【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの多値PSK変調ディジタル方式では、限られた周波数帯域の有効利用を図るため、無線チャネルの間隔を等間隔にするとともに、できるだけ狭く配置している。無線チャネルの間隔が狭いと、無線チャネル間での干渉が発生する。従来から各種の干渉による妨害が問題となり検討されており、その一つとして送信機間の相互変調歪がある。送信機の相互変調歪は、非特許文献1に記されているように、送信機の最終段に設けられた電力増幅装置に、他の電波がアンテナ側から侵入し、希望波との間で相互変調を起こすことにより生じる。
【0003】
図7Aは、従来の電力増幅装置7の構成を示す図である。
図7Bは、相互変調歪が発生するメカニズムを説明するための図である。
図7Aに示すように、電力増幅装置7においては、同相電力分配合成器20,30が用いられていた。すなわち、入力端子11から入力された周波数f
Dの希望波信号は、同相電力分配合成器20によって、それぞれ電力が等しく、同一の位相を有する2つの信号に分配される。2つの信号は、同一の増幅特性を有し、互いに並列に配置された2個の増幅器60a,60bにおいて増幅される。増幅された信号は、同相電力分配合成器30において合成され、出力端子12から出力される。
【0004】
ここで、
図7Bに示すように、電力増幅装置7が搭載された送信機Aに、他の送信機Bが送信した周波数f
Iの妨害波がアンテナを通して侵入した場合、(mf
D+nf
I)(m,n=0,±1,±2,・・・)なる周波数の波が発生し、希望波の周波数f
D以外の周波数成分は不要波として送信機Aから送出される。このうち、特に重要な3次の相互変調歪(2f
D−f
I)と(2f
I−f
D)について考えると、送信機Aと送信機Bとの間の結合減衰量がLdB増したとき、(2f
D−f
I)形の相互変調歪はLdB、(2f
I−f
D)形の相互変調歪は2LdB減衰する。したがって、送信機Aと送信機Bとの間の相互変調歪のうち、(2f
D−f
I)形の相互変調歪を抑制する対策の重要度が高い。
【0005】
相互変調歪を軽減するために、増幅器とアンテナとの間に他の送信機からの電波を入りこませないようにするためのアイソレータを挿入する方法が知られている。このアイソレータにおいては、磁石の直流磁界下における酸化物フェライトの旋光性が利用されている。アイソレータを用いる構成は簡易で効果的ではあるが、増幅回路との一体化が困難であること、損失が比較的大きくなること、磁気シールドが必要なため大型になること、低コスト化が困難であること等の問題があった。
【0006】
非特許文献2には、アイソレータを使用せずに(2f
D−f
I)形の3次相互変調歪等を改善した、
図8に示す従来の電力増幅装置8が開示されている。電力増幅装置8は、同一の増幅特性を有し、互いに並列に配置された2個の増幅器60a,60bを備えており、増幅器60a,60bの入力側及び出力側は、それぞれハイブリッド50a,70aで結合している。ハイブリッド50a,70aは、4つの端子を有しており、1つの端子から入力された信号により、お互いに90°だけ位相がシフトした2信号を出力する。
【0007】
ハイブリッド50aの一方の端子52aとハイブリッド70aの一方の端子72aには、それぞれ無反射終端器55a,75aが接続されている。入力端子11から入力される周波数f
Dの希望波信号は、ハイブリッド50aによって電力分配され、それぞれ増幅器60a,60bで増幅された後、ハイブリッド70aによって電力合成され、出力端子12へと出力される。
【0008】
ここで、出力端子12から侵入した妨害波と入力端子11からの希望波との間で起こる相互変調歪について検討する。以下の検討においては、2個の増幅器60a,60bを、次式に従う電流源とみなす。
I(ω
Dt,ω
It)=ΣI
m, n exp{j(mω
D+nω
I)t} (1)
ただし、Σにおいて、m,n=−∞から∞まで、ω
D =2πf
D ,ω
I=2πf
I ,m,n=0,±1,±2,・・・,I
m, n=I
-m, -n*(*は複素共役)とする。
【0009】
図8の回路において、希望波は、増幅器60a,60bに加わる前に、入力側のハイブリッド50aを通過しているので、増幅器60a,60bに入力される分配波は互いにπ/2の位相差を持つ。また、妨害波も、増幅器60a,60bの出力段に到達する前に出力側のハイブリッド70aを通過しているので、増幅器60a,60bに到達する分配波は互いにπ/2の位相差を持つ。この点に着目して、
図8中に定義されている電流I
1’,I
2’、つまり増幅器60a,60bとハイブリッド70aとの間をそれぞれ流れる電流を次式で表す。
I
1’=I(ω
Dt,ω
It−π/2),I
2’=I(ω
Dt−π/2,ω
It) (2)
【0010】
式(1)と(2)より、電流I
1’,I
2’を求めると次式のようになる。
I
1’=ΣI
m, nexp[j{(mω
D+nω
I)t−nπ/2}] (3)
I
2’=ΣI
m, nexp[j{(mω
D+nω
I)t−mπ/2}] (4)
式(3)、式(4)のΣにおいて、m,n=−∞から∞である。
【0011】
次に、ハイブリッド70aから端子72a及び端子71aへと流れる電流I
1,I
2をそれぞれ
図8に示すように定義すると、出力側のハイブリッド70aによる位相差π/2を考慮して、式(3)と(4)よりI
1,I
2が次のように求まる。
【0012】
1)(mω
D+nω
I)>0に対して
I
1 =ΣI
m, n[exp{j((mω
D+nω
I)t−nπ/2)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−mπ/2−π/2)}] (5)
I
2 =ΣI
m, n[exp{j((mω
D+nω
I)t−nπ/2−π/2)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−mπ/2)}] (6)
【0013】
2)(mω
D +nω
I)<0に対して
I
1 =ΣI
m, n[exp{j((mω
D+nω
I)t−nπ/2)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−mπ/2+π/2)}] (7)
I
2 =ΣI
m, n[exp{j((mω
D+nω
I)t−nπ/2+π/2)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−mπ/2)}] (8)
【0014】
式(5)、(6)、(7)、(8)の各Σにおいて、m,n=−∞から∞である。
式(5)、(6)、(7)、(8)より、任意のm,n(=0,±1,±2,・・・)に対する相互変調歪の成分が表される。これらの成分のうち、送信機帯域内に含まれる低次の歪として特に重要となる3次の相互変調歪について、電流I
1 ,I
2 を求めると次のようになる。
【0015】
A)(2f
D−f
I)形の3次相互変調歪
I
1 =2[I
2,-1exp{j((2ω
D−ω
I)t+π/2)}
+I
-2,1exp{−j((2ω
D−ω
I)t+π/2)}](同相で合成される) (9)
I
2 =0(逆相で打ち消し合う) (10)
【0016】
B)(2f
I−f
D)形の3次相互変調歪
I
1=0(逆相で打ち消し合う) (11)
I
2=2[I
-1,2exp{j((2ω
I−ω
D)t+π/2)}
+I
1,-2exp{−j((2ω
I−ω
D)t+π/2)}](同相で合成される)(12)
【0017】
すなわち、3次相互変調歪のうち、(2f
D−f
I)形の相互変調歪は端子72aの無反射終端器75aに吸収され、(2f
I−f
D)形の相互変調歪だけが出力端子12へ出力されることになる。このように、
図8に示した構成により、送信機間の相互変調歪に関する対策として重要度が高い(2f
D−f
I)形の3次相互変調歪を改善することができる。
【0018】
しかしながら、電力増幅装置8においては、送信機が近接して結合減衰量が20dB以下となった場合には、(2f
D−f
I)形の3次相互変調歪を抑圧しても、端子71aから出力される(2f
I−f
D)形の3次相互変調歪、及び(3f
D−2f
I)形の5次相互変調歪の影響が無視できなくなるという問題点があった。
【0019】
図9は、アイソレータを使用せずに、(2f
I−f
D)形の3次相互変調歪等を改善した従来の電力増幅装置9の構成を示す図である。電力増幅装置9は、同一の増幅特性を有し、互いに並列に配置された2個の増幅器60a,60bを有する。増幅器60a,60bの入力側はπ/4電力分配器40aで結合され、増幅器60a,60bの出力側はπ/4電力分配合成器80aで結合される。入力端子11から入力される周波数f
Dの希望波信号は、π/4電力分配器40aによって電力分配され、増幅器60a,60bによって増幅された後、π/4電力分配合成器80aで電力合成され、出力端子12へと出力される。
【0020】
ここで、出力端子12から侵入した妨害波と入力端子11からの希望波との間で起こる相互変調歪について検討する。
図8に示した電力増幅装置8と同様に、2個の増幅器60a,60bを次式に従う電流源とみなす。
I(ω
Dt,ω
It)=ΣI
m, n exp{j(mω
D+nω
I)t} (13)
ただし、Σにおいて、m,n=−∞から∞まで、ω
D=2πf
D,ω
I=2πf
I,m,n=0,±1,±2,・・・,I
m, n =I
-m, -n *(*は複素共役)とする。
【0021】
図9に示す電力増幅装置9において、希望波は、増幅器60a,60bに入力される前に電力分配器40aを通過して分配されており、分配された波は互いにπ/4の位相差を持つ。また、妨害波は、増幅器60a,60bに到達する前に出力側の電力分配合成器80aを通過して分配されており、分配された波は互いにπ/4の位相差を持つ。この点に着目して、増幅器60a,60bと電力分配合成器80aとの間の各電流I
1’,I
2’、すなわち
図9に示されている電流I
1’,I
2’を次式で表す。
【0022】
I
1’=I(ω
Dt,ω
It−π/4),I
2’=I(ω
Dt−π/4,ω
It) (14)
式(13)及び(14)より、電流I
1’,I
2’を求めると、次式のようになる。
I
1’=ΣI
m, n exp[j{(mω
D+nω
I)t−nπ/4}] (15)
I
2’=ΣI
m, n exp[j{(mω
D+nω
I)t−mπ/4}] (16)
式(15),(16)の各Σにおいて、m,n=−∞から∞である。
【0023】
次に、電力分配合成器80aの出力端子12へ流れる電流I
1 を
図9中に示すように定義すると、出力側の電力分配合成器80aによる位相差π/4を考慮することにより、式(15)及び(16)からI
1 が次のように求まる。
【0024】
1)(mω
D+nω
I)>0に対して
I
1 =ΣI
m, n [exp{j((mω
D+nω
I)t−nπ/4−π/4)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−mπ/4)}] (17)
2)(mω
D+nω
I)<0に対して
I
1 =ΣI
m, n [exp{j((mω
D+nω
I)t−nπ/4+π/4)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−mπ/4)}] (18)
【0025】
式(17),(18)の各Σにおいて、m,n=−∞から∞である。式(17),(18)より、任意のm,n(=0,±1,±2,…)に対する相互変調歪の成分が表される。これらのうち、送信機帯域内に含まれる低次の歪として特に重要となる3次の相互変調歪について、電流I
1 を求めると次のようになる。
【0026】
A)(2f
D−f
I)形の3次相互変調歪
I
1 =[I
2,-1exp{j((2ω
D−ω
I)t)}
+I
2,-1exp{j((2ω
D−ω
I)t−π/2)}
+I
2,-1exp{−j((2ω
D−ω
I)t)}
+I
2,-1exp{−j((2ω
D−ω
I)t−π/2)}] (19)
B)(2f
I−f
D)形の3次相互変調歪
I
1 =0(逆相で打ち消し合う) (20)
【0027】
したがって、電力増幅装置9を用いることにより、送信機が近接して結合減衰量が小さくなった場合に問題となる(2f
I−f
D)形の3次相互変調歪を改善することができる。しかし、3次相互変調歪のうち、(2f
D−f
I)形の相互変調は出力端子12へ出力されるという問題が残る。
【0028】
図10は、アイソレータを使用せずに全ての相互変調歪を改善した従来の電力増幅装置10の構成を示す図である(特許文献1を参照)。
【0029】
図10に示す電力増幅装置10は、
図9に示した電力増幅装置9における増幅器60a,60bの代わりに、
図8に示した電力増幅装置8と同等の増幅装置90a,90bが用いられている。増幅装置90aは、
図8に示した電力増幅装置8と同一である。増幅装置90bは2個の増幅器60c,60dと、ハイブリッド50b,70bと無反射終端器55b,75bとより構成され、これらは増幅装置90aと同様に接続されている。
【0030】
入力端子11から入力される周波数f
D の希望波信号は、π/4電力分配器40a及びハイブリッド50a,50bで4分配され、増幅器60a,60b,60c,60dでそれぞれ増幅された後、ハイブリッド70a,70b及びπ/4電力分配合成器80aで合成されて出力端子12へと出力される。ここで、出力端子12から侵入した妨害波と入力端子11からの希望波との間で起こる相互変調歪について考えると、ハイブリッド50a,70aと増幅器60a,60bとの組み合わせ、及びハイブリッド50b,70bと増幅器60c,60dとの組み合わせにより、それぞれ(2f
D−f
I)形の相互変調歪が打ち消し合う。また、π/4電力分配器40a、π/4電力分配合成器80a、増幅装置90a,90bの組み合わせにより、(2f
I−f
D)形の相互変調歪を打ち消し合うため、全体で全ての相互変調歪を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電力増幅装置1の構成を示す図である。
電力増幅装置1は、電力分配器100aと、増幅器60a,60b,60cと、電力分配合成器110aとを備える。
【0042】
電力分配器100aは、入力端子11を介して、周波数f
Dの希望波信号を受信する。電力分配器100aは、互いに異なる位相{θ
1,(θ
1+pπ/3),(θ
1+2pπ/3)}(pは、0と3の整数倍を除く整数)を有する第1信号、第2信号及び第3信号を生成することにより、電力分配をする。具体的には、本実施形態に係る電力分配器100aは、第1信号、第1信号に対して−2π/3だけ位相が異なる第2信号、第1信号に対して−4π/3だけ位相が異なる第3信号を生成する。
【0043】
第1信号は増幅器60aに入力され、第2信号は増幅器60bに入力され、第3信号は増幅器60cに入力される。増幅器60a,60b,60cは、増幅特性が同一の単位増幅器であり、電力分配器100aと電力分配合成器110aとの間で互いに並列に配されている。増幅器60a,60b,60cは、それぞれ第1増幅信号、第2増幅信号、第3増幅信号を出力する。
【0044】
増幅器60a,60b,60cから出力された第1増幅信号、第2増幅信号、第3増幅信号は、電力分配合成器110aに入力される。電力分配合成器110aは、第1増幅信号、第2増幅信号及び第3増幅信号の位相を変化させて、それぞれ{(θ
2+2pπ/3),(θ
2+pπ/3),θ
2}(pは、0と3の整数倍を除く整数)の位相を有する第1移相信号、第2移相信号及び第3移相信号を生成する。また、電力分配合成器110aは、第1移相信号、第2移相信号及び第3移相信号を合成して、出力端子12へと出力する。
【0045】
すなわち、電力分配合成器110aは、電力分配器100aにおいて第1信号、第2信号及び第3信号の間で生じた位相差を打ち消すように、第1増幅信号、第2増幅信号及び第3増幅信号の位相を変化させた後に、電力合成をする。具体的には、本実施形態に係る電力分配合成器110aは、第1増幅信号の位相を第3増幅信号と比較して−4π/3だけ変化させた信号、第2増幅信号の位相を第3増幅信号を比較して−2π/3だけ変化させた信号、及び第3増幅信号を合成して、出力端子12へと出力する。
【0046】
ここで、出力端子12から侵入した妨害波と入力端子11からの希望波との間で起こる相互変調歪について検討する。
図8に示した電力増幅装置8と同様に、2個の増幅器60a,60b,60cを次式に従う電流源とみなす。
I(ω
Dt,ω
It)=ΣI
m, nexp{j(mω
D+nω
I)t} (21)
ただし、Σにおいて、m,n=−∞から∞まで、ω
D=2πf
D,ω
I=2πf
I,m,n=0,±1,±2,・・・,I
m, n =I
-m, -n*(*は複素共役)とする。
【0047】
電力増幅装置1において、入力端子11から入力される希望波は、電力分配器100aを通過して3つの信号波に分配された後に、増幅器60a,60b,60cに入力される。分配された3つの第1信号、第2信号、第3信号の位相は、それぞれ{θ
1,(θ
1+pπ/3),(θ
1+2pπ/3)}である。本実施形態においてはp=−2であり、第1信号の位相に対する第2信号の位相は−2π/3であり、第1信号の位相に対する第3信号の位相は−4π/3である。
【0048】
また、増幅器60a,60b,60cから出力された第1増幅信号、第2増幅信号及び第3増幅信号の位相は、電力分配合成器110aにおいて変化する。第3移相信号の位相をθ
2とすると、電力分配合成器110aからは、それぞれ{(θ
2+2pπ/3),(θ
2+pπ/3),θ
2}の位相の第1移相信号、第2移相信号及び第3移相信号が出力される。本実施形態においてはp=−2であり、第3移相信号の位相に対する第1移相信号の位相は−4π/3であり、第3移相信号の位相に対する第2移相信号の位相は−2π/3である。
【0049】
電力分配合成器110aが上記の特性を有しているので、出力端子12から入力される妨害波は、電力分配合成器110aを介して増幅器60a,60b,60cの出力側に到達する際に位相が変化する。具体的には、出力端子12から入力される妨害波は、それぞれ位相が相対的に{0、−2π/3、−4π/3}だけ変化した3つの信号に分配される。
【0050】
この点に着目すると、増幅器60a,60b,60cと電力分配合成器110aとの間の各電流I
1’,I
2’,I
3’(
図1を参照)は、次式で表すことができる。
I
1’=I(ω
Dt,ω
It−4π/3),
I
2’=I(ω
Dt−2π/3,ω
It−2π/3),
I
3’=I(ω
Dt−4π/3,ω
It) (22)
【0051】
式(21)と式(22)より、電流I
1’,I
2’,I
3’を求めると次式のようになる。
I
1’=ΣI
m, n exp[j{(mω
D+nω
I)t−4nπ/3}] (23)
I
2’=ΣI
m, n exp[j{(mω
D+nω
I)t−2(m+n)π/3}](24)
I
3’=ΣI
m, n exp[j{(mω
D+nω
I)t−4mπ/3}] (25)
式(23),(24),(25)の各Σにおいて、m,n=−∞から∞である。
【0052】
次に、電力分配合成器110aの出力端子12へ流れる電流I
1 をそれぞれ
図1中に示すように定義すると、出力側の電力分配合成器110aによる位相差4π/3、2π/3を考慮して式(23),(24),(25)よりI
1 が次のように求まる。
【0053】
1)(mω
D+nω
I)>0に対して
I
1 =ΣI
m, n [exp{j((mω
D+nω
I)t−4(n+1)π/3)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−2(m+n+1)π/3)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−4mπ/3)}] (26)
2)(mω
D+nω
I)<0に対して
I
1 =ΣI
m, n [exp{j((mω
D+nω
I)t−4(n−1)π/3)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−2(m+n−1)π/3)}
+exp{j((mω
D+nω
I)t−4mπ/3)}] (27)
【0054】
式(26),(27)の各Σにおいて、m,n=−∞から∞である。式(26),(27)より、任意のm,n(=0,±1,±2,…)に対する相互変調歪の成分が表される。これらのうち、送信機帯域内に含まれる低次の歪として特に重要となる3次の相互変調歪について電流I
1 を求めると次のようになる。
【0055】
A)(2f
D−f
I)形の3次相互変調歪
I
1 =[I
2,-1exp{j((2ω
D−ω
I)t)}
+I
2,-1exp{j((2ω
D−ω
I)t−4π/3)}
+I
2,-1exp{j((2ω
D−ω
I)t−2π/3)}
+I
-2,1exp{−j((2ω
D−ω
I)t)}
+I
-2,1exp{−j((2ω
D−ω
I)t−4π/3)}
+I
-2,1exp{−j((2ω
D−ω
I)t−2π/3)}]
=0 (3相で打ち消し合う) (28)
B)(2f
I−f
D)形の3次相互変調歪
I
1 =[I
-1,2exp{j((2ω
I−ω
D)t)}
+I
-1,2exp{j((2ω
I−ω
D)t−4π/3)}
+I
-1,2exp{j((2ω
I−ω
D)t−2π/3)}
+I
1,-2exp{−j((2ω
I−ω
D)t)}
+I
1,-2exp{−j((2ω
I−ω
D)t−4π/3)}
+I
1,-2exp{−j((2ω
I−ω
D)t−2π/3)}]
=0 (3相で打ち消し合う) (29)
【0056】
以上のとおり、全ての3次相互変調歪は打ち消し合って、出力端子12へ出力されない。すなわち、電力増幅装置1においては、電力分配器100aにおいて分配される3つの信号の位相を{θ
1,(θ
1+pπ/3),(θ
1+2pπ/3)}(pは、0を除く整数)とし、電力分配合成器110aにおいて合成される3つの信号の位相を{(θ
2+2pπ/3),(θ
2+pπ/3),θ
2}とすることにより、従来の電力増幅装置10よりも増幅器の数を減らして小型化を実現しつつ、3次相互変調歪を改善することができる。
【0057】
<第2の実施形態>
図2は、第2の実施形態に係る電力増幅装置2の構成を示す図である。電力増幅装置2は、第1の実施形態に係る電力増幅装置1における電力分配器100aの代わりに、同相電力分配器と伝送線路による遅延線路あるいは周波数依存性のない移相回路とを用いた電力分配器120aを有する。また、電力増幅装置2は、電力分配合成器110aの代わりに、伝送線路による遅延線路あるいは周波数依存性のない移相回路と同相電力分配合成器を用いた電力分配合成器130aを有する。
【0058】
電力分配器120aにおける同相電力分配器は、入力信号を同相で3つの分配信号に分配する。遅延回路又は移相回路は、同相電力分配器が分配した3つの分配信号の位相を、互いに異なる位相{0,pπ/3,2pπ/3}だけ変化させることにより、第1信号、第2信号及び第3信号を生成する。
図2においては、p=−2の場合を示している。
【0059】
また、電力分配合成器130aにおける遅延回路又は移相回路は、増幅器60a、増幅器60b及び増幅器60cにおいて生成された第1増幅信号、第2増幅信号及び第3増幅信号を、互いに異なる位相{0,pπ/3,2pπ/3}だけ変化させる。
図2においてはp=−2の場合を示している。同相電力分配合成器は、遅延回路又は移相回路において位相が変化した3つの信号を1つの信号に合成して出力する。
【0060】
同相電力分配器及び同相電力分配合成器として、例えば、E. J. Wilkinson, “An N-way hybrid power divider,” IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. MTT-8, pp.116-118, Jan. 1960において開示されているウィルキンソン型の構成を採用することにより、小型で広帯域な同相電力分配器及び同相電力分配合成器を実現できるため、小型な電力増幅装置を容易に実現することができる。
【0061】
<第3の実施形態>
図3は、第3の実施形態に係る電力増幅装置3の構成を示す図である。電力増幅装置3は、第1の実施形態に係る電力増幅装置1における電力分配器100aの代わりに、電力分配器140aを有する。電力分配器140aは、互いに異なる位相の3つの分配信号に分配する電力分配回路と、3つの分配信号を互いに異なる位相だけ変化させることにより第1信号、第2信号及び第3信号を生成する、伝送線路による遅延線路あるいは周波数依存性のない移相回路とを有する。電力分配回路及び移相回路により、{0,pπ/3,2pπ/3}だけ位相が変化する。
図3においては、電力分配回路として、位相差が90°及び180°になる3電力分配器を示している。
【0062】
また、電力増幅装置3は、電力分配合成器110aの代わりに、電力分配合成器150aを有する。電力分配合成器150aは、増幅器60a、増幅器60b及び増幅器60cにおいて生成された第1増幅信号、第2増幅信号及び第3増幅信号を、互いに異なる位相だけ変化させる、伝送線路による遅延線路あるいは周波数依存性のない移相回路を有する。また、電力分配合成器150aは、当該移相回路により位相が変化した後の3つの信号の位相を、互いに異なる所定の位相だけ変化させつつ合成する電力分配合成回路を有する。移相回路及び電力分配合成回路により、{0,pπ/3,2pπ/3}だけ位相が変化する。
【0063】
図4Aは、位相差が概ね90°と180°になる3電力分配器140aの構成を示す図である。
図4に示すように、3電力分配器140aは、電力分配比が1:2のハイブリッド121aと電力分配比が1:1のハイブリッド123aとを組み合わせることにより構成される。ハイブリッド121aは、入力される信号の位相を相対的にqπ/2(qは、0を除く整数)だけ変化させた信号を生成する。また、ハイブリッド123aは、ハイブリッド121aから出力された信号の位相を相対的にqπ/2(qは、0を除く整数)だけ変化させた信号を生成する。本実施形態におけるq=1である。ハイブリッド123aが生成した2つの信号は、遅延回路に入力され、ハイブリッド121aから出力端子125に出力された信号の位相と比較して、それぞれ−2π/3、−4π/3だけ遅延される。
【0064】
図4Bは、3電力分配器140aの作成例を示す写真である。このように、3電力分配器140aは、簡易な構成で実現することができるので、小型な電力増幅装置3を容易に実現することができる。
【0065】
<シミュレーション結果>
図5Aは、周波数依存性のない理想的な無損失の同相3電力分配器と理想的な無損失の同相3電力分配合成器とをそれぞれ入力側、出力側に用いた従来の電力増幅装置において生じる相互変調歪のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、希望波信号の周波数がf
D=575MHz、妨害信号の周波数がf
I=570MHzの場合を示している。分配された信号間に位相差がない場合、
図5Aに示すように、高いレベルの相互変調歪が生じていることがわかる。
【0066】
図5Bは、互いに2π/3、4π/3ずつ位相が異なる信号を出力する周波数依存性のない理想的な無損失の3電力分配器、及び互いに4π/3、2π/3ずつ位相が異なる信号を出力する周波数依存性のない理想的な無損失の3電力分配合成器を、それぞれ入力側、出力側に用いた電力増幅装置(電力増幅装置1、電力増幅装置2に相当)において生じる相互変調歪のシミュレーション結果を示す。
【0067】
本シミュレーションでは、希望波信号の周波数がf
D=575MHz、妨害信号の周波数がf
I=570MHzの場合を示している。
図5bにおいては、(4f
I−3f
D)、(2f
I−f
D)、f
I、(2f
D−f
I)、(3f
D−2f
I)、(5f
D−4f
I)の相互変調歪が抑圧されていることがわかる。特に、送信機帯域内に含まれる低次の歪として特に重要となる3次の相互変調歪である(2f
I−f
D)の成分と(2f
D−f
I)の成分は完全に打ち消されている。5次の相互変調歪(3f
I−2f
D)の成分と7次の相互変調歪(4f
D−3f
I)の成分は残留しているが、これらの相互変調歪の周波数は送信機帯域外の周波数であるか、あるいは帯域内であっても希望波信号の周波数f
Dから離れているので、通信品質には影響を及ぼさない。したがって、上記の実施形態に係る電力増幅装置によって、十分な効果を得られることが確認できた。
【0068】
図5Cは、
図4に示した3電力分配器140aを用いた電力増幅装置3における相互変調歪のシミュレーション結果を示す。本シミュレーションでは、希望波信号の周波数がf
D =575MHz、妨害信号の周波数がf
I=570MHzの場合を示している。
【0069】
図5Cにおいては、
図5Bに比べると高いレベルの相互変調歪が残存している。しかし、
図5Cと
図5Aとを比較すると、
図5Cにおいては、全ての3次相互変調歪が抑圧されていることがわかる。このように、
図4に示した3電力分配器140aを用いた簡易的な構成によっても、相互変調歪を抑圧できることが確認できた。
【0070】
<変形例>
図6は、電力増幅装置1の変形例としての電力増幅装置6の構成を示す図である。電力増幅装置6は、電力増幅装置1における電力分配器100a、電力分配合成器110aの代わりに、電力分配器160a、電力分配合成器170aを備える。電力分配器160a、は、入力端子11から入力された入力信号に基づいて、第1信号と、第1信号の位相に対して−π/3だけ位相が異なる第2信号と、第1信号の位相に対して−2π/3だけ位相が異なる第3信号とを生成する。
【0071】
電力分配合成器170aは、増幅器60aから出力された第1増幅信号から第3移相信号と比較して−2π/3だけ変化させて第1移相信号を生成し、増幅器60bから出力された第2増幅信号から第3移相信号と比較して−π/3だけ変化させて第2移相信号を生成し、増幅器60cから出力された第3増幅信号から第3移相信号を生成し、第1移相信号、第2移相信号及び第3移相信号を合成する。電力増幅装置6を用いた場合においても、第1の実施形態における式(28)、式(29)で計算した結果と同様に、全ての3次相互変調歪は3相で打ち消し合うことにより0になり、
図5Bと同じシミュレーション結果を得ることができる。
【0072】
以上述べた実施例は全てこの発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、この発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。したがってこの発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によって規定されるものである。さらに、移相回路についても、伝送線路を用いた遅延線路だけではなく、インダクタやキャパシタ、抵抗などの集中定数回路素子を用いて移相特性を実現した回路でもよい。