(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図を用いながら説明する。なお、以下の説明において、各図で共通する構成要素には同一の符号を付しており、それらについての重複した説明は省略する。
【0013】
ベクトル制御を用いて電動機の駆動制御を行う電力変換装置は、電動機の回転速度又は回転位置情報が必要であり、速度又は位置検出器を用いることが一般的である。
【0014】
図1は、速度又は位置検出器が出力する信号の一例である。
【0015】
図1に示す信号は、オンとオフの幅が等しいパルスで、検出器1回転あたり所定数出力される。
【0016】
検出器1回転あたりのパルス数から、回転位置は次のように算出する。
【0018】
また、パルスの立ち上がりエッジもしくは立ち下がりエッジを利用して、回転位置を算出することもある。その場合には、パルスをエッジに置き換えることで算出ができる。パルスの立ち上がりエッジもしくは立ち下がりエッジを利用する場合、検出器1回転あたりのエッジ数は、検出器1回転あたりのパルス数と等しい。
【0019】
また、精度向上を目的として、パルスの両エッジを利用する場合もある。この場合の検出器1回転あたりのエッジ数は、検出器1回転あたりのパルス数の2倍となる。
【0020】
なお、回転速度は次のように算出する。
【0022】
エッジを利用する場合には、前記同様、パルスをエッジに置き換えることで、算出することが可能である。
【0023】
図2は、速度又は位置検出器が出力する信号の一例である。
【0024】
信号200は、
図1に示す信号同様、オンとオフの幅が等しいパルスで、検出器1回転あたり所定数出力される。信号201は、信号200と同様のパルスであるが、信号200より90°位相差203の遅れを持つ。信号202は、検出器1回転当たり1パルス出力され、回転位置の基準として使用されることが多い。
【0025】
回転速度や回転位置は、前記と同様に算出するが、精度向上を目的として、特に信号200及び信号201の両エッジを用いることが多い。この場合の検出器1回転あたりのエッジ数は、検出器1回転あたりのパルス数の4倍となる。
【0026】
また、90°位相差203の関係より、例えば、信号200の立ち上がりエッジの次に、信号201の立ち上がりエッジが検出された場合には正転、立ち下がりエッジが検出された場合には逆転など、両エッジを監視することで回転方向もわかる。
【0027】
図3は、速度又は位置検出器が出力する信号の一例である。
【0028】
信号300は、正弦(余弦)波が、検出器1回転あたり所定周期数出力される。信号301は、信号300と同様の正弦(余弦)波であるが、信号300より90°位相差303の遅れを持つ。
【0029】
回転速度や回転位置、回転方向は、正弦(余弦)波をパルスに変換することで、前記同様の方法で算出することが可能である。その場合、検出器1回転あたりのパルス数は、検出器1回転あたりの周期数に等しくなる。また、回転位置を正接で算出することや、回転方向を回転位置の増減から算出することもある。
【0030】
図4は、速度又は位置検出器が出力する信号の一例である。
【0031】
信号400は、正弦(余弦)波が、検出器1回転あたり所定周期数出力される。信号401は、信号400と同様の正弦(余弦)波であるが、信号400より120°位相差303の遅れを持つ。信号402は、信号400と同様の正弦(余弦)波であるが、信号401より120°位相差404の遅れを持つ。
【0032】
回転速度や回転位置、回転方向は、クラーク変換を適用することにより、前記と同様に求めることが可能である。
【0033】
なお、前記検出器が電動機の軸に取り付けられていた場合、前記検出器と電動機の回転速度及び回転位置及び回転方向は等しくなる。
【実施例1】
【0034】
図5は、実施例1における実施形態構成の一例である。
【0035】
3相交流誘導電動機510の駆動制御を行う電力変換装置501は、整流回路502、平滑回路503、スイッチング回路制御器505、スイッチング回路507、電流検出器508、電動機状態推定器513、検出器情報推定器515、異常判断器517を有する。便宜上、スイッチング回路制御器505、電動機状態推定器513、検出器情報推定器515、異常判断器517を合わせて制御部と呼ぶ。
【0036】
3相交流電源500から出力される3相交流電圧は、整流回路502により整流され、平滑回路503により平滑し、直流電圧を生成する。3相交流電源500の代わりに、単相交流電源を用い、単相交流電圧を整流回路502に入力してもよい。また、交流電源ではなく、直流電源を用いて直接直流電圧を得てもよい。
【0037】
スイッチング回路制御器505は、電圧指令504に基づいた電圧がスイッチング回路507から出力されるように、スイッチング回路制御信号506を生成する。
【0038】
スイッチング回路507は、スイッチング回路制御信号506に基づき、直流電圧を3相交流電圧に変換する。
【0039】
電流検出器508は、スイッチング回路507から出力される3相交流電流を検出する。2相のみを検出し、3相交流の総和が零であることから、残りの1相を算出してもよい。また、高価な電流検出器508の代わりに、平滑回路503の正極側または負極側に安価なシャント抵抗を設け、このシャント抵抗に流れる電流から3相交流電流を推定してもよい。
【0040】
位置検出器511は、電動機に取り付けられ、電動機の回転位置情報として、検出器1回転当たり所定数のパルス又は所定数のエッジ又は所定周期数の正弦(余弦)波を、少なくとも1信号出力する。位置検出器としては、例えば、エンコーダ、レゾルバ、ホールセンサなどがある。複数信号を出力する場合、検出器1回転当たりパルス数又は正弦(余弦)周期数は、信号毎に異なってもよい。なお、電気角を検出する検出器と機械角を検出する検出器があるが、電動機の極数(極対数)で変換が可能であるので、以下同じものとして扱う。
【0041】
電動機状態推定器513は、電圧指令504及び検出電流509の内少なくとも1つに基づき、3相交流誘導電動機510の回転速度を推定する。誘導電動機の速度推定方法としては、例えば、特開平6−105580号公報(特許文献2)に記載の方法がある。誘導電動機の回転位置を推定し、回転速度と回転位置は微積分の関係であることを利用して、回転速度を算出してもよい。
【0042】
検出器情報推定器515は、推定電動機回転速度514と検出位置信号512から、検出器情報を推定する。検出位置信号512が複数ある場合には、それぞれの信号に対する検出器情報を推定してもよい。例えば、検出器情報を複数推定し、平均化することによって、ノイズなどの影響を少なくすることも可能である。
【0043】
異常判断器517は、推定検出器情報516が、内部に予め設定もしくは外部より設定された条件を満たしているかを判定し、警報信号518を出力する。推定検出器情報516が複数ある場合には、それぞれの検出器情報に対して条件を設定し、少なくとも1つに基づいて警報信号518を出力してもよい。また、推定検出器情報516の内少なくとも2つに基づいて、警報信号518を出力してもよい。複数の推定検出器情報に基づいて警報信号を出力することによって、検出器情報の異常を、より確実にユーザに知らせることが可能である。警報信号518を出力する条件としては、例えば、検出器1回転あたりのパルス数又はエッジ数又は周期数が電力変換装置に設定可能な範囲からの逸脱した場合、もしくは、少なくとも2つの検出器1回転あたりのパルス数又はエッジ数又は周期数が一致しなかった場合などがある。
【0044】
以下、検出器情報の推定方法について説明する。
【0045】
例えば、特開平6−105580号公報(特許文献2)に記載の方法にて、3相交流誘導電動機510を任意の回転速度で回転させると、その回転速度に基づいた推定電動機回転速度514と検出位置信号512が検出器情報推定器515に入力される。検出器情報推定器515では、入力された推定電動機回転速度514と検出位置信号512から、次のように電動機1回転あたりのパルス数を求めることができる。
【0046】
【数3】
【0047】
数3のパルスカウント数やパルスカウント時間は、前回推定時からの差分でもよい。
【0048】
位置検出器511が3相交流誘導電動機510の軸上に取り付けられていた場合、電動機1回転あたりのパルス数と検出器1回転あたりのパルス数は等しいので、検出器情報を得ることができる。
【0049】
パルスのエッジや正弦(余弦)波の場合には、前記同様、パルスをエッジや周期に置き換えればよい。
【0050】
なお、検出器情報推定器515にて、1回転あたりのパルス数といった検出器情報が電力変換装置の設定値と推定値とで異なると判断された場合、設定値を推定値に置き換え、回転速度や回転位置の算出に用いてもよい。
【実施例2】
【0051】
図6は、実施例2における実施形態構成の一例である。
【0052】
3相交流誘導電動機510の駆動制御を行う電力変換装置601は、スイッチング回路制御器605、スイッチング回路607、異常判断器617、配線状態推定器619を有する。便宜上、スイッチング回路制御器605、異常判断器617、配線状態推定器619を合わせて制御部と呼ぶ。
【0053】
スイッチング回路制御器605は、電圧指令504に基づいた電圧がスイッチング回路607から出力されるように、スイッチング回路制御信号506を生成する。
【0054】
スイッチング回路607は、3相交流電源500から出力される3相交流電圧を、スイッチング回路制御信号506に基づいた3相交流電圧に変換する。
【0055】
配線状態推定器619は、検出位置信号512から、配線状態を推定する。検出位置信号512が複数ある場合には、それぞれの信号に対する推定配線状態620を推定してもよい。また、前記のように、電力変換装置に電流検出器と電動機状態推定器を備え、電動機の回転速度や回転位置を推定し、検出位置信号と回転速度又は回転位置に基づいて配線状態を推定してもよい。
【0056】
異常判断器617は、推定配線状態620が内部に予め設定もしくは外部より設定された条件を満たしているかを判定し、警報信号518を出力する。推定配線状態620が複数ある場合には、それぞれの検出器情報に対して条件を設定し、少なくとも1つに基づいて警報信号518を出力してもよい。また、推定配線状態620の内少なくとも2つに基づいて、警報信号518を出力してもよい。複数の推定配線状態に基づいて警報信号を出力することによって、配線状態の異常を、より確実にユーザに知らせることが可能である。警報信号518を出力する条件としては、例えば、電力変換装置601と位置検出器511との推定配線相順が設定配線相順と異なった場合、もしくは、少なくとも2つの推定配線相順が一致しなかった場合、もしくは、少なくとも1つの配線が断線していた場合などがある。
【0057】
以下、配線状態620の推定方法について説明する。
【0058】
例えば、V/f一定制御にて、3相交流誘導電動機510を任意の回転速度で回転させると、その回転速度に基づいた検出位置信号512が配線状態推定器619に入力される。配線状態推定器619では、例えば、前記の方法などで検出器の回転方向を算出する。算出した回転方向より、入力された検出位置信号512の位相関係、すなわち、電力変換装置601と位置検出器511との配線の相順がわかる。
【0059】
また、電力変換装置601と位置検出器511との配線が断線していた場合、3相交流誘導電動機510が回転していても、断線している配線のパルスのみオン又はオフのままとなる。従って、配線状態推定器619に入力された検出位置信号512の内、パルスがオン又はオフのままである信号が存在した場合、その配線は断線していることになる。
【0060】
このように、電動機状態推定器を用いることなく、配線相順や断線などの配線状態を推定することが可能である。
【0061】
なお、電力変換装置601に電動機状態推定器を備えて、電動機回転速度や回転位置を推定し、推定電動機回転速度もしくは回転位置を用いて配線状態を推定することも可能である。推定電動機回転速度の符号や推定電動機回転位置の増減から算出できる回転方向と、検出位置信号512から算出できる回転方向より、配線の相順がわかる。さらに、推定電動機回転速度又は回転位置と、検出位置信号512から算出できる回転速度又は回転位置を比較する、例えば、一致しているか否かより、配線の断線を判断できる。
【0062】
パルスのエッジや正弦(余弦)波によって場合にも、同様に考えることで、配線状態の推定を行うことが可能である。
【0063】
なお、例えば、配線状態推定器619にて、配線の相順などの配線状態が電力変換装置の設定配線状態と推定配線状態とで異なると判断した場合、設定配線状態を推定配線状態に置き換え、回転方向の算出に用いてもよい。
【実施例3】
【0064】
図7は、実施例3における実施形態構成の一例である。
【0065】
3相交流永久磁石同期電動機710の駆動制御を行う電力変換装置701は、整流回路502、平滑回路503、スイッチング回路制御器505、スイッチング回路507、電流検出器508、電動機状態推定器713、検出器情報推定器715、異常判断器517を有する。便宜上、スイッチング回路制御器505、電動機状態推定器713、検出器情報推定器715、異常判断器517を合わせて制御部と呼ぶ。
【0066】
速度検出器711は、検出器の回転速度を検出する。なお、電動機の電気角速度を検出する検出器と機械角速度を検出する検出器があるが、電動機の極数(極対数)で変換が可能であるので、以下同じものとして扱う。
【0067】
電動機状態推定器713は、電圧指令504及び検出電流509の内少なくとも1つに基づき、3相交流永久磁石同期電動機710の回転位置を推定する。永久磁石同期電動機の位置推定方法としては、例えば、特開2001−251889号公報(特許文献3)に記載の方法がある。永久磁石同期電動機の回転速度を推定し、回転速度と回転位置は微積分の関係であることを利用して、回転位置を算出してもよい。
【0068】
検出器情報推定器715は、推定電動機回転位置714と検出速度信号712から、検出器情報を推定する。推定する検出器情報としては、例えば、検出速度信号712が電圧や電流といったアナログ量であった場合、アナログ量と検出器の回転速度との関係がある。例えば、アナログ量と検出器の回転速度が比例関係であった場合、傾き(ゲイン)や切片(バイアス)などである。また、例えば、推定電動機回転位置714の増減と検出速度信号712の増減を比較することにより、検出器の回転方向もわかる。
【0069】
異常判断器517より警報信号518を出力する条件としては、例えば、前記傾きや切片の値が所定の範囲からの逸脱した場合、もしくは、少なくとも2つの前記換算ゲインやバイアスの値が一致しなかった場合などがある。
【0070】
また、電力変換装置701に配線状態推定器を備え、検出速度信号712と推定電動機回転位置714から算出できる回転速度とを比較することにより、電力変換装置701と速度検出器711との配線状態、例えば、配線の断線などがわかる。
【0071】
なお、速度検出器711の代わりに位置検出器であったが3相交流永久磁石同期電動機710に取り付けられていた場合でも、回転速度と回転位置は微積分の関係があることから、同様に検出器情報や配線状態を推定することも可能である。
【実施例4】
【0072】
図8は、実施例4における実施形態構成の一例である。
【0073】
3相交流誘導電動機510の駆動制御を行う電力変換装置801は、整流回路502、平滑回路503、スイッチング回路制御器505、スイッチング回路507、異常判断器817、関係性推定器825を有する。便宜上、スイッチング回路制御器505、異常判断器817、関係性推定器825を合わせて制御部と呼ぶ。
【0074】
負荷装置822は、伝動機構821を介して3相交流誘導電動機510と接続される。伝動機構821としては、例えば、ギヤ、チェーン、ベルトなどがある。
【0075】
位置検出器823は、負荷装置822に取り付けられ、検出器1回転当たり所定数のパルス又は所定数のエッジ又は所定周期数の正弦(余弦)波を、少なくとも1信号出力する。複数の信号を出力する場合、検出器1回転当たりパルス数又は正弦(余弦)周期数は、信号毎に異なってもよい。
【0076】
関係性推定器825は、検出位置信号512と検出位置信号824に基づき、3相交流誘導電動機510と負荷装置822の関係性を推定する。回転速度と回転位置は微積分の関係があることから、位置検出器の代わりに、3相交流誘導電動機510や負荷装置822に速度検出器を取り付け、検出速度に基づき3相交流誘導電動機510と負荷装置822の関係性を推定してもよい。推定する関係性は、例えば、回転速度比や回転位置比がある。回転速度比や回転位置比から、ギヤ比やプーリ径などの伝動機構情報を算出してもよい。推定する関係性又は伝動機構情報は、複数であってもよい。
【0077】
異常判断器817は、推定関係性826が、内部に予め設定もしくは外部より設定された条件を満たしているかを判定し、警報信号518を出力する。推定関係性826が複数ある場合には、それぞれの検出器情報に対して条件を設定し、少なくとも1つに基づいて警報信号518を出力してもよい。複数の推定関係性に基づいて警報信号を出力することによって、関係性の異常を、より確実にユーザに知らせることが可能である。警報信号518を出力する条件としては、例えば、推定関係性826が所定の範囲からの逸脱した場合などがある。推定関係性826の代わりに推定伝動機構情報に基づいて、警報信号518を出力してもよい。
【0078】
また、電力変換装置801に検出器情報推定器や配線状態推定器を備え、負荷装置822に取り付けられた速度又は位置検出器からの検出信号に基づき、検出器情報や配線状態を推定してもよい。その際に、電力変換装置801に電流検出器と電動機情報推定器を備え、推定電動機回転速度や回転位置に基づき、検出器情報や配線状態を推定してもよい。
【0079】
前記で説明した検出器情報又は前記配線状態又は前記関係性又は前記伝動機構情報の推定は、ユーザが指定したタイミングで実施してもよいが、電力変換装置と速度又は位置検出器の配線が完了した際に自動で実施してもよい。
【0080】
前記実施例は、主に回転速度や回転位置を検出する検出器に関しての説明であったが、直線速度や直線変位を検出する検出器においても同様に考えることができる。
【0081】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。