(54)【発明の名称】どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の処理方法、表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法、および、表面処理溶融亜鉛メッキ鋼板
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1級〜第3級アミノ基および第4級アンモニウム塩基からなる群から選択される少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を含有し、
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、ポリカーボネート構造単位およびビスフェノール構造単位を有し、
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度(Tg1)が−60℃〜−5℃の範囲にあり、
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比である損失正接tanδが一つのピークからなる、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料。
前記リン酸化合物(B)が、オルトリン酸、縮合リン酸、および、これらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項3に記載のどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料。
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のアミン価(AV)が2.0〜5.0mgKOH/gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料。
前記リン酸化合物(B)の前記カチオン性ポリウレタン樹脂の固形分に対する含有割合(質量%)(BV)と前記アミン価との比((BV)/(AV))が、0.1〜9.5である、請求項5に記載のどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料。
請求項1〜7のいずれか1項に記載のどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料と、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板とを接触させ、前記どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板およびその表面上に配置された皮膜を有する表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する、表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料(以後、単に「塗料」とも称する)について詳述する。本発明の塗料を使用することにより所望の効果が得られる理由は、以下のように推測される。
まず、外観特性が向上する理由としては、カチオン性ポリウレタン樹脂の損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度(Tg1)が−60℃〜−5℃の範囲にある点が挙げられる。本発明者らは、上記温度(Tg1)が、皮膜の外観特性および耐ラビング性に関連していることを知見している。つまり、損失弾性率E’’は物体の粘性を示す指標であり、損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度が低すぎる場合、樹脂は良好な流動性を示し皮膜の平坦性が向上して優れた外観特性が得られるが、形成される皮膜の硬度が劣り耐ラビング性の低下を引き起こす。一方、上記温度が高すぎる場合は、形成される皮膜の硬度が優れ耐ラビング性は優れるものの、樹脂の流動性が低下し外観特性に劣る。本発明においては、カチオン性ポリウレタン樹脂の温度(Tg1)が上記範囲内であれば、外観特性および耐ラビング性を両立できることを見出している。なお、上記耐ラビング性とは、組立作業時等に目印としてつけた油性マジックを、アルコールを浸み込ませた布等で拭き取る作業に対する皮膜の耐性を意図している。
また、耐食性が向上する理由としては、カチオン性ポリウレタン樹脂の損失正接tanδが一つのピークからなる点が挙げられる。一般的に、ポリウレタン樹脂は、その樹脂骨格のため膜形態においてソフトセグメントとハードセグメントとの二つ以上のドメインがある海島構造を形成しやすい。そのため、動的粘弾性測定を行うと、損失正接tanδにおいて二つ以上のピークが観測される。それに対して、本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂においては、損失正接tanδが一つのピークからなり、膜中において上記海島構造が形成されにくく、均一な膜が形成され、結果として耐食性が向上すると推測される。
【0011】
また、良好な上塗り塗装密着性および耐衝撃性を確保するためには、カチオン性ポリウレタン樹脂の損失正接tanδのピーク温度(Tg2)が−50℃〜−2℃の範囲にあることが好ましい。本発明の塗料を施した製品の使用環境によっては、寒冷地で加工を施す場合がある。表面処理で使用される損失正接tanδのピーク温度が高い成分を含む塗料では皮膜が硬いため、特に冬期の低温下で加工を施した際に上塗り塗装密着性が不足し、塗膜剥離を生じやすい。また、表面処理で使用される損失正接tanδのピーク温度が低い成分を含む塗料では皮膜が柔らかいため、特に夏期の高温下で加工を施した際に、耐衝撃性が不足して、塗膜剥離を生じやすい。それに対して、損失正接tanδのピーク温度(Tg2)が−50℃〜−2℃の範囲にあれば、低温時においても、高温時においても、皮膜が十分な柔軟性と硬度を持ち、十分な上塗り塗装密着性および耐衝撃性を発揮すると推察される。
また、良好な貯蔵安定性を確保するためには、カチオン性ポリウレタン樹脂のアミン価が2.0〜5.0mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。カチオン性ポリウレタン樹脂中のカチオン性官能基は、カチオン性ポリウレタン樹脂を水溶性または水分散性にするのに寄与する。そのため、カチオン性官能基が少ないと、言い換えればアミン価が低いと、カチオン性ポリウレタン樹脂の安定性が不足して、塗料中において再分散可能であるが、樹脂の沈殿が生じやすい。したがって、カチオン性ポリウレタン樹脂の安定性を良化させるためにはカチオン性官能基を多く、言い換えればアミン価を高くすることが望ましいが、樹脂中の親水基が増加しすぎる、つまり、アミン価が高すぎると、逆に、カチオン性ウレタン樹脂が水溶化するため粘性が強まり、塗料が増粘して、塗料の再分散性に影響を及ぼす場合がある。また、増粘により塗布作業性に影響を及ぼす場合もある。そこで、カチオン性ポリウレタン樹脂のアミン価を2.0〜5.0mgKOH/gの範囲に制御することにより、良好な貯蔵安定性を得ることが可能になると推察する。
さらに、本発明の塗料の他の効果として、リン酸塩処理性が優れる点も挙げられる。リン酸塩処理性が優れる理由としては、所定の官能基を有するカチオン性ポリウレタン樹脂を使用している点が挙げられる。どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板上に形成される皮膜中のカチオン性ポリウレタン樹脂中のカチオン性官能基と、リン酸化合物に存在するリン酸とが相互作用して、リン酸塩処理におけるリン酸亜鉛などのリン酸塩の生成反応の起点となり、リン酸塩処理性が向上すると推察している。リン酸化合物のカチオン性ポリウレタン樹脂の固形分に対する含有割合(質量%)(BV)と、アミン価との比(BV)/(AV)は特に制限されず、0.05〜20等が挙げられるが、なかでも、0.1〜9.5であることが好ましく、0.5〜9.0であることがより好ましく、0.5〜6.0であることがさらに好ましい。(BV)/(AV)が上記範囲(0.1〜9.5)内にあることにより、皮膜上にリン酸塩の生成反応の起点がより良好に生じ、より優れたリン酸塩処理性を得られると推察している。この場合、リン酸化合物が相対的に多いとき、つまり(BV)/(AV)が大きいと、リン酸化合物がリン酸塩処理液に相対的に多く溶け出すために、リン酸塩皮膜の形成が遅れやすいことが多く、また、逆にリン酸化合物が相対的に少ないとき、つまり(BV)/(AV)が小さいと、カチオン性ポリウレタン樹脂のカチオン性官能基に対するリン酸化合物の相互作用が相対的に少なくなるため、リン酸塩処理液によるカチオン性ポリウレタン樹脂の膨潤や溶解が低くなることがおき、リン酸塩皮膜の形成が遅れやすいと推測している。
なお、リン酸塩処理とは、塗装下地などに適用されるリン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸マグネシウムなどを主成分としたリン酸塩処理液を用いた処理を意図する。塗布型リン酸塩処理は、リン酸塩処理の一形態となる。塗布型リン酸塩処理は、被処理物(例えば、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板などの亜鉛メッキ系鋼板)の表面に塗布型リン酸塩処理液の塗布により微細で緻密なリン酸亜鉛の結晶を形成させて、高力ボルトとの摩擦接合面におけるすべり耐力を向上させる処理等を意図する。
【0012】
なお、本発明の塗料は、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板に好適に適用することができ、CGL(連続溶融亜鉛めっき板ライン)などで製造される溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛−5%アルミ合金メッキ鋼板、溶融亜鉛−55%溶アルミ合金メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、EGL(電気亜鉛めっきライン)などで製造される電気亜鉛メッキ鋼板などを含む亜鉛系メッキ鋼板に対しても好適に適用することができ、上述した各種特性(外観特性、耐ラビング性、耐食性、上塗り塗装密着性、耐衝撃性、リン酸塩処理性など)を向上させることができる。言い換えれば、本発明の塗料は、亜鉛系メッキ鋼板に対しては好適に適用することができ、亜鉛系メッキ鋼板用塗料としても使用できる。特に、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板、CGL(連続溶融亜鉛めっき板ライン)などで製造される溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛−5%アルミ合金メッキ鋼板、溶融亜鉛−55%溶アルミ合金メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板などの、溶融亜鉛を用いてメッキ処理が実施されて得られる溶融系亜鉛メッキ鋼板に対して好適に適用でき、溶融系亜鉛メッキ鋼板用塗料としても使用できる。
【0013】
本発明の塗料には、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が少なくとも含まれる。
以下、塗料に含まれる各種成分について詳述し、その後、塗料を用いたどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の処理方法(言い換えれば、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板およびその表面上に配置された皮膜を有する表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する、表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法)について詳述する。
【0014】
<カチオン性ポリウレタン樹脂(A)>
本発明の塗料には、第1級〜3級アミノ基および第4級アンモニウム塩基からなる群から選択される少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)が含まれる。
従来技術で使用されているアニオン性樹脂は、一般的に耐アルカリ性に劣り、耐酸性に優れる傾向がある。耐アルカリ性に劣る場合、皮膜形成後のアルカリ脱脂工程などによって、皮膜が溶解・剥離しやすいため、耐食性低下の原因となる。また、耐酸性に優れるため、リン酸塩処理を施すことが困難となる場合が多い。それに対して、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、耐アルカリ性に優れるため、アルカリ脱脂工程後においても耐食性に優れる。また、ポリウレタン樹脂は、分子内のウレタン結合による水素結合により皮膜が強靭となり、耐食性向上につながる。さらに、比較的、カチオン性官能基を有していることもあり、耐酸性が低いため、樹脂の特性としてもリン酸塩処理が施しやすい。
【0015】
(カチオン性官能基)
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)に含まれるカチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基などが挙げられるが、第1級〜第3級アミノ基、または第4級アンモニウム塩基であれば、特に限定はしない。
なお、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中のカチオン性官能基は、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を水溶性または水分散性にするのに寄与する。なお、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水への溶解または分散は、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水への自己溶解性または自己分散性に基づいて達成されてもよく、また、カチオン性界面活性剤(例えば、アルキル4級アンモニウム塩)および/またはノニオン性界面活性剤(例えば、アルキルフェニルエーテル)の助けを借りて達成されてもよい。
【0016】
(損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度(Tg1))
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度(Tg1)は、−60℃〜−5℃の範囲にあり、外観特性、耐ラビング性、耐食性、リン酸塩処理性、上塗り塗装密着性、耐衝撃性、および、貯蔵安定性の少なくとも1つがより優れる点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、−55℃〜−10℃が好ましく、−50℃〜−15℃がより好ましい。
温度(Tg1)が−60℃未満である場合、耐ラビング性に劣り、−5℃超である場合、皮膜外観特性に劣る。
なお、上記最大ピーク値とは、後述する動的粘弾性測定より得られる損失弾性率曲線(横軸を温度、縦軸を損失弾性率としたグラフにおける、損失弾性率の温度依存性曲線)において観測されるピーク値のうち、最大のピーク値を意図する。ピーク値とは、いわゆる極大値ともいえる。
【0017】
(損失正接tanδ)
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比(損失弾性率E’’/貯蔵弾性率E’)である損失正接tanδは、一つのピークからなる(一つのピークのみを有する)。つまり、後述する動的粘弾性測定より得られる損失正接tanδ曲線(横軸が温度、縦軸を損失正接tanδとしたグラフにおける、損失正接tanδの温度依存性曲線)において、一つのピークからなる(一つのピークのみを有する)ことを意図する。言い換えれば、二つ以上のピークがないことを意図する。上述したように、二つ以上のピークが観測される場合、形成される皮膜がミクロ的には不均一であり、耐食性に劣る。
【0018】
(損失正接tanδのピーク温度(Tg2))
損失正接tanδのピーク温度(Tg2)の範囲は特に制限されないが、本発明の効果(特に、上塗り塗装密着性と耐衝撃性)がより優れる点で、−50℃〜−2℃が好ましく、−48℃〜−5℃がより好ましく、−45℃〜−10℃がさらに好ましい。
動的粘弾性測定の方法としては、TAインスツルメント製動的粘弾性測定装置「RSAG2」を用い、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のフィルム(サンプル面積:つかみ長×幅=20mm×5mm)の横方向(TD)について、振動周波数10Hz、歪み0.1%にて、昇温速度5℃/分で−100℃から200℃まで測定し、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E’’と損失正接tanδを算出する。
【0019】
本発明の塗料中に含まれるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の上記特性(損失弾性率E’’、損失正接tanδ)は、その構造や合成方法を制御することにより適宜調整可能である。
例えば、温度(Tg1)は、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のソフトセグメントを構成する部分となるポリオールの量および分子量や、重合時の温度によって制御することができる。ポリオールの量が多い場合は温度(Tg1)が低くなり、量が少ない場合は温度(Tg1)が高くなる傾向がある。
また、損失正接tanδのピークが二つ以上観測されないためには、例えば、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のソフトセグメントを構成する部分となるポリオールの分子量や、重合時の温度を制御する方法がある。
【0020】
(ウレタン樹脂の構造)
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、ポリカーボネート構造単位およびビスフェノール構造単位を有する。言い換えると、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、樹脂を構成する繰り返し単位として、ポリカーボネート構造繰り返し単位およびビスフェノール構造繰り返し単位を有する。
カーボネート構造単位は柔軟性があり、密着性に優れるが水などに濡れた場合における膜の耐加水分解性に劣る傾向がある。ビスフェノール構造単位は耐加水分解性に優れるが、固く柔軟性に劣り、擦過などにより傷がつきやすい傾向がある。
つまり、ポリカーボネート構造単位およびビスフェノール構造単位を有しないと、ポリカーボート構造単位およびビスフェノール構造単位を有するものと比較して、耐食性および耐ラビング性が劣ることになる。
本発明においては、両者を組み合わせ、損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度(Tg1)が−60℃〜−5℃の範囲となるように制御することにより、優れた耐食性、耐ラビング性、および、優れた外観特性を同時に得ることができる。
【0021】
ポリカーボネート構造単位とは、その構造内にカーボネート結合(−O−C(=O)−O−)を複数有する繰り返し単位である。通常、ポリウレタン樹脂はポリオールとポリイソシアネートの反応により作製される。そこで、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)にカーボネート構造単位を導入する方法としては、ポリカーボネートポリオールを用いてカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する方法が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール−A、または、水添ビスフェノール−Aなどのポリオールと、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、または、ホスゲンなどとを反応させることにより得られる末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールなどが例示される。
【0022】
ビスフェノール構造単位としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはビスフェノールSに由来する構造単位が挙げられる。カチオン性ポリウレタン樹脂(A)にビスフェノール構造単位を導入する方法としては、ビスフェノール構造を有するポリオールを用いてカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する方法が挙げられる。
ビスフェノール構造を有するポリオールとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールE型、ビスフェノールA型にアルキレンオキサイドが付加したポリオール、ビスフェノールF型にアルキレンオキサイドが付加したポリオール、ビスフェノールE型にアルキレンオキサイドが付加したポリオール、水添ビスフェノールA型、水添ビスフェノールF型、水添ビスフェノールA型にアルキレンオキサイドが付加したポリオール、水添ビスフェノールF型にアルキレンオキサイドが付加したポリオール等、水添ビスフェノールE型にアルキレンオキサイドが付加したポリオールが挙げられる。
【0023】
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、上記ポリカーボネート構造単位およびビスフェノール構造単位以外の構造単位を有していてもよい。
例えば、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の製造時に、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリカーボネートポリオール以外の他のポリオールを合わせて使用してもよい。
また、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の製造の際に、(置換)アミノ基などのカチオン性官能基を有するアルコール化合物(好ましくは、(置換)アミノ基などのカチオン性官能基を有するポリオール化合物)(例えば、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノジメチロールプロパンなど)や、所定のカチオン性官能基を有するアミン化合物を合わせて用いることにより、所望のカチオン性官能基をポリウレタン樹脂中に導入することができる。
また、上述したように、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の製造の際には、上述したポリオールと、ポリイソシアネート(例えば、脂肪族、脂環式または芳香族ポリイソシアネート)とを反応させて得られる。
【0024】
ポリエーテルポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのポリエチレングリコール、ポリエチレン/プロピレングリコールなどが例示される。
ポリエステルポリオールとしては、アルキレン(例えば炭素数1〜6)グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコールなど)、ポリエーテルポリオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、または、グリセリンなどのポリオールと、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、または、トリメリット酸などの多塩基酸との重縮合によって得られる末端に水酸基を有するポリエステルポリオールなどが例示される。
脂肪族、脂環式または芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが例示される。
【0025】
(アミン価)
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のアミン価は特に制限されないが、塗料の貯蔵安定性がより優れる点で、2.0〜5.0mgKOH/gが好ましく、2.3〜4.5mgKOH/gがより好ましく、更に、2.5〜4.0mgKOH/gがさらに好ましい。
上記アミン価は、下記の測定方法により測定した値を全アミン価として定義する。
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を固形分換算で約3g採取し、正確に秤量する。その後、ジメチルホルムアミドを加え溶解する。次いで、ブロムクレゾールグリーン指示薬を数滴加え、0.1mol/L塩酸滴定用溶液で滴定し、青色から黄色に変わった点を終点として滴定液の量を読み取る。下記の計算式により全アミン価(mgKOH/g)を算出する。
全アミン価=[(F1−F2)×f×5.611/S]
式中:
F1:本試験に要した0.1mol/L塩酸滴定用溶液量(mL)
F2:空試験に要した0.1mol/L塩酸滴定用溶液量(mL)
f:0.1mol/L塩酸滴定用溶液の力価
S:試料採取量(g)
である。
なお、上記空試験とは、カチオン性ポリウレタン樹脂ではなく、脱イオン水を用いて測定する試験を意図する。
【0026】
<その他任意成分>
本発明の塗料には、上記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)以外の他の成分が含まれていてよい。以下、任意成分について詳述する。
【0027】
(リン酸化合物(B))
本発明の塗料には、リン酸化合物(B)が含まれていてもよい。リン酸化合物(B)が含まれることにより、耐食性がより向上する。
リン酸化合物(B)としては、例えば、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、および、有機リン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
無機リン酸およびその塩としては、リン酸(オルトリン酸)、亜リン酸、三リン酸、次亜リン酸、次リン酸などのモノリン酸、モノリン酸の誘導体および塩類、メタリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸などの縮合リン酸、縮合リン酸の誘導体および塩類などが挙げられる。
有機リン酸およびその塩としては、リン酸モノエステル(例えば、リン酸モノドデシル二水素、リン酸モノトリデシル二水素など)およびその塩、リン酸ジエステル(例えば、リン酸ジドデシル水素、リン酸ジトリデシル水素など)およびその塩などが挙げられる。有機リン酸の具体例としては、例えば、R
10O−P(=O)(OR
11)(OR
12)によって表される化合物が挙げられる。なお、R
10は有機基を表し、R
11およびR
12はそれぞれ独立に水素原子または有機基を表す。有機基としては、例えば、炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基、または、これらを組み合わせた基)が挙げられる。
なお、無機リン酸塩(無機リン酸の塩)、有機リン酸塩(有機リン酸の塩)などの塩類としては特に制限されないが、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩を挙げることができる。
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、リン酸化合物(B)は、オルトリン酸、縮合リン酸、および、これらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0028】
(3価クロム化合物(C))
本発明の塗料には、3価クロム化合物(C)が含まれていてもよい。3価クロム化合物(C)が含まれることにより、耐食性がより向上する。
3価クロム化合物(C)とは、3価のクロムイオンを供給できる化合物であり、例えば、3価クロム塩が挙げられる。塩の種類としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、コハク酸塩などの有機酸塩が挙げられる。
3価クロム化合物(C)の具体例としては、例えば、フッ化クロム(III)、塩化クロム(III)、硝酸クロム(III)、硫酸クロム(III)、酢酸クロム(III)などが挙げられる。
【0029】
(溶媒)
本発明の塗料には、溶媒が含まれていてもよい。溶媒としては、水や有機溶媒(例えば、アルコール)が挙げられる。
【0030】
(その他添加剤)
本発明の塗料は、塗工性を調整する目的で、増粘剤、レベリング剤、濡れ性向上剤、消泡剤、界面活性剤、水溶性のアルコール類、セロソルブ系溶剤などを含有していてもよい。
また、防腐剤、抗菌剤、着色剤、傷付き防止剤、潤滑剤などを含有していてもよい。
また、ベンゾトリアゾール、グアニジン系化合物、ヒンダードアミンなどを含有していてもよい。
【0031】
<どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板用塗料>
本発明の塗料には、上述した各種成分が含まれる。
塗料中におけるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点、および、取り扱い性の点で、塗料の全質量に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0032】
塗料中にリン酸化合物(B)が含まれる場合、リン酸化合物(B)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.3〜25質量部がより好ましく、1〜10質量部がさらに好ましい。
塗料中に3価クロム化合物(C)が含まれる場合、3価クロム化合物(C)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、0.5〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0033】
塗料の調製方法は特に制限されず、例えば、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)およびその他任意成分を水などの溶媒に添加して、混合することにより調製することができる。
【0034】
<表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法>
本発明の塗料は、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板に好適に適用でき、本発明の塗料とどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板とを接触させることにより、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板およびその表面上に配置された皮膜を有する表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を製造することができる。
なお、上述したように、本発明の塗料は、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を含む亜鉛メッキ系鋼板(または、溶融系亜鉛メッキ鋼板)にも好適に適用することができる。
以下においては、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を被処理物として用いた態様について代表的に説明するが、後述する条件にてどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板以外の他の亜鉛メッキ系鋼板上に所定の皮膜を形成させ、各種特性に優れる表面処理亜鉛系メッキ鋼板を製造することもできる。また、上述した、溶融系亜鉛メッキ鋼板を使用した場合は、溶融系亜鉛メッキ鋼板とその上に皮膜を有する、表面処理溶融系亜鉛メッキ鋼板を製造することもできる。
【0035】
上述した塗料を用いて、表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法は特に制限されないが、通常、上述した塗料をどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板に接触させ、必要に応じて加熱乾燥して、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板上に皮膜を形成し、表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を得る工程を有する。
以下では、まず、被処理物であるどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0036】
(どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板)
どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板とは、溶融亜鉛槽に被処理体である鋼板を浸漬させて、そのままゆっくりと被処理体をメッキ槽から引き上げることによりメッキを施す浸漬法により得られる鋼板である。なお、上述したように、どぶ漬け法では、CGLにて実施されるエアナイフなどによる亜鉛の付着量制御は実施されず、メッキ槽から被処理体を引き上げ、そのまま放置(冷却)する。
どぶ漬け亜鉛メッキが施される鋼板の種類は特に制限されず、例えば、H鋼、ガードレール、コルゲートパイプ、建造物の柱や梁、防音壁支柱、標識柱、照明柱、大型の橋桁橋梁、跨線橋などの橋梁、鉄筋、電力鉄塔などに使用される架線金物、ボルト・ナットなどの小物部品、太陽電池や小型風力発電装置の架台、屋外露出型鉄骨など、亜鉛メッキ加工を施す全ての建築材料が挙げられ、切り板状鋼材やコイル状鋼材であっても構わない。
【0037】
なお、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板表面に油分、汚れなどが付着している場合には、アルカリ脱脂剤、中性脱脂剤または、酸性脱脂剤等で洗浄して、その後に湯洗または水洗を行い、表面状態を清浄にすることが好ましい。
【0038】
(塗料の接触方法)
どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板への塗料の接触方法は特に制限されず、メッキ加工後の冷却工程で行う浸漬処理、スプレー処理、刷毛塗り処理、静電塗装処理などが挙げられる。また、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板がコイル状である場合は従来使用されている方法を適応することができ、例えば、ロールコート、シャワーリンガーロール絞り、スプレー処理、浸漬処理、カーテンコート、フローコート、スピンコートなどが挙げられる。
【0039】
(塗料の乾燥方法)
塗料の乾燥方法としては、一番経済的なのはメッキ加工後の予熱を利用する方法であり、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板を塗料に浸漬して、そのまま放置することにより乾燥することができる。なお、乾燥の際にどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板の表面に付着している水分を効率よく飛ばす為の風を送ってもよい。
処理工程上、亜鉛メッキ加工後の予熱を利用するのが難しい場合には、塗料に含まれる水分を蒸発させることができる乾燥設備を利用するのが好ましい。その場合の乾燥設備の種類は特に制限されないが、熱風乾燥設備、誘導加熱式乾燥設備、赤外線ヒーター乾燥設備、近赤外ヒーター乾燥設備などが挙げられる。これら乾燥設備を用いた場合の乾燥温度は特に制限されないが、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板表面の到達温度として60℃〜200℃であることが好ましく、80℃〜180℃であることがより好ましい。
【0040】
(塗料の皮膜付着量)
上記処理を実施することにより、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板と、その表面上に配置された皮膜とを有する、表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板が製造される。
皮膜の付着量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.3〜5.0g/m
2が好ましく、0.5〜3.0g/m
2がより好ましい。
製造された表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板は各種用途に好適適用することができ、例えば、家電や建材用途の部材などが挙げられる。
また、本発明の表面処理どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板に塗装を施してもよい。その場合、その塗装板について、さらになんらかの加工が施される場合もある。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
1.試験材
使用した試験剤(素材)を以下に記す。通常、どぶ漬け亜鉛めっき加工品は形状物であることが殆どであるが、本試験においては板を素材として用いた。なお、素材の形状が変わっても、本発明が発現する効果については何の影響も及ぼさない。
以下のM1で表される溶融亜鉛メッキ鋼板は、上述したどぶ漬けにより作製されたどぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板に該当する。また、M1〜M3は、溶融系亜鉛メッキ鋼板に該当する(なお、M2およびM3は、どぶ漬け溶融亜鉛メッキ鋼板には該当しない)。
M1:溶融亜鉛めっき鋼板(JIS H 8641 HDZ35に準ずる)、スパングル小、寸法:700mm×150mm×1.6mm(板厚)、両面めっき付着量:360g/m
2
M2:溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G 3302 SGCC Z06に準ずる)、寸法:700mm×150mm×0.8mm(板厚)、両面めっき付着量:60g/m
2
M3:溶融亜鉛−5%アルミ合金メッキ鋼板(JIS G 3317 SZACCY08に準ずる)、寸法:700mm×150mm×0.8mm(板厚)、両面めっき付着量:80g/m
2【0043】
2.前処理(脱脂処理)
シリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナーE6406(日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で10秒間スプレー処理を上記試験材に施し、さらに、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを以下の試験で使用した。
【0044】
3.塗料
表1に、使用したカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の詳細を示す。なお、製造方法は後段で詳述する。
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の損失弾性率E’’および損失正接tanδは、以下の手順にて測定した。まず、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のフィルム(厚み:300〜500μm)を室温で15時間放置した後、80℃で6時間乾燥し、さらに、120℃で20分乾燥させた。
次に、TAインスツルメント製動的粘弾性測定装置「RSAG2」を用い、得られたフィルム(サンプル面積:つかみ長×幅=20mm×5mm)の横方向(TD)について、振動周波数10Hz、歪み0.1%にて、昇温速度5℃/分で−100℃から200℃まで測定し、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E’’と損失正接tanδを算出した。なお、つかみ具(チャック)間の距離を10mmに設定した。
アミン価の測定方法は、上述した通りである。
【0045】
表1中、Tg1は上記測定より得られる損失弾性率E’’の最大ピーク値を示す温度を、Tg2は上記測定より得られる損失正接tanδのピーク温度を表す。
また、ピーク数は、損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比である損失正接tanδの温度依存性曲線におけるピークの数を意図する。
【0046】
【表1】
【0047】
(製造例1:カチオン性ポリウレタン樹脂(A1))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1000質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)100質量部、N−メチルジエタノールアミン100質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート400質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル103質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A1)を含むポリウレタン水分散体1を得た。
【0048】
(製造例2:カチオン性ポリウレタン樹脂(A2))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)50質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート325質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル47質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A2)を含むポリウレタン水分散体2を得た。
【0049】
(製造例3:カチオン性ポリウレタン樹脂(A3))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン980、東ソー(株)製、Mw=1,000)1000質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)300質量部、N−メチルジエタノールアミン100質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート535質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート250質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル95質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A3)を含むポリウレタン水分散体3を得た。
【0050】
(製造例4:カチオン性ポリウレタン樹脂(A4))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1000質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)200質量部、N−メチルジエタノールアミン100質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート480質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル101質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A4)を含むポリウレタン水分散体4を得た。
【0051】
(製造例5:カチオン性ポリウレタン樹脂(A5))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)100質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート370質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル48質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A5)を含むポリウレタン水分散体5を得た。
【0052】
(製造例6:カチオン性ポリウレタン樹脂(A6))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン980、東ソー(株)製、Mw=1,000)1000質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)200質量部、N−メチルジエタノールアミン100質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート450質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート220質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル87質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A6)を含むポリウレタン水分散体6を得た。
【0053】
(製造例7:カチオン性ポリウレタン樹脂(A7))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)100質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート260質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート150質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル49質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A7)を含むポリウレタン水分散体7を得た。
【0054】
(製造例8:カチオン性ポリウレタン樹脂(A8))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)100質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート315質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート80質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル49質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A8)を含むポリウレタン水分散体8を得た。
【0055】
(製造例9:カチオン性ポリウレタン樹脂(A9))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)50質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート310質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート35質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル49質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A9)を含むポリウレタン水分散体9を得た。
【0056】
(製造例10:カチオン性ポリウレタン樹脂(A10))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)750質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)125質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート290質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート35質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル51質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A10)を含むポリウレタン水分散体10を得た。
【0057】
(製造例11:カチオン性ポリウレタン樹脂(A11))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)750質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)125質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート220質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート110質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル50質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A11)を含むポリウレタン水分散体11を得た。
【0058】
(製造例12:カチオン性ポリウレタン樹脂(A12))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン980、東ソー(株)製、Mw=1,000)500質量部、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)250質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)150質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート275質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート150質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル44質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A12)を含むポリウレタン水分散体12を得た。
【0059】
(製造例13:カチオン性ポリウレタン樹脂(A13))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン980、東ソー(株)製、Mw=1,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)25質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート500質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル49質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A13)を含むポリウレタン水分散体13を得た。
【0060】
(製造例14:カチオン性ポリウレタン樹脂(A14))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン980、東ソー(株)製、Mw=1,000)1500質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)25質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート500質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル25質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A14)を含むポリウレタン水分散体14を得た。
【0061】
(製造例15:カチオン性ポリウレタン樹脂(A15))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)1600質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)150質量部、N−メチルジエタノールアミン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート245質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート275質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル48質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A15)を含むポリウレタン水分散体15を得た。
【0062】
(製造例16:カチオン性ポリウレタン樹脂(A16))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(ニッポラン981R、東ソー(株)製、Mw=2,000)600質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)50質量部、N−メチルジエタノールアミン175質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート550質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル179質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A16)を含むポリウレタン水分散体16を得た。
【0063】
(製造例17:カチオン性ポリウレタン樹脂(A17))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(クラレポリオールC−3090、クラレ(株)製、Mw=3,000)1000質量部、ビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)(BPE20T、三洋化成(株)製、ヒドロキシ価346mg/g)20質量部、N−メチルジエタノールアミン30質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート160質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル30質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A17)を含むポリウレタン水分散体17を得た。
【0064】
(製造例18:カチオン性ポリウレタン樹脂(A18))
撹拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリエチレングリコール(PEG2000、三洋化成(株)製、Mw=2,000)600質量部、N−メチルジエタノールアミン30質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート80質量部、メチルエチルケトン800質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.0質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、硫酸ジメチル30.2質量部を加えて後、脱イオン水2700質量部を徐々に加えて乳化分散を行った。その後、エチレンジアミン45質量部を水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約35質量%のカチオン性ポリウレタン樹脂(A18)を含むポリウレタン水分散体18を得た。
【0065】
表2に使用したりん酸化合物(B)を、表3に使用した3価クロム化合物(C)を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
4.塗料の調製
表4に示す組合せおよび割合にて、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)、リン酸化合物(B)、および、3価クロム化合物(C)をこの順序で混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより、塗料を調製した。なお、リン酸化合物(B)、および、3価クロム化合物(C)の含有割合は、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の固形分に対する質量%である(言い換えれば、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対する、各成分の含有量(質量部)を意図する)。
【0069】
なお、表4中、「BV/AV」は、リン酸化合物(B)のカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の固形分に対する含有割合(質量%)(BV)とアミン価との比を表す。
【0070】
【表4】
【0071】
5.試験板の作製方法
本発明の塗料をバーコーターにて各試験材上に塗布し、表5に示す到達板温度にて加熱処理を施し、各試験材上に皮膜を形成し、試験板を製造した。なお、各例における皮膜量は表5の通りであり、皮膜量の調整は塗料の濃度調整(脱イオン水希釈)とバーコーターの番手によって実施した。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
6.評価方法
(1)外観特性(皮膜外観)
得られた試験板の外観を目視評価した。○以上は実用レベルである。
◎+:メッキ外観とほぼ同じであり、皮膜処理後も殆ど変化しない
◎:メッキ外観とほぼ同じであるが、目視する角度によっては極僅かに色調ムラがある。
○:メッキ外観とほぼ同じであるが、極僅かに色調ムラがある程度である。
△:メッキ外観と異なる部位があり、その部位が薄く白色または黄色である。
×:メッキ外観と異なる部位が多く、明らかに白色または黄色である。
【0077】
(2)耐ラビング性(耐溶剤性)
ガーゼにエタノールを染み込ませ、得られた試験板の皮膜の表面に往復20回のラビング試験を施し、表面を観察した。△以上は実用レベルである。
◎+:外観全く変化なし
◎:外観変化なし(正面から見て変化なし)、斜めから見て若干変化あり
○:正面から見て若干変化有り
△:正面から見てやや変化有り(半分程度剥離)
×:変化有り(ほぼ全面剥離)
【0078】
(3)耐食性
得られた試験板を用いて、JIS−Z−2371に基づき塩水噴霧試験を行い、24時間後の白錆発生面積率を求め、以下の基準に従って評価した。△以上は実用レベルである。ただし、試験材M3を用いた実施例および比較例に関しては、塩水噴霧試験48時間後の白錆発生面積率を求め、以下の基準に従って評価した。
◎+:5%未満
◎:5%以上10%未満
○+:10%以上20%未満
○:20%以上30%未満
△+:30%以上40%未満
△:40%以上50%未満
×:50%以上
【0079】
(4)リン酸塩処理性(塗布型リン酸塩処理性)
得られた試験板を、日本パーカライジング(株)製りん酸塩処理用化成薬剤パルボンドL15C(A剤250g/L+B剤250g/L、25℃、刷毛塗り)で処理した後に5分間放置し、刷毛塗り部分の表面状態を観察し、刷毛塗り部分のグレー変色面積率を求め、以下の基準に従って評価した。なお、グレー変色面積率が高いほど、形成された皮膜がリン酸塩処理によって部分的に溶解し、且つ、リン酸塩皮膜が形成されてグレー色の色調を呈する。△以上は実用レベルである。
◎+:100%
◎:95%以上100%未満
○:85%以上95%未満
△:70%以上85%未満
×:70%未満
【0080】
(5)上塗り塗装密着性
得られた試験板の皮膜上に、バーコーターを用いてメラミンアルキッド系樹脂塗料を乾燥膜厚が25μmとなるように塗布し、炉温130℃で20分間焼き付けて、塗膜を製造した。次に、塗膜に対してカッターで幅1mmの100マスの碁盤目を施し、−20℃の恒温庫に5時間以上静置し、恒温庫から取り出した直後に碁盤目の部位を7mm押し出しでエリクセン加工を施した。加工を施した部分のテープ剥離試験を実施し、碁盤目の剥離個数を次のように評価した。△以上は実用レベルである。
◎+:剥離なし
◎:剥離個数1個以上5個未満
○:剥離個数6個以上10個未満
△:剥離個数11個以上20個未満
×:剥離個数20個以上
【0081】
(6)耐衝撃性
得られた試験板の皮膜上に、バーコーターを用いてメラミンアルキッド系樹脂塗料を乾燥膜厚が25μmとなるように塗布し、炉温130℃で20分間焼き付けて、塗膜を製造した。次に、塗膜を有する試験板を40℃の恒温庫に5時間以上静置し、試験板を取り出した後、すぐに、デュポン衝撃試験機を用いて、直径1/2インチで1kgの垂錘を50cmの高さから塗膜に対して落下させた後、衝撃部をテープ剥離した。判定は塗膜の残存面積率を求めた。△以上は実用レベルである。
◎+:100%
◎:95%以上100%未満
○:80%以上95%未満
△:50%以上80%未満
×:50%未満
【0082】
(7)塗料の貯蔵安定性
各実施例および比較例にて使用した塗料を40℃の雰囲気で静置した場合に、ゲル化、沈殿が発生するまでの期間で貯蔵安定性を次のように評価した。△以上は実用レベルである。
◎+:3ヶ月以上
◎:2ヶ月以上3ヶ月未満
○:1ヶ月以上2ヶ月未満
△:2週間以上1ヶ月未満
×:2週間未満
【0083】
【表9】
【0084】
【表10】
【0085】
【表11】
【0086】
【表12】
【0087】
表6に示すように、本発明の塗料を用いることにより所望の効果が得られることが確認された。
なかでも、実施例2、5、12および21と他の実施例との比較より、リン酸化合物を使用する場合、より効果が優れる(特に、リン酸塩処理性が優れる)ことが確認された。
また、実施例26と他の実施例(例えば、実施例25など)との比較より、損失正接tanδのピーク温度(Tg2)が所定範囲(−50℃〜−2℃)の場合、上塗り塗装密着性がより優れることが確認された。
また、実施例7〜8、および、実施例12〜19の比較より、比((BV)/(AV))が所定の範囲(0.1〜9.5)の場合、より効果が優れることが確認された。
また、実施例20と実施例27〜29との比較より、アミン価(AV)が所定の範囲(2〜5mgKOH/g)の場合、より効果が優れる(特に、貯蔵安定性が優れる)ことが確認された。
また、実施例25と実施例30〜32との比較より、3価クロム化合物(C)をさらに使用することにより、より効果が優れる(特に、耐食性が優れる)ことが確認された。