(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
温度13℃の恒温室に24時間以上保管した塩化ビニリデン系樹脂フィルムから、幅50mm長さ155mmの大きさに切り取って試料フィルムとし、温度13℃の環境において、表面粗さRa0.05μmの厚み2mmの鏡面仕上げステンレス板製の長さ125mm幅290mm及び高さ90mmで天面が開口する直方体状の箱の幅方向略中央部に、試料フィルムを箱の長さ方向に橋渡しし、試料フィルムの両端部を、前記のステンレス製の箱の両側面に、箱の高さ方向にそれぞれ15mmとなるように密着させて、指で押圧した後に、テンシロン万能試験機を使用して、試料フィルムの略中心部をφ45mmの押棒で速度50mm/分で押圧し、試料フィルムが破断することなくステンレス製の箱への密着面から外れたときの押圧荷重の極大値である温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であり、塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製された塩化ビニリデン系樹脂からなることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程を含む
塩化ビニリデン系樹脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性(防湿性)及び透明性に優れたフィルムであり、更に電子レンジ加熱が可能なフィルムであることから、業務用や家庭用のラップフィルムとして、また、その他食品などの自動充填包装用フィルムなどとして、鮮魚、生肉、加工肉、新鮮野菜、惣菜類等の包装に、酸素遮断、防湿等の目的で広く利用されている。
【0003】
塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂としては、フィルムの押出加工性、結晶性、透明性、軟化温度等の観点から、通常、塩化ビニリデンと、塩化ビニル等の塩化ビニリデンと共重合可能な単量体(以下、「共単量体」または「コモノマー」ということがある。)とを共重合させて得られる塩化ビニリデン共重合体が使用されている。
【0004】
塩化ビニリデン系樹脂の製造方法としては、懸濁重合法や乳化重合法が知られている。乳化重合法で得られた塩化ビニリデン系樹脂は、残存する乳化剤等が原因で熱劣化を生じやすいことから、一般的には懸濁重合法が採用されている。懸濁重合法は、塩化ビニリデン及び共単量体を懸濁剤及び重合開始剤を含む水性媒体中に懸濁させた状態で重合反応を行う方法である。懸濁剤として、特許文献1には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテルが開示され、懸濁剤の量はモノマーの重量を基準として好ましくは0.05〜0.1重量%であることが記載されている。また、特許文献2には、懸濁剤として、1,2−ジクロロエタンに対する可溶分が0.1〜2.0重量%のメチルセルロースを用いることが開示され、具体例として、塩化ビニリデン及び塩化ビニルの合計67.5kgに対して67.5gのメチルセルロースを使用することが記載されている。
【0005】
塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、通常、塩化ビニリデン系樹脂を、溶融押出し、次いで多くの場合延伸を行うことにより製造され、紙管に巻き取られ化粧箱中で保管される。塩化ビニリデン系樹脂に、可塑剤、安定剤、粘着付与剤等の各種添加剤を含有させることによって、押出加工性やフィルム特性を改善することが行われている。なお、特に自動充填包装用フィルムの用途においては、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造工程及び包装工程におけるトラブルを防止するため、所望により滑剤を含有させることもある。
【0006】
特に、塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、ラップフィルムや自動充填包装用フィルムとして利用されることから、フィルムと被包装物との密着性やフィルム同士の密着性が求められる。特許文献3には、流動パラフィン等のミネラルオイルが付与されているフィルムが開示され、付与の方法として、フィルムへの塗布、含浸、吹き付け、押出工程における練り込み等の方法が挙げられている。特許文献4には、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの密着性を向上させるために付与される流動パラフィンについて、マイグレーションが変動すること、フィルムの密着性とフィルムを保管している化粧箱からの引出性とのバランスに問題があることから、押出成形前の塩化ビニリデン系樹脂に流動パラフィンを添加し、かつ、成形されたフィルム表面に流動パラフィンを塗布することが開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、塩化ビニリデン系樹脂フィルムに密着性を与えるために、流動パラフィンや界面活性剤等の、常温で液状で、溶融成形時に熱的に安定であり、取扱い易さの観点から25℃の粘度が10〜100cpsである粘着付与剤を、樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部含有させることが開示されている。さらに、粘着付与剤の添加量が多すぎたり、粘度が小さすぎるものを添加すると、押出加工性が悪くなりやすく、また、フィルムがべたべたして取扱いが難しくなる傾向を示し、他方、粘度が大きくなりすぎても、押出加工性が悪くなりやすく好ましくないことが開示されている。
【0008】
そこで、塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、流動パラフィン等の粘着付与剤を含有または塗布しなくても、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムが求められ、更に引出性や透明性においても遜色がない塩化ビニリデン系樹脂フィルムが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題の第1の側面は、粘着付与剤の添加や塗布を要せずして、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムを提供することにある。本発明の課題の他の側面は、前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決することについて鋭意研究した結果、温度13℃におけるせん断密着力が、所定の値以上である塩化ビニリデン系樹脂フィルム、特に、塩化ビニリデン系樹脂が、微量の含有量の懸濁剤の存在下に懸濁重合を行って調製されたものである前記フィルムであることによって、課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の第1の側面によれば、(1)
温度13℃の恒温室に24時間以上保管した塩化ビニリデン系樹脂フィルムから、幅50mm長さ155mmの大きさに切り取って試料フィルムとし、温度13℃の環境において、表面粗さRa0.05μmの厚み2mmの鏡面仕上げステンレス板製の長さ125mm幅290mm及び高さ90mmで天面が開口する直方体状の箱の幅方向略中央部に、試料フィルムを箱の長さ方向に橋渡しし、試料フィルムの両端部を、前記のステンレス製の箱の両側面に、箱の高さ方向にそれぞれ15mmとなるように密着させて、指で押圧した後に、テンシロン万能試験機を使用して、試料フィルムの略中心部をφ45mmの押棒で速度50mm/分で押圧し、試料フィルムが破断することなくステンレス製の箱への密着面から外れたときの押圧荷重の極大値である温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムが提供される。
【0013】
また、本発明の第1の側面によれば、実施の態様として、以下(2)〜(7)の塩化ビニリデン系樹脂フィルムが提供される。
(2)塩化ビニリデン系樹脂が、該樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製されたものである前記(1)の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
(3)水性媒体を含む全質量を基準とする懸濁剤の含有量が150ppm未満である前記(2)の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
(4)粘着付与剤を含有しない前記(1)〜(3)のいずれかの塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
(5)粘着付与剤を含有する前記(1)〜(3)のいずれかの塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
(6)塩化ビニリデン系樹脂が、粘着付与剤の存在下に懸濁重合して調製されたものである前記(5)の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
(7)塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体である前記(1)〜(6)のいずれかの塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【0014】
本発明の他の側面によれば、(8)以下の工程1及び工程2:
1)塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程1;及び
2)塩化ビニリデン系樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出し、延伸する工程2;を含む
前記(1)〜(7)のいずれかの塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法が提供される。
【0015】
本発明の他の側面によれば、実施の態様として、以下(9)及び(10)の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法が提供される。
(9)工程1及び工程2が、粘着付与剤を含有することなく実施される前記(8)の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。
(10)工程1が、粘着付与剤の存在下に懸濁重合
して実施される前記(8)の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の側面によれば、温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルム、特に、塩化ビニリデン系樹脂が、該樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製されたものである前記フィルムであることによって、粘着付与剤の添加や塗布を要せずして、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムが提供されるという効果が奏される。
【0017】
また、本発明の他の側面によれば、以下の工程1及び工程2:
1)塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程1;及び
2)塩化ビニリデン系樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出し、延伸する工程2;を含む
温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法であることによって、粘着付与剤の添加や塗布をしなくても、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムを容易に製造することができる方法が提供されるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.塩化ビニリデン系樹脂
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂としては、従来、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性(防湿性)及び透明性に優れ、更に電子レンジ加熱が可能なフィルムであることから、ラップフィルムまたは自動充填包装用フィルムなどとして利用されてきた塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂を使用することができる。
【0019】
具体的には、本発明における塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン60〜98質量%、及び、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体(共単量体)の少なくとも一種2〜40質量%(塩化ビニリデンと共単量体との合計質量を100質量%とする。)から形成される塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0020】
塩化ビニリデンと共重合可能な単量体(共単量体)としては、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルまたはアクリル酸ステアリル等のアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルまたはメタクリル酸ステアリル等のメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;スチレン等の芳香族ビニル;酢酸ビニル等の炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル(アルキル基の炭素数1〜18);アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸のアルキルエステル(部分エステルであってもよい。アルキル基の炭素数1〜18);などのほかに、ジエン系単量体、官能基含有単量体、多官能性単量体などを挙げることができる。これらの共単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。共単量体の中でも、塩化ビニル、アクリル酸メチル、またはアクリル酸ブチルが好ましい。特に好ましい共単量体は、塩化ビニルであり、したがって、特に好ましい塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体である。
【0021】
塩化ビニリデン系樹脂を形成する塩化ビニリデンの含有割合は、塩化ビニリデンと共単量体との合計質量を100質量%として、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。塩化ビニリデンの含有割合の上限は、特にないが、押出加工性等の観点から、通常97質量%、多くの場合95質量%である。したがって、塩化ビニリデン系樹脂を形成する共単量体の含有割合は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。共単量体の含有割合は、下限値が特にないが、通常3質量%以上、多くの場合5質量%以上である。
【0022】
2.塩化ビニリデン系樹脂の調製
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂、具体的には、塩化ビニリデン、及び、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体(共単量体)との共重合体は、塩化ビニリデンと共単量体とを、通常、懸濁重合または乳化重合して製造することができる。懸濁重合法は、懸濁剤を含有する水性媒体中において、機械的撹拌により塩化ビニリデンと共単量体との混合分散油滴を形成した状態で、重合開始剤により重合を行う方法である。乳化重合法は、乳化剤(界面活性剤)と水溶性重合開始剤を使用して、水性媒体中の界面活性剤ミセル中で塩化ビニリデンと共単量体との重合を行う方法である。一般に、乳化重合法で製造された塩化ビニリデン系樹脂は、乳化剤(界面活性剤)の残存により樹脂の熱劣化を生じやすい。本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、溶融押出成形によって製造されるので、懸濁剤を使用する懸濁重合法で塩化ビニリデン系樹脂を製造することが好ましい。
【0023】
〔懸濁剤〕
塩化ビニリデン系樹脂を懸濁重合法によって製造するために使用される懸濁剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロポキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体;ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等のホモポリマー;無水マレイン酸・酢酸ビニル共重合体等や各種ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体、マクロモノマー等の共重合体;デンプン、ゼラチン等の天然高分子物質などが挙げられる。懸濁剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロポキシメチルセルロースが好ましく、メチルセルロースが特に好ましい。懸濁剤は、1種でもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、懸濁剤は、そのまま使用してもよいし、水溶液、水エマルジョン、水サスペンジョンにして使用してもよいし、またトルエン等の有機溶媒に溶解して使用してもよい。所望によっては、上記した懸濁剤に加えて、補助安定剤を使用してもよい。補助安定剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び長鎖アルコール等を挙げることができる。
【0024】
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂を調製するに当たっての懸濁剤の含有量は、塩化ビニリデン及び共単量体、すなわち塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満であることが好ましい。したがって、本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、塩化ビニリデン系樹脂が、該樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量(以下、「単量体質量基準の含有量」ということがある。)が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製されたものであることが好ましい。すなわち、塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製された塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体から形成される、温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムが、好ましい。懸濁剤の単量体質量基準の含有量は、より好ましくは280ppm未満、更に好ましくは260ppm未満である。懸濁剤の単量体質量基準の含有量は、下限値が特にないが、懸濁重合時の塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の水性媒体中での分散安定性の観点から、通常30ppm以上であり、多くの場合50ppm以上である。懸濁剤は、全量を一括添加することもでき、また、分割して添加することもでき、それらの添加時期は限定されない。
【0025】
塩化ビニリデン系樹脂が、単量体質量基準の含有量が300ppm以上の懸濁剤の存在下に懸濁重合して調製されたものであると、得られる塩化ビニリデン系樹脂フィルムの温度13℃におけるせん断密着力が5kgf以上とならなかったり、塩化ビニリデン系樹脂の成形加工性が悪化したりすることがある。例えば、懸濁重合時の塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の分散安定性の観点から、従来、水性媒体中の懸濁剤の単量体質量基準の含有量は、300〜8000ppm、多くの場合350〜5000ppm、ほとんどの場合400〜3000ppmであるが、懸濁剤の含有量が多すぎると、懸濁重合によって得られる塩化ビニリデン系樹脂(通常、粒子状である。)の周囲を懸濁剤が強くコーティングするような状態となる結果、溶融成形において樹脂(粒子)の溶融が十分なものとならず、そのためにフィルム等への成形性が悪化するものと推察され、また、生成する微量の不溶融物等によって得られる塩化ビニリデン系樹脂フィルムの表面の不均一性が高まる結果、せん断密着力が5kgf未満、多くの場合4.7kgf未満、ほとんどの場合4.5kgf未満になるものと推察される。
【0026】
さらに、懸濁重合時の重合反応系の安定性と、塩化ビニリデン系樹脂の成形加工性やフィルム特性とのバランスの観点から、懸濁重合時の懸濁剤の含有量は、塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分のほかに、水性媒体中で懸濁重合を行う重合反応系に含有されるその他の成分や懸濁液の水性媒体(水、アルコール等)を含む懸濁液の合計の質量、すなわち水性媒体を含む全質量を基準とする懸濁剤の含有量(以下、「全質量基準の含有量」ということがある。)が150ppm未満であることが好ましく、135ppm未満であることがより好ましく、120ppm未満であることが更に好ましい。懸濁剤の全質量基準の含有量は、下限値が特にないが、懸濁重合時の塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の水性媒体中での分散安定性の観点から、通常15ppm以上であり、多くの場合25ppm以上である。
【0027】
また、懸濁重合時の重合反応系の安定性と、前記の成形加工性やフィルム特性とのバランスをより改善する観点から、懸濁重合時の懸濁剤は、水性媒体の質量を基準とする含有量(以下、「水性媒体基準の含有量」ということがある。)が260ppm未満であることが好ましく、240ppm未満であることがより好ましく、220ppm未満であることが更に好ましい。懸濁剤の水性媒体基準の含有量は、下限値が特にないが、懸濁重合時の塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の水性媒体中での分散安定性の観点から、通常25ppm以上であり、多くの場合40ppm以上である。
【0028】
〔重合開始剤〕
塩化ビニリデン系樹脂を製造するために使用される重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、ジラウリルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート系開始剤;ターシャリブチルパーオキシネオデカネート、ターシャリヘキシルパーオキシネオデカノエート、アミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル系開始剤;ラウロイルパーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、2エチルヘキサノイルパーオキサイド、3.5.5トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系開始剤;ターシャリブチルヒドロペルオキシド、ジ−ターシャリブチルペルオキシド、ジ−イソプロピルペルオキシジカーボネート等のジ−ターシャリアルキルパーオキシジグリコレート系開始剤;2.2’アゾビスイソブチロニトリル、2.2’アゾビス−2.4ジメチルバレロニトリル、2.2’アゾビス−4メトキシ−2.4ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性過酸化物またはこれらにアミン、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤を添加した系;などを挙げることができる。重合開始剤は、1種でもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合開始剤は、そのまま使用してもよいし、水溶液、水分散液として使用してもよいし、またトルエン等の有機溶媒溶液として使用してもよい。
【0029】
重合開始剤の使用量は、塩化ビニリデン及び共単量体、すなわち塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が100〜7000ppmが好ましく、より好ましくは300〜5000ppmである。更に好ましくは500〜3000ppmである。
【0030】
〔他の添加剤〕
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂を調製するに当たっては、先に説明した懸濁剤及び重合開始剤のほかに、通常、塩化ビニリデン系樹脂の調製に当たって使用される種々の他の添加剤を含有させることができる。すなわち、得られる塩化ビニリデン系樹脂の押出加工性を改善したり、塩化ビニリデン系樹脂から形成される塩化ビニリデン系樹脂フィルムの諸特性を目的に応じてバランスよく改良したりするために、例えば、可塑剤、安定剤、抗酸化剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、フィラー(充填剤)、顔料などが挙げられ、用途に応じて、最適の組み合わせが選択される。また、用途や所望によっては、他の添加剤として滑剤を含有させることができる。他の添加剤としては、有機物質(他の重合体でもよい。)または無機物質のいずれも使用することができる。
【0031】
従来、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムには、通常、粘着付与剤が含有されており、粘着付与剤は、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程、すなわち重合段階で、塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分に添加されたり、調製された塩化ビニリデン系樹脂を溶融押出し、延伸する工程、すなわちフィルムの製造段階で添加されたりする。本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、重合段階(塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程)、または、フィルム製造段階(塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出し、延伸する工程)のいずれの工程においても、粘着付与剤が含有されない製造方法によっても得ることができるが、重合段階(塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程)において、粘着付与剤の存在下に懸濁重合して塩化ビニリデン系樹脂を調製することによっても得ることができる。
【0032】
〔粘着付与剤〕
粘着付与剤とは、対象物に対して容易に密着する性質を付与するものである。粘着付与剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、例えば、ソルビタンモノ(トリ)オレート、グリセリンモノ(トリ)オレート等の界面活性剤、パラフィン系またはシクロパラフィン系の液状飽和炭化水素などが挙げられる。粘着付与剤は、1種でもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。液状飽和炭化水素としては、例えば、ナフテン系のプロセスオイル、パラフィンワックス、流動パラフィンなどが挙げられ、流動パラフィンが特に好ましい。本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、粘着付与剤を含有しないものとすることができる。しかしながら、本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、粘着付与剤を含有するものであってもよく、その場合、フィルムの温度13℃におけるせん断密着力が更に大きいものとすることができることが多い。
【0033】
粘着付与剤の存在下に懸濁重合して塩化ビニリデン系樹脂を調製するときの粘着付与剤の含有量は、引出性の観点から、塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量(単量体質量基準の含有量)が通常100〜10000ppm、好ましくは200〜5000ppm、より好ましくは300〜3000ppm、更に好ましくは400〜1000ppmの範囲である。粘着付与剤の含有量が多過ぎると、押出加工性が低下したり、また、得られる塩化ビニリデン系樹脂フィルムがべたついたりして取扱いが難しくなったりすることがある。なお、粘着付与剤の前記した全質量基準の含有量は、通常50〜5000ppm、好ましくは100〜2500ppmの範囲である。
【0034】
〔可塑剤〕
可塑剤としては、従来、塩化ビニリデン系樹脂に含有されている可塑剤を使用することができる。例えば、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、グリセリンジアセチルモノラウレート(GDAML)、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート及びジアセチル化モノグリセライド(DALG)等が挙げられる。可塑剤は、単量体質量基準の含有量が通常500〜100000ppm、多くの場合5000〜80000ppmの割合で用いられる。
【0035】
〔安定剤〕
安定剤としては、従来、塩化ビニリデン系樹脂に含有されている安定剤を使用することができる。例えば、エポキシ化大豆油(ESBO)またはエポキシ化亜麻仁油(ELO)等のエポキシ化油;脂肪酸アルキルエステルのアミド誘導体;水酸化マグネシウム;ピロリン酸四ナトリウムなどが挙げられる。安定剤は、単量体質量基準の含有量が通常300〜50000ppm、多くの場合1000〜40000ppmの割合で用いられる。
【0036】
〔抗酸化剤〕
抗酸化剤としては、従来、塩化ビニリデン系樹脂に含有されている抗酸化剤を使用することができる。例えば、トリエチレングリコールビス−3−(3−ターシャリブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(「抗酸化剤T」ということがある。)等のフェノール系抗酸化剤;ジラウリルチオジプロピオネート(「抗酸化剤S」とも称す)、ジステアリルチオジプロピオネート等のアルキル基の炭素数が12〜18のチオジプロピオン酸アルキルエステル;トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のホスファイト系抗酸化剤;などが挙げられる。抗酸化剤は、1種でもよいし2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくはトリエチレングリコールビス−3−(3−ターシャリブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(抗酸化剤T)とチオジプロピオン酸アルキルエステルの併用である。抗酸化剤は、単量体質量基準の含有量が通常5〜50000ppm、多くの場合15〜10000ppmの割合で用いられる。なお、抗酸化剤の一部を予め重合系に存在させて重合を開始することが好ましい。また、抗酸化剤を重合系に添加することによって、重合反応を停止させることもできる。
【0037】
〔pH調整剤〕
重合系のpHをpH3〜9に調整することが好ましく、より好ましくはpH4〜8に調整する。pH調整を行うために、pH調整剤として、無機リン酸塩を使用することが好ましい。無機リン酸塩としては、リン酸、メタリン酸、ポリリン酸等のアルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩等のリン酸塩類が好ましい。例えば、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸二水素二カリウム、第一リン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム等があり、これらの水和物を使用することもできる。特にピロリン酸ナトリウムとピロリン酸二水素二ナトリウムとの併用またはピロリン酸ナトリウムと第一リン酸ナトリウムとの併用が重合系のpH調整を容易に行えることから好ましい。pH調整剤は、単量体質量基準の含有量が通常1〜10000ppm、多くの場合10〜1000ppmの割合で用いられる。
【0038】
〔滑剤〕
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂は、特にラップフィルム用途に使用される場合、滑剤を含有する必要はないが、自動充填包装用途に使用される場合は、所望により滑剤を含有することができる。
【0039】
滑剤としては、従来、塩化ビニリデン系樹脂に含有されている滑剤を選択することができる。例えば、二酸化珪素、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機滑剤や、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド等の有機滑剤を挙げることができる。滑剤は、単量体質量基準の含有量が通常100〜10000ppm、好ましくは150〜7000ppm、より好ましくは200〜5000ppmの範囲である。
【0040】
〔その他の添加剤〕
既に具体的に説明した添加剤のほかに、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程、すなわち重合段階では、更にその他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、従来、塩化ビニリデン系樹脂に含有されている各種の添加剤を選択することができ、その含有量は適宜定めることができる。例えば、フィラーでもある酸化チタン系顔料は、ソーセージ等の食品内容物の紫外線による変色防止に効果があるが、ダイ流出口の樹脂分解物の付着を起こしやすくなったりすることもあるので、用途に応じて最適の添加剤及びその含有量の選択が重要である。
【0041】
〔懸濁重合〕
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂を懸濁重合する方法は、特に限定されないが、通常、20〜95℃の重合温度、常圧〜1MPaの重合圧力の条件下で、バッチまたは連続で懸濁重合を行うことができる。具体的には、例えば、ステンレス製の反応機(重合機)内において、懸濁剤(水溶液でもよい。)及びpH調整剤を、脱イオン水、蒸留水等の水性媒体に溶解させ、必要に応じて系内の空気を置換して、窒素、アルゴンガス等の雰囲気にする。次いで、重合開始剤、安定剤、可塑剤、必要に応じて粘着付与剤その他の添加剤を、塩化ビニリデン及び共単量体の混合単量体に溶解させて、前記の水性媒体中に圧入して懸濁物である仕込み原料混合物とする。続いて、仕込み原料混合物を攪拌機により撹拌することにより、塩化ビニリデン及び共単量体の混合単量体の液滴を形成させ、通常は昇温することによって重合を開始させる。更に温度調整しながら(連続的に昇温させることが好ましい。)、重合反応を継続させる。重合温度や重合時間は、塩化ビニリデン及び共単量体の種類や量、重合開始剤の種類や量等によって適宜決定されるが、通常温度25〜90℃、好ましくは30〜85℃で、1〜100時間、好ましくは2〜60時間、より好ましくは3〜50時間である。重合反応が進行した後、抗酸化剤を重合系に投入して重合を停止させることもできる。重合反応が終了した後、塩化ビニリデン系樹脂を含有するスラリーを回収し、脱水、洗浄と乾燥を行って、塩化ビニリデン系樹脂を得る。
【0042】
3.塩化ビニリデン系樹脂フィルム
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであり、塩化ビニリデン系樹脂と、必要に応じて含有させる添加剤及び/または他の樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂組成物から形成される。
【0043】
〔塩化ビニリデン系樹脂組成物〕
塩化ビニリデン系樹脂から塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成するためには、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの諸特性を目的に応じてバランスよく改良したりするために、例えば、可塑剤、安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、抗菌剤、フィラー(充填剤)、顔料、用途や所望によっては滑剤などを含有させることができる。先に説明した懸濁重合によって調製された塩化ビニリデン系樹脂には、重合反応時に添加された安定剤、可塑剤その他の種々の成分が残存し、含有されているので、求める塩化ビニリデン系樹脂フィルムの諸特性に応じて、重合反応時に添加された種々の成分を更に追加して、または、重合反応時に添加されていない種々の成分を新たに、塩化ビニリデン系樹脂に配合して、所望の組成を有する塩化ビニリデン系樹脂組成物とすることができる。塩化ビニリデン系樹脂に配合される成分の量は、成分の種類及び求める塩化ビニリデン系樹脂フィルムの諸特性に応じて、適宜定めることができる。
【0044】
〔他の重合体〕
塩化ビニリデン系樹脂組成物には、所望により、樹脂成分として、塩化ビニリデン系樹脂のほかに、他の重合体を含有することができる。これにより、塩化ビニリデン系樹脂の押出加工性を改善したり、該塩化ビニリデン系樹脂から形成される塩化ビニリデン系樹脂フィルムの諸特性を目的に応じてバランスよく改良したりすることができる。他の重合体としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸またはそれらのアルキルエステルとの共重合体、または、MBS樹脂(メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン共重合体)などが挙げられる。これら他の重合体を含有させる場合のその含有量は、特に限定されないが、塩化ビニリデン系樹脂100質量部に対して、通常0.1〜20質量部であり、多くの場合1〜15質量部である。
【0045】
本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚みは、特に限定されないが、通常1〜50μm、好ましくは4〜45μm、より好ましくは7〜40μmの範囲である。厚みが大きすぎると、カット性が不十分となったり、フィルムの手触り感が劣ったりすることがある。厚みが小さすぎると、フィルムが破れやすくなることがある。
【0046】
〔温度13℃におけるせん断密着力〕
本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、温度13℃におけるせん断密着力が5kgf以上であることを特徴とする。塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、せん断密着力が5kgf以上であることにより、食器等、特に冷蔵庫内において食品を収容して保管されている食品容器等に対する十分な密着力を有し、かつ、引出性や透明性において遜色がない塩化ビニリデン系樹脂フィルムが提供される。塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、温度13℃におけるせん断密着力が5.5kgf以上であることが好ましく、6kgf以上であることがより好ましい。塩化ビニリデン系樹脂フィルムの温度13℃におけるせん断密着力は、上限値が特にないが、良好な引出性や透明性を有する観点から、通常30kgf以下、多くの場合15kgf以下であり、用途によっては10kgf以下、または8kgf以下でもよい。
【0047】
〔温度13℃におけるせん断密着力の測定方法〕
塩化ビニリデン系樹脂フィルムの温度13℃におけるせん断密着力の測定方法は、以下のとおりである。すなわち、温度13℃の恒温室に24時間以上保管した塩化ビニリデン系樹脂フィルムから、幅50mm長さ155mmの大きさに切り取って試料フィルムとする。温度13℃の環境において、表面粗さRa0.05μmの厚み2mmの鏡面仕上げステンレス板製の長さ125mm幅290mm及び高さ90mmで天面が開口する直方体状の箱の幅方向略中央部に、試料フィルムを箱の長さ方向に橋渡しし、試料フィルムの両端部を、前記のステンレス製の箱の両側面に、箱の高さ方向にそれぞれ15mm(幅50mmである。)となるように密着させて、指で押圧する。次いで、テンシロン万能試験機を使用して、試料フィルムの略中心部をφ45mmの押棒で速度50mm/分で押圧する。試料フィルムが破断することなくステンレス製の箱への密着面から外れたときの押圧荷重の極大値を測定し、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの温度13℃におけるせん断密着力(単位:kgf)とする。
【0048】
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、被包装体及びフィルム同士の密着性に優れるラップフィルム等に適する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであるので、従来、上記の密着性を実現するためにされていたフィルム表面への粘着付与剤、例えば流動パラフィンの塗布は必要ない。しかし、所望によっては、フィルム表面に粘着付与剤を塗布した塩化ビニリデン系樹脂フィルムとして使用することもできる。
【0049】
〔引出性〕
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、引出性がよく、フィルムを紙管に巻き取り保管しているケース(化粧箱等)から容易に引き出すことができる。塩化ビニリデン系樹脂フィルムの引出性は、以下の方法によって評価することができる。すなわち、外径36mmの紙管に巻き取った塩化ビニリデン系樹脂フィルムを幅30cmにスリットし、市販のラップフィルム用ケース(株式会社クレハ製)に収納して、温度23℃の恒温室に24時間保管した後に、手で引き出して評価する。評価基準は次のとおりとし、評価が「◎」であれば、引出性がよいと評価できる。
<評価基準>
◎: フィルム同士のブロッキングがなく、フィルムをスムースに引き出せる
○: フィルム同士のブロッキングがほとんどなく引き出せる
×: フィルム同士のブロッキングがあり、紙管ごとケースから飛び出すことがある
【0050】
〔透明性〕
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、透明性が良好である。フィルムの透明性は、以下の方法によって評価することができる。すなわち、温度23℃の恒温室に24時間保管した塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて測定したHAZE値が2%以下である場合、塩化ビニリデン系樹脂フィルムは透明と評価する。HAZE値が2%を超える場合は、塩化ビニリデン系樹脂フィルムは透明と評価することができず、特に5%を超える場合は不透明と評価する。
【0051】
4.塩化ビニリデン系樹脂から形成されるフィルムの製造方法
本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂から形成されるフィルムは、それ自体公知のフィルムの製造方法によって製造することができ、その製造方法は特に限定されない。効率よく安定して密着性に優れるフィルムを得る観点から、以下の工程1及び工程2:
1)塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程1;及び
2)塩化ビニリデン系樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出し、延伸する工程2;を含む
温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法が好ましい。
【0052】
すなわち、本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、好ましくは、(工程1)塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程;によって調製された塩化ビニリデン系樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出し、更に必要に応じて延伸することによって製造することができ、より好ましくは、(工程2)前記の塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出し、延伸する工程;を経ることによって、容易に製造することができる。
【0053】
具体的には、塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製された塩化ビニリデン系樹脂と、先に説明したように、必要に応じて含有させる添加剤及び/または他の樹脂とを含有する塩化ビニリデン系樹脂組成物を通常実施される方法によって溶融押出する。より具体的には、塩化ビニリデン系樹脂組成物を形成する塩化ビニリデン系樹脂、添加剤及び/または他の樹脂(これらを総称して「原料」ということがある。)を、ヘンシェル高速ミキサー、羽根ブレンダー、リボンブレンダー等の公知の乾燥混合装置を使用して、通常は常温〜80℃の温度で、場合によっては80℃を超える温度に加熱して、混合する方法、または、押出機の機上ホッパー装置内でスクリューフィーダー等を使用してこれらの原料を混合する方法によって、粉体混合物の原料として押出機に供給したり、或いは、一旦ペレットに押出加工した原料を押出機に供給したりして、シート状に溶融押出する。溶融押出は、シリンダー内で原料を加熱溶融させ、Tダイまたは環状ダイ(サーキュラーダイ)から押し出して平板状フィルムまたは管状フィルムを得る。管状フィルムは、所望により押出軸方向に切開してシングル厚みまたはダブル厚みの平板状フィルムとしてもよい。
【0054】
続いて、平板状フィルムまたは管状フィルムを、テンター法、ドラム法、インフレーション法などそれ自体公知の延伸方法によって一軸または二軸延伸することによって、塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得ることができ、特に限定されないが、インフレーション法が好ましい。なお、管状フィルムは、延伸後、所望により押出軸方向に切開してシングル厚みまたはダブル厚みの平板状フィルムとしてもよい。延伸倍率は、適宜定めることができ特に限定されないが、縦方向(「MD」ということがある。)及び横方向(「TD」ということがある。)ともにそれぞれ、通常2〜6倍、好ましくは2.5〜5.5倍である。
【0055】
本発明によれば、工程1及び工程2が、粘着付与剤を含有することなく実施される前記の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法によって、本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを製造することができる。また、本発明によれば、塩化ビニリデン系樹脂を調製する工程1が、粘着付与剤の存在下に懸濁重合
して実施される前記の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法によって、本発明の温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂フィルムを製造することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における樹脂原料及びフィルムの特性または物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0057】
〔フィルム厚み〕
塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚みは、株式会社テクロック製の0.001mm目盛のダイヤルゲージを使用して測定した。
【0058】
〔温度13℃におけるせん断密着力〕
塩化ビニリデン系樹脂フィルムの温度13℃におけるせん断密着力は、先に説明したとおり、温度13℃の恒温室に24時間以上保管した塩化ビニリデン系樹脂フィルムから、幅50mm長さ155mmの大きさに切り取った試料フィルム、及び、表面粗さRa0.05μm厚み2mmの鏡面仕上げステンレス板製の長さ125mm幅290mm及び高さ90mmで天面が開口する直方体状の箱を使用し、株式会社エー・アンド・デイ製のテンシロン万能試験機RTG−1210を使用して、測定を行った。
【0059】
〔引出性〕
塩化ビニリデン系樹脂フィルムの引出性は、以下の方法によって、評価した。すなわち、外径36mmの紙管に巻き取った塩化ビニリデン系樹脂フィルムを幅30cmにスリットし、市販のラップフィルム用ケース(株式会社クレハ製)に収納して、温度23℃の恒温室に24時間保管した後に、手で引き出して評価した。評価基準は次のとおりとし、評価が「◎」である場合、引出性がよいと評価した。
<評価基準>
◎: フィルム同士のブロッキングがなく、フィルムをスムースに引き出せる
○: フィルム同士のブロッキングがほとんどなく引き出せる
×: フィルム同士のブロッキングがあり、紙管ごとケースから飛び出すことがある
【0060】
〔透明性〕
フィルムの透明性は、以下の方法によって評価した。すなわち、温度23℃の恒温室に24時間保管した塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて測定したHAZE値が、2%以下であった場合、塩化ビニリデン系樹脂フィルムは透明と評価した。
【0061】
[実施例1]
(塩化ビニリデン系樹脂の調製)
カイ型攪拌機を有するステンレス製20Lオートクレーブに、懸濁剤としてメチルセルロース1.662g、pH調整剤としてピロリン酸ナトリウム10水和物2.4g及びピロリン酸二水素ナトリウム10水和物2.4gを溶解した脱イオン水7700gを入れ、系内を窒素置換した。次いで、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネート10gと、可塑剤としてアセチルクエン酸トリブチル295g、安定剤としてエポキシ化大豆油161.0g、抗酸化剤としてトリエチレングリコールビス−3−(3−ターシャリブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〔チバガイギー社製:商品名イルガノックス(登録商標)245:抗酸化剤T〕0.166gとを、塩化ビニリデン5453g及び塩化ビニル1197gの混合単量体(塩化ビニリデンの含有割合は82質量%であった。)に溶解した混合物を圧入して、仕込み原料混合物とした。仕込み原料混合物中の懸濁剤は、混合単量体、すなわち調製される塩化ビニリデン系樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量(以下、「単量体基準」という。)が250ppm、水性媒体の質量を基準とする含有量(以下、「水性媒体基準」という。)が216ppm、水性媒体を含む全質量を基準とする含有量(以下、「全質量基準」という。)が112ppmであった。
【0062】
これら仕込み原料混合物を攪拌下にその温度を47℃に上げて重合を開始し、22時間をかけて温度57℃まで連続的に昇温し、以後この温度に保ち、更に5時間重合反応を行った。なお、仕込み完了時の重合系のpHを7.2に調整した。重合反応を停止するため、トリエチレングリコールビス−3−(3−ターシャリブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(抗酸化剤T)1.35gとジラウリルチオジプロピオネート(DLTDP;抗酸化剤S)1.35gを塩化ビニリデン単量体50gに溶解したものを圧入して1時間攪拌を継続した後、内圧を放出し、重合物スラリーをオートクレーブから取り出した。得られたスラリーを、脱水後、温度50℃の乾燥機で20時間乾燥して、塩化ビニリデン系樹脂(1)(塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体)の粉末を得た。重合収率は87.5%であった。
【0063】
(塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造)
前記の塩化ビニリデン系樹脂(1)を、温度167℃に調整した径40mmの環状ダイを使用して管状フィルムに溶融押出し、冷却後、管状フィルム内に開口剤としてプロピレングリコールを注入した。次いで、管状フィルム内に圧縮空気を封入することにより、縦方向3倍、横方向4倍にインフレーション延伸した後、巻き取りローラーにより外径36mmの紙管に巻き取って、厚み30μm、幅110mmの塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得た。得られた塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、透明であり、また該フィルムを巻き取った紙管から容易に引き出すことができる「引出性がよい」ものであった。塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて、懸濁剤の含有量(単量体基準及び全質量基準)、フィルム厚み及び温度13℃におけるせん断密着力(以下、単に「せん断密着力」という。)の測定結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
溶融押出速度を調整することにより、得られる塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚みを10μmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得た。得られた塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、透明であり、また引出性がよいものであった。塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて、懸濁剤の含有量、フィルム厚み及びせん断密着力の測定結果を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
塩化ビニリデン系樹脂の調製において、懸濁剤としてメチルセルロース1.33gを使用したこと、並びに、重合開始剤、可塑剤、安定剤、抗酸化剤及び混合単量体とともに、粘着付与剤として流動パラフィン5.2gを使用したことを除いて、実施例1と同様にして、塩化ビニリデン系樹脂を調製し、塩化ビニリデン系樹脂(2)(塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体)の粉末を得た。懸濁剤は、混合単量体に対する質量基準で200ppm、全質量基準で90ppmであった。また、粘着付与剤は、混合単量体に対する質量基準で782ppm、全質量基準で351ppmであった。続いて、塩化ビニリデン系樹脂(2)を使用して、溶融押出速度を調整することにより、実施例1と同様にして、厚み20μm、幅110mmの塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得た。得られた塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、透明であり、また引出性がよいものであった。塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて、懸濁剤の含有量、粘着付与剤の含有量(単量体質量基準の含有量。以下同じ。)、フィルム厚み及びせん断密着力の測定結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
塩化ビニリデン系樹脂の調製において、懸濁剤としてメチルセルロース0.997gを使用したことを除いて、実施例3と同様にして、塩化ビニリデン系樹脂を調製し、塩化ビニリデン系樹脂(3)(塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体)の粉末を得た。懸濁剤は、混合単量体に対する質量基準で150ppm、全質量基準で67ppmであった。なお、粘着付与剤は、混合単量体に対する質量基準で782ppm、全質量基準で351ppmであった。続いて、塩化ビニリデン系樹脂(3)を使用して、実施例3と同様にして、厚み20μmの塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得た。得られた塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、透明であり、また引出性がよいものであった。塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて、懸濁剤の含有量、粘着付与剤の含有量、フィルム厚み及びせん断密着力の測定結果を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
塩化ビニリデン系樹脂の調製において、懸濁剤としてメチルセルロース2.68gを使用したこと、並びに、重合開始剤、可塑剤、安定剤、抗酸化剤及び混合単量体とともに、粘着付与剤として流動パラフィン5.2gを使用したことを除いて、実施例1と同様にして、塩化ビニリデン系樹脂を調製し、塩化ビニリデン系樹脂(4)(塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体)の粉末を得た。懸濁剤は、混合単量体に対する質量基準で403ppm、全質量基準で181ppmであった。また、粘着付与剤は、混合単量体に対する質量基準で782ppm、全質量基準で351ppmであった。続いて、塩化ビニリデン系樹脂(4)を使用して、実施例1と同様にして、厚み30μm、幅110mmの塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得た。塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて、懸濁剤の含有量、粘着付与剤の含有量、フィルム厚み及びせん断密着力の測定結果を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
塩化ビニリデン系樹脂の調製において、懸濁剤としてメチルセルロース2.68gを使用したことを除いて、実施例3と同様にして、塩化ビニリデン系樹脂を調製し、塩化ビニリデン系樹脂(5)(塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体)の粉末を得た。懸濁剤は、混合単量体に対する質量基準で403ppm、全質量基準で181ppmであった。なお、粘着付与剤は、混合単量体に対する質量基準で782ppm、全質量基準で351ppmであった。続いて、塩化ビニリデン系樹脂(5)を使用して、実施例3と同様にして、厚み20μmの塩化ビニリデン系樹脂フィルムを得た。塩化ビニリデン系樹脂フィルムについて、懸濁剤の含有量、粘着付与剤の含有量、フィルム厚み及びせん断密着力の測定結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1から、塩化ビニリデン系樹脂が、該樹脂を形成する単量体成分の質量を基準とする含有量が300ppm未満である懸濁剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合して調製されたものである、実施例1〜4の本発明の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、温度13℃におけるせん断密着力が、5kgf以上であることから、食器等、特に冷蔵庫内において食品を収容して保管されている食品容器等に対する十分な密着力を有し、かつ、引出性や透明性において遜色がない塩化ビニリデン系樹脂フィルムであることが分かった。
【0071】
特に、塩化ビニリデン系樹脂が、水性媒体を含む全質量を基準とする懸濁剤の含有量が150ppm未満の懸濁剤の存在下に懸濁重合して調製されたものである、実施例1及び2の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、粘着付与剤を含有しない塩化ビニリデン系樹脂フィルムであるにもかかわらず、温度13℃におけるせん断密着力が5.5kgf及び5.7kgfであり、食器等に対する十分な密着力を有するものであった。
【0072】
また、更に粘着付与剤を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムである実施例3及び4の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、温度13℃におけるせん断密着力が6.2kgf及び7.2kgfであることから、食器等に対するより十分な密着力を有するものであることが分かった。
【0073】
これに対して、塩化ビニリデン系樹脂が、該樹脂を形成する単量体成分の質量基準で403ppmの懸濁剤の存在下に懸濁重合して調製されたものである比較例1及び2の塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、粘着付与剤を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであるにもかかわらず、温度13℃におけるせん断密着力が4.2kgf及び4.6kgfであることから、食器等、特に冷蔵庫内において食品を収容して保管されている食品容器等に対する密着力が十分とはいえないものであることが分かった。