特許第6360034号(P6360034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6360034表面改質低表面積グラファイト、その製造方法およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360034
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】表面改質低表面積グラファイト、その製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20180709BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20180709BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20180709BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C01B32/205
   C01B32/21
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
【請求項の数】24
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-503803(P2015-503803)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2015-517971(P2015-517971A)
(43)【公表日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】EP2013055376
(87)【国際公開番号】WO2013149807
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】12163479.4
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511089686
【氏名又は名称】イメリス グラファイト アンド カーボン スイッツァランド リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル エ.スパール
(72)【発明者】
【氏名】ピルミン ア.ウルマン
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ チュールケル
(72)【発明者】
【氏名】ミカル グラス
(72)【発明者】
【氏名】フラビオ モルナギーニ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−025619(JP,A)
【文献】 特開2010−275140(JP,A)
【文献】 特開2008−169513(JP,A)
【文献】 特開2007−305446(JP,A)
【文献】 特開2002−110158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
H01M 4/36
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1m/g超のBET表面積を有し、かつ1.5超の垂直軸結晶子サイズLの平行軸結晶子サイズLに対する比(L/L)を示す、合成グラファイト。
【請求項2】
以下のパラメータ、
i)1〜3.5m/gの範囲のBET表面積、
ii)2.0超のL/L比、
iii)10〜50μmの範囲の粒子径分布(D90)、
iv)5〜40μmの範囲の粒子径分布(D50)、
v)50〜200nmの結晶子サイズL(XRDによって測定された)、
vi)5〜100nmの結晶子サイズL(ラマン分光法によって測定された)、
vii)50ppm超の酸素含有量、
viii)0.8g/cm超のタップ密度、
ix)20ppm未満のFe含有量、ならびに/あるいは、
x)0.04%未満の灰分、
のいずれか1つの、単独もしくは組み合わせを更に特徴とする請求項1記載の合成グラファイト。
【請求項3】
i)5.0〜6.5の範囲のpH値、
ii)2.24〜2.26g/cmのキシレン密度、ならびに/あるいは、
iii)632.8nmの励起波長を有するレーザーで測定した場合に、0.3未満のI/I比(R(I/I))を示すこと、
を更に特徴とする、請求項1または2記載の合成グラファイト。
【請求項4】
以下のパラメータ、
i)2.3〜3m/gの範囲のBET表面積、
ii)100〜180nmの範囲の結晶子サイズL
iii)10〜40nmの範囲の結晶子サイズL
iv)5.2〜6.0の範囲のpH値、
v)90ppm超の酸素含有量、
vi)0.98g/cm超のタップ密度、
vii)25〜35μmの範囲の粒子径分布(D90)、
を特徴とする、請求項3記載の合成グラファイト。
【請求項5】
以下のパラメータ、
i)1〜2m/gの範囲のBET表面積、および/または、
ii)2.1〜2.26g/cmのキシレン密度、のいずれか1つの、単独もしくは組み合わせを更に特徴とする、請求項1または2記載の合成グラファイト。
【請求項6】
前記合成グラファイトは、以下のパラメータ、
i)1.3〜1.8m/gの範囲のBET表面積、
ii)100〜160nmの範囲の結晶子サイズL、ならびに、
iii)20〜60nmの範囲の結晶子サイズL
を特徴とする、請求項記載の合成グラファイト。
【請求項7】
以下のパラメータ、
iv)80ppm超の酸素含有量、
を更に含む、請求項記載の合成グラファイト。
【請求項8】
1〜4m/gのBET表面積を有する合成グラファイトが、未処理の合成グラファイトと比較して、結晶子サイズLと結晶子サイズLとの間の比を増加する酸化および化学気相堆積(CVD)から選択される表面改質プロセスに付される、合成グラファイトの表面の改質方法。
【請求項9】
前記合成グラファイトの出発材料が、粉砕されていない合成グラファイトである、請求項8記載の合成グラファイトの表面の改質方法。
【請求項10】
前記合成グラファイトの表面が、500〜1100℃の温度の範囲の温度で改質される、請求項記載の合成グラファイトの表面の改質方法。
【請求項11】
前記合成グラファイトの表面が、酸素含有プロセスガスと接触させることによって改質され、プロセスパラメータが、バーンオフ率(質量%)を10%未満に維持するように適合される、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記合成グラファイトの表面が、2〜30分間の範囲の時間の酸素との接触によって改質される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記合成グラファイトの表面が、該グラファイトを、炭化水素含有ガスまたはアルコール蒸気と、5〜120分間の時間接触することによって達成される化学気相堆積によって改質される、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記炭化水素が、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、アセチレン、ブタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される脂肪族または芳香族炭化水素であるか、あるいは、前記アルコールが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
化学気相堆積による前記表面改質が、流動床反応器において、500〜1000℃の範囲の温度で、不活性担体ガスと混合された炭化水素ガスで行われる、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記炭化水素ガスが、アセチレンまたはプロパンであり、かつ前記担体ガスが、窒素である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
得られた合成グラファイトが、以下のパラメータ、
i)1.5超の結晶子サイズLcの結晶子サイズLaに対する比(L/L)、
ii)50〜200nmの、合成グラファイトの結晶子サイズL
iii)5〜100nmの結晶子サイズL
iv)50ppm超の酸素含有量、
v)0.8g/cm超のタップ密度、
vi)20ppm未満のFe含有量値、ならびに/あるいは、
vii)0.04%未満の灰分、
のいずれか1つの、単独もしくは組み合わせを特徴とする、請求項〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜のいずれか1項記載の合成グラファイトを含み、かつ1〜30質量%の高度に結晶性の合成グラファイトもしくは天然グラファイトを更に含む、グラファイト組成物。
【請求項19】
前記高度に結晶性の合成グラファイトが、
i)15〜20μmのD90および8〜12m−1のBET SSA、または、
ii)5〜7μmのD90および14〜20m−1のBET SSA、
を特徴とする、請求項18記載のグラファイト組成物。
【請求項20】
請求項1〜のいずれか1項記載の合成グラファイトならびに、5質量%〜20質量%の請求項18記載の高度に結晶性の合成グラファイトからなる、請求項18記載のグラファイト組成物。
【請求項21】
請求項1〜のいずれか1項記載の合成グラファイトならびに、10質量%〜15質量%の請求項18記載の高度に結晶性の合成グラファイトからなる、請求項18記載のグラファイト組成物。
【請求項22】
請求項1〜のいずれか1項記載の合成グラファイト、あるいは請求項18〜21のいずれか1項記載のグラファイト組成物の、リチウムイオン電池用の陰極材料を調製するための使用。
【請求項23】
請求項1〜のいずれか1項記載の合成グラファイト、あるいは請求項18〜21のいずれか1項記載のグラファイト組成物を、リチウムイオン電池の陰極の活性材料として含む、リチウムイオン電池の陰極。
【請求項24】
請求項1〜のいずれか1項記載の合成グラファイト、あるいは請求項18〜21のいずれか1項記載のグラファイト組成物を、リチウムイオン電池の陰極の活性材料として含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面改質された、低表面積の、合成グラファイト、そのグラファイトの調製方法、およびそのグラファイト材料の、特にはリチウムイオン電池の陰極材料としての、用途に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の黒鉛状材料が、それらの高い負の酸化還元電位、リチウム挿入へのそれらの高い特有の電気化学的能力、低い第1サイクルでの容量損失、および良好なサイクル寿命を考慮して、リチウムイオン電池の陰極用の活性材料として一般に用いられている。
【0003】
リチウムイオンセルは、典型的には有機電解質の分解を招く条件下で作動し、その分解生成物は、炭素−電解質界面で保護フィルムを形成する。通常は固体電解質界面相(SEI)と称されるこの保護膜は、電子的な絶縁層として理想的に作用し、それによって、なおリチウムイオンの移送を可能にしながら、連続した電解質の分解を防止する。充電/放電サイクルの間のリチウムイオンの移送は、グラファイト粒子の基底面の表面ではなく斜方晶系(prismatic)面上で発生することが一般に理解されている(例えば、Plackeら、J. of Power Sources 200 (2012)、p.83-91参照)。
【0004】
このSEI形成は、典型的には、リチウムイオンセルの動作の最初の数回の充電/放電サイクルにおいて起こるが、しかしながらそれは長期間のサイクル寿命に影響も与える。どのような場合にも、SEI形成は、リチウムと電解質材料の不可逆的な消費に関係し、それが次には、一般に「不可逆容量」(Cirr)と称される不可逆的な容量損失をもたらす。
【0005】
リチウムの損失(および電解質の分解)は、セルの比容量を低下させるので、なお効果的であるが、しかしながら薄いSEIを形成させながら、不可逆容量を低下させるためにSEI層の形成を最適化する試みがなされてきた。一般に、SEI形成は、電解質に接触する電極表面のモルフォロジーに大きく依存することが信じられる。SEIの形成に影響を与える因子としては、とりわけ、バインダの種類および電極の多孔性が挙げられる。陰極では、活性材料はグラファイトであるが、グラファイトの種類(例えば、粒子径分布、粒子形状またはモルフォロジー、表面積、表面上の官能基など)もまた、SEI層形成に影響を与えるようにみえる。
【0006】
表面改質グラファイトが、当技術分野において開示されてきており、表面の改質は、サイクル寿命、可逆的な放電容量および不可逆容量を向上させるための、SEI層形成の間の、改質グラファイトの表面特性の最適化を目的としていた。
【0007】
例えば、天然または合成グラファイトの表面は、天然グラファイトを、濃硫酸溶液に高温(210℃)で接触させ、次いで樹脂によってコーティングする処理、そして次いで窒素雰囲気での、800℃で3時間の熱処理によって改質されてきた(Zhaoら、Solid State sciences 10 (2008)、p.612- 617、CN101604750)。他には、酸素雰囲気でのジャガイモ形のグラファイト(TIMREX(商標)SLP30)の熱処理(Planckeら、Journal of Power Sources、200 (2012)、p.83-91)、または、空気雰囲気での非常に長い滞留時間(6〜56時間)の合成グラファイト(LK-702 Nippon Carbon)の処理(Rubinoら、Journal of Power Sources 81 -82 (1999)、p.373-377)が開示されている。TIMCALは、熱処理された粉砕グラファイトの酸化は、エチレンカーボネート系電解質系で観察されるグラファイトの剥落を抑制することができることを発表している(Journal of the Electrochemical Society、149(8) (2002)、A960-A966、Journal of The Electrochemical Society、151 (9) (2004)、p.A1383-A1395、Journal of Power Sources、153 (2006)、p.300-311)。Goersら、Ionics 9 (2003)、p.258-265では、合成グラファイト(TIMREX(商標)SLX 50)を1時間種々の温度で、空気で処理して、酸化処理の後に、結晶子サイズL(ラマン分光法によって測定された)の増加を観察している。Contescuら(Journal of Nuclear Materials、381 (2008)、p.15-24)は、空気の流速の、バインダ材料を含んだ種々の表面酸化された3次元グラファイト種(すなわち、グラファイトバー)の性質への効果を試験して、とりわけ、酸化処理の後に、Dバンドの強度が、Gバンドと比較して減少しており、処理されたグラファイト粒子の表面秩序(order)の向上を示していることを報告している。
【0008】
また、従来技術では、他の表面改質処理が報告されており、グラファイト粒子は、化学気相堆積(CVD)と呼ばれる技術によって炭素で被覆されている。例えば、Guopingら、Solid State Ionics 176 (2005)、p.905-909には、粉砕された球形の天然グラファイトのCVDによる900〜1200℃の範囲の温度での被覆が、初期のクーロン効率の向上およびより良好なサイクル安定性をもたらすことが記載されている。Liuら、New Carbon materials、23(1) (2008)、p.30-36には、同様に、不規則な炭素構造(MNG)を有する、CVDによって改質された天然のグラファイト材料(1000℃でのアセチレンガスでの被覆)が記載されており、これは天然のグラファイトよりも向上した電気化学的性質を示すと述べられている。Parkら、Journal of Power Sources、190 (2009)、p.553-557では、リチウムイオン電池の陰極材料として用いられた場合の、CVD被覆された天然グラファイトの熱安定性が試験されている。これらの著者らは、CVDによる天然グラファイトの炭素コーティングは、未変性の天然グラファイトと比較して、より低い不可逆容量および向上したクーロン効率をもたらすことを見出した。Natarajanら、Carbon、39 (2001 )、p.1409-1413には、700〜1000℃の範囲の温度での合成グラファイトのCVDコーティングが記載されている。この著者らは、約800℃でのCVDコーティングは、クーロン効率に関して最良の結果をもたらすが、一方で、処理されたグラファイト粒子の減少した不規則性を示すことを報告している(すなわち、ラマン分光法によって測定されるDバンドの強度は、未処理の材料に比較して減少する)。興味深いことに、これらの著者らは、1000℃では、Dバンドの強度が増加したことを報告しており、より高い温度でのグラファイト粒子の表面上の増加した不規則性を示唆している。最後に、Dingら、Surface & Coatings Technology、200 (2006)、p.3041-3048では、同様に、合成グラファイトを1000℃でメタンと接触させることによる、CVD被覆されたグラファイト粒子が報告されている。Dingらは、1000℃で30分間、CVDによって被覆されたグラファイト粒子は、未処理のグラファイト材料と比較して、向上した電気化学的性質を示すと結論付けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
全般的に、従来技術において報告された結果は、表面改質されたグラファイト粒子の望ましいパラメータならびに向上した電気化学的性質を示す好ましい表面改質されたグラファイト材料を得るためのプロセスパラメータに関しては、幾分不確定のままであるように見える。従って、特には、リチウムイオン電池の陰極用の材料として用いられた場合に、優れた物理化学的ならびに電気化学的性質を有する、表面改質グラファイト材料をもたらす、合成グラファイトカーボンのための代替の表面改質方法を提供することが本発明の目的である。従って、本発明の他の関連する目的は、特には、リチウムイオン電池に用いられた場合に、前述の好ましい物理化学的および電気化学的性質を一般的に有している、代替の表面改質グラファイト材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、適切な黒鉛状炭素出発材料を選択し、そして表面改質プロセスのパラメータを注意深く制御することによって、優れた性質、例えば、未処理の材料に比較して、向上した不可逆容量、可逆的放電容量、またはサイクル寿命を有する表面改質グラファイトを調製することが可能になることを見出した。
【0011】
より具体的には、本発明者らは、出発材料として、低表面積の、合成黒鉛状炭素を用いて、化学気相堆積(「CVDコーティング」または高温での制御された酸化のいずれかにより、特には、最初のリチウム挿入工程およびSEI層の形成の間に、向上した表面性質を有するグラファイト材料をもたらす、表面改質プロセスを開発した。
【0012】
従って、本発明の第1の態様では、低表面積の合成グラファイトが提供され、これらは、約1.0〜4m/gの範囲のBET表面積(BET SSA)を特徴とし、そして1超の、垂直軸結晶子サイズL(XRDによって測定される)の平行軸結晶子サイズL(ラマン分光法によって測定される)に対する比率、すなわちL/Lを示す。
【0013】
本発明の表面改質された合成グラファイトが好ましい電気化学的性質を示すとすれば、本発明の他の態様は、リチウムイオン電池の陰極材料を調製するためのそれらの使用を含んでいる。セルの続いて起こる充電/放電サイクルの間の陰極の比容量の保持が、少量、例えば1〜30質量%の合成もしくは天然由来の、高度に結晶性のグラファイトを、本発明の表面改質された合成グラファイトと混合することによって更に向上されることが見出されたので、そのようなグラファイト組成物は、本発明の更なる態様となる。
【0014】
更に、他の関連した態様は、本発明の特定の態様による表面改質グラファイトまたは上記のグラファイト組成物を、陰極の活性材料として含むリチウムイオン電池の陰極の供給である。
【0015】
最後に、電池の陰極に前記の表面改質された合成グラファイトまたは前記のグラファイト組成物を含むリチウムイオン電池が、本発明の他の態様である。
【0016】
本発明の特定の態様では、優れた電気化学的性質を有する新規な表面改質された合成グラファイトだけではなく、そのようなグラファイト材料を得るためのプロセスもまた提供される。従って、更なる態様は、低表面積の合成グラファイトを改質するためのプロセスの供給であり、このプロセスは、約1〜約4m/gの範囲(好ましくは、1〜3.5もしくは3.0m/gの範囲)のBET表面積を有する合成グラファイトが、表面改質に付されて、結晶子サイズLと結晶子サイズLとの間の比率の増加をもたらすことで特徴付けられる。言い換えれば、本プロセスは、結晶子サイズLに実質的に影響を与えることなく、結晶子サイズLを低下させる。
【0017】
本願発明のこの態様の1つの実施態様では、低表面積の合成グラファイトの表面改質は、未変性の低表面積の合成グラファイトを、比率L/Lの増加、好ましくは1超の比率、または更にはより大きな、例えば、1.5超、2.0超、2.5超、または更には3.0超を得るのに十分な時間、高温で、酸素と接触させることによって達成される。更には、プロセスパラメータ、例えば温度、酸素含有プロセスガスの量、および処理時間は、比較的に低いバーンオフ率、好ましくは約10%未満、好ましくは9%未満もしくは8%未満を保持するように選択される。プロセスパラメータは、約4m/g未満、そして好ましくは3.5m/gもしくは更には3.0m/g未満(例えば、2.0〜3.0m/gの範囲)のBET表面積を維持する表面改質された合成グラファイトを生成するように、更に注意深く選択される。
【0018】
本発明のこの態様の他の実施態様では、低表面積の合成グラファイトの出発材料は、比率L/Lの増加、好ましくは1超の比率、または更にはより大きな、例えば、1.5超、2.0超、2.5超、または更には3.0超を得るのに十分な時間、高温での炭化水素含有プロセスガスでのCVDコーティング処理に付される。
【0019】
従って、本明細書に記載された前記の表面改質プロセスによって得ることができる表面改質された低表面積の合成グラファイトは、本発明の他の態様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、低表面積の合成グラファイトの出発材料、および例1による表面酸化処理の後に得られた材料のラマンスペクトルを示している。結晶子サイズLは、それぞれ約1330cm−1および1580cm−1でのIおよびIバンドの比率(I/I)によって計算される。
【0021】
図2図2は、例2による表面処理されたグラファイトのSEM画像を示している。
【0022】
図3図3a、3bおよび3cは、11.5%の不可逆容量を備えた、例2からの処理された材料(上部)、8.4%の不可逆容量を備えたCVD処理された材料(中間)、および26.6%の不可逆容量を備えた原料のグラファイト材料(下部)を用いた電気化学セルの第1サイクルのプロットを描いている。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、バインダとして用いた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の特定の態様では、表面改質プロセス、例えば緩やかな酸化処理またはCVDコーティング技術によって得ることができる、新規な低表面積合成グラファイトが提供され、その両方が、典型的には、高温で、例えば、500〜1100℃の範囲で行われる。プロセスパラメータを注意深く制御することにより、本発明者らは、CVDまたは酸化処理のいずれかによる表面改質によって得た合成グラファイトの物理化学的性質およびモルフォロジーを好ましく変化させることができることを見出した。
【0024】
<表面改質された低表面積の合成グラファイト>
本発明による、結果として得られた表面改質された合成グラファイトは、1〜4m/gの範囲の低いBET表面積によってとりわけ特徴付けられるが、しかしながら、結果として得られるグラファイトは、約3.5m/gを超えない、すなわち1〜3.5m/g、または更に低い、例えば1〜3.0m/g、または1〜2.5m/gの範囲のBET表面積を有することが好ましい。本発明の特定の態様による表面改質された低表面積の合成グラファイトの他の特徴は、1超である、結晶子サイズLの結晶子サイズLに対する比(L/L)である。幾つかの態様では、この比率は、更に高く、例えば、1.5、2.0、2.5超または更には3超である。従って、本発明による合成グラファイトの特定の態様は、特定のモルフォロジー、例えば、増加した比率の斜方晶系(prismatic)面および、プロセスガスとの接触によるそれらの表面の恐らくは化学的な変性、と組み合わされた低い表面積によって全体的に特徴付けられている。
【0025】
特定の態様では、表面改質された合成グラファイトの結晶子サイズL(XRDによって測定され、詳細については、以下の測定方法の章を参照)は、通常は、50〜200nmの範囲であるが、しかしながらそれは、多くの場合には、80〜180nmの範囲である。幾つかの態様では、結晶子サイズLcは、100〜130nmの範囲であることができる。本発明の特定の態様による表面改質プロセスは、通常は、得られる材料の結晶子サイズLには有意な影響を有しない、すなわち、Lの絶対値は、表面改質のために選択された低表面積の合成グラファイトの出発材料に大部分は依存する、ことが理解されるであろう。多くの合成グラファイト、特にはそれらの表面改質の前に粉砕されていない合成グラファイトは、100〜180nmの範囲の結晶子サイズLを示すが、しかしながら、この範囲外のL値を備えた他の出発材料も同様に本発明の特定の態様における出発材料として有用であることができる。
【0026】
幾つかの態様では、処理されたグラファイト材料の結晶子サイズL(ラマン分光法によって測定され、以下の測定方法の章を参照)は、通常は、5〜100nmの範囲であるが、しかしながら多くの態様では、それは5〜60nm、そしてしばしば更には10〜40nmの範囲である。本発明のグラファイトの特定の態様ではLc/Laの比率が1超であるとすれば、より小さい許容される範囲(すなわち、80〜100nm)の結晶子サイズLを有する合成グラファイトにおいては、結晶子サイズLは、それぞれの結晶子サイズLよりもより小さいであろう(Laについて上記で与えられた最も広い範囲でさえも、さもなければ可能であろう)。
【0027】
特定の態様では、表面改質された合成グラファイトは、0.8未満、または0.6、0.4、0.3、0.2もしくは更には0.15未満のl/l比(R(I/I))を示す(632.8nmの励起波長を有するレーザーで測定した場合にラマン分光法によって測定される)。表面改質プロセスが、未処理の材料と比較してDバンドの強度を増加させる(すなわち、I/Iの比率の増加)とすると、大部分の態様では、I/I比は、0.05超、好ましくは0.07超となることが理解されるであろう。
【0028】
グラファイトの表面積は、とりわけグラファイト材料の粒子径に依存するので、本発明のプロセスの特定の態様では、特に、酸化プロセスは、通常BET表面積の増加をもたらすので、粉砕されていない合成グラファイトは、特に好適な出発材料であることが理解されるであろう。
【0029】
従って、本発明の表面改質された合成グラファイトは、幾つかの態様では、10〜50μmの範囲のD90を備えた粒子径分布によって更に特徴付けられるが、しかしながら、特定の態様では、15〜40μm、または20〜35μmの範囲のD90が好ましい。幾つかの特定の態様では、D90値は、25〜30μmの範囲となる。同様に、粒子径分布値D50は、幾つかの態様では5〜40μmの範囲であるが、しかしながら、特定の態様では、7〜30μm、または10〜20μmの範囲のD50値が好ましい。幾つかの態様では、D50値は、10〜15μmの範囲である。合成グラファイトは、それらの態様では、それぞれのD90値の範囲、独立してもしくは加えてD50値の範囲によって(もちろんのこと、それらが相互に相容れないことはないとの条件で)更に規定されることが更に理解されるであろう。全体として、得られた表面処理された合成グラファイトは、それらの態様では、むしろ狭い粒子径分布、すなわち、比較的に均質な粒子径を特徴とする。
【0030】
特定の態様では、本発明の表面改質された合成グラファイトは、50ppm超の酸素含有量によって更に特徴付けられ、一方でそれらの態様の幾つかでは、酸素含有量は、60、70、80、90、100、または更には110ppm超であることができる。本発明者らは、本発明の表面改質プロセスの特定の態様では、通常は処理された材料中の酸素含有量の増加をもたらすことを観察した。未処理の合成グラファイトの出発材料の典型的な酸素含有量値は、従って、典型的には40〜60ppmの範囲である。
【0031】
表面処理されたグラファイト材料を特徴付けるために用いることができる他のパラメータとしては、Fe含有量および灰分ならびにタップ密度およびキシレン密度が挙げられる。後者については、表面酸化は、出発材料に対して、キシレン密度の増加をもたらすことが見出され、少ししか黒鉛化されていない炭素の蝕刻(etching)(COおよびCO2の生成が続いて起こる)を示しているか、一方で、CVD処理において観察されたキシレン密度の減少は、より低いキシレン密度を有する熱分解炭素の堆積を示唆している。
【0032】
本発明のこの態様の幾つかの実施態様は、20ppm未満、そして幾つかの例では、更に15、10または5ppm未満のFe含有量で特徴付けられる表面改質された合成グラファイトに関する。同様に、特定の態様では、表面改質された合成グラファイトは、典型的には0.04未満の灰分を示すことができるが、しかしながら、灰分は、0.02、0.01%未満、またはしばしば更には0.005%未満である。
【0033】
幾つかの態様による表面改質された合成グラファイト材料のタップ密度は、通常は、0.8g/cm超であるが、一方で、他の態様では、タップ密度は、0.9g/cm、0.95g/cm、または1g/cm超である。
【0034】
<酸化処理によって得ることができる表面処理された合成グラファイト>
本発明による表面改質された合成グラファイト材料の特定の態様は、未処理の合成グラファイトを、酸素含有プロセスガスと、高温で限定された時間接触させることによる、緩やかな酸化処理によって得ることができる。本発明者らは、優れた電気化学的性質を備えた(特に、リチウムイオン電池の陰極材料として用いられた場合に)表面改質された合成グラファイトが、本明細書に記載したパラメータを特徴とする改質グラファイトを得るために、出発材料、ならびに主なプロセスパラメータ、例えば滞留時間、プロセスガス流量および温度を注意深く選択することによって得ることができることを見出した。
【0035】
従って、幾つかの態様では、酸化処理によって得られる表面改質された合成グラファイト材料は、約5〜約6.5の範囲のやや酸性のpH値を特徴とする。特定の態様では、緩やかな酸化によって改質された合成グラファイトのpHは、5.2〜6、または5.3〜5.5の範囲である。未処理の合成グラファイトは、典型的には中性のpH(すなわち、約pH7)を有しており、そして酸化による表面改質されたグラファイトで観察されるより低いpHは、グラファイト表面の化学的な変性によると信じられる(それは、主には、粒子の斜方晶系(prismatic)面上に、カルボニル、カルボキシルおよびヒドロキシル基を導入する)。
【0036】
酸化処理によって得ることができる表面改質された合成グラファイト材料は、幾つかの態様では、2.24〜2.26g/cmの範囲のキシレン密度によって更に特徴付けられるが、しかしながら、キシレン密度は、特定の場合には、2.245〜2.255g/cm、または2.25〜2.255g/cmの範囲である。
【0037】
特定の態様では、表面改質された合成グラファイト材料は、約0.3未満、または約0.25未満のl/l比(R(I/I))によって更に特徴付けられる。本発明のこの態様の好ましい実施態様では、I/I比は、632.8nmの励起波長を有するレーザーで測定した場合に、約0.2未満、または約0.15未満である。
【0038】
一般的に言って、上記で与えられたパラメータで特徴付けられた表面改質された合成グラファイトは、低表面積(例えば、粉砕されていない)合成グラファイトを、酸素含有プロセスガスに、500〜1100℃の範囲の温度で、典型的にはほんの2〜30分間、そして多くの場合には2〜15分間、接触させることによって得ることができる。特定の態様では、前述のパラメータで特徴付けられる改質されたグラファイトを得るのに必要とされる処理時間は、例えば、本プロセスが、700〜900℃の温度で、回転炉中で行われる場合には、5〜12分間の範囲である。
【0039】
好ましい態様では、本明細書に記載された酸化プロセスによって得ることができる有利な表面改質された低表面積合成グラファイトは、以下のパラメータを特徴とすることができる:
i)2.3〜3m/gの範囲のBET表面積
ii)100〜180nmの範囲の結晶子サイズL
iii)10〜40nmの範囲の結晶子サイズL
iv)5.2〜6.0の範囲のpH値
v)90ppm超の酸素含有量
vi)0.98g/cm超のタップ密度
vii)25〜35μmの範囲の粒子径分布(D90
【0040】
上記の例示的な範囲は、限定するようには理解されるべきでないことが意図されていることは容易に明らかである。従って、他の範囲または値が、その表面改質された合成グラファイトが上記で説明された基本的な構造的要求/パラメータを満足する限り、可能であることができる。
【0041】
<CVDコーティングによって得ることができる表面処理された合成グラファイト>
本発明者らは、CVDコーティング技術も、本明細書で上記に説明した有利な電気化学的性質を有する表面改質された合成グラファイトを生成させるために、同様に好適であることを見出した。従って、幾つかの態様では、表面改質された合成グラファイトは、本明細書に記載されたパラメータを特徴とする合成グラファイトを与えるように注意深く選択された反応条件の下でのCVDコーティングによって得ることができる。
【0042】
より具体的には、本発明のこの態様の幾つかの実施態様では、CVDコーティングによって得ることができる表面改質された合成グラファイトは、約1〜約2m/gの範囲のBET表面積、そして幾つかの態様では、1.0〜1.5m/gの範囲のBET表面積を特徴とする。あるいは、または加えて、そのようなCVD被覆された表面改質された合成グラファイトは、2.1〜2.26g/cmの範囲のキシレン密度を特徴とすることができる。それらの態様の幾つかでは、キシレン密度は、2.2〜2.255g/cm、そしてしばしば更には2.24〜2.25g/cmの範囲である。
【0043】
特定の態様では、CVDコーティングによって得ることができる表面改質された合成グラファイト材料は、632.8nmの励起波長を有するレーザーで測定された場合の、約0.7未満、または約0.6未満のI/I比(R(I/I))によって更に特徴付けられる。
【0044】
一般に、与えられたパラメータを特徴とするCVD被覆された低表面積の合成グラファイト材料は、低表面積(例えば、粉砕されていない)合成グラファイトの、化学気相堆積による、約500〜約1000℃の範囲の温度での、炭化水素含有ガスとの、好適な炉中における3〜120分間の範囲の処理時間での接触によって得ることができる。
【0045】
この態様の特定の好ましい実施態様では、本願明細書に記載されているようにCVDコーティングによって得ることができる、有利な表面改質された低表面積の合成グラファイトは、下記のパラメータを特徴とすることができる。
i)1.3〜1.8g/cmの範囲のBET表面積、
ii)100〜160nmの範囲の結晶子サイズL
iii)20〜60nmの範囲の結晶子サイズL、および随意選択的に、
iv)80ppm超の酸素含有量。
【0046】
CVD被覆された合成グラファイトについての上記の例示的な範囲は、限定的な意味で理解されてはならないことが、再度理解されなければならない。従って、他の範囲または値が、表面改質された合成グラファイトが、上記で説明した基本的な構造の要求/パラメータを満足する限りにおいて、可能であることができる。
【0047】
<表面改質された合成グラファイトの調製方法>
本発明の他の態様は、低表面積の合成グラファイトの表面を改質して、本明細書に記載し、そして特許請求した、優れた電気化学的性質を備えた表面改質された合成グラファイトを生成させるためのプロセスに関する。
【0048】
本発明による合成グラファイトの表面改質のためのプロセスは、特定の出発材料、すなわち1〜4m/g、または1〜3.5m/g、または1〜3.0m/gの範囲のBET表面積を有する低表面積の合成グラファイトの選択を特徴とする。この出発材料は、酸化(グラファイト材料を酸素含有プロセスガスと接触させること)、ならびに高温、そして結晶子サイズLおよび結晶子サイズLの間の比を増大させる条件下での化学気相堆積(グラファイト材料を炭化水素含有プロセスガスと接触させること)から選択される表面改質プロセスに付される。
【0049】
好ましくは、プロセスパラメータ(温度、プロセスガスの流量、滞留時間/処理時間)は、1超の結晶子サイズLの結晶子サイズLに対する比率を示す表面改質された合成グラファイトを生成するように選択されるが、しかしながら特定の態様では、この比率は、1.5、2.0、2.5または更には3.0超である。言い換えれば、結晶子サイズLは表面改質プロセスによって低減され、一方で、結晶子サイズLは比較的に影響を受けないままである。
【0050】
本発明のプロセスの特定の態様で得られた表面改質された合成グラファイトの結晶子サイズLおよびLの絶対値に関しては、それらは、出発材料(特にLについて)および選択されたプロセスパラメータ(特にLについて)に相当に依存して変わる可能性がある。結晶子サイズLについては、そのような態様で得られる材料の典型的な値は、50〜200nm、または8〜180nm、または90〜150nmまたは100〜130nmの範囲である。表面改質された合成グラファイトの結晶子サイズLについては、それらの態様での典型的な値は、5〜100nm、または5〜60nm、または10〜40nmの範囲である。いずれの場合にも、上記で説明したように、表面改質処理の後の結晶子サイズLの値は、その前よりも、すなわち、未処理の出発材料に比べて、小さい。
【0051】
一般的に言えば、処理された材料の酸素含有量は、出発材料に比べて増加する。従って、幾つかの態様では、本プロセスは、通常50ppm超の、または70ppm超、90ppm、100ppmまたは更には110ppm超の酸素含有量を有する材料をもたらす。
【0052】
同様に、本プロセスは、特定の態様では、得られたグラファイト材料のタップ密度を特徴とし、それは典型的には0.8g/cmよりも大きいが、しかしながら多くの場合には、0.9g/cm、0.95g/cm、または1g/cmよりも大きい。
【0053】
本発明のプロセスの特定の態様によって得られる表面改質された合成グラファイトを特徴付ける、幾つかの態様における他のパラメータとしては、Fe含有量があり、これは典型的には20ppm未満であるが、しかしながら、多くの場合には、15ppm、10ppm、7ppm未満、または更には5ppm未満である。本発明のプロセスによって得られる表面改質された合成グラファイトを幾つかの態様において特徴付ける、更に他のパラメータとしては、表面改質された合成グラファイトの灰分があり、それは0.04%、0.02%、0.01%未満、または場合によっては更に0.005%未満であることができる。
【0054】
得られた表面改質された合成グラファイトについての上記のパラメータおよび範囲のそれぞれは、単独で、または組み合わせてのいずれかで本プロセスを特徴付けることができることが理解されるであろう。
【0055】
プロセスパラメータに関しては、本発明の表面改質プロセスは、大部分の態様において、500〜1100℃の範囲の温度で行われるが、しかしながらそのような態様の多くでは、温度は、典型的には600〜1000℃、または700〜900℃の範囲である。事実、例の章で示したように、良好な結果が、700℃または900℃などの温度でそれぞれ得られている。一般的に、当業者は、グラファイト粒子の表面の改質は、少なくとも同等の処理時間では、高温の方がより顕著であることを理解するであろう。言い換えれば、匹敵する結果のためには、本プロセスがより高温で行われる場合には、処理時間はより短くなければならない。しかしながら、幾つかの例では、処理時間が適切に適合されたとしても、異なる温度において結果を再現するのは可能ではない可能性がある。
【0056】
本発明の特定の態様による表面改質プロセスは、典型的には高温炉、例えば回転炉、流動床反応器または固定床反応器で行われるが、しかしながら他の反応器の種類もまた一般的に可能である。合成グラファイトの出発材料の供給速度が、100〜70000g/時、または200〜30000g/時、または400〜2000g/時の範囲である場合には満足な結果を得ることができることが見出されたが、しかしながらここでも、この値/範囲は、炉の種類および寸法に幾分か依存し、そして従って大まかな指針を与えているだけであると理解されなければならない。
【0057】
本プロセスが、回転炉中で行われる場合には、その回転炉が、典型的には1〜10、またはいくつかの態様では、3〜9、または5〜8rpmの回転速度(rpm)で運転された場合に、良好な結果を得ることができることが確認された。そのような態様では、回転炉の傾斜(これが炉中の粒子の滞留時間を効果的に決定する)は、典型的には0.5〜10°の範囲であるが、しかしながら多くの場合には、回転炉の傾斜は、3〜9°、または更に5〜8°の範囲であることが更に確認された。ここでも、それらの値は、回転炉のこれらのプロセスパラメータは、所望の結果(この場合には滞留時間)を得るための大まかな指針を与えるものと理解されなければならない。いずれにしても、当業者は、前記に、そして添付の特許請求の範囲で規定された表面改質された合成グラファイトに到達するためのプロセスパラメータ、例えば温度、プロセスガスの選択および流量、ならびに処理時間を如何に調整するかを理解するであろう。
【0058】
プロセスパラメータの選択の他に、結果は、もちろんのこと、合成グラファイト出発材料の性質にも依存する。本発明の特定の態様によるプロセスは、低表面積の合成グラファイトの使用を可能にし、そのことは、多くの場合において、粉砕されていないグラファイトが、本明細書に記載された表面改質手順に付すことができることを意味している。表面酸化プロセスは一般的に処理された材料のBET表面積を増加させる(CVDコーティングと比較して、CVDコーティングは典型的には処理後のBET表面積の減少をもたらす)ことを考慮すれば、特に表面酸化プロセスにおいては、合成グラファイト出発材料のBET表面積は、本発明の特定の態様の最終的な表面改質されたグラファイト材料について本明細書で規定されたBET表面積の上限値を超えないか、または更にはそれよりも幾分か小さく、すなわち、約4m/g未満、そして好ましくは3.5もしくは3.0m/g未満でなければならないことが容易に明らかである。対照的に、CVDコーティングプロセスに付される合成グラファイト出発材料のBET表面は、CVDコーティングは、通常は、処理された材料の表面積を低下させるので、最終製品に許容されるBET表面積の上限よりも大きくてよい。
【0059】
多くの好適な低表面積の合成グラファイトが商業的に入手可能であり、そして本発明のプロセスの特定の態様において用いることができる。例えば、優れた合成グラファイト出発材料がTimcal Graphite & Carbon(Bodio、スイス国)から、Timrex(商標)SLG3の商品名の下に入手可能であり、これは新規なアチソン型の生産プロセスによって生産された粉砕されていない合成グラファイトである(国際公開第2010/049428号中に記載されており、その全体を参照することによって本明細書の内容とする)。
【0060】
<表面酸化による合成グラファイトの改質のためのプロセス>
本発明のこの態様の幾つかの実施態様では、合成グラファイトの表面を改質するためのプロセスは、例えば約500〜1100℃の範囲の高温でのグラファイト粒子の制御された酸化を含んでいる。この酸化は、低表面積の合成グラファイト粒子を、酸素含有プロセスガスと、比較的に短い時間、好適な炉、例えば上記の回転炉中で接触させることによって達成することができる。
【0061】
酸素を含んでいるこのプロセスガスは、純粋な酸素、(合成もしくは天然の)空気、または他の酸素含有ガス、例えばCO、CO、HO(蒸気)、OおよびNOから選択することができる。このプロセスガスはまた、前記の酸素含有ガスのいずれかの混合物、随意選択的には、不活性キャリアガス、例えば窒素もしくはアルゴンとの混合物、であることができることが理解されるであろう。酸化プロセスは、酸素濃度が増加すると、すなわち、プロセスガス中の酸素のより高い分圧で、より速く進むことが一般的に理解されるであろう。
【0062】
本発明のこの態様の多くの実施態様では、プロセスパラメータ、例えば処理時間(すなわち、炉中の滞留時間)、酸素含有量およびプロセスガスの流量ならびに処理温度は、バーンオフ率を約10質量%未満に維持するように選択されるが、しかしながら、幾つかの実施態様では、バーンオフ率は、より低く、例えば9%、8%、7%、6%または5%未満に維持することが好ましい。バーンオフ率は、特には表面酸化処理に関して、通常用いられるパラメータである、何故ならば、バーンオフ率は、どれだけ多くの炭素質材料が二酸化炭素に転換され、それによって残っている表面処理された材料の質量を低下させたかの情報を与えるためである。
【0063】
本発明者らは、低表面積の合成グラファイト出発材料(すなわち、4または更には3.5m/g未満のBET表面積を有する)では、このグラファイトが酸素含有プロセスガス(例えば、合成空気)と接触している処理時間は、比較的に短く、従って2〜30分間の範囲でなければならないことを見出した。多くの例では、この時間は、更に短く、例えば、2〜15分間、4〜10分間または5〜8分間であることができる。事実、実施例から理解されるように、700℃および900℃で約7分間の処理時間で、良好な結果が得られているが、しかしながら、そのような値は、本発明のこの態様を単に説明することを意味していることは明らかである。事実、異なる出発材料を用いると、本明細書で規定するような所望の構造的なパラメータを有する表面改質された合成グラファイトに到達するためには、温度および酸素分圧に、処理時間を適合させることが必要となる可能性がある。上記の処理時間の可変性に関わらず、本発明の表面改質プロセスは、従来技術で開示されている他の点では同様の酸化処理(それらは、大抵は(数)時間単位である)に比較して相対的に短いことを確認することができる。
【0064】
特定の態様では、酸化は、合成グラファイトを、空気または他の酸素含有ガスと、通常は1〜200L/分の範囲の流量で接触させることによって達成される。特定の態様では、1〜50L/分、または2〜50L/分の空気の流量は、そのように得られたグラファイト材料の電気化学的性質の点で優れた結果を与えることが観察された。当業者は、本明細書で説明されたパラメータを特徴とする表面改質されたグラファイトに到達するために、プロセスガスの素性、処理温度および炉中の滞留時間に応じて流量を適合させることができるであろう。
【0065】
<化学気相堆積による合成グラファイトの改質のためのプロセス>
本発明のこの態様の他の実施態様では、低面積の合成グラファイト材料の表面改質は、化学気相堆積(CVD)よって得ることができる。グラファイトのような炭素化合物の場合には、CVDプロセスは、大部分が不規則な炭素含有粒子でグラファイト粒子の表面を被覆する。本発明のこの実施態様の関係におけるCVDコーティングは、従って、合成グラファイト出発材料を、炭化水素または低級アルコールを含むプロセスガスと、特定の時間、高温(例えば、500℃〜1000℃)で接触することを含んでいる。
【0066】
処理時間は、大部分の態様では、2〜120分間で変化するが、しかしながら多くの例では、グラファイト粒子がプロセスガスと接触する時間は、5〜90分間、10〜60分間、または15〜30分間の範囲だけである。好適なガス流量は、当業者によって定められることができる。幾つかの態様では、窒素担体ガス中に2〜10%のアセチレンまたはプロパンを含むプロセスガス、および約1m/hの流量で、良好な結果が得られた。
【0067】
CVDコーティング手順におけるプロセスガスは、幾つかの態様では、メタン、エタン、エチレン(エタン)、プロパン、プロペン、アセチレン(プロピン)、ブタン、またはそれらの組合わせから選ぶことができるが、一方で、他の態様では、プロセスガスは、ベンゼン、トルエン、またはキシレンから選択される芳香族炭化水素蒸気であり、または他の態様では、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびそれらの組合わせから選択されるアルコールである。また、炭化水素ガスまたはアルコール蒸気も、不活性担体ガス、例えば窒素もしくはアルゴンと混合することができる。
【0068】
いずれにしても、酸化処理の場合のように、このプロセスは、既に上記で詳述したのと同じ温度および同じ装置で行うことができる。プロセスパラメータ、例えば温度、処理時間およびガスの選択ならびに流量は、上記で概略を述べた表面処理されたグラファイト材料の所望の製品特徴およびパラメータを考慮して当業者によって適切に適合されることができる。
【0069】
例えば、CVD被覆された合成グラファイトは、流動床反応器で、下記の表4中に記載した出発材料(国際公開第2010/049428号中に記載されたプロセスに従って得られた)を、アセチレン含有プロセスガスと、1m/hの流量で、100分間、800℃で接触させることによって得ることができる。
【0070】
全体には、この例で与えられるパラメータは、保護の範囲を限定することは意図されておらず、しかしながらむしろ特許請求の範囲に入る表面改質された合成グラファイトを与える例示的な枠組みを示す役割をすることが理解されるであろう、すなわち、特許請求の範囲は、本明細書に記載されたパラメータを特徴とする。
【0071】
出発材料については、CVDコーティングプロセスは、一般的に表面積の低下を招くことはすでに上記に示したが、このことは、出発材料は、必ずしも約4m/g未満のBET表面積を示す必要はないことを意味しているが、しかしながら、多くの場合には、しばしば4m/g未満のBET表面積を有する粉砕されていないグラファイト粒子を用いることがやはり有利である。
【0072】
表面改質された合成グラファイトを調製するための種々のプロセスをより詳細に記載してきたが、本発明の他の態様は、従っていずれかの前述のプロセスによって得ることができ、そして1〜4m/g、好ましくは1〜3.5m/gのBET表面積および1超の結晶子サイズLの結晶子サイズLに対する比を少なくとも有することを特徴とする、表面改質された合成グラファイトに関することは明らかである。本明細書の記載されたプロセスによって得ることができるグラファイトは、上記に、および添付の特許請求の範囲に示された更なるパラメータのいずれか1つによって、随意選択的に更に規定することができる。
【0073】
全体として、本発明のプロセスの特定の態様は、向上した電気化学的性質を備えた表面改質された合成グラファイトをもたらすことができ、すなわち、このグラファイトは、リチウムイオン電池の陰極材料として用いられた場合に、未処理の出発材料に比べて、より高い放電容量および/またはより低い不可逆容量を提供する。あるいは、または加えて、本プロセスによって得られた表面処理されたグラファイト材料はまた、リチウムイオン電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【0074】
特定の態様では、表面酸化された低表面積の合成グラファイトは、向上した親水性を有するように見え、このことは、例えば水系の電極製造プロセスには有利である(より良好な水性媒質での湿潤および水性媒体中の分散)。
【0075】
更には、酸化されたグラファイト表面とバインダとの向上した相互作用によることの可能性が最も高いが、表面処理は、表面改質されたグラファイトの向上した接着/粘着をもたらすようにみえる。いずれかの理論によって拘束されることは望まないが、後者の効果は、観察された優れたサイクル安定性およびインターカレーション/デインターカレーションの間の電極の完全性の因子となる可能性がある(以下の例4参照)。
【0076】
特定の態様では、表面改質された低表面積の合成グラファイトを含む電極箔のピール強度は、未処理の低表面積の合成グラファイトを含む電極箔よりも大きい。例えば、特定の態様では、上記のように調製され、そして測定された、表面改質された低表面積の合成グラファイトおよびCMC/SBRバインダ材料を含む電極箔は、0.08g cm−1超のピール強度(本明細書に記載された試験方法によって測定された)を有しており、未処理の材料と比較して20%の向上を示している。0.08g cm−1超の向上したピール強度を備えた電極は、未処理の材料に比べて、約65%だけより良好なサイクル安定性を示した。
【0077】
<表面改質された低表面積の合成グラファイトおよび高度に結晶性の合成グラファイトを含むグラファイト組成物>
本明細書の記載された表面改質された合成グラファイトと、微細に粉砕された合成もしくは天然グラファイトの混合は、リチウムイオン電池の陰極の活性材料として用いられた場合には、その電極のサイクル安定性を更に向上させることが見出された。
【0078】
従って、本発明の他の態様は、本明細書に記載された表面改質された合成グラファイトを含み、そして微細に粉砕された高度に結晶性の合成グラファイトを更に含むグラファイト組成物に関する。ここで用いられる「高度に結晶性」は、層間距離c/2およびキシレン密度を特徴とする真密度ならびに特には結晶子サイズLを特徴とする粒子中の結晶子ドメインの大きさを特徴とする、グラファイト粒子の結晶性を表している。この意味では、高度に結晶性のグラファイトは、0.3370nm未満のc/2、約2.230g cm−3超のキシレン密度、および20nm以上のLを備えたグラファイトである。
【0079】
そのような態様の高度に結晶性のグラファイトは、典型的には、Malvernレーザー回折による、約1〜約30μmのD50および約2〜約80μmのD90、好ましくは約2〜約10μmのD50および約4〜約50μmのD90を特徴とする。
【0080】
この態様の特定の実施態様では、高度に結晶性の合成グラファイトは、約10〜約25μm、または好ましくは約15〜約20μmのD90および約5〜約15、または好ましくは約7〜約10のD50ならびに約5〜約15m−1またはより好ましくは約8〜約12m−1の比BET表面積を特徴としており、例えばTIMCAL Ltd.によって供給される商業的に入手可能なグラファイトTIMREX(商標)SFG 15がある。この態様の他の実施態様では、高度に結晶性の合成グラファイトは、約4〜約10μm、または好ましくは約5〜約7μmのD90および約2〜約6μm、または好ましくは約3〜約5μmのD50、ならびに約10〜約25m−1またはより好ましくは約14〜約20m−1の比BET表面積を特徴としており、例えばTIMCAL Ltd.によって供給される製品C-NERGY(商標)SFG 6Lがある。
【0081】
高度に結晶性の合成グラファイトは、典型的には約1〜約30質量%の量で、表面改質された低表面積の合成グラファイトに加えられて、サイクル安定性の点で更に向上した性質(例えば、セルの第1回放電および第10回放電での比容量の維持)を有するグラファイト組成物を生じさせる。幾つかの好ましい態様では、グラファイト組成物は、5〜20質量、好ましくは10〜15質量%の高度に結晶性の合成グラファイトを含むが、しかしながら、好ましい範囲外でもまた、有利な効果が観察されている。
【0082】
<表面改質された低表面積の合成グラファイトの使用およびその材料を含む下流の製品>
本明細書で規定したように得られた表面改質された合成グラファイト材料は、優れた電気化学的な性質を示す(特に、未処理の材料に比べて)ので、本発明の更に他の態様は、その表面改質された合成グラファイト、または表面改質されたグラファイトを高度に結晶性の合成グラファイトを一緒に含むグラファイト組成物の、リチウムイオン電池用の陰極を調製するための活性材料としての使用に関する。従って、本明細書に規定された表面改質された合成グラファイトまたはグラファイト組成物を活性材料として含む、リチウムイオン電池の陰極は、本発明の他の態様を表している。これは、陰極が、100%未満の本発明によるグラファイト材料を活性材料として含む電極を含んでいる。言い換えれば、更に他の材料(グラファイトまたは他のもの)との混合物を含む陰極は、同様に本発明の態様として意図されている。
【0083】
最後に、本発明はまた、本明細書に規定された表面改質された合成グラファイトまたはグラファイト組成物を、リチウムイオン電池の陰極の活性材料として含む、リチウム電池に関する。ここでも、更に他のグラファイト材料との混合物を含む陰極もまた、本発明のこの態様に含まれる。
【0084】
測定方法
ここに特定されるパーセント(%)の値は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0085】
比BET表面積
この方法は、77Kでのp/p0=0.04〜0.26の範囲での、液体窒素の吸収等温線の記録を基にしている。Brunauer、EmmetおよびTeller(Adsorption of Gases in Multimolecular Layers、J. Am. Chem. Soc、1938、60、p.309- 319)によって提案された手順に従って、単分子層容量を測定することができる。窒素分子の断面積を基にして、単分子層容量および試料の質量、比表面積を次いで計算することができる。
【0086】
結晶子サイズL
結晶子サイズLは、(002)および(004)回折プロファイルの解析によって決定される。本発明では、Iwashita(N. Iwashita、C. Rae Park、H. Fujimoto、M. ShiraishiおよびM. Inagaki、Carbon 42、p.701 -714 (2004))によって示唆された方法が用いられる。Iwashitaによって提案されたアルゴリズムは、炭素材料のために特に開発されている。試料および対照の最大の半分の線プロファイルの幅が測定される。補正関数によって、純粋な回折プロファイルの幅を定めることができる。結晶子サイズは、次いで、Scherrerの方程式(P. Scherrer、Gottinger-Nachrichten、2 (1918)、p.98)を適用することによって計算される。
【0087】
結晶子サイズL
結晶子サイズは、ラマン測定(外部試験機関Evans Analytical Groupで行った)から下記の式を用いて計算される。
[オングストローム(Å)]=C×(I/I
式中、定数Cは、514.5nmおよび632.8nmの波長のレーザーそれぞれで、44[Å]および58[Å]の値を有している。
【0088】
レーザー回折による粒子径分布
干渉光線内の粒子の存在は、回折を引き起こす。回折パターンの寸法は、粒子径と相関する。低出力レーザーからの平行光線が、水中に懸濁された試料を含むセルを照らす。このセルを出た光線は、光学系によって焦点を合される。次いで、この系の焦平面中の光エネルギーの分布が解析される。光学的検知器によって与えられた電気信号は、計算機によって粒子径分布へと変換される。グラファイトの少量の試料が、数滴の湿潤剤および少量の水と混合される。記載された方法で調製された試料は、装置の貯蔵容器中に導入され、そして測定される。
参照文献:ISO13320−1/ISO14887
【0089】
キシレン密度
この分析は、DIN51 901に規定された液体排除の原理に基づいている。約2.5g(精度0.1mg)の粉末を25mLの比重瓶中に秤量する。キシレンを、真空下(15トール)に加える。常用圧力の下での数時間の保持時間の後に、比重瓶を状態調節し、そして秤量する。
密度は、質量と体積の比を表している。質量は、試料の質量によって与えられ、そして体積は、試料粉末のあり、およびなしでの、比重瓶に満たされたキシレンの質量の差異から計算される。
参照文献:DIN 51 901
【0090】
スコット密度(見掛け密度)
スコット密度は、ASTM B329−98(2003)に従って、乾燥炭素粉末を、スコット体積計を通して通過させることによって測定される。粉末が、1inの容器(16.39cmに相当する)に収集され、そして0.1mgの精度で秤量される。質量と体積の比は、スコット密度に相当する。3回測定し、そして平均値を計算することが必要である。グラファイトのバルク密度は、較正されたガラスシリンダ中の250mLの試料の質量から計算される。
【0091】
タップ密度
100gの乾燥グラファイト粉末が、注意深くメスシリンダ中に注がれる。次いで、このシリンダを、偏心軸式タッピング機に固定し、そして1500往復運動を行う。体積の読みが記録され、そしてタップ密度が計算される。
参照文献:DIN−ISO 787−11
【0092】
pH値
1gのグラファイト粉末が、2滴のimbentin(商標)を含む50mLの蒸留水中に分散され、そして較正されたpH電極を備えたpHメータによって測定される。
【0093】
Fe含有量
この分析は、SDAR OES同時発光スペクトロメータによって行われる。振動ミルによって80μmの最大粒子径に粉砕されたグラファイト粉末が、錠剤に圧縮成形される。この試料が、アルゴン雰囲気の下で、分光計の励起スタンド上に置かれる。次いで、完全に自動の分析を開始することができる。
【0094】
灰分
低い壁のセラミック製ルツボが、マッフル炉中で800℃で強熱され、そしてデシケータ中で乾燥される。10gの乾燥粉末(精度0.1mg)の試料が、低壁のセラミック製ルツボ中で秤量される。この粉末が、815℃(1472°F)の温度で、恒量まで燃焼される(少なくとも8時間)。残渣が、灰分に相当する。灰分は、試料の初期の質量のパーセントとして表される。
参照文献:DIN 51903およびDIN 51701(分割法)、ASTM C 561−91
【0095】
酸素含有量
機器によるガス分析法。外部試験機関Evans Analytical Groupで行った。
【0096】
カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシル基含有量
X線吸収端近傍構造法。Brookhaven National LaboratoryのNational Synchrotron Light Source(NSLS)で、外部接触により実施(参照方法:Kim, K.、Zhu, P.、Li, N.、Ma, X.、Chen, Y. Carbon 2011、49、1745)。
【0097】
リチウムイオン陰極半電池試験−TIMCAL PVDF標準手順
この試験は、グラファイト活性材料について、それらの剥落を起こす傾向について適格性を調べるために用いた。この目的のために、比較的に低い密度を有する電極を調製し、そして膜形成性添加剤を含まない電極を用いた。
一般的な半電池パラメータ:
対/参照電極として、Li金属薄を備えた2電極のコイン型セルデザインで、セルの組み立ては、アルゴンを充填したグローブボックス中(酸素および水含有量<1ppm)
電極の直径:13mm
規定の力を電極に加えるために較正されたバネ(100kN)を用いた。
試験は、25℃で行った。
分散配合物:94%のグラファイト(活性材料、18.8g)、6%のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)バインダ(9.23g)、11gのN−メチルピロリジン
分散液の調製:PVDFバインダ(N−メチルピロリジン中の13%溶液)、グラファイトおよびN−メチルピロリジンをSchott瓶に加え、そしてガラス棒を用いて撹拌した。ロータ−ステータ混合器を、11000rpmで、5分間以上、この溶液を均質化するために用いた。
Cu箔上のブレード高さ:200μm(ドクターブレード)
乾燥手順:被覆されたCu箔を、80℃で1時間、次いで120℃で12時間、真空下(<50ミリバール)で乾燥した。切断の後に、この電極を120℃で10時間、真空下(<50ミリバール)で乾燥し、次いでグローブボックスに容れた。
プレス:5×5cm角の電極箔を、1.2〜1.4g/cmの電極密度を得るために、50〜75kNで1秒間プレスした。
電解質:エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)1:3、1M LiPF
セパレータ:ガラス繊維シート、約1mm
ポテンショスタットを用いたサイクルプログラム:
第1回充電:Li/Liに対して5mVの電位までの定電流工程10mA/g、次いで5mA/gの限流値(cutoff current)に到達するまでのLi/Liに対して5mVでの定電圧工程。第1回放電:Li/Liに対して1.5Vの電位までの定電流工程10mA/g、次いで5mA/gの限流値(cutoff current)に到達するまでのLi/Liに対して1.5Vでの定電圧工程。
更なる充電サイクル:Li/Liに対して5mVの電位までの50mA/gでの定電流工程、次いで5mA/gの限流値に到達するまでの、Li/Liに対して5mVでの定電圧工程。
更なる放電サイクル:Li/Liに対して1.5Vの電位までの3Cでの定電流工程、次いで5mA/gの限流値に到達するまでの、Li/Liに対して1.5Vでの定電圧工程。
【0098】
リチウムイオン陰極半電池試験−CMC/SBR標準手順
この試験は、グラファイト活性材料およびグラファイト活性材料の混合物を、電気化学的に適格性を調べるために用いた。
一般的な半電池パラメータ:
対/参照電極として、Li金属薄を備えた2電極のコイン型セルデザインで、セルの組み立てはアルゴンを充填したグローブボックス中(酸素および水含有量<1ppm)
電極の直径:13mm
規定の力を電極に加えるために較正されたバネ(100kN)を用いた。
試験は、25℃で行った。
分散液配合:97%のグラファイト(活性材料、48.5g)、2%のSBR(スチレンブタジエンゴム)バインダ(水中に48質量%、2.08g)、1%のCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)バインダ(水中に1.5質量%、33.3g)、17gの水。
分散液の調製:CMCバインダ溶液およびグラファイトの分散液が、フラスコ中で調製され、これは真空下に置くことができ、ガラス棒で、グラファイトが完全に濡らされるまで混合され、次いで水が加えられる。この混合物を、機械的混合器(600rpm)で真空下(<50ミリバール)に30分間撹拌した。真空を一時的に取り去り、そしてSBRバインダ溶液を加えた。この混合物を、次いで機械的混合器(600rpm)で、真空下(<50ミリバール)に更に30分間撹拌した。
Cu箔上のブレード高さ:150μm(ドクターブレード)
乾燥手順:被覆されたCu箔を80℃で1時間、次いで真空下(<59ミリバール)で120℃で12時間乾燥した。切断の後に、これらの電極は、真空下(<59ミリバール)で120℃で10時間乾燥し、次いでグローブボックス中に挿入した。
プレス:5×5cm角の電極箔を、1.45〜1.55g/cmの電極密度を得るために、75〜400kNで1秒間プレスした。
電解質A:エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)1:3(v/v)、1M LiPF
電解質B:エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)1:3(v/v)、0.5体積%ビニレンカーボネート、1M LiPF
セパレータ:ガラス繊維シート、約1mm
ポテンショスタットを用いたサイクルプログラムA:第1回充電:Li/Liに対して5mVの電位までの定電流工程20mA/g、次いで5mA/gの限流値(cutoff current)に到達するまでのLi/Liに対して5mVでの定電圧工程。第1回放電:Li/Liに対して1.5Vの電位までの定電流工程20mA/g、次いで5mA/gの限流値(cutoff current)に到達するまでのLi/Liに対して1.5Vでの定電圧工程。更なる充電サイクル:Li/Liに対して5mVの電位までの50mA/gでの定電流工程、次いで5mA/gの限流値に到達するまでの、Li/Liに対して5mVでの定電圧工程。更なる放電サイクル:Li/Liに対して1.5Vの電位までの3Cでの定電流工程、次いで5mA/gの限流値に到達するまでの、Li/Liに対して1.5Vでの定電圧工程。
ポテンショスタットを用いたサイクルプログラムB:
第1回充電:Li/Liに対して5mVの電位までの定電流工程10mA/g、次いで5mA/gの限流値(cutoff current)に到達するまでのLi/Liに対して5mVでの定電圧工程。第1回放電:Li/Liに対して1.5Vの電位までの定電流工程10mA/g、次いで5mA/gの限流値(cutoff current)に到達するまでのLi/Liに対して1.5Vでの定電圧工程。更なる充電サイクル:Li/Liに対して5mVの電位までの50mA/gでの定電流工程、次いで5mA/gの限流値に到達するまでの、Li/Liに対して5mVでの定電圧工程。更なる放電サイクル:Li/Liに対して1.5Vの電位までの1Cでの定電流工程、次いで5mA/gの限流値に到達するまでの、Li/Liに対して1.5Vでの定電圧工程。
「サイクル当たりの容量損失」の計算:サイクル5〜15の放電容量の直線適合の傾きをサイクル5の放電容量で割り算して、サイクル当たりの容量損失値(%)となる。
【0099】
T−ピール試験
剥離抵抗(活性層の)をT−ピール試験を用いて測定した。
試験片:35.0×71.4mmの矩形を電極箔から切り出し、そして14〜16kN/cmで1秒間プレスした。電極箔当たりに2つの試片を試験した。1つの電極箔を、それぞれの材料について作った。
装置および手順:引張試験機を用いて、Cu集電装置から活性層を剥離するためにテープを用いた。100mm/分の一定のヘッド速度で荷重を加えた。試片への最大荷重は、用いたロードセルの荷重範囲の上限の20〜25%とした。それぞれの試料の剥離抵抗を、少なくとも40mmの距離に亘って、そして少なくとも640の読みを平均することによって、測定した。平均荷重(ニュートン単位)を、接着線(cmでの試料の幅)の長さによって正規化した。ピール強度の結果は、N/cmで表される。
【0100】
本発明の種々の態様を概括的に記載してきたが、多くの変更および若干の変化が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく可能であることが、当業者には明らかであろう。
【0101】
本発明は、以下の番号を付した実施態様を参照することによって更に説明される。
1.約1.0〜約4m/gのBET表面積を有し、かつ1超の垂直軸結晶子サイズLcの平行軸結晶子サイズLaに対する比(Lc/La)を示す、表面改質された合成グラファイト。
2.632.8nmの励起波長を有するレーザーで測定した場合に、0.8未満のI/I比(R(I/I))を示す、実施態様1の表面改質された合成グラファイト。
3.前記BET表面積が1〜3.5m/gまたは1〜3m/gの範囲であり、および/または前記L/Lの比が、1.5、2.0、2.5または3.0よりも大きい、実施態様1または実施態様2の表面改質された合成グラファイト。
4.粒子径分布(D90)が10〜50μm、または20〜35μm、または27〜30μmの範囲であり、および/または粒子径分布(D50)が、5〜40μm、または7〜30μm、または10〜20μmの範囲である、実施態様1〜3のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
5.前記結晶子サイズLが、50〜200nm、または80〜180nm、または100〜130nmの範囲である、実施態様1〜4のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
6.前記結晶子サイズLが、5〜100nm、または5〜60nm、または10〜40nmの範囲である、実施態様1〜5のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
7.酸素含有量が、50ppm超、または90ppm超、または110ppm超である、実施態様1〜6のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
8.タップ密度が、0.8g/cm超、または0.9g/cm超、または0.95g/cm超、または1g/cm超である、実施態様1〜7のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
9.Fe含有量値が、20ppm未満、または10ppm未満、または5ppm未満である、実施態様1〜8のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
10.灰分が、0.04未満、または0.01%未満、または好ましくは0.005%未満である、実施態様1〜9のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
11.pH値が、5.0〜6.5、または5.2〜6、または5.3〜5.5の範囲である、実施態様1〜10のいずれか1項の表面改質された合成グラファイト。
12.キシレン密度が、2.24〜2.26g/cm、または2.245〜2.255g/cm、または2.25〜2.255g/cmの範囲である、実施態様11の表面改質された合成グラファイト。
13.632.8nmの励起波長を有するレーザーで測定した場合に、約0.3未満、または約0.25未満、または約02未満、または約0.15未満のI/I比(R(I/I))を示す、実施態様11または実施態様12の表面改質された合成グラファイト。
14.前記グラファイトが、以下のパラメータ、
i)2.3〜3m/gの範囲のBET表面、
ii)100〜180nmの範囲の結晶子サイズL
iii)10〜40nmの範囲の結晶子サイズL
iv)5.2〜6.0の範囲のpH値、
v)90ppm超の酸素含有量、
vi)0.98g/cm超のタップ密度、
vii)25〜35μmの範囲の粒子径分布(D90)、
を特徴とする、実施態様1〜13のいずれか1つの表面改質された合成グラファイト。
15.前記グラファイトが、1m/g〜約3.5m/gの範囲のBET表面積を有する合成グラファイトの、500〜1100℃の温度での、2〜30分間の範囲の処理時間での、酸化によって得ることができ、好ましくは、合成グラファイト開始材料が、粉砕されていない合成グラファイトである、実施態様11〜14のいずれか1つの表面改質された合成グラファイト。
16.前記BET表面積が、1〜2m/g、または1.0〜1.5m/gの範囲である、実施態様1〜10のいずれか1つの表面改質された合成グラファイト。
17.前記キシレン密度が、2.1〜2.26g/cm、または2.2〜2.255g/cm、または2.24〜2.25g/cmの範囲である、実施態様16の表面改質された合成グラファイト。
18.前記表面改質された合成グラファイトが以下のパラメータ、
i)1.3〜1.8g/mの範囲のBET表面積、
ii)100〜160nmの範囲の結晶子サイズL
iii)20〜60nmの範囲の結晶子サイズL、および、随意選択的に、
iv)80ppm超の酸素含有量、
を特徴とする、実施態様16〜18のいずれか1つの表面改質された合成グラファイト。
19.前記グラファイトは、合成グラファイト出発材料上への、500〜1000℃の温度での、炭化水素ガスの、3〜120分間の範囲の処理時間での化学気相堆積(CVD)によって得ることができる、実施態様16〜18のいずれか1つの表面改質された合成グラファイト。
20.1〜4m/g、または1〜3m/gの範囲のBET表面積を有する合成グラファイトが、結晶子サイズLと結晶子サイズLの間の比を増加させる条件下での酸化および化学気相堆積(CVD)から選ばれる表面改質プロセスに付される、合成グラファイトの表面の改質方法。
21.前記合成グラファイトの表面が、500〜1100℃、または600〜1000、または700〜900℃の範囲の温度で改質される、実施態様20の方法。
22.合成グラファイトの表面が、高温炉で改質され、好ましくは該炉が、回転炉、流動床反応器、または固定床反応器である、実施態様20または実施態様21の方法。
23.前記グラファイトの表面が、酸素含有プロセスガスとの接触によって改質され、プロセスパラメータが、10%未満、または9%未満、または8%未満のバーンオフ率(質量%)を維持するように適合される、実施態様20〜22のいずれか1つの方法。
24.前記合成グラファイトの表面が、2〜30分間、または2〜15分間、または4〜10分間、または5〜8分間の範囲の時間での酸素との接触によって改質される、実施態様20〜23のいずれか1つの方法。
25.前記酸化が、前記合成グラファイトを、1〜200L/分、または1〜50L/分、または2〜5L/分の範囲の流量で、空気と接触させることによって達成される、実施態様23または実施態様24の方法。
26.前記合成グラファイトの表面が、該グラファイトを、5〜120分間、または10〜60分間、または15〜30分間の範囲の時間、炭化水素ガスまたはアルコール蒸気と接触させることによって達成される化学気相堆積によって改質される、実施態様20〜22のいずれか1つの方法。
27.前記炭化水素ガスが、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、アセチレン、ブタン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される脂肪族または芳香族炭化水素であるか、あるいは前記アルコールが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様26の方法。
28.化学気相堆積による表面改質が、流動床反応器中で、500〜1000℃の範囲の温度で、不活性担体ガスと混合された炭化水素ガスで行われ、好ましくは該炭化水素ガスは、アセチレンまたはプロパンであり、かつ該担体ガスが窒素である、実施態様26または実施態様27の方法。
29.前記表面改質された合成グラファイトが、1超の結晶子サイズLの結晶子サイズLに対する比(L/L)を示すか、あるいは該比が、1.5、2.0、2.5、または3.0超である、実施態様20〜28のいずれか1つの方法。
30.前記表面改質された合成グラファイトの結晶子サイズLが、50〜200nm、または80〜180nm、または100〜130nmの範囲である、実施態様20〜29のいずれか1つの方法。
31.前記表面改質された合成グラファイトの結晶子サイズLが、5〜100nm、または5〜60nm、または10〜40nmの範囲である、実施態様20〜30のいずれか1つの方法。
32.前記表面改質された合成グラファイトの酸素含有量が、50ppm超、または90ppm超、または110ppm超である、実施態様20〜31のいずれか1つの方法。
33.前記表面改質された合成グラファイトのタップ密度が、0.8g/cm超、または0.9g/cm超、または0.95g/cm超、または1g/cm超である、実施態様20〜32のいずれか1つの方法。
34.前記表面改質された合成グラファイトのFe含有量値が、20ppm未満、または10ppm未満、または5ppm未満である、実施態様20〜33のいずれか1つの方法。
35.前記表面改質された合成グラファイトの灰分が、0.04%未満、または0.01%未満、または0.005%未満である、実施態様20〜34のいずれか1つの方法。
36.前記表面改質された合成グラファイトが、リチウムイオン電池の陰極材料として用いられた場合に、未処理の出発材料と比較して、より高い放電容量および/またはより低い不可逆容量を与える、実施態様20〜35のいずれか1つの方法。
37.実施態様20〜36のいずれか1つの方法によって得られる、約1.0〜約4m/gのBET表面積を有し、かつ1超の垂直軸結晶子サイズLの平行軸結晶子サイズLに対する比(L/L)を示す、表面改質された合成グラファイト。
38.実施態様1〜19または37のいずれか1つで規定された表面改質されたグラファイトを含み、かつ1〜30質量%の高度に結晶性の合成もしくは天然グラファイトを更に含む、グラファイト組成物。
39.前記高度に結晶性のグラファイトが、
i)約15〜約20μmのD90および約8〜約12m−1のBET SSA、または
ii)約5〜約7μmのD90および約14〜約20m−1のBET SSA、
を特徴とする合成グラファイトである、実施態様38のグラファイト組成物。
40.実施態様1〜19または37のいずれか1つで規定された表面改質された合成グラファイトおよび5質量%〜20質量%の前記高度に結晶性の合成グラファイトからなる、実施態様38または39のグラファイト組成物。
41.実施態様1〜19または37のいずれか1つで規定された表面改質された合成グラファイト、あるいは実施態様38〜40のいずれか1つで規定されたグラファイト組成物の、リチウムイオン電池用の陰極材料を調製するための使用。
42.実施態様1〜19または37のいずれか1つで規定された表面改質された合成グラファイト、あるいは実施態様38〜40のいずれか1つで規定されたグラファイト組成物を、活性材料として含む、リチウムイオン電池の陰極。
43.実施態様1〜19または37のいずれか1つで規定された表面改質された合成グラファイト、あるいは実施態様38〜40のいずれか1つで規定されたグラファイト組成物を、リチウムイオン電池の陰極に含む、リチウムイオン電池。
【実施例】
【0102】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を更に示している。
【0103】
例1−低表面積の合成グラファイトの酸化による表面改質
処理される材料、低表面積の合成の粉砕されていないグラファイトが、比較的に緩やかな酸化を行うために、700℃に加熱された回転炉中に連続的に供給された(400g/h)。合成空気(2L/分)を、プロセスガスとして用い、そして担体ガスとしての役割を担う窒素(2L/分)と混合した。回転炉の7.5°の傾斜が、グラファイト粒子の滞留時間が約7分間であることを可能にした。ステンレス鋼の回転キルンの7.5rpmでの回転は、処理の均質性を確実にした。それらの条件を用いることによって、表1に示されるように、製品材料を出発材料に比べて改質した。BETの増加が、グラファイト粒子の微孔質およびモルフォロジーを示している一方で、pH値の減少は、新しい官能化基の発生を示している。酸素含有基の導入は、疎水性値における変化によって示されるように(データは示していない)、明らかに、処理されたグラファイトのより疎水性でない、そしてより不活性でない表面をもたらしている。
【0104】
【表1】
【0105】
図1のラマンスペクトルは、処理された材料の、約1330cm−1におけるバンドDの明確な増加を示しており、これは振動不規則性誘導モード(vibrational disorder-induced mode)から発生している。このことは、グラファイト六方晶系層の欠陥の存在、sp−混成、ならびにアモルファス炭素の発生のためであると信じられる。同様に、約1580cm−1のGバンドのピークは、グラファイトのラマンモードに相当し、これは、sp−結合されたサイトの割合に関連して示されている。スペクトルから明らかなように、Gバンドの強度は、酸化処理の後に明らかに減少している。ID/IG比の変化は、酸素原子でのエッチングに因るグラファイト中の欠陥の発生および結晶性ドメイン(L)の収縮を裏付けている。官能基、例えばカルボン酸、カルボニル、ヒドロキシルおよび/またはエーテル基の発生は、表面炭素原子の混成をより大きなsp特性へと改質し、それによって欠陥の数を増加させる(Dongilら、Journal of Colloid and Interface Science、2011、355、p.179-189)。
【0106】
酸化処理されたグラファイトは、当該グラファイトおよび6%のPVDF(バインダとして)を含む電極の、1MのLiPF、EC/EMC1:3(体積%)中での抑制された剥落を示したが、これは、更にはより低い容量損失をもたらす(図3に示されている)。更に、酸化は、高い電流流出(drain)において電極の性能を有意に向上させた。
【0107】
例2−低表面積の合成グラファイトの酸化による表面改質
例1と同じ処理条件が適用された。しかしながら、処理温度は、より攻撃的な酸化を行うために、900℃に上昇され、このことが、BET表面積のより大きな増加をもたらした(下記の表2を参照)。処理された材料の走査型電子顕微鏡画像が図2に示されている。
【0108】
【表2】
【0109】
例3−低表面積の合成グラファイトの酸化による表面改質
表面酸化は、ここでも上記の回転炉で、700℃で行ったが、しかしながらこの反応器へのガスの供給はしなかった。プロセスガスとして空気だけが用いられ、これは解放された炉中に、いずれの外力もなしに供給された。滞留時間を11分間に増加して、異なる酸化条件に到達するように、傾斜を3°に設定した。滞留時間が長くなればなるほど、そしてプロセスガスの量が多くなればなるほど、例1と比べて同じ温度で行っても、酸化はより有効である。
【0110】
【表3】
【0111】
例1、2および3は、リチウムイオン型の再充電可能な電池の活性材料として用いられた場合に、より良好な電解質との両立性、より低い不可逆容量およびより高い放電容量に到達するために、粉砕されていない低表面積の合成グラファイトの表面を如何に改質するかを示している。
【0112】
ここに記載された実施例で、用いられた出発材料および得られた表面改質されたグラファイト材料の物理化学的パラメータのまとめが、下記の表4に示されている。
【0113】
【表4】
【0114】
例4−酸化による表面改質された低表面積合成グラファイトおよび未処理の材料のピール強度およびサイクル当たりの容量損失
表面酸化は、例3に記載したように行った。処理された材料ならびに未処理の出発材料を、上記の方法の章に記載したピール強度試験にかけた。この試験の結果を、下記の表5に示した。要するに、表面酸化された材料は、未処理の材料と比較して、増加したピール強度によって示されるように、有意に向上した粘着特性を示す。また、両方の材料は、上記の方法の章に記載したCMC/SBR標準手順を用いて、それらのサイクル当たりの容量損失について比較した(電解質A、サイクルプログラムA、3C放電速度)。表面処理された材料は、ここでも未処理の材料よりも有意に向上した性質を示し、サイクル当たりの容量損失は、未処理の対照材料に比較して有意に低減された(詳細な結果については、表5を再び参照)。
【0115】
【表5】
【0116】
また、表面酸化された低表面積の合成グラファイトは、種々の量(5%〜20%)の高度に結晶性の合成グラファイト(粒子径分布D10=4μm、D50=9μm、D90=18μm、BET SSA=9.5m/g、L=180nm、c/2=0.3355nm、キシレン密度=2.260g cm−3(TIMREX(商標)SFG 15))と混合され、そしてその混合物の物理的および電気化学的性質を純粋な処理された材料と比較した。この混合物および純粋な処理された材料をサイクル当たりの比容量(specific charge)、第1回放電サイクル比容量、第5回放電サイクル比容量(CMC/SBR標準手順、電解質B、サイクルプログラムB、1C放電速度)の維持について試験した。
【0117】
更に、表面改質された材料のタップ密度およびグラファイトならびにグラファイト混合物のBET表面積を測定した。結果のまとめを、下記の表6に示した。僅かに5%の高度に結晶性の合成グラファイトの表面処理された低表面積の合成グラファイトへの添加は、サイクル当たりの容量損失、第1回サイクルの不可逆容量、および第5回サイクルの放電容量の点で、更なる向上をもたらしたことが分かる。
【0118】
【表6】
図1
図2
図3