(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物。
水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以下である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載の樹脂組成物において、ハイドロタルサイトやゼオライト系化合物は樹脂の安定剤として配合される。これらは、鉛を含有しない非鉛安定剤であって、成型の際の高温時に発生する塩酸をトラップして樹脂を安定化する。
【0007】
しかし、樹脂組成物にハイドロタルサイトやゼオライト系化合物を配合すると、高線速での押出による成型時に発泡が生じやすくなり、又外観も荒れやすくなるとの問題がある。ハイドロタルサイトやゼオライト系化合物は、高線速で押出すためにスクリュー回転数を上げた時に生じる剪断発熱により高温になった際に、結晶水や吸着水が脱離するためと考えられる。
【0008】
本発明は、樹脂チューブの形成材料として用いられる樹脂組成物であって、高い耐油性、耐熱性を有し、難燃性や機械的強度に優れる成型体、例えば樹脂チューブを形成でき、又高線速での押出しによる成型時においても発泡が無く外観荒れ等の問題も小さい難燃性柔軟樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0009】
本発明は、さらに、前記難燃性柔軟樹脂組成物を用いて形成される樹脂チューブ及び前記難燃性柔軟樹脂組成物を用いて形成される絶縁被覆を有する絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第2の態様は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物をチューブ状に成型し、電離放射線を照射して前記樹脂成分を架橋してなる樹脂チューブである。
【0012】
本発明の第3の態様は、導体線とそれを被覆する絶縁被覆を有し、前記絶縁被覆が、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物からなり、電離放射線照射により前記樹脂成分が架橋されている絶縁電線である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の態様の難燃性柔軟樹脂組成物を用いることにより、高い耐油性、耐熱性、難燃性、機械的強度に優れる樹脂チューブ等の成型体を形成でき、又成型時の押出しを高線速で行っても発泡が無く外観荒れ等の問題も生じにくい。
【0014】
本発明の第2の態様の難燃性柔軟樹脂組成物の樹脂チューブは、高い耐油性、耐熱性、難燃性、機械的強度に優れ、発泡や外観荒れ等がない良好な外観を有する。本発明の第3の態様の難燃性柔軟樹脂組成物の絶縁電線は、高い耐油性、耐熱性、難燃性、機械的強度に優れ、発泡や外観荒れ等がない良好な外観の絶縁被覆を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の範囲はこの形態や実施例に限定されるものではなく本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0016】
本発明の第1の態様は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物である。
【0017】
本発明者は、鋭意検討の結果、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の所定範囲の組成からなる混合物に、水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子(以下、「ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウム」と言う)を所定の範囲の組成比で配合することにより、前記の課題を達成する難燃性柔軟樹脂組成物が得られることを見出し第1の態様の発明を完成した。
【0018】
第1の態様の発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂からなる樹脂の混合物(樹脂成分)をその主成分とする。塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂からなる樹脂の混合物の代わりに、ポリ塩化ビニルを用いた場合は、自動車、航空機等に使用される電線・ハーネスやそれらの結束部の防水、絶縁保護のために使用される熱収縮チューブに望まれる優れた耐油性は得られない。
【0019】
第1の態様の難燃性柔軟樹脂組成物を構成する塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の種類は特に限定されない。ただし、塩素化ポリエチレンは、その塩素含量が高いほど難燃性、耐油性が向上する反面、熱老化特性は低下するため、塩素化ポリエチレンとしては、塩素含量が適切な範囲にあるものが好ましい。具体的には、塩素含量10〜50重量%が好ましく、特に20〜40重量%が好ましい。塩素化ポリエチレンは1種類を単独で使用しても良いし、又は複数のものを全体として上記の塩素含量になる様に組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等を挙げることができる。中でも、密度0.95g/cm
3以上の高密度ポリエチレン樹脂が、耐油性をより向上しやすいので好ましい。そこで、第1の態様のより好ましい態様として、ポリオレフィン樹脂が密度0.95g/cm
3以上の高密度ポリエチレン樹脂である難燃性柔軟樹脂組成物が提供される。
【0021】
塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の組成は、塩素化ポリエチレン/ポリオレフィン樹脂(質量比)が98/2〜80/20の範囲である。塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の合計質量中の塩素化ポリエチレンの質量比が98%を超える(ポリオレフィン樹脂の質量比が2%未満の)場合は、樹脂チューブや絶縁被覆の成型をする際に押出し速度(線速)を上げると外観荒れ等が生じやすくなる。一方、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の合計質量中の塩素化ポリエチレンの質量比が80%未満の(ポリオレフィン樹脂の質量比が20%を超える)場合は、難燃性が低下し自動車や航空機等に使用される電線・ハーネスに用いられる熱収縮チューブに望まれる充分な難燃性は得られない。
【0022】
塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の合計質量中の塩素化ポリエチレンの質量比が90%以上の場合は、熱収縮チューブ等に加工したときの柔軟性がより向上するので好ましい。そこで、第1の態様のより好ましい態様として、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の割合が、98〜90質量部:2〜10質量部である難燃性柔軟樹脂組成物が提供される。
【0023】
第1の態様の発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、さらにケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムを配合することを特徴とし、その配合量は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂からなる樹脂の混合物(樹脂成分)の100質量部に対し5〜20質量部の範囲である。ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合は、優れた耐熱性、耐油性を得るため、又成型を高線速の押出しで行っても発泡せず、かつ、良好な外観が得られる樹脂組成物とするために必要である。
【0024】
ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂からなる樹脂成分の100質量部に対し5質量部未満の場合は、ハイドロタルサイトやゼオライト系化合物を配合しない場合であっても、成型時や加工時、特に押出し速度が大きい場合、発泡が生じやすくなり、樹脂チューブや絶縁被覆の優れた外観は得られにくくなる。又、耐熱性、耐油性が低下する傾向がある。一方、ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が、20質量部を超える場合は、難燃性柔軟樹脂組成物から得られる成型品の引張強度や引張伸びが低下する傾向があり、充分な機械的強度が得られない場合がある。
【0025】
ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂からなる樹脂成分の100質量部に対し10質量部以下の場合は、熱収縮チューブ等に加工したときの柔軟性がより向上するので好ましい。そこで、第1の態様のより好ましい態様として、水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物が提供される。
【0026】
ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムとは、水酸化カルシウムの粒子の表面にカルシウムケイ酸塩を有してなるものである。このケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムは、カルシウム水酸化物粒子と非晶質ケイ酸とを非摩砕条件下に水性媒体中で加熱し、カルシウム水酸化物粒子表面にカルシウム水酸化物と非晶質ケイ酸との反応によりカルシウムケイ酸塩を生成させた後、生成物を乾燥することにより製造することができる。この場合、アルカリ性の水性媒体中にケイ酸が微量に溶解し、そのケイ酸が粒子表面のカルシウム水酸化物と反応してカルシウムのケイ酸塩が形成される。
【0027】
ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムとしては、粒子全体でのSi/Caのモル比が、0.01〜0.90の範囲にあるものが好ましい。このモル比が0.01未満の場合は、カルシウム水酸化物粒子表面をカルシウムケイ酸塩で十分に覆うことができず、カルシウム水酸化物の塩基性によって塩素化ポリエチレンからの脱塩酸を促進し、押出時の発泡、耐熱老化特性の低下を生じる場合がある。一方、0.90を超える場合は、カルシウム水酸化物の比率が少なくなり、塩素化ポリエチレンから生じた塩酸をトラップする性能が低下し、耐熱老化特性を悪化させる場合がある。Si/Caのモル比は、より好ましくは、0.03〜0.70、特に好ましくは、0.05〜0.40の範囲である。
【0028】
第1の態様の発明の難燃性柔軟樹脂組成物には、前記の必須成分以外にも、必要に応じて、酸化防止剤、滑材、ゼオライト系化合物、ハイドロタルサイト等の他の安定剤等を、本発明の趣旨を損ねない範囲で含むことができる。塩素化ポリエチレンやポリオレフィン樹脂以外の樹脂も、本発明の趣旨を損ねない範囲で含むことができる。
【0029】
本発明の第2の態様は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物をチューブ状に成型し、電離放射線を照射して前記樹脂成分を架橋してなる樹脂チューブである。
【0030】
第2の態様の樹脂チューブは、第1の態様の難燃性柔軟樹脂組成物をチューブ状に成型する工程、及び前記工程で得られた成型体(チューブ)に電離放射線を照射して前記樹脂成分を架橋する工程を有する方法により製造される。樹脂組成物の成型は、熱収縮チューブの成型に用いられている従来の方法と同じ方法、すなわち樹脂組成物を溶融して環状に押出す押出し成型により行うことができる。第1の態様の難燃性柔軟樹脂組成物を用いれば、この押出し成型の押出し速度が大きい場合であっても発泡や外観荒れ等は生じにくい。
【0031】
電離放射線の照射も熱収縮チューブの成型に用いられている従来の方法と同じ方法により行うことができる。すなわち、電離放射線としては、γ線、X線、紫外線等の電磁波、α線、電子線等の粒子線を挙げることができるが、制御の容易さ、線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度などの観点から電子線が好ましい。電離放射線の照射量は、前記樹脂組成物中の塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂が架橋し、所望の機械的強度が得られ、かつ電離放射線の照射による樹脂の分解が生じないように選択される。
【0032】
第2の態様の樹脂チューブが熱収縮チューブの場合は、電離放射線の照射の後、チューブの径方向への拡径を行い熱収縮性を付与する。拡径は、樹脂チューブ内に高圧空気を注入する等の方法により行うことができ、従来の熱収縮チューブの製造に用いられている方法を適用できる。
【0033】
本発明の第3の態様は、導体線とそれを被覆する絶縁被覆を有し、前記絶縁被覆が、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂とを98〜80質量部:2〜20質量部の割合で有する樹脂成分及び水酸化カルシウムの表面にカルシウムケイ酸塩を有する粒子を含有し、前記粒子の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、20質量部以下である難燃性柔軟樹脂組成物からなり、電離放射線照射により前記樹脂成分が架橋されている絶縁電線である。
【0034】
第3の態様の絶縁電線は、銅線等の導体線に、第2の態様の樹脂チューブであって熱収縮性が付与されたものを被せ、加熱して熱収縮する方法により製造することができる、導体線の表面に、第1の態様の難燃性柔軟樹脂組成物をチューブ状に押出成型して表面を被覆し、その後電離放射線照射をして樹脂を架橋する方法によっても製造することができる。第1の態様の難燃性柔軟樹脂組成物を用いるので、この押出し成型の押出し速度を上げた場合であっても発泡や外観荒れ等は生じにくい。
【実施例】
【0035】
1.難燃性柔軟樹脂組成物の製造
下記の原料を表1〜3に示す配合処方(単位:質量部)で混合し、実験例1〜13の樹脂組成物を得た。
【0036】
[原料]
・塩素化ポリエチレン: エラスレン252B(昭和電工社製)
・ポリエチレンA: ハイゼックス5305E(プライムポリマー社製、密度0.951g/cm
3)
・ポリエチレンB: DGDN3364(NUC社製、密度0.945g/cm
3)
・ポリ塩化ビニル: PVC(重合度1300)(信越化学社製)
・可塑剤: TOTM(DIC社製)
・ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウム: MIZUKALIZER RAD−JTC(水澤化学社製)
・焼成ゼオライト: ミズカライザー5AP(水澤化学社製)
・合成ハイドロタルサイト: DHT−4A(協和化学社製)
・難燃剤: 三酸化アンチモン
・炭酸カルシウム: KS1000(カルファイン社製)
・酸化防止剤: イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)
・滑剤: ステアリン酸(日油社製)
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
2.樹脂チューブの作製:押出し加工性評価
前記の原料を表1〜3に示す配合処方(単位:質量部)で混合して得られた樹脂組成物のそれぞれを、押出機(スクリュー径60mmφ、L/D=24)を使用し、表4〜6に示すスクリュー回転数/押出線速で、クロスヘッドの設定温度180℃でチューブ状に押出し樹脂チューブを得た。得られた樹脂チューブの内径及び外径、押出の際の樹脂温度を表4〜6に示す。又、得られた樹脂チューブの発泡の有無及び外観を目視にて評価した。評価結果を、以下に示す基準で表4〜6に示す。
【0041】
(発泡の有無)
良:チューブ断面を観察して発泡が見られない場合
不良:チューブ断面を観察して発泡が見られる場合
(外観)
良:外観が平滑な場合
不良:外観が平滑でなく、メルトフラクチュア、凹凸が見られる場合
【0042】
3.樹脂チューブの評価
前記の押出し加工性評価をした樹脂チューブの中の、スクリュー回転数40rpm、押出線速60m/分で得られた樹脂チューブについて、冷却後、電子線を200kGy照射して樹脂の架橋を行った。電子線照射後の樹脂について、下記の方法で、機械的強度(引張強度、引張伸び)、柔軟性(100%モジュラス)、耐熱性、耐油性、難燃性(UL94燃焼試験)及び加工性を評価した。評価結果を表4〜6に示す。
【0043】
[評価方法]
(引張強度、引張伸び)
JIS K 7161−1994(ISO 5271:1993)に準じて測定した。なお、自動車用の電線・ハーネスの防水、絶縁保護のために用いられる熱収縮チューブとしては、引張強度は>10.4MPa、引張伸び>225%の規格充足が望まれる。
【0044】
(柔軟性)
前記の引張強度を測定する際に、100%延伸した時の応力から100%モジュラスを求め、柔軟性を評価した。
【0045】
(耐熱性)
サンプルを121℃で7日間保存した後の引張強度、引張伸びを測定した。保存中の引張強度、引張伸びの低下の程度により耐熱性を評価した。自動車用の電線・ハーネスの防水、絶縁保護のために用いられる熱収縮チューブとしては、121℃で7日間保存後の引張強度が>8.3MPa、引張伸び>175%の規格充足が望まれる。
【0046】
(耐油性)
米軍規格MIL−H−5606に準拠した航空機用の油圧作動油に、室温で1日浸漬した後の引張強度、引張伸びを測定した。浸漬中の引張強度、引張伸びの低下の程度により耐熱性を評価した。自動車用の電線・ハーネスの防水、絶縁保護のために用いられる熱収縮チューブとしては、室温で1日浸漬後の引張強度が>6.9MPa、引張伸び>175%の規格充足が望まれる。
【0047】
(難燃性)
UL94垂直燃焼試験により評価した。UL94規格V−0以上が望まれる。
【0048】
(加工性)
サンプルを600MPa、200℃で10分プレスした後の発泡状態を目視にて評価した。評価結果を以下の基準に基づき表4〜6に示す。
良:発泡が観測されない。
不良:発泡が目視により観測される。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
表4〜6に示す結果より、次のことが分かる。
【0053】
塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の組成比(質量比)が98/2〜80/20の範囲にあり、かつケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が5〜20質量部にある実験例1〜5では、機械的強度(引張強度、引張伸び)、耐熱性、耐油性、難燃性に優れる樹脂チューブが得られている。又、樹脂チューブの押出し成型を高線速で行っても発泡や外観荒れは観測されず、熱プレスによる加工時にも発泡は観測されず、本発明の課題を達成する難燃性柔軟樹脂組成物が得られている。
【0054】
ただし、実験例4のように、ポリオレフィン樹脂の組成比が大きくなると柔軟性が低下する傾向が見られる。この結果は、より優れた柔軟性を得るために、ポリオレフィン樹脂の組成比は、樹脂成分100質量部に対して10質量部以下が好ましいことを示している。
【0055】
又、実験例3のように、ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が多くなると柔軟性が低下する傾向が見られる。この結果は、より優れた柔軟性を得るために、ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量は、樹脂成分100質量部に対して10質量部以下が好ましいことを示している。
【0056】
また、実験例5のように密度が0.95g/cm
3未満のポリエチレン樹脂を用いた場合には耐油性は規格を満たすものの、規格に対する裕度が実験例1〜4と比較して小さい。この結果は、より優れた耐油性を得るために、ポリオレフィン樹脂として、密度が0.95g/cm
3以上の高密度ポリエチレン樹脂が好ましいことを示している。
【0057】
塩素化ポリエチレンの組成比が本発明の範囲より大きい実験例12では、高線速での押出し成型を行うと外観荒れが生じ又耐油性も低い。一方、ポリオレフィン樹脂の組成比が本発明の範囲より大きい実験例13では、難燃性が低く、自動車用の電線・ハーネスの防水、絶縁保護のために用いられる熱収縮チューブに求められる規格を満たさない。この結果から、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の組成比(質量比)は98/2〜80/20の範囲とするべきことが示されている。
【0058】
塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の混合物(樹脂成分)の代わりに可塑剤を配合したポリ塩化ビニルを用いている実験例11では耐油性が低く、自動車用の電線・ハーネスの防水、絶縁保護のために用いられる熱収縮チューブに求められる規格を満たさない。
【0059】
ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が本発明の範囲より小さい実験例6では、高線速での押出し成型を行う場合や熱プレスの際に発泡が生じ又耐熱性も低い傾向がある。一方、ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量が本発明の範囲より大きい実験例7では、機械的強度が低くなる傾向がある。この結果から、ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの配合量は、樹脂成分100質量部に対し5〜20質量部の範囲とするべきことが示されている。
【0060】
ケイ酸カルシウム被覆水酸化カルシウムの代わりに(ケイ酸カルシウムをその表面に有しない)水酸化カルシウムや、ゼオライト系化合物(焼成ゼオライト)やハイドロタルサイトを用いた実験例8、9及び10では、高線速での押出し成型を行う場合や熱プレスの際に発泡が生じ又耐油性も低い。