(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エポキシ樹脂(a1)と、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(a2)とからなる群から選択される少なくとも1種のバインダー樹脂(A)を含みかつ、
熱伝導度が0.2W/mK以上100W/mK未満のフォルステライト微粒子及びフッ化金属結晶微粒子からなる群から選択される少なくとも1種である放熱性フィラー(B)を10質量%以上40質量%以下と、を含有する、
放熱性粉体塗料組成物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、各種電気・電子機器における発熱する部位に放熱性に優れた塗膜を形成し得る放熱性粉体塗料組成物、当該組成物からなる放熱性塗膜、及び当該塗膜を有する被塗装物に関する。
【0002】
従来から、電気・電子機器の熱対策が非常に重視されている。例えば、家電製品の高性能化又は携帯機器の小型化・高密度実装化、マイクロプロセッサの高速化に伴って、電子デバイス部品1つあたりの消費電力が著しく増大している。その結果、電子デバイス部品の発熱量も大きく増すため、該デバイスの劣化、ひいては該デバイスを備えた製品全体としての性能劣化が生じやすくなっている。
【0003】
さらに、近年、日常生活及び産業界において、省エネルギー化又は、代替自然エネルギーの積極的な導入が図られることになった結果、LED電球及び太陽電池の市場が年々拡大する傾向にある。しかしながら、これらの電気・電子機器は高輝度化又は高集光化を図るべくエネルギーが集約化されているため、使用の際に電気・電子機器自体非常に高温になる。そこで、該電気・電子機器を製造する際には、通常、部品モジュール又は完成品レベルにおいてそれぞれ放熱対策が施される。
【0004】
ところで、従来においては、簡便で放熱効率が高い対流に頼った放熱対策が一般的であった。そのため、例えば半導体装置に使用される各種モジュールにおいては、半導体素子(LSI、パワーIC等)の上面に放熱フィンを設置し、半導体素子より発せられる熱を、放熱フィンの対流作用により外部環境に放出する試みがなされている(特許文献1、2を参照)。
【0005】
また、LED電球の場合には、熱源である発光ダイオードから生じた熱エネルギーを、アルミ又は銅などで構成された高熱伝導性の放熱板へと伝導させることによって、その表面より自然対流又は冷却ファンを使った強制対流によって外界に放出する手段が、開示されている(特許文献3を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述のような物理構造にもとづく放熱手段においては、表面積をできるだけ大きくし、外部環境の雰囲気(空気)ができるだけ頻繁に入れ替わるようにすることが、放熱効率を高める点で重要になる。また、アルミ又は銅等といった熱伝導率が非常に高い材料を放熱板として用いた上で、内部熱源からその物理的放熱手段の最表面(放熱表面)へとできるだけ多くの熱をなるべく早く輸送することも有効である。
【0008】
しかし、モジュール又はセット機器が小型化すると、内部に放熱フィン又は冷却ファン等を設置するスペースを確保し難くなる。また、それらの軽量化、意匠性、経済性、及び携帯性等を考慮すれば、アルミ又は銅等の重量がある金属の利用も制限される。さらに、一般的な電気・電子機器において放熱対策が必要となる温度はせいぜい200℃程度という比較的低温であるため、対流による放熱効果にも限界がある。そのため、斯界では、対流、熱伝導、及び放射を組み合わせた最適な放熱設計の必要性が高まっている。そのような放熱設計を実現するための有効策として、セット機器の筐体及び/又はセット機器の各部品表面に放熱性粉体塗料組成物を適用することが考えられる。
【0009】
なお、本願において「放熱対策」とは、電気・電子機器の内部にある熱源(高温領域)から、外界の低温領域へ熱エネルギーを輸送して放出するために、熱伝導、対流及び熱放射の各伝熱手段を組み合わせた最適手段を設計することをいう。
また、本願において「粉体塗料組成物」とは、揮発分を含まず、バインダー樹脂に放熱性フィラー(無機粒子)を配合したものであり、かつ常温において固体粉末状のものをいう。また、「放熱性粉体塗料組成物」とは、粉体塗料組成物のうち、組成物自体が熱伝導性や放射性による積極的な放熱性を備えているものをいう。
【0010】
塗膜の放熱効果を高めるためには、内部熱源、基材、及び塗膜表面への熱エネルギーの輸送効率を大きくする必要がある。従って、熱伝導性に優れる各種セラミック粒子が、放熱性フィラーとして、あるいは放熱性塗膜の充填材として適していると考えられる。この熱伝導性に着目すれば、例えば、特開平2−133450号公報には放熱材に使用される窒化アルミニウム(熱伝導率が100W/mK以上)が、アルミナ(酸化アルミニウム)又はシリカ等に比べて熱伝導率が一桁ないし二桁以上も高いことが記載されており、一見すると窒化アルミニウムが好ましいように見える。しかしながら、放熱性フィラーはその熱伝導率だけでなく化学的特性も考慮する必要がある。窒化アルミニウムは、該公報で同時に指摘されているように、大気中の水分と反応しやすく塗料中のバインダー樹脂を経時劣化させる懸念があるため、放熱性塗膜には適さない状況も生じる。
【0011】
また、液状又はペースト状の放熱性塗料組成物は、各種の溶剤(例えば、有機溶剤)を用いるために、塗膜を形成する対象物への塗布を行う作業者の健康に十分に配慮する必要がある。また、有機溶剤に対して溶解性を持つような被塗布物には適用できず、水系溶剤においては腐食や絶縁不良などの問題が生じる可能性がある。加えて、より広い面積を均一に塗布することも比較的困難である。一方、粉体塗料組成物は、数ミクロンを超える厚膜が短時間で容易に形成でき、大面積や凹凸のある基材に対して比較的均一に塗布できる。さらに、適用できる被塗布物の制約も少なく、腐食や絶縁不良といった信頼性に関わる問題の発生も比較的に小さい。従って、産業界においては、液状の塗料組成物の代わりに、より安全で有用な放射性粉体塗料組成物が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のとおり、放熱性粉体塗料組成物は、液状又はペースト状の塗料組成物に対して有利な効果を発揮するが、既存の液状又はペースト状の塗料組成物から粉体塗料組成物を生成することは容易ではない。本願発明者らが粉体塗料組成物を実現するために多くの試行錯誤を繰り返す過程において幾つかの技術的課題を知見するとともに、それらを克服した。具体的には、放熱性粉体塗料組成物においては、塗膜表面から単位面積又は単位時間当たりに放出される熱量が塗膜の厚みに大きく依存するため、その膜厚が小さければ小さいほど熱エネルギーの輸送効率も高くなる。本願発明者らは、放熱塗料による塗膜の厚みがせいぜい数十μm程度であり、アルミ放熱フィン等の放熱部材の厚み(ミリオーダー)と比較すると二桁近くも薄いことに着眼した。この考え方を踏まえた研究と分析を鋭意行うことにより、本願発明者らは、放熱性粉体塗料組成物においては、窒化アルミニウムのように熱伝導率が高いフィラーを使用しなくとも、組み合わせるバインダー樹脂として所定の材料を採用することにより、放熱性、密着性、耐候性などの塗膜性能、及び/又は粉体塗料としての塗装性に優れた放熱性粉体塗料を実現し得ることを見出した。
【0013】
また、バインダー樹脂は、塗膜の放熱性を良好にするだけでなく、基材との密着性、機械的な強度、又は溶融した粉末塗料組成物の基材に対する塗れ性を確保できるようなものであることがより好ましい。
【0014】
そこで、さらに分析と検討を重ねた結果、本願発明者らは、熱伝導率が相対的に小さい放熱フィラーであっても、所定のバインダー樹脂に組み合わせることよって、上述の各課題を同時に解決し得る塗料組成物が得られることを見出した。その結果、窒化アルミニウムのように熱伝導の高いフィラーを用なくとも、放熱性、及び/又は密着性、機械的強度に優れた塗膜の出発材となる、新規な放熱性粉体塗料組成物が創出された。
【0015】
本発明の1つの放熱性粉体塗料組成物は、エポキシ樹脂(a1)と、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(a2)とからなる群から選択される少なくとも1種のバインダー樹脂(A)を含み、かつ、熱伝導度が0.2W/mK超100W/mK未満の放熱性フィラー(B)を10質量%以上40質量%以下と、を含有する。また、本願のその他の発明は、該放熱性粉体塗料組成物から得られる放熱性塗膜、及び該放熱性塗膜によって覆われた被塗装物にかかる発明である。
【0016】
この放熱性粉体塗料組成物によれば、各種物品の表面上に、放熱効率に優れた塗膜を粉体塗料として形成することができる。なお、上述のように熱伝導率が相対的に小さい放熱フィラーであっても、所定のバインダー樹脂に組み合わせることよって、該放熱性粉体塗料組成物が放熱効率に優れた塗膜の材料となり得ることは、特筆に値する。また、該放熱性粉体塗料組成物から得られる塗膜、換言すれば、該放熱性粉体塗料組成物が出発材となる塗膜は、放熱効率が良好であるため、密閉ハウジングのように空気の流れが制限された空間内で使用される機器・部品、若しくは放熱板又は放熱フィンの構造を造り込めないような小型のモジュール部品に対して特に好適である。また、この塗料組成物から得られる塗膜は、太陽電池、有機EL照明機器、又は駆動機器等、放熱対策が必要な製品に対して用いることによって各種デバイスの信頼性及び/又は安定的な動作に貢献し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つの放熱性粉体塗料組成物は、各種物品の表面上に、放熱効率に優れた塗膜を形成できる材料として用いることができる。また、該放熱性粉体塗料組成物から得られる本発明の1つの塗膜は、放熱効率が良好であるため、密閉ハウジングのように空気の流れが制限された空間内で使用される機器・部品、若しくは放熱板又は放熱フィンの構造を造り込めないような小型のモジュール部品に対して特に好適である。また、この塗膜は、基材、特に金属基材との密着性に優れているとともに、高い硬度、高い耐熱性、及び/又は高い耐候性を実現し得るため、太陽電池、有機EL照明機器、又は駆動機器等、放熱対策が必要な製品に対して用いることによって各種デバイスの信頼性及び/又は安定的な動作に貢献し得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態の放熱性粉体塗料組成物は、エポキシ樹脂(a1)(以下、(a1)成分ともいう。)と、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(a2)(以下、(a2)成分ともいう。)とからなる群から選択される少なくとも1種のバインダー樹脂(A)(以下、(A)成分ともいう。)を含み、熱伝導度が0.2W/mK超100W/mK未満の放熱性フィラー(B)(以下、(B)成分ともいう。)を10質量%以上40質量%以下と、を含有する。また、この放熱性粉体塗料組成物は、粉体塗料であるため有機溶剤を実質的に含まない(JIS(Japanese Industrial Standards)−K5000:2000参照)。なお、さらなる研究と分析によれば、(a1)成分は、放熱性粉体塗料組成物が発揮する各種の効果のうち、より、密着性や耐熱性の向上に寄与し得ることが知見されている。また、(a2)成分は、放熱性粉体塗料組成物が発揮する各種の効果のうち、より、耐候性の向上に寄与し得ることが知見されている。従って、(a1)成分と(a2)成分とを同時に含む放熱性粉体塗料組成物は、それぞれの良い効果をより確度高く発揮し得るため、より好適な一態様である。
【0020】
本実施形態の(a1)成分の代表的な例は、各種公知のエポキシ樹脂である。具体的には、塗膜の放熱性や、基材との密着性等の観点より、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び/またはノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。また、そのビスフェノール型エポキシ樹脂をなすビスフェノール類の代表的な例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等である。また、前記ノボラック型エポキシ樹脂の代表的な例は、フェノールノボラック樹脂及び/又は、レゾールノボラック樹脂にハロエポキシドを反応させて得られるノボラック型エポキシ樹脂等である。
【0021】
なお、(a1)成分の物性は特に限定されない。但し、代表的なエポキシ当量は通常70以上2500以下程度であり、その軟化点が通常60℃以上150℃以下程度である。
【0022】
また、本実施形態の(a2)成分の代表的な例は、分子内に水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するポリエステル樹脂であり、各種公知のポリエステル樹脂が採用され得る。より具体的な(a2)成分の例は、各種公知の多塩基酸と多価アルコールを反応させてなり、かつ分子内に水酸基及び/又はカルボキシル基が残存したポリエステル樹脂である。
【0023】
また、本実施形態の該多塩基酸の代表的な例は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘット酸、トリメリット酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、ピロメリット酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンヘキサヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、スベリン酸、ピメリン酸、ダイマー酸(トール油脂肪酸の二量体)、テトラクロロフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジカルボキシビフェニル等の各種芳香族ジカルボン酸類、脂肪族ジカルボン酸類及び脂環族ジカルボン酸類並びにそれらの酸無水物、あるいはそれらのジアルキルエステル(特にジメチルエステル等)である。また、これらと併せて、その他に、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類並びにこれらに対応するヒドロキシカルボン酸類、p−オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類等を用いることができる。
【0024】
また、本実施形態の該多価アルコールの代表的な例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、3−メチル−ペンタン−1,5−ジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ポリアルキレンオキサイド、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、(水素添加)ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、(水素添加)ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の2価以上のアルコールである。
【0025】
本実施形態の(a2)成分の水酸基価(JIS K 0070)は特に限定されない。但し、通常、10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下程度である。また、本実施形態の酸価(JIS K 0070)も特に限定されない。但し、通常、10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下程度である。また、他の物性も特に限定されないが、例えば、軟化点は通常、100℃以上200℃以下程度である。
【0026】
また、(A)成分として(a1)成分と(a2)成分を併用する場合、両社の混合比は特に限定されないが、通常、(a2)成分中の水酸基のモル数を1とした場合における(a1)成分のエポキシ基のモル数が0.5モル以上1.5モル以下程度となる範囲であればよい。
【0027】
なお、(A)成分の熱伝導率は特に限定されないが、通常は1W/mK以下、具体的には0.15W/mK程以上0.5W/mK以下程度である。
【0028】
本実施形態の粉体塗料組成物には、必要に応じ、上述の(A)成分を架橋反応させるために各種公知の硬化剤を含めることができる。具体的には、本実施形態の(A)成分として(a1)成分を用いる場合には、フェノール系硬化剤(ビスフェノールA型フェノール樹脂等)、トリアジン、ジシアンジアミド、アジピン酸、イミダゾール化合物、アミン系硬化剤、芳香族系酸無水物などのエポキシ樹脂用硬化剤を該粉体塗料組成物に添加することができる。また、必要に応じ、三級アミンや三級アミン塩、イミダゾール、ホスフィン、ホスホニウム塩等の硬化促進剤を含めることもできる。
【0029】
また、(A)成分として(a2)成分を用いる場合には、水酸基に対して反応性を有する硬化剤として、例えば、各種公知のジイソシアネートの三量体(ε‐カプロラクタムでブロック処理したイソホロンジイソシアネートの三量体等)、各種公知のポリイソシアネート化合物が挙げられる。なお、該ジイソシアネートの具体例は、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネー等の脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート等の水添キシレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートである。また、カルボキシル基に対して反応性を有する硬化剤として、例えば、分子内にグリシジル基又は、ビニルエーテル基、水酸基、アミノ基等を有する各種公知のものが挙げられる。
【0030】
なお、これら硬化剤の使用量は、(a1)成分中のエポキシ基のモル数を1モルとした場合、または(a2)成分の水酸基のモル数を1モルとした場合、あるいは(a1)成分中のエポキシ基のモル数と(a2)成分の水酸基のモル数の合計1を1モルとした場合において、通常、0.5モル以上1.5モル以下程度となる範囲であればよい。
【0031】
本実施形態の(B)成分は、熱伝導度が0.2W/mK以上100W/mK未満の放熱性フィラーであれば各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的な(B)成分の例は、酸化ケイ素微粒子、フッ化金属結晶微粒子、窒化ホウ素微粒子、石英微粒子、カオリン微粒子、水酸化アルミニウム微粒子、ベントナイト微粒子、タルク微粒子、サリサイト微粒子、フォルステライト微粒子、マイカ微粒子、コージェライト微粒子等からなる群より選ばれる少なくとも1種である。なお、本実施形態においては、(A)成分をバインダー樹脂として選択したことにより、窒化アルミニウムよりも熱伝導性において劣る(B)成分を敢えて用いたとしても、放熱性に優れた放熱性粉体塗料組成物を得ることができる。その結果、該放熱性粉体塗料組成物から得られる塗膜は、放熱効率が良好となるため、例えば、密閉ハウジングのように空気の流れが制限された空間内で使用される機器・部品、若しくは放熱板又は放熱フィンの構造を造り込めないような小型のモジュール部品に対しても適用することができる。
【0032】
熱伝導率が100W/mKを越えるような物質は一般的に半導体もしくは電気的良導体に属するものと考えられるため、電気・電子機器に用いる場合に電気的絶縁性をより確度高く確保する観点から言えば、(B)成分の熱伝導率は100W/mK未満、より好ましくは80W/mK以下程度である。他方、(B)成分の熱伝導率の下限値は、放熱性に優れた放熱性粉体塗料組成物をより確度高く得るため、0.2W/mK以上とすることが好ましい。本実施形態においては、上述のとおり、適用し得る適切な(B)成分を選定することにより、(A)成分(すなわち、(a1)成分及び/又は(a2)成分)と相俟って、放熱性、密着性、耐候性などの塗膜性能、及び/又は粉体塗料としての塗装性に優れた放熱性粉体塗料を実現し得る。
【0033】
また、(B)成分の代表的な例は、特に塗膜の放熱性を高めるという観点から言えば、上述のマイカ微粒子、フォルステライト微粒子、酸化ケイ素微粒子、フッ化金属結晶微粒子、及び窒化ホウ素微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。加えて、特に、40℃から100℃程度の電子デバイス等での比較的低中温度における放熱効率の観点から言えば、酸化ケイ素微粒子及び/又はフッ化金属結晶微粒子が好ましい。ささらに、塗装性の観点から言えば、フッ化金属結晶微粒子が好ましく、100℃を超える比較的高温度域における放熱効率の観点から言えば、窒化ホウ素微粒子が好ましい。
【0034】
本実施形態の酸化ケイ素微粒子の代表的な製造例は、まず高純度珪砂を原料としてケイ酸ソーダと硫酸を混合させた後に、ケイ酸ゾルを生成させる。その後、該ケイ酸ゾルを重合させることによって凝集体を形成し、これをゲル化させる方法により製造される(例えば、特開平9−71723等を参照)。また、その他の公知の製造方法も採用し得る。このように製造される酸化ケイ素微粒子は、多孔性ないし非多孔性の粒子である。なお、市販品としての具体例は、例えば富士シリシア(株)製のサイシリア730、サイシリア740、サイシリア770、サイシリア530、サイシリア540、サイシリア550等である。
【0035】
また、本実施形態のフッ化金属結晶微粒子の代表的な例は、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、又はフッ化マグネシウム等である。この中でも、耐久性特に熱衝撃に対する耐久性等の観点から言えば、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムが特に好適な物質である。加えて、本実施形態のフッ化金属結晶微粒子として、上述の各具体例の2種以上を併せて用いることも採用し得る他の一態様である。
【0036】
また、本実施形態において、酸化ケイ素微粒子とフッ化金属結晶微粒子を併用する場合は、酸化ケイ素微粒子とフッ化金属結晶微粒子との質量%比として、酸化ケイ素微粒子:フッ化金属結晶微粒子が、1:4程度〜4.9:5.1程度となるように調整するのが好ましい。このような質量比に調整することにより、塗装性に優れ、塗膜の外観上の意匠性が優れるという効果が奏され得る。
【0037】
なお、(B)成分の粒子径は特に限定されない。但し、形成される塗膜の機械的強度、意匠性(平滑性)、及び/又は塗膜の適度な凹凸に基づく放熱効率を考慮すれば、通常、平均一次粒子径が0.1μm以上50μm以下程度であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましい。また、(B)成分のメディアン径D50も特に限定されない。但し、通常、(B)成分のメディアン径D50が50μm以下であることが好ましく、40μm以下であるのがより好ましい。
【0038】
本実施形態の放熱性粉体塗料組成物には、意匠性等を考慮して、必要に応じて着色性顔料(C)(以下、(C)成分ともいう。)を配合することにより、本実施形態の塗料組成物を着色粉体塗料として用いることも採用し得る他の一態様である。
【0039】
また、本実施形態の(C)成分として、各種公知の材料を特に制限なく使用できる。なお、(C)成分の例は、酸化チタン粉末、カーボンブラック粉末、及び酸化鉄粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種である。また、(C)成分の熱伝導率は特に限定されない。但し、通常は、(C)成分の熱伝導率は1W/mK以上30W/mK以下程度である。
【0040】
加えて、(C)成分の形状も特に限定されない。但し、塗膜の機械的強度、意匠性(平滑性)、及び塗膜の適度な凹凸に基づく放熱効率のうち少なくとも1つの観点から言えば、通常、(C)成分の平均一次粒子径が上述の(B)成分の平均一次粒子径の0.01%以上10%以下程度となる範囲であることが好ましい。また、(C)成分の平均一次粒子径も特に限定されない。但し、通常、(C)成分の平均一次粒子径は、1μm以下であるのが好ましい。
【0041】
本実施形態の放熱性粉体塗料組成物における(A)成分の含有量については特に限定されない。ただし、(A)成分の含有量が、該粉体塗料組成物の全体の質量を基準としたときに、30質量%以上85質量%以下である範囲を採用することは、より確度高く該粉体塗料組成物の塗布性と基材に対する密着性を向上させるとともに、より有効な放熱性を確保するため、好適な一態様である。また、同様の観点から、30質量%以上70質量%以下である範囲を採用することは、より好適な一態様である。加えて、(A)成分の含有量が35質量%以上70質量%以下である範囲を採用することは、同様の観点から、極めて好ましい一態様である。
【0042】
また、本実施形態の放熱性粉体塗料組成物における(C)成分の含有量も特に限定されない。換言すれば、(C)成分が含まれない態様であっても採用し得る。但し、(C)成分の含有量が0.5質量%以上30質量%以下程度であることは、塗膜として用いる場合の機械的強度の向上、隠蔽性に代表される意匠性の向上、及び/又は塗膜の適度な凹凸に基づく放熱効率の向上の観点から好ましい。さらに(C)成分の含有量が、1質量%以上25質量%以下程度であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることが更に好ましい。
【0043】
なお、本実施形態の塗料組成物に、適宜、艶消し剤、レベリング剤、表面調整剤(アクリル系等)、増量剤(炭酸カルシウム等)、充填剤、カップリング剤、滑剤、紫外線吸収剤、及びワックス等からなる群から選択される少なくとも一種の添加剤を配合することも採用し得る他の一態様である。
【0044】
また、本実施形態の粉体塗料組成物は、溶融混合法、ドライブレンド法、その他の一般的な又は公知の方法により製造することができる。例えば、溶融混合法では、上述の(A)成分及び(B)成分、並びに必要に応じて上述の硬化剤、硬化促進剤、及び添加剤等の群から選択される少なくとも一種を、ヘンシェルミキサーなどを用いて乾式混合する。その後、ニーダー又はエクストルーダーなどにより溶融混合処理する。続いて、混合された物質を冷却固化した後、微粉砕後分級することによって、本実施形態の粉体塗料を製造することができる。また、本実施形態の粉体塗料の粒度は特に限定されない。但し、通常、該粉体塗料の平均一次粒子系が5μm以上250μm以下程度の範囲に収められる。上述の製造方法により、各種基材の表面に形成される、放熱性、及び/又は密着性、機械的強度、塗布性や溶融した粉末塗料組成物の基材に対する塗れ性に優れた塗膜の出発材となる塗料組成物が得られる。
【0045】
また、本実施形態の放熱性塗膜は、本実施形態の放熱性粉体塗料組成物を被処理対象である発熱性の各種基材に適用される。より具体的には、放熱性粉体塗料組成物を、該基材上において加熱することによって軟化させた後又は溶融させた後に硬化させることにより、本実施形態の放熱性塗膜を形成することができる。なお、前述の適用手段は特に限定されない。例えば、流動浸漬法、静電流動槽法、静電スプレー法、カスケード法等を適用手段として採用し得る。
【0046】
また、本実施形態の放熱性粉体塗料を用いて塗装された後、該塗膜を備えた発熱性物品である被塗装物を加熱し、該塗膜を軟化させた後又は溶融させた後に硬化することにより、硬化塗膜が得られる。加熱条件は特に限定されないが、通常温度が120℃以上220℃以下程度であり、時間が5分以上1時間以下程度である。なお、該硬化塗膜の厚みは特に限定されない。但し、通常、5μm以上500μm以下程度である。加えて、基材の種類も特に限定されない。但し、通常、基材の例は、鉄、アルミ、銅、及びそれらの合金等、又はその他耐熱性の素材である。また、基材の形態も特に限定されない。例えば、基材の形態が、板状、フィン状、棒状、又はコイル状等であることも採用し得る一態様である。
<実施例>
【0047】
以下、実施例を用いて上述の実施形態についてより具体的に説明する。しかしながらそれらの実施例によって上述の実施形態が限定されない。また、「部」は質量基準である。
【0048】
(ブランク試験)
金属基材(アルミニウムの板、サイズは約120mm長×約50mm幅×約2mm厚)の表面に、熱源として抵抗器(シャント抵抗器、PCN社製、型番PBH1ΩD、定格電力10W、サイズ約2cm長×約1.5cm幅×約0.5cm厚)を、市販の熱伝導性両面テープ(商品名:NO.5046熱伝導性テープ、マクセルスリオンテック(株)製)によって固定した。測定雰囲気の温度を25℃に設定した後、該シャント抵抗器に一定の電流(3.2A)を印加することによって該シャント抵抗器の温度を100℃に上昇させ、温度を安定化させた。
【0049】
[実施例1]
市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(※1)32部、市販のオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(※4)3部、市販のビスフェノールA型フェノール樹脂(※8)8部、市販の多孔質シリカ粉末(※11)6部、市販のフッ化カルシウム粉末(※12)16部、市販の酸化チタン粉末(※13)20部、市販の重質炭酸カルシウム(※14)13部、及び市販のアクリル系表面調整剤1部からなる粉末塗料を上述の金属基材の表面に適用した。具体的には、該金属基材の表面上において該粉末塗料から形成された塗膜を約140℃の条件下で約15分間、加熱し軟化させた後又は溶融させた後に硬化することによって、放熱性硬化塗膜(約30μm)を備える試験基材を作製した。なお、※印で示された各製品の具体的な内容は後述する。
【0050】
(塗膜の放熱性評価)
次いで、実施例1において作製された試験基材の裏面に、
図1に示すように、上述の熱伝導性両面テープを用いて上述のシャント抵抗器を固定した。測定雰囲気の温度を25℃に設定した後、該シャント抵抗器に一定の電流(3.2A)を印加した上で、該シャント抵抗器の温度を測定した。その結果、上述の金属基材自身の基準温度(100℃)に対して、11.9℃低くなったことを確認した。なお、表1及び表2においては、基準温度から低くなった場合に、「マイナス」の数値として表している。
【0051】
また、実施例1において作製された試験基材の塗膜の赤外線放射率を、市販のサーモグラフィー(商品名:サーモギアG100、NEC Avio赤外線テクノロジー(株)製)を用いて測定した結果、該赤外線放射率の値は0.96であった。
【0052】
(塗膜の密着力評価:碁盤目試験)
実施例1に係る焼付処理板について、塗膜の密着力をJIS D0202で定める碁盤目試験に準拠して評価した。具体的には、塗膜表面にカッターナイフで100個の碁盤目を作製し、市販の粘着テープを圧着させた後1〜2分間放置し、垂直方向に剥離したときの塗膜の残存程度を、以下の基準で目視評価した。評価結果を表1に示す。後述するその他の実施例、及び各比較例の処理板についても同様に処理及び評価した。比較例の結果は表2に示す。
1:密着性良好(残存率95以上100%以下)
2:密着性やや良好(残存率65%以上95%未満)
3:密着性不良(残存率65%未満〜全剥離)
【0053】
さらに実施例1及びその他の実施例の塗膜の耐熱性を調べるために、塗膜を85℃及び120℃で2000時間加熱処理した後に上記と同様な密着力測定を実施した。その加熱処理後の密着性に基づいて以下の基準で耐熱性を評価した。各実施例の結果を表1に示し、各比較例の結果は表2に示す。
1:耐熱性(密着性)良好(残存率95以上100%以下)
2:耐熱性(密着性)やや良好(残存率65%以上95%未満)
3:耐熱性(密着性)不良(残存率65%未満〜全剥離)
【0054】
(塗膜硬度の評価)
JIS K5400の鉛筆硬度試験に準拠した。まず9H〜6Bの各硬度の鉛筆を準備して所定の冶具を用いて塗膜表面をスクラッチし、塗膜表面に傷が付くようになる鉛筆の硬度を評価した。評価基準は、硬い順に9H、8H、7H、6H、5H、4H、3H、2H、H、F、HB、B、2B、3B、4B、5B、6Bであり、鉛筆硬度がB以上の場合に実用上の問題はないと評価した。各実施例の結果を表1に示し、各比較例の結果は表2に示す。
【0055】
(耐候性の評価)
JIS K5600の促進耐候性試験に準拠した。未曝露の塗膜と、キセノンランプを用いたサンシャインウェザオメーターに暴露して3000時間経過後の塗膜を目視観察にて比較し以下の基準にて評価した。各実施例の結果を表1に示し、各比較例の結果は表2に示す。
1.表面状態等に変化がない
2.局所的に明確な着色やクラックの発生が認められる
3.全面的に着色やクラックの発生が認められる
なお、上記評価結果において、2以上の場合に実用上の問題はないと評価した。
【0056】
[実施例2〜16]、[比較例1〜8]
実施例2〜16、及び比較例1〜8において用いた原料及び部数を表1及び表2に示す。表1及び表2に示した原料及び部数を採用した点以外は実施例1と同様にして放熱塗料を調製し、試験基材を作製した後、その塗膜について実施例1と同様にして放熱性を評価した。
【0059】
<各製品の説明>
※1…商品名「エポトートYD−014」、新日鐵住金化学(株)製、エポキシ当量950、軟化点97℃
※2…商品名「エポトートYD−012」、新日鐵住金化学(株)製、エポキシ当量650、軟化点80℃
※3…商品名「jER1002」、三菱化学(株)、エポキシ当量650、軟化点78℃
※4…商品名「エピクロンN−675」、DIC(株)製
※5…商品名「ファインディックM−8020」、DIC(株)製、水酸基価30、軟化点110℃
※6…商品名「ユピカコートGV−820」、日本ユピカ(株)製、水酸基価38、軟化点113℃
※7…商品名「ユピカコートGV−230」、日本ユピカ(株)製、酸価53、軟化点121℃
※8…商品名「jERキュア171N」、三菱化学(株)製
※9…商品名「ベスタゴンB−1530」、エボニック デグサ ジャパン製、εカプロラクタムでブロックされたイソホロンジイソシアネートの三量体
※10…商品名「キュアゾールC11Z」、四国化成工業(株)製2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン
※11…商品名「サイシリア470」、富士シリシア化学(株)製、熱伝導率1.1W/m、平均一次粒子径14.1μm
※12…商品名「FLUORITE POWDER CALCIUM FLUORIDE」、China Tuhsu Flavours&Fragrances Import&Export Co. Lt製、熱伝導率9.7W/m、平均一次粒子径38.0μm
※13…商品名「TITONE R−32」、堺化学工業(株)製、熱伝導率21W/m、平均一次粒子径0.2μm
※14…商品名「SL−100」、竹原化学工業(株)製、平均一次粒子径6.0μm
※15…商品名「レジフローP−67」、ESTRON CHEMICAL社製
※16…商品名「BORONID S3」、ESK Ceramics社製、熱伝導率60W/m、平均一次粒子径約10μm
※17…商品名「PDM−8DF」、トピ−工業(株)社製、熱伝導率0.67W/m、平均一次粒子径約12μm
※18…商品名「FF−200・M40」、丸ス釉薬合資会社製、熱伝導率5W/m、平均一次粒子径約2.5μm