特許第6359916号(P6359916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6359916-セラミック成形体の製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6359916
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】セラミック成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20180709BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180709BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K3/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-167541(P2014-167541)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-44202(P2016-44202A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】平光 秀明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−033790(JP,B1)
【文献】 特開平05−112698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00−63/10
C08K 3/00−3/49
C08G 59/00−59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエポキシ樹脂と硬化剤と溶媒としての水とセラミック粉末とからなる混合物を用いて成形体を作製し、その後、前記成形体を加熱して前記エポキシ樹脂を硬化させることによってセラミック成形体を作製するセラミック成形体の製造方法において、
前記エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であり、
前記エポキシ樹脂の水溶率が100%であり、
前記混合物における前記水の含有量が38容積%〜44容積%であることを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項2】
少なくともエポキシ樹脂と硬化剤と溶媒としての水とセラミック粉末とからなる混合物を用いて成形体を作製し、その後、前記成形体を加熱して前記エポキシ樹脂を硬化させることによってセラミック成形体を作製するセラミック成形体の製造方法において、
前記混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であり、
前記エポキシ樹脂の水溶率が100%であり、
前記混合物における前記水の含有量が38容積%〜44容積%であることを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であることを特徴とする請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、脂肪族グリシジルエーテルであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミック成形体の製造方法。
【請求項5】
前記硬化剤が、変性ポリアミド系硬化剤であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミック成形体の製造方法。
【請求項6】
前記混合物のずり速度15s−1にて測定した時の常温での第1粘度が、4Pa・s以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミック成形体の製造方法。
【請求項7】
前記混合物のずり速度1s−1にて測定した時の常温での第2粘度が、4Pa・s以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミック成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プラグ、メタルハライドランプ、静電チャック、ドームなどに用いられるセラミック焼結体を製造する際に適用できるセラミック成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば耐熱性や耐久性などの高い性能を有するセラミック焼結体からなるセラミック部品が開発されている。これらのセラミック部品は、セラミックスラリーを硬化・乾燥させたセラミック成形体を焼結することによって製造することができる。
【0003】
また、近年では、セラミックの成形性の向上を目的として、セラミック粉体、水溶性エポキシ樹脂などの硬化性樹脂、アミン系化合物などの硬化剤、水などの溶媒などを混合し、脱泡、注型、硬化することで成形する方法が開示されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
これらの特許文献1、2では、気泡が強度低下の原因であるとして、その低減を目的としており、溶媒との親和性がよい硬化性樹脂を選択することが望ましいことが一般論として開示されている。これは、溶媒との親和性が悪いと、硬化性樹脂が分離して、成形体内部で偏析し、焼結時にポアなどの欠陥の原因となる恐れがあるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−234852号公報
【特許文献2】特開2007−136912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術では、溶媒に水を利用した場合、水溶性エポキシ樹脂としてどのような特性のものが最も好適であるかについての開示はない。
具体的には、例えば硬化・乾燥・脱脂・焼成等の各製造工程において、成形体などにクラックが生じにくい製造方法については、十分に開示がない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造工程においてクラックが生じにくいセラミック成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、第1態様として、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤と溶媒としての水とセラミック粉末とからなる混合物を用いて成形体を作製し、その後、前記成形体を加熱して前記エポキシ樹脂を硬化させることによってセラミック成形体を作製するセラミック成形体の製造方法において、前記エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であり、前記エポキシ樹脂の水溶率が100%であり、前記混合物における前記水の含有量が38容積%〜44容積%であることを特徴とする。
【0009】
エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%を上回る場合には、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが生じやすい。
つまり、塩素を多く含有しているということは、グリシジルエーテル化反応によりエポキシ化されていない部分が多いということを示しており、エポキシ樹脂が不均一になり易く、セラミック成形体にクラックを生じ易いと考えられる。また、塩素が残った部分(グリシジルエーテル化されていない部分)は、極性が低いため、エポキシ樹脂の水溶性が低くなるので、不溶物を起点としたクラックが生じ易いと考えられる。
【0010】
このように、本第1態様では、エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であるので、セラミック成形体にクラックが生じ難いという効果がある。
つまり、本第1態様では、例えば硬化・乾燥・脱脂等の各工程において得られる各成形体にクラックが生じにくく、結果として、この成形体を焼成して得られるセラミック焼結体にクラックが生じ難いという効果がある。
【0011】
ここで、エポキシ樹脂は、水に溶ける水溶性エポキシ樹脂であり、硬化剤は、このエポキシ樹脂を硬化させるものである。
また、本発明におけるセラミック成形体は、焼結前の未焼結のセラミック製の成形体を意味している。即ち、硬化、乾燥、脱脂等の各工程におけるセラミック製の成形体を含む概念である(以下同様)。
【0012】
また、本第1態様では、エポキシ樹脂の水溶率が100%であるので(エポキシ樹脂が全て水に溶けているので)、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが発生し難い。
つまり、エポキシ樹脂の水溶率が100%未満の場合には、セラミック成形体にクラックが生じ易い。これは、水溶率が100%未満の場合には、不溶物を起点としたクラックが生じ易いと考えられるからである。
通常、水溶性エポキシ樹脂と言われる製品の中でも、水溶率に違い(優劣)があり、水溶率が100%のものがクラックが発生し難く好適である。
ここで、水溶率とは、常温(室温:25℃)にて、水90部にエポキシ樹脂10部が溶解したときの溶解率である。つまり、エポキシ樹脂のうち水に溶解した割合が水溶率である。従って、水90部にエポキシ樹脂10部が全て溶解した場合が、水溶率100%である。(なお、この水溶率は第2態様においても同様である)
さらに、本第1態様では、前記混合物における水の含有量(水分量)が、38容積%〜44容積%である。
後述する実験例に示すように、水の含有量が38容積%を下回る場合には、セラミック成形体にクラックが生じやすい。一方、水の含有量が44容積%を上回る場合には、樹脂の硬化が十分に進行し難く、強度が低下し、取り扱いの際に破損し難くなる。
従って、上述した範囲であれば、クラックが生じにくく、且つ、取り扱いが容易であるので、好適である。
(2)本発明は、第2態様として、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤と溶媒としての水とセラミック粉末とからなる混合物を用いて成形体を作製し、その後、前記成形体を加熱して前記エポキシ樹脂を硬化させることによってセラミック成形体を作製するセラミック成形体の製造方法において、前記混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であり、前記エポキシ樹脂の水溶率が100%であり、前記混合物における前記水の含有量が38容積%〜44容積%であることを特徴とする。
【0013】
混合物のチキソトロピーインデックスが4を下回る場合には、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが生じやすい。
つまり、本第2態様では、混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であるので、セラミック成形体にクラックが生じ難いという効果がある。
【0014】
ここで、チキソトロピーインデックスとは、粘度比(ずり速度1s−1での粘度/ずり速度15s−1での粘度)である(以下同様)。
なお、混合物のチキソトロピーインデックスとしては、30以下を採用できる。チキソトロピーインデックスが大きすぎると、混合物を注型したときに、液面が平坦化しにくいためである。
【0015】
また、本第2態様では、第1態様と同様に、第エポキシ樹脂の水溶率が100%であるので(エポキシ樹脂が全て水に溶けているので)、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが発生し難い。
さらに、本第2態様では、第1態様と同様に、前記混合物における水の含有量(水分量)が、38容積%〜44容積%である。よって、クラックが生じにくく、且つ、取り扱いが容易であるので、好適である。
(3)本発明では、第3態様として、前記エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であることを特徴とする。
本第3態様では、前記第1態様と同様に、エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であり、しかも、前記第2態様と同様に、混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であるので、クラックがより一層生じ難いという効果がある。
【0019】
)本発明では、第態様として、前記エポキシ樹脂が、脂肪族グリシジルエーテルであることを特徴とする。
本第態様は、好適なエポキシ樹脂を例示したものである。
【0020】
前記脂肪族グリシジルエーテルとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、プロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロム化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などを採用できる。
【0021】
また、前記エポキシ樹脂としては、脂肪族グリシジルエーテル以外に、例えば、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などを採用できる。
【0022】
)本発明は、第態様として、前記硬化剤が、変性ポリアミド系硬化剤であることを特徴とする。
本第態様は、好適な硬化剤を例示したものである。この変性ポリアミド系硬化剤は、環境や人体に悪影響を及ぼし難いので好適である。
【0023】
前記変性ポリアミド系硬化剤としては、例えば、ダイマー酸と脂肪族ポリアミンの反応で製造したものを用いることができる。変性ポリアミド系硬化剤の性質は、ポリアミンの種類、アミンとダイマー酸の比、第三の改質成分の量で決定される。第三の改質成分は、例えば、エポキシ樹脂があり、これをあらかじめ反応させることによって、変性ポリアミドのエポキシ樹脂への相溶性が大幅に改善される。
【0024】
また、前記硬化剤としては、前記変性ポリアミド系硬化剤以外に、例えば、一級、二級、三級アミン化合物、イミダゾール化合物、酸無水物類、ジシアンジアミドなどを採用できる。
【0026】
)本発明は、第態様として、前記混合物のずり速度15s−1にて測定した時の常温での第1粘度が、4Pa・s以下であることを特徴とする。
【0027】
本第態様では、前記混合物の第1粘度が4Pa・s以下であるので、成形型への流れ性が良好という利点がある。
ここで、常温とは、例えば25℃を示している(以下同様)。
【0028】
なお、第1粘度の下限値としては、1Pa・sを採用できる。
)本発明は、第態様として、前記混合物のずり速度1s−1にて測定した時の常温での第2粘度が、4Pa・s以上であることを特徴とする。
【0029】
本第態様では、前記混合物の第2粘度が4Pa・s以上であるので、成形型へ流し込んだ後、沈降しにくいという利点がある。
なお、第2粘度の上限値としては、16Pa・sを採用できる。
【0030】
ここで、上述した本発明の構成等について、更に説明する。
・前記第1態様では、エポキシ樹脂の全塩素含有量を4重量%以下としたが、その方法としては、例えば特開2011−207932号公報に記載の方法が挙げられる。
【0031】
ここでのエポキシ樹脂は、活性水素化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られ、全ハロゲン含有量が80重量ppm以下である。このエポキシ樹脂を、昇華法、蒸留法、晶析法、アルカリ洗浄法により精製する。これにより、各種絶縁材料や積層板などの電気、電子材料として有用なハロゲン溶出の問題のない高信頼性のエポキシ樹脂が得られる。
【0032】
・エポキシ樹脂の塩素含有量の求め方については、JIS K7243−3に規定されている。
具体的には、全塩素量は、エポキシ樹脂中に存在する1,2−クロルヒドリン、1,3−クロルヒドリン、1−クロル−2−グリシジルエーテルなどの全可けん化有機塩素量及び無機塩素からなる。その評価原理は、試料をジエチレングリコールモノブチルエーテルで溶解させ、水酸化カリウムアルコール溶液で加熱還流下にてけん化することで有機塩素を遊離させる。次いで、全塩素量を標準容量分析用硝酸銀溶液の電位差測定によって測定する。
【0033】
・前記セラミック粉末のセラミック材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニアなどを採用できる(以下同様)。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】スラリーを注型に流し込んで硬化させる状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[実施形態]
a)まず、本実施形態のセラミック成形体の製造方法を説明する。
【0036】
本実施形態では、以下の工程で、セラミック成形体を作製し、その後、このセラミック成形体からセラミック焼結体を作製した。
<分散混合工程>
まず、アルミナ粉末660g(AES−12 住友化学製 平均粒径:0.57μm BET比表面積:6.4m/g)に対し、分散剤:G−700(共栄社化学製)を3.3g(0.5重量%:外重量%)添加した。
【0037】
そして、イオン交換水を最終的な水分量を所定の水分量(例えばスラリー全体の38体積%〜44体積%)となるように添加し、玉石とともにポットに入れ、回転し混合と分散を行った。
【0038】
<樹脂混合工程>
次に、前記分散混合工程で分散混合したアルミナ分散液に、各種のエポキシ樹脂(ナガセケムテックス製)を47.3g投入し、10分間混合した。
【0039】
さらに、変性ポリアミド系の硬化剤(T&K TOKA株式会社製 TXH−694 アミン価172 粘度5Pa・s)を化学量論的に必要な添加量を加え、さらに2分間混合を行い、その後2分間真空脱泡を行った。これでスラリー(混合物)が完成する。
【0040】
<注型、硬化工程>
次に、前記スラリーを、図1に示す成形型(注型)1(幅5mm フッ素樹脂でコートした金属製)に流し込み、上型2(ポリカーボネート製)で封止した。
【0041】
その後、前記スラリー(S)を加熱して硬化(80℃×100%RH×5h 昇降温速度:5℃/h)を行った後、上型2と成形型1とを外し、硬化湿潤体を取り出した。
<乾燥工程>
次に、この硬化湿潤体に含まれる水分を除去するために、硬化湿潤体を、下記の条件で乾燥して加湿乾燥体を作製した。
【0042】
下記の加湿乾燥条件にて、湿度を徐々に下げて乾燥した。
加湿乾燥条件:80℃×80%RH×12h→80℃×60%RH×12h→80℃×40%RH×12h
昇降温速度:5℃/h
降湿速度:5%RH/h
<脱脂工程>
次に、前記加湿乾燥体を、下記の脱脂条件にて脱脂し、脱脂体を作製した。
【0043】
脱脂条件:400℃×2h
昇温速度:2.5℃/h
<焼成工程>
次に、前記脱脂体を、下記の焼成条件にて焼成して焼結させて、セラミック焼結体を作製した。
【0044】
焼成条件:1600℃×6h
昇温速度:25℃/h
上述したセラミック成形体の製造方法は、下記の実験例に示すように、セラミック成形体にクラックが発生することを抑制でき、優れたセラミック製品を容易に製造することができる。
【0045】
また、ニアネット成形性や脱型性に優れ、成形後に変形しにくいという利点がある。さらに、微細な型、特に幅10mm以下の場所がある型への充填性に優れている。その上、有機溶媒を使用しないので、環境等に悪影響を与えにくいという利点がある。
【0046】
b)次に、本実施形態のセラミック成形体の製造方法の効果を確認するために行った実験例について説明する。
この実験例(下記実験例1〜5)では、下記表等に示す材料を用い、上述した実施態様の製造方法によって、試料1〜9及び試料A〜Hを作製し、各表に示す特性を調べた。なお、試料1〜9が本発明の範囲の試料であり、試料A〜Hが本発明の範囲外の試料である。
【0047】
具体的には、下記のようにして、各試料の「(スラリーの)粘度」、「(スラリーの)流れ性」、「(硬化湿潤体の)脱型性」、「成形性」、「均一性」を調べた。そして、それらの結果を、下記表1〜表5に示した。
【0048】
<粘度の測定方法>
粘度は、常温(25℃)において、ずり速度1s−1とずり速度15s−1にて測定した。なお、ずり速度1s−1は、注型が終わり硬化までの間に静置した状態に相当し、ずり速度15s−1は、概ね注型する時のずり速度に相当する。
【0049】
粘度の測定装置:レオメーター(レオメトリック・サイエンティフィック社)
粘度の評価方法:クエット方式
治具寸法 :ボブ(φ25mm)/カップ(φ27mm)
スラリー投入量:8ml
<流れ性の評価方法>
流れ性は、スラリーを型に充填し、硬化した後に、型に隙間無く充填させたかを目視で確認する方法で評価した。間隙や空隙が無く充填された場合を○とし、そうでない場合を×とした。
【0050】
<脱型性の評価方法>
下記のサンプル形状の型を用いて、同寸法の硬化湿潤体を作製し、硬化後に変形することなく型から取出すことができた場合を○、できなかった場合を×とした。
【0051】
サンプルの形状:φ50mm×T(厚み)10mm
<成形性の評価方法>
下記のサンプル形状の加湿乾燥体のサンプルを作製し、目視にてクラックやエッジ部分の欠けを観察し、クラックと欠けがなかったものを○、いずれかが見られたものを×とした。
【0052】
サンプルの形状:φ50mm×T(厚み)10mm
<均一性の評価方法>
注型後、粒子の沈降により分布や密度に違いが生じるとセラミック製品として好ましくない。そこで、硬化湿潤体の上と下で粒子の分布や密度に差があるか評価した。粒子の分布や密度は、顕微鏡で観察して評価した。粒子の分布と密度に違いがないものを○、違いが見られたものを×とした。
【0053】
[実験例1]
前記実施形態のセラミック成形体の製造方法において、前記スラリーの水分量を39.6体積%と一定にして、エポキシ樹脂に含まれる全塩素含有量を変更した各試料(試料1〜4、試料A)を作製した。そして、各試料において、スラリーの粘度、硬化湿潤体の脱型性、加湿乾燥体の成形性への影響を評価した。その結果を表1に示す。なお、表1には、粘度比から求めたチキソトロピーインデックスも記載した。
【0054】
なお、いずれの試料も水溶率は100%である。また、エポキシ樹脂の全塩素含有量は、表2のEX1610とEX521の混合割合を変更することで調整した。
【0055】
【表1】
この表1から明らかなように、全塩素含有量が4重量%より多いと(試料A)、チキソトロピーインデックスが低く、脱型性、成形性も悪い。従って、エポキシ樹脂に含まれる全塩素含有量としては、4重量%以下が望ましい(試料1〜4)。
【0056】
なお、チキソトロピーインデックスが4以上と高い試料1〜4は、多種のセラミックの成形に適している。これは、硬化中に比重の大きい粒子や粒径の大きい粒子の沈降することを防止できるためであり、比重差のある無機物を成形する場合には、特に好ましい。
【0057】
[実験例2]
前記実施形態のセラミック成形体の製造方法において、前記水分量を39.6体積%と一定として、成形に好適なエポキシ樹脂を評価した。なお、使用したエポキシ樹脂を表2に、評価結果を表3に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
なお、表2の品番とは、ナガセケムテックス製のエポキシ樹脂の品番である。また、この表2では、エポキシ樹脂の当量と水溶率と粘度も表示した。
【0060】
この表2、表3から明らかなように、全塩素含有量が4重量%以下、水溶率100%、(脂肪族エポキシ樹脂である)グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂の場合(試料5)には、流れ性、成形性、均一性に優れており、クラックのない良好な結果が得られた。なお、焼結後のアルミナの密度は3.9g/cmであり、焼結性は良好であった。
【0061】
[実験例3]
前記実験例2で良好な結果が得られた試料5のエポキシ樹脂EX1610(全塩素含有量0.5重量%)について、水分量を変更して、粘度、流れ性、成形性を評価した。その結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
この表4から明らかなように、水分量が38体積%〜44体積%の範囲内の試料(試料7、8)は、流れ性、成形性、均一性に優れていることが分かる。
【0063】
[実験例4]
前記実験例2の試料Bで用いたエポキシ樹脂EX521(全塩素含有量6.4重量%)について、水分量を変更して、粘度、流れ性、成形性を評価した。その結果を下記表5に示す。
【0064】
【表5】
この表5から明らかなように、いずれの試料(試料E〜H)も、成形性が好ましくないことが分かる。エポキシ樹脂EX521の全塩素含有量が高いためと考えられる。
【0065】
尚、本発明は前記実施形態などになんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1…成形型
2…上型
S…スラリー
図1