【実施例】
【0025】
図1を用いて本発明の第1の実施例による試料分注装置を説明する。
図1(a)は同試料分注装置の要部断面図、
図1(b)は同試料分注装置の使用状態を示す要部断面図、
図1(c)は
図1(b)中、四角でかこった要部の拡大断面図である。
本発明の第1の実施例による試料分注装置は、フィッティングリング10とスペーサ20とで構成される。
フィッティングリング10は、一方の端面11に開口する第1空洞部12と、他方の端面13に開口する第2空洞部14とを形成している。第1空洞部12と第2空洞部14とは連通している。
フィッティングリング10の他方の端面13は、内周リング面13aと外周リング面13bとで構成し、内周リング面13aを外周リング面13bよりも突出させて突出部13cを形成している。
スペーサ20は、マイクロプレート30に載置して用いられる。
スペーサ20には、ウェル31に対応したスペーサ貫通孔21を形成している。
マイクロプレート30は、基板32と、基板32に貼り付けられるプラスチックシート33から構成される。プラスチックシート33の両面には粘着剤が塗布されており、粘着剤は粘着剤層保護シート34で保護されている。
図1(c)に示すように、基板32にプラスチックシート33を貼り付けた状態では、プラスチックシート33の基板32と反対面には粘着剤層保護シート34が配置されている。プラスチックシート33及び粘着剤層保護シート34にはシート貫通孔35が形成されている。
基板32にプラスチックシート33を貼り付けることで、シート貫通孔35によってマイクロプレート30にはウェル31が形成される。
【0026】
図1(a)及び
図1(b)では、マイクロシリンジ40のシリンジ本体41と、シリンジ本体41に着脱可能に設けられるリムーバブルニードル基部42と、リムーバブルニードル基部42に装着されるニードルチップ43を示している。
リムーバブルニードル基部42は第1空洞部12に挿入され、ニードルチップ43は第2空洞部14に配置される。
なお、フィッティングリング10は、第1空洞部12にリムーバブルニードル基部42があらかじめ挿入固着されたものでもよいし、リムーバブルニードル基部42が一体に形成されたものでもよい。
あらかじめリムーバブルニードル基部42が固定されたフィッティングリング10とすることで、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1を製造時に一定に保つことができる。
図1(b)に示すように、フィッティングリング10の端部である突出部13cをスペーサ貫通孔21に挿入し、フィッティングリング10の他方の端面13である外周リング面13bを、スペーサ20のスペーサ表面22に当接させる。
【0027】
図1(c)に示すように、ニードルチップ43の先端43aからウェル31の底面までの距離をL、フィッティングリング10の他方の端面13である外周リング面13bからニードルチップ43の先端43aまでの距離をL1、ウェル31の深さをL3、スペーサ20の厚さをL2とすると、L=L3+L2−L1となる。
すなわち、ウェル31の深さL3、スペーサ20の厚さL2が一定のもとで、他方の端面13である外周リング面13bからニードルチップ43の先端43aまでの距離L1によって、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを一定に保つことができる。また、他方の端面13である外周リング面13bからニードルチップ43の先端43aまでの距離L1を変更することで、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを変更でき、分注量を変更できる。
以上のように、本実施例によれば、外周リング面13bによってウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを常に一定に保つことができるとともに、突出部13cによってニードルチップ43からの分注位置をウェル31の中央に維持できる。
図2は、同試料分注装置のフィッティングリングを示す写真である。
【0028】
図3は、
図1で説明したマイクロプレートを示している。
図3(a)は同マイクロプレートの平面図、
図3(b)は同マイクロプレートを示す写真である。
マイクロプレート30は、1mm厚の基板32に、SBS(Society for Biological Screening)標準仕様サイズの96個のシート貫通孔35を設けた両面粘着性の厚さ約140μmのプラスチックシート33と粘着剤層保護シート34を貼り付けている。
プラスチックシート33の一方向であるX軸方向の幅は、基板32のX軸方向の幅よりも広く、プラスチックシート33には、基板32よりも外方の位置にプレート固定孔33aを形成している。プレート固定孔33aを形成している基板32よりも外方の部分は、分注作業終了後、プラスチックシート33に施されたY軸方向のミシン目から切り離す事で、SBS標準仕様サイズとなる。
基板32にプラスチックシート33を貼り付けることで、シート貫通孔35によってウェル31が形成される。
マイクロプレート30には、X軸方向に8個、X軸方向と直交するY軸方向に12個のウェル31が格子状に配列される。
【0029】
図4は、
図1で説明したスペーサを示している。
図4(a)は同スペーサの平面図、
図4(b)は同スペーサの側面断面図である。
スペーサ20の一端には、X軸方向に8個、Y軸方向に3個のスペーサ貫通孔21を形成し、スペーサ20の他端には、スペーサ固定用ねじ孔23を形成している。
スペーサ貫通孔21の周囲領域がスペーサ表面22を構成している。
なお、X軸方向にa個、X軸方向と直交するY軸方向にb個のウェル31が格子状に配列されたマイクロプレート30に対応して、スペーサ20には、X軸方向にa個、Y軸方向にb/n個(ただし、nは1以上でbの約数)のスペーサ貫通孔21を形成する。
【0030】
図5から
図16を用いて第2の実施例による試料分注装置と、この試料分注装置を用いた試料分注方法について説明する。
図5は同試料分注装置を構成する基台とガイドバーを示している。
図5(a)は同基台の側面断面図、
図5(b)は同基台の平面図、
図5(c)は同ガイドバーの平面図、
図5(d)は同ガイドバーの側面図である。
図5(a)及び
図5(b)に示すように、基台50には、基板32を載置する載置部51、プレート固定孔33aとともにプラスチックシート33を固定する固定ピン52、及びスペーサ固定用ねじ孔23とともにスペーサ20を固定する固定用ねじ孔53を形成している。
載置部51は、凹部又は開口によって形成される。載置部51のX軸方向の幅は、基板32のX軸方向の幅よりも若干広く、載置部51のY軸方向の幅は、基板32のY軸方向の幅よりも若干広く形成している。
載置部51のY軸方向の両端には、基板32の装脱着時に用いる拡大部51aが形成されている。
固定ピン52は、載置部51より外方で、載置部51のX軸方向の両端に形成されている。
固定用ねじ孔53は、載置部51より外方で、載置部51のY軸方向の一端に形成されている。
載置部51は、基台50のY軸方向の一端に、固定用ねじ孔53は、基台50のY軸方向の他端に配置している。
固定用ねじ孔53は、Y軸方向に複数段形成し、それぞれの段の間隔は、スペーサ20のY軸方向に形成したスペーサ貫通孔21の個数に対応している。
図5では、載置部51に近い方から順に、固定用ねじ孔53a、53b、53c、53dを4段形成している。
図5(c)及び
図5(d)に示すように、ガイドバー60には、ガイド固定孔61を形成している。ガイド固定孔61は、基台50の固定ピン52に対応して形成している。
【0031】
図6は
図5(a)及び(b)に示す基台に
図3に示すマイクロプレートを装着した状態の平面図、
図7は
図6に示す状態に更に
図5(c)及び(d)に示すガイドバーを装着した状態を示す平面図、
図8は
図7に示す状態に更に
図4に示すスペーサを装着した状態を示す平面図である。
図6では、基台50にマイクロプレート30を装着した状態を示している。
図6に示すように、基板32を載置部51に載置する。プラスチックシート33に形成されたプレート固定孔33aに、基台50に形成された固定ピン52を挿入する。固定ピン52によりプラスチックシート33は基台50に固定される。
【0032】
図7では、更に、基台50にガイドバー60を装着した状態を示している。
図7に示すように、一対のガイドバー60を基板32の両側に載置する。一対のガイドバー60に形成されたガイド固定孔61は、基台50に形成された固定ピン52の位置に配置される。なお、一部のガイド固定孔61は、プレート固定孔33aに対応している。
【0033】
図8では、更に、基台50にスペーサ20を装着した状態を示している。
図8に示すように、一対のガイドバー60の間に、スペーサ20を載置する。スペーサ20に形成されたスペーサ固定用ねじ孔23は、基台50に形成された固定用ねじ孔53aの位置に配置される。
マイクロプレート30に載置したスペーサ20は、一対のガイドバー60によって、X軸方向の移動を規制され、Y軸方向に摺動可能となる。
この状態で、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53aをねじ止めすることで、スペーサ20を基台50に装着する。
図8に示す状態でマイクロプレート30に形成したそれぞれのウェル31に、マイクロシリンジ40を用いて試料を注入することができる。
【0034】
図8に示す状態で第1の注入ステップを行う。
注入ステップでは、スペーサ貫通孔21によって開口したX軸方向にa個、Y軸方向にb/n個のウェル31に試料を注入する。
本実施例では、a=8、b=12、n=4である。
図8に示す第1の注入ステップでは、スペーサ貫通孔21によって開口したX軸方向に8個、Y軸方向に3個のウェル31に試料を注入する。
すなわち、マイクロプレート30の一端を1列目のウェル31とした場合に、Y軸方向に3列目までのウェル31に試料を注入する。なお、脂質メソフェーズ法による結晶化に利用する場合には、試料としてタンパク質−脂質メソフェーズ試料が用いられ、この試料の注入の後に、結晶化溶液が注入される。以下の注入ステップにおいても同様である。
【0035】
図8に示す第1の注入ステップの後に、第1のスペーサ移動ステップを行う。
図9は、第1のスペーサ移動ステップを行った状態を示している。
スペーサ移動ステップでは、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53aからねじを取り外し、スペーサ20をY軸方向にb/n個のウェル31の距離だけ、すなわち3列分のウェル31だけ移動させる。
第1のスペーサ移動ステップによってスペーサ20を移動した後に、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53bをねじ止めすることで、スペーサ20を基台50に装着する。
図9に示すように、第1のスペーサ移動ステップによって、スペーサ20は、Y軸方向に3列分のウェル31の距離だけ移動する。従って、スペーサ20は、試料が注入された1列目から3列目までのウェル31上から除かれる。なお、脂質メソフェーズ法による結晶化に利用する場合には、注入ステップに代えてこの段階で結晶化溶液を分注することもできる。以下のステップにおいても同様である。
【0036】
図9に示す第1のスペーサ移動ステップの後に、
図10に示す第1のカバーステップを行う。
図10に示すように、試料が注入された1列目から3列目までのウェル31上の粘着剤層保護シート34を取り去り、1列目から3列目までのウェル31に、カバープレート71を載置する。
第1のカバーステップの後に、第2の注入ステップを行う。
図10に示すように、スペーサ貫通孔21は、マイクロプレート30の4列目から6列目までのウェル31に位置している。
従って、第2の注入ステップでは、マイクロプレート30の4列目から6列目までのウェル31に試料を注入する。
【0037】
図10に示す第2の注入ステップの後に、第2のスペーサ移動ステップを行う。
図11は、第2のスペーサ移動ステップを行った状態を示している。
第2のスペーサ移動ステップでは、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53bからねじを取り外し、スペーサ20をY軸方向に更にb/n個のウェル31の距離だけ、すなわち更に3列分のウェル31だけ移動させる。
第2のスペーサ移動ステップによってスペーサ20を移動した後に、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53cをねじ止めすることで、スペーサ20を基台50に装着する。
図11に示すように、第2のスペーサ移動ステップによって、スペーサ20は、Y軸方向に更に3列分のウェル31の距離だけ移動する。従って、スペーサ20は、試料が注入された4列目から6列目までのウェル31上から除かれる。
【0038】
図11に示す第2のスペーサ移動ステップの後に、
図12に示す第2のカバーステップを行う。
図12に示すように、試料が注入された4列目から6列目までのウェル31上の粘着剤層保護シート34を取り去り、4列目から6列目までのウェル31に、カバープレート72を載置する。
第2のカバーステップの後に、第3の注入ステップを行う。
図12に示すように、スペーサ貫通孔21は、マイクロプレート30の7列目から9列目までのウェル31に位置している。
従って、第3の注入ステップでは、マイクロプレート30の7列目から9列目までのウェル31に試料を注入する。
【0039】
図12に示す第3の注入ステップの後に、第3のスペーサ移動ステップを行う。
図13は、第3のスペーサ移動ステップを行った状態を示している。
第3のスペーサ移動ステップでは、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53cからねじを取り外し、スペーサ20をY軸方向に更にb/n個のウェル31の距離だけ、すなわち更に3列分のウェル31だけ移動させる。
第3のスペーサ移動ステップによってスペーサ20を移動した後に、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53dをねじ止めすることで、スペーサ20を基台50に装着する。
図13に示すように、第3のスペーサ移動ステップによって、スペーサ20は、Y軸方向に更に3列分のウェル31の距離だけ移動する。従って、スペーサ20は、試料が注入された7列目から9列目までのウェル31上から除かれる。
【0040】
図13に示す第3のスペーサ移動ステップの後に、
図14に示す第3のカバーステップを行う。
図14に示すように、試料が注入された7列目から9列目までのウェル31上の粘着剤層保護シート34を取り去り、7列目から9列目までのウェル31に、カバープレート73を載置する。
第3のカバーステップの後に、第4の注入ステップを行う。
図14に示すように、スペーサ貫通孔21は、マイクロプレート30の10列目から12列目までのウェル31に位置している。
従って、第4の注入ステップでは、マイクロプレート30の10列目から12列目までのウェル31に試料を注入する。
【0041】
図14に示す第4の注入ステップの後に、第4のスペーサ移動ステップを行う。
図15は、第4のスペーサ移動ステップを行った状態を示している。
第4のスペーサ移動ステップでは、スペーサ固定用ねじ孔23及び固定用ねじ孔53dからねじを取り外し、スペーサ20をY軸方向に更にb/n個のウェル31の距離だけ、すなわち更に3列分のウェル31だけ移動させる。
図15に示すように、第4のスペーサ移動ステップによって、スペーサ20は、Y軸方向に更に3列分のウェル31の距離だけ移動する。従って、スペーサ20は、試料が注入された10列目から12列目までのウェル31上から除かれる。
【0042】
図15に示す第4のスペーサ移動ステップの後に、
図16に示す第4のカバーステップを行う。
図16に示すように、試料が注入された10列目から12列目までのウェル31上の粘着剤層保護シート34を取り去り、10列目から12列目までのウェル31に、カバープレート74を載置する。
【0043】
以上のように、注入ステップからカバーステップをn回繰り返すことで、一つのマイクロプレート30に対して、ウェル31への分注作業を分けて行え、ウェル31内に注入した試料の乾燥を防止できる。
【0044】
図17及び
図18を用いて本発明の第3の実施例による試料分注装置を説明する。
図17(a)は同試料分注装置を構成するフィッティングリングの断面図、
図17(b)は同フィッティングリングの底面図である。なお、第1の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略し、第1の実施例と異なる点を説明する。
本実施例によるフィッティングリング10では、第2空洞部14を、小径空洞部14aと大径空洞部14bとで構成し、他方の端面13は、大径空洞部14bによって形成される。
また、大径空洞部14bは、小径空洞部14aから他方の端面13に向かって径を漸次拡大させている。
また、ニードルチップ43の先端43aは、他方の端面13から突出させている。
また、フィッティングリング10には、他方の端面13から、ニードルチップ43と平行な一対のスリット13dを設けている。
【0045】
図18は同試料分注装置の使用状態を示す要部断面図である。
図18に示すように、フィッティングリング10の端部をスペーサ貫通孔21に挿入し、フィッティングリング10の他方の端面13を、マイクロプレート30のプレート表面36に当接させる。
ニードルチップ43の先端43aからウェル31の底面までの距離をL、フィッティングリング10の他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離をL1、ウェル31の深さをL3とすると、L=L3−L1となる。
すなわち、ウェル31の深さL3が一定のもとで、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1によって、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを一定に保つことができる。また、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1を変更することで、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを変更でき、分注量を変更できる。また、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを分注量に対応した値に設定できる。
【0046】
以上のように、本実施例によれば、他方の端面13によってウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを常に一定に保つことができるとともに、フィッティングリング10の端部をスペーサ貫通孔21に挿入することによってニードルチップ43からの分注位置をウェル31の中央に維持できる。
また、本実施例によれば、大径空洞部14bによって他方の端面13を構成することで、ウェル31内に注入した試料がフィッティングリング10に触れることを防止でき、ウェル31内に注入した試料の減少とコンタミを防止できる。
また、本実施例によれば、大径空洞部14bを、小径空洞部14aから他方の端面13に向かって径を漸次拡大させることで、加工を容易にでき、他方の端面13の面積を小さくできる。
また、本実施例によれば、ニードルチップ43の先端43aを、他方の端面13から突出させることで、フィッティングリング10をウェル31に近づけることなく、ニードルチップ43の先端43aをウェル31の底面に近づけることができる。
また、本実施例によれば、他方の端面13に一対のスリット13dを設けているので、このスリット13dによりニードルチップ43の状態観察、ニードルチップ43の汚染のクリーニング、フィッティングリング10の他方の端面(底面)13からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lの計測を可能としている。また、治具に一対のスリット13dをはめ込むことで、フィッティングリング10の回転を阻止できるため、フィッティングリング10に触れることなく、シリンジ本体41又はリムーバブルニードル基部42を第1空洞部12に挿入でき、又はリムーバブルニードル基部42を装着したフィッティングリング10をシリンジ本体41に取り付けることができる。
なお、第3の実施例で説明したフィッティングリング10は、第2の実施例による試料分注装置に適用することができる。
【0047】
図19を用いて本発明の第4の実施例による試料分注装置を説明する。
図19(a)は同試料分注装置を構成するフィッティングリングの断面図、
図19(b)は同フィッティングリングの底面図である。なお、第3の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略し、第3の実施例と異なる点を説明する。
本実施例によるフィッティングリング10では、ニードルチップ43の先端43aを、第2空洞部14の内部に配置している。なお、ニードルチップ43の先端43aは、大径空洞部14bに配置することが好ましい。
本実施例によれば、ニードルチップ43の先端43aが第2空洞部14の内部に隠れているため、ニードルチップ43にものが触れることがなく、ニードルチップ43を保護することができる。
また、本実施例によれば、ニードルチップ43の先端43aを大径空洞部14bに配置することで、ウェル31内に注入した試料がフィッティングリング10に触れることを防止でき、ウェル31内に注入した試料の減少とコンタミを防止できる。
なお、第4の実施例で説明したフィッティングリング10は、第2の実施例による試料分注装置に適用することができる。
【0048】
図20を用いて本発明の第5の実施例による試料分注装置を説明する。
図20(a)は同試料分注装置を構成するフィッティングリングの断面図、
図20(b)は同試料分注装置の使用状態を示す要部断面図である。なお、第1の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略し、第1の実施例と異なる点を説明する。
本実施例によるフィッティングリング10では、第2空洞部14を、小径空洞部14aと大径空洞部14bとで構成し、他方の端面13は、大径空洞部14bによって形成される。
また、大径空洞部14bは、小径空洞部14aから他方の端面13に向かって径を漸次拡大させている。
また、ニードルチップ43の先端43aは、第2空洞部14の内部、すなわち、小径空洞部14aに配置している。
また、フィッティングリング10には、他方の端面13から、ニードルチップ43と平行な一対のスリット13dを設けている。
図20(b)に示すように、本実施例ではスペーサ20を用いない。
フィッティングリング10の端部をウェル31に挿入し、フィッティングリング10の他方の端面13を、ウェル31の底面の外周部に当接させる。
ニードルチップ43の先端43aからウェル31の底面までの距離をL、フィッティングリング10の他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離をL1とすると、L=L1となる。
すなわち、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1によって、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを一定に保つことができる。また、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1を変更することで、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを変更でき、分注量を変更できる。
【0049】
以上のように、本実施例によれば、他方の端面13によってウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを常に一定に保つことができるとともに、フィッティングリング10の端部をウェル31に挿入することによってニードルチップ43からの分注位置をウェル31の中央に維持できる。
また、本実施例によれば、大径空洞部14bによって他方の端面13を構成することで、ウェル31内に注入した試料がフィッティングリング10に触れることを防止でき、ウェル31内に注入した試料の減少とコンタミを防止できる。
また、本実施例によれば、大径空洞部14bを、小径空洞部14aから他方の端面13に向かって径を漸次拡大させることで、加工を容易にでき、他方の端面13の面積を小さくできる。
また、本実施例によれば、他方の端面13に一対のスリット13dを設けているので、このスリット13dによりニードルチップ43の状態観察、ニードルチップ43の汚染のクリーニング、フィッティングリング10の他方の端面(底面)13からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lの計測を可能としている。また、治具に一対のスリット13dをはめ込むことで、フィッティングリング10の回転を阻止できるため、フィッティングリング10に触れることなく、シリンジ本体41又はリムーバブルニードル基部42を第1空洞部12に挿入でき、又はリムーバブルニードル基部42を装着したフィッティングリング10をシリンジ本体41に取り付けることができる。
なお、第5の実施例で説明したフィッティングリング10は、第2の実施例による試料分注装置に適用することができる。
なお、第5の実施例において、スリット13dを省略することもできる。
【0050】
図21を用いて本発明の第6の実施例による試料分注装置を説明する。
図21(a)は同試料分注装置を構成するフィッティングリングの断面図、
図21(b)は同試料分注装置の使用状態を示す要部断面図である。なお、第5の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略し、第5の実施例と異なる点を説明する。
本実施例によるフィッティングリング10では、大径空洞部14bを円柱状に形成している。
また、本実施例によれば、円柱状に大径空洞部14bを形成することで、第5の実施例と比較して、大径空洞部14bの空間を大きくでき、ウェル31内に注入した試料がフィッティングリング10に触れることを防止でき、ウェル31内に注入した試料の減少とコンタミを防止できる。
【0051】
図22を用いて本発明の第7の実施例による試料分注装置を説明する。
図22(a)は同試料分注装置を構成するフィッティングリングの断面図、
図22(b)は同試料分注装置の使用状態を示す要部断面図である。なお、第6の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略し、第6の実施例と異なる点を説明する。
本実施例によるフィッティングリング10では、第1空洞部12に、マイクロシリンジ40のシリンジ本体41を挿入することで、シリンジ本体41に装着されるニードルチップ43を第2空洞部14に配置している。
本実施例によれば、ニードルチップ43を交換しない固定針型のマイクロシリンジ40に用いることができる。
なお、フィッティングリング10は、第1空洞部12にシリンジ本体41があらかじめ挿入固着されたものでもよいし、シリンジ本体41が一体に形成されたものでもよい。
【0052】
第1の実施例から第7の実施例による試料分注装置において、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1が異なる複数種類のフィッティングリング10をセットとして備えることが好ましい。このように、他方の端面13からニードルチップ43の先端43aまでの距離L1が異なる複数種類のフィッティングリング10を使い分けることで、分注量を任意に変更することができる。
また、第1の実施例から第4の実施例による試料分注装置では、厚さの異なる複数種類のスペーサ20をセットとして備えることもできる。このように厚さの異なるスペーサ20を使い分けることで、分注量を任意に変更することができる。
【0053】
上記実施例で用いる試料は、粘稠な試料の場合に特に効果が高い。粘稠な試料としては、例えば膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズがある。この試料は、膜タンパク質を含む水溶液を、マトリクス脂質、又はマトリクス脂質及び適切な水溶液を前もって混合して得た脂質メソフェーズに混合して調製される。本実施例では、脂質メソフェーズは、脂質/水溶液混合系に現れる固体と液体との中間的な性質を持つ物質あるいは状態を意味する。脂質メソフェーズは、具体的には、脂質二重膜が三次元連続構造を持つ「キュービック液晶」、ならびに脂質二重膜が一方向にスタックした構造を持つ「ラメラ液晶」および「キュービック液晶」の長距離秩序が失われた「スポンジ相」等の脂質二重膜を構成単位とする。
また、一つのウェル31に注入する試料のボリュームは、300nl以下において効果があり、20〜100nlでは特に効果が顕著である。
一つのウェル31に注入する試料のボリュームに対応した、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの最適距離があるので、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離は、50μm〜400μm、好ましくは100μm〜200μmとすることによって、一つのウェル31に注入する試料のボリュームを10〜300nl好ましくは、20〜100nlの範囲で変更することができる。
本実施例によれば、粘稠な試料であっても、ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離を50μm〜400μm、好ましくは100μm〜200μmとすることができ、一定の分注量を再現できる。
なお、本実施例では、基板32にプラスチックシート33を貼り付けたマイクロプレート30を用いて説明したが、これに限られるものではなく、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの材質でウェル31が成形された一般的なマイクロプレート30でも適用できる。
【0054】
図23(a)は第1の実施例による試料分注装置を用いて、50nlを20回分注した場合の実際に分注されたボリュームを示すデータ、
図23(b)は比較例としての自動分注装置を用いて50nlの分注を行った場合のデータ、
図23(c)は第1の実施例によるウェル内の状態を示す写真である。
マイクロシリンジ40として、イトーシリンジ(伊藤製作所製 型式MS−GFN50)を用い、ニードルチップ43の先端43aを90度にカットした24ゲージのリムーバブルニードル基部42を用いた。
ウェル31の底面からニードルチップ43の先端43aまでの距離Lを135μmとして分注を行った。
図23(a)に示すように、20回分注の平均ボリュームVは50.4nl、標準偏差σは4.8nlとなった。
図23(b)に、自動分注装置を用いた場合のデータを比較例として示すが、自動分注装置を用いた場合でも、平均ボリュームVは47.8nl、標準偏差σは4.5nlであり、本実施例による試料分注装置でも遜色無い結果となっている。
また、
図23(c)に示すように、常に一定の形(円柱形)で分注される。
【0055】
図24(a)は第1の実施例による試料分注装置を用いてウェルに注入された試料を撮影した写真、
図24(b)は
図24(a)で撮影した写真からウェル内での試料の位置及び大きさを模式的に現した説明図、
図24(c)は分注位置の実験結果を示すデータである。
図24(a)に示すように、脂質メソフェーズ円筒の外形線Caを基に脂質メソフェーズの中心Cbの位置を特定し、ウェル31の外形線Ccから求めたウェル31の中心Cdから脂質メソフェーズの中心Cbまでの距離(ずれ)rを計測した(
図24(b))。これらの計測は、写真の画像解析によって行った。ただしウェル31は半径2500μm、脂質メソフェーズの平均ボリュームVは50.4nlとしている。
図24(c)では、20回連続分注した脂質メソフェーズ円筒の中心Cbとウェル31の中心Cdとのずれrを示している。
脂質メソフェーズ円筒の中心Cbとウェル31の中心Cdとのずれrの平均値は84μm、標準偏差は32μmであった。また、20回分注中でのrの最大値は140μmであった。
この実験結果から、試料の分注位置のウェル中心Cdからのずれrは、ウェル31の半径2500μmに対し、平均で3%、最大でも5.6%であり、脂質メソフェーズ法において十分な分注位置精度であった。
このように分注位置をウェル31の中心から一定の範囲に維持でき、試料がウェル31のエッジに触れることがほんどない。
図23及び
図24で示すように、本実施例による手動分注装置及び方法は、特に脂質メソフェーズ法による結晶化に適している。