(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に形成された中間層上に、超電導原料溶液を塗布した後、仮焼成処理を施して超電導前駆体を形成し、前記超電導前駆体に対して本焼成処理を施すことにより、REBayCu3Oz系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す)のテープ状のRE系酸化物超電導線材を製造する製造方法において、
前記超電導原料溶液は、RE、Ba及びCuを含み、且つ、Baのモル比をy<2の範囲内とした混合溶液に、磁束ピンニング点を形成するZr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素が含まれた溶液であり、
前記仮焼成処理の後で、且つ、前記本焼成処理の前に、前記仮焼成処理における焼成温度より高く、前記本焼成処理における焼成温度より低い温度を保持して前記超電導前駆体を焼成する中間熱処理を行い、
前記中間熱処理は、前記超電導前駆体に対して保持している焼成温度から室温まで急冷する時間は、1時間以内であることを特徴とするRE系酸化物超電導線材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明の実施の形態に係るテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法は、テープ状のREBa
yCu
3O
z系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す)の酸化物超電導線材(ここでは、YBCO超電導線材と称する)を製造する。
【0018】
<酸化物超電導線材>
まず、本実施の形態で製造するテープ状の酸化物超電導線材の一例について説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係るテープ状のRE系酸化物超電導線材の製造方法で製造される酸化物超電導線材のテープの軸方向に垂直な断面を示す概略図である。
【0020】
酸化物超電導線材10は、テープ状の金属基板11上に、中間層12、テープ状の酸化物超電導層(以下、「超電導層」と称する)13、安定化層14が順に積層されることによって形成される。ここでは、中間層12は、第1中間層12a、第1中間層12b、第3中間層12c、第4中間層12dを有する。
【0021】
テープ状の金属基板11は、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、ステンレス鋼又は銀(Ag)である。金属基板11は、ここでは、結晶粒無配向・耐熱高強度金属基板であり、Ni−Cr系(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)等の材料に代表される立方晶系のビッカース硬度(Hv)=150以上の非磁性の合金である。金属基板11の厚さは、例えば、0.1mm以下である。
【0022】
第1中間層12aは、テープ状の金属基板11上に、スパッタリング法により形成されたGd
2Zr
2O
7(GZO)、或いはイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)等による層である。ここでは、第1中間層12aは、Gd
2Zr
2O
7(GZO)を成膜した全軸配向の中間層として構成されている。なお、この第1中間層12aの厚みは、約1000[nm]である。この全軸配向の第1中間層12a上には、IBAD法によりMgOから成る第2中間層12bが成膜されている。この第2中間層12bの上には、スパッタリング法によりLaMnO
3から成る第3中間層12cが成膜されている。更に、この上には、ここでは、スパッタリング法(PLD法でもよい)によってCeO
2を蒸着して全軸配向のキャップ層としての第4中間層12dが成膜されている。なお、第4中間層12dの厚みは、約1000[nm]である。また、第4中間層12dを、CeO
2膜にGdを添加したCe−Gd−O膜とした場合、超電導層13としてYBCO超電導層を成膜した際に良好な配向性を得るために、膜中のGd添加量を50at%以下にすることが好ましい。この第4中間層12dの上には、MOD法による超電導層13が成膜されている。
【0023】
この酸化物超電導線材10では、第1中間層12a〜第4中間層12dにより中間層12が形成されている。中間層12が金属基板11上に形成されて複合基板15を構成する。なお、複合基板15は、超電導層13が成膜される基板であり、2軸配向性を有するものでも、配向性の無い金属基板11の上に2軸配向性を有する中間層12を成膜したものでもよい。また、中間層12は、1層から3層或いは5層以上で形成されてもよい。
【0024】
超電導層13上には、銀、金、白金等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である安定化層14が設けられている。なお、安定化層14は、超電導層13の直上に形成することによって、超電導層13が金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的な接触によって反応によって引き起こす性能低下を防止する。これに加えて、安定化層14は、事故電流や交流通電により発生した熱を分散して発熱による破壊・性能低下を防止する。安定化層14の厚みはここでは10〜30[μm]である。
【0025】
超電導層13は、REBa
yCu
3O
z系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された1種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7である。)の高温超電導薄膜の層である。ここでは、超電導層13は、イットリウム系酸化物超電導体(YBCO超電導層とも称する)である。
【0026】
ここでは、超電導層13は、Baの定比組成を2より小さくした通常の低Ba組成法に用いられる原料溶液組成RE:Ba:Cu=1:1.5:3に添加元素Mを加えて形成された、有効な酸化物粒子である人工ピン粒子(以下、「磁束ピンニング点」と称する)13aを有する。このときの超電導原料溶液組成は、磁束ピンニング点の組成(Zrの場合Ba:Zr=1:1)を考慮して設定される。
【0027】
磁束ピンニング点(人工ピン粒子)13aは、超電導層13中に均一に分散された、Zr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素Mを含む粒径50[nm]以下である。ここでは、超電導層13中の磁束ピンニング点13aは、粒径10[nm]以下となるように制御された化合物としての酸化物粒子である。なお、磁束ピンニング点13aの粒径は、磁束線サイズに近い方がより効果を発揮する。
【0028】
なお、磁束ピンニング点の数nは、超電導層13中に、1[μm
3]当たり1.0×10
3個≦n<1.0×10
7個含まれることが望ましい。粒子の数が多いとより多くの磁束をピン止めする事ができるため効果的であるが、上記範囲を超えると超電導体の体積減少の効果が大きくなるため超電導電流を阻害し、結局は超電導特性を低下させることとなる。例えば、1[μm
3]当たり1.0×10
7個以上存在する場合には、酸化物粒子の粒径が5[nm]であったとしても体積分率で60%を超える事になり、超電導特性を低下させる。
【0029】
なお、添加元素Mの添加量は、30[wt%]以下である必要があり、特に超電導層全体に対して1[wt%]〜10[wt%]であることが望ましい。1[wt%]〜10[wt%]が望ましい理由としては、磁場中特性向上のためには、添加元素の添加量が多い方がより多くの磁束をピン止め出来るため効果的である。しかしながら、10[wt%]、即ち体積分率30[vol%]を超えると超電導体の体積減少の効果が大きくなると共に、粒子が単独で存在できる臨界を超えるため、ピン止め効果が薄れかつ超電導電流を阻害するからである。さらに、上記範囲を超えると、析出物が凝集して超電導電流を阻害するからである。なお、添加元素MをZr、Sn、Ce、Ti、Hfのうちの少なくとも一つである場合におけるBaとの比は、Ba:M=1:1である。
【0030】
添加元素MがZrである場合、磁束ピンニング点13aとして超電導体中に分散して形成される化合物はBaZrO
3である。添加元素MがTiである場合、磁束ピンニング点13aとして超電導層13中に分散して形成される化合物はBaTiO
3である。また、添加元素MがCeである場合、磁束ピンニング点13aとして超電導層13中に分散して形成される化合物はBaCeO
3であり、添加元素MがSnである場合、磁束ピンニング点13aとして超電導層13中に分散して形成される化合物はBaSnO
3である。また、添加元素MがHfである場合、磁束ピンニング点13aとして超電導層13中に分散して形成される化合物はBaHfO
3である。なお、磁束ピンニング点13aとなる各化合物は、超電導層13中に均一分散される。
【0031】
また、添加元素MがNbの場合におけるBaとの比は、Ba:M=1:0.5〜2であり、磁束ピンニング点として超電導体中に分散して形成される化合物は、YNbBa
2O
6、BaNb
2O
6等である。なお、各磁束ピンニング点13aとなる化合物は、超電導層13中に均一分散される。
【0032】
超電導層(超電導体)13中に磁束ピンニング点13aが形成された超電導線材において、超電導層13中に含まれるBaのモル比は、RE:Ba:Cu=1:1.5:3を満たす比になるようにする。このようにBaのモル比を、その標準モル比(RE:Ba:Cu=1:2:3を満たす比)より小さくすることによって、Baの偏析が抑制され、結晶粒界でのBaベースの不純物の析出が抑制される。これにより形成される超電導層13は、クラックの発生が抑制されるとともに、結晶粒間の電気的結合性が向上して通電電流によって定義されるJcが向上する。
【0033】
なお、TFAを含む超電導原料溶液に添加される添加元素Mが、Zrである場合、TFAを含む超電導原料溶液中に、Baと親和性の高いZr含有ナフテン酸塩等を混合する手法を採用してもよい。これにより、超電導層13の組成(RE:Ba:Cu=1:1.5:3を維持しつつ、Baと結合して磁束ピンニング点(人工ピン粒子)13aとなるBaZrO
3を形成して超電導層13を形成する粒内に分散させる。このように形成された超電導層13は、粒界偏析によるJc低下することなく、粒界特性が改善される。
【0034】
さらに、超電導層13内に形成されたBaZrO
3が膜面方向だけでなく、膜厚方向にもナノサイズ、ナノ間隔に存在しこれらが磁束を有効にピンニングし、磁場印加角度に対するJcの異方性を著しく改善することが可能となる。また、BaZrO
3のサイズ、密度及び分散を制御するためには、Zr含有ナフテン酸塩等の導入量だけでなく、仮焼熱処理時及び本焼熱(結晶化熱)処理時の酸素分圧、水蒸気分圧、焼成温度の制御により可能となる。これらの最適化を行うことにより有効な磁束ピンニング点13aの導入が可能となる。
【0035】
また、酸化物超電導線材10では、Ba濃度を低減したRE系超電導層において、超電導層中に人工的にZr含有磁束ピンニング点13aを微細分散させることができる。このため、Jcの磁場印加角度依存性(Jc
,min/Jc
,max)が小さく、かつ、高磁場で高いJcを有する磁場特性を有するとともに、Jcの磁場印加角度依存性(Jc
,min/Jc
,max)も著しく向上できる。よって、自己磁場に加えて、磁場中でも、あらゆる磁場印加角度方向に対しても有効に磁束をピンニングして、等方的Jc特性が得られることで高い超電導特性(臨界電流密度Jc[MA/cm
2]および臨界電流Ic[A/cm−width])を確保できる。
【0036】
<超電導線材の製造方法>
このような超電導層13を有するRE系の酸化物超電導線材10は、
図2に示すように製造される。
【0037】
図2は、同本実施の形態のRE系酸化物超電導線材の製造方法の説明に供する模式図である。
図2では、RE系酸化物超電導線材としてYBCO超電導層を備える線材として説明する。
【0038】
本実施の形態では、MOD法によって、YBCO酸化物超電導線材である酸化物超電導線材10を製造する。酸化物超電導線材10の製造において、超電導原料溶液を基板に塗布した後に、アモルファス状の超電導前駆体(以下、「前駆体」という)とするための仮焼成処理を行う。次いで、仮焼成処理の後で且つ結晶化熱処理を行う本焼成処理の前に、中間熱処理として、本焼成処理における本焼成温度よりも低い温度で熱処理を行い且つ室温まで急冷する。この中間熱処理が施され、且つ、超電導層に磁束ピンニングを含む前駆体に対して、本焼成処理を施すことを経てRE系(YBCO)酸化物超電導線材を製造する。以下、詳細に説明する。
【0039】
まず、テープ状の基板、例えば、Ni合金基板(基材)11(
図1参照)上に、テンプレートとしてスパッタリング法によりGd
2Zr
2O
7中間層12aを成膜し、さらに、その上に、IBAD法によりMgOから成る第2中間層12bを成膜する(
図1参照)。次いで、第2中間層12bの上にスパッタリング法によりLaMnO
3から成る第3中間層12cを成膜し、更に、この上に、スパッタリング法或いはPLD方によりCeO
2からなる第4中間層12dを成膜して複合基板15が形成される(
図2参照)。
【0040】
この複合基板15上に、塗布工程Aで超電導原料溶液を塗布して塗布膜を形成する。
【0041】
具体的には、
図2の塗布工程Aにおいて、複合基板15(金属基板11上に形成した中間層12)上に、フッ素を含む有機酸塩を出発原料とする超電導原料溶液をディップコート法により塗布される。
【0042】
超電導原料溶液は、ここでは、Y―TFA塩(トリフルオロ酢酸塩)、Ba―TFA塩およびCu―ナフテン酸塩を有機溶媒中にY:Ba:Cu=1:y<2:3の比率で溶解した混合溶液である。例えば、超電導原料溶液中に含まれるBaのモル比yは1.5とする。
【0043】
また、この超電導原料溶液中には、磁束ピンニング点13aとして形成されるZr、Ce、Sn、Hf、Nb又はTiを含む粒径50[nm]以下、好ましくは粒径10[nm]以下の酸化物粒子(添加元素)が添加されている。
【0044】
なお、超電導原料溶液としては、下記(a)〜(d)の混合溶液を用いることが好ましい。
(a)REを含む有機金属錯体溶液:REを含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液、特に、REを含むトリフルオロ酢酸塩溶液であることが望ましい。
(b)Baを含む有機金属錯体溶液:Baを含むトリフルオロ酢酸塩の溶液
(c)Cuを含む有機金属錯体溶液:Cuを含むナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
(d)Baと親和性の大きい金属を含む有機金属錯体溶液:Zr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbから選択された少なくとも1種以上の金属を含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
【0045】
このように構成される超電導原料溶液を複合基板15に塗布した後、仮焼成処理工程Bで塗布した超電導原料溶液を仮焼成する。この仮焼成処理工程Bにおける仮焼成処理によって、複合基板15上の塗布膜は、アモルファス状の超電導前駆体(以下、「前駆体」という)となる。なお、塗布工程Aでは、上記のディップコート法以外にインクジェット法、スプレー法などを用いることも可能であるが、基本的には、連続して混合溶液を複合基板15上に塗布できるプロセスであればこの例によって制約されない。1回に塗布する膜厚は0.01[μm]〜2.0[μm]、好ましくは0.1[μm]〜1.0[μm]である。なお、複合基板15において、基材上に形成される中間層は、Gd
2Zr
2O
7中間層上に、CeO
2からなる中間層を成膜して形成したものでもよい。
【0046】
この塗布工程Aおよび仮焼成処理工程Bを所定回数繰り返す、つまり、テープ状酸化物超電導線材10の複合基板15における中間層12上での塗布膜をマルチコートする。所定回数は、超電導層となる塗布膜の厚みに応じて繰り返すものであり、繰り返す数の増加により塗布膜の厚みも厚くなる。これにより、複合基板15における中間層上に、所望の膜厚のYBCO超電導層(以下、「超電導層」とも称する)となる前駆体としての膜体(
図2に示す「前駆体」)を形成する。
【0047】
このように塗布工程Aおよび仮焼成処理工程Bを所定回数繰り返す(マルチコートする)ことによって、超電導層となる前駆体を形成する。
【0048】
この前駆体を形成する仮焼成処理工程Bの後、前駆体に対して、中間熱処理工程Cで、本焼成処理温度より低い温度で中間焼成処理を行った後で室温まで急冷する。
【0049】
中間熱処理工程Cは、中間焼成工程C1と、急冷工程C2とを有する。中間焼成工程C1は、仮焼成後の前駆体に対し、本焼成処理で前駆体がYBCOの結晶化温度に至る前に、中間焼成処理を施すことで、前駆体中における仮焼での残存有機分あるいは剰余フッ化物を排出する。
【0050】
急冷工程C2は、中間焼成工程C1に次いで、前駆体に対して、中間焼成工程C1の中間焼成処理で保持している温度から室温になるまで急冷する。この急冷工程C2は、中間焼成処理を施した前駆体を、中間焼成後に放置して冷却(自然冷却)するよりも、早い時間で、中間焼成温度から室温になるように積極的に冷却する。
【0051】
その後、本焼成処理工程Dでは、中間熱処理工程Cで中間焼成処理が施された前駆体に対して、結晶化熱処理(本焼成処理)を行う。本焼成処理工程Dの後、生成されたYBCO超電導体上にスパッタ法により安定化層(例えば、Ag安定化層)14(
図1参照)を形成し、後熱処理を施してYBCO超電導線材が製造される。
【0052】
これにより、結晶化温度で本焼成処理を施す本焼成処理工程Dでは、磁束ピンニング点が均一に分散され、且つ、磁場印加特性に優れたYBCO層を有する超電導線材(YBCO超電導線材)を製造している。
【0053】
仮焼成工程B後の中間熱処理工程C(中間焼成工程C1、急冷工程C2)及び本焼成処理工程Dは、例えば、
図3及び
図4に示すバッチ式の熱処理装置20を用いて行ってもよい。
【0054】
<熱処理装置の構成>
図3は、本発明の実施の形態に係るRE系酸化物超電導線材の製造方法における熱処理装置の構造を示す概略断面図であり、
図4はその内部に配置される円筒状の回転体を示す。この回転体は、石英ガラス、セラミックス、ハステロイまたはインコネル等の高温に耐え、酸化しないものにより形成する。
【0055】
熱処理装置20は、所謂、バッチ型の電気炉であり、雰囲気ガスが導入される炉体22とこの炉体22の外部に配置された電気ヒータ23とからなる熱処理炉24と、熱処理炉24の内部(詳細には炉体22の内部)に配置された円筒状の回転体25とを備える。
【0056】
この円筒状の回転体25は、この熱処理炉24の内部に水平方向の回転軸に対して回転可能に配置されている。この回転体25の外周に、被熱処理物である基板上に2軸配向性を有する中間層を形成した複合基板15の上にY系(123)超電導層の前駆体を成膜したテープ状線材10(便宜上、「酸化物超電導線材」と同符号で説明する)が巻回されて超電導体生成の熱処理が施される。
【0057】
回転体25の円筒体25aには、テープ状線材10のテープ幅の1/2以下の径を有する多数の貫通孔25bが円筒体25aの全面に均一に形成されている。円筒体25aの一端側は蓋体25cにより密封され、他端側は円筒体内部のガスを熱処理炉24外へ排出するためのガス排出管27が蓋体に接続されている。
【0058】
また、円筒体25aの外表面に離間して複数(少なくとも4本)のガス供給管28が回転体25の回転軸に対して対称に配置されている。各ガス供給管28には、多数のガス噴出孔(図示せず)が円筒体25aの表面に向かって雰囲気ガスを噴出するように形成されている。ガス供給管28の長さは、円筒体25aの高さよりも長くすることが好ましい。ガス噴出孔の径は、ガス圧およびガス流量が均一になるように設計されている。ガス供給管28は、石英ガラス、セラミックス、ハステロイまたはインコネル等の高温に耐え、酸化しない材料により形成される。
【0059】
雰囲気ガスは、ガス供給管28に接続された接続管(図示せず)を通じて熱処理炉24外に配置された雰囲気ガス供給装置(図示せず)からガス供給管28に送給される。
【0060】
この熱処理装置20は、熱処理炉24の内部を減圧雰囲気に保つことができるように構成されている。なお、雰囲気ガス供給装置は、不活性ガス、酸素ガス、ドライガスおよび水蒸気を供給するガス系統に接続され、熱処理のパターンに合わせてこれらの雰囲気ガスを変化させる機構を備える。なお、雰囲気ガス供給装置から供給されるガスの温度を制御自在にしてもよい。
【0061】
また、熱処理装置20は、電気ヒータ23を含む焼成機能とともに、炉体22内のテープ状線材10を急冷する急冷装置29による急冷機能を備える。すなわち、この熱処理装置20は、中間熱処理工程Cで用いられ、中間熱処理工程Cの中間焼成工程C1と、急冷工程C2とを行うことができる。炉体22は、電気ヒータ23ともに熱処理炉24として機能するとともに、急冷装置29とともに、冷却炉としても機能する。急冷装置29は、炉体22内を、自然冷却(電気ヒータ23を切って放置して冷却)と比べて急冷することで、炉体22内のテープ状線材10の前駆体に対する焼成温度を、中間焼成で保持している温度から室温まで急冷する冷却工程C2で用いられる。
【0062】
上記の熱処理装置20において、テープ状線材10が巻回された円筒状の回転体25が所定の回転速度で駆動機構(図示せず)により回転される。これとともに、電気ヒータ23によって加熱雰囲気に保持された熱処理炉24の内部に、ガス供給管28の多数のガス噴出孔から雰囲気ガス(ここでは水蒸気ガス)が円筒体表面に向かって噴出される。一方、この雰囲気ガスは、円筒体25aの多数の貫通孔25bから円筒体25a内部に吸入され、円筒体25aの他端側に接続されたガス排出管27を経由して熱処理炉24外へ排出される。
【0063】
このように構成された熱処理装置20は、超電導原料溶液が塗布される(
図2の塗布工程A)と、仮焼成処理Bとによって中間層上に添加元素を含む前駆体が形成されたテープ状線材10に対して、中間熱処理工程C(中間焼成工程C1及び急冷工程C2)と、本焼成処理工程Dとを行う。
【0064】
熱処理装置20は、中間熱処理工程Cとして、まず、中間焼成工程C1として、テープ状線材10における添加元素(例えば、Zr)を含む前駆体に対して、本焼成処理工程Dにおける本焼成処理温度より低い温度を所定時間保持することで焼成を行う。
【0065】
ここでは、熱処理装置20は、中間焼成工程C1として、
図5に示すように、本焼成処理温度よりも低い温度で中間焼成処理温度まで加熱し、この温度を定温として所定時間維持する。ここで、中間焼成工程C1における中間焼成処理温度は、400[℃]〜700[℃]が好ましい。さらに、中間焼成工程C1における中間焼成温度は2時間以上5時間以下に保持されることがこの好ましい。
【0066】
上記温度範囲外であると中間焼成処理後の前駆体に未反応化合物が残存してしまい、所望の特性が得られない。すなわち、上記範囲未満では中間焼成の効果が無く、上記範囲を超えると磁束ピンニング点の粗大化と前駆体中のBaF
2の粗大化、分解が進行し、無配向REBCO結晶が生じ易くなるため、超電導特性が低下する。また、中間焼成工程C1における中間焼成処理温度は、仮焼成熱処理工程Bにおける仮焼成処理温度よりも高くすることが好ましい。
【0067】
また、中間焼成工程C1において、中間焼成処理温度を維持する所定時間は、[h]は、膜厚[μm]×1.0〜10.0の範囲であることが望ましい。上記範囲未満では、中間焼成処理の効果が無く磁場中の超電導特性が低くなる。また上記範囲を超えると、BZOの粗大化が生じ磁場中における超電導特性が低下する。
【0068】
また、中間焼成工程C1において、熱処理装置20は、炉体22内に、中間焼成処理で保持する中間熱処理温度よりも低い温度から水蒸気ガスを導入することで、テープ状線材10の前駆体に対して、水蒸気ガス雰囲気中で中間焼成処理を施すことが好ましい。
【0069】
このように、炉体22内に、中間焼成工程C1で保持する中間焼成処理温度よりも低い温度から水蒸気ガスを導入することによって、炉体22内において昇温後の中間焼成処理温度到達時点における水蒸気ガスの量を十分に確保できる。これにより、前駆体における磁束ピンニング点のサイズが粗大化することがなく、特定の範囲内のサイズになり、3[T]の環境下でも超電導特性Ic50[A/cm]以上にすることができる。
【0070】
中間焼成工程C1で中間焼成処理が施されたアモルファス状の前駆体は、急冷工程C2で、前駆体に対する焼成温度を、中間焼成工程C1で保持している中間焼成温度から室温まで、自然冷却する場合と比して急冷する。
【0071】
ここでは、供給管28を介して供給される雰囲気ガスにより、炉体22内をドライガス雰囲気にしつつ、この雰囲気を、急冷装置29で、炉体22内に冷却風を供給したり、炉体22自体を外部から冷却することで、急冷する。例えば、雰囲気ガス供給装置は、炉体22内が所定時間、中間焼成温度で保持された後、中間焼成時で供給している水蒸気ガスに替えてドライガスを炉体22内に供給して、室温まで急冷してもよい。
【0072】
中間熱処理工程Cの急冷工程C2による急冷は、1時間以内で行う。
【0073】
この急冷工程C2では、前駆体を、中間焼成で保持している温度から室温まで20[℃以上/分]で急冷する。
【0074】
このように中間熱処理工程Cにおいて、中間焼成温度から室温に1時間以内に急激に下げることで、前駆体中で均一に分散された磁束ピンニング点となる粒子は、微細なまま固定され、超電導層の焼成時に粗大化が生じない。
【0075】
中間熱処理工程Cにおける急冷処理は、急冷装置29を用いて行うようにしたがこれに限らない。例えば、雰囲気ガス供給装置が、急冷装置29としての機能を有してもよい。この場合の雰囲気ガス供給装置としての急冷装置29は、中間焼成処理中に供給するドライガス自体を冷却し冷却ガスにする。この冷却ガスを炉体22内に送出することで、炉体22内のテープ状線材10の前駆体に対する焼成温度を、中間焼成で保持している温度から室温まで毎分20[℃]以上で冷却する。この構成によれば、熱処理装置20において雰囲気ガス供給装置とは別に急冷装置29を設ける必要がない。
【0076】
熱処理装置20は、中間熱処理工程C(具体的には、急冷工程C2)に連続して本焼成処理工程Dを施すことが好ましい。すなわち、熱処理装置20は、
図5に示すように、定温維持された中間焼成処理温度から室温まで急冷した直後(急冷工程C2の直後)に続けて本焼成処理温度まで加熱し、所定時間の間、定温維持(本焼成処理)する。例えば、急冷工程C2として、テープ状線材10の前駆体に対して、中間焼成温度600[℃]から室温として20[℃]〜30[℃]まで急冷した後、本焼成処理工程Dとして、本焼成温度800[℃]まで加熱する。
【0077】
このように、前駆体に対して、中間焼成処理で中間焼成して急冷した後に、本焼成処理を連続して施すことで、中間焼成処理で急冷することで磁束ピンニング点の成長を止めた後で、結晶化させることができる。
【0078】
また、前駆体に対して、中間熱処理工程C(中間焼成工程C1及び急冷工程C2)と本焼成処理工程Dとをバッチ式の熱処理装置20で施すため、密閉された炉体22内で効果的に焼成、急冷、焼成を行うことができる。これにより、超電導特性の優れた超電導層を有する酸化物超電導線材を安定して製造できる。さらに、熱処理装置20は、バッチ方式であるため、reel-to-reel方式で焼成を施す場合と比較して、炉内の雰囲気をコントロールし易いだけでなく、温度・圧力などの制御が容易になる。これにより、安定した超電導層を形成でき、かつ、短時間で酸化物超電導線材を製造できる。
【0079】
また、本実施の形態によれば、製造されたRE系酸化物超電導線材(テープ状線材に相当)10は、77[K]、3[T]の場合に、磁場印加角度を変えて測定した超電導特性Ic値の最大値と最小値の比は1.5倍以内である。これは従来と比較して、磁場印加角度による超電導特性Ic変化が小さくなっている。
【0080】
このように本実施の形態によれば、テープ状の複合基板上で仮焼成により形成された前駆体に対して、本焼成処理の前に、本焼成温度よりも低い温度で中間焼成処理を施して自然冷却に比して室温まで急冷する。これにより前駆体(すなわち超電導層)中の磁束ピンニング点は微細且つ均一なサイズのまま分散した状態で固定される。これにより、磁束ピンニング点の粗大化が生じることがなく、磁場中の超電導特性を著しく低下させることがない、つまり、従来と異なり、磁場印加角度依存性の小さい超電導特性を得ることができる。
【実施例】
【0081】
<実施例1>
熱処理装置20を用いた本実施の形態のRE系酸化物超電導線材の製造方法によって、
図1に示すRE系酸化物超電導線材を製造した。RE系酸化物超電導線材は、基板上に、中間層として順にGdZrO層、MgO層、LaMnO
3層、CeO層を積層して複合基板上に、磁束ピンとして2[wt%]のZrを含有したY
0.77Gd
0.23Ba
1.5+zCu
3O
x超電導層(超電導層の膜厚1.5[μm])を有する。
【0082】
実施例1では、まず、複合基板に超電導原料溶液を塗布する塗布工程Aと、温度勾配2[℃/分]、最高加熱温度(仮焼成処理温度)400[℃]、最高加熱温度の保持時間1[時間]の条件で仮焼成処理を施す仮焼成処理工程Bとで、超電導層の前駆体を形成した。
【0083】
そして、この前駆体に対して、中間熱処理工程Cの中間焼成工程C1では、温度勾配3[℃/分]で最高加熱温度(中間焼成温度)600[℃]まで加熱して5時間保持して、中間焼成処理を施した。そして、急冷工程C2では、冷却したドライガスを炉体22内に導入して30[℃/分]下がるように、19分間継続して冷却し、前駆体の温度を中間焼成温度から室温になるまで急冷した。
【0084】
このような熱処理条件で焼成処理及び急冷処理を中間熱処理工程Cで施した後、本焼成処理工程Dで、急冷後の前駆体に対し、温度勾配3[℃/分]で室温から最高加熱温度(本焼成処理温度)800℃まで加熱し、12時間保持することで本焼成処理を行い、超電導層を形成した。
【0085】
<比較例1>
実施例1の製造方法において、冷却すること無く、本焼成処理を行うことでRE系酸化物超電導線材を形成した。
<比較例2>
実施例1の製造方法において、中間熱処理工程Cで、急冷工程を行うことなく、焼成処理後の前駆体を放置して、室温まで自然冷却した後で本焼成処理を行うことでRE系酸化物超電導線材を形成した。
【0086】
<参照例1>
実施例1の製造方法において、中間熱処理工程Cの急冷工程C1で、中間焼成温度から室温になるまで約2時間(4.75[℃/分]下がるように)冷却した。
<参照例2>
実施例1の製造方法において、中間熱処理工程Cの急冷工程C1で、中間焼成温度から約10分で室温になるように(4.75[℃/分]下がるように)急冷した。
【0087】
このように、これらの条件で得られた酸化物超電導線材において、77[K],0[T]における超電導特性Ic値、77[K],3[T]の磁場環境における超電導特性Ic値の印加角度依存性を測定した際の最大値及び最小値の比Icmax/Icmin、また、超電導層中に分散したBaZrO
3の最大粒径を表1に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
表1で、実施例1と比較例1との比較から明らかなように、仮焼成と本焼成の間で、前駆体に対して中間焼成処理後に急冷した方が、中間焼成後に冷却せずに中間焼成温度から本焼温度に昇温して本焼成処理を施す場合と比較して、BZOの粒径の最大サイズを小さくでき、実施例1は、比較例1の酸化物超電導線材と比較して、磁場印加環境下における超電導特性が優れるものとなった。
【0090】
表1では、実施例1と比較例2との比較から明らかなように、中間熱処理工程Cにて、中間熱処理後、急冷した方が、自然冷却する場合と比較して、BZOの粒径の最大サイズを小さくでき、実施例1は、比較例1の酸化物超電導線材と比較して、磁場印加環境下における超電導特性が優れるものとなった。
また、実施例1と比較例1,2との比較から、比較例1,2は、いずれも実施例1よりもBZOの粒径の最大サイズが大きく、Icmax/Icminの比は1.5を超えている。これに対し、実施例1では、Icmax/Icminは1.5以内である。
【0091】
また、実施例1と参照例1及び参照例2との比較から明らかなように、中間熱処理工程Cにて、中間熱処理後、室温まで冷却する時間が短い方が、BZOの粒径の最大サイを小さくできるものとなった。