特許第6359901号(P6359901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359901
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-146227(P2014-146227)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-23320(P2016-23320A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】除補 正則
(72)【発明者】
【氏名】三木 修司
(72)【発明者】
【氏名】小見山 昌三
(72)【発明者】
【氏名】続橋 浩司
(72)【発明者】
【氏名】池田 洋
(72)【発明者】
【氏名】小西 希
(72)【発明者】
【氏名】金井 昌宏
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−022404(JP,A)
【文献】 特開2014−098190(JP,A)
【文献】 特開平06−248444(JP,A)
【文献】 特開2007−009268(JP,A)
【文献】 特開昭62−010271(JP,A)
【文献】 特開2014−019930(JP,A)
【文献】 特開2009−127125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割ターゲット材を平面状に並べて長尺状の矩形状に形成したターゲット材と、バッキングプレートとを接合したスパッタリングターゲットであって、
前記分割ターゲット材のうち、少なくとも前記ターゲット材の長手方向の中央部分を形成する中央分割ターゲット材は、平面視が一定幅の細長い帯板状に形成されており、
前記中央分割ターゲット材の短手方向の一端に配置される側面を突き合せて互いに平行に並べた一対の中央分割ターゲット材を、該中央分割ターゲット材の長手方向の一端に配置される端面を突き合せて複数組組み合わせることにより形成され
前記ターゲット材の長手方向の中心位置に、前記中央分割ターゲット材の前記端面を突き合せた位置が配置されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ターゲット材は、スパッタリング時において浸食されない外周部の角部を除去した形状とされていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲット材は、マイクロクラックを除去するための表面処理が施されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成のためのスパッタリング法で用いられるターゲット材とバッキングプレートとをボンディング材で接合してなるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スパッタリングターゲットは、薄膜を形成するための材料であるターゲット材を、導電性及び熱伝導性に優れた材料で形成されたバッキングプレートと呼ばれる裏当て板に、ボンディング材を介して積層されている。このターゲット材は、スパッタリング時において、プラズマ状態の不活性ガス等による衝撃を受け続けるため、その内部に熱が蓄積して高温となるが、バッキングプレートを介して冷却されるようになっている。
【0003】
近年では、薄膜形成を行う基板の大型化に伴い、スパッタリングターゲットも大型化の要望があり、その対応のため、例えば特許文献1に記載されているように、分割されたターゲット材を複数並べて大型のスパッタリングターゲットとすることが提案されている。
【0004】
特許文献1には、バッキングプレートが厚肉部の中央部と薄肉部の外周部とで段差を有する凸状に形成されるとともに、分割ターゲット材のうち、端部に配置される分割ターゲット材がバッキングプレートの段部に当接するように断面L字状に形成され、他の分割ターゲット材は平板状に形成され、これらが並べられることにより、スパッタリングターゲットの表面が略面一となるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐57598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、複数の分割ターゲット材により構成される大面積、長尺のスパッタリングターゲットにおいては、スパッタリング時において高温となるターゲット材側と、水冷等により冷却されるバッキングプレートとの間で温度差を生じやすい。このため、各分割ターゲット材の材質の熱膨張率と、バッキングプレートの材質の熱膨張率との差による反りが発生しやすい。特にシリコン等の脆性材料からなるターゲット材においては、スパッタリング時にターゲット材の表面に割れが発生したり、剥離を生じたりしやすく、その部分からパーティクルが発生して、被処理基板に付着したり、異常放電が発生したりすることがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、スパッタリング時におけるターゲット材の割れを防止し、さらにパーティクルの発生を防止することができるスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の分割ターゲット材を平面状に並べて長尺状の矩形状に形成したターゲット材と、バッキングプレートとを接合したスパッタリングターゲットであって
記分割ターゲット材のうち、少なくとも前記ターゲット材の長手方向の中央部分を形成する中央分割ターゲット材は、平面視が一定幅の細長い帯板状に形成されており
記中央分割ターゲット材の短手方向の一端に配置される側面を突き合せて互いに平行に並べた一対の中央分割ターゲット材を、該中央分割ターゲット材の長手方向の一端に配置される端面を突き合せて複数組組み合わせることにより形成され、前記ターゲット材の長手方向の中心位置に、前記中央分割ターゲット材の前記端面を突き合せた位置が配置されていることを特徴とする。
【0009】
このように、本発明のスパッタリングターゲットは、少なくともターゲット材の長手方向の中央部分を形成する個々の中央分割ターゲット材の長手方向を、ターゲット材の長手方向に合わせて配置するとともに、これら中央分割ターゲット材が対となるように短手方向の側面を突き合せて配置している。このため、スパッタリング時においてスパッタリングターゲットに反りが生じた場合であっても、中央分割ターゲット材が撓みやすくなっていることから、ターゲット材の表面に割れ等が生じにくくなっている。したがって、ターゲット材の表面の割れ等に起因するパーティクルの発生を防止することができる。
【0010】
また、バッキングプレートの撓みが最も大きくなる長手方向の中央位置に、中央分割ターゲット材の長手方向の端面を突き合せた位置を配置する、すなわちターゲット材の分割面を配置することで、耐割れ性をより向上させることができる。
【0011】
本発明のスパッタリグターゲットにおいて、前記ターゲット材は、スパッタリング時において浸食されない外周部の角部を除去した形状とされているとよい。
ターゲット材からスパッタされた粒子が、浸食されないターゲット材の角部の非エロージョン領域に付着して、その付着物が脱落することで生じるパーティクルの発生を防止することができる。
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、前記ターゲット材は、マイクロクラックを除去するための表面処理が施されているとよい。
加工時において形成されたマイクロクラックを除去するための表面処理を予め施すことで、マイクロクラックを起因とする割れの発生を回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スパッタリング時におけるターゲット材の割れを防止し、さらにパーティクルの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲットを示す平面図である。
図2】本発明のスパッタリングターゲットが使用されるスパッタリング装置の例を示す断面図である。
図3】本発明の第2実施形態のスパッタリングターゲットを示す平面図である。
図4】分割ターゲット材の突き合わせ部と処理基板との配置を説明する模式図である。
図5】水圧試験を説明する模式図である。
図6】バッキングプレートの材質の違いによる水圧と変位との関係を示すグラフであり、(a)が直径160mmのバッキングプレート、(b)が直径240mmのバッキングプレートの結果である。
図7】バッキングプレートの材質の違いによるスパッタリグターゲットの水圧と変位との関係を示すグラフである。
図8】ターゲット材の表面処理の有無による強度の違いを示すグラフであり、(a)が曲げ試験の結果、(b)が水圧試験の結果である。
図9】実施例及び比較例のターゲット材の分割状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明のスパッタリングターゲットが使用されるマグネトロンスパッタリング装置の一例を示している。このマグネトロンスパッタリング装置100は、真空チャンバ10内に、その下部で処理基板11を載置状態に保持するステージ12と、真空チャンバ10の上部でスパッタリングターゲット1を保持するターゲットホルダー13とが設けられており、これら処理基板11とスパッタリングターゲット1(ターゲット材20)との表面が相互間隔をおいて上下に対向させられるようになっている。また、ターゲットホルダー13の内部には、スパッタリングターゲット1の背面側に配置されるマグネット14a,14bが設けられている。また、ターゲットホルダー13は、真空チャンバ10の壁に絶縁状態で取り付けられており、スパッタリングターゲット1に電圧を印加するための外部電源15に接続されている。また、真空チャンバ10には、Arガス等の不活性ガスを導入するガス導入口16と、排気及び真空引きの為のガス排出口17とが形成されている。そして、スパッタリングターゲット1は、後に詳述するが、バッキングプレート30上にターゲット材20を接合して形成されたものである。
【0016】
このスパッタリング装置100では、真空チャンバ10内を真空状態にしておき、外部電源15からスパッタリングターゲット1と処理基板11との間に電圧を印加して、真空チャンバ10内に不活性ガスを導入すると、スパッタリングターゲット1の背部のマグネット14a,14bからの磁界が二点鎖線で示すようにターゲット材20の表面20aに漏洩することにより、破線で示すように放電プラズマがターゲット材20の表面20aに高密度に収束し、そのプラズマ中で不活性ガスのイオンが加速されてターゲット材20に入射し、これによりターゲット材20の表面20aからたたき出されたスパッタ原子が処理基板11に到達して、その表面に薄膜を形成する。
【0017】
このスパッタリング装置100に用いられるターゲット材20は、薄膜の材料となる金属、酸化物等により作製され、本実施形態においては、柱状晶シリコンを用いて作製される。そして、ターゲット材20は、図1に示すように、複数の分割ターゲット材21(本発明でいう、中央分割ターゲット材)を平面状に並べて長尺状の矩形状に形成されている。
各分割ターゲット材21は、平面視が一定幅の細長い帯板状に形成されている。そして、ターゲット材20は、これらの分割ターゲット材21の短手方向の一端に配置される側面を突き合せて互いに平行に並べた一対の分割ターゲット材21,21を、その分割ターゲット材21の長手方向の一端に配置される端面を突き合せて複数組(図示例では4組)組み合わせることにより形成されている。また、このターゲット材20の長手方向の中心位置に、分割ターゲット材21の端面を重ねた合わせた位置が配置され、ターゲット材20の中心位置を境に各分割ターゲット材21が対称に配置されている。
【0018】
また、ターゲット材20は、加工時において形成されたマイクロクラックを除去するために予め表面処理が施されており、マイクロクラックを起因とする割れの発生を回避することができる。表面処理としては、ターゲット材20のスパッタ面20aに対して、研削砥石の荷重や回転速度などを厳しくコントロールした精密研磨、スパッタリング処理、レーザー処理、エッチング処理などを施す方法が挙げられる。
そして、これら分割ターゲット材21は、バッキングプレート30にボンディング材(図示略)によって一体に接合されている。
【0019】
バッキングプレート30は、無酸素銅や銅合金、モリブデン等の導電性及び熱伝導性に優れた材料により作製され、図1に示すように、平面視がターゲット材20よりも一回り大きい矩形状に形成されている。そして、このバッキングプレート30上に接合された各分割ターゲット材21の表面は面一となるように揃えられ、この面一に揃えられた表面がスパッタ面20aとされたスパッタリングターゲット1が構成される。
なお、バッキングプレート30の表面には、ブラスト処理が施されており、スパッタリング時において反応生成物が固化して付着した際に、この反応生成物が脱落するのを防止して、パーティクルとなることを防止できるようになっている。
【0020】
このスパッタリングターゲット1の寸法の一例を示せば、バッキングプレート30の幅W1が130mm、長さL1が610mm、厚みが6mmに形成され、分割ターゲット材21は、いずれも幅W2が60mm、長さL2が150mm、厚みが5mmに形成されている。
【0021】
このように構成されたスパッタリングターゲット1は、バッキングプレート30が設けられていない側のスパッタ面20aを処理基板11に対向させた状態でスパッタリング装置100のターゲットホルダー13に取り付けられる。
スパッタリング時においてターゲット材20に発生する熱は、バッキングプレート30を介して放熱される。この際、高温となるターゲット材20側と、水冷等による冷却されるバッキングプレートとの間で温度差を生じ易く、各分割ターゲット材の材質の熱膨張率と、バッキングプレートの材質の熱膨張率との差により、スパッタリングターゲット1に反りが発生しやすい。
【0022】
ところが、本実施形態のスパッタリングターゲット1においては、個々の分割ターゲット材21の長手方向を、ターゲット材20の長手方向に合わせて配置するとともに、これら分割ターゲット材21が対となるように短手方向の側面を突き合せて配置している。このため、スパッタリング時においてスパッタリングターゲット1に反りが生じた場合であっても、分割ターゲット材21が撓みやすくなっていることから、ターゲット材20の表面に割れ等が生じにくくなっている。また、各分割ターゲット21は、加工時において形成されたマイクロクラック等を除去するために予め表面処理が施されており、これらのマイクロクラック等を起因として、割れの発生を助長することを回避することができる。
したがって、ターゲット材20の表面の割れ等に起因するパーティクルや異常放電の発生を防止することができる。
【0023】
また、バッキングプレート30の撓みが最も大きくなる長手方向の中央位置に、分割ターゲット材21の長手方向の端面を突き合せた位置を配置する、すなわちターゲット材20の分割面を配置することで、耐割れ性をより向上させることができる。
【0024】
なお、第1実施形態のスパッタリングターゲット1においては、ターゲット材20全体を、平面視が一定幅の細長い帯板状とされる同一形状の分割ターゲット材21により形成したが、図3に示す第2実施形態のスパッタリングターゲット40のように、ターゲット材25の両端部分を矩形状の端部分割ターゲット材23で構成し、少なくともターゲット材25の長手方向の中央部分を形成する中央分割ターゲット材22を、平面視が一定幅の細長い帯板状に形成して、これら中央分割ターゲット材22の短手方向の一端に配置される側面を突き合せて互いに平行に並べた一対の中央分割ターゲット材22,22を、その中央分割ターゲット材22の長手方向の一端に配置される端面を突き合せて複数組を組み合わせる構成としてもよい。
【0025】
このように、第2実施形態のスパッタリングターゲット40においては、スパッタリング時においてスパッタリングターゲット40に反りが生じた場合であっても、ターゲット材25の反り量が最も大きくなる中央部分を形成する個々の中央分割ターゲット材22の長手方向を、ターゲット材25の長手方向に合わせて配置するとともに、これら中央分割ターゲット材22が対となるように短手方向の側面を突き合せて配置している。このため、スパッタリング時においてターゲット材25の中央部分の中央分割ターゲット材22が撓みやすくなっていることから、ターゲット材25の表面に割れ等が生じにくくなっている。したがって、第1実施形態のスパッタリングターゲット1と同様に、ターゲット材25の表面の割れ等に起因するパーティクルや異常放電の発生を防止することができる。
【0026】
なお、複数の分割ターゲット材により形成されるスパッタリングターゲットを用いて複数の処理基板に薄膜を形成する場合においては、図4に示すように、ターゲット材28の分割面、すなわち個々の分割ターゲット材29の短手方向の側面どうし及び長手方向の端面どうしの突き合せ部を、処理基板19と対向する位置を避けて配置することが望ましい。これにより、分割ターゲット材29の短手方向の側部どうし及び長手方向の端面どうしの突き合せ部から発生するおそれがあるパーティクルの影響を最小限に抑えることができる。
【0027】
また、上記実施形態において、分割ターゲット材により構成されるターゲット材は平面視を矩形状とする形態のものを用いて説明をおこなったが、ターゲット材の形状はこれに限定されるものではなく、図3に二点鎖線で示すように、スパッタリング時において浸食されない外周部の角部24を除去した形状とすることもできる。この場合、ターゲット材からスパッタされた粒子が、スパッタリング時において浸食されない領域(非エロージョン領域)の角部24に付着して、その付着物が脱落することで生じるパーティクルの発生を防止することができる。
【0028】
(実施例及び比較例)
本発明の効果を確認するために、種々の試験を行った。
[バッキングプレートについて]
まず、バッキングプレートの材質による違いを確認するため、無酸素銅(OFC)、銅合金(CrZr銅:Cr 1at%,Zr 0.1at%)、モリブデン(Mo)のそれぞれの材料からなる直径160mm又は直径240mm、厚み6mmの円板状のバッキングプレートを形成し、各バッキングプレートについて「水圧試験」を行った。
「水圧試験」は、図5に示すように、各バッキングプレート60の周縁部全周を水圧試験機50に取り付けた状態で、水圧試験機50の内部51の水圧を上昇させて、その際のバッキングプレート60の変位量を測定して評価を行った。
直径160mmのバッキングプレートの結果を図6(a)に、直径240mmのバッキングプレートの結果を図6(b)に示す。
【0029】
図6(a)及び(b)からわかるように、バッキングプレートの直径の大きさにかかわらず、水圧と変位量との関係は、材質によって傾向が決定されていることがわかる。また、無酸素銅(OFC)が最も撓みやすく、モリブデンが最も撓みにくいことがわかる。
【0030】
次に、無酸素銅(OFC)、銅合金(CrZr銅:Cr 1at%,Zr 0.1at%)からなる210×135mmで厚みが5mm又は7mmのバッキングプレートに、200×125×5mmの柱状晶シリコン(B(ボロン)ドープ:比抵抗3〜10mΩ・cm)からなるターゲット材をインジウムはんだ(0.2mm厚み)によりボンディングしたスパッタリングターゲットの試料を作製し、これらの試料について、図5に示すバッキングプレート単体の水圧試験機と同様の構成で、「水圧試験」を行った。
【0031】
この場合、図5に示すように、各試料のバッキングプレート60の全周を水圧試験機50に取り付けた状態で、水圧試験機50の内部51の水圧を上昇させて、ターゲット材61の表面に割れが生じたり、バッキングプレートから剥離したりするまでの破壊到達圧を評価するものであり、破壊到達圧の評価とともに、ターゲット材61の破壊時の反り量を測定して評価を行った。図7に結果を示す。
【0032】
図7からわかるように、バッキングプレートの厚みを増すことにより、破壊到達圧が大きくなる結果となった。
【0033】
[ターゲット材について]
次に、ターゲット材への表面処理の有無によるターゲット材の強度の違いを確認するため、加工時に形成されたターゲット材表面のマイクロクラック等をエッチング処理することにより除去したターゲット材(未処理)と、加工後に表面処理を施さずにマイクロクラック等が形成されたままのターゲット材(処理済)とを用意し、「曲げ試験」及び「水圧試験」を行った。また、各ターゲット材は、200×125×5mmの柱状晶シリコン(B(ボロン)ドープ)を用いた。
【0034】
「曲げ試験」は、ターゲット材それぞれについてJIS R 160に規定される4点曲げ試験により行った。
「水圧試験」は、図5に示すように、無酸素銅(OFC)からなる210×135×5mmのバッキングプレートに、ターゲット材をインジウムはんだ(0.2mm厚み)によりボンディングしたスパッタリングターゲットの試料を作製し、これらの試料について行った。この場合、「水圧試験」は、各試料のバッキングプレート60の全周を水圧試験機50に取り付けた状態で、水圧試験機50の内部51の水圧を上昇させて、ターゲット材61の表面に割れが生じたり、完全に分断されたりするまでの破壊到達圧(耐圧)を評価するものであり、破壊到達圧の評価とともに、ターゲット材61の破壊時の反り量を測定して評価を行った。
「曲げ試験」の結果を図8(a)、「水圧試験」の結果を図8(b)に示す。
【0035】
図8(a)及び(b)からわかるように、表面処理を行ったターゲット材(処理済)では、表面処理をしていないターゲット材(未処理)に比べて、曲げ強度及び破壊到達圧が大きく、良好な結果が得られた。
【0036】
次に、ターゲット材の形状を変更したスパッタリングターゲットの試料を作製し、分割ターゲット材の形状の違いによる割れの発生しやすさを確認するための試験を行った。
スパッタリングターゲットの試料を構成するバッキングプレートは、銅合金(Cu‐1wt%Cr-0.1wt%Zr)により形成し、いずれも幅が135mm、長さが210mm、厚みが5mmとされる矩形状のものを用いた。
また、各試料のターゲット材は、柱状晶シリコン(B(ボロン)ドープ)により形成し、いずれも幅が125mm、長さが200mm、厚みが10mmとされる矩形状のものを用いた。また、比較例1は図9(a)に示すように分割面を有さないターゲット材20A、比較例2は図9(b)に示すように長手方向に三分割したターゲット材20B、実施例1は図9(c)に示すように短手方向に二分割したターゲット材20Cにより構成した。
そして、バッキングプレート31に各ターゲット材20A〜20Cをボンディングしたスパッタリングターゲットの各試料を作製し、これら各試料を用いて、「水圧試験」と「スパッタリング試験」を行った。
【0037】
「水圧試験」は、図5に示すように、各試料のバッキングプレート31の全周を水圧試験機50に取り付けた状態で、水圧試験機50の内部51の水圧を上昇させて、ターゲット材20A〜20Cの表面に割れが生じたり、バッキングプレート31から剥離したりするまでの破壊到達圧を評価するものであり、破壊到達圧の評価とともに、ターゲット材20A〜20Cの破壊時の反り量を測定して評価を行った。水圧試験は、試料ごとに3回(n1〜n3)行った。
表1に結果を示す。
【0038】
「スパッタリング試験」は、水圧試験を行った各試料とは別に、同条件のスパッタリングターゲットを作製し、それらを用いて行った。このスパッタリング試験は、各スパッタリングターゲットを、DCスパッタリング装置によるスパッタ時間1時間、電力密度10Wh/cm、積算電力量10WHr/cmのスパッタリングを行うものである。なお、各スパッタリングターゲットは、ボンディング後に、予めX線透過像によりボンディング欠陥、クラック等がないことを確認した。そして、スパッタリング時の異常放電の発生回数、ターゲット材への割れの発生数、ターゲット材に発生した割れの最大サイズを確認した。
結果を表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1からわかるように、短手方向に二分割したターゲット材により構成した実施例1が、破壊時の変位量が大きかった。そして、表2からわかるように、スパッタリング試験においても、実施例1のスパッタリングターゲットは、スパッタリング時において割れ等を生じることなく、異常放電も確認されなかった。
このように、短手方向に二分割したターゲット材、すなわち個々の分割ターゲット材の長手方向を、ターゲット材の長手方向に合わせて配置するとともに、これら分割ターゲット材が対となるように短手方向の側面を突き合せて配置することで、ターゲット材の表面に割れ等が生じにくくなっており、ターゲット材の表面の割れ等に起因するパーティクルや異常放電の発生を防止できる。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1,40 スパッタリングターゲット
10 真空チャンバ
11 処理基板
12 ステージ
13 ターゲットボルダ―
14a,14b マグネット
15 外部電源
16 ガス導入口
17 ガス排出口
20,20A〜20C,61 ターゲット材
20a スパッタ面
21 分割ターゲット材
22 中央分割ターゲット材(分割ターゲット材)
23 端部分割ターゲット材(分割ターゲット材)
24 非エロージョン部
30,31,60 バッキングプレート
50 水圧試験機
51 内部
100 マグネトロンスパッタリング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9