特許第6359890号(P6359890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000002
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000003
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000004
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000005
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000006
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000007
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000008
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000009
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000010
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000011
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000012
  • 特許6359890-車両用制御装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359890
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20180709BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
   B60T8/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-130695(P2014-130695)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2016-10267(P2016-10267A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】内藤 政行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友和
(72)【発明者】
【氏名】馬場 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】新野 洋章
(72)【発明者】
【氏名】大石 正悦
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−89543(JP,A)
【文献】 特開2013−123308(JP,A)
【文献】 特開2007−32424(JP,A)
【文献】 特開2001−47893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/00−15/42
B60T 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作が行われていないときに車輪に向けてクリープトルクを出力する駆動モータと、前記車輪に制動トルクを付与する制動装置と、を備える車両に適用され、
前記制動装置が前記車輪に付与する制動トルクと前記駆動モータが出力するクリープトルクとを合成したトルクの目標値である目標トルクを、ブレーキ操作量が多いほど小さくするトルク演算部と、
前記駆動モータに出力させるクリープトルクを、ブレーキ操作が行われているときにはブレーキ操作が行われていないときよりも減少させるモータ制御部と、
ブレーキ操作が行われているときに、前記制動装置が前記車輪に付与する制動トルクを、前記目標トルクとクリープトルクとの差分に応じた目標制動トルクに近づける制動制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、前記駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作量が増大されるときには、クリープトルクの減少勾配を前記目標トルクの減少勾配よりも小さくする
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御部は、前記駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作量が増大されるときには、車輪速度が小さいほど前記クリープトルクの減少勾配を小さくする
請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記モータ制御部は、前記駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作が行われているときには、前記クリープトルクの減少勾配が最小になるまで同クリープトルクの減少勾配を徐々に小さくする
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記モータ制御部は、ブレーキ操作に伴って前記制動装置が前記車輪に制動トルクを付与することにより車両が停止しているときには、前記駆動モータの駆動を停止させるようにしており、
前記モータ制御部は、車両の停止中にブレーキ操作量が減少されている場合、前記制動装置が前記車輪に制動トルクを付与しているときに前記駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させる
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
アクセル操作が行われていないときに車輪に向けてクリープトルクを出力する駆動モータと、前記車輪に制動トルクを付与する制動装置と、を備える車両に適用され、
前記制動装置が前記車輪に付与する制動トルクと前記駆動モータが出力するクリープトルクとを合成したトルクの目標値である目標トルクを、ブレーキ操作量が多いほど小さくするトルク演算部と、
車両の停止時にアクセル操作が行われていないときには、前記駆動モータの駆動を停止させるモータ制御部と、
ブレーキ操作が行われているときに、前記制動装置が前記車輪に付与する制動トルクを、前記目標トルクとクリープトルクとの差分に応じた目標制動トルクに近づける制動制御部と、を備え、
前記モータ制御部は、車両の停止中にブレーキ操作量が減少されている場合、前記制動装置が前記車輪に制動トルクを付与しているときに前記駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させる
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項6】
前記モータ制御部は、車両の停止中にブレーキ操作量が減少されている場合、同ブレーキ操作量が操作量判定値未満になったときに前記駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させるようになっており、
ブレーキ操作量の減少速度が小さいほど前記操作量判定値を小さくする判定値決定部を備える
請求項4又は請求項5に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル操作が行われていないときでも駆動モータからクリープトルクを出力させることにより低速走行が可能な車両に適用される車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動モータを動力源として備える車両として、ハイブリッド車両や電気自動車などが知られている。こうした車両の中には、アクセル操作が行われていないときでも駆動モータからクリープトルクを出力させることにより低速走行が可能な車両がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
そして、特許文献1に記載される車両では、駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作が行われると、ブレーキ操作量が増大されるに連れてクリープトルクを減少させるようにしている。これにより、ブレーキ操作が行われても、クリープトルクが、ブレーキ操作開始直前の値である所定値で保持される場合と比較して、駆動モータでの消費電力を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−285108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のように車両の運転者によるブレーキ操作に起因してクリープトルクを減少させる場合には、駆動モータからの出力トルクを駆動輪に伝達するトルク伝達系で振動が発生することがある。
【0006】
ここで、図12に示すトルク伝達系の模式図を参照して、クリープトルクの減少に伴う振動発生の要因の一例について説明する。図12に示すトルク伝達系は駆動モータ側となるギアGmと駆動輪側となるギアGtとを備え、これら各ギアGm,Gtが歯合している。
【0007】
駆動モータからのクリープトルクによって駆動輪を回転させる場合、図12(a)に示すように、ギアGmが所定方向Xに回転する。すると、駆動モータ側のギアGmを構成する歯において所定方向Xにおける前側に位置する歯面Gm1が、駆動輪側のギアGtを構成する歯において所定方向Xにおける後側に位置する歯面Gt2に当接し、クリープトルクがギアGmを通じてギアGtに伝達される。このようにクリープトルクがトルク伝達系を介して駆動輪に伝達されることにより、同駆動輪が回転して車両が走行する。なお、このように駆動モータが駆動輪を駆動するトルク伝達系の状態を「駆動状態」ということもある。
【0008】
この状態で駆動モータから出力されるクリープトルクが徐々に減少されると、駆動モータからギアGmに伝達されるクリープトルクと駆動輪からギアGtに伝達されるトルクとが釣り合うようになる。すると、ギアGmの歯面Gm1がギアGtの歯面Gt2から離れ、駆動モータからのクリープトルクが駆動輪に伝達されなくなる。
【0009】
そして、クリープトルクがさらに減少されると、駆動輪からギアGtに伝達されるトルクが、駆動モータからギアGmに伝達されるクリープトルクを上回る。すると、図12(b)に示すように、駆動モータ側のギアGmを構成する歯において所定方向Xにおける後側に位置する歯面Gm2に、駆動輪側のギアGtを構成する歯において所定方向Xにおける前側に位置する歯面Gt1が当接する。そして、この当接によって、トルク伝達系で振動が発生する。なお、このように駆動輪に駆動モータが駆動されるトルク伝達系の状態を「被駆動状態」ということもある。
【0010】
一方、こうしたトルク伝達系のバックラッシュに起因する振動発生を抑制する方法としては、駆動モータがクリープトルクを出力している状況下でブレーキ操作が行われても、クリープトルクを上記所定値で保持し、ブレーキ操作量の増大に合わせて制動装置が駆動輪に付与する制動トルクを増大させる方法がある。この場合、トルク伝達系の状態が駆動状態で維持されて被駆動状態になりにくくなる分、同トルク伝達系ではバックラッシュに起因する振動が発生しにくい。しかしながら、この解決方法では、ブレーキ操作が行われてもクリープトルクが減少されない分、駆動モータでの電力消費量の増大を招くこととなる。
【0011】
本発明の目的は、車両の電力消費量の低減を図りつつも、駆動モータからの出力トルクを車輪に伝達するトルク伝達系のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両用制御装置は、アクセル操作が行われていないときに車輪に向けてクリープトルクを出力する駆動モータと、車輪に制動トルクを付与する制動装置と、を備える車両に適用される。同車両用制御装置は、制動装置が車輪に付与する制動トルクと駆動モータが出力するクリープトルクとを合成したトルクの目標値である目標トルクを、ブレーキ操作量が多いほど小さくするトルク演算部と、駆動モータに出力させるクリープトルクを、ブレーキ操作が行われているときにはブレーキ操作が行われていないときよりも減少させるモータ制御部と、ブレーキ操作が行われているときに、制動装置が車輪に付与する制動トルクを、目標トルクとクリープトルクとの差分に応じた目標制動トルクに近づける制動制御部と、を備える。そして、モータ制御部は、駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作量が増大されるときには、クリープトルクの減少勾配を目標トルクの減少勾配よりも小さくする。
【0013】
上記構成によれば、駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下で車両の運転者がブレーキ操作量を増大させると、クリープトルクは、目標トルクよりも緩やかに減少される。このとき、目標トルクとクリープトルクとの差分に応じた目標制動トルクが大きくなり、制動装置が車輪に付与する制動トルクが増大される。このように駆動モータと制動装置とを協調させることにより、駆動モータからの出力トルクを車輪に伝達するトルク伝達系の状態が、駆動モータが車輪を駆動する駆動状態から駆動モータが車輪に駆動される被駆動状態に緩やかに移行される。その結果、トルク伝達系の状態が駆動状態から被駆動状態へ移行する際における同トルク伝達系のバックラッシュに起因する振動が低減される。
【0014】
また、上記構成では、クリープトルクはブレーキ操作に応じて減少されるため、クリープトルクが、ブレーキ操作開始直前の値で固定される場合と比較して車両の電力消費量が低減される。したがって、車両の電力消費量の低減を図りつつも、トルク伝達系のバックラッシュに起因する振動を低減させることができるようになる。
【0015】
なお、車輪速度が大きい場合には、車輪速度が小さい場合に比較して、路面からの入力などの外乱によって車両が振動しやすい。言い換えると、車輪速度が小さいときほど、上記のようなトルク伝達系のバックラッシュに起因する振動を、車両の乗員が不快に感じやすい。そこで、上記車両用制御装置において、モータ制御部は、駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作量が増大されるときには、車輪速度が小さいほどクリープトルクの減少勾配を小さくすることが好ましい。この構成によれば、トルク伝達系の状態が駆動状態から被駆動状態に移行したときに同トルク伝達系で発生する振動の低減効果が、車輪速度が小さいときほど大きくなる。したがって、トルク伝達系のバックラッシュに起因する振動の発生によって、車両の乗員に不快感を与えにくくすることができるようになる。
【0016】
また、上記車両用制御装置において、モータ制御部は、駆動モータからクリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作が行われているときには、クリープトルクの減少勾配が最小になるまで同減少勾配を徐々に小さくすることが好ましい。この構成によれば、トルク伝達系の状態が駆動状態から被駆動状態に移行する際、クリープトルクの減少勾配が小さくなる分、被駆動状態に移行したときにトルク伝達系で発生する振動をより小さくすることができるようになる。
【0017】
また、上記車両用制御装置において、モータ制御部は、車両の停止中にブレーキ操作量が減少されている場合、制動装置が車輪に制動トルクを付与しているときに駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、駆動モータからのクリープトルクの出力開始によってトルク伝達系のバックラッシュに起因する振動が発生しても、この振動発生時には車輪に制動トルクが未だ付与されている。そのため、同トルク伝達系では振動が発生しにくい。したがって、車両を発進させる場合であっても、トルク伝達系のバックラッシュに起因する振動を低減させることができるようになる。
【0019】
また、上記課題を解決する車両用制御装置は、アクセル操作が行われていないときに車輪に向けてクリープトルクを出力する駆動モータと、車輪に制動トルクを付与する制動装置と、を備える車両に適用される。同車両用制御装置は、制動装置が車輪に付与する制動トルクと駆動モータが出力するクリープトルクとを合成したトルクの目標値である目標トルクを、ブレーキ操作量が多いほど小さくするトルク演算部と、車両の停止時にアクセル操作が行われていないときには、駆動モータの駆動を停止させるモータ制御部と、ブレーキ操作が行われているときに、制動装置が車輪に付与する制動トルクを、目標トルクとクリープトルクとの差分に応じた目標制動トルクに近づける制動制御部と、を備える。そして、モータ制御部は、車両の停止中にブレーキ操作量が減少されている場合、制動装置が車輪に制動トルクを付与しているときに駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させる。
【0020】
上記構成によれば、車両の停止中において運転者がブレーキ操作を行っており、且つアクセル操作が行われていないときには、駆動モータの駆動が停止されている。そのため、こうしたときでも駆動モータからクリープトルクを出力させ続ける場合と比較して、車両の電力消費量を低減させることができる。
【0021】
ここで、こうした車両にあっては、ブレーキ操作量が減少されているときに、駆動モータからのクリープトルクの発生を開始させることとなる。こうしたクリープトルクの発生時に車輪に制動トルクが既に付与されていない場合、上記トルク伝達系では、そのバックラッシュに起因する振動が発生するおそれがある。この点、上記構成によれば、ブレーキ操作量が減少されている場合に駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させても、車輪には制動トルクが未だ付与されている。そのため、トルク伝達系では、そのバックラッシュに起因する振動が発生しにくい。したがって、車両を発進させる場合であっても、車両の電力消費量の低減を図りつつも、トルク伝達系のバックラッシュに起因する振動を低減させることができるようになる。
【0022】
例えば、モータ制御部は、車両の停止中にブレーキ操作量が減少されている場合、同ブレーキ操作量が操作量判定値未満になったときに駆動モータからのクリープトルクの出力を開始させるようにしてもよい。これにより、未だ制動トルクが車輪に付与されているときに駆動モータからのクリープトルクの出力の開始を実現させることができる。
【0023】
ところで、車両の運転者が車両を速やかに発進させたいときには、ブレーキ操作量の減少速度が大きくなりやすい。そして、このようにブレーキ操作量の減少速度が大きいほど、上記目標トルクが早期に大きくなり、同目標トルクが、車両を発進させるために必要なトルクを早期に超えることとなる。そこで、上記車両用制御装置は、ブレーキ操作量の減少速度が小さいほど上記操作量判定値を小さくする判定値決定部を備えることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、ブレーキ操作量の減少速度が大きい場合には、減少速度が小さい場合よりも操作量判定値が大きくされるため、駆動モータからのクリープトルクの出力開始のタイミングが早められる。これにより、トルク伝達系のバックラッシュに起因する振動を低下させつつも、車両の速やかな発進に貢献することができるようになる。一方、ブレーキ操作量の減少速度が小さい場合には、減少速度が大きい場合よりも操作量判定値が小さくされるため、駆動モータからのクリープトルクの出力開始のタイミングを遅らせることができる。これにより、クリープトルクの出力が開始された時点から車両が発進する時点までの期間を短くすることができる分、車両の電力消費量を低減させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】車両用制御装置の一実施形態である制御装置を備える車両の一例を示すブロック図。
図2】ブレーキ操作量に応じ、目標トルク、目標クリープトルク及び目標制動トルクが推移する様子を示す比較例のタイミングチャート。
図3】クリープトルクと変化勾配判定値との関係を示すマップ。
図4】クリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作が行われているときに実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図5】目標クリープトルクを決定する際に実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図6】クリープトルクが出力されている状況下でブレーキ操作が行われ、車両が停止する際のタイムチャートであって、(a)は車輪速度の推移を示し、(b)はブレーキ操作量の推移を示し、(c)は変化勾配判定値の推移を示し、(d)は目標トルク、目標クリープトルク及び目標制動トルクの推移を示す。
図7】車両の停止中にブレーキ操作量が減少されるに際し、目標トルク、目標クリープトルク及び目標制動トルクがブレーキ操作量の減少に応じて推移する様子を示すタイミングチャート。
図8】車両の停止中にブレーキ操作が行われているときに実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図9】車両の停止中にブレーキ操作量が減少され、車両が発進する際のタイムチャートであって、(a)は車輪速度の推移を示し、(b)はブレーキ操作量の推移を示し、(c)は目標トルク、目標クリープトルク及び目標制動トルクの推移を示す。
図10】車輪速度と速度補正係数との関係の一例を示すマップ。
図11】ブレーキ操作速度と操作量判定値との関係の一例を示すマップ。
図12】トルク伝達系の一部を示す模式図であって、(a)は駆動モータ側のギアが駆動輪側のギアを駆動している駆動状態を示し、(b)は駆動モータ側のギアが駆動輪側のギアに駆動されている被駆動状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、車両用制御装置を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、車両用制御装置の一例である制御装置10を備える車両が示されている。図1に示すように、車両には、各車輪(左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL、右後輪RR)に対する制動トルクを調整可能な制動装置20と、運転者によるアクセル操作部材40の操作量に基づいた駆動トルクを出力する駆動モータ41とが設けられている。すなわち、当該車両は、動力源として駆動モータ41を備える電気自動車である。この駆動モータ41の出力軸には無段式の減速機42が接続されており、この減速機42には駆動モータ41から出力された駆動トルクが入力される。そして、減速機42から出力された駆動トルクは、ディファレンシャルギヤ43を介して駆動輪である前輪FL,FRに伝達される。すなわち、本実施形態の制御装置10を備える車両において、駆動モータ41からの駆動トルクを前輪FL,FRに伝達するトルク伝達系45は、減速機42及びディファレンシャルギヤ43を含んで構成されている。また、本明細書では、運転者がアクセル操作部材40を操作することを、「アクセル操作」というものとする。
【0027】
制動装置20は、ブレーキ操作部材21が駆動連結されている液圧発生装置22と、車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられているブレーキ機構50a,50b,50c,50dのホイールシリンダ内の液圧であるホイールシリンダ圧(以下、「WC圧」ともいう。)を調整するブレーキアクチュエータ23とを有している。また、制動装置20には、ブレーキ操作部材21の操作量であるブレーキ操作量(以下、「ブレーキ操作量BP」ともいう。)を検出するブレーキ操作量検出センサSE1が設けられている。なお、本明細書では、運転者がブレーキ操作部材21を操作することを、「ブレーキ操作」というものとする。
【0028】
運転者によってブレーキ操作が行われている場合、制動装置20は、ブレーキ操作量BPに応じたブレーキ液を車輪FL,FR,RL,RRに個別対応するブレーキ機構50a〜50dのホイールシリンダ内に供給する。そして、ブレーキ機構50a〜50dは、WC圧に応じた制動トルクを車輪FL,FR,RL,RRに付与するようになっている。また、制動装置20は、運転者がブレーキ操作を行っているときであっても、WC圧を車輪FL,FR,RL,RR毎に調整することができる。すなわち、制動装置20は、各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動トルクを個別に調整することができる。
【0029】
次に、制御装置10について詳しく説明する。
図1に示すように、制御装置10には、ブレーキ操作量検出センサSE1に加え、アクセル開度センサSE2及び車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6が電気的に接続されている。アクセル開度センサSE2は、運転者によるアクセル操作部材40の操作量に相当するアクセル開度を検出する。また、車輪速度センサSE3〜SE6は、個別対応する車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられており、対応する車輪の回転速度と相関する車輪速度を検出する。そして、制御装置10は、各種のセンサSE1〜SE6によって検出された情報に基づいて制動装置20及び駆動モータ41を制御する。
【0030】
すなわち、制御装置10は、アクセル開度センサSE2によって検出されたアクセル開度やブレーキ操作量検出センサSE1によって検出されたブレーキ操作量BPに基づいて、車両の運転者が要求するトルクとして目標トルクTtを演算する。そして、制御装置10は、演算した目標トルクTtに基づいて、制動装置20及び駆動モータ41を制御する。
【0031】
例えば、制御装置10は、運転者がアクセル操作を行う場合、アクセル開度センサSE2によって検出されたアクセル開度が大きいほど目標トルクTtを大きくし、駆動モータ41から出力させる駆動トルクを目標トルクに近づけるように駆動モータ41を制御する。すなわち、アクセル操作が行われる一方でブレーキ操作が行われていない場合、目標トルクTtは、目標駆動トルクと言い換えることができる。
【0032】
一方、制御装置10は、運転者がブレーキ操作を行う場合、ブレーキ操作量検出センサSE1によって検出されたブレーキ操作量BPに基づいて目標制動トルクTBtを演算する。そして、制御装置10は、制動装置20が車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動トルク(以下、「制動トルクTB」ともいう。)を目標制動トルクTBtに近づけるように制動装置20を制御する。
【0033】
ここで、目標制動トルクTBtと目標トルクTtとの関係について説明する。本実施形態の制御装置10を備える車両にあっては、運転者がアクセル操作を行っていないときであっても、駆動モータ41から駆動トルクが出力される。こうしたアクセル非操作時の駆動トルクを「クリープトルクTC」というものとする。そのため、当該車両は、アクセル操作が行われていないときであっても駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCによって低速走行が可能となっている。
【0034】
そこで、本実施形態の制御装置10にあっては、ブレーキ操作が行われている場合、目標トルクTtを、制動装置20が車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動トルクTBと駆動モータ41が出力するクリープトルクTCとを合成したトルクの目標値として演算する。具体的には、制御装置10は、ブレーキ操作が行われている場合、ブレーキ操作量BPが多いほど目標トルクTtを小さくする。そして、制御装置10は、演算した目標トルクTtとクリープトルクTCとの差分を目標制動トルクTBtとする。すなわち、制御装置10は、駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCと制動装置20によって車輪FL,FR,RL,RRに付与される制動トルクTBとを合成したトルクが目標トルクTtとなるように、駆動モータ41と制動装置20とを協調制御する。
【0035】
ところで、動力源として駆動モータ41を備える車両にあっては、運転者がブレーキ操作を行っている場合、クリープトルクTCを制動トルクTBよりも優先して減少させることがある。図2には、こうした車両におけるクリープトルクの目標値である目標クリープトルクTCt、目標制動トルクTBt、及び目標トルクTtの推移を示す比較例のタイミングチャートが図示されている。
【0036】
図2に示すように、アクセル操作が行われておらず駆動モータ41からクリープトルクが出力されている状況下で、ブレーキ操作量BPが第1の操作量BP1未満の場合には、目標制動トルクTBtが「0(零)」とされる。そのため、目標クリープトルクTCtが目標トルクTtと等しくなる。そして、ブレーキ操作量BPが第1の操作量BP1を超えると、ブレーキ操作量BPが増大されるに連れて、目標トルクTtが小さくされる。
【0037】
なお、ブレーキ操作量BPが第1の操作量BP1よりも多く、且つ第2の操作量BP2未満である場合、すなわち目標トルクTtが正の値である場合、目標制動トルクTBtは「0(零)」で保持されている。そのため、こうした期間では、目標トルクTtとともに目標クリープトルクTCtが減少されることとなり、クリープトルクTCが徐々に減少される。そして、ブレーキ操作量BPが第2の操作量BP2に達すると、目標トルクTt及び目標クリープトルクTCtが「0(零)」とされる。つまり、ブレーキ操作量BPが第2の操作量BP2に達した時点で、クリープトルクTCが「0(零)」とされる。
【0038】
その後にあっては、目標クリープトルクTCtは「0(零)」で保持される一方で、ブレーキ操作量BPの増大に伴う目標トルクTtの減少は継続される。すると、ブレーキ操作量BPが増大されるに連れて、目標制動トルクTBtが徐々に大きくなる。その結果、制動装置20が車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動トルクTBが徐々に増大される。
【0039】
ここで、このように制動トルクTBの増大よりもクリープトルクTCの減少を優先させる場合、上記トルク伝達系45では、バックラッシュに起因する振動が発生することがある。これは、駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCを徐々に減少させると、トルク伝達系45の状態が、図12(a)に示すように駆動モータ側のギアGmが駆動輪側のギアGtを駆動する駆動状態から、図12(b)に示すように駆動モータ側のギアGmが駆動輪側のギアGtに駆動される被駆動状態に移行する。そして、トルク伝達系45の状態が被駆動状態になったときに、ギアGtの歯面Gt1がギアGmの歯面Gm2に当接することでトルク伝達系45から衝撃や振動が発生するためである。また、こうした振動が車両振動として車両の乗員に伝わると、同乗員に不快感を与えるおそれがある。
【0040】
さらに、駆動モータ41の駆動時の振動を車室に伝達しないように同駆動モータ41を揺動可能にマウントしている場合には、上記衝撃によって駆動モータ41が前後に揺動し、それによって車両が前後に揺れ動くような挙動(ピッチング挙動)が生じることで、車両の乗員に不快を与えるおそれもある。
【0041】
こうした事象を抑制するためには、クリープトルクTCを減少させる過程でトルク伝達系45の状態が被駆動状態になる時点のクリープトルクTCを「移行トルクTCm」とした場合、クリープトルクTCが移行トルクTCmに達した際のその減少勾配をより小さくすることが好ましい。なお、ここでいう「クリープトルクTCの減少勾配」とは、単位時間あたりのクリープトルクTCの減少量に相関する。これにより、トルク伝達系45の状態の駆動状態から被駆動状態への移行が緩やかに進行するようになり、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動が生じにくくなる。
【0042】
具体的には、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が開始されると、クリープトルクTCは、ブレーキ操作量BPの増大に応じて徐々に減少される。このようにクリープトルクTCが減少される際に、クリープトルクTCの減少勾配が徐々に小さくされる。すなわち、クリープトルクTCが上記移行トルクTCmに達した時点でクリープトルクの減少勾配が最小となるように、クリープトルクの減少勾配が調整される。そして、クリープトルクの減少勾配は、クリープトルクTCが移行トルクTCm未満になると、再び大きくされる。
【0043】
なお、図3には、上記のようにクリープトルクの減少勾配を調整する際に参照されるマップの一例が図示されている。このマップは、駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCと、同クリープトルクTCの減少を制限するための変化勾配判定値VTCthの関係を示している。変化勾配判定値VTCthは、運転者によるブレーキ操作に伴ってクリープトルクTCを減少させるに際し、クリープトルクの単位時間あたりの減少量に対して制限を設けるための判定値である。
【0044】
図3に示すように、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1以上である場合には、クリープトルクTCの減少に対して制限を設けない。一方、クリープトルクTCが規定クリープトルクTC1以下である場合には、クリープトルクTCの減少に対して制限を設ける。具体的には、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1と所定クリープトルクTC2との間である場合、クリープトルクTCが小さいほど変化勾配判定値VTCthが小さい。そして、クリープトルクTCが所定クリープトルクTC2未満である場合、クリープトルクTCが小さいほど変化勾配判定値VTCthが大きい。
【0045】
なお、所定クリープトルクTC2は、基準クリープトルクTC1よりも小さい値に設定されている。そして、この所定クリープトルクTC2は、車両が所定の走行状態である場合に、運転者によるブレーキ操作によってクリープトルクTCが減少されたときの上記移行トルクTCm、又は移行トルクTCmに近い値に設定することが好ましい。
【0046】
次に、図4に示すフローチャートを参照して、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が開始された際に制御装置10が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、ブレーキ操作の開始が検知されてから車両が停止するまでの間、予め設定された制御サイクル毎に実行される。
【0047】
図4に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置10は、駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力を許可するクリープモード中であるか否かを判定する(ステップS11)。ここで、クリープモード中であるか否かは、例えば、アクセル操作が行われているか否かで判定すればよい。
【0048】
クリープモード中でない場合(ステップS11:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、クリープモード中である場合(ステップS11:YES)、制御装置10は、ブレーキ操作量検出センサSE1から出力される検出信号に基づいてブレーキ操作量BPを演算する(ステップS12)。続いて、制御装置10は、演算したブレーキ操作量BPに基づいて、目標トルクTtを演算する(ステップS13)。このとき、目標トルクTtは、ブレーキ操作量BPが多いほど小さくされる。この点で、制御装置10が、「トルク演算部」の一例として機能する。
【0049】
そして、制御装置10は、現時点で駆動モータ41から出力されているクリープトルクTCを取得する(ステップS14)。例えば、制御装置10は、前回の制御サイクルで決定された目標クリープトルクTCt(i−1)を、現時点のクリープトルクTCとしてもよいし、駆動モータ41に出力している電力に基づいて現時点のクリープトルクTCを推定演算するようにしてもよい。
【0050】
続いて、制御装置10は、図5を用いて後述する決定処理を実行することにより、目標クリープトルクTCtを決定する(ステップS15)。続いて、制御装置10は、決定した目標クリープトルクTCtにクリープトルクTCが近づくように駆動モータ41を制御する(ステップS16)。したがって、制御装置10が、駆動モータ41に出力させるクリープトルクTCを、ブレーキ操作が行われているときにはブレーキ操作が行われていないときよりも減少させる「モータ制御部」の一例としても機能する。
【0051】
そして、制御装置10は、目標クリープトルクTCtが目標トルクTtよりも大きいか否かを判定する(ステップS17)。ここで、目標クリープトルクTCtが目標トルクTtと等しい場合(ステップS17:NO)、制動装置20から車輪FL,FR,RL,RRに対して制動トルクTBを付与させなくてもよいと判断することができる。一方、目標クリープトルクTCtが目標トルクTtよりも大きい場合(ステップS17:YES)、目標クリープトルクTCtと目標トルクTtとの差分を補うために制動トルクTBを車輪FL,FR,RL,RRに付与させる必要があると判断することができる。
【0052】
そのため、目標クリープトルクTCtが目標トルクTt以下である場合(ステップS17:NO)、制御装置10は、目標制動トルクTBtを「0(零)」とし(ステップS181)、その後、その処理を後述するステップS19に移行する。一方、目標クリープトルクTCtが目標トルクTtよりも大きい場合(ステップS17:YES)、制御装置10は、目標制動トルクTBtの演算処理を行い(ステップS18)、その後、その処理を次のステップS19に移行する。
【0053】
ここで、目標制動トルクTBtは、目標トルクTtに応じた基準制動トルクと、目標クリープトルクTCtに基づいた補償制動トルクとの和である。基準制動トルクは、上記ステップS13で演算した目標トルクTtが正の値又は「0(零)」であるときには「0(零)」にされる一方、目標トルクTtが負の値であるときには目標トルクの絶対値|Tt|にされる。また、補償制動トルクは、演算した目標トルクTtが正の値又は「0(零)」であるときには目標クリープトルクTCtから目標トルクTtを減じた差にされる一方、目標トルクTtが負の値であるときには目標クリープトルクTCtと等しくされる。その結果、目標制動トルクTBtは、目標クリープトルクTCtと目標トルクTtとの差分と等しくなる。なお、補償制動トルクは、目標クリープトルクTCtと目標トルクTtとの差分に応じた値であればよく、例えば、当該差分に所定のオフセット値を加算(又は減算)した値であってもよい。
【0054】
ステップS19において、制御装置10は、制動装置20が車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動トルクTBを目標制動トルクTBtに近づけるように同制動装置20を制御する。この点で、制御装置10が、「制動制御部」としても機能する。その後、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0055】
次に、図5に示すフローチャートを参照して、上記ステップS15の目標クリープトルクTCtの決定処理について説明する。
図5に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置10は、上記ステップS13で演算した目標トルクTtが「0(零)」よりも大きいか否かを判定する(ステップS21)。目標トルクTtが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS21:YES)、制御装置10は、仮の目標クリープトルクTCt(i)を目標トルクTtとし(ステップS22)、その処理を後述するステップS24に移行する。一方、目標トルクTtが「0(零)」以下である場合(ステップS21:NO)、制御装置10は、仮の目標クリープトルクTCt(i)を「0(零)」とし(ステップS23)、その処理を次のステップS24に移行する。
【0056】
ステップS24において、制御装置10は、上記ステップS14で取得したクリープトルクTCが上記基準クリープトルクTC1(図3参照)未満であるか否かを判定する。上述したように、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1以上である場合には、クリープトルクTCの減少に対して制限を設けなくてもよい一方、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1未満である場合には、クリープトルクTCの減少に対する制限を適宜行う必要がある。そのため、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1以上である場合(ステップS24:NO)、制御装置10は、その処理を後述するステップS30に移行する。
【0057】
一方、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1未満である場合(ステップS24:YES)、制御装置10は、本処理ルーチンの制御サイクルである実行間隔Δtを取得する(ステップS25)。そして、制御装置10は、図3に示すマップを参照して、変化勾配判定値VTCthを、前回の目標クリープトルクTCt(i−1)に応じた値に決定する(ステップS26)。続いて、制御装置10は、仮の目標クリープトルクTCt(i)から前回の目標クリープトルクTCt(i−1)を減じた差を実行間隔Δtで除することで、補正前減少勾配VTCを求める(ステップS27)。
【0058】
そして、制御装置10は、演算した補正前減少勾配の絶対値|VTC|が変化勾配判定値の絶対値|VTCth|よりも大きいか否かを判定する(ステップS28)。補正前減少勾配の絶対値|VTC|が変化勾配判定値の絶対値|VTCth|よりも大きい場合には、クリープトルクTCを減少させるに際して制限を設ける必要があると判断することができる。そのため、補正前減少勾配の絶対値|VTC|が変化勾配判定値の絶対値|VTCth|よりも大きい場合(ステップS28:YES)、制御装置10は、目標クリープトルクTCtを、前回の目標クリープトルクTCt(i−1)、変化勾配判定値VTCth及び実行間隔Δtに基づいて演算する(ステップS29)。すなわち、制御装置10は、変化勾配判定値VTCthに実行間隔Δtを乗算し、前回の目標クリープトルクTCt(i−1)から、その積(=VTCth・Δt)を減じた差を目標クリープトルクTCtとする。これにより、目標クリープトルクTCtは、徐々に減少されるようになる。その後、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0059】
一方、補正前減少勾配の絶対値|VTC|が変化勾配判定値の絶対値|VTCth|以下である場合(ステップS28:NO)、制御装置10は、目標クリープトルクTCtを仮の目標クリープトルクTCt(i)とする(ステップS30)。その後、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0060】
次に、図6に示すタイミングチャートを参照して、クリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が開始された際の車両の作用について説明する。
図6(a),(b),(c),(d)に示すように、車両走行中の第1のタイミングt11でブレーキ操作が開始され、ブレーキ操作量BPが増大され始めると、これに伴って目標トルクTt及び目標クリープトルクTCtが減少し始める。こうした目標クリープトルクTCtの減少に伴って駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCが減少されるため、車両の車体速度、すなわち車輪速度VWが低下し始める。
【0061】
ここで、第1のタイミングt11から次の第2のタイミングt12までの期間では、クリープトルクTCが基準クリープトルクTC1(図3参照)よりも大きく、クリープトルクTCが未だ比較的大きい。そのため、目標クリープトルクTCtの減少に際して制限が設けられていない。よって、第1のタイミングt11から第2のタイミングt12までの期間では、目標クリープトルクTCtの減少勾配は目標トルクTtの減少勾配と等しくされる。その結果、目標トルクTtと目標クリープトルクTCtとの差分でもある目標制動トルクTBtが「0(零)」となるため、車輪FL,FR,RL,RRには制動装置20からの制動トルクTBが付与されない。
【0062】
そして、第2のタイミングt12でクリープトルクTCが基準クリープトルクTC1に達すると、第2のタイミングt12以降では、目標クリープトルクTCtの減少に際して制限が設けられるようになる。すると、上記補正前減少勾配の絶対値|VTC|が、その時点のクリープトルクTCに応じて決定された変化勾配判定値の絶対値|VTCth|よりも大きくなり、目標クリープトルクTCtの減少勾配が、目標トルクTtの減少勾配よりも小さくなる。すなわち、ブレーキ操作量BPが増大している第2のタイミングt12から第3のタイミングt13までの期間では、クリープトルクTCの減少勾配が目標トルクTtの減少勾配よりも小さくされる。
【0063】
なお、第2のタイミングt12以降にあっては、目標クリープトルクTCtの減少勾配が徐々に小さくされるため、目標制動トルクTBtが徐々に大きくされる。その結果、車輪FL,FR,RL,RRに付与される制動トルクTBが徐々に増大される。
【0064】
そして、第3のタイミングt13でブレーキ操作量BPが保持されるようになると、同ブレーキ操作量BPに応じて演算される目標トルクTtが、第3のタイミングt13の値で保持される。ただし、この場合にあっては、第3のタイミングt13では、目標クリープトルクTCtが「0(零)」よりも大きい。そのため、目標トルクTtが保持されるようになっても、目標クリープトルクTCtの減少が継続される。そして、目標クリープトルクTCtの減少勾配、すなわちクリープトルクTCの減少勾配は、第3のタイミングt13以降であっても徐々に小さくされる。
【0065】
この目標クリープトルクTCtの減少勾配は、クリープトルクTCが所定クリープトルクTC2と等しくなる第4のタイミングt14で最小となる。これは、変化勾配判定値VTCthが、クリープトルクTCが所定クリープトルクTC2であるときに最小となるためである。そして、第4のタイミングt14以降にあっては、クリープトルクTCが減少されるに連れて変化勾配判定値VTCthが大きくなる。その結果、クリープトルクTCの減少勾配が徐々に大きくなる。そして、車輪速度VWが「0(零)」になる、すなわち車両が停止する第6のタイミングt16よりも前の第5のタイミングt15で、目標クリープトルクTCt、すなわちクリープトルクTCが「0(零)」になる。
【0066】
ここで、本実施形態では、所定クリープトルクTC2は、トルク伝達系45の状態が駆動状態から被駆動状態に移行した時点のクリープトルクTCに相当する移行トルクTCmとほぼ一致するように設定されている。そのため、クリープトルクTCが減少する過程で、クリープトルクTCが所定クリープトルクTC2(すなわち、移行トルクTCm)に近づくと、トルク伝達系45の状態が駆動状態から被駆動状態に移行する。このとき、クリープトルクTCの減少勾配を目標トルクTtの減少勾配よりも小さくしているとともに、クリープトルクTCの減少に合わせて駆動輪である前輪FL,FRに対する制動トルクTBが増大される。そのため、こうした状態の移行が緩やかに行われる。その結果、トルク伝達系45の状態が被駆動状態になり、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動が発生しても、その振動が低減される。
【0067】
次に、停止中では駆動モータ41の駆動が停止される車両の発進時における駆動モータ41と制動装置20との協調制御について説明する。
トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動は、車両の停止中においてブレーキ操作量BPが減少される場合にも発生することがある。すなわち、図2に示すように、車両の停止中においてブレーキ操作量BPが減少されるときには、制動トルクTBの減少がクリープトルクTCの増大よりも優先されるとする。この場合、車輪FL,FR,RL,RRに制動トルクTBが付与されなくなってから、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されるようになる。
【0068】
すると、トルク伝達系45の状態が、例えば、図12(b)に示す状態から図12(a)に示す状態に移行する。すなわち、駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力によって、駆動モータ側のギアGmの歯面Gm1が、駆動輪側のギアGtの歯面Gt2に当接する。このとき、駆動輪に制動トルクTBが付与されていないと、ギアGtがギアGmに押されることにより、トルク伝達系45において、そのバックラッシュに起因する振動が発生するおそれがある。そして、こうした振動が車両の発進前に車両振動として車両の乗員に伝わると、同乗員に不快感を与えやすい。
【0069】
そこで、本実施形態では、こうしたトルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させるために、駆動輪に制動トルクTBが未だ付与されている状況下で駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力を開始させるようにした。これにより、クリープトルクTCがギアGmからギアGtに付与されるようになったときには、ギアGtには制動トルクが付与されていることとなるため、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる。
【0070】
次に、図7を参照して、ブレーキ操作量BPと駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCとの関係について説明する。
図7に示すように、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth以上である場合には、運転者に車両を発進させる意志が未だないと判断することができる。そのため、目標クリープトルクTCtは「0(零)」とされる一方、目標制動トルクTBtは目標トルクTtと等しくされる。そして、ブレーキ操作量BPが減少され、同ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPthになると、駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力が開始される。なお、操作量判定値BPthは、ブレーキ操作量BPに応じて演算される目標トルクTtが「0(零)」となるときのブレーキ操作量BP、すなわち第2の操作量BP2よりも大きい。そのため、この状態では、制動装置20によって駆動輪に制動トルクTBが未だ付与されている。
【0071】
また、このようにクリープトルクTCの出力開始の条件が成立すると、目標クリープトルクTCtが初期トルクTCi(>0(零))とされる。その結果、目標制動トルクTBtは、目標クリープトルクTCtの増大に合わせて大きくされる。これにより、目標クリープトルクTCtと目標制動トルクTBtとの和を、目標トルクTtと一致させることができる。
【0072】
ここで、初期トルクTCiは、トルク伝達系45のバックラッシュを解消するのに必要なトルクの最小値以上であって、且つその時点の制動トルクTB未満であれば任意の値であってもよい。そして、このようにクリープトルクTCが発生されることにより、トルク伝達系45の状態が駆動状態に移行される。因みに、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth未満となる場合には、図7に示すように目標クリープトルクTCtを初期トルクTCiまで一気に増大させるようにしてもよいし、目標クリープトルクTCtを初期トルクTCiまで階段状に増大させるようにしてもよい。
【0073】
また、図7に示す第11の操作量BP11は、ブレーキ操作量BPの減少に伴い、目標トルクTtが初期トルクTCiと等しくなるときのブレーキ操作量BPである。そして、第11の操作量BP11は、第1の操作量BP1よりも大きく、且つ第2の操作量BP2よりも小さい。
【0074】
次に、図8に示すフローチャートを参照して、停止中の車両を発進させる際に制御装置10が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、運転者がアクセル操作を行っていないときに、予め設定された制御サイクル毎に実行される処理ルーチンである。
【0075】
図8に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置10は、車両が停止しているか否かを判定する(ステップS41)。例えば、車輪速度センサSE3〜SE6の検出結果に基づいて演算される車輪速度VWが「0(零)」であるときに、車両が停止していると判定するようにしてもよい。そして、車両が停止していない場合(ステップS41:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0076】
一方、車両が停止している場合(ステップS41:YES)、制御装置10は、ブレーキ操作量検出センサSE1から出力される検出信号に基づいてブレーキ操作量BPを演算し(ステップS42)、ブレーキ操作量BPの変化速度であるブレーキ操作速度VBPを演算する(ステップS43)。なお、ブレーキ操作速度VBPは、本処理ルーチンを前回実行してから今回実行するまでのブレーキ操作量BPの変化量に応じて演算することができる。こうしたブレーキ操作速度VBPは、ブレーキ操作量BPが増大されるときには正の値となり、ブレーキ操作量BPが減少されるときには負の値となる。
【0077】
続いて、制御装置10は、ステップS42で演算したブレーキ操作量BPに基づいて目標トルクTtを演算する(ステップS44)。なお、目標トルクTtは、ブレーキ操作量BPが多いほど小さくされる。そして、制御装置10は、操作量判定値BPthを取得する(ステップS45)。
【0078】
続いて、制御装置10は、ブレーキ操作量BPが「0(零)」よりも大きいか否かを判定する(ステップS46)。ここで、ブレーキ操作量BPが「0(零)」以下である場合とは、運転者がブレーキ操作を行っていないと判断することができる。そのため、ブレーキ操作量BPが「0(零)」以下である場合(ステップS46:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキ操作量BPが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS46:YES)、制御装置10は、ブレーキ操作速度VBPが「0(零)」未満であるかを判定する(ステップS47)。ブレーキ操作速度VBPが「0(零)」以上である場合には、ブレーキ操作量BPが増大又は維持されていることから、運転者が車両を発進させる意志がないと判断することができる。一方、ブレーキ操作速度VBPが「0(零)」よりも小さい場合には、ブレーキ操作量BPが減少されていることから、運転者が車両を発進させる意志があると判断することができる。
【0079】
そのため、ブレーキ操作速度VBPが「0(零)」以上である場合(ステップS47:NO)、制御装置10は、目標制動トルクTBtを目標トルクの絶対値|Tt|とし(ステップS511)、その処理を後述するステップS52に移行する。一方、ブレーキ操作速度VBPが「0(零)」未満の場合(ステップS47:YES)、制御装置10は、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth未満であるか否かを判定する(ステップS48)。
【0080】
ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth以上である場合(ステップS48:NO)、制御装置10は、その処理を前述したステップS511に移行する。一方、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth未満である場合(ステップS48:YES)、制御装置10は、目標クリープトルクTCtを初期トルクTCiとし(ステップS49)、駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCを目標クリープトルクTCtに近づけるように同駆動モータ41を制御する(ステップS50)。
【0081】
そして、制御装置10は、目標制動トルクTBtの演算処理を行う(ステップS51)。上述したように、目標制動トルクTBtは、基準制動トルクと補償制動トルクとの和とされる。その後、制御装置10は、その処理を次のステップS52に移行する。
【0082】
ステップS52において、制御装置10は、制動装置20が車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動トルクTBを、ステップS51又はステップS511で演算した目標制動トルクTBtに近づけるように同制動装置20を制御する。その後、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0083】
次に、図9に示すタイミングチャートを参照して、車両を発進させる際の同車両の作用について説明する。
図9(a),(b),(c)に示すように、第1のタイミングt21までは、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPthよりも大きな値で保持され、車両が停止している。そして、第1のタイミングt21からブレーキ操作量BPが減少され始めると、これに伴って目標トルクTtが大きくなる。すると、目標制動トルクTBtが徐々に小さくなり、制動トルクTBが減少される。なお、第1のタイミングt21から次の第2のタイミングt22までの期間では、目標制動トルクTBtが目標トルクTtと等しいため、目標クリープトルクTCtが「0(零)」とされる。そのため、駆動モータ41の駆動が未だ停止されている。
【0084】
そして、第2のタイミングt22でブレーキ操作量BPが操作量判定値BPthと等しくなると、目標クリープトルクTCtが初期トルクTCiまで増大される。すなわち、第2のタイミングt22で駆動モータ41からクリープトルクTCが出力され始める。そして、このようにクリープトルクTCが出力されるようになると、目標クリープトルクTCtの増大に応じて目標制動トルクTBtが大きくされる。その結果、第2のタイミングt22から第3のタイミングt23までの期間に、制動トルクTBは、初期トルクTCiに相当する分だけ増大される。なお、初期トルクTCiは、第2のタイミングt22の制動トルクTBよりも十分に小さい。そのため、駆動モータ41からクリープトルクTCの出力が開始された時点では、車両が発進しない。
【0085】
また、目標クリープトルクTCt、すなわちクリープトルクTCは、第3のタイミングt23に達するとそれ以降ではしばらく初期トルクTCiで維持される。
ここで、第2のタイミングt22から第3のタイミングt23までの期間では、駆動輪である前輪FL,FRに制動トルクTBが付与されている状態で、初期トルクTCiに相当するクリープトルクTCが駆動モータ41から出力される。すなわち、前輪FL,FRに制動トルクTBが未だ付与されているときに、クリープトルクTCの出力開始によってトルク伝達系45の状態が駆動状態となる。このため、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動が発生したとしても、その振動が低減される。
【0086】
続いて、その後の第4のタイミングt24になると、ブレーキ操作量BPが保持され始める。すると、第4のタイミングt24から、ブレーキ操作量BPの減少が再開される第5のタイミングt25までの期間では、目標トルクTt、目標制動トルクTBt及び目標クリープトルクTCtが維持される。そして、第5のタイミングt25を過ぎ、再びブレーキ操作量BPが減少され始めると、目標トルクTtの増大に連動して目標制動トルクTBtが減少される。すなわち、制動トルクTBが徐々に減少される。
【0087】
そして、第6のタイミングt26になると、目標トルクTtが初期トルクTCiと等しくなり、目標制動トルクTBtが「0(零)」となる。その結果、第6のタイミングt26以降では、制動トルクTBが車輪FL,FR,RL,RRに付与されなくなる。その後もブレーキ操作量BPの減少に応じて目標制動トルクTBt及び目標クリープトルクTCtが増大されると、クリープトルクTCが徐々に大きくなる。そして、第7のタイミングt27で、車両を発進させるために必要な駆動トルクの最小値よりもクリープトルクTCが大きくなると、車両が発進する。その後、第8のタイミングt28でブレーキ操作量BPが「0(零)」になると、アクセル操作が開始されない限り、目標トルクTt及び目標クリープトルクTCtが保持される。
【0088】
以上、上述した実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作量BPが増大されるときに、クリープトルクTCの減少勾配を目標トルクTtの減少勾配よりも小さくするようにした。このため、クリープトルクTCが減少されつつも車輪FL,FR,RL,RRに対する制動トルクTBが増大されるようになる。その結果、トルク伝達系45の状態が駆動状態から被駆動状態に緩やかに移行される。これにより、トルク伝達系45の状態が被駆動状態になったときに、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる。しかも、ブレーキ操作量BPの増大に応じてクリープトルクTCを減少させるため、ブレーキ操作の実施中でもクリープトルクTCを一定値で保持する場合と比較して、車両の電力消費量が低減される。したがって、車両の電力消費量の低減を図りつつも、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる。
【0089】
(2)本実施形態では、クリープトルクTCの減少勾配は、クリープトルクTCが所定クリープトルクTC2に達するまではクリープトルクTCが減少されるに連れて小さくなる。そのため、所定クリープトルクTC2を、上記移行トルクTCmに一致させることにより、トルク伝達系45の状態の駆動状態から被駆動状態への緩やかな移行を実現させることができる。その結果、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる。
【0090】
(3)そして、本実施形態では、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が行われると、車両が停止する前に駆動モータ41の駆動を停止させることができる。その結果、車両が停止しても駆動モータ41が未だ駆動している場合と比較して、車両の電力消費量を低減させることができる。
【0091】
(4)車両の停止中にブレーキ操作量BPが減少されると、駆動輪である前輪FL,FRに制動トルクTBが未だ付与されている段階で、駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力が開始される。その結果、車両の発進時において、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる。しかも、本実施形態では、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth以上であるときは駆動モータ41の駆動が停止されている。そのため、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth以上であっても駆動モータ41からクリープトルクTCを出力させ続ける場合と比較して、車両の電力消費量が低減される。したがって、車両を発進させる場合であっても、車両の電力消費量の低減を図りつつ、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低減させることができる。
【0092】
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・車輪速度VWが大きい場合(すなわち、車体速度が大きい場合)には、車輪速度VWが小さい場合(すなわち、車体速度が小さい場合)に比較して、路面からの入力などの外乱によって車両が振動しやすい。言い換えると、車輪速度VWが小さいときほど、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動が、車両の乗員に不快感を与えやすい。
【0093】
そのため、クリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が行われている場合、車輪速度VWが小さいほどクリープトルクの減少勾配を小さくするようにしてもよい。こうした制御構成を実現させる方法としては、例えば、図10に示すマップを用いる方法を挙げることができる。図10に示すマップは、変化勾配判定値VTCthを補正するための速度補正係数Cvと、車輪速度VWとの関係を示すマップである。図10に示すように、速度補正係数Cvは、車輪速度VWが小さいほど小さくされる。そして、クリープトルクTCに応じて決定された変化勾配判定値VTCthに、図10に示すマップを参照して決定された速度補正係数Cvを乗算させ、その積(=VTCth・Cv)を変化勾配判定値VTCthとする。こうした変化勾配判定値VTCthで、クリープトルクTCの減少を制限することにより、車輪速度VWが小さいほどクリープトルクの減少勾配を小さくすることができる。その結果、トルク伝達系45の状態の駆動状態から被駆動状態への移行を、車輪速度VWが小さいほど緩やかに行わせることができる。したがって、車輪速度VWが小さい場合であっても、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動に対する不快感を車両の乗員に与えにくくすることができる。
【0094】
一方、こうした制御構成を採用した場合、車輪速度VWが大きいほど、クリープトルクの減少勾配を大きくすることができる。このように車両に対する外乱が入力されやすい場合にあっては、クリープトルクTCを速やかに減少させることにより、車両の電力消費量の低減効果を高めることができる。
【0095】
・停止中の車両を運転者が速やかに発進させたいときには、ブレーキ操作量BPの減少速度が大きくなりやすい。そして、このようにブレーキ操作量BPの減少速度が速いほど、目標トルクTtが早期に大きくなり、同目標トルクTtが、車両を発進させるために必要なトルクを早期に超えることとなる。そこで、操作量判定値BPthを、ブレーキ減少速度が小さいほど小さくしてもよい。こうした制御構成を実現させる方法としては、例えば、図11に示すマップを参照して操作量判定値BPthを決定する方法を挙げることができる。すなわち、図11に示すマップは、ブレーキ操作速度VBPと、操作量判定値BPthとの関係を示すマップである。図11に示すように、操作量判定値BPthは、ブレーキ操作速度VBPが小さいほど(すなわち、ブレーキ操作量BPの減少速度と相関するブレーキ操作速度の絶対値|VBP|が大きいほど)、大きくされる。
【0096】
これによれば、ブレーキ操作速度VBPが大きく、運転者が車両を速やかに発進させたいという意志があると判断できるときほど、操作量判定値BPthが大きくされるため、駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力開始のタイミングを早くすることができる。そのため、例えば、目標トルクTtが車両の発進に必要なトルクに達しているにも拘らず、駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCが初期トルクTCi未満である事態を回避することができる。こうして、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動を低下させつつも、車両の速やかな発進に貢献することができる。
【0097】
一方、ブレーキ操作速度VBPが小さく、運転者が車両を緩やかに発進させたいという意志があると判断できるときほど、操作量判定値BPthが小さくされるため、駆動モータ41からのクリープトルクTCの出力開始のタイミングを遅くすることができる。そのため、クリープトルクTCの出力が開始された時点から車両が実際に発進する時点までの期間を短くすることができる分、車両の電力消費量を低減させることができる。
【0098】
なお、このようにブレーキ操作速度VBPに応じた操作量判定値BPthの決定は制御装置10が行うことが好ましい。この場合、制御装置10が、「判定値決定部」の一例として機能することとなる。
【0099】
・上記実施形態では、クリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が開始された場合には車両が停止する前に駆動モータ41の駆動を停止させるようにしていたが、車両停止後に駆動モータ41の駆動が停止されるように目標クリープトルクTCtを調整するようにしてもよい。
【0100】
・上記実施形態では、クリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が開始された場合には、目標クリープトルクTCtの減少勾配を時間の経過とともに変更した。ところが、目標クリープトルクTCtの減少勾配が、ブレーキ操作量BPの増大に伴う目標トルクTtの減少勾配よりも小さいのであれば、目標クリープトルクTCtを一定勾配で減少させるようにしてもよい。こうした制御構成であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
【0101】
・クリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が開始された場合、目標クリープトルクTCt、すなわちクリープトルクTCが所定クリープトルクTC2未満になったときには、クリープトルクTCを一気に減少させるようにしてもよい。ただし、この場合、目標クリープトルクTCtの減少勾配を、制動装置20の応答速度に応じた勾配とすることが好ましい。
【0102】
・停止中の車両を発進させるべくブレーキ操作量BPが減少される場合、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth以下になった以降における目標クリープトルクTCtの増大勾配を、ブレーキ操作量BPの減少速度に応じて可変させるようにしてもよい。すなわち、ブレーキ操作量BPの減少速度が小さいときほど、目標クリープトルクTCtの増大勾配を小さくするようにしてもよい。これにより、車両停止中に駆動モータ41から出力されるクリープトルクTCを小さくすることができる分、車両の電力消費量を低減させることができる。
【0103】
・停止中の車両を発進させるべくブレーキ操作量BPが減少される場合、ブレーキ操作量BPが操作量判定値BPth以下になり、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されるようになっても、しばらくの間、駆動輪である前輪FL,FRに対する制動トルクTBを保持するようにしてもよい。すなわち、図9に示すタイムチャートを例に挙げると、第2のタイミングt22から第3のタイミングt23までの期間において、目標クリープトルクTCtの出力の開始に応じて、目標制動トルクTBtを増大させなくてもよい。
【0104】
・上記車両にあっては、トルク伝達系45に減速機42が設けられている。そして、トルク伝達系45のバックラッシュに起因する振動の大きさは、減速機42で使用されているオイルの粘度(例えば、温度)に応じて変わりうる。そのため、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作が行われているときには、クリープトルクTCの減少態様を、こうしたオイルの粘度(温度)に応じて適宜変更するようにしてもよい。
【0105】
・上記実施形態で説明したような駆動モータ41と制動装置20との協調制御は、車両前進に限らず、車両後退時にも適用することができる。
・制御装置10は、駆動モータ41からクリープトルクTCが出力されている状況下でブレーキ操作量BPが増大されるときには、駆動モータ41と制動装置20との協調制御を実施しなくてもよい。この場合、ブレーキ操作が開始されても、車両が停止するまでは、クリープトルクTCを維持させることが好ましい。その一方で、車両が停止した以降では、クリープトルクTCを減少させてもよい。
【0106】
・制御装置10は、車両の停止中においてブレーキ操作量BPが減少されている状況下では駆動モータ41と制動装置20との協調制御を実施しなくてもよい。
・制御装置10を備える車両は、動力源として駆動モータ41を備える車両であれば、電気自動車ではなく、駆動モータ41とエンジンとを動力源として備えるハイブリッド車両であってもよい。
【符号の説明】
【0107】
10…制御装置(トルク演算部、モータ制御部、制動制御部、判定値決定部及び車両用制御装置の一例)、20…制動装置、41…駆動モータ、45…トルク伝達系、BP…ブレーキ操作量、BPth…操作量判定値、FL,FR…駆動輪(車輪)、TB…制動トルク、TBt…目標制動トルク、TC…クリープトルク、TCt…目標クリープトルク、TC2…所定クリープトルク、Tt…目標トルク、VBP…ブレーキ操作速度、VW…車輪速度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12