特許第6359850号(P6359850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359850
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】抗糖化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/53 20060101AFI20180709BHJP
   A61K 36/75 20060101ALI20180709BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180709BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180709BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20180709BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20180709BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20180709BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20180709BHJP
   A23L 2/38 20060101ALN20180709BHJP
   A23C 9/152 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
   A61K36/53
   A61K36/75
   A61P43/00 111
   A61P17/00
   A61P9/00
   A61P9/10 101
   A61K8/97
   A61Q19/08
   !A23L2/00 F
   !A23L2/38 D
   !A23L2/38 C
   !A23L2/38 P
   !A23C9/152
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-59980(P2014-59980)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182972(P2015-182972A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 正剛
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2005−0022142(KR,A)
【文献】 特開2012−031106(JP,A)
【文献】 特開2004−035424(JP,A)
【文献】 特開2003−171217(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/026645(WO,A1)
【文献】 特開2011−207852(JP,A)
【文献】 特開2011−037721(JP,A)
【文献】 特開2014−205658(JP,A)
【文献】 特開2009−203179(JP,A)
【文献】 特開2010−047489(JP,A)
【文献】 Int J Food Prop,2013年 6月24日,Vol.17,p617-628
【文献】 柳田達也、他4名,Flavonoid含有生薬のタンパク質糖化反応阻害活性とシクロデキストリン添加による影響について,日本薬学会年会要旨集,2008年 3月 5日,Vol.128, No.2,p100,ポスター番号26PE-pm021
【文献】 園学雑,2004年,Vol.73, No.3,p272-279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)の花から水蒸気蒸留法により得られる精油、
ラバンジン(学名:Lavandula x intermedia)の花から水蒸気蒸留法により得られる精油、
ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)の果皮から圧搾法により得られる精油、
スウィートオレンジ(学名:Citrus sinensis)の果皮から圧搾法により得られる精油、及び
ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)の花から水蒸気蒸留法により得られる精油
から選ばれる1種又は2種以上の精油を含有し、且つ
グリシンにグルコースが結合した終末糖化物質の生成を阻害するために用いられる
抗糖化剤。
【請求項2】
前記抗糖化剤が、コモン・ラベンダーの花から水蒸気蒸留法により得られる精油、及び/又は、ラバンジンの花から水蒸気蒸留法により得られる精油を含有する、請求項1に記載の抗糖化剤。
【請求項3】
前記抗糖化剤が、ベルガモットの果皮から圧搾法により得られる精油、及び/又は、ビターオレンジの花から水蒸気蒸留法により得られる精油を含有する、請求項1に記載の抗糖化剤。
【請求項4】
下記式により求めた糖化阻害率が15%以上である請求項1〜3の何れかの項に記載の抗糖化剤。
糖化阻害率(%)=(1−((反応液1の蛍光強度−反応液2の蛍光強度)−(反応液3の蛍光強度−反応液4の蛍光強度))÷((反応液1’の蛍光強度−反応液2’の蛍光強度)−(反応液3’の蛍光強度−反応液4’の蛍光強度)))×100。
反応液1の蛍光強度は、抗糖化剤1gをジプロピレングリコール300gに溶解した液と、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水639gに溶解した液を混合し、該混合液を60℃で4日間保管した後に、波長360nmの光で励起し、450nmの波長で蛍光を測定した値である。
反応液2の蛍光強度は、上記反応液1の蛍光強度測定において、60℃を5℃に変更して測定した値である。
反応液3の蛍光強度は、上記反応液1の蛍光強度測定において、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水に変更して測定した値である。
反応液4の蛍光強度は、上記反応液2の蛍光強度測定において、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水に変更して測定した値である。
反応液1’、反応液2’、反応液3’、反応液4’の蛍光強度は、それぞれ上記反応液1、反応液2、反応液3、反応液4の蛍光強度測定において、抗糖化剤をジプロピレングリコールに変更して測定した値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベンダー属植物、ミカン属植物から得られる精油を含有する抗糖化剤に関する。本発明は、糖化により生じる種々の組織障害の予防や改善、また、糖化により変質を生じる組成物の安定化に有用である。
【背景技術】
【0002】
糖化反応は、グリケーション反応やメイラード反応とも呼ばれ、酵素の働きによらず、タンパク質や脂質に糖が結合する反応のことである。糖化されたタンパク質は本来の機能を維持できず、糖化反応の結果生じる終末糖化物質(advanced glycation end−products:AGEs)は生体内に蓄積していく。AGEsは加齢と共に蓄積され、これが加齢に伴う種々の機能障害の要因のひとつであると考えられている。例えば、加齢に伴って認められる皮膚の弾力低下は、AGEsによるコラーゲン繊維の弾力性低下が原因のひとつであるとされている(例えば非特許文献1、2参照)。また肌が黄色くくすむ原因のひとつにも、真皮に蓄積されたAGEsが挙げられている(例えば非特許文献3参照)。さらに言えば、糖化およびAGEsの蓄積は、糖尿病血管合併症、動脈硬化等にも関わるとされている(例えば非特許文献4参照)。
【0003】
また、糖化によって生じる多数の着色物質の集合体はメラノイジンと呼ばれ、食品等においてはメラノイジンの蓄積が色のみならず風味にも変化をもたらす。この結果、好ましい香気を付与することもあるが、褐変等の保存時の望ましくない変化ももたらす(例えば非特許文献5参照)。さらに皮膚外用剤等においても同様の反応によって外観や内容物に変化が生じる場合がある。
【0004】
この糖化反応を抑制するために各種検討が行われており、特定植物の抽出物を有効成分とするグリケーション阻害剤等が報告されている(例えば特許文献1、非特許文献6、7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−250445号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cerami A. et al, Glucose and aging, Sci. Am. 256(5): 90−96(1987)
【非特許文献2】Fisher GJ. et al., Nature,379, 335―339(1996)
【非特許文献3】Oshima H. et al., Skin Res. Technol., 15, 496―502(2009)
【非特許文献4】Nagai R. et al., Anti−aging Med., 7, 112―119(2010)
【非特許文献5】食品学−食品成分と機能性−,久保田紀久枝・森光康次郎編,東京化学同人,p.134
【非特許文献6】フレグランスジャーナル, Vol.40, No.4, pp.32―34
【非特許文献7】フレグランスジャーナル,2012年4月15日, Vol.40, No.4, pp.80―82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では糖化の抑制は不十分であり、濃度を高めると安定性が悪くなり、糖化の抑制を高めることは困難であった。そこで、本発明が解決しようとする課題は、高い効果を有する抗糖化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる実情に鑑み、本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ラベンダー属植物から得られる精油、またはミカン属植物から得られる精油に高い抗糖化効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、後述のようにラベンダー属植物、ミカン属植物から得られる水性成分では抗糖化効果が低い一方で、該植物の精油成分が優れた抗糖化効果を発現することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は
コモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)の花から水蒸気蒸留法により得られる精油、
ラバンジン(学名:Lavandula x intermedia)の花から水蒸気蒸留法により得られる精油、
ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)の果皮から圧搾法により得られる精油、
スウィートオレンジ(学名:Citrus sinensis)の果皮から圧搾法により得られる精油、及び
ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)の花から水蒸気蒸留法により得られる精油
から選ばれる1種又は2種以上の精油を含有し、且つ
グリシンにグルコースが結合した終末糖化物質の生成を阻害するために用いられる
抗糖化剤を提供するものである。



【0010】
ラベンダー属植物が、コモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)、ラバンジン(学名:Lavandula x intermedia)から選ばれる1種又は2種以上である前記抗糖化剤を提供するものである。
【0011】
ミカン属植物が、ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)、ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)から選ばれる1種又は2種以上である前記抗糖化剤を提供するものである。
【0012】
下記式により求めた糖化阻害率が15%以上である前記抗糖化剤を提供するものである。
糖化阻害率(%)=(1−((反応液1の蛍光強度−反応液2の蛍光強度)−(反応液3の蛍光強度−反応液4の蛍光強度))÷((反応液1’の蛍光強度−反応液2’の蛍光強度)−(反応液3’の蛍光強度−反応液4’の蛍光強度)))×100。
反応液1の蛍光強度は、抗糖化剤1gをジプロピレングリコール300gに溶解した液と、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水639gに溶解した液を混合し、該混合液を60℃で4日間保管した後に、波長360nmの光で励起し、450nmの波長で蛍光を測定した値である。
反応液2の蛍光強度は、上記反応液1の蛍光強度測定において、60℃を5℃に変更して測定した値である。
反応液3の蛍光強度は、上記反応液1の蛍光強度測定において、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水に変更して測定した値である。
反応液4の蛍光強度は、上記反応液2の蛍光強度測定において、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水に変更して測定した値である。
反応液1’、反応液2’、反応液3’、反応液4’の蛍光強度は、それぞれ上記反応液1、反応液2、反応液3、反応液4の蛍光強度測定において、抗糖化剤をジプロピレングリコールに変更して測定した値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって得られる抗糖化剤は抗糖化効果が高いものであり、AGEsの蓄積に伴い生じる種々の組織障害を予防、または改善する効果を有する。また、得られた抗糖化剤を配合することで、糖化による変質を抑制し、安定な食品や皮膚外用剤等の組成物を提供することが可能である。また、得られた抗糖化剤を配合した組成物は、通常の組成物と比較して使用感や食感が劣ることはない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明はラベンダー属植物から得られる精油、ミカン属植物から得られる精油から選ばれる1種又は2種以上の精油を含有する抗糖化剤である。なお、本発明における「精油」とは特に記載した場合を除き、植物から抽出された成分のうち、水に不溶又は難溶の油性成分を指す。
【0015】
本発明におけるラベンダー属植物は特に限定されず、ウーリー・ラベンダー(学名:Lavandula lanata)、ウィリデス(学名:Lavandula viridis)、コモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)、スパイク・ラベンダー(学名:Lavandula latifolia)、デンタータ・ラベンダー(学名:Lavandula dentata)、フレンチ・ラベンダー(学名:Lavandula stoechas)、ピナータ(学名:Lavandula viridis pinnata)、ムルチフィダ・ラベンダー(学名:Lavandula multifida)、ラバンジン(学名:Lavandula x intermedia)等が挙げられ、この中でもコモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)、ラバンジン(学名:Lavandula x intermedia)が好ましい。
【0016】
本発明におけるラベンダー属植物の精油の採取部位は特に限定されず、花、茎、葉、根、果実、蕾等が挙げられ、この中でも花を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明におけるラベンダー属植物の精油の抽出方法は特に限定されず、水蒸気蒸留法、溶媒抽出法、圧搾法、吸着・吸収法、浸出法、植物を傷付け滲出する液を回収する方法等が挙げられ、水蒸気蒸留法または溶媒抽出法が好ましく、水蒸気蒸留法がより好ましい。また、和光純薬工業社、ロベルテ社やヴェ・マン・フィス社等から市販されている精油を使用しても良い。
【0018】
本発明におけるミカン属植物は特に限定されず、イヨカン(学名Citrus iyo)、ウンシュウミカン(学名:Citrus unshiu)、カボス(学名:Citrus sphaerocarpa)、キシュウミカン(学名:Citrus kinokuni)、キノット(学名:Citrus chinotto)、クレメンタイン(学名:Citrus x clementina)、グレープフルーツ(Citrus x paradisi)、コウジ(学名:Citrus leiocarpa)、サンボウカン(学名:Citrus sulcata)、シークヮーサー(学名:Citrus depressa)、ジャバラ(学名:Citrus jabara)、スウィートオレンジ(学名:Citrus sinensis)、スダチ(学名:Citrus sudachi)、タチバナ(学名:Citrus tachibana)、タンゴール(学名:Citrus reticulata)、ナツミカン(学名:Citrus natsudaidai)、ハッサク(学名:Citrus hassaku)、ハナユズ(学名:Citrus hanayu)、ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)、ヒュウガナツ(学名:Citrus tamurana)、ブンタン(学名:Citrus maxima)、ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)、マンダリン(学名:Citrus reticulata)、ユズ(学名:Citrus junos)、ライム(学名:Citrus aurantifolia)、レモン(学名:Citrus limon)等が挙げられ、この中でも、グレープフルーツ(Citrus x paradisi)、スウィートオレンジ(学名:Citrus sinensis)、ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)、ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)、マンダリン(学名:Citrus reticulata)、ライム(学名:Citrus aurantifolia)、レモン(学名:Citrus limon)が好ましく、ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)、ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)がさらに好ましい。
【0019】
本発明におけるミカン属植物の精油の採取部位は特に限定されず、花、茎、葉、枝、根、果実、果皮、蕾等が挙げられ、この中でも花、果皮、葉、枝を用いるのが好ましい。
【0020】
本発明におけるミカン属植物の精油の抽出方法は特に限定されず、水蒸気蒸留法、溶媒抽出法、圧搾法、吸着・吸収法、浸出法、植物を傷付け滲出する液を回収する方法等が挙げられ、抽出部位が果皮の場合は圧搾法が好ましく、抽出部位が花、葉、枝の場合は水蒸気蒸留法または溶媒抽出法が好ましく、花の場合は水蒸気蒸留法が最も好ましい。また、和光純薬工業社、ロベルテ社やヴェ・マン・フィス社等から市販されている精油を使用しても良い。
【0021】
糖化反応は、グリケーション反応やメイラード反応とも呼ばれ、酵素の働きによらず、アミノ酸、タンパク質、脂質等に糖が結合する反応のことである。糖化されたタンパク質等は本来の機能を維持できず、糖化反応の結果生じる終末糖化物質(advanced glycation end−products:AGEs)は生体内に蓄積していく。AGEsは生体内の機能障害の要因の一つと考えられ、また、化粧料や食品等の組成物では組成物の変色等に起因すると考えられ、糖化反応を阻害する事は非常に有用である。
【0022】
これらAGEsは、蛍光を有するため、蛍光強度を測定する事で糖化反応の阻害作用を測定することができる。グリシンにグルコースが結合したAGEsは波長360nmの光で励起すると、450nmの波長付近の蛍光を発する。
【0023】
本発明において糖化阻害率の測定は以下の方法で行った。各試料(植物から得られた精油又は水性成分)1gをジプロピレングリコール300gに溶解し、溶液Aを得る。次に、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水639gに溶解し、溶液Bを得る。溶液A30.1gと溶液B69.9gを混合して反応液を得る(反応液中における各成分の濃度は、試料0.1%、ジプロピレングリコール30%、グルコース3%、グリシン3%、精製水63.9%となる)。
この反応液を60℃で4日間保管したものを[反応液1]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液2]とする。
次にグルコースとグリシンを含有しない反応液を調整する。具体的には、上記において溶液Bの代わりに精製水を溶液Aと混合したものを調製し、60℃で4日間保管したものを[反応液3]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液4]とする。
【0024】
次に、試料を含まない反応液を調製する。具体的には、ジプロピレングリコール301gを溶液A’とする。次に、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水639gに溶解し、溶液B’を得る。溶液A’30.1gと溶液B’69.9gを混合して反応液を得る。
この反応液を60℃で4日間保管したものを[反応液1’]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液2’]とする。
また、上記において溶液B’の代わりに精製水を溶液A’と混合したものを調製し、60℃で4日間保管したものを[反応液3’]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液4’]とした。
【0025】
各反応液を蛍光測定用24穴プレートに500μLずつ移し、Perkin Elmer社製のEnSpire(登録商標) 2300Multilabel Readerを用いて、波長360nmの光で励起し、450nmの波長で蛍光強度を測定し、以下の式により糖化阻害率を算出する。
【0026】
糖化阻害率(%)=(1−((反応液1の蛍光強度−反応液2の蛍光強度)−(反応液3の蛍光強度−反応液4の蛍光強度))÷((反応液1’の蛍光強度−反応液2’の蛍光強度)−(反応液3’の蛍光強度−反応液4’の蛍光強度)))×100
【0027】
なお、糖化阻害率が15%以上であると効果がより高く、さらに20%以上、30%以上であると効果が極めて高く好ましい。
【0028】
本発明の抗糖化剤は、ラベンダー属植物、ミカン属植物から得られる精油をそのまま用いてもよく、また必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、他の任意成分を加えてもよく、糖化により生じる種々の組織障害の予防や改善をする医薬品や医薬部外品、化粧品等として使用できる。また、本発明の抗糖化剤は、組み合わせる成分の糖化を抑制するため、組成物の安定化にも寄与し、この目的で使用することも有用である。
【0029】
任意成分としては、化粧料、皮膚外用剤、食品、インク、洗剤、衣料用柔軟仕上剤、芳香剤、消臭剤、織物等の製剤に使用される成分が挙げられ、すなわち、水(精製水、温泉水、深層水等)、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等を加えてもよい。
【0030】
本発明の抗糖化剤は、液状、ジェル状、クリーム状、固形状、粉末状、ムース状等の種々の形態で実施することが可能であり、霧状に噴霧可能な容器に収容して霧状に噴霧して用いてもよい。また、本発明品の剤型は、可溶化型、水中油型、油中水型、油性型、水中油中水型、油中水中油型、多層型等特に限定されるものではない。
【0031】
本発明の抗糖化剤の用途に関しては特に制限はなく、化粧料、皮膚外用剤、食品、インク、洗剤、衣料用柔軟仕上剤、芳香剤、消臭剤、織物等種々の用途の組成物として用いることができる。糖化により生じる種々の組織障害の予防や改善をする化粧料又は皮膚外用剤として用いるのが好ましい。
【0032】
食品(動物飼料を含む)の例としては、冷凍食品、粉末食品、シート状食品、瓶詰食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル状食品、タブレット状食品等の形態の他、例えば蛋白質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等が配合された自然流動食、半消化栄養食および成分栄養食、ドリンク剤等の加工形態等、いずれの形態でもよい。
【0033】
化粧料の例としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック等のスキンケア化粧料、ファンデーション、頬紅、口紅、アイカラー、マスカラ、アイライナー、マニキュア等のメーキャップ化粧料、養毛料、ヘアトニック、シャンプー、リンス、ヘアワックス等の頭髪用化粧料、洗顔料、ボディソープ等の洗浄料、等のいずれの形態であってもよい。
【0034】
皮膚外用剤の例としては、特に限定されず、例えば、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、リニメント剤、ハップ剤等のいずれの形態であってもよい。
【0035】
以下、製造例、実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0036】
製造例1
<ラベンダー属植物の花を用いた抽出物(水性成分)の製造>
コモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)の花1kgを水蒸気蒸留装置に入れ、水蒸気蒸留により得られた蒸留液の水性成分を濾過して抽出物15kgを得た。
【0037】
<抗糖化効果の確認試験>
実施例1〜5、比較例1〜4:抗糖化剤
[反応液の調製]
各試料(植物から得られた精油又は水性成分)1gをジプロピレングリコール300gに溶解し、溶液Aを得た。なお、比較例4のみは試料100gをジプロピレングリコール201gに溶解した。次に、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水639gに溶解し、溶液Bを得た。溶液A30.1gと溶液B69.9gを混合して反応液を得た。
この反応液を60℃で4日間保管したものを[反応液1]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液2]とした。
また、溶液Bの代わりに精製水を溶液Aと混合したものを調製し、60℃で4日間保管したものを[反応液3]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液4]とした。
【0038】
次に、試料を含まない反応液を調製した。具体的には、ジプロピレングリコール301gを溶液A’とした。次に、グルコース30gおよびグリシン30gを精製水639gに溶解し、溶液B’を得た。溶液A’30.1gと溶液B’69.9gを混合して反応液を得た。
この反応液を60℃で4日間保管したものを[反応液1’]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液2’]とした。
また、溶液B’の代わりに精製水を溶液A’と混合したものを調製し、60℃で4日間保管したものを[反応液3’]とし、5℃で4日間保管したものを[反応液4’]とした。
【0039】
[糖化阻害率の測定]
各反応液を蛍光測定用24穴プレートに500μLずつ移し、Perkin Elmer社製のEnSpire&#8482; 2300Multilabel Readerを用いて、波長360nmの光で励起し、450nmの波長で蛍光強度を測定し、以下の式により糖化阻害率を算出し、その結果を表1に示した。
[糖化阻害率を求める式]
糖化阻害率(%)=(1−((反応液1の蛍光強度−反応液2の蛍光強度)−(反応液3の蛍光強度−反応液4の蛍光強度))÷((反応液1’の蛍光強度−反応液2’の蛍光強度)−(反応液3’の蛍光強度−反応液4’の蛍光強度)))×100
【0040】
【表1】
【0041】
(※1) LAVENDER 40/42 OIL (ビオランド社製)
コモン・ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)の花から水蒸気蒸留法で抽出した精油。
(※2) LAVANDIN SUPER OIL (ビオランド社製)
ラバンジン(学名:Lavandula x intermedia)の花から水蒸気蒸留法で抽出した精油。
(※3) ベルガモット油 (和光純薬工業社製)
ベルガモット(学名:Citrus x bergamia)の果皮から圧搾法で抽出した精油。
(※4) NEROLI (ORANGER FLEURS) (ロベルテ社製)
ビターオレンジ(学名:Citrus aurantium)の花から水蒸気蒸留法で抽出した精油。
(※5) ORANGE Essential Oil M20225 (ヴェ・マン・フィス社製)
スウィートオレンジ(学名:Citrus sinensis)の果皮から圧搾法で抽出した精油。
(※6) CYPRESS PAYS ORGANIC OIL (ビオランド社製)
ホソイトスギ(学名:Cupressus sempervirens)の葉や枝から水蒸気蒸留法で抽出した精油。
(※7) ROSEMARY OIL (ビオランド社製)
ローズマリー(学名:Rosmarinus officinalis)の葉から水蒸気蒸留法で抽出した精油。
(※8) 製造例1で得られたコモン・ラベンダーの水性成分。
【0042】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5は優れた糖化阻害率を示した。一方、サイプレスやローズマリーから得られた精油を用いた比較例1及び比較例2は、糖化阻害率が極めて低いものであった。また、ラベンダーの水性成分を用いた比較例3、さらに比較例3からラベンダーの水性成分を100倍に増量した比較例4であっても糖化阻害率が低いものであった。
【0043】
実施例6[抗糖化剤]
(成分) (%)
1.ベルガモットオイル(注1) 5.0
2.エタノール 50.0
3.ジプロピレングリコール 残 量
(注1)ベルガモット油 (和光純薬工業社製)
【0044】
(製造方法)
1〜3を均一に混合溶解し、抗糖化剤を得た。
【0045】
実施例7[抗糖化剤]
(成分) (%)
1.ラベンダーオイル(注2) 5.0
2.ホホバオイル 30.0
3.トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 残 量
(注2)LAVENDER 40/42 OIL (BIOLANDES社製)
【0046】
(製造方法)
1〜3を均一に混合溶解し、抗糖化剤を得た。
【0047】
処方例1[化粧水]
(成分) (%)
1.グリセリン 3.0
2.1,3−ブチレングリコール 3.0
3.ジプロピレングリコール 3.0
4.ポリオキシエチレングリコール400 3.0
5.マルチトール 1.0
6.キサンタンガム 0.1
7.乳酸 0.05
8.乳酸ナトリウム 0.1
9.エデト酸2ナトリウム 0.05
10.加水分解米エキス 0.05
11.モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタン 1.0
12.イソステアリン酸ポリオキシエチレン(50モル)硬化ヒマシ油 1.0
13.エタノール 5.0
14.コモン・ラベンダーから得た精油(※1) 1.0
15.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
16.香料 0.05
17.精製水 残 量
【0048】
(製造方法)
A:成分1〜10及び17を混合溶解する。
B:成分11〜16を混合溶解する。
C:AにBを添加混合し、化粧水を得た。
【0049】
処方例1で得られた化粧水は、安定で使用感にも優れたものであった。
【0050】
処方例2[乳液]
(成分) (%)
1.N−ステアロイル−L−グルタミン酸 0.5
2.水素添加大豆リン脂質 0.5
3.グリセリルモノステアレート 1.0
4.1,3−ブチレングリコール 5.0
5.セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
6.ベヘニルアルコール 0.5
7.スクワラン 2.0
8.流動パラフィン 3.0
9.ジメチルポリシロキサン(100CS) 0.5
10.カルボキシビニルポリマー 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
12.水酸化ナトリウム 0.05
13.ソルビトール 1.0
14.精製水 残 量
15.エタノール 5.0
16.ラバンジンから得た精油(※2) 0.5
17.香料 0.1
【0051】
(製造方法)
A:成分1〜9を70℃で均一に混合する。
B:成分10〜14を70℃で均一に混合する
C:BにAを加えて乳化し、室温まで冷却する。
D:Cに成分15〜17を加えて均一に混合し、乳液を得た。
【0052】
処方例2で得た乳液は、安定で使用感にも優れるものであった。
【0053】
処方例3[乳飲料]
(成分) (%)
1.ショ糖 5.0
2.オレンジ果汁 10.0
3.食用油脂 5.0
4.ベルガモットから得た精油(※3) 0.1
5.香料 1.0
6.クエン酸 0.2
7.乳化剤 0.5
8.牛乳 40.0
9.水 残 量
【0054】
(製造方法)
A:成分1、2、6〜9を均一に混合する。
B:成分3〜5を均一に混合する。
C:AにBを加えて乳飲料を得た。
【0055】
処方例3で得た乳飲料は、安定性に優れるものであった。