特許第6359752号(P6359752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6359752バニラエキストラクトの製造方法及びバニラエキストラクト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6359752
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】バニラエキストラクトの製造方法及びバニラエキストラクト
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/02 20060101AFI20180709BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20180709BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20180709BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20180709BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 8/37 20060101ALN20180709BHJP
   A61K 47/14 20060101ALN20180709BHJP
   C07D 207/333 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
   C11B9/02
   C11B9/00 W
   A23L27/10 C
   A61Q13/00 101
   A61K8/9794
   A61K8/49
   A61K47/46
   A61K47/22
   !A61K8/37
   !A61K47/14
   !C07D207/333
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-245744(P2017-245744)
(22)【出願日】2017年12月22日
【審査請求日】2018年2月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504432529
【氏名又は名称】日本フレーバー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143100
【弁理士】
【氏名又は名称】座間 正信
(72)【発明者】
【氏名】前中 理沙
(72)【発明者】
【氏名】下村 健太
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−013076(JP,A)
【文献】 特開2007−231196(JP,A)
【文献】 特開2008−264760(JP,A)
【文献】 特表平08−512337(JP,A)
【文献】 Molecules,2015年,Vol.20,p.18422-18436
【文献】 Talanta,2006年,Vol.69,p.882-887
【文献】 Food Chemistry,2014年,Vol.149,p.54-61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/
A23L 27/
B01D 11/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一バニラビーンズにマイクロ波を照射する照射工程と、
前記マイクロ波を照射した後の第一バニラビーンズに抽出溶媒を加えてバニラエキストラクトを抽出する抽出工程と、
を含むことを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
前記照射工程で前記第一バニラビーンズから発生した第一蒸留水を前記抽出工程で抽出されたバニラエキストラクトに加える工程を含むことを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
前記抽出工程の前記抽出溶媒は、前記照射工程で前記第一バニラビーンズから発生した第一蒸留水を含むことを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
第二バニラビーンズに水または有機溶媒の少なくとも一方を加えてバニラエキストラクトを抽出した後の残渣を取得する工程と、
前記抽出工程の前記抽出溶媒は、前記残渣にマイクロ波を照射し発生した第二蒸留水を含むことを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
前記照射工程では、前記第一バニラビーンズまたは前記残渣の温度が40℃以上90℃未満であることを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
前記照射工程で前記第一バニラビーンズから発生した前記第一蒸留水の量が前記第一バニラビーンズの質量の40質量%以下であることを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
前記バニラエキストラクト中に2−アセチルピロール又はピロール−2−カルボキシアルデヒドの少なくとも1種類以上が含まれており、
その合計した量が0.02ppm以上であることを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のバニラエキストラクトの製造方法において、
前記バニラエキストラクト中に含まれる酢酸グアヤックの量が2ppm以下であることを特徴とするバニラエキストラクトの製造方法。
【請求項9】
2−アセチルピロール又はピロール−2−カルボキシアルデヒドの少なくとも1種類以上が含まれており、
その合計した量が0.02ppm以上であり、
かつ酢酸グアヤックの含有量が2ppm以下であることを特徴とするバニラエキストラクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バニラエキストラクトの製造方法及びバニラエキストラクトに関する。
【背景技術】
【0002】
バニラエキストラクトは、洋菓子やジュース、果実酒などの飲食品や香粧品用の香料として広く用いられている。バニラエキストラクトが添加される飲食品としては、ペットボトル、缶、瓶または紙容器に充填された牛乳、加工乳、コーヒー牛乳、乳酸菌飲料などの乳飲料類;アイスクリーム、ソフトクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓またはシャーベットなどの冷菓;プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類;ヨーグルト、チーズなどの乳製品;キャラメル、キャンディー、ビスケット、クッキー、チョコレート、パイ、錠菓、クラッカー、ケーキ、クリーム内包菓子などの洋菓子類;果汁飲料、炭酸飲料、ニアウォーター飲料、ココア飲料、チョコレートドリンクなどの飲料類、ミルクティーなどの茶飲料、無糖コーヒー、加糖コーヒー、ミルクコーヒー、カフェオレ、キャラメルコーヒーなどのコーヒー系飲料;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、リキュールなどのアルコール飲料類などがある。
【0003】
また、シャンプー類、ヘアリンス類、ヘアコンディショナー類、ヘアパック類、ヘアスプレー類、スタイリング剤類、ヘアクリーム類、ポマード類、その他の毛髪用化粧料基剤;オシロイ、口紅、その他の化粧料基剤や化粧料洗剤基剤などや、洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、室内芳香剤などの保健・衛生材料類;医薬品の服用を容易にするための矯味、賦香剤などの保健・衛生・医薬品類などがある。
【0004】
バニラエキストラクト特有の香気は、収穫直後のバニラ青莢を加温して熟成を促進させ、乾燥させる工程を経て形成される。バニラエキストラクトは、細断したバニラビーンズを約20質量%〜約95質量%のエタノール水溶液で抽出することにより、水溶性抽出液の形として市場に供給されている。
【0005】
しかしながら、上述のようにして得られるバニラエキストラクトは、香味が単調で芳醇なコク味とボリューム感に乏しく、香気や香味が弱いために、飲食品等にバニラ特有の香気や香味を付与するには、かなりの量を添加しなければならないという欠点を有していた。
【0006】
バニラ特有の香気や香味を高めるためのバニラエキストラクトを製造する方法として、例えば、エタノール蒸気存在下で約1〜約3カ月間加温熟成処理する方法(特許文献1)や90℃以上の温度で焙煎する方法(特許文献2)、酵素とともにインキュベートする方法(特許文献3)などが知られている。
【0007】
特許文献1に記載のバニラエキストラクトの製造方法では、バニラビーンズをエタノール蒸気存在下に密閉容器中で約30〜約60℃で約1〜約3カ月間加温熟成処理した後、水又はアルコール水溶液などを用いて抽出することにより熟成感に優れた濃厚芳醇なバニラフレーバーが得られる。
【0008】
また、特許文献2のバニラエキストラクトの製造方法では、90℃以上の温度で焙煎したバニラビーンズを、水および/または有機溶媒で抽出することによりローストバニラフレーバーを得られる。具体的には、細断したバニラビーンズ材料を銅製の直火鍋に入れ、バーナーで加熱しながら90℃以上、好ましくは約105〜140℃で10分間〜4時間撹拌しながら焙煎した後、得られた焙煎バニラビーンズ材料を水およびエタノールからなる有機溶媒で浸漬・静置して抽出することによってローストバニラフレーバーが得られる。
【0009】
さらに、特許文献3のバニラエキストラクトの製造方法では、緑熟バニラビーンズを約65℃〜約120℃の乾燥温度で約5〜約24時間、10%未満の水分含量に達するまで水分が抜けることのできる環境中においてインキュベートして乾燥バニラビーンズを形成し、乾燥バニラビーンズまたはその抽出物をベータ−グルコシダーゼとともにインキュベートし、グルコバニリンをバニリンに変換した後に、乾燥粉砕バニラビーンズを溶媒で抽出することにより、バニラエキストラクトが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−95764号公報
【特許文献2】特開平9−217086号公報
【特許文献3】特開2015−51003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、バニラビーンズをエタノール蒸気存在下に長期間(約1〜約3カ月間)加温しなければならず、時間がかかる。
【0012】
また、特許文献2の製造方法は、バニラビーンズをバーナーや直火鍋などで焙煎するために温度管理が難しく、温度管理を間違えるとコゲ臭などが発生し香味や香気を損なう。また、焙煎中に香気成分が揮発するため香り立ちが弱くなる。
【0013】
さらに、特許文献3の製造方法は、バニラビーンズを約65℃〜約120℃の乾燥温度で約5〜約24時間インキュベートした後にさらに酵素を用いてインキュベートするため、バニラビーンズと抽出溶媒以外の酵素等の材料が必要であり、かつ時間がかかる。
【0014】
本発明は、前記の不具合を解消するためになされたものであって、バニラ特有の香気や香味が増強されたバニラエキストラクトを、短時間で、バニラビーンズと抽出溶媒以外の酵素等の材料が不要で、バニラビーンズを加熱処理する時の温度管理が簡便なバニラエキストラクトの製造方法及びバニラエキストラクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るバニラエキストラクトの製造方法は、第一バニラビーンズにマイクロ波を照射する照射工程と、前記マイクロ波を照射した後の第一バニラビーンズに抽出溶媒を加えてバニラエキストラクトを抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
前記照射工程で前記第一バニラビーンズから発生した第一蒸留水を前記抽出工程で抽出されたバニラエキストラクトに加える工程を含むことを特徴とする。
【0017】
前記抽出工程の前記抽出溶媒は、前記照射工程で前記第一バニラビーンズから発生した第一蒸留水を含むことを特徴とする。
【0018】
第二バニラビーンズに水または有機溶媒の少なくともいずれか一方を加えてバニラエキストラクトを抽出した後の残渣を取得する工程と、前記残渣にマイクロ波を照射し発生した第二蒸留水を取得する工程とを含み、前記抽出工程の前記抽出溶媒は前記第二蒸留水を含むことを特徴とする。
【0019】
前記照射工程では、前記第一バニラビーンズまたは前記残渣の温度が40℃以上90℃未満であることを特徴とする。
【0020】
前記照射工程で前記第一バニラビーンズから発生した前記第一蒸留水の量が前記第一バニラビーンズの質量の40質量%以下であることを特徴とする。
【0021】
前記バニラエキストラクト中に2−アセチルピロール又はピロール−2−カルボキシアルデヒドの少なくとも1種類以上が含まれており、その合計した量が0.02ppm以上であることを特徴とする。
【0022】
前記バニラエキストラクト中に含まれる酢酸グアヤックの量が2ppm以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るバニラエキストラクトの製造方法から製造されるバニラエキストラクトが、2−アセチルピロール又はピロール−2−カルボキシアルデヒドの少なくとも1種類以上が含まれており、その合計した量が0.02ppm以上であり、かつ酢酸グアヤックの含有量が2ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、マイクロ波をバニラビーンズに照射することにより、バニラ特有の香気や香味が増強されたバニラエキストラクトを、短時間で、バニラビーンズと抽出溶媒以外の酵素等の材料が不要で、バニラビーンズを加熱処理する時の温度管理が簡便なバニラエキストラクトの製造方法及びバニラエキストラクトを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係るマイクロ波照射装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
図3】本発明の実施形態の変形例1に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
図4】本発明の実施形態の変形例2に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
図5】本発明の実施形態の変形例3における第二蒸留水を得る工程図である。
図6】本発明の実施形態の変形例3に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係るマイクロ波照射装置の構成図である。マイクロ波照射装置10は、筐体12、減圧部22、マイクロ波発生部24、冷却凝縮部26及び蒸留水貯留部30を備える。
【0028】
筐体12は、原料となるバニラビーンズが収容される容器であって密閉性が高いものとなっている。筐体12の内部には、原料に均一にマイクロ波が照射されるための回転可能なターンテーブル14と、筐体12の底面の下方にモータ16が配設されている。モータ16の駆動によりターンテーブル14が回転し、原料へのマイクロ波の照射ムラが軽減される。
【0029】
筐体12には、マイクロ波発生部24により発生したマイクロ波を導く導波管18が接続されている。マイクロ波発生部24と導波管18の数は限定されず、1組でも複数組でも良い。その配置も特に限定されないが、筐体12内にマイクロ波が均等に照射される配置であることが好ましい。
【0030】
また、筐体12には、マイクロ波発生部24から導かれて照射されたマイクロ波により気化した蒸気(気化蒸気)が外部に導かれるための配管20が設けられている。この時発生する気化蒸気は水や香気成分等の揮発性成分が含まれている。また、配管20は後述する冷却凝縮部26へと接続されている。
【0031】
減圧部22は、筐体12内の圧力を減圧するための装置である。マイクロ波照射中にも筐体12内部を減圧するために、冷却凝縮部26を介して配管20に接続されており、筐体12内部の気体及び気化蒸気が吸引される。減圧部22の構成は特に限定されないが、必要な減圧力を発生できる減圧ポンプが備えられている。
【0032】
マイクロ波発生部24は、マイクロ波を発生できるものであれば特に限定されないが、例えば、マグネトロン、ジャイロトロン、クライストロン、進行波管等の電子管を利用した発振機、水晶振動子等の固有振動を増幅するソリッドステート式発振機等のその他の公知のマイクロ波を発生する構成を使用することができる。
【0033】
冷却凝縮部26は、配管20を介して筐体12内から吸引された気化蒸気を冷却し、液体(蒸留水)に戻して回収する装置である。冷却凝縮部26は短時間に気化蒸気を液体化するために冷却部28が設けられている。配管20を介して冷却凝縮部26内に導入された香気成分等を含む揮発性成分を含有する気化蒸気が冷却部28の冷却水により冷却されて液化し、冷却凝縮部26の底部にある蒸留水貯留部30内に回収される。
【0034】
本発明の実施形態に係る原料であるバニラビーンズは、特に品種などは問わず、いずれのものを用いてもよい。このようなバニラビーンズとしては、例えば、マダガスカル(ブルボン)バニラビーンズ、メキシカンバニラビーンズ、インドネシアバニラビーンズ、タヒチバニラビーンズおよびその他のハイブリッド種などを挙げることができるが、産地や品種はとくに限定されない。
【0035】
本発明の実施形態に係る第一バニラビーンズおよび第二バニラビーンズは産地から収穫された直後にバニラ青莢を加温して熟成を促進させ、乾燥させる工程を経たものであり、品種、産地、グレードは問わない。第一バニラビーンズは本発明の実施形態に係る抽出溶媒に用いられる第一蒸留水及びバニラエキストラクトの原料である。第二バニラビーンズは本発明の実施形態に係る抽出溶媒に用いられる第二蒸留水を得るための残渣の原料である。
【0036】
次に、図2を用いて本発明の実施形態に係るバニラエキストラクトの製造方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
【0037】
まず、第一バニラビーンズを所定量計量し、約1〜10mm程度に輪切りに細断してから筐体12内のターンテーブル14上に載置する。(準備工程:S1)
【0038】
次に、減圧部22は、筐体12内の気体を吸引し、所定の設定値まで減圧する。(減圧工程:S2)
【0039】
マイクロ波発生部24でマイクロ波を発生させ、マイクロ波導波管18を介して筐体12内にマイクロ波が照射される。マイクロ波が、第一バニラビーンズに照射され、第一バニラビーンズが所定温度に加温される。(マイクロ波の照射工程:S3)
【0040】
マイクロ波が原料に照射されることにより原料中の極性分子がエネルギーを吸収し短時間で加熱される。さらに減圧部22により減圧された状況でマイクロ波の照射が行われることにより、原料に過度な温度がかからない状態、例えば、40℃以上90℃未満で原料に含まれる水や揮発性成分が気化する現象、即ち気化蒸気の発生が起こる。
【0041】
また、マイクロ波が原料に照射されることにより原料中の成分が変化を起こし、抽出後のバニラエキストラクトの香気及び香味を向上させ、例えば、華やかなトップ立ちと濃厚なボリューム感が大幅に増強される。
【0042】
ここで、トップ立ちとは、あるにおいを嗅いだ時に最初に鼻孔に入ってくる香りの部分であり、香りの第一印象となる重用な部分で嗜好性に大きな影響を与える。また、ボリューム感とは、全体的な厚みや濃厚感が豊富で、好ましい感覚を意味する。
【0043】
減圧部22により、筐体12内が減圧されているため、第一バニラビーンズが所定の温度になると気化蒸気が発生する。減圧部22により減圧を継続することで第一バニラビーンズから発生する気化蒸気が配管20を介して、冷却凝縮部26に吸引される。冷却凝縮部26に吸引された気化蒸気は、冷却され液体となり、第一蒸留水として蒸留水貯留部30に貯留される。(蒸留水回収工程:S4)このとき、第一バニラビーンズから気化蒸気が発生することで筐体12内の気圧が変動するが、第一バニラビーンズが所定の温度(40℃以上90℃未満)になるように設定した気圧を維持する。
【0044】
蒸留水貯留部30に貯留された第一蒸留水が所定量になったところでマイクロ波発生部24を停止する。そして、筐体12内部の気圧を大気圧に戻し、筐体12内の第一バニラビーンズを室温まで冷却する。(マイクロ波の停止:S5)
【0045】
ここで、第一バニラビーンズから発生する第一蒸留水の量は、マイクロ波を照射する前の第一バニラビーンズの質量の40質量%以下であることが好ましい。
【0046】
そして、マイクロ波で加熱した第一バニラビーンズからバニラエキストラクトを抽出するための抽出溶媒を調製する。抽出溶媒を調製後、第一バニラビーンズを容器に移し、容器内に抽出溶媒を投入して所定温度に加温し、所定時間撹拌・静置等することでバニラエキストラクトを抽出する。(バニラエキストラクト抽出工程:S6)
【0047】
抽出溶媒としては水あるいは有機溶媒を単独で用いることもできるが、有機溶媒と水とを混合して使用しても良い。その場合、混合溶媒の有機溶媒含有率は、通常5質量%〜95質量%で、好ましくは40質量%〜60質量%である。抽出溶媒の使用量は、一般的には、使用するバニラビーンズ1質量部に対して1〜50質量部程度、好ましくは5〜20質量部程度の範囲が挙げられる。
【0048】
抽出溶媒としては、例えば、ヘキサン、酢酸エチルのほか、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類;アセトンのようなケトン類;プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類の中から選ばれる一種もしくは複数種の混合物を例示することができる。または、超臨界炭酸ガスなどの超臨界ガスを抽出溶媒として用い、バニラエキストラクトを得る方法が挙げられる。
【0049】
バニラエキストラクトの抽出条件は特に限定されないが、一例を挙げると、第一バニラビーンズの細断物を抽出溶媒に浸漬して、開放系もしくは密閉系で、室温〜90℃の温度において10分〜48時間、静置、撹拌もしくはカラム循環抽出することで行う。
【0050】
その後、抽出液を冷却後にバニラビーンズと抽出液を遠心分離または濾過などの固液分離操作を行うことでバニラエキストラクトが得られる(濾過工程:S7)。
【0051】
以上の実施形態に示したように、筐体12内の第一バニラビーンズにマイクロ波を照射する照射工程と、マイクロ波を照射した後の第一バニラビーンズに抽出溶媒を加えてバニラエキストラクトを抽出する抽出工程とにより、香気および香味が増強したバニラエキストラクトを得ることができる。
【0052】
次に、図3を用いて、上述した本発明の実施形態の変形例1を説明する。図3は、本発明の実施形態の変形例1に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
【0053】
変形例1は、本発明の実施形態のステップS1〜ステップS7の工程に第一蒸留水添加工程(S8)が追加されている。すなわち、ステップS1〜ステップS7の工程を経た後、ステップS7で濾過された抽出液に蒸留水回収工程(S4)で得られた第一蒸留水を添加する(S8)ことでバニラエキストラクトが得られる。
【0054】
ステップS8においては、添加される第一蒸留水の量は、第一蒸留水と抽出液を合計した溶液全体の1〜95質量%、好ましくは1〜50質量%となるように調製することが望ましい。
【0055】
上述したように、香気成分を含有した第一蒸留水を濾過工程(S7)により濾過された抽出液に加える工程(S8)により、香気や香味の増強されたバニラエキストラクトが得られる。
【0056】
次に、図4を用いて、上述した本発明の実施形態の変形例2を説明する。図4は、本発明の実施形態の変形例2に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
【0057】
変形例2は、本発明の実施形態のS1〜S5の工程の後のバニラエキストラクトの抽出工程(S6a)において、第一蒸留水を加えた抽出溶媒を用いてマイクロ波照射後の第一バニラビーンズの抽出を行う。その後、濾過工程(S7)によりバニラエキストラクトを得る。
【0058】
第一蒸留水を抽出溶媒に添加する場合、第一蒸留水の量が抽出溶媒全体の1〜95質量%、好ましくは1〜50質量%となるように調製することが望ましい。また、その場合でも抽出溶媒全体における有機溶媒の量は、全体の5質量%〜95質量%で、好ましくは40質量%〜60質量%となるように調製することが望ましい。
【0059】
上述したように、バニラエキストラクトの抽出工程(S6a)において、香気成分を含有した第一蒸留水を含む抽出溶媒を用いて第一バニラビーンズを抽出することにより、香気や香味の増強されたバニラエキストラクトが得られる。
【0060】
次に、図5及び図6を用いて本発明の実施形態の変形例3を説明する。図5は、本発明の実施形態の変形例3における第二蒸留水を得る工程図である。
【0061】
図5に示すように、変形例3における第二蒸留水を得る工程では、まず、第一バニラビーンズとは別に用意した第二バニラビーンズに抽出溶媒が加えられ、所定温度のもと所定時間を経てバニラエキストラクトが抽出され、濾過により固液分離されて第二バニラビーンズの残渣が得られる。(残渣取得工程:S60)
【0062】
抽出溶媒としては水あるいは有機溶媒を単独で用いることもできるが、有機溶媒と水とを混合して使用しても良い。その場合、混合溶媒の有機溶媒含有率は、通常5質量%〜95質量%であり、好ましくは40質量%〜60質量%である。
【0063】
抽出溶媒の使用量は、一般的には、使用するバニラビーンズ1質量部に対して1〜50質量部程度、好ましくは5〜20質量部程度の範囲が挙げられる。
【0064】
その後、第二バニラビーンズの残渣を所定量計量しマイクロ波照射装置10内のターンテーブル14上に載置する。(準備工程:S61)そして、減圧ポンプを稼働させ筐体12内部の気圧を所定の設定値まで下げる。(減圧工程:S62)その後マイクロ波を発生させ、筐体12内部の第二バニラビーンズの残渣にマイクロ波が照射される。(マイクロ波照射:S63)
【0065】
その際、マイクロ波が第二バニラビーンズ残渣に照射されることで残渣が所定温度に加温され、第二バニラビーンズ残渣から香気成分等を含んだ気化蒸気が発生する。そして発生した気化蒸気が冷却凝縮部26へ導入されて第二蒸留水が回収される。(蒸留水回収工程:S64)このとき、第二バニラビーンズの抽出溶媒に有機溶媒が用いられた場合には、第二蒸留水に有機溶媒が含まれる。
【0066】
ついで、図6を用いて変形例3説明する。図6は、本発明の実施形態の変形例3に係るバニラエキストラクトの製造方法の工程図である。
【0067】
変形例3では、S1〜S5の工程を経た後、バニラエキストラクトの抽出工程(S6b)において、第二蒸留水を加えた抽出溶媒を用いてマイクロ波照射後の第一バニラビーンズの抽出を行う。(バニラエキストラクト抽出工程:S6b)このとき、抽出溶媒として第二蒸留水のみを用いることもできるし、第二蒸留水に有機溶媒または水を加えて抽出溶媒を調製することもできる。さらに、第二蒸留水に蒸留水回収工程(S4)において得られた第一蒸留水を加えて抽出溶媒を調製することもできる。
【0068】
その後、濾過工程(S7)により固液分離を行いバニラエキストラクトが得られる。なお、濾過工程(S7)で得られた抽出液に蒸留水回収工程(S4)で得られた第一蒸留水を加えてバニラエキストラクトとすることもできる。
【0069】
上述したように、バニラエキストラクトの抽出工程(S6b)において、香気成分を含有した第二蒸留水を含む抽出溶媒を用いて、または、第一蒸留水及び第二蒸留水の混合溶媒を含む抽出溶媒を用いて、マイクロ波照射後の第一バニラビーンズを抽出することにより、香気や香味の増強されたバニラエキストラクトが得られる。
【0070】
本発明におけるバニラエキストラクトには多くの成分が含まれるが、特に2−アセチルピロール、ピロール−2―カルボキシアルデヒド及び酢酸グアヤックが含まれる。
【0071】
2−アセチルピロールは、分子式CNOのウォールナッツ様香気を有する化合物として知られている。また、ピロール−2−カルボキシアルデヒドは、分子式CNOのスモーキーなメイプル様香気を有する化合物として知られている。
【0072】
2−アセチルピロール及びピロール−2−カルボキシアルデヒドは、マイクロ波を照射しない通常の方法で得られたバニラエキストラクトからは検出されない成分であり、マイクロ波照射工程(S3)においてマイクロ波を照射することにより新たに生成した成分である。この成分によりバニラエキストラクトの香気や香味の熟成感、呈味感などが増強される。
【0073】
酢酸グアヤックは、分子式C10の甘いウッディ香を有する化合物として知られている。酢酸グアヤックは通常の方法によるバニラエキストラクト中にも存在するが、マイクロ波照射工程(S3)においてマイクロ波照射を行うことにより含有量が増加する。特に、第一バニラビーンズの温度を90℃以上にあげてマイクロ波照射をすると大幅に増加する。酢酸グアヤックをある程度以上含有するとバニラエキストラクトの嗜好性が著しく阻害される。
【0074】
上記のようにして得られるバニラエキストラクトは、さらに多種の香料や香気付与剤を組み合わせたバニラフレーバーとすることもできる。また、得られたバニラエキストラクトは適宜な濃縮手段、例えば減圧濃縮、逆浸透膜濃縮、凍結濃縮により濃縮液とすることもできる。また、ペースト状や粉末状その他の任意の形態とすることができる。
【0075】
かくして得られたバニラエキストラクトあるいはバニラフレーバーは、対応する飲食品や香粧品などに0.1ppm〜1%程度添加することにより、華やかなトップ立ちと濃厚なボリューム感などの嗜好性が大幅に増強される。
【0076】
本発明により得られるバニラエキストラクトは飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品類などに使用することができる。
【0077】
以下、本発明を実施例および比較例により、バニラエキストラクトの官能評価と成分分析の結果を示すが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0078】
〔マイクロ波照射装置〕
マイクロ波照射についての実験は、市販のマイクロ波照射装置を用いた。
【0079】
〔飲料の調合〕
官能評価用の飲料は、牛乳50g、グラニュー糖5g、水44g、バニラエキストラクト1gとなるように調製した。
【0080】
〔官能評価〕
各条件でバニラエキストラクトを得た後、10名の熟練したパネラーで官能評価を行った。評価基準は比較例1(マイクロ波を照射しない通常の方法により抽出されたバニラエキストラクト)を3点とし、バニラとしての総合的なおいしさが比較例1より低い:1点、比較例1よりやや低い:2点、比較例1と同程度:3点、比較例1よりやや高い:4点、比較例1より高い:5点として平均値で表した。
【0081】
〔成分分析〕
成分分析はアジレント・テクノロジー株式会社製GC/MSを用いた。測定方法は、試料を1ml採取し、ダイナミックヘッドスペース法によって揮発性成分を捕集し、加熱脱着装置によりGC/MSへ導入して行った。
【0082】
(実施例1)
約5mmに裁断した第一バニラビーンズ200gをマイクロ波照射装置に入れ(図2:S1)、第一バニラビーンズの温度が80℃となるように減圧する圧力を調節した(図2:S2)。その後、マイクロ波を第一バニラビーンズに照射させて加熱するとともに気化蒸気を発生させ(図2:S3)、蒸気を冷却、回収して第一蒸留水を得た(図2:S4)。そして、第一蒸留水が60g(原料の第一バニラビーンズの30質量%)となった時点でマイクロ波の照射を止めた(図2:S5)。マイクロ波を照射した後の第一バニラビーンズ27g(照射前の第一バニラビーンズ40g相当)を95%エタノール100g、水100gからなる抽出溶媒に浸漬し、50℃で8時間加温し抽出した(図2:S6)。室温まで冷却後、濾過してバニラエキストラクト170gを得た(図2:S7)。
【0083】
(実施例2)
抽出溶媒として95%エタノール100g、水88gに浸漬し、50℃で8時間加温し、濾過後のバニラエキストラクトに第一蒸留水12gを加えた(図3:S8)他は実施例1と同様に試験を行った。
【0084】
(実施例3)
95%エタノール100g、水88g、第一蒸留水12gを加えて抽出溶媒を調製し(図4:S6a)、浸漬、抽出した他は実施例1と同様に試験を行った。
【0085】
(実施例4)
第一蒸留水が40g(原料の第一バニラビーンズの20質量%)となった時点でマイクロ波の照射を止めた他は実施例1と同様に試験を行った。
【0086】
(実施例5)
第一蒸留水が80g(原料の第一バニラビーンズの40質量%)となった時点でマイクロ波の照射を止めた他は実施例1と同様に試験を行った。
【0087】
(実施例6)
約5mmに裁断した第一バニラビーンズ200gをマイクロ波照射装置に入れ、第一バニラビーンズの温度が40℃となるように減圧する圧力を調節した他は実施例1と同様に試験を行った。
【0088】
(実施例7)
約5mmに裁断した第一バニラビーンズ200gをマイクロ波照射装置に入れ、第一バニラビーンズの温度が60℃となるように減圧する圧力を調節した他は実施例1と同様に試験を行った。
【0089】
(実施例8)
約5mmに裁断した第一バニラビーンズ200gをマイクロ波照射装置に入れ、第一バニラビーンズの温度が70℃となるように減圧する圧力を調節した他は実施例1と同様に試験を行った。
【0090】
(実施例9)
第二バニラビーンズ500gを95%エタノール5kg、水5kgに浸漬し、50℃で8時間抽出した後の抽出残渣500gを得た(図5:S60)。その後、残渣をマイクロ波照射装置に載置し(図5:S61)、80℃となるよう減圧する圧力を調節した(図5:S62)。その後、マイクロ波を照射しつつ、気化蒸気を発生させ(図5:S63)第二蒸留水を得た(図5:S64)。
別途用意した、約5mmに裁断した第一バニラビーンズ200gをマイクロ波照射装置に入れ(図6:S1)、80℃となるように減圧する圧力を調節した(図6:S2)。その後、マイクロ波を照射しつつ、気化蒸気を発生させ(図6:S3)第一蒸留水を得た(図6:S4)。そして、第一蒸留水が60g(原料の第一バニラビーンズの30質量%)となった時点でマイクロ波の照射を止めた(図6:S5)。マイクロ波を照射した第一バニラビーンズ27g(照射前の第一バニラビーンズ40g相当)を第二蒸留水200gの抽出溶媒に浸漬し、50℃で8時間加温した(図6:S6b)。室温まで冷却後、濾過してバニラエキストラクト170gを得た(図6:S7)。
【0091】
(実施例10)
第二蒸留水188gに第一蒸留水12gを加えて抽出溶媒を調製し、浸漬、抽出(図6:S6b)した他は実施例9と同様に試験を行った。
【0092】
(比較例1)
約5mmに裁断したバニラビーンズ40gを95%エタノール100g、水100gに浸漬し、50℃で8時間加温した。室温まで冷却後、濾過してバニラエキストラクトを得た。
【0093】
(比較例2)
筐体内の圧力を調節(図2:S2)し、マイクロ波照射時の第一バニラビーンズの温度を90℃とした(図2:S3)以外は実施例1と同様に処理してバニラエキストラクトを得た。
【0094】
(比較例3)
筐体内の圧力を調節(図2:S2)し、マイクロ波照射時の第一バニラビーンズの温度を100℃とした(図2:S3)以外は実施例1と同様に処理してバニラエキストラクトを得た。
【0095】
(比較例4)
約5mmに裁断したバニラビーンズ170gを2L容ステンレスジョッキに入れ、家庭用コンロの弱火で撹拌しながら加熱した。加熱時の表面温度が130℃(温度計はOPTEX社製THERMO−HONTERPT−5LDを使用した)を超えないよう調節しながら加熱し、バニラビーンズの質量が119gになったところで加熱を終えた。冷却後、バニラビーンズ27g(加熱前のバニラビーンズ40g相当)を95%エタノール100g、水100gに浸漬し、50℃で8時間抽出した。抽出終了後、冷却、濾過してバニラエキストラクト170gを得た。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示す通り、実施例1〜10の評価はマイクロ波を照射しないで通常の方法でバニラエキストラクトを抽出したもの(比較例1)に比べて評価が高かった。また、マイクロ波を照射した場合でも温度が90℃以上のもの(比較例2、3)は実施例1〜10よりも評価が低い結果となった。さらに、直火で焙煎したもの(比較例4)は比較例1と同程度の評価であり、マイクロ波を照射したものに比べると評価は大きく劣る結果となった。
【0098】
バニラエキストラクト(実施例1、6〜8、比較例1〜4)の成分分析では多くの成分が検出されたが、2−アセチルピロール、ピロール-2-カルボキシアルデヒド及び酢酸グアヤックの結果を表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
表中の実施例1,6,7,8及び比較例2,3の温度はマイクロ波照射時の第一バニラビーンズの温度を示し、比較例4の温度は直火で焙煎したときのバニラビーンズの温度を示す。
【0101】
表2より、2−アセチルピロール及びピロール-2-カルボキシアルデヒドは通常の方法で抽出したバニラエキストラクト(比較例1)からは検出されなかったが、マイクロ波を照射した実施例1、6〜8、比較例2、3、4では検出された。また、2−アセチルピロールとピロール-2-カルボキシアルデヒドの合計量は0.02ppm以上であった。
【0102】
また、酢酸グアヤックはマイクロ波を照射した実施例において第一バニラビーンズの温度が40℃〜80℃(実施例1、6、7、8)では2ppm以下の含有量であったが、90℃以上(比較例2、3)及び直火(比較例4)では2ppmより多く含まれていた。
【0103】
なお、実施例2〜5におけるバニラエキストラクトからも2−アセチルピロール及びピロール-2-カルボキシアルデヒドは0.02ppm以上が検出されており、また酢酸グアヤックの含有量は2ppm以下であった。
【0104】
なお、本発明は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取りうることはもちろんである。
【0105】
例えば、筐体12内には原料へのマイクロ波の照射ムラを軽減し原料に均等にマイクロ波を照射するために、原料を撹拌するための撹拌翼を備えることもできる。
【0106】
また、図2に示す本発明の実施形態に係るバニラエキストラクトの製造工程において、バニラビーンズをそのまま載置し、マイクロ波を照射した後に裁断してバニラエキストラクトを抽出することもできる。
【0107】
さらに、また、図2に示す本発明の実施形態に係るバニラエキストラクトの抽出工程(S6)において、抽出効率を高めるため、バニラビーンズを約1mm〜約10mm程度に輪切りした細断物を使用したり、ミキサー等の物理的手段により粉砕した粉砕物を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、香気や香味が増強されたバニラ風味を含有する飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品類などの分野において利用できる。
【符号の説明】
【0109】
10 マイクロ波照射装置
12 筐体
14 ターンテーブル
16 モータ
18 マイクロ波導波管
20 配管
22 減圧部
24 マイクロ波発生部
26 冷却凝縮部
28 冷却部
30 蒸留水貯留部
【要約】
【課題】
バニラ特有の香気や香味が増強されたバニラエキストラクトを、短時間で、バニラビーンズと抽出溶媒以外の材料が不要で、バニラビーンズを加熱処理する時の温度管理が簡便なバニラエキストラクトの製造方法及びバニラエキストラクトを提供する。
【解決手段】
第一バニラビーンズに40℃以上90℃未満の温度でマイクロ波を照射する照射工程と、前記マイクロ波を照射した後の第一バニラビーンズに抽出溶媒を加えてバニラエキストラクトを抽出することによりバニラ特有の香気や香味が増強されたバニラエキストラクトを得ることができる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6