特許第6359800号(P6359800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359800
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20180709BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20180709BHJP
   H05B 33/24 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   H05B33/14 B
   H05B33/12 B
   H05B33/12 C
   H05B33/22 C
   H05B33/22 A
   H05B33/24
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-281699(P2012-281699)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2013-140961(P2013-140961A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2015年10月26日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0001552
(32)【優先日】2012年1月5日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512187343
【氏名又は名称】三星ディスプレイ株式會社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Display Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】權 五 ▲げん▼
(72)【発明者】
【氏名】申 東 雨
(72)【発明者】
【氏名】韓 潔
(72)【発明者】
【氏名】金 瑟 雍
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−324233(JP,A)
【文献】 特開2004−179142(JP,A)
【文献】 特開2008−091038(JP,A)
【文献】 特表2010−502807(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/004421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置され、前記基板と並行で互いに対向する第1電極層及び第2電極層と、
前記第1電極層と前記第2電極層との間に配置され、第1発光領域、第2発光領域及び第3発光領域とを含む発光層と、
を含む有機発光素子であって、
前記発光層は、前記第1発光領域、第2発光領域及び第3発光領域内に共通して配置する第1共通発光層と、
前記第1共通発光層と前記第2電極層との間に配置され、前記第2発光領域内に位置する第2発光層と、
前記第1共通発光層と前記第2電極層との間に配置され、前記第3発光領域内に位置する第3発光層と、を含み、
前記第1共通発光層は、第1ホスト、第1ドーパント及びp型ドーパントを含み、
前記p型ドーパントは、F4TCNQ(2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン)、TCNQ(7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン)、PTCDA(ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−ジアンヒドリド)、1,3,2−ジオキサボリン誘導体、FeCl3、FeF3またはSbCl5であり、
前記p型ドーパントの含量は、前記第1共通発光層の重量に対して0.5〜2重量%である、有機発光素子。
【請求項2】
前記p型ドーパントは、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)エネルギーレベルが、第1ホストのHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)エネルギーレベルと0.2−1.0eVの範囲の差を有するものである、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記p型ドーパントのLUMOエネルギーレベルが5.5eV以下である請求項1または2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記第1発光領域は青色発光領域であり、前記第2発光領域は赤色発光領域であり、前記第3発光領域は緑色発光領域である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記第1共通発光層は青色共通発光層である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記第1ホストは、Alq3、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル)、PVK(ポリ(n−ビニルカルバゾール))、ADN(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン)、TCTA、TPBI(1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン)、TBADN(3−tert−ブチル−9,10−ジ(ナフト−2−イル)アントラセン)、E3またはDSA(ジスチリルアリーレン)を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記第1ドーパントは、青色燐光ドーパントまたは青色蛍光ドーパントを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記第1ドーパントは、F2Irpic、(F2ppy)2Ir(tmd)、Ir(dfppz)3、テル−フルオレン、DPAVBi(4,4’−ビス(4−ジフェニルアミノスチリル)ビフェニル)またはTBPe(2,5,8,11−テトラ−t−ブチルペリレン)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記第1共通発光層は、赤色共通発光層または緑色共通発光層である、請求項1〜のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第1電極層と前記発光層との間に配置された正孔注入層または正孔輸送層をさらに含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記正孔注入層または正孔輸送層と前記発光層との間に配置された電子阻止層をさらに含む、請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記第2電極層と前記発光層との間に配置された電子注入層または電子輸送層をさらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記発光層と前記電子輸送層または電子注入層との間に配置された正孔阻止層をさらに含む請求項12に記載の有機発光素子。
【請求項14】
前記発光層と前記第2電極層との間に配置された共振層をさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項15】
前記共振層は、電子輸送層である、請求項14に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記共振層は、前記第1発光領域、前記第2発光領域及び前記第3発光領域の共振距離によって、前記第1発光領域、前記第2発光領域及び前記第3発光領域で異なる厚さを有する、請求項14または15に記載の有機発光素子。
【請求項17】
前記第1電極層はアノードであり、前記第2電極層はカソードである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項18】
前記第1電極層はカソードであり、前記第2電極層はアノードである、請求項1〜のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子及びその製造方法に係り、さらに詳細には、共通発光層を使う有機発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、電圧をかければ自体発光する物質を用いた素子であり、高輝度、優秀なコントラスト、多色化、広視野角、高応答速度及び低駆動電圧の長所を持つ。
【0003】
有機発光素子は、有機発光層がアノードとカソードとの間に配置された構造を有している。電圧を印加すると、アノードから正孔が、カソードから電子が有機発光層に注入される。注入された正孔と電子とは、有機発光層内で隣接している分子の間で電子交換を起こしつつ反対電極に移動する。そして、いずれかの分子で電子と正孔とが再結合した場合、高いエネルギーの励起状態を持つ分子励起子を形成する。分子励起子が低いエネルギーの基底状態に戻りつつ材料固有の光を放出する。
【0004】
有機発光素子は複数の画素で構成され、それぞれの画素は赤色発光領域、緑色発光領域、青色発光領域で形成される。この時、青色発光層を共通層として形成することでパターニング工程を単純化できる。一方、発光層をホスト、ドーパント構造で形成することで外部量子効率を高めて発光波長を制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0240965号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、共通層である青色発光層がホスト及びドーパントを含む場合、正孔輸送度が遅くなるという問題がある。本発明の目的は、正孔輸送度の向上した共通発光層を有する有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態においては、基板と、前記基板上に配置され、前記基板と並行で互いに対向する第1電極層及び第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に配置され、第1発光領域、第2発光領域及び第3発光領域とを含む発光層と、を含む有機発光素子であって、前記発光層は、前記第1発光領域、第2発光領域及び第3発光領域内に共通して配置する第1共通発光層と、前記第1共通発光層と前記第2電極層との間に配置され、前記第2発光領域内に位置する第2発光層と、前記第1共通発光層と前記第2電極層との間に配置され、前記第3発光領域内に位置する第3発光層と、を含み、前記第1共通発光層は、第1ホスト、第1ドーパント及びp型ドーパントを含む、有機発光素子を提供する。
【0008】
前記p型ドーパントのLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)エネルギーレベルは好ましくは、第1ホストのHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)エネルギーレベルと0.2−1.0eV範囲の差を有してもよい。
【0009】
前記p型ドーパントは、好ましくはLUMOエネルギーレベルが5.5eV以下であってよい。
【0010】
前記p型ドーパントは、F4TCNQ(2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン)、TCNQ(7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン)、PTCDA(ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−ジアンヒドリド)、1,3,2−ジオキサボリン誘導体、FeCl、FeFまたはSbClを含んでもよい。
【0011】
前記p型ドーパントの含量は、好ましくは前記第1共通発光層の重量に対して約0.5ないし3重量%でよい。
【0012】
前記第1発光領域は青色発光領域であり、前記第2発光領域は赤色発光領域であり、前記第3発光領域は緑色発光領域であってよい。前記第1共通発光層は青色共通発光層であってよい。
【0013】
前記第1ホストは、Alq3、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル)、PVK(ポリ(n−ビニルカルバゾール))、ADN(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン)、TCTA、TPBI(1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン)、TBADN(3−tert−ブチル−9,10−ジ(ナフト−2−イル)アントラセン)、E3またはDSA(ジスチリルアリーレン)を含んでよい。
【0014】
前記第1ドーパントは、青色燐光ドーパントまたは青色蛍光ドーパントを含んでよい。
【0015】
前記第1ドーパントは、FIrpic、(Fppy)Ir(tmd)、Ir(dfppz)、テル−フルオレン、DPAVBi(4,4’−ビス(4−ジフェニルアミノスチリル)ビフェニル)またはTBPe(2,5,8,11−テトラ−t−ブチルペリレン)を含んでよい。
【0016】
前記第1共通発光層は、赤色共通発光層または緑色共通発光層を含んでもよい。
【0017】
前記有機発光素子は、前記第1電極層と前記発光層との間の正孔注入層または正孔輸送層をさらに含んでよい。
【0018】
前記有機発光素子は、前記正孔注入層または正孔輸送層と前記発光層との間に配置された電子阻止層をさらに含んでもよい。
【0019】
前記有機発光素子は、前記第2電極層と前記発光層との間に配置された電子注入層または電子輸送層をさらに含んでもよい。
【0020】
前記有機発光素子は、前記発光層と前記電子輸送層または電子注入層との間に配置された正孔阻止層をさらに含んでもよい。
【0021】
前記有機発光素子は、前記発光層と前記第2電極層との間に配置された共振層をさらに含んでもよい。
【0022】
前記共振層は、前記第1発光領域、前記第2発光領域及び前記第3発光領域の共振距離によって、前記第1発光領域、前記第2発光領域及び前記第3発光領域で異なる厚さでもよい。
【0023】
前記共振層は、電子輸送層であってもよい。
【0024】
前記第1電極層はアノードであってもよく、前記第2電極層はカソードであってもよい。また、前記第1電極層はカソードであって、前記第2電極層はアノードであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、共通発光層内にホストのHOMOエネルギーレベルに近いLUMOエネルギーレベルを持つp型ドーパントを含ませることで、共通発光層の正孔輸送度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態による有機発光素子の概略的な断面図である。
図2】一実施形態による共通発光層のエネルギーレベルダイヤグラムである。
図3】実施例1、2及び比較例1ないし3の有機発光素子の正孔電流密度対電圧のグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付した図面を参照して本発明の望ましい実施形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態による有機発光素子100の概略的な断面図である。有機発光素子100は、赤色発光領域R、緑色発光領域G及び青色発光領域Bの副画素(sub−pixel)領域を含んでいる。参照番号112は、副画素領域を限定する絶縁膜である。
【0029】
有機発光素子100は、基板101、アノード111、正孔注入層121、正孔輸送層122、発光層125、電子輸送層127、電子注入層128及びカソード131を含む。
【0030】
基板101は、一般的な有機発光素子に用いられる基板を用いることができるが、機械的強度、熱的安定性、透明性、表面平滑性、取り扱い容易性及び防水性に優れたガラス基板または透明プラスチック基板を用いることができる。一方、基板101は、シリコン、ステンレススチールなどの不透明な物質で形成されてもよい。
【0031】
アノード111は、相対的に仕事関数の高い物質から形成され得る。アノード111は、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、ZnO(亜鉛酸化物)、AZO(Alドーピングされた亜鉛酸化物)、In(インジウム酸化物)またはSnO(スズ酸化物)などの透明な導電性酸化物から形成されてもよいが、これに限定されるものではない。アノード111は、蒸着法またはスパッタリング法などで形成してもよい。
【0032】
正孔注入層121は、例えば、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、DNTPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−[4−(フェニル−m−トリル−アミノ)−フェニル]−ビフェニル−4,4’−ジアミン)、m−MTDATA(4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ−)トリフェニルアミン)、TDATA(4,4’,4”−トリス(N,N’−ジフェニルアミノ−)トリフェニルアミン)、2T−NATA(4,4’,4”−トリス{N,−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ−}−トリフェニルアミン)、NPB(N,N’−ジ(−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)、PEDOT/PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸))、PANI/DBSA(ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸 )、PANI/CSA(ポリアニリン/カンファースルホン酸)またはPANI/PSS(ポリアニリン/ポリ(4−スチレンスルホン酸))などを使えるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化1】
【0034】
正孔注入層121は、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB(Langmuir−Blodgett)法などの多様な方法を用いて形成されてよい。
【0035】
真空蒸着法によって正孔注入層121を形成する場合、その蒸着条件は、正孔注入層121の材料として使う化合物、目的とする正孔注入層121の構造及び熱的特性などによって異なってよく、例えば、蒸着温度約100℃ないし約500℃、真空度約10−8Torrないし約10−3Torr、蒸着速度約0.01Å/secないし約100Å/secの範囲で適当に選択してよい。
【0036】
スピンコート法によって正孔注入層121を形成する場合、そのコーティング条件は、正孔注入層121の材料として使う化合物、目的とする正孔注入層121の構造及び熱的特性によって異なってよい。例えば、コーティング速度約2,000rpmないし約5,000rpm、コーティング後溶媒除去のための熱処理温度約80℃ないし約200℃の温度範囲で適当に選択してもよい。
【0037】
前記正孔注入層121の厚さは約100Åから10,000Å、実施形態によっては100Åないし1,000Åであり得る。前記正孔注入層の厚さが前述した範囲を満たす場合、実質的な駆動電圧の低下なしに満足すべき正孔注入特性が得られ得る。
【0038】
正孔輸送層122は、例えば、N−フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、TPD(N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン)、NPB(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、TCTA(4,4’,4”−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン)などを使えるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
【化2】
【0040】
前記正孔輸送層122は、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの多様な方法を用いて形成されるが、真空蒸着法及びスピンコート法によって正孔輸送層122を形成する場合、その蒸着条件及びコーティング条件は使う化合物によって異なるが、一般的に前記正孔注入層121の形成とほぼ同じ条件範囲内で選択される。
【0041】
前記正孔輸送層122の厚さは、約50Åないし約1,000Å、望ましくは約100Åないし約800Åであり得る。前記正孔輸送層の厚さが前述したような範囲を満たす場合、実質的な駆動電圧の低下なしに満足すべき正孔輸送特性が得られ得る。
【0042】
任意で、前記正孔注入層121及び正孔輸送層122は、正孔注入機能及び正孔輸送機能を同時に持つ機能層に入れ替えられてもよい。
【0043】
発光層125は、赤色発光層125R、緑色発光層125G及び青色共通発光層125Bで形成される。本実施形態で、青色共通発光層125Bは、正孔輸送層122上に赤色発光領域R、緑色発光領域G及び青色発光領域Bにわたって共通層として形成されている。赤色発光層125Rは赤色発光領域にパターニングされており、緑色発光層125Gは緑色発光領域にパターニングされている。赤色発光層125R及び緑色発光層125Gは、共通層である青色共通発光層125B上に位置する。
【0044】
青色共通発光層125Bは、青色ホスト、青色ドーパント及びp型ドーパントを含んでよい。
【0045】
青色ホストは、例えば、Alq3、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル)、PVK(ポリ(n−ビニルカルバゾール))、ADN(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン)、TCTA、TPBI(1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン)、TBADN(3−tert−ブチル−9,10−ジ(ナフト−2−イル)アントラセン)、E3、DSA(ジスチリルアリーレン)などを使えるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
【化3】
【0047】
青色ドーパントとして、FIrpic、(Fppy)Ir(tmd)、Ir(dfppz)、テル−フルオレン、DPAVBi(4,4’−ビス(4−ジフェニルアミノスチリル)ビフェニル)、TBPe(2,5,8,11−テトラ−t−ブチルペリレン)などを含む下記の化合物を用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
【化4】
【0049】
p型ドーパントとしては、青色ホストに正孔を生成させることで青色ホストの正孔輸送度を向上させる物質であればよい。青色ホストに正孔を生成させるp型ドーパントとしては、青色ホストのHOMOエネルギーレベルと類似したLUMOエネルギーレベルを持っているp型ドーパントであればよい。例えば、p型ドーパントのLUMOエネルギーレベルは、青色ホストのHOMOエネルギーレベルと0.2−1.0eV範囲の差を持ち得る。前記p型ドーパントは、LUMOエネルギーレベルが青色ホストのHOMOエネルギーレベルと類似しているか、またはそれより低い5.5eV以下であるので、優秀な電子収容能力を持ち得る。
【0050】
p型ドーパントの例としては、F4TCNQ(2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン)、TCNQ(7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン)、PTCDA(ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−ジアンヒドリド)、1,3,2−ジオキサボリン誘導体などの有機化合物、ヨウ素、FeCl、FeF、SbCl、金属塩化物、金属フッ化物などの無機化合物を含むが、これらに限定されるものではない。
【0051】
【化5】
【0052】
図2は、青色共通発光層125Bを構成するホスト、発光ドーパント及びp型ドーパントのエネルギーレベルのダイヤグラムである。図2を参照すれば、ホストのHOMOエネルギーレベルが発光ドーパントのHOMOエネルギーレベルより低くて、ホストのHOMOエネルギーレベルの正孔が、発光ドーパントのHOMOエネルギーレベルに容易に転移され得る。それにより、発光ドーパントがホストの正孔のトラップサイト(trap−site)として作用し得る。しかし、HOMOエネルギーレベルがホストのHOMOエネルギーレベルより非常に低く、LUMOエネルギーレベルがホストのHOMOエネルギーレベルと類似したp型ドーパントの存在によって、ホストのHOMOエネルギーレベルの電子がp型ドーパントのLUMOエネルギーレベルに転移できる。ホストのHOMOエネルギーレベルの電子がp型ドーパントのLUMOエネルギーレベルに転移することで、ホストのHOMOエネルギーレベルには正孔が生成され、ホストの正孔輸送度が向上する。
【0053】
本実施形態でp型ドーパントが青色ホストの正孔輸送度を向上させることで、アノード111から注入されて正孔注入層121及び正孔輸送層122を通過した正孔が、共通層である青色共通発光層125Bで速度が低下せずに赤色発光層125Rまたは緑色発光層125Gに到逹し得る。
【0054】
赤色発光層125Rは、赤色ホスト及び赤色ドーパントを含む。赤色ホストは、青色ホストと同様にAlq3、CBP、PVK、ADN、TCTA、TPBI、TBADN、E3、DSAなどを使えるが、これらに限定されるものではない。赤色ドーパントとして、PtOEP、Ir(piq)、BtpIr(acac)、Ir(piq)(acac)、Ir(−phq)(acac)、Ir(−phq)、Ir(flq)(acac)、Ir(fliq)(acac)、DCM、DCJTBなどを含む下記の化合物を用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
【化6】
【0056】
緑色発光層125Gは、緑色ホスト及び緑色ドーパントを含んでよい。緑色ホストは、青色ホストと同様にAlq3、CBP、PVK、ADN、TCTA、TPBI、TBADN、E3、DSAなどを使えるが、これらに限定されるものではない。緑色ドーパントとして、Ir(ppy)(トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム)、Ir(ppy)(acac)(ビス(2−フェニルピリジン)(アセチルアセトナート)イリジウム(III))、Ir(mppy)(トリス(2−(4−トリル)フェニルピリジン)イリジウム)、C545T(10−(2−ベンゾチアゾリル)−1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ−[6,7,8−ij]−キノリジン−11−オン)などを用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
【化7】
【0058】
前記赤色発光層125R、緑色発光層125G及び青色共通発光層125Bは、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの方法を用いて形成できる。真空蒸着法及びスピンコート法によって発光層を形成する場合、その蒸着条件は使う化合物によって異なってよく、一般的に正孔注入層の形成とほぼ同じ条件範囲内で選択される。一方、ホスト及びドーパントを含む層を形成するために、共蒸着法を使える。
【0059】
赤色発光層125R及び緑発光層125Gのドーパントの含量及び青色共通発光層125Bの青色ドーパントの含量は、通常的に各発光層の重量に対して約0.01重量%ないし約15重量%の範囲で選択されるが、これらに限定されるものではない。一方、青色共通発光層125Bのp型ドーパントの含量は、青色共通発光層125Bの重量に対して約0.5重量%ないし3重量%であり得る。前記含量範囲でp型ドーパントは、青色ホスト内に効果的に正孔を生成させることで青色ホストの正孔輸送度を向上させる。
【0060】
前記発光層125R、125G、125Bの厚さは、約100Åないし約1,000Åであり得る。
【0061】
電子輸送層127は、カソード131から注入された電子を発光層に輸送する層であり、例えば、Alq3、BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、Bphen(4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、TAZ(3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール)、NTAZ(4−(ナフタレン−1−イル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール)、tBu−PBD(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)、BAlq(下記の化学式参照)、Bebq(ベリリウムビス(ベンゾキノリン−10−オラート))、ADN(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン)、化合物101(compound 101)、化合物102(compound 102)などの公知の材料を使えるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
【化8】
【0063】
前記電子輸送層127は、真空蒸着法、またはスピンコート法、キャスト法などを用いて形成されてよい。真空蒸着法及びスピンコート法によって電子輸送層127を形成する場合、その条件は使う化合物によって異なるが、一般的に正孔注入層121の形成とほぼ同じ条件範囲内で選択してよい。
【0064】
前記電子輸送層127の厚さは、約100Åないし約1,000Å、例えば、約150Åないし約500Åであり得る。前記電子輸送層127の厚さが前述したような範囲を満たす場合、実質的な駆動電圧の上昇なしに満足すべき電子輸送特性が得られ得る。
【0065】
または、前記電子輸送層127は、電子輸送性有機化合物及び金属−含有物質を含んでよい。前記金属−含有物質は、Li錯体を含んでよい。前記Li錯体の非制限的な例としては、リチウムキノラート(LiQ)または化学式103(Formula 103)などが挙げられる。
【0066】
【化9】
【0067】
また、電子輸送層127の上部にカソード131からの電子の注入を容易にする機能を持つ電子注入層128が積層されてよい。前記電子注入層128の形成材料としては、LiF、NaCl、CsF、LiO、BaOなどの電子注入層形成材料として公知の任意の物質を用いられるが、これらに限定されるものではない。前記電子注入層128の蒸着条件は、前記電子注入層128を形成するために使う化合物によって異なるが、いくつかの実施形態においては正孔注入層121の形成とほぼ同じ条件範囲内で選択される。
【0068】
前記電子注入層128の厚さは、約1Åないし約100Å、約3Åないし約90Åであり得る。前記電子注入層の厚さが前述したような範囲を満たす場合、実質的な駆動電圧の上昇なしに満足すべき電子注入特性が得られ得る。
【0069】
任意に、前記電子輸送層127及び電子注入層128は、電子輸送機能及び電子注入機能を同時に持つ機能層に入れ替えてもよい。
【0070】
カソード131は、低い仕事関数を持つ金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物によって形成されてよい。具体的な例としては、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム−リチウム(Al−Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム−インジウム(Mg−In)、マグネシウム−銀(Mg−Ag)などを薄膜として形成して透過型電極が得られ得る。一方、前面発光素子を得るためにITO、IZOを用いた透過型電極を形成できるなど、多様な変形が可能である。
【0071】
任意に、有機発光素子100は、共振構造を持つことができ、各発光領域R、G、Bの共振距離を合わせるために共振層(図示せず)を使える。前記共振層は、例えば、各発光領域R、G、B別に電子輸送層127の厚さを異ならせることで形成されるか、または場合によっては正孔輸送層122のような他の層で形成されるか、またはアノード111とカソード131との間の別途の層で形成されてよい。
【0072】
前記実施形態では、共通発光層として青色発光層が採用された場合を説明しているが、代わりに、共通発光層として赤色発光層または緑色発光層が採用されてもよい。すなわち、正孔輸送層上に赤色発光層が共通発光層として形成され、赤色共通発光層上に緑色発光層と青色発光層とがパターニングされ得る。または、正孔輸送層上に緑色発光層が共通発光層として形成され、緑色共通発光層上に赤色発光層と青色発光層とがパターニングされてもよい。
【0073】
赤色発光層が共通発光層である場合には、前記の実施形態で青色発光層に使われたp型ドーパントが、赤色発光層内に第2ドーパントとして使われてもよい。同様に、緑色発光層が共通発光層である場合には、p型ドーパントが緑色発光層内に第2ドーパントとして使われてもよい。p型ドーパントが共通発光層内に使われることで、ホスト内に正孔を生成させてホストの正孔輸送度を向上させ得る。
【0074】
本発明による有機発光素子は、図1に示した有機発光素子100を参照しながら説明されたが、必要に応じて、赤色発光層125R及び緑色発光層125Gのうちいずれか1つのみ形成されるか、または発光層125と電子輸送層127との間に正孔阻止層がさらに介在するか、または発光層125と正孔輸送層122との間に電子阻止層がさらに介在するか、または基板の上にカソードから積層されるなど、多様な変形例が可能であるということはいうまでもない。
【0075】
[実施例1]
アノードでは、コーニング社の15Ω/cm(500Å)ITOガラス基板を50mm×50mm×0.7mmサイズに切り取って、イソプロピルアルコール及び純水を用いてそれぞれ5分間超音波洗浄した後、30分間紫外線オゾン洗浄した物を用いた。前記ITOガラス基板の上部に、MTDATAを真空蒸着して100Å厚さの正孔注入層を形成した後、前記正孔注入層の上部に青色ホストとしてTBADN94重量%、青色ドーパントとしてDPAVBI5重量%、及びp型ドーパントとしてF4TCNQ1重量%を用いて400Å厚さの発光層を形成した。前記発光層の上部にAlを真空蒸着して1,200Å厚さのカソードを形成することで有機発光素子を完成した。
【0076】
[実施例2]
発光層内のTBADN:DPAVBI:F4TCNQの重量比を、94:5:1に代えて93:5:2とした点を除いては、実施例1と同じ方法で有機発光素子を完成した。
【0077】
[比較例1]
発光層内のTBADN:DPAVBI:F4TCNQの重量比を、94:5:1に代えて95:5:0とした点を除いては、実施例1と同じ方法で有機発光素子を完成した。
【0078】
[比較例2]
発光層内のTBADN:DPAVBI:F4TCNQの重量比を、94:5:1に代えて92:5:3とした点を除いては、実施例1と同じ方法で有機発光素子を完成した。
【0079】
[比較例3]
発光層内のTBADN:DPAVBI:F4TCNQの重量比を、94:5:1に代えて90:5:5とした点を除いては、実施例1と同じ方法で有機発光素子を完成した。
【0080】
表1に、実施例1、2及び比較例1ないし3の有機発光素子構造をまとめた。
【0081】
【表1】
【0082】
図3は、実施例1、2及び比較例1ないし3の有機発光素子の正孔電流密度対電圧のグラフである。正孔の電流密度は、PR650分光器を使って測定した。
【0083】
図3を参照すれば、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び比較例3の順に電流密度が大きい。すなわち、F4TCNQを2重量%以内にドーピングした場合(実施例1、2)に、F4TCNQをドーピングしない場合(比較例1)より電流密度が増大した。一方、F4TCNQを3重量%ドーピングした場合(比較例2)に、F4TCNQをドーピングしない場合(比較例1)より電流密度が低減し、F4TCNQを5重量%ドーピングした場合(比較例3)に電流密度が非常に低減した。これは、F4TCNQの含量が増大すれば、発光ドーパントであるDPAVBIのHOMOエネルギーレベルの電子がF4TCNQのLUMOエネルギーレベルに転移される確率が大きくなり、それにより、F4TCNQのHOMOエネルギーレベルがホストであるTBADNの正孔の新たなトラップサイトとして作用するためであると思われる。
【0084】
共通発光層の正孔輸送度は前記ホストのHOMOエネルギーレベルに近いLUMOエネルギーレベルを有するp−型ドーパントを使用することによって増大し得る。
【0085】
本発明が特定の実施形態を参照しながら説明され開示されてきた一方、当業者であれば次の請求項によって定義された本発明の精神と範囲から逸脱することなく前記実施形態を様々に変更可能であることが理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、有機発光素子関連の技術分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0087】
101 基板
111 アノード
121 正孔注入層
122 正孔輸送層
125R 赤色発光層
125G 緑色発光層
125B 青色発光層
127 電子輸送層
128 電子注入層
131 カソード
図1
図2
図3