(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0018】
以下においては、本発明の一実施の形態として、本発明に係る二次電池システムが電気自動車に搭載される構成について説明する。しかし、本発明に係る二次電池システムは、電気自動車に限らず、ハイブリッド車および燃料電池車など二次電池を搭載する任意の電動車両に適用可能である。また、本発明に係る二次電池システムの用途は車両用に限定されるものではない。
【0019】
[実施の形態]
<車両構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池システムが搭載される車両の構成を概略的に示すブロック図である。
図1には、車両内の電気系統の充放電制御に関連するシステム構成が主に示されている。
【0020】
図1を参照して、車両1は、二次電池システム10と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)20と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)40と、駆動輪50とを備える。二次電池システム10は、バッテリ100と、監視ユニット200と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)300とを備える。
【0021】
バッテリ100は、互いに直列に接続された複数のセル110(
図2および
図3参照)を含む。各セルには、代表的にはリチウムイオン二次電池またはニッケル水素二次電池などの非水電解質二次電池が適用される。本実施の形態ではリチウムイオン二次電池が適用される構成を例に説明する。
【0022】
監視ユニット200は、電圧センサ210と、電流センサ220と、温度センサ230とを含む。電圧センサ210は、バッテリ100内の各セルの電圧VBを検出する。電流センサ220は、バッテリ100に入出力される電流IBを検出する。温度センサ230は、バッテリ100の温度(電池温度)TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU300に出力する。ECU300は、各センサからの信号に基づいて、バッテリ100のSOC(State Of Charge)を算出する。
【0023】
SMR20は、バッテリ100とPCU30との間に電気的に接続されている。SMR20は、ECU300からの制御信号に応答してオンオフされる。これにより、バッテリ100とPCU30との間の導通および遮断が切り替えられる。
【0024】
PCU30は、たとえばコンバータと、インバータ(いずれも図示せず)とを含む。PCU30は、ECU300からのスイッチング指令に従って、バッテリ100とMG40との間で双方向に電力変換が可能に構成されている。コンバータは、バッテリ100とインバータとの間で双方向の直流電圧変換を実行するように構成されている。インバータは、直流電力とMG40に入出力される交流電力との間の双方向の電力変換を実行するように構成されている。
【0025】
より具体的には、インバータは、バッテリ100からコンバータを経由して供給される直流電力を交流電力に変換してMG40に供給する。これにより、MG40は駆動輪50の駆動力を発生する。一方、車両1の回生制動時には、インバータは、MG40が発生する交流電力(回生電力)を直流電力に変換してコンバータに供給する。これにより、バッテリ100が充電される。
【0026】
ECU300は、CPU(Central Processing Unit)(図示せず)と、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などのメモリ310と、入出力インターフェイス(図示せず)とを含んで構成される。ECU300は、各センサからの信号に基づき、ROMに予め格納されたプログラムをCPUがRAMに読み出して実行することによって、車両1の走行制御およびバッテリ100の充放電制御を実行する。なお、ECU300の少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより構成されてもよい。
【0027】
<バッテリ構成>
図2は、
図1に示すバッテリ100に含まれるセル110の側面図である。
図3は、
図2に示すIII−III線に沿うセル110の断面図である。
【0028】
図2および
図3を参照して、電池ケース120は、上端(図中z軸に沿って正方向の一端)が開口された円筒状のケース本体122と、ケース本体122の開口を塞ぐ蓋体124とを含む。電池ケース120の上面には正極端子126が設けられおり、電池ケース120の下面には負極端子128が設けられている。電池ケース120の内部には、電極体130が図示しない電解液とともに収容されている。
【0029】
図4は、
図3に示す電極体130の構成を説明するための図である。
図2〜
図4を参照して、電極体130は、正極シート140と負極シート150とがセパレータシート160を介して略円筒形に捲回されることにより形成されている。
【0030】
正極シート140は、正極集電箔142と、正極集電箔142の表面に形成された正極活物質層144とを含む。正極集電箔142としては、アルミニウム箔等の金属箔を用いることができる。正極活物質層144は、いずれも図示しないが、正極活物質と、導電材と、バインダとを含む。正極活物質としては、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物(リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、またはリチウムマンガン酸化物等)を用いることができる。
【0031】
負極シート150は、負極集電箔152と、負極集電箔152の表面に形成された負極活物質層154とを含む。負極集電箔152としては、銅箔等の金属箔を用いることができる。負極活物質層154は、負極活物質と、導電材と、バインダ(いずれも図示せず)とを含む。負極活物質としては、たとえば炭素系材料(グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等)またはリチウムと遷移金属元素とを含む酸化物を用いることができる。
【0032】
セパレータシート160としては、たとえば合成樹脂(ポリエチレン等のポリオレフィン)の多孔質シートを用いることができる。
【0033】
電極体130の中心軸Azに沿う方向(以下、「幅方向」と称する)おける中央付近にはコア領域Zcが形成されている。コア領域Zcとは、正極活物質層144と負極活物質層154とセパレータシート160とが密に積層された領域である。
【0034】
正極シート140と負極シート150とは、電極体130の幅方向にややずらして重ね合わされている。セパレータシート160の幅方向の一方側からは、正極シート140のうち正極活物質層144が形成されていない領域がはみ出している。この正極側のはみ出し領域Zpには、正極端子126に電気的に接続された正極リード端子125(
図3参照)が設けられている。同様に、セパレータシート160の幅方向の他方側からは、負極シート150のうち負極活物質層154が形成されていない領域がはみ出している。この負極側のはみ出し領域Znには、負極端子128に電気的に接続された負極リード端子127(
図3参照)が設けられている。
【0035】
<塩濃度分布>
正極活物質層144、負極活物質層154、およびセパレータシート160の各々は多孔質材料であるため、その内部は電解液により浸漬されている。電池温度TBの変化またはSOCの変化が生じると、電解液の体積変化および電極体130の体積変化が起こることにより、各シートの内部に電解液の流れ(以下、「液流れ」とも称する)が発生し得る。そうすると、電解液中の塩(本実施の形態ではリチウム塩)の濃度分布が初期状態から変化することになるので、塩濃度に偏りが生じる可能性がある。
【0036】
図5は、電解液中の塩濃度の偏りを説明するための概念図である。
図5(A)は、各シートの積層方向(各シートが捲回されることにより形成された捲回体の動径方向:
図4の直線Lθに沿う方向)における塩濃度分布の一例を示す。縦軸は塩濃度を表す。
図5(A)において、横軸は電極体130の積層方向の位置を表し、
図5(A)を参照して、バッテリ100が充電されている場合(たとえば充電途中あるいは充電終了直後)には、曲線CHGに示すように、負極シート150付近の塩濃度が正極シート140付近の塩濃度よりも高くなる。反対に、バッテリ100が放電されている場合(たとえば放電途中あるいは放電終了直後)には、曲線DCHに示すように、正極シート140付近の塩濃度が負極シート150付近の塩濃度よりも高くなる。
【0037】
図5(B)は、各シートの幅方向における塩濃度分布の一例を示す。
図5(B)において、横軸は電極体130の捲回方向の位置を表し、縦軸は塩濃度を表す。
図5(B)を参照して、バッテリ100が充電されている場合には、曲線CHGに示すように、コア領域Zcの中央の塩濃度が両端の塩濃度よりも高くなる。反対に、セル110が放電されている場合には、曲線DCHに示すように、コア領域Zcの中央の塩濃度が両端の塩濃度よりも低くなる。
【0038】
<塩濃度分布の算出>
このような塩濃度分布は、正極シート140、負極シート150、およびセパレータシート160の各々について、流体力学に基づいて電解液の流れを規定する液流れ方程式を解くことにより算出される。
【0039】
図6は、塩濃度分布の算出手法を説明するための図である。
図6を参照して、正極活物質層144、負極活物質層154、およびセパレータシート160の各々は、面内方向に沿って複数の微小領域Sに仮想的に分割される。複数の微小領域Sの各々について、下記式(1)および式(2)に基づき流速が算出される。
【0041】
式(1)は、時刻tにおける液流れを記述する方程式であり、ナヴィエ−ストークス(Navier−Stokes)方程式として知られている。式(2)は、電解液の質量保存則に関する連続方程式である。式(1)および式(2)において、電解液の流速をu
jで表し、電解液の密度をρで表し、電解液の粘度をμで表し、透過係数をK
jで表し、電解液の体積分率をε
e,jで表し、電解液の圧力をPで表す。未知数は流速u
jおよび圧力Pである。
【0042】
流速u
j、透過係数K
j、および体積分率ε
e,jの各パラメータに付された添字であるjは、正極シート140、負極シート150、およびセパレータシート160を区別するために用いられる。すなわち、j=pの場合、そのパラメータが正極シート140に関するものであることを示す。j=nの場合、そのパラメータが負極シート150に関するものであることを示す。j=sの場合、そのパラメータがセパレータシート160に関するものであることを示す。成分jは、後述するパラメータ(塩濃度c
e,j等)にも用いられるが、その意味は同等である。なお、体積分率ε
e,jは、成分j(たとえばj=pの場合、正極活物質層144)の体積全体に対する成分j中の空隙(言い換えると空隙を浸漬する電解液)の体積の割合を意味する。
【0043】
電極体130では、電池温度TBまたはSOCに応じて活物質(正極活物質または負極活物質)の体積が変化するのに伴い、活物質層(正極活物質層144または負極活物質層154)の体積が変化し得る。そうすると、活物質層内部の電解液の体積分率ε
e,jが変化することになる。体積分率ε
e,jの変化量Δε
e,jは、成分jの体積膨張率β
jを用いて下記式(3)のように表される。
【0045】
詳細については後述するが、体積分率ε
e,jを算出し、算出された体積分率ε
e,jを上記式(1)および式(2)に代入することにより、流速u
jを算出することができる。
【0046】
さらに、流速u
jが算出されれば、下記式(4)に基づいて電解液中の塩濃度c
e,jを算出することができる。式(4)は移流拡散方程式として知られている。式(4)において、左辺第1項は、所定時刻における塩濃度の変化を規定する。左辺第2項は、電解液の流速u
jに依存する塩濃度の変化を規定する。右辺第1項は、電解液中の塩の拡散状態を規定する。電解液の実効拡散係数をD
e,jeffで表す。右辺第2項は、電解液中の塩の生成量を規定する。電解液中の塩の輸率をt
+0で表す。各シートの厚さをL
jで表す。Fはファラデー定数である。
【0048】
式(4)に基づき、複数の微小領域Sの塩濃度c
e,jを算出することにより、塩濃度分布(塩濃度c
e,jの偏り)を求めることができる。
【0049】
<力学モデル>
たとえば所定の演算周期で塩濃度分布が算出され、算出された塩濃度分布に基づいて流速u
jが算出される場合、演算の度に体積分率ε
e,jが更新される。体積分率ε
e,jは、以下に説明するような力学モデルを用いて、活物質層の積層方向(動径方向)の厚さの変化量を算出することにより算出される。以下、本実施の形態において円筒形セルに適用される力学モデルについて詳細に説明する。
【0050】
図7は、
図2に示すVII−VII線に沿うセル110の断面図である。
図7を参照して、正極シート140、負極シート150、およびセパレータシート160が捲回することにより形成された電極体130の層数(シート数)をN(Nは3以上の整数)とする。以下、最も外側の層(たとえば負極シート150)を第1層と称する。第1層の内側に接する層(たとえばセパレータシート160)を第2層と称し、第2層の内側に接する層(たとえば正極シート140)を第3層と称する。最も内側の層は第N層である。
【0051】
円筒形の電池ケース120の内部において電極体130に作用する力としては、電解液の圧力P
nと、各シートの弾性応力F
nと、各シートが捲回されたことにより生じる張力T
nとが挙げられる。添字n(nは1以上N以下の整数)は、第n層に関する力であることを示す。定常状態においては以下に説明するように、第1層〜第N層の各層について、圧力P
nと弾性応力F
nと張力T
nとの間に力の釣り合いの関係が成立する。
【0052】
図8は、各層における力の釣り合いの関係を説明するための図である。
図8を参照して、以下では、電極体130の断面のうち図中左半分の領域(点A−点Bを通る直線よりも左側の領域)における力の釣り合いを詳細説明する。なお、電極体130は複数のシートが捲回されることにより形成されているので、第1層〜第N層の各シートの中心Oからの距離は実際には円周方向の位置(
図8では極座標を用いて中心Oからの距離および角度θで表す)に応じて変化する。しかし、ここでは第1層〜第N層の各シートを同心円に近似する。
【0053】
まず、第1層における力の釣り合いの関係を説明する。電極体130は、点Aにて図中右方向への接線方向に張力T
1が作用し、かつ点Bにて図中右方向への接線方向に張力T
1が作用している。このように張力T
1が作用することは、古典力学にて滑車に作用する張力のアナロジーから理解することができる。
【0054】
一方、点(r
1,θ)には活物質層の弾性応力F
1および電解液の圧力P
1が作用する。点Aから第1層の円周に沿って点Bへと至る各点に作用する力の和は、弾性応力F
1および圧力P
1を角度θ=0からθ=πまで積分することにより算出される。本実施の形態では、弾性応力F
1のうち図中左方向への成分と、圧力P
1のうち図中左方向への成分との和が、図中右方向への張力T
1と釣り合う。よって、下記式(5)が成立する。
【0056】
次に、第2層における力の釣り合いの関係を説明する。第2層における力の釣り合いにて考慮すべき張力は、第1層および第2層に作用する力、すなわち第1層に作用して第2層を外側から締め付ける張力T
1、および第2層自身に生じる張力T
2である。第2層よりも内側の層の張力は考慮しなくてよい。したがって、第2層における力の釣り合いに影響する張力は、2(T
1+T
2)と表される。
【0057】
同様に、第2層における力の釣り合いにて考慮すべき弾性応力および圧力は、第1層および第2層に作用する力である。しかし、第1層に生じる弾性応力F
1および圧力P
1は、作用・反作用の法則により動径方向内側と動径方向外側とで打ち消し合う。したがって、第2層自身の弾性応力F
2および圧力P
2のみを考慮すればよい。以上より、第2層における力の釣り合いは下記式(6)のように表される。
【0059】
同様にして、第i層(iは2以上N以下の整数)の力の釣り合いは下記式(7)のように表すことができる。
【0061】
電池温度TBまたはSOCの変化に伴い活物質層の体積が変化すると、各層の弾性応力F
iが変化するとともに電解液の圧力P
iも変化し得る。また、活物質層の体積が変化すると、各層の円周方向の長さも変化することになるので、各層に生じる張力T
iも変化し得る。第i層における弾性応力F
iの変化量をΔF
iと表し、圧力P
iの変化量をΔP
iと表し、張力T
iの変化量をΔT
iと表すと、式(7)より、各変化量の間に成立する式として下記式(8)が導出される。
【0063】
以下、活物質層の厚さの変化量(合計量)をΔy
iと表す。電池温度TBまたはSOCの変化に伴う活物質層の厚さの変化量(膨張量)をΔy
0iと表す。各シートが捲回されることによる活物質層の厚さの変化量(張力T
iで締めつけられることによる収縮量)をΔy
siと表す。
【0064】
上記した各変化量の間には下記式(9)が成立する。式(9)において、電池温度TBまたはSOCの変化に伴う活物質層の厚さの変化量Δy
0iは、たとえば電池温度TBとSOCと変化量Δy
oiとの間のマップを予め準備することにより、電池温度TBおよびSOCから算出可能である。よって、式(9)に含まれる未知数は、Δy
siおよびΔy
iである。
【0066】
ここで、上記式(8)に含まれる変数をより詳細に検討する。各シートの弾性応力F
iの変化量ΔF
iは、各シートの厚さの変化量(収縮量)Δy
siに比例する。そのため、弾性応力F
iの変化量ΔF
iは、バネ定数k
iを用いて下記式(10)のように表される。
【0068】
また、張力T
mの変化量ΔT
mは、各シートの円周方向の長さの変化量に比例する。そのため、張力Tmの変化量ΔTmは、各シートのヤング率E
mおよび半径r
mの変化量Δr
mを用いて下記式(11)のように表される。なお、バネ定数k
iおよびヤング率Emとしては、シミュレーションまたは実験により決定された値が与えられる。
【0070】
式(11)において、半径r
mの変化量Δr
mは、第N層から第m層までの各シートの厚さの変化量(合計量)Δy
mの和として表される(下記式(12)参照)。
【0072】
したがって、式(8)に式(10)〜式(12)を代入することにより、下記式(13)が導かれる。式(13)において、電解液の圧力の変化量ΔP
iは、液流れ方程式(式(1))から算出可能である。よって、式(13)に含まれる未知数は、Δy
siおよびΔy
iである。
【0074】
以上より、式(9)および式(13)を連立することにより、未知数である厚さの変化量Δy
si,Δy
iを算出することができる。さらに、各シートの厚さの変化量Δy
iが算出されれば、上記式(12)より、電極体130の半径の変化量を算出することができる。
【0075】
<体積分率の算出>
このようにして算出された電極体130の半径の変化量から体積分率ε
e、jを算出することができる。以下、体積分率ε
e、jの算出手法の一例を説明する。
【0076】
電極体130全体の半径rは、電極体130の第1層の半径r
1に等しい。そのため、半径rの変化量Δrは、下記式(14)のように表される。
【0078】
体積分率ε
e、jの演算は、たとえば所定の演算周期毎に繰り返し行なわれる。q回目(qは自然数)の演算における電極体130の体積をV
all(q)と表す。そうすると、q回目の演算における電極体130の体積変化量ΔV
all(q)は、下記式(15)のように表される。
【0080】
体積変化量ΔV
all(q)は、(q−1)回目の演算結果である体積変化量ΔV
all(q−1)と、電極体130の半径r
1(q−1)と、半径r
1の変化量Δr
1(q)とを用いて、下記式(16)のように表すことができる。
【0082】
また、活物質層を構成する活物質および空隙のうち、活物質の体積変化量をΔV
sと表し、空隙の体積変化量をΔV
eと表すと、活物質の体積変化量ΔV
sと空隙の体積変化量ΔV
eとの和が活物質層の体積変化量ΔV
allに等しいので、下記式(17)が成立する。式(17)において、活物質の体積変化量ΔV
sは、たとえば電池温度TBとSOCと体積変化量ΔV
sとの間のマップを予め準備することにより、電池温度TBおよびSOCから算出可能である。一方、活物質層の体積変化量ΔV
allは、初期値が与えられれば上記式(15)および式(16)から順次算出可能である。よって、式(17)より空隙の体積変化量ΔV
e(q)が求められる。
【0084】
体積分率ε
e,jは、空隙の体積V
e(q)と、空隙の体積変化量ΔV
e(q)とを用いて、下記式(18)のように表される。このようにして算出された体積分率ε
eを液流れ方程式(式(1))に代入することにより、電解液の流速u
jを算出することができる。
【0086】
<内部抵抗の増加量の算出>
図9は、本実施の形態におけるバッテリ100の内部抵抗の算出処理を説明するためのフローチャートである。
図9に示すフローチャートによる制御は、所定の条件成立時(たとえば充放電開始時)あるいは所定の演算周期毎にECU300によってメインルーチンから呼び出されて実行される。なお、各ステップ(以下、Sと略す)は、基本的にはECU300によるソフトウェア処理によって実現されるが、ハードウェア処理によって実現されてもよい。
【0087】
図1〜
図4、
図8および
図9を参照して、S10において、ECU300は、電極体130および電解液の各パラメータを決定する。より具体的には、ECU300は、透過係数K
j、電解液の密度ρおよび粘度μをメモリ310から読み込む。なお、各パラメータとしては、予め定められた固定値を用いてもよいし、たとえば電池温度TBまたはSOCに応じた可変値を用いてもよい。
【0088】
S20において、ECU300は、式(1)および式(2)に基づいて、電解液の圧力Pを算出する。このときの体積分率ε
e,jとしては前回の演算にて算出された値を用いることができる。
【0089】
S30において、ECU300は、各層の厚さの変化量の間に成立する式(8)と、力の釣り合いの関係を規定する式(13)とに基づいて、電極体130の各層の厚さの変化量Δy
iを算出する。
【0090】
S40において、ECU300は、S30にて算出された厚さの変化量Δy
iを体積分率ε
e,jの変化量Δε
e,jに変換する(式(14)〜式(18)参照)。
【0091】
S50において、ECU300は、式(1)および式(2)に基づいて、今回の演算における電解液の流速u
jを算出する。
【0092】
S60において、ECU300は、S50にて算出された流速u
jを式(4)に代入することにより、各微小領域Sの塩濃度c
e,jを算出する。さらに、ECU300は、塩濃度c
e,jから塩濃度分布を算出する。
【0093】
S70において、ECU300は、S60にて算出された塩濃度分布に基づいて、バッテリ100の内部抵抗Rの増加量ΔRを算出する。内部抵抗Rの増加量ΔRは、バッテリ100の劣化度(ハイレート劣化の進行度)を示す指標値であるため、この処理はバッテリ100の劣化度を推定する処理に対応する。内部抵抗Rの増加量ΔRは、たとえば以下のようにして算出することができる。
【0094】
図10は、塩濃度c
e,jの偏りと内部抵抗Rの増加量ΔRとの対応関係の一例を示す図である。
図10において、横軸は、塩濃度
ce,jの偏りを示す一指標値として、複数の微小領域Sにおける塩濃度c
e,jの最大値と最小値との差を表す。縦軸は、内部抵抗Rの増加量ΔRを表す。
【0095】
図10を参照して、塩濃度c
e,jの差が大きくなるに従って内部抵抗Rの増加量ΔRは大きくなる。このような対応関係を予めマップ(または演算式)としてECU300のメモリ310に記憶させておくことにより、塩濃度c
e,jの差に応じて内部抵抗Rの増加量ΔRを算出することができる。これにより、大電流での充放電による劣化(ハイレート劣化)に起因する内部抵抗Rの増加を検出することが可能になる。
【0096】
図9に戻り、S80において、ECU300は、内部抵抗Rの増加量ΔRが所定のしきい値Rc以上であるか否かを判定する。内部抵抗Rの増加量ΔRがしきい値Rc以上の場合(S80においてYES)、ECU300は、ハイレート劣化がある程度進行しているとして処理をS90に進める。S90において、ECU300は、バッテリ100のさらなるハイレート劣化を抑制する観点から、バッテリ100の充放電を制限する。具体的には、ECU300は、内部抵抗Rの増加量ΔRがしきい値Rc未満の場合には、内部抵抗Rの増加量ΔRがしきい値Rc以上の場合と比べて、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを低下させる。その後、処理はメインルーチンへと戻される。
【0097】
一方、内部抵抗Rの増加量ΔRがしきい値Rc未満の場合(S80においてNO)、ECU300は、ハイレート劣化はあまり進行していないとして、S90をスキップして処理をメインルーチンへと戻す。
【0098】
以上のように、本実施の形態によれば、円筒形セルにて電極体130に作用する力の釣り合いの関係を考慮して体積分率ε
e,jを算出することにより、力の釣り合いの関係を考慮しない場合(たとえば体積分率ε
e,jとして固定値を用いる場合)と比べて、流速u
jの算出精度を向上させることができる。その結果、塩濃度分布の算出精度を向上することができる。これにより、内部抵抗Rの増加量ΔRを算出精度が向上するので、ハイレート劣化からバッテリ100を適切に保護することが可能になる。
【0099】
[変形例1]
上述の実施の形態においては、正極シート140および負極シート150において、活物質層の厚さが変化する一方で集電箔の厚さは変化しないと仮定する構成を例に説明した。しかし、電解液の流速u
jの算出精度をより向上させたい場合には、集電箔についても活物質層と同様に厚さの変化量Δy
iを算出することが望ましい。また、ただし、集電箔は活物質層とは異なる性質を有するので、式(5)〜式(18)を下記(A)〜(C)のように修正することを要する。
【0100】
(A)集電箔の内部は電解液に浸漬されないので、集電箔の内部の電解液の圧力Pは0に設定する。
【0101】
(B)集電箔の膨張および収縮は、活物質層の膨張および収縮と比べると非常に小さい。そのため、上記式(9)および式(10)において、電池温度TBまたはSOCの変化に伴う厚さの変化量Δy
0は0に設定する。
【0102】
(C)集電箔の内部は電解液に浸漬されないので、上記式(14)〜式(18)に基づいて電極体130の体積変化量ΔV
allを算出する際には、集電箔の体積変化量は含めない。
【0103】
[変形例2]
式(6)〜式(8)にて説明したように、電極体130の各層の厚さの変化量は、力の釣り合いの関係式を用いて算出することができる。しかしながら、車載用の典型的な電子制御装置では演算能力が不足するので、全ての層について式を立てて解くことが困難となる場合がある。このような場合には、複数の層の各々について上記式(8)を立てるのに代えて、複数の層のうちの幾つかの層を1つの層として扱うことが望ましい。この場合には、シートの張力、バネ定数、およびヤング率として、幾つかの層を統合した値を用いることができる。これにより、演算量を低減することができるので、演算能力が比較的低い電子制御装置であっても体積分率ε
e,jの算出精度を向上させ、それにより流速u
jの算出精度を向上させることが可能になる。
【0104】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。