(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359891
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】土壌浄化剤及び汚染された土壌の浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20180709BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
B09C1/08
C09K17/02 HZAB
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-130961(P2014-130961)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-7591(P2016-7591A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】秦 浩司
【審査官】
齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−110497(JP,A)
【文献】
特開2005−007256(JP,A)
【文献】
特開2006−272286(JP,A)
【文献】
特開2004−154744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C1/00−10
C09K17/00−52
C02F1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された土壌を浄化するための土壌浄化剤であって、鉄粉、又は分散状態の鉄粉を含む鉄粉水性懸濁液と、増粘剤としてのモンモリロナイト系粘土鉱物が水中に分散されてなるモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とを含み、
モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液が、さらに当該懸濁液を増粘させることができる添加剤を含み、
添加剤が、FeCl2、FeCl3、FeSO4、及びFe2(SO4)3から選択される少なくとも1種の鉄化合物である土壌浄化剤。
【請求項2】
モンモリロナイト系粘土鉱物が、ベントナイト又は合成スメクタイトである請求項1に記載の土壌浄化剤。
【請求項3】
鉄粉の平均粒径が10〜200μmである請求項1又は2に記載の土壌浄化剤。
【請求項4】
モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液の粘度が25℃で200〜400mPa・sである請求項1〜3のいずれか1項に土壌浄化剤。
【請求項5】
前記汚染された土壌の汚染物質が、有機ハロゲン化物及び/又は6価クロムである請求項1〜4のいずれかに記載の土壌浄化剤。
【請求項6】
前記汚染された土壌の汚染物質が、有機ハロゲン化物である請求項1〜5のいずれかに記載の土壌浄化剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の土壌浄化剤に記載された、鉄粉又は鉄粉水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液との混合物からなる土壌浄化剤。
【請求項8】
鉄粉の含有量が10〜50質量%であり、モンモリロナイト系粘土鉱物の含有量が0.3〜5質量%である請求項7に記載の土壌浄化剤。
【請求項9】
粘度が25℃で200〜400mPa・sである請求項7又は8に土壌浄化剤。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の土壌浄化剤に記載された、鉄粉又は鉄粉水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とを混合し、該混合物を汚染された土壌に浸透させることからなる土壌浄化方法。
【請求項11】
前記土壌浄化剤の浸透を、土壌浄化剤を土壌表面の略全面に散布することにより行う請求項10に記載の土壌浄化方法。
【請求項12】
前記土壌浄化剤の浸透を、前記混合物を供給するための注入管を挿入し、該混合物をその注入管に注入することにより行う請求項10に記載の土壌浄化方法。
【請求項13】
前記土壌浄化剤の浸透を、前記混合物を、地盤改良用の施工機械で土壌中に供給し、前記混合物と該土壌とを撹拌することにより行う請求項10に記載の土壌浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化物、6価クロム等により汚染された土壌から該汚染物質を分解・無害化するために使用される土壌浄化剤、並びに汚染された土壌を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械類の油類除去等の工業的な洗浄には、これまでトリクロロエチレン等の有機塩素系化合物が大量に使用されてきた。現在では環境汚染の観点から、このような有機塩素系化合物の使用が規制されている。しかしながら、既に多量の有機塩素系化合物が使用されており、このためその土壌汚染あるいは水質汚染も進んでいる。即ち、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物は、安定で微生物に分解され難く、自然環境に投棄された有機塩素系化合物は、土壌を汚染するだけでなく、最終的には河川や地下水を汚染し、これが飲料水の原水となることがあり、問題となる。
【0003】
上記有機塩素系化合物等の揮発性の有機化合物で汚染された土壌を浄化する方法としては、従来から、土壌ガス吸引法、地下水揚水法、土壌掘削法等が知られている。土壌ガス吸引法は、不飽和帯に存在する対象物質を強制的に吸引するものであり、ボーリングにより地盤中に吸引用井戸を設置し、真空ポンプによって吸引用井戸内を減圧にし、気化した有機化合物を吸引井戸内に集め、地下に導いて土壌ガス中の有機化合物を活性炭に吸着させるなどの方法によって処理するものである。上記有機化合物による汚染が帯水層にまで及んでいる場合には、吸引用井戸内に水中ポンプを設置し、土壌ガスと同時に揚水して処理する方法が採用される。
【0004】
地下
水揚水法は、土壌中に揚水井戸を設置し、汚染地下水を揚水して処理する方法である。さらに、土壌掘削法は、汚染土壌を掘削し、掘削した土壌を風力乾燥、加熱処理を施して有機化合物の除去回収を行う方法である。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、土壌を直接浄化する方法ではなく、上記土壌ガス吸引法、地下水揚水法等により集められた汚染水、あるいは河川、地下水等の汚染水を浄化する方法であり、対象は極めて大量であり、処理は長期間を要する場合が多い。また処理工程が複雑となる場合が多いのも欠点である。このため、汚染源である土壌を直接簡便に浄化する方法が求められている。
【0006】
上記直接浄化可能な方法に用いられる浄化剤として、例えば、特許文献1(国際公開第2001−08825号公報)に、粒径10μm未満の球状の鉄微粒子スラリーからなる土壌浄化剤が開示されている。すなわち、鉄粒子を微粒することにより、鉄の表面積を大きくして汚染物質の処理能力を増大させ、また微粒化に加え、粒子の形を球状にすることにより土壌内への鉄の迅速な浸透を可能にしている。
【0007】
特許文献1に記載のような鉄粉スラリーは、鉄粉自体、比重が高いため沈降しやすく良好な分散状態の鉄粉スラリーを得難いとの問題がある。このため、鉄粉スラリーを良好な分散状態とするために、増粘剤が添加されることが一般的である。例えば、特許文献2(特開2006−272068号公報)には、土壌浄化剤の増粘剤として、グアガム、キトサン、キサンタンガム、アルギン酸塩等の多糖類が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2001−08825号公報
【特許文献2】特開2006−272068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者の検討によれば、鉄粉スラリーを良好な分散状態とするために、特許文献2等に記載のグアガム等の多糖類を使用した場合、保存中に多糖類が腐敗等により劣化し、腐敗による悪臭が発生するだけでなく、肝心の増粘作用が得られなくなるとの問題があることが明らかとなった。また、増粘作用が得られない場合、汚染土壌に浄化剤を注入した際、浄化剤の汚染土壌への均一な浸透も阻害されるとの問題もある。
【0010】
従って、本発明の目的は、有機ハロゲン化物、6価クロム等の汚染物質により汚染された土壌から、直接、効率よくこの汚染物質を還元することにより無毒化、或いは無毒化後除去することができる鉄粉スラリーを含む土壌浄化剤であって、鉄粉の良好な分散状態が長期にわたって得ることができる土壌浄化剤を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、鉄粉スラリーの土壌浄化剤であって、鉄粉の良好な分散状態が長期にわたって得ることができる土壌浄化剤を調製することができる2液タイプの土壌浄化剤を提供することにある。
【0012】
従って、本発明の目的は、上記2液タイプの土壌浄化剤を用いて、有機ハロゲン化物、6価クロム等で汚染された土壌を、掘削等行うことなく、撹拌により効率よく原位置で浄化処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、前記の目的は、汚染された土壌を浄化するための土壌浄化剤であって、鉄粉、又は分散状態の鉄粉を含む鉄粉水性懸濁液と、増粘剤としてのモンモリロナイト系粘土鉱物が水中に分散されてなるモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とを含
み、モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液が、さらに当該懸濁液を増粘させることができる添加剤を含み、添加剤が、FeCl2、FeCl3、FeSO4、及びFe2(SO4)3から選択される少なくとも1種の鉄化合物である土壌浄化剤により達成することができる。
これにより、少量のベントナイトで大きな増粘効果を得ることができる。また、ベントナイトのpHを浄化に好適な中性域にシフトすることができる。
【0014】
本発明のモンモリロナイト系粘土鉱物は、モンモリロン石群鉱物及び合成モンモリロン石群鉱物を含むものである。
【0015】
上記土壌浄化剤の好ましい態様を以下に列記する。
【0016】
(1)モンモリロナイト系粘土鉱物が、ベントナイト又は合成スメクタイトである。
【0019】
(2)鉄粉の平均粒径が1〜500μm、特に10〜200μmである。鉄粉は平均粒径が大きいほどスラリー中で沈降しやすいので、本願発明の増粘剤は比較的大きい粒径の鉄粉に特に有効である。
【0020】
(3)汚染された土壌の汚染物質が、有機ハロゲン化物及び/または6価クロム、特に有機ハロゲン化物であり、中でも揮発性有機塩素化合物(CVOC)ある。鉄粉の還元作用は還元され得る汚染物質、有機ハロゲン化物に特に有効であるが、6価クロムに対しても有効である。
【0021】
本発明は、上記の土壌浄化剤に記載された、鉄粉又は鉄粉の水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液との混合物からなる土壌浄化剤にもある。
【0022】
上記土壌浄化剤の好ましい態様を以下に列記する。
【0023】
(1)鉄粉の濃度が10〜50質量%であり、ベントナイトの濃度が0.3〜5質量%である。効率の良い増粘効果が得られる。
【0024】
(2)粘度が25℃で200〜400mPa・sである。沈降を防止し、汚染土壌への注入等を行う施工機械に、鉄粉懸濁液を均一な濃度でポンプ圧送するために好適な粘度である。
【0025】
本発明は、前記2液タイプの土壌浄化剤に記載された、鉄粉又は鉄粉の水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とを混合し、該混合物を汚染された土壌に浸透させることからなる土壌浄化方法にもある。
【0026】
上記土壌浄化方法の好ましい態様を以下に列記する。
【0027】
(1)土壌浄化剤の浸透を、土壌浄化剤を土壌表面の略全面に散布することにより行う。
【0028】
(2)前記土壌浄化剤の浸透を、前記混合物を供給するための注入管を挿入し、該混合物をその注入管に注入することにより行う。あるいは
前記土壌浄化剤の浸透を、前記混合物を、地盤改良用の施工機械で土壌中に供給し、前記混合物と該土壌とを撹拌することにより行う。
【発明の効果】
【0029】
本発明の土壌浄化剤は、汚染物質の除去のために鉄粉を主として用い、鉄粉の良好な分散安定性を得るために増粘剤としてベントナイトを用いている。これにより、多糖類のように腐敗等により悪臭の発生や、劣化が起こらないため、良好な粘度に安定化された土壌浄化剤を長期に安定して使用することができ、また、安定した土壌効果も長期に得ることができる。特に、ベントナイトの増粘効果を上げるために鉄化合物等の酸性の添加剤を用いることにより、少量のベントナイトで効率よく増粘効果を得ることができるため、増粘剤の量が抑えられ、鉄による浄化効果も得られやすい。また、酸性の添加剤を用いることによりpHを鉄粉による浄化に好適な中性域にシフトすることも可能である。
【0030】
本発明の良好な粘度に安定化された土壌浄化剤を汚染土壌に直接注入した場合、比較的浸透しやすい砂質層等だけでなく、シルト層や粘土層、関東ローム層等に鉄粉を均一に導入することができるため、有機塩素系化合物等の汚染物質の無害化を充分行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の浄化方法の実施形態の例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例の表1及び表2に示した各増粘剤の濃度に対する粘度のグラフである。
【
図3】
図3は、実施例の表3〜10のクニピアFの濃度が2.5質量%における、各添加剤の濃度と粘度の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例の表3〜10のクニピアFの濃度が2.5質量%における、各添加剤を添加したモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液(添加剤調製時)のpHと粘度の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例の表11〜13のクニピアFの濃度が1.0質量%、1.5質量%、2.5質量%における、塩化第一鉄の濃度と粘度の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例の表14〜16のクニピアFの濃度が1.0質量%、1.5質量%、2.5質量%における、硫酸第一鉄の濃度と粘度の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は実施例の表17の各浄化液による、トリクロロエチレン(TCE)濃度の経過日数に対する変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の土壌浄化剤は、鉄粉又は鉄粉が水中に分散されてなる鉄粉水性懸濁液と、増粘剤としてのベントナイトが水中に分散されてなるモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とからなるものであり、またこれらの鉄粉又は鉄粉水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液の混合物である。すなわち、本発明の土壌浄化剤は、一般に、モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とを調製し、使用される際鉄粉をモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液に加えて混合して使用するか、あるいは鉄粉水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液とをそれぞれ調製し、使用される際これらを混合して用いる。このため、使用される前は、一般にモンモリロナイト系粘土鉱物はその水性懸濁液として保存される。この増粘剤は無機物であるため、長期保存しても腐敗して、増粘効果が低下することはない。本発明の土壌浄化剤は、上記増粘剤により鉄による浄化効果も得られやすいことから、汚染土壌から汚染物質を還元等により無毒化、或いは無毒化後除去するために有用であり、また作業性においても優れたものである。
【0033】
本発明の浄化の対象となる汚染源として、有機ハロゲン化物、6価クロム、シアン化物を挙げることができ、有機ハロゲン化物、6価クロムが適当であり、特に有機ハロゲン化物適当である。有機ハロゲン化物の例としては、塩化ビニル、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロジフルオロエタン等を挙げることができる。これらの有機ハロゲン化物は、鉄の脱ハロゲン化作用(還元作用)により、ハロゲンを失って対応する炭化水素となり、土壌より除去されると考えられる。有機ハロゲン化物としては、有機塩化物(なかでも揮発性有機塩素化合物(CVOC))に特に有効である。また、6価クロムは、長期間に亘る有効な鉄の還元作用により、効率良く3価クロムに還元することができ、その後必要により土壌より除去することができる。さらに、シアン化物(シアンイオン)は、鉄イオンと錯体を形成して無毒化される。
【0034】
本発明の土壌浄化剤に使用されるスラリーに含まれる鉄粉は、どのような鉄粉でも使用することができる。鉄粉の平均粒径は一般に1μm以上であり、1〜500μmが好ましく、さらに10〜500μm、特に10〜200μmが好ましい。このような鉄粉は、平均粒径が小さいほど洗浄力の向上が図れるが、粉塵爆発等の危険があるため取扱いが難しいこと、また小さいほど高価になるため、また大きすぎると沈降しやすくなることから、やや大きい、特に10〜200μmが好ましい。また、この範囲において、本発明の増粘剤が特に有効となる。
【0035】
また、本発明の土壌浄化剤の鉄粉水性懸濁液中の鉄粉の含有量は10〜70質量%、特に20〜50質量%が好ましい。モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液と混合後の鉄粉水性懸濁液(すなわち、土壌に注入時の液) 中の鉄粉の含有量は、0.1〜50質量%、特に5〜30質量%が好ましい。鉄粉は金属鉄及び鉄含有化合物を主成分とするが、鉄粉のうち金属鉄が50質量%以上占めることが好ましい。鉄含有化合物は、主として、Fe
2O
3、FeO、FeO
2等の酸化鉄である。鉄粉は、他の成分として、イオウ、CaO、SiO
2等を微量含んでいてもよい。
【0036】
鉄粉は、上記平均粒径等を満たすものであればどのようなものでも使用することができる。使用可能な鉄粉として、市販の各種鉄粉を使用することができる。例えば、JEFミネラル(株)、(株)神戸製鋼所、DOWAエコシステム(株)等から販売されている鉄粉剤、特に土壌浄化用鉄粉剤を挙げることができる。鉄粉水性懸濁液は、一般に、上記鉄粉(鉄粉)を水(所望により下記の添加剤を含有してもよい)に分散させることにより得ることができる。
【0037】
鉄粉水性懸濁液(鉄粉スラリー)は、例えば、製鋼用の酸素吹転炉から、精錬中に発生する排ガス中の製鋼ダストを集塵(好ましくは湿式集塵)し、炭酸ガス等のガスを除去することにより得られる製鋼ダストからなるスラリーを有利に利用することができる。通常、集塵後、上記製鋼ダストをシックナーにより鉄粉スラッジのスラリーとされたものである。
【0038】
本発明の鉄粉は、鉄粒子表面の酸化を防止するために、酸化防止剤を鉄粉水性懸濁液に添加することが好ましい。酸化防止剤としては、有機酸(例、アスコルビン酸(ビタミンC)、クエン酸、リンゴ酸、特にアスコルビン酸)及びこれらの塩を挙げることができ、その添加量は、鉄粉に対して0.01〜10質量%が一般的で、0.1〜3質量%が好ましい。
【0039】
本発明の鉄粉水性懸濁液又は土壌浄化剤は、さらに鉄以外の金属でも、還元作用を有する金属であるMn、Mg、Zn、Al、Ti等であれば併用することができる。
【0040】
本発明の鉄粉水性懸濁液(鉄粉スラリー)は、上記鉄粉スラリーに、所望により酸化防止剤、金属ハロゲン化物又は水溶性ポリマー等を加えて、懸濁、あるいは分散させて得られるものである。更に適宜水を加えて所望の濃度にすることができる。また必要により分散時に界面活性剤を使用することもできる。
【0041】
本発明の鉄粉又は鉄粉水性懸濁液と混合して使用されるモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液は、公知のモンモリロナイト系粘土鉱物を水(所望により前記の添加剤を含有してもよい)に分散させることにより得ることができる。モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液中のモンモリロナイト系粘土鉱物の含有量は、0.5〜10質量%、特に1〜4質量%が好ましい。モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液と混合後の鉄粉水性懸濁液(すなわち、土壌に注入時の液) 中のモンモリロナイト系粘土鉱物の含有量は、0.3〜5質量%、特に0.5〜3.5質量%が好ましい。
【0042】
本発明のモンモリロナイト系粘土鉱物は、モンモリロン石群鉱物又は合成モンモリロン石群鉱物を含むものである。モンモリロン石群鉱物としては、例えばモンモリロナイト(モンモリロン石)、バイデライト、サポナイト(サポー石)、ヘクトライト等を挙げることができる。モンモリロナイト、ヘクトライト、及びモンモリロナイトを主成分とするベントナイト、特にベントナイトが好ましい。また、合成モンモリロン石群鉱物として、合成スメクタイト、合成サポナイトが好ましい。
【0043】
ベントナイト等の主成分であるモンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイトに分類される粘土鉱物で、結晶構造はケイ酸四面体層−アルミナ八面体層−ケイ酸四面体層の3層が積み重なっており、その単位層は厚さ約10Å(1nm)、広がり0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。アルミナ八面体層の中心原子であるAlの1部がMgに置換されることで陽電荷不足となり、各結晶層自体は負に帯電しているが、結晶層間にNa
+・K
+・Ca
2+・Mg
2+などの陽イオンを挟むことにより電荷不足を中和し、モンモリロナイトは安定状態となる。このため、モンモリロナイトは結晶層が何層も重なり合った状態で存在している。層表面の負電荷及び層間陽イオンが色々な作用を起こすことによって、モンモリロナイトの特異的性質は発揮され、本発明では鉄粉水性懸濁液の増粘に利用している
【0044】
市販のベントナイトとしては、クニミネ工業(株)製のクニピアFを挙げることができ好ましい。市販の合成サポナイトとしては、クニミネ工業(株)製のスメクトンSAを挙げることができ好ましい。スメクトンSAは、サポナイト構造を有する合成無機高分子である。
【0045】
モンモリロナイト系粘土鉱物の平均粒径は、10〜100μm、特に20〜40μmが好ましい。この範囲で有効増粘効果が得られやすい。
【0046】
本発明のモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液は、さらに当該懸濁液を増粘させることができる添加剤を含んでいることが好ましい。これにより、少量のベントナイトで大きな増粘効果を得ることができる。またベントナイトのpHを、鉄粉の浄化能力が大きくなる中性域にシフトすることもできる。好適な添加剤としては、FeCl
2(塩化第一鉄)、FeCl
3(塩化第二鉄)、FeSO
4(硫酸第一鉄)、Fe
2(SO
4)
3(硫酸第二鉄)、FeO、FeSを挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。特にFeCl
2、FeCl
3、FeSO
4、及びFe
2(SO
4)
3が好ましく、中でもFeCl
2、FeSO
4が好ましい。
【0047】
上記添加剤は、モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液に、0.01〜0.5質量%(さらに0.01〜0.2質量%、特に0.02〜0.1質量%)となるように添加することが好ましい。
【0048】
例えば、クニピアFの2.5%の水性懸濁液の粘度は約20mPa・s(25℃)であるが、増粘添加剤であるFeCl
2を0.05質量%となるように添加すると、約250mPa・s(25℃)くらいに上昇し、またpHも6程度となり、大きな増粘効果を示すとともに高い浄化効果を示す(後述の実施例参照)。
【0049】
土壌浄化剤を用いる本発明の汚染土壌の浄化方法は、上記鉄粉又は鉄粉水性懸濁液とモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液(土壌浄化剤)との混合物を、有機ハロゲン化物で汚染された土壌(地盤)に浸透するように付与することにより行われる。好ましくは、土壌浄化剤の浸透を、土壌浄化剤を散布することにより行う方法(1);有機ハロゲン化物で汚染された土壌に、上記の土壌浄化剤を供給するための注入管を挿入し、該土壌浄化剤をその注入管に注入することからなる方法(2);及び上記の土壌浄化剤を、地盤改良用の施工機械で土壌中に供給し、土壌浄化剤と土壌とを撹拌・混合することからなる方法(3)を挙げることができる。
【0050】
上記方法(2)は、例えば
図1に示すように下記のように行うことができる。
【0051】
汚染土壌は一般に砂礫層(透水層)1とその下部にある粘土層(不透水層)2からなり、この汚染土壌に、有機ハロゲン化物で汚染された表面にボーリングにより土壌浄化剤3を供給するための注入孔4を設ける。注入孔4は必要により間隔を隔てて複数設けることができる。土壌浄化剤をポンプにより注入孔4に圧入する。注入孔4周囲に設けられた多数の穴から汚染土壌内に土壌浄化剤が矢印の方向に注入され、鉄粉が汚染土壌内に浸透し、有機ハロゲン化物と徐々に接触し、有機ハロゲン化物を分解除去する。
【0052】
注入孔4で注入する前に、注入孔4から地下水を排出し、その後土壌浄化剤を注入しても良い。注入液が土壌表面からあふれ出ないように土壌表面に不透水性シート(例、ベントナイトシート)で覆っても良い。あるいは土壌内にシートを埋め込んでも良い。
【0053】
そして、浄化処理は、例えば、注入孔4を通して排水し、注入管から本発明の洗浄剤を注入し、必要により減圧して、洗浄剤の拡散と、鉄による還元作用により発生する物質を除去することができる。
【0054】
上記の方法のように、有機ハロゲン化物で汚染された土壌の表面を、不通気性のシートで覆うこと(一般に、シートの覆いは浄化剤注入後に設置される)が好ましく、必要により通気性柱状部(上記発生物質の除去に有用)を設けることができる。
【0055】
有機ハロゲン化物以外の汚染物質で汚染された土壌も、上記と同様に行うことができる。また、汚染された土壌(特に6価クロムで汚染された土壌)を、土壌掘削法により掘削土壌を反応槽等に投入して本発明の土壌浄化剤で処理することもでき、そして、処理したクロム化合物等を除去することも有利な場合がある。
【0056】
土壌に注入する土壌浄化剤中の鉄粉の濃度は前述のように0.1〜50質量%であり、5〜30質量%が好ましい。また注入量は、一般に土壌1m
3当たり鉄粉5〜250kgであり、10〜150kgが好ましい。
【0057】
また、上記土壌浄化剤の注入は、鉄粉の水性懸濁液の注入、及び所望により使用される親水性バインダー等を含有する水性懸濁液の注入を分けて行っても良い。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
(a)モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液
モンモリロナイト系粘土鉱物として、クニピアF(クニミネ工業(株)製)、及びスメクトンSA(クニミネ工業(株)製)を用い、下記表1、2に示す濃度(質量%)となるように、蒸留水500ml中にマグネチックスターラーで撹拌しながら添加し、モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液を作製した。
得られた水性懸濁液の粘度を、B型粘度計(BMII、東機産業(株)製、回転数60rpm)を用いて25℃で測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
上記表1及び表2に示した各増粘剤の濃度に対する粘度のグラフを
図2に示す。
【0062】
[実施例2]
(a)モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液
モンモリロナイト系粘土鉱物として、クニピアF(クニミネ工業(株)製)を用い、2.5質量%のモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液を作製した。この懸濁液に、下記表3〜10の質量%となるように下記表3〜10の添加剤を添加して混合し、添加剤入りモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液を作製した。
【0063】
得られた水性懸濁液のpH、粘度を測定した。pHをpHメーター(D−50、(株)堀場製作所製)を用いて、粘度をB型粘度計(BMII、東機産業(株)製、回転数60rpm)を用いて25℃で測定した。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
【表8】
【0070】
【表9】
【0071】
【表10】
【0072】
上記表3〜10のクニピアFの濃度が2.5質量%における、各添加剤の濃度と粘度の関係を示すグラフを
図3に示す。
【0073】
上記表3〜10のクニピアFの濃度が2.5質量%における、各添加剤を添加したモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液(添加剤調製時)のpHと粘度の関係を示すグラフを
図4に示す。
【0074】
図3及び
図4から明らかなように、増粘効果及びpHの低下の効果がともに優れているのは、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄であり、塩酸、硫酸はpHが増粘とともに大きく低下するので好ましくない。
【0075】
[実施例3]
(a)モンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液
モンモリロナイト系粘土鉱物として、クニピアF(クニミネ工業(株)製)を用い、1.0質量%、1.5質量%、2.5質量%のモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液を作製した。この懸濁液に、下記表11〜13の質量%となるように塩化第一鉄を添加して混合し、添加剤入りモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液を作製し、また、この懸濁液に、下記表14〜16の質量%となるように硫酸第一鉄を添加して混合し、添加剤入りモンモリロナイト系粘土鉱物水性懸濁液を作製した。
【0076】
得られた水性懸濁液のpH、粘度を測定した。pHをpHメーター(D−50、(株)堀場製作所製)を用いて、粘度をB型粘度計(BMII、東機産業(株)製、回転数60rpm)を用いて25℃で測定した。
【0077】
【表11】
【0078】
【表12】
【0079】
【表13】
【0080】
【表14】
【0081】
【表15】
【0082】
【表16】
【0083】
上記表11〜13のクニピアFの濃度が1.0質量%、1.5質量%、2.5質量%における、塩化第一鉄の濃度と粘度の関係を示すグラフを
図5に示す。
【0084】
上記表14〜16のクニピアFの濃度が1.0質量%、1.5質量%、2.5質量%における、硫酸第一鉄の濃度と粘度の関係を示すグラフを
図6に示す。
【0085】
図5及び
図6から明らかなように、クニピアFの濃度が1.5質量%以上で、特に優れた増粘効果が得られる。
【0086】
[実施例4]
(a)鉄粉水性懸濁液
鉄粉(商品名:鉄、粉末−150μm、99.9%;粒径:99.9%が150μm以下、和光純薬(株)製)400gに、蒸留水1Lを添加し、撹拌して、40質量%の鉄粉水性懸濁液を得た。
【0087】
上記鉄粉水性懸濁液と、クニピアF又はクニピアFと添加剤の懸濁液を用いて下記のように試料を作製した。
【0088】
(1)TCE(トリクロロエチレン)5mg/L、
(2)TCE5mg/L+鉄粉50g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlの鉄粉水性懸濁液を混合して、80mlにメスアップして作製)
(3)TCE5mg/L+クニピアF4.3g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlのクニピアF35g/L(粘度(25℃)210mPa・s)とを混合して、80mlにメスアップして作製)
(4)TCE5mg/L+鉄粉50g/L+クニピアF4.3g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlの鉄粉400g/L+クニピアF35g/L(粘度(25℃)260mPa・s)とを混合して、80mlにメスアップして作製)
(5)TCE5mg/L+鉄粉50g/L+クニピアF3.1g/L+塩化第一鉄0.038g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlの鉄粉400g/L+クニピアF25g/L+塩化第一鉄0.3g/L(粘度(25℃)350mPa・s)とを混合して、80mlにメスアップして作製)
(6)TCE5mg/L+鉄粉50g/L+クニピアF3.1g/L+塩化第二鉄0.031g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlの鉄粉400g/L+クニピアF25g/L+塩化第二鉄0.25g/L(粘度(25℃)300mPa・s)とを混合して、80mlにメスアップして作製)
(7)TCE5mg/L+鉄粉50g/L+クニピアF3.1g/L+硫酸第一鉄0.0625g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlの鉄粉400g/L+クニピアF25g/L+硫酸第一鉄0.5g/L(粘度(25℃)290mPa・s)とを混合して、80mlにメスアップして作製
(8)TCE5mg/L+鉄粉50g/L+クニピアF3.1g/L+硫酸第二鉄0.0625g/L(8mlのTCE50mg/Lと、10mlの鉄粉400g/L+クニピアF25g/L+硫酸第二鉄0.5g/Lを混合して(粘度(25℃)275mPa・s)、80mlにメスアップして作製)
【0089】
【表17】
【0090】
上記表17の各浄化液による、TCE濃度の経過日数に対する変化を示すグラフを
図7に示す。
【0091】
上記表17の結果及び
図7から、本発明の鉄粉とモンモリロナイト系粘土鉱物の組合せで、TCEに優れた浄化作用を示し、さらに添加剤を加えることによりその浄化作用はより一層向上することがわかる。
【符号の説明】
【0092】
1 砂礫層(透水層)
2 粘土層(不透水層)
3 土壌浄化剤
4 注入孔