(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360013
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】負荷バランス制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 5/46 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
H02P5/46 K
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-157032(P2015-157032)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-38441(P2017-38441A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2017年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 覚
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−84016(JP,U)
【文献】
特開平8−205587(JP,A)
【文献】
特開平5−97390(JP,A)
【文献】
特開2000−265784(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0231158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸が互いに連結されたマスター電動機とスレーブ電動機との負荷バランスを制御する負荷バランス制御装置であって、
前記マスター電動機の駆動電流を制御するマスター用インバータ本体部及びマスター用インバータ制御部と、
前記スレーブ電動機の駆動電流を制御するスレーブ用インバータ本体部及びスレーブ用インバータ制御部と、
前記マスター電動機への供給電力を検出するマスター用電力検出器、及びスレーブ電動機への供給電力を検出するスレーブ用電力検出器と、
前記マスター電動機のための第1の速度基準値を出力する速度基準部と、
前記マスター電動機の回転速度を検出する速度検出器と、
前記マスター用電力検出器で検出された電力値とスレーブ用電力検出器で検出された電力値との偏差に比例した値を前記第1の速度基準値に加えて第2の速度基準値を生成する負荷バランス調整部とを備え、
前記マスター用インバータ制御部は、前記第1の速度基準値と前記速度検出器で検出された速度検出値との偏差に基づくマスター用電流基準値を生成するマスター用速度制御部、及びこのマスター用電流基準値と前記マスター用インバータ本体部からのフィードバック電流値との偏差に基づくマスター用インバータ本体部への制御電流値を出力するマスター用電流制御部を有し、
前記スレーブ用のインバータ制御部は、前記第2の速度基準値と内部演算速度フィードバック値との偏差に基づくスレーブ用電流基準値を生成するスレーブ用速度制御部、及びこのスレーブ用電流基準値と前記スレーブ用インバータ本体部からのフィードバック電流値との偏差に基づくスレーブ用インバータ本体部への制御電流値を出力するスレーブ用電流制御部を有し、
前記内部演算速度フィードバック値は前記スレーブ用インバータ本体部への出力値に基づいて演算される予測値である
ことを特徴とする負荷バランス制御装置。
【請求項2】
前記負荷バランス調整部は、前記マスター電動機とスレーブ電動機との容量が異なる場合、前記マスター用電力検出器で検出された電力値とスレーブ用電力検出器で検出された電力値の少なくとも一方に容量調整用係数をかけることにより、前記マスター電動機とスレーブ電動機とを同一容量とみなして偏差を検出することを特徴とする請求項1に記載の負荷バランス制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、出力軸が互いに連結されたマスター電動機とスレーブ電動機との負荷バランスを制御する負荷バランス制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の産業分野などにおいて、共通の負荷を複数の電動機により駆動する場合がある。例えば、機械メーカなどにおいて、完成した製品の性能試験を行う場合、被試験材である製品が圧縮機の場合、この圧縮機を電動機により駆動し、その特性を試験することが行われている。或いは、被試験材がシャフト状の加工品の場合は、これを回転させてバランスがとれているかを試験することが行われている。
【0003】
これらの場合、被試験材の容量や大きさなどにより、電動機1台運転で試験を行う場合や、複数台の電動機をタンデム運転して試験を行う場合がある。複数台の電動機を運転する場合、どれか1台がマスター電動機となり、他はスレーブ電動機となる。
【0004】
これらマスター電動機及びスレーブ電動機が分担する負荷は、電動機の容量に見合って適切にバランスしている必要があり、マスター、スレーブとも同じ容量であれば均等に分担する必要がある。このため、マスター電動機とスレーブ電動機との負荷バランスを制御する負荷バランス制御が用いられる。
【0005】
負荷バランス制御には、センサ付ベクトル制御、トルク制御、負荷バランス制御の各機能が必要である。マスター電動機及びスレーブ電動機の可変速な運転制御にはそれぞれインバータ装置が用いられる。ここで、インバータ装置は、対応する電動機に供給される周波数及び電流値を制御するインバータ本体部と、このインバータ本体部のスイッチング素子を制御する制御部とからなる。
【0006】
汎用のインバータ装置の制御部は、センサ付ベクトル制御機能及びトルク制御機能を持っている。このような汎用のインバータ制御装置を、マスター電動機及びスレーブ電動機毎に設けて、これらを単純並列運転することが考えられた。例えば、負荷分担を考慮して同じ容量の2台の電動機をマスター及びスレーブとして選定し、これら2台の電動機毎に汎用のインバータ装置を設け、単純並列運転を行う。
【0007】
このような汎用のインバータ装置の単純並列運転を行った場合、振動など、何らかの要因で負荷のアンバランス状態が発生すると、当初僅かなアンバランスであっても徐々にアンバランスが拡大し、一方のインバータ装置がトリップに至ってしまう。また、並列運転される2台のインバータ装置がセンサ付ベクトル制御により2台の電動機を個々に速度制御すると、互いの制御が干渉しあい、安定しない状態となる。このため複数台の電動機の負荷バランス制御を、汎用のインバータ装置の単純並列運転で行うことは困難であった。
【0008】
前述のように、負荷バランス制御には、センサ付ベクトル制御、トルク制御、負荷バランス制御の各機能が必要である、このため、マスター電動機用のインバータ装置及びスレーブ電動機用のインバータ装置の制御部には、独立した制御ロジックを構成する必要がある。
例えば、マスター電動機用のインバータ装置の制御部では、センサ付ベクトル制御を行うため、マスター電動機の回転速度検出器からフィードバック信号を入力し、外部のPLC(プログラマブルロジックコントローラ)で設定された速度基準値との偏差に基づく電流基準値を生成する。この電流基準値を、トルク制御のため、マスター電動機用のインバータ本体からのフィードバック電流値と比較し、これらの偏差に基づいて制御電流値を生成し、マスター電動機用のインバータ本体へ制御指令として出力する。
【0009】
このマスター電動機用インバータ装置における前述した電流基準値は、負荷分担のためにスレーブ電動機用のインバータ装置にも与えられる。スレーブ電動機用インバータ装置の制御部は、トルク制御のため、この電流基準値をスレーブ電動機用のインバータ本体からのフィードバック電流値と比較し、これらの偏差に基づく制御電流値を生成し、スレーブ電動機用のインバータ本体へ制御指令として出力する。
【0010】
すなわち、マスター電動機用インバータ装置の制御部には、センサ付ベクトル制御、トルク制御、負荷バランス制御の各機能の実現する制御ロジックが構成される。これに対し、スレーブ電動機用インバータ装置の制御部には、マスター電動機用インバータ装置からの電流基準値を受ける機能及び、トルク制御を行う制御ロジックが構成される。
【0011】
このように、マスター電動機用インバータ装置及びスレーブ電動機用インバータ装置の各制御部に構成される制御ロジックは、互いに大きく異なる。このため、汎用のインバータ装置を用いることは困難であり、専用のインバータ装置を適用せざるを得なかった。
【0012】
この専用のインバータ装置を用いた負荷バランス制御は、マスター電動機及びスレーブ電動機を1台の電動機とみなして制御するものであり、負荷の急変などにも追従でき、優れた特性を有するが、汎用のインバータ装置を適用できないため、コスト・リードタイムが不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−163783号公報
【特許文献2】特開平6−346157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように従来の負荷バランス制御には汎用のインバータ装置を用いることが困難であり、コスト・リードタイムが不利であった。
【0015】
本発明は、汎用のインバータ装置の適用を可能とした複数電動機の負荷バランス制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施の形態に係る負荷バランス制御装置は、出力軸が互いに連結されたマスター電動機とスレーブ電動機との負荷バランスを制御する負荷バランス制御装置であって、前記マスター電動機の駆動電流を制御するマスター用インバータ本体部及びマスター用インバータ制御部と、前記スレーブ電動機の駆動電流を制御するスレーブ用インバータ本体部及びスレーブ用インバータ制御部と、前記マスター電動機への供給電力を検出するマスター用電力検出器、及びスレーブ電動機への供給電力を検出するスレーブ用電力検出器と、前記マスター電動機のための第1の速度基準値を出力する速度基準部と、前記マスター電動機の回転速度を検出する速度検出器と、前記マスター用電力検出器で検出された電力値とスレーブ用電力検出器で検出された電力値との偏差に比例した値を前記第1の速度基準値に加えて第2の速度基準値を生成する負荷バランス調整部とを備え、前記マスター用インバータ制御部は、前記第1の速度基準値と前記速度検出器で検出された速度検出値との偏差に基づくマスター用電流基準値を生成するマスター用速度制御部、及びこのマスター用電流基準値と前記マスター用インバータ本体部からのフィードバック電流値との偏差に基づくマスター用インバータ本体部への制御電流値を出力するマスター用電流制御部を有し、前記スレーブ用のインバータ制御部は、前記第2の速度基準値と内部演算速度フィードバック値との偏差に基づくスレーブ用電流基準値を生成するスレーブ用速度制御部、及びこのスレーブ用電流基準値と前記スレーブ用インバータ本体部からのフィードバック電流値との偏差に基づくスレーブ用インバータ本体部への制御電流値を出力するスレーブ用電流制御部を有し、前記内部演算速度フィードバック値は前記スレーブ用インバータ本体部への出力値に基づいて演算される予測値であることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、専用のインバータ装置を用いることなく汎用のインバータ装置を適用して複数電動機の負荷バランスを制御することができ、コスト・リードタイムを有利に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る負荷バランス制御装置の構成図である。
【
図2】本発明の他の実施の形態に係る負荷バランス制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
本発明の一実施の形態を示す
図1において、電動機11,12は負荷バランス制御対象の電動機で、メカタイ(メカニカルタイ)13により出力軸が互いに連結されている。この実施の形態では、電動機11をマスター電動機、電動機12をスレーブ電動機とする。マスター電動機11には、その回転速度を検出する速度検出器14が設けられている。
【0021】
このマスター電動機11及びスレーブ電動機12は、例えば、前述のように機械メーカの試験装置等に用いられ、共通の負荷である被試験材を回転駆動する。なお、マスター電動機11及びスレーブ電動機12は互いに同容量であるとする。
【0022】
これらマスター電動機11及びスレーブ電動機12は、それぞれ汎用のインバータ装置15,16により可変速で運転制御される。インバータ装置15,16は、電源線18と対応する電動機11,12との間に設けられたインバータ本体部151,161と、このインバータ本体部151,161のスイッチング素子を制御する制御部152,162とからなる。
【0023】
ここで、インバータ本体部151は、そのスイッチング素子によりマスター電動機11の駆動電流を制御するもので、ここではマスター用インバータ本体部と呼び、その制御部152をマスター用インバータ制御部と呼ぶ。また、インバータ本体部161は、そのスイッチング素子によりスレーブ電動機12の駆動電流を制御するもので、ここではスレーブ用インバータ本体部と呼び、その制御部162をスレーブ用インバータ制御部と呼ぶ。
【0024】
このマスター用インバータ本体部151及びスレーブ用インバータ本体部161と、電源線18との間には、マスター電動機11への供給電力を検出するマスター用電力検出器21と、スレーブ電動機12への供給電力を検出するスレーブ用電力検出器22とが設けられている。
【0025】
マスター電動機11及びスレーブ電動機12の負荷バランスを制御する負荷バランス制御部25には、上述したマスター用インバータ制御部152、スレーブ用インバータ制御部162の他、速度基準部26、負荷バランス調整部27が設けられている。これら速度基準部26、負荷バランス調整部27はPLC28により構成される。
【0026】
速度基準部26は、マスター電動機11のための第1の速度基準値261を出力する。また、負荷バランス調整部27は、マスター用電力検出器21で検出された電力値211とスレーブ用電力検出器22で検出された電力値221との偏差に基づいて、スレーブ電動機12のための第2の速度基準値271を生成する。そのために、負荷バランス調整部27は、電力を平準化するためのフィルタ30,31、偏差を得るための加算器32、動作領域の不感帯とゲインの機能を備えた演算部33、及び加算器34を有する。そして電力値211,221の偏差を加算器32で求め、この偏差に比例した値を演算部33で算出する。この演算部33で算出された値を、加算器34により前述した第1の速度基準値261に加えて第2の速度基準値271を生成する。
【0027】
ここで、インバータ装置15,16には汎用のものを用いているので、それらの制御部であるマスター用インバータ制御部152及びスレーブ用インバータ制御部162に構成される制御ロジックは基本的に同じである。このため、マスター用インバータ制御部152及びスレーブ用インバータ制御部162の制御ロジックの説明は、互いに関連する符号を付して以下行う。
【0028】
これらのインバータ制御部152,162は、センサ付ベクトル制御機能を実現するための制御ロジックとして加算器351,352及び速度制御部361,362を有する。また、トルク制御機能を実現するための制御ロジックとして加算器371,372及び電流制御部381,382を有する。
【0029】
マスター用インバータ制御部152では、加算器351は第1の速度基準値261と、マスター電動機11の速度検出器14で検出された速度検出値(速度フィードバック値)141との偏差を算出する。速度制御部361(以下、これをマスター用速度制御部と呼ぶ)は、加算器351で算出された偏差を入力し、この偏差に基づく電流基準値(以下、これをマスター用電流基準値と呼ぶ)3611を生成する。
【0030】
加算器371は、マスター用電流基準値3611と、マスター用インバータ本体部151からのフィードバック電流値1511との偏差を算出する。電流制御部381(以下、これをマスター用電流制御部と呼ぶ)は、加算器371で算出された偏差を入力し、この偏差に基づき、マスター用インバータ本体部151のスイッチング素子への制御電流値を生成し、出力する。
【0031】
スレーブ用インバータ制御部162では、加算器352は第2の速度基準値271と、後述する内部演算速度フィードバック値1621との偏差を算出する。速度制御部362(以下、これをスレーブ用速度制御部と呼ぶ)は、加算器352で算出された偏差を入力し、この偏差に基づく電流基準値(以下、これをスレーブ用電流基準値と呼ぶ)3621を生成する。
【0032】
加算器372は、スレーブ用電流基準値3621と、スレーブ用インバータ本体部161からのフィードバック電流値1611との偏差を算出する。電流制御部382(以下、これをスレーブ用電流制御部と呼ぶ)は、加算器372で算出された偏差を入力し、この偏差に基づきスレーブ用インバータ本体部161への制御電流値を生成し、出力する。
【0033】
なお、前述した内部演算速度フィードバック値1621は、スレーブ用インバータ制御部162からスレーブ用インバータ本体部161への出力値(周波数、電流値)に基づいて演算される予測値である。この演算機能は汎用インバータ装置に標準的に備わっている。
【0034】
次に、この実施の形態の作用を説明する。
【0035】
電動機11,12のトルクは下記の式で求められる。
【数1】
【0036】
上記の式において、2台の電動機11,12の回転数Nが同一であるため、電力Pの変化分は、電動機11,12のトルクTの変化分と等しくなる。そこで、インバータ本体部151,161の一次側の電力を検出して比較する事で、2台の電動機11,12のトルク差分を算出する。その結果、以下の方式で2台の電動機11,12のトルクの負荷バランスを制御することが可能となる。以下、全体的な制御の流れを説明する。
【0037】
まず、PLC28の速度基準部26にて、電動機11,12の回転数を決める第1の速度基準値261を設定する。この第1の速度基準値261はマスター用インバータ制御部152に入力され、その加算器351で、マスター電動機11の速度検出器14からの速度フィードバック値が加算され、これらの偏差が算出される。この偏差はマスター用速度制御部361に入力され、速度偏差が0になるようにマスター用電流基準値3611を生成し、出力する。
【0038】
このマスター用電流基準値3611は加算器371にて、マスター用インバータ本体部151からのフィードバック電流値1511と加算され、それらの偏差が算出される。マスター用電流制御部381は、加算器371で算出された偏差が0となるような制御電流値を生成し、マスター用インバータ本体部151に出力し、そのスイッチング素子を制御する。このためマスター電動機11は、速度基準部26で設定された速度で運転される。
【0039】
次に、スレーブ電動機12側についてみる。スレーブ電動機12は、マスター電動機11とメカタイ13により連結されているので、マスター電動機11と同一速度で運転される。このとき、マスター電動機11とスレーブ電動機12との負荷分担が等しければ、それらの出力トルクTの値も等しく、前述の式から両電動機11,12への供給電力Pも等しくなる。
【0040】
前述した第1の速度基準値261は、負荷バランス調整部27にも与えられ、その加算器34の一方の入力となる。
【0041】
このとき、マスター電動機11とスレーブ電動機12の負荷がバランスして、両者のトルクが等しい場合、前述のように、両者への供給電力は互いに等しい。すなわち、マスター用電力検出器21、及びスレーブ用電力検出器22で検出され、対応するフィルタ30,31を介して加算器32入力される電力値211,221は互いに等しく、偏差は生じない。このため、加算器34の一方に入力された第1の速度基準値261は、そのまま第2の速度基準値271となり、スレーブ用インバータ制御部162に入力される。
【0042】
スレーブ用インバータ制御部162では、加算器352により、入力された第2の速度基準値271と内部演算速度フィードバック値1621との偏差を算出する。スレーブ用速度制御部362は、加算器352で算出された偏差を入力し、この偏差に基づくスレーブ用電流基準値3621を生成する。このスレーブ用電流基準値3621は、加算器372にてスレーブ用インバータ本体部161からのフィードバック電流値1611と加算され、これら両者の偏差が算出される。スレーブ用電流制御部382は、加算器372で算出された偏差に基づきスレーブ用インバータ本体部161への制御電流値を生成し、出力する。これらの結果、マスター電動機11とスレーブ電動機12とは負荷バランス状態を維持して運転される。
【0043】
これに対し、マスター電動機11とスレーブ電動機12との分担する負荷がアンバランスであり、両者のトルクに差が生じた場合は、両者への供給電力にも差が生じる。例えば、マスター電動機11よりスレーブ電動機12の負担が少なく、マスター用電力検出器21で検出された電力値211よりスレーブ用電力検出器22で検出された電力値221の方が低い場合、これら両者の偏差が加算器32により算出される。そして、この偏差に比例する値が演算部33により算出される。この値は加算器34にて第1の速度基準値261に加えられ、第2の速度基準値271を生成する。スレーブ電動機12の負担が上述のようにマスター電動機11より少ない場合は、第2の速度基準値271は第1の速度基準値261より高い値となる。
【0044】
スレーブ用インバータ制御部162では、加算器352により、入力された第2の速度基準値271と内部演算速度フィードバック値1621との偏差を算出する。このときスレーブ電動機12は、マスター電動機11と同じ速度で回転しているので、増速方向の偏差が生じる。この増速方向の偏差はスレーブ用速度制御部362に入力され、この増速方向の偏差に対応した、より大きなスレーブ用電流基準値3621を生成する。このスレーブ用電流基準値3621は、スレーブ用インバータ本体部161からのフィードバック電流値1611より大きな値となるので、加算器372は電流値を増大させる方向の偏差を算出する。このためスレーブ用電流制御部382は、電流値を増大させる方向の偏差に基づき、スレーブ用インバータ本体部161への制御電流値を生成し、出力する。このためスレーブ用インバータ本体部161は、スレーブ電動機12に流れる電流値を増大させるので、スレーブ電動機12への供給電力(トルク)が増大し、マスター電動機11との負荷分担がバランスする。
【0045】
このように、マスター電動機11とスレーブ電動機12との間にトルクの偏差が発生した場合、負荷バランス調整部27の加算器32の出力に偏差が現れる。その偏差を、演算部33を介して加算器34に入力し、第1の速度基準値261に加算して、第2の速度基準値271を生成し、この第2の速度基準値271をスレーブ用インバータ制御部162の速度基準とする。すると、マスター側とスレーブ側の速度基準の偏差が生じ、結果としてマスター側とスレーブ側の電流基準が変化する事になる。電流基準が変化する事で再び負荷のバランスを緩やかに元に戻すことが可能となる。
【0046】
このような穏やかな負荷変動に対しての負荷バランス制御のため、演算部33では、不安定要素を含む比例積分制御では無く、比例制御のみを適用する。
【0047】
ここで、スレーブ用インバータ制御部162の加算器352において、第2の速度基準値271に対して内部演算速度フィードバック値1621を加算したのは以下の理由による。すなわち、スレーブ用インバータ制御部162の加算器352に、マスター用インバータ制御部152と同様に速度検出器14からのフィードバック値を加算すると、2台のインバータ装置がセンサ付き速度制御で構成されていることとなり、互いの制御が干渉しあってしまう。このため、スレーブ電動機12は速度検出器無しのセンサレスベクトル制御とする。したがって、スレーブ用インバータ制御部162の加算器352へは、センサレスベクトル制御で求められる内部演算速度フィードバック値1621を加算した。その結果、スレーブ用インバータ制御部162の速度制御精度及び速度応答が、マスター用インバータ制御部152より緩やかになり、制御の干渉を防止している。
【0048】
このように、比較的外乱が少なく、急激な速度応答性を求められない設備では、負荷バランス制御のための負荷バランス調整部27をインバータ制御部に組み込まず、PLC28に組み込むこと等により、汎用インバータ装置の適用が可能となった。したがって、専用インバータを使用することなく、汎用インバータ装置を適用することで負荷バランス制御を実現する事が可能となる。また、上述のように、外乱が少なく、急激な速度応答性を求められない設備であれば、汎用インバータでも専用インバータと同等の機能を得る事が可能となる。汎用インバータは専用インバータに比べてコスト・リードタイムが有利なだけでなく、技術資料の充実、調整の容易さ、故障時の復旧対応等、採用に際しメリットは多い。
【0049】
図2は本発明の他の実施形態に係る負荷バランス制御装置の構成図である。
図2の実施の形態は、マスター電動機11とスレーブ電動機12との容量が異なる場合である。この場合、負荷バランス調整部27には、マスター用電力検出器21で検出された電力値211とスレーブ用電力検出器22で検出された電力値221の少なくとも一方(
図2ではスレーブ用電力検出器22で検出された電力値221)に容量調整用係数41をかけている。このことにより、マスター電動機11とスレーブ電動機12とを同一容量とみなして偏差を検出することが可能となる。
【0050】
すなわち、
図1で示した実施形態の加算器32による電力量偏差演算前に容量調整用係数41を加えた構成である。この構成により、2台の電動機11,12の容量が異なる場合でも、スレーブ用電力検出値221に容量調整用係数41を掛けることにより、スレーブ側の出力を適切に調整する事ができる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
11…マスター電動機
12…スレーブ電動機
13…メカタイ
14…速度検出器
151…マスター用インバータ本体部
152…マスター用インバータ制御部
161…スレーブ用インバータ本体部
162…スレーブ用インバータ制御部
21…マスター用電力検出器
22…スレーブ用電力検出器
25…負荷バランス制御部
26…速度基準部
27…負荷バランス調整部
32,34,351,352,371,372…加算器
361…マスター用速度制御部
362…スレーブ用速度制御部
381…マスター用電流制御部
382…スレーブ用電流制御部
41…容量調整用係数