【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、第1態様として、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤と溶媒としての水とセラミック粉末とからなる混合物を用いて成形体を作製し、その後、前記成形体を加熱して前記エポキシ樹脂を硬化させることによってセラミック成形体を作製するセラミック成形体の製造方法において、前記エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であ
り、前記エポキシ樹脂の水溶率が100%であり、前記混合物における前記水の含有量が38容積%〜44容積%であることを特徴とする。
【0009】
エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%を上回る場合には、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが生じやすい。
つまり、塩素を多く含有しているということは、グリシジルエーテル化反応によりエポキシ化されていない部分が多いということを示しており、エポキシ樹脂が不均一になり易く、セラミック成形体にクラックを生じ易いと考えられる。また、塩素が残った部分(グリシジルエーテル化されていない部分)は、極性が低いため、エポキシ樹脂の水溶性が低くなるので、不溶物を起点としたクラックが生じ易いと考えられる。
【0010】
このように、本第1
態様では、エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であるので、セラミック成形体にクラックが生じ難いという効果がある。
つまり、本第1態様では、例えば硬化・乾燥・脱脂等の各工程において得られる各成形体にクラックが生じにくく、結果として、この成形体を焼成して得られるセラミック焼結体にクラックが生じ難いという効果がある。
【0011】
ここで、エポキシ樹脂は、水に溶ける水溶性エポキシ樹脂であり、硬化剤は、このエポキシ樹脂を硬化させるものである。
また、本発明におけるセラミック成形体は、焼結前の未焼結のセラミック製の成形体を意味している。即ち、硬化、乾燥、脱脂等の各工程におけるセラミック製の成形体を含む概念である(以下同様)。
【0012】
また、本第1態様では、エポキシ樹脂の水溶率が100%であるので(エポキシ樹脂が全て水に溶けているので)、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが発生し難い。
つまり、エポキシ樹脂の水溶率が100%未満の場合には、セラミック成形体にクラックが生じ易い。これは、水溶率が100%未満の場合には、不溶物を起点としたクラックが生じ易いと考えられるからである。
通常、水溶性エポキシ樹脂と言われる製品の中でも、水溶率に違い(優劣)があり、水溶率が100%のものがクラックが発生し難く好適である。
ここで、水溶率とは、常温(室温:25℃)にて、水90部にエポキシ樹脂10部が溶解したときの溶解率である。つまり、エポキシ樹脂のうち水に溶解した割合が水溶率である。従って、水90部にエポキシ樹脂10部が全て溶解した場合が、水溶率100%である。(なお、この水溶率は第2態様においても同様である)
さらに、本第1態様では、前記混合物における水の含有量(水分量)が、38容積%〜44容積%である。
後述する実験例に示すように、水の含有量が38容積%を下回る場合には、セラミック成形体にクラックが生じやすい。一方、水の含有量が44容積%を上回る場合には、樹脂の硬化が十分に進行し難く、強度が低下し、取り扱いの際に破損し難くなる。
従って、上述した範囲であれば、クラックが生じにくく、且つ、取り扱いが容易であるので、好適である。
(2)本発明は、第2態様として、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤と溶媒としての水とセラミック粉末とからなる混合物を用いて成形体を作製し、その後、前記成形体を加熱して前記エポキシ樹脂を硬化させることによってセラミック成形体を作製するセラミック成形体の製造方法において、前記混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であ
り、前記エポキシ樹脂の水溶率が100%であり、前記混合物における前記水の含有量が38容積%〜44容積%であることを特徴とする。
【0013】
混合物のチキソトロピーインデックスが4を下回る場合には、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが生じやすい。
つまり、本第2
態様では、混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であるので、セラミック成形体にクラックが生じ難いという効果がある。
【0014】
ここで、チキソトロピーインデックスとは、粘度比(ずり速度1s
−1での粘度/ずり速度15s
−1での粘度)である(以下同様)。
なお、混合物のチキソトロピーインデックスとしては、30以下を採用できる。チキソトロピーインデックスが大きすぎると、混合物を注型したときに、液面が平坦化しにくいためである。
【0015】
また、本第2態様では、第1態様と同様に、第エポキシ樹脂の水溶率が100%であるので(エポキシ樹脂が全て水に溶けているので)、後述する実験例から明らかなように、セラミック成形体にクラックが発生し難い。
さらに、本第2態様では、第1態様と同様に、前記混合物における水の含有量(水分量)が、38容積%〜44容積%である。よって、クラックが生じにくく、且つ、取り扱いが容易であるので、好適である。
(3)本発明では、第3態様として、前記エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であることを特徴とする。
本第3態様では、前記第1態様と同様に、エポキシ樹脂の全塩素含有量が4重量%以下であり、しかも、前記第2態様と同様に、混合物のチキソトロピーインデックスが4以上であるので、クラックがより一層生じ難いという効果がある。
【0019】
(
4)本発明では、第
4態様として、前記エポキシ樹脂が、脂肪族グリシジルエーテルであることを特徴とする。
本第
4態様は、好適なエポキシ樹脂を例示したものである。
【0020】
前記脂肪族グリシジルエーテルとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、プロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロム化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などを採用できる。
【0021】
また、前記エポキシ樹脂としては、脂肪族グリシジルエーテル以外に、例えば、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などを採用できる。
【0022】
(
5)本発明は、第
5態様として、前記硬化剤が、変性ポリアミド系硬化剤であることを特徴とする。
本第
5態様は、好適な硬化剤を例示したものである。この変性ポリアミド系硬化剤は、環境や人体に悪影響を及ぼし難いので好適である。
【0023】
前記変性ポリアミド系硬化剤としては、例えば、ダイマー酸と脂肪族ポリアミンの反応で製造したものを用いることができる。変性ポリアミド系硬化剤の性質は、ポリアミンの種類、アミンとダイマー酸の比、第三の改質成分の量で決定される。第三の改質成分は、例えば、エポキシ樹脂があり、これをあらかじめ反応させることによって、変性ポリアミドのエポキシ樹脂への相溶性が大幅に改善される。
【0024】
また、前記硬化剤としては、前記変性ポリアミド系硬化剤以外に、例えば、一級、二級、三級アミン化合物、イミダゾール化合物、酸無水物類、ジシアンジアミドなどを採用できる。
【0026】
(
6)本発明は、第
6態様として、前記混合物のずり速度15s
−1にて測定した時の常温での第1粘度が、4Pa・s以下であることを特徴とする。
【0027】
本第
6態様では、前記混合物の第1粘度が4Pa・s以下であるので、成形型への流れ性が良好という利点がある。
ここで、常温とは、例えば25℃を示している(以下同様)。
【0028】
なお、第1粘度の下限値としては、1Pa・sを採用できる。
(
7)本発明は、第
7態様として、前記混合物のずり速度1s
−1にて測定した時の常温での第2粘度が、4Pa・s以上であることを特徴とする。
【0029】
本第
7態様では、前記混合物の第2粘度が4Pa・s以上であるので、成形型へ流し込んだ後、沈降しにくいという利点がある。
なお、第2粘度の上限値としては、16Pa・sを採用できる。
【0030】
ここで、上述した本発明の構成等について、更に説明する。
・前記第1態様では、エポキシ樹脂の全塩素含有量を4重量%以下としたが、その方法としては、例えば特開2011−207932号公報に記載の方法が挙げられる。
【0031】
ここでのエポキシ樹脂は、活性水素化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られ、全ハロゲン含有量が80重量ppm以下である。このエポキシ樹脂を、昇華法、蒸留法、晶析法、アルカリ洗浄法により精製する。これにより、各種絶縁材料や積層板などの電気、電子材料として有用なハロゲン溶出の問題のない高信頼性のエポキシ樹脂が得られる。
【0032】
・エポキシ樹脂の塩素含有量の求め方については、JIS K7243−3に規定されている。
具体的には、全塩素量は、エポキシ樹脂中に存在する1,2−クロルヒドリン、1,3−クロルヒドリン、1−クロル−2−グリシジルエーテルなどの全可けん化有機塩素量及び無機塩素からなる。その評価原理は、試料をジエチレングリコールモノブチルエーテルで溶解させ、水酸化カリウムアルコール溶液で加熱還流下にてけん化することで有機塩素を遊離させる。次いで、全塩素量を標準容量分析用硝酸銀溶液の電位差測定によって測定する。
【0033】
・前記セラミック粉末のセラミック材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニアなどを採用できる(以下同様)。