なぜなら、これらの成分は特性に悪影響を及ぼすからである。この微細構造との関連で、粗炭化物はベイナイト中に炭化物を含まない。なぜなら、これらは微細炭化物またはテンパリングもしくはオートテンパリングされたマルテンサイト中に潜在的に形成された任意の炭化物であると考えられるからである。
【0027】
好ましくは、フェライト相およびベイナイト相の総体積は80%以上であり、好ましくは90%以上である。マルテンサイト相の体積は少なくとも3%でなければならず、好ましくは少なくとも5%である。
【0028】
微細炭化物の平均炭化物直径は好ましくは30nm以下である。平均炭化物直径が30nm以下である場合、炭化物は、強度と一様伸びとの間のバランスを改善するため、そして伸びフランジ性を改善するためのフェライト相の強化に、さらに効率的に寄与する。一方、平均炭化物直径が30nmを超える場合、鋼板の一様伸びおよび伸びフランジ性が低下する。そのようであるので、複合炭化物の平均粒子直径は30nmを越えないように規定される。
【0029】
本発明で用いられる製造条件を次に記載する。
【0030】
本発明の鋼板は、前記化学組成を有するスラブを熱間圧延することによって製造することができる。当該技術分野で一般的に知られているすべての製鋼法は本発明の鋼板を製造するために用いることができ、したがって、この製鋼法は制限される必要がない。例えば、融解段階でコンバーターまたは電気炉を使用し、続いて真空脱ガス炉を使用することによって二次精製を実施することが適切である。キャスティング法に関して、生産性および製品品質の観点から連続キャスティング法を用いることが望ましい。これは、ベルトキャスティングまたはストリップキャスティングによる厚または薄スラブの連続キャスティングであってよい。
【0031】
本発明では、溶鋼をキャスティングし、鋳鋼を室温まで一旦冷却し、そして鋼鉄を再加熱して、鋼鉄を熱間圧延に供するステップを含んでなる通常のプロセスを用いることが可能である。キャスティング直後の鋼鉄、またはさらに加熱するためにキャスティング後にさらに加熱した鋼鉄を熱間圧延する、直接圧延プロセスを用いることも可能である。これらの場合のいずれにおいても、本発明の効果は影響を受けない。さらに、熱間圧延において、粗圧延後かつ仕上げ圧延前に加熱を実施すること、粗圧延段階後の圧延材料を合わせることによって連続熱間圧延を実施すること、または圧延材料の加熱および連続圧延を実施することが可能である。これらの場合のいずれにおいても、本発明の効果は損なわれない。スラブの再加熱温度は最大で1300、好ましくは最大で1250℃である。熱間圧延プロセスにおける仕上げ圧延温度は、微細構造が熱間圧延プロセスにおける最後の圧延パスの時に依然としてオーステナイトであるように選択されなければならない。
【0032】
本発明の鋼板において、残留オーステナイトの生成を促進するためにベイナイト変態を利用することができ、鋼板の強度を改善するためにはベイナイト相が利用される。熱間圧延プロセス後のコイリング温度をベイナイト変態の開始(Bs)からマルテンサイト変態の開始(Ms)までの間に設定することが適切である。コイリング温度がBsを超える場合、コイリングされたストリップの冷却の間にセメンタイト(Fe
3C)が析出し、パーライトが形成される可能性があり、どちらも成形性にとって有害である。コイリング温度がMsよりも低い場合、マルテンサイトの量が多くなりすぎ、このことは、延伸端部延性を低下させるであろう。BsおよびMsは(とりわけ)化学組成に依存し、一般的に言えばコイリング温度はBs−50℃からM
sの間であるか、または好ましくはBs−80℃からM
s゜+20℃の間であり、この場合、臨界変態温度BsおよびMsは、標準的膨張率測定技術または組成および適用される処理条件に適切な冶金学的モデルのいずれかを用いて決定される。本発明の前記微細構造を得るために、熱間圧延段階後の鋼板が少なくとも20℃/sの平均冷却速度で冷却されるのが望ましい。熱間圧延ステップ後の平均冷却速度が20℃/sよりも低い場合、フェライト相中に含まれるフェライト粒子および析出強化粒子は拡大し、粗大化して、鋼板の強度を低下させる。したがって、平均冷却速度が30℃/s以上であることが好ましい。熱間圧延ステップ後の平均冷却速度が高すぎる場合、フェライト粒子および強化炭化物を生成させることができなくなる。したがって、平均冷却速度は150℃/s以下であることが好ましい。
【0033】
1つの実施形態において、冷却プロセスは、熱間圧延鋼板を、600〜750℃、好ましくは少なくとも630℃および/または最大で670℃の範囲内にある温度領域まで、20℃/s以上の平均冷却速度にて冷却し、鋼板を600℃〜750℃(または少なくとも630℃および/もしくは最大で670℃)の温度範囲内に1〜25秒間空冷し、鋼板をコイリング温度まで20℃/s以上の平均冷却速度にてさらに冷却し、そして鋼板を前記コイリング温度にてコイリングするステップを含む。これは、ランアウトテーブル上でのいわゆる段階的冷却または断続冷却である。熱間圧延ステップ後の平均冷却速度が20℃/sよりも低い場合、フェライト相中に含まれるフェライト粒子および複合炭化物粒子は拡大し、粗大化して、鋼板の強度を低下させることに注目すべきである。さらに、空冷を600℃〜750℃(または少なくとも630℃および/もしくは最大で670℃)の温度範囲で1〜25秒間実施する場合、フェライト変態を促進すること、未変換オーステナイト中のC拡散を促進すること、そして形成されたフェライト中の炭化物の微細析出を促進することが可能である。空冷温度が750℃を超える場合、析出物は大きくなりすぎ、また粗くなりすぎ、析出物間隔が大きくなりすぎる。一方、空冷温度が600℃よりも低い場合、炭化物析出は悪影響を受ける。空冷時間が25秒よりも長い場合、フェライト変態が過度に進行し、その結果、ベイナイト含有量が非常に低くなる。また、空冷段階後の平均冷却速度が20℃/sよりも低い場合、パーライトが形成される可能性があり、このことは非常に望ましくない。好ましくは、空冷時間は最大で15秒であり、さらに好ましくは最大で10秒である。
【0034】
このようにして製造された熱間圧延鋼シートは、従来の方法で溶融めっきまたは電気めっきすることによってめっきすることができる。めっき層は亜鉛系であってもよいが、めっきが亜鉛に加えて、例えばMg、AlおよびCrなどの合金化元素を含むことも可能である。
【0035】
第2の態様にしたがって、760〜940MPaの引張強度および少なくとも50%の穴広げ率(hole expansion ratio)する熱間圧延鋼が提供され、この鋼鉄は、フェライトとベイナイトと少なくとも3%のマルテンサイト(ここで、フェライト相とベイナイト相との総体積は80%以上である)と、所望により、テンパリングされたマルテンサイト、残留オーステナイトおよび/または30nm以下の平均直径を有する微細炭化物も含んでなる最終微細構造を有し、この微細構造は、パーライトおよび/または粗Fe
3Cを含有せず、重量%で、
・0.07〜0.15%のC、
・0.65〜1.30%のMn、
・0.6〜1.0%のCr、
・0.005〜0.8%のSi、
・0.06%までのP、
・0.05%までのS、
・0.001%までのB、
・0.07〜0.2%のTi、
・0.003〜0.6%のAl、
・0.01%までのN、
・所望により、MnS介在物制御のためのカルシウム処理と合致した量のカルシウム、またはMnS介在物制御のための処理と合致した量のREM、
・残部鉄および製鉄プロセスに起因する不可避の不純物、
を含んでなる。
【0036】
好ましい実施形態は従属クレームで提供される。
【0037】
実施例
本発明を以下の実施例によって説明し、実施例の化学組成を表1に記載する。示した実施例は、実験室キャスティングおよび完全熱間圧延ミルシミュレーションに供されたインゴットに関するものである。
【0038】
【表1】
【0039】
比較例Dは断続冷却を適用する場合の要件を満たす特性を提供する(プロセス条件については
図1および2を参照のこと)。SiとTiとの複合添加は、微粒化および粗炭化物の抑制の両方をもたらす。断続冷却が用いられる場合、ベイナイトおよびマルテンサイトを有するフェライトの所望の構造を得ることができる。しかしながら、マルテンサイトの割合は非常に低い。対照的に、比較例Dの連続冷却は、Mnによるフェライト変態の遅延と結果として非常に高率のマルテンサイトが形成されるために、過度に高い強度および低い延性をもたらす。
【0040】
鋼鉄Hは、連続および断続冷却の両方についてのすべての引張特性要件を満たす(プロセス条件については
図1および2を参照のこと)。最終微細構造は、冷却パターンに関係なく、フェライトおよびベイナイトと、わずかのマルテンサイトとを含んでなる。小さいが有意な割合のマルテンサイトが存在するが、大部分はベイナイト相内に埋め込まれている。
【0041】
引張試験をJIS引張試験片に基づいて実施し、穴広げ試験を、円錐状パンチおよびパンチされた穴を使用して実施した。
【0042】
【表2】
【0043】
この表から、Hが、商業的範囲の製品の寸法全体にわたって安定な特性を有する一貫した製品の本格的生産に非常に適していることがわかる。冷却パターンの選択は、鋼鉄Hに対して影響が少なく、一方、Dについては、機械的特性が非常に異なる。このような特性の分散は、Dに基づく化学的性質を有する工業的に製造された材料に関する測定によって裏付けられる。鋼鉄HおよびJの穴広げ率は、それぞれ58%および65%であり、これはCP鋼のほとんどの既存の仕様を満たす。工業条件下で鋼鉄を製造する場合、実験室規模のキャストと比べて鋼鉄清浄性(steel cleanliness)が改善されるために、これらの値は著しく増加すると予想される。これに対して、商業的に製造された鋼鉄Dは、わずか45%の穴広げ率を有し、これはCP製品について望ましい値よりも低い(すなわち、50%未満)。
【0044】
鋼鉄Hは、鋼鉄Dよりも良好な延性と穴広げ性との組み合わせを提供する。特に重要なのは、一様伸びの比較である。なぜなら、これによって、一様伸びが鋼鉄Hよりも一貫して良好であることが明らかになるからである。高い一様伸びは良好な穴広げ性と相まって、端部延性およびストレッチ性の両方が鋼鉄Dに対して改善されたことの指標とみなすことができる。
【0045】
図3は、最終生成物の降伏強度に対する一様伸びの値を示す。
【0046】
この改善は、微細構造の最適化によるものである。
図4の顕微鏡写真は補強証拠を提供する。
図4から、鋼鉄Dの微細構造から、断続冷却に供される場合でさえ、ごくわずかの多角形フェライトだけを含んでなり、主にベイナイトであり、あったとしてもごくわずかのマルテンサイトしか存在しないことが明らかになる。一方、鋼鉄Hは、有意な割合の多角形フェライトと有意な割合のベイナイトと小さいが有意な割合のマルテンサイトとを含んでなる。マルテンサイトは、存在する場合はベイナイト相内に埋め込まれている。
【0047】
観察される高い延性は主に延性フェライトの存在によるものであることが論じられる。ベイナイトは、歪み局所化および損傷の原因となるフェライトとの硬質の界面を生じさせることなく、強度をもたらす。硬質マルテンサイトの存在は強度をもたらす。マルテンサイトの存在は、マルテンサイトがベイナイト内に分配されているので、軟質フェライトと界面を共有せず、したがって歪み局所化および損傷の原因とならないという事実のために、DP鋼中で通常みられるような穴広げ性の低下をもたらさない。マルテンサイトの存在は、あるDPの特徴を付与するので、比較的高い一様伸びを説明することもできる。
【0048】
機械的特性における改善された稠度は多様な冷却条件についてフェライトが形成されるようにMnをCrで部分的に置換することによってフェライト変態をより良好に調整することによるものであることが本明細書中では論じられる。CCT図は、フェライト変態が全ての関連するオーステナイト化(austenitisation)条件および冷却速度の連続冷却の間に起こるように、Hがフェライト変態についてはるかに低い臨界冷却速度を示すことを明らかにする。反対に、Dについて、フェライトは先のオーステナイト条件に応じて形成されても、されなくてもよい。
【0049】
本発明は、例えば自動車用鋼板としての使用をはじめとする様々な分野で使用される高強度熱間圧延鋼板を提供する。