【実施例】
【0126】
(例1)
以下に非重合体固体粒子を粘液侵入性粒子に形成する方法の非限定的な例を述べる。疎水性天然蛍光化合物であるピレンを芯粒子として用い、種々の安定剤の存在下でナノ粉砕法により調製した。安定剤は表面改変剤としての役割を果たし、芯粒子の周囲のコーティングを形成した。粘液に侵入する被覆粒子の有効性を判定するために種々の安定剤/表面改変剤を評価した。
【0127】
ピレンを水性分散液中で種々の安定剤/表面改変剤の存在下でナノ粉砕して、特定の安定剤/表面改変剤が1)数百ナノメートルへの粒径の減少を促進し、2)粘液成分と粒子との相互作用を最小限にし、粘液付着を妨げるような粘液不活性コーティングにより得られたナノ粒子の表面を物理的に(非共有結合により)被覆することができるかどうかを判定した。これらの実験においては、安定剤/表面改変剤は、芯粒子の周囲のコーティングとしての役割を果たし、得られた粒子を粘液中のそれらの可動性について試験したが、他の実施形態においては、安定剤/表面改変剤は、粘液中の粒子の可動性を増加させ得る他の表面改変剤と交換することができる。試験した安定剤/表面改変剤は、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマー(Pluronics(登録商標))、ポリビニルピロリドン(Kollidon)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(Methocel)などの薬学的に適切な賦形剤を含む、表2に示す様々なポリマー、オリゴマーおよび小分子を含んでいた。
【0128】
【表2】
【0129】
ピレンおよび上述の安定剤/表面改変剤のうちの1種を含む水性分散液を粉砕媒体とともに粒径が500nm未満に減少するまで粉砕した。表3に様々な安定剤/表面改変剤の存在下でのナノ粉砕により得られたピレン粒子の粒径特性を示す。粒径を動的光散乱法によって測定した。Pluronics(登録商標)L101、L81、L44、L31、Span20、Span80またはオクチルグルコシドを安定剤/表面改変剤として用いた場合、安定なナノ懸濁液を得ることができなかった。したがって、粒径の減少を効果的に促進できなかったため、これらの安定剤/表面改変剤をさらなる検討から除外した。
【0130】
【表3】
【0131】
ヒト子宮頸膣粘液(CVM)中の生成したナノ懸濁液由来のピレンナノ粒子の可動性および分布を蛍光顕微鏡および多粒子追跡ソフトウエアを用いて明らかにした。一般的な実験では、≦0.5uLのナノ懸濁液(必要な場合、界面活性剤濃度の約1%に希釈)を20μLの新鮮なCVMに対照とともに加えた。通常のナノ粒子(Invitrogen製の200nm黄緑色蛍光カルボン酸修飾ポリスチレンマイクロスフェア)を、CVM試料のバリア特性を確認するための陰性対照として用いた。PEG5kDaを共有結合により被覆した赤色蛍光ポリスチレンナノ粒子を、安定したMPP挙動を有する陽性対照として用いた。CCDカメラを装着した蛍光顕微鏡を用いて、各種類の粒子の各試料、すなわち、試料(ピレン)、陰性対照および陽性対照内の数箇所のエリアについて100倍の倍率のもとに66.7m秒の時間分解能で15秒の動画(15コマ/秒)を記録した(ピレンの天然青色蛍光がピレンナノ粒子を対照と別個に観察することを可能にした)。次に、高度な画像処理ソフトウエアを用いて、複数の粒子の個々の軌跡を少なくとも3.335秒(50コマ)の時間スケールにわたって測定した。得られる輸送データは、軌跡平均速度V
mean、すなわち、その軌跡にわたって平均した個々の粒子の速度、および集合体平均速度<V
mean>、すなわち、粒子の集合体にわたって平均したV
meanの形でここに示す。異なる試料間の容易な比較を可能にし、CVM試料の貫通性の自然変動に関して速度データを標準化するために、式1に示す式により相対試料速度<V
mean>
relを求めた。
【0132】
生成したピレンナノ粒子の可動性を定量化する前に、粘液試料中のそれらの空間分布を低倍率(10x、40x)での顕微鏡検査により評価した。ピレン/Methocelナノ懸濁液は、CVM中で均一な分布を達成せず、粘液メッシュサイズよりはるかに大きい領域に著しく凝集した(データは示さず)ことが認められた。そのような凝集は、粘液付着挙動を示唆するものであり、粘液侵入を効果的に妨げる。したがって、粒子の可動性のさらなる定量的解析は、不必要であると考えられた。陽性対照と同様に、すべての他の供試ピレン/安定剤系は、CVM中でかなり均一な分布を達成した。複数の粒子の追跡により、すべての供試試料中で陰性対照は、高度に束縛されたが、陽性対照の<V
mean>が陰性対照のものより有意に大きかったことによって実証された(表4)ように、陽性対照は、高度に可動性であったことが確認された。
【0133】
【表4】
【0134】
特定(ただし、重要なことに、すべてとは限らない)の安定剤/表面改変剤の存在下で得られたナノ粒子が陽性対照と同じ速度またはほぼ同じ速度でCVM中を移動したことが発見された。具体的には、Pluronics(登録商標)F127、F108、P123、P105およびP103で安定化したピレンナノ粒子は、表4および
図2Aに示すように、陰性対照のものを約1桁超え、陽性対照のものと実験誤差範囲内で区別できなかった<V
mean>を示した。これらの試料について、<V
mean>
rel値は、
図2Bに示すように、0.5を超えていた。
他方で、他の安定剤/表面改変剤を用いて得られたピレンナノ粒子は、0.4以下、ほとんどの安定剤/表面改変剤について0.1以下のそれぞれの<V
mean>
rel値(表4および
図2B)によって実証されたように大部分はまたは完全に固定化していた。さらに、
図3A〜3Dは、粒子の集合体内のV
meanの分布を示すヒストグラムである。これらのヒストグラムは、Pluronic(登録商標)87およびKollidon25で安定化した試料(粘液付着性試料の代表として選択)の粘液付着挙動と対照的にPluronic(登録商標)F127およびPluronic(登録商標)F108で安定化した試料の粘液拡散挙動を示している(同様なヒストグラムがPluronic(登録商標)P123、P105およびP103で安定化した試料で得られたが、ここに示さない)。
【0135】
ピレンナノ結晶を粘液侵入性にするPluronics(登録商標)の特性を確認するために、ピレン/Pluronics(登録商標)ナノ結晶の<V
mean>
relを、用いたPluronics(登録商標)のPPOブロックの分子量およびPEO重量含有率(%)に対してマッピングした(
図4)。少なくとも3kDaのPPOブロックおよび少なくとも約30重量%のPEO含有率を有する少なくともそれらのPluronics(登録商標)がナノ結晶を粘液侵入性にしたと結論された。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、PPOブロックの分子量が十分である(例えば、いくつかの実施形態において少なくとも約3kDa)場合に疎水性PPOブロックが芯粒子の表面との有効な結合をもたらすことができ、さらにPluronics(登録商標)のPEO含有率が十分である(例えば、いくつかの実施形態において少なくとも30重量%)場合に親水性PEOブロックが被覆粒子の表面に存在し、ムチン線維との付着相互作用から被覆粒子を遮蔽することができると考えられる。本明細書で述べたように、いくつかの実施形態において表面改変剤のPEO含有率は、10重量%のPEOポーションが粒子を粘液付着性にすることから、約10重量%以上(例えば、少なくとも約15重量%または少なくとも約20重量%)となるように選択することができる。
【0136】
(例2)
この例では、種々の非重合体固体粒子を用いた粘液侵入性粒子の形成について述べる。
該アプローチの汎用性を示すために、例1で述べた技術を他の非重合体固体粒子に適用した。F127を、芯粒子として用いた種々の活性医薬品を被覆するための表面改変剤として用いた。各薬物を同じ化合物の同様なサイズとしたナノ粒子と比較するようにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を陰性対照として選択した。医薬品およびPluronics(登録商標)F127またはSDSを含む水性分散液を粉砕媒体とともに粒径が300nm未満に減少するまで粉砕した。表5にこの方法を用いて粉砕した代表的選択薬の粒径を示す。
【0137】
【表5】
【0138】
粘液に侵入する薬物ナノ粒子の能力を測定するために、粘液試料中へのナノ粒子の物質移動を測定する新たなアッセイを開発した。ほとんどの薬物は、自然に蛍光を発せず、したがって、粒子追跡顕微鏡法により測定することが困難である。新たに開発したバルク輸送アッセイは、解析される粒子が蛍光を発するものであることまたは色素で標識することを必要としない。この方法において、20μLのCVMを毛細管に収集し、一端を粘土で密封する。次いで、毛細管の開放端を0.5重量/容量%の薬物である粒子の20μLの水性懸濁液中に浸す。所望の時間、一般的に18時間後に、毛細管を懸濁液から除去し、外側を拭き取る。粘液試料を含む毛細管を超遠心管に入れる。抽出媒を管に加え、混合しながら1時間インキュベートし、これにより、毛細管から粘液を除去し、粘液から薬物を抽出する。次いで、試料を遠心分離して、ムチンおよび他の不溶性成分を除去する。抽出試料中の薬物の量をHPLCを用いて定量することができる。これらの実験の結果は、顕微鏡法の結果とよく一致しており、粘液侵入性粒子と通常の粒子(CP)との間の輸送の明らかな差別化を示している。代表的選択薬の輸送結果を
図5に示す。これらの結果は、ピレンに関する顕微鏡検査/粒子追跡所見を裏付けており、一般的な活性医薬化合物への拡張を実証し、F127による非重合体固体ナノ粒子の被覆は、粘液侵入を増大させる。
【0139】
例1〜2において、子宮頸膣粘液(CVM)試料を18歳以上の健常女性志願者から得た。CVMは、Softcup(登録商標)月経収集カップを製品文献により記載されているように膣管に30秒〜2分間挿入することにより収集した。除去後、50mL遠心管中で約30xG〜約120xGでの緩やかな遠心分離によりCVMをSoftcup(登録商標)から収集した。例1では、CVMを未希釈で、新鮮な状態(冷蔵条件下で7日間以下保存)で用いた。例1で用いたすべてのCVM試料のバリアおよび輸送は、陰性(200nmカルボキシル化ポリスチレン粒子)および陽性(PEG5Kで修飾した200nmポリスチレン粒子)対照を用いて確認した。例2では、CVMを凍結乾燥し、再構成した。例2では、粘液を−50℃で凍結し、次いで、凍結乾燥した。次いで、試料を−50℃で保存した。使用前に、乳鉢と乳棒を用いて固体を微粉末に粉砕し、その後、最初の容量と等しい最終容量から最初の容量の2倍の最終容量まで水を加えることにより粘液を再構成した。次いで、再構成粘液を4℃で12時間インキュベートし、例2で述べたように用いた。例2で用いたすべてのCVM試料のバリアおよび輸送は、陰性(200nmカルボキシル化ポリスチレン粒子)および陽性(F127被覆200nmポリスチレン粒子)対照を用いて確認した。
【0140】
(例3)
この例では、薬物エタボン酸ロテプレドノール(LE)を含むコアを用いた粘液侵入性粒子の形成を述べる。
非重合体固体粒子の送達における粘液侵入の促進の有用性を実証するために、エタボン酸ロテプレドノールのMPP製剤(LE MPP;例2で述べた方法により作製したPluronic(登録商標)F127で被覆されたLE粒子)を現在市販されている製剤であるLotemax(登録商標)と比較した。Lotemax(登録商標)は、眼表面炎症の治療について承認されたステロイド点眼薬である。Lotemax(登録商標)における粒子のような従来の粒子は、眼における末梢急速除去粘液層(peripheral rapidly-cleared mucus layer)に広範に捕捉され、したがって、急速に除去もされる。LE MPPは、粘液に付着することを回避し、粘液中に効果的に侵入して、下にある組織への直接の持続的な薬物放出を促進することができる。標識部位における薬物暴露の向上により、総投与量を減少させ、患者コンプライアンスおよび安全性を高くすることが可能となり得る。in vivoでは、ニュージーランドホワイトウサギへのLE MPPの単回局所点眼によって、Lotemax(登録商標)の等価用量と比較して眼瞼結膜、眼球結膜および角膜における有意に高い薬物レベルがもたらされた(
図6A〜6C)。2時間目においてMPPからのLEのレベルは、Lotemax(登録商標)からの値より6、3および8倍高い(それぞれ眼瞼、眼球および角膜)。特に、MPPからのLEのレベルは、30分目におけるLotemax(登録商標)からのレベルより2時間目において約2倍高い。これらの結果は、非ポリマー性固体MPP法の有用性を立証している。
【0141】
(例4)
この例では、クルクミン(CUR)を含む芯を備えた粘液浸透性粒子の形成について説明する。
固体医薬品からなる芯を有する粒子を形成するためのモデル治療薬として、種々の溶解度を有する分子を選択した。それらの1種であるクルクミンは、抗酸化、抗腫瘍、および抗炎症特性を有することが示唆されている。それは、医療でのその広範な応用の可能性のみならず、その高い疎水性および天然蛍光のため、興味ある候補である。前者の特徴は、CURが水性溶液に貧溶性であることを意味し、一方、後者は、粒子の迅速かつ標識なしでの検出および特徴付けを可能にする。粒子を界面活性剤(例えば、例4および5ではF127と略記されるPluronic(登録商標)F127)で被覆して、それらの粒子を粘液浸透性にした。
【0142】
CURの粒子を製剤化するために、超音波処理をベースにした簡単な処理法を開発した。簡潔には、5mgのCURを、シンチレーション用7mLバイアル瓶中の2mLのF125(またはその他の界面活性剤)含有水性溶液中に分散させた。懸濁液を、水浴中で20分間超音波処理した。次いで、クルクミン懸濁液を、3mmの段階プローブを備えた超音波処理器を100%の振幅で使用して30分間超音波処理した。懸濁液を2000rpmで10分間遠心分離して、破壊されていない結晶を除去した。上清を4℃で2時間貯蔵した。上清を16,500rpmで20分間遠心分離し、次いで、ペレットを集めた。粒子を集める前の十分なインキュベーションなしでは、被覆された粒子の拡散係数が、極めて小さいことが示され(データは示さない)、粘液浸透性粒子の生成におけるF127での密なコーティングの重要性を示唆している。
【0143】
表6および
図7A〜7Bに、上記の方法を利用して調製された被覆CUR粒子の物理化学的特性を要約する。1%(重量/容積)F127中で製剤化されたCUR粒子(CUR−1%F127粒子)は、133nmの平均サイズを所持し、そのサイズはTEM画像(
図7B)による観察と一致していた。ゼータ電位は中性に近かった。超音波処理の際のCUR懸濁液中のF127濃度が低下するにつれて、おそらくはCUR粒子に対する安定化効果の弱化につながるF127被覆密度の低下の結果として、CURの粒径および多分散度(PDI)はそれぞれ増加した(表6)。粒子のゼータ電位に対するF127濃度の効果はほとんど存在せず、このことは、おそらくはpH4でクルクミンのイオン性が消失するためである。CUR−1%F127粒子に関する粉末XRD測定は、CURの化学構造および結晶化度が超音波処理またはF127組み込みのいずれによっても変化しないことを示した(
図7A)。
【0144】
【表6】
【0145】
CUR−F127粒子の粘液浸透性を調べるために、CUR−1%F127粒子の輸送を、ヒト子宮頸膣粘液(CVM)およびヒト嚢胞性線維症喀痰(CFS)サンプルの双方での多粒子追跡(MPT)を利用して研究した。簡潔には、粒子を粘液サンプルに添加し、それらの運動を、高分解能落射蛍光顕微鏡法を利用して記録した。次いで、それらの軌跡および輸送速度を分析し、量化した。
図8A〜8Bに、CVMおよびCFSの双方中での、CUR−1%F127粒子の時間に依存するアンサンブル平均二乗幾何平均変位(<MSD>)を示す。200nmのPEG化(PEG)およびカルボキシル化(COOH)ポリスチレン(PS)粒子を、それぞれ粘液不活性および粘液粘着性の対照として選択した。研究した時間尺度の全領域で、CUR−1%F127粒子の<MSD>は、CVM中でのPSPEGのそれと同等であり、双方のタイプの粘液サンプル中でのPSCOOHのそれに比べて有意により大きかった。1秒の時間尺度で、CUR−1%F127粒子の<MSD>は、CVMおよびCFS中でのPSCOOHのそれより、それぞれ4400倍および220倍大きかった。CUR−1%F127粒子の1秒の時間尺度でのアンサンブル幾何平均有効拡散係数(<D
eff>)は、水中での理論計算拡散係数に比べてわずかに9分の1であった(表6)。
【0146】
粘液中でのCUR粒子の輸送に対するF127の被覆密度の効果をさらに調べるために、粒子を、種々のF127濃度で製剤化し、それらの拡散係数をヒトCVM中で特徴づけた(
図9、表6)。CUR−0.1%F127粒子およびCUR−0.01%F127粒子の<D
eff>は、CUR−1%F127粒子のそれに比較して、類似しているか、またはわずかに低下したが、CUR−0.001%F127粒子の輸送は劇的に妨害された(
図9)。CUR−0.001%F127粒子の拡散係数は、ヒトCVM中で、水中に比較して10000分の1であり、CVM中でのCUR−1%F127粒子のそれに比較して約1000分の1であった。一般に、CUR粒子の調製でF127濃度を低減させると、おそらくはF127濃度の低下が平衡状態でのF127(およびそれによるPEGブラシ)の表面密度を低下させるため、拡散係数の低下をもたらす。F127濃度が0.01(重量/容積)%に下がると、この効果はそのように顕著になることは明白でなかった。
【0147】
【表7】
【0148】
F127に加えて種々のPluronic(登録商標)を、医薬としての適用のために使用した。異なるPluronic(登録商標)を試験して、それらが等しく十分に機能するか、または特定のものだけがCUR粒子を粘液浸透性粒子に変換するかどうかを観察した。表7中に(PPOのMWが増加する順序で)列挙したような12種のさらなるPluronic(登録商標)を選択し、対応するCUR粒子を調製した。生じるサイズは90〜232nmの範囲に及び、ほとんどは100〜150nmの間に留まった。すべてのタイプの粒子が、CUR−1%F127粒子のそれ(0.33)に比べてより大きなPDIを示し、ほとんどは0.4〜0.6の間にあった。これらの結果は、F127が試験したすべてのPluronic(登録商標)の中で最強の安定化効果を有する可能性があることを意味している。ゼータ電位は、研究したすべてのCUR粒子について一様に中性であった。
【0149】
種々のPluronic(登録商標)で被覆されたCUR粒子の輸送速度を、ヒトCVM中で特徴付けた(表7)。それらの拡散係数をCUR−1%F127粒子のそれ(D
w/D
m=9)と比較することによって、それらを3つの群:強く妨害された粒子運動(F65、F68;Dw/Dm>100)、妨害された粒子運動(F38、F84、F85、F88;20≦Dw/Dm≦100)、急速に浸透する粒子(F98、P103、P104、P105、F108、F123;Dw/Dm<20)に群化することができた。粒子が、すべて、中性に近い表面電荷を所持したが、特定のPluronic(登録商標)コーティングを有する製剤のみが強く妨害された拡散係数を呈示したという事実は、これらのCUR粒子と粘液成分との間の粘着性が、おそらくは疎水性相互作用によって支配されていることを示唆している。
【0150】
異なるPluronic(登録商標)で被覆されたCUR粒子の拡散係数を決める因子を同定するために、CUR粒子の<D
eff>(1秒の時間尺度での)を、使用したPluronic(登録商標)のPPOおよびPEGのMWについて地図化した(
図10A)。PPOセグメントの長さ(Y軸)の増大に伴って<D
eff>の一般的な増大が観察されたが、<D
eff>とPEG MW(X軸)との間に特異的パターンは観察されなかった。驚くべきことに、この遷移は、Pluronic(登録商標)で被覆されたポリスチレン粒子について以前に見出されたよりもより小さい、約2000DaのPPO MWで発生した。粒子の拡散係数は、PPO MWと強い相関を示した(R=0.92)が、PEG MWとの相関はほとんど示さなかった(R=0.14)。それは、より長いPPOセグメントを有するPluronic(登録商標)が、CUR粒子の疎水性表面に対してより大きな親和性を有し、そのため、表面上により堅くつなぎ留められ、より密でより安定な遮蔽を提供すると思われる。
【0151】
Pluronic(登録商標)以外の界面活性剤が粘液浸透性粒子を潜在的に作り出す能力を探索するために、そのいずれもPEGセグメントを含むTween20、Tween80、およびビタミンE−TPGSを試験した。これらの界面活性剤中で調製されたCUR粒子の特徴を表8に列挙する。3つの群は、すべて、ほぼ150nmの粒径および中性に近いゼータ電位を示したが、それらの拡散係数は、水中に比較して、ヒトCVM中で著しく低下した。輸送速度が遅いほど、CUR粒子の表面上の界面活性剤分子のコーティングが効果的でないことを示している可能性があり、このことは、F127に比較してより短いそれらの疎水性セグメントに帰すことができる。
【0152】
【表8】
【0153】
CUR粒子がCURを持続性方式で送達する能力を評価するために、CUR−1%F127粒子の放出プロフィールを特徴付けた。簡潔には、既知量のCUR粒子を、50mL試験管中のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS、pH7.4)中に懸濁し、溶解されたCURを抽出するために頂部にオクタノールの層を付加した。懸濁液を、かき混ぜながら37℃でインキュベートした。各時点でオクタノールを集め、交換した。オクタノール中でのCUR濃度を蛍光分析で測定した。
図11に示すように、CUR−1%F127粒子は、インビトロで継続的放出を24〜48時間提供した。CUR含有量の約80%が最初の24時間以内に放出された。
【0154】
(例5)
この例では、疎水性薬物である5,10,15,20−テトラ(p−ヒドロキシフェニル)ポルフィリン(p−THPP)を使用した粘液浸透性粒子の開発について説明する。
CURに加えて、例4に記載したと同様の方法を、疎水性薬物であるp−THPPに適用した。p−THPPは、癌を治療するための光線力学療法に使用される治療薬であり、以前の研究でモデル光増感剤として選択されている。p−THPP−1%F127粒子の、サイズ、ゼータ電位、およびヒトCVM中での拡散係数を含む基本的特性を、前に記載の手順に従って測定した(表9)。CUR−1%F127粒子と同様、p−THPP−1%F127粒子は、187nmのサイズおよび中性に近い表面電荷を示した。p−THPP−1%F127粒子のヒトCVM中での拡散係数は、水中でのそれに比べてわずかに8分の1であり、粒子は、粘液中の粘着性成分によって不動化されず、かつ粘液ゲル中で、CUR−1%F127粒子のそれと同等の速度で拡散できることを示している。
【0155】
【表9】
【0156】
(例6)
この例では、高水溶性薬物であるテノフォビル(TFV)およびアシクロビルモノホスフェート(ACVp)を使用した粘液浸透性粒子の開発について説明する。
テノフォビル(TFV)は、感染性疾患を治療するのに使用される強力な抗ウイルス薬である。テノフォビル(TFV)は高水溶性であるという事実のため、テノフォビルの粘液浸透性粒子を製剤化するための方法が開発された。TFVの水溶性は、少なくとも15mg/mLであり、そのため不溶性粒子を調製するための、あるいは疎水性のポリマー性ナノ粒子中に封入するための従来の技法では成功しなかった。TFVの水溶性を低下させるために、カチオンとヌクレオチド/ヌクレオチド類似体との間の相互作用を活用した。TFVは、ホスホネート基およびプリン環構造を介して亜鉛カチオン(Zn)と極めて強力に相互作用する。亜鉛との相互作用は、TFVの沈降を引き起こして結晶をもたらし、結晶を、本明細書に記載のコーティングで安定化し、凝集を停止させ、結晶の表面特性を測定することができる。さらに、Znは、膣液中に本来的に存在し、最近では抗HIV活性を含むように拡大された公知の抗微生物特性を有する。
【0157】
結晶およびコーティングは、完全に非共有結合性相互作用から形成されるので、TFV−Zn粒子が緩衝液中で持続性放出を呈示すること保証する必要がある。遊離TFVの溶液と比較した場合、粒子は、100kDaの透析膜から、はるかにより緩慢な放出を示した(24時間経過して約40%)。
次に、TFV−Zn粒子を、F127またはPVAコーティングを使用して製剤化した。表10からわかるように、コーティングの存在は、より小さな平均サイズおよび多分散度の低下によって証明されるように、粒子を安定化した。表面上へのコーティングの存在は、また、ゼータ電位のより中性帯電に向かう変化によって示される。さらに、これらの粒子を、TFV上の遊離アミンへのAlexa Fluor(登録商標)色素の共有結合により、造影目的で蛍光標識化した。結晶は、1:50の標識化:非標識化TFVの比率で作製された場合、不安定であるが、1:200の標識化:非標識化TFVの比率で安定であり、かつ蛍光顕微鏡法で認識できることが見出された。
【0158】
【表10】
【0159】
蛍光標識化された安定な粒子を得た後、F127コーティングが、被覆されたポリマー性ナノ粒子と一致して観察されるような、動物の粘膜表面での粒子の分布の改善につながるかどうかを判断した。F127またはPVAで被覆されたTFV粒子を、マウスの膣中に投与し、次いで、マウスを屠殺し、それらの膣を切開し、顕微鏡スライド上で扁平化し、造影した。
図13A〜13Bからわかるように、F127で被覆された粒子は、膣の全表面にわたって良好に分布され、一方、PVAで被覆された粒子は、膣の襞(粘膜襞)に侵入しないことを示す「縞形成(striping)」挙動として明白になる、膣表面の不完全な被覆度を示した。
【0160】
【表11】
【0161】
次に、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)への感染を予防する上でのMPP粒子の潜在的効力を試験するのに使用するため、アシクロビルモノホスフェート(ACVp)を使用してMPP粒子を製造した。ACVpは、ウイルス抵抗性をもたらすことのある最初のリン酸化ステップのためのウイルスチミジンキナーゼに依存しない。このことが、また、ACVpに低い効力ではあるが抗HIV活性を付与する。
6〜8週齢の雌性CF−1マウスに、酢酸メドロキシプロゲステロンを皮下で注射し、1週間後に、20μLの試験薬剤またはPBSを、先端熱加工されたポジティブディスプレースメント方式のキャピラリーピペット(Wiretrol、Drummond Scientific)を用いて膣内で施与した。30分後に、マウスに、HSV−2 G株(ATCC#VR−734、2.8×10
7TCID
50/mL)を含む10μLの接種物を負荷した。HSV−2を、Bartel培地で10倍希釈して、対照マウスの約85%を典型的には感染させる量であるID
50の10倍量を送達した。マウスを、接種の3日後の感染について、以前に報告されているように、PBS膣洗浄液をヒト包皮繊維芽細胞(Diagnostic Hybrids、MRHF ロット番号440318W)上で培養することによって評価した(R. A. Cone, T. Hoen, X. Wong, R. Abusuwwa, D. J. Anderson, T. R. Moench, Vaginal microbicides: detecting toxicities in vivo that paradoxically increase pathogen transmission. BMC Infect Dis 6, 90 (2006))。このモデルで、投与(負荷)ウイルスは、負荷の12時間以上後に捕集されるなら、洗浄液中にもはや検出できない。
【0162】
ACVp粒子は、亜鉛の存在下で、TFVと類似の相互作用(ホスフェート基およびプリン環)を介して調製できることが見出された。生存HSVを負荷する30分前に、マウスに溶性ACVpまたはMPPナノ結晶の形態のACVpを投与した。薬物およびウイルスは、双方とも膣内で投与した。MPP薬物と同一濃度で投与された溶性薬物は無効であった(対照の88%に比較して、84%が感染した)が、MPP薬物群のマウスは46.7%のみが感染した。MPP薬物の付与用量の10倍の溶性薬物を付与されたマウス群は、62%(PBS中の薬物)または69.3%(水中の薬物)の比率で感染した。溶性薬物を、同一媒体(純水)で投与されたMPP−薬物と比較すると、溶性薬物は、MPP−薬物より10倍高い濃度でさえより保護が弱かった(p=0.02)。
【0163】
遊離ホスフェート基を有する薬物の安定なナノ結晶を、亜鉛を用い、凍結乾燥法および超音波処理の双方を利用して形成できることが注目される。凍結乾燥の場合、薬物は、F127の水性溶液中に溶解された。酢酸亜鉛の量は、1:50〜1:5(Zn:薬物)の範囲で添加され、溶液を直ちに急速凍結した。乾燥粉末は、水中で、所望濃度で再構成された。F127の臨界ミセル濃度(CMC)を超える(1%)および下回る(0.08%)双方のF127濃度を使用して、安定なTFVナノ結晶を作製することができる。しかし、ACVpナノ結晶は、界面活性剤濃度により一層敏感であった。安定なナノ結晶は、CMC(約0.1%)未満のF127濃度を利用する場合にのみ形成できた。CMCを超えるF127濃度は、試験された製剤方法に関係なく、ACVpナノ結晶のかなりの凝集および沈降を引き起こした。
【0164】
さらに、安定なナノ結晶は、薬物溶液に過剰な酢酸亜鉛を添加することによって形成することができる。沈殿物は遠心分離により3+回洗浄される。生じるスラリーを、プローブ型超音波処理器を使用して超音波処理する(界面活性剤なしで、発泡は凝集および不安定性をもたらす)。粉砕などのその他の方法も機能する可能性がある。次いで、界面活性剤を添加して、生じたナノ結晶を安定化する。界面活性剤が存在しないと、かなりの凝集および沈降が発生する。この製剤化技法を使用すると、安定なTFVナノ結晶を、例えば1%までのF127濃度を使用して作製することができた。同様に、これらの実験で、安定なACVpナノ結晶は、CMC未満のF127濃度を使用して(典型的には0.08%を使用して)のみ形成することができた。
【0165】
例4〜6では、未希釈の子宮頸膣分泌液を、正常な膣叢を有する女性から、自己サンプリング式の月経捕集器具を使用し、Johns Hopkins大学の治験審査委員会により承認されたプロトコールに従って集めた。器具を膣中に約30秒間挿入し、取り出し、50mLの遠心管中に収納した。サンプルを1,000rpmで2分間遠心分離し、粘液分泌物を集めた。
例4〜6では、粒子の輸送速度を、蛍光性粒子または蛍光標識化粒子の軌跡を分析することによって測定し、100×の油浸対物レンズ(N.A.、1.46)および適切なフィルターを備えた倒立落射顕微鏡(Zeiss、Thornwood、ニューヨーク州)上に搭載された電子倍増電荷結合素子(EMCCD)カメラ(Evolve512、Photometrics、Tucson、アリゾナ州)を使用して記録した。実験は、特注のチャンバースライド中で実施され、希釈された粒子溶液(0.0082(重量/容積)%)を20μLの新鮮粘液に3(容積/容積)%の最終濃度まで(最終粒子濃度、8.25×10−7重量/容積)で添加し、顕微鏡観察の前に室温で安定化した。n≧100個の粒子の軌跡を各実験について分析し、各条件に対して少なくとも3回の独立実験を実施した。動画をMetaMorphソフトウェア(Universal Imaging 、Glendale、ウィスコンシン州)を用い、66.7ミリ秒の時間分解能で20秒間捕捉した。追跡分解能は、強力な粘着で不動化された粒子の変位を追跡することによって測定すると、10nmであった。ナノ粒子の重心の座標を、<Δr2(τ)>=[x(t+τ)−x(t)]
2+[y(t+τ)−y(t)]
2として計算される時間平均MSDに変換した。ここで、xおよびyは、所定時刻でのナノ粒子の座標を表し、τは時間尺度または時間遅れである。MSDの分布および有効拡散係数は、このデータから計算された。粘液層中への粒子浸透は、フィックの第2法則および追跡実験から得られる拡散係数を使用してモデル化された。
【0166】
(例7)
この例では、マウスの膣の粘膜表面への薬物送達を改善する粘液浸透性粒子の開発について説明する。
膣への持続性でより均一な薬物送達のための改善された方法は、女性の健康に有害な影響を与える状態、例えば、子宮頸がん、細菌性膣症、および性感染症のより効果的な予防および治療を提供する可能性がある。例えば、女性は、ある程度は女性が主導する予防方法の欠如のため、不相応にHIVに感染する。女性を膣でのHIV伝染から保護するための、容易に投与される個別的かつ有効な方法は、世界的に数百万の感染症を予防できる可能性がある。しかし、性交および分娩中の伸張に適応する膣襞または「粘膜襞」は、腹腔内圧により典型的にはつぶされて、これらの襞の表面を薬物および薬物担体にとってより接近しにくくする。膣襞中への不十分な分布は、模擬性交の後でさえも、感染しやすい膣表面を感染から保護することの失敗にとって決定的因子と言及されてきた。感染しやすい標的表面の全体を覆う分布が、感染症を予防および治療するために重要であることが判明している。さらに、使用者の認容性を高めるために、膣へ送達される薬物は、膣管に長期にわたって有効濃度で保持されるべきである。持続性の局所薬物濃度を達成することは、膣上皮が小分子に対して高度に透過性であるため、また、溶性の薬物剤形(ゲル剤、クリーム剤)が腹腔内圧及び歩行によって排除されることがあるので、難題である。最後に、薬物送達法は、膣上皮に対して安全かつ無毒性でなければならない。膣用剤形の分布、保持、および安全性プロフィールにおける改善は、効力の実質的な増大、ならびに子宮頸膣感染症および疾患に対して十分には効果的でない全身性治療によって引き起こされる副作用の減少につながる可能性がある。
【0167】
ナノ粒子は、膣への持続性局所薬物送達を提供するそれらの能力のため、かなりの注目を受けている。しかし、膣上皮を被覆している粘液層は、膣管中での一様な分布および長い保持を達成することに対してバリアを呈示する。粘液は、従来のポリマー性ナノ粒子(CP)を含むほとんどの粒子を、粘着および立体的相互作用の双方を介して効率的に捕捉する。粘液が外来の病原体および粒子を捕捉するのに有効であることは、CPが管腔粘液層と接触すると直ちに捕捉されるに至り、粘膜襞中への浸透、したがって粘膜襞の保護を妨げることを意味する。管腔表面粘液層中に捕捉された粒子および病原体は、組織から急速に排除され、CPなどの粘液粘着性材料の保持時間を制約すると予想される。
【0168】
最近、感染を定着させるために粘液バリアに浸透するように進化したウイルスを模擬することによって、粘液浸透性粒子(MPP)が、粘膜への薬物送達のために、CPを非常に高密度の低分子量ポリ(エチレングリコール)(PEG)で被覆することによって作られた。MPPは、ヒト子宮頸膣粘液(CVM)中で、水中でのそれらの理論的拡散に匹敵する速度で拡散する。この場合、MPPが、粘膜襞中のより緩慢に排除される粘液を含む最深部粘液層中に浸透することによって、インビボで膣中への高められた分布および増加した保持を提供し、それによって、組織への効率的な取り込みに最適な場所に薬物を放出するという仮説を試験することが求められた(
図14E)。一般的なプロゲスチン誘発発情休止期(DP)マウスモデルに加えて、マウスCVM(mCVM)がヒトCVM(hCVM)をより密接に模擬し、それゆえヒトでの使用に向けてMPPを開発および移行させるためによりヒトに似たモデルを提供する、エストラジオール誘発発情期(IE)マウスモデルの使用が導入される。
【0169】
カルボン酸で被覆された蛍光性ポリスチレンナノ粒子(PS−COOH)を、以前に報告されているように、低分子量PEGの密なコーティングを共有結合で結合させることによってMPPに変えた(Y. Y. Wang, S. K. Lai, J. S. Suk, A. Pace, R. Cone, J. Hanes, Angew Chem Int Ed Engl 47, 9726-9729 (2008);S. K. Lai, D. E. O'Hanlon, S. Harrold, S. T. Man, Y. Y. Wang, R. Cone, L. Hanes, Proc Natl Acad sci USA 104, 1482-1487 (2007))。さらに、生分解性粒子は、薬物を装填することができ、かつヒトへ投与するのに適しているので、生分解性MPP(BD−MPP)を、前に報告されているように、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)の芯および物理的に吸着されたPEGコーティングを用いて製剤化した(M. Yang, S. K. Lai, Y. Y. Wang, W. Zhong, C. Happe, M. Zhang, J. Fu, J. Hanes, Biodegradable Nanoparticles Composed Entirely of Safe Materials that Rapidly Penetrate Human Mucus. Angew Chem Int Ed Engl 50, 2597-2600 (2011))。PS−COOHおよびPLGAナノ粒子は、PEGで密に被覆されるとほとんど中和される高度に負の表面電荷を有する。ナノ粒子は、前に説明したようにゼータ電位を測定することによって(表12)、十分に被覆されていると判定された(S. K. Lai, D. E. O'Hanlon, S. H arrold, S. T. Man, Y. Y. Wang, R. Cone, J. Hanes, Proc Natl Acad Sci USA 104, 1482-1487 (2007))。−10mVより中性のゼータ電位が、hCVM中での粘液浸透特性のために必須であることが以前に見出されている(Y. Y. Wang, S. K. Lai, J. S. Suk, A. Pace, R. Cone, J. Hanes, Addressing the PEG mucoadhesivity paradox to engineer nanoparticles that "slip" through the human mucus barrier. Angew Chem Int Ed Engl 47, 9726-9729 (2008))。MPPが、本来の発情期mCVM中で粘液浸透性であることを保証するために、粒子を、発情期のマウスに膣内で投与した。次いで、膣全体を摘出、多粒子追跡(MPT)法(J. Suh, M. Dawson, J. Hanes, Adv Drug Deliv Rev 57, 63-78 (2005))で数百の個々の粒子の運動を可視化するために切開した。MPPについての粒子軌跡は、mCVM中の水を多く含んだ細孔中での急速な拡散を暗示するものであったが、一方、被覆されていないPS−COOHナノ粒子(CP)の運動は、粒子直径(約100nm)より小さかった(
図14A)。mCVM中でのMPPのアンサンブル平均二乗平均変位(<MSD>)は、hCVM中でのMPPについて報告されたそれに匹敵し(S. K. Lai, Y. Y. Wang, K. Hida, R. Cone, J. Hanes, Nanoparticles reveal that human cervicovaginal mucus is riddled with pores larger than viruses. P Natl Acad Sci USA 107, 598-603 (2010))(
図14B)、水中での110nm粒子の理論拡散(約4μm
2/秒)のわずか約8分の1であるアンサンブル平均有効拡散係数(<D
eff>)に対応していることが見出された。
【0170】
【表12】
【0171】
個々の粒子について測定されたD
effに基づいて、MPPの約半数が、約4時間でmCVMの厚さ100μmの層中を拡散するという拡散のFickの第2法則で評価された(
図14D)が、一方、CPでは24時間後でさえも感知できるほどの浸透は存在しなかった。CPについての1秒の時間尺度でのD
eff値は、粒子直径未満のMSD値に相当し(点線、
図14C)、おそらくは粒子の拡散ではなくムチン繊維に衝突した粒子の熱的揺らぎを示している。全体として、発情期のmCVM中でのMPPおよびCPの輸送挙動は、双方とも、hCVM中でのそれらの輸送挙動に極めて類似していた。
【0172】
保持研究のために多数のマウスを発情期の状態で同期させることは、ホルモン処理を必要とした。多くの動物モデルにおいて発情様挙動を誘発するのに定型的に使用されているエストラジオール処理(J. R. Ring, The estrogen-progesterone induction of sexual receptivity in the sprayed female mouse. Endocrinology 34, 269-275 (1944);およびC. A. Rubio, The exfoliating cervico-vaginal surface. II. Scanning electron microscopical studies during the estrous cycle in mice. Anat Rec 185, 359-372 (1976))が、分布および保持研究に先立ってMPPおよびCPの輸送挙動を変化させないことを確認するために、粒子輸送挙動をIEマウス中で試験した(
図15A)。さらに、BD−MPPの輸送挙動は、IEの粘液中でMPPから区別できなかった(
図15B)。
【0173】
次に、発情期マウスおよびIEマウス中で、粘液に急速に浸透する能力が、CPに比較してより急速で均一なMPPの膣への分布につながるかどうかを調べた。浸透で駆動される水流動(移流輸送)が栄養素を腸管腔から刷子縁上皮表面へ急速に輸送する方式を模擬するために、MPPおよびCPを低浸透性媒体中に適用した。粒子投与の10分後に、膣全体を摘出し、細胞核について染色した。CPは管腔粘液中で凝集し、膣粘膜襞中に浸透しなかった(
図16)。対照的に、MPPは、粘膜襞のすべての表面を含むすべての膣上皮を被覆した連続粒子層を形成した。MPPは、移流を介して約100μmを超える粘液に、粘液中でその距離を拡散するのに必要とされる約4時間に比較して、10分以内に浸透した(
図14D)。この挙動は、また、IEマウス中に投与されたBD−CPおよびBD−MPP、ならびにCPおよびMPPに関しても一致していた(
図16)。hCVM中での粘液粘着性CPを越えたMPPの運動を示すビデオは、ビデオ1(流動なし、拡散)およびビデオ2(流動有、移流)中に見出すことができる。
【0174】
MPPおよびCPの分布における相違を量化するために、新たに摘出し、切開し、扁平化したマウス膣組織の蛍光画像を得た。
図17からわかるように、CPの膣の管腔粘液層への粘着は、粒子を含まない粘液の暗い「縞」と交番する、粒子を含む粘液の「縞」を作り出し、前者の縞は、膣組織を扁平化した場合に開放される粘膜襞に相当する。対照的に、上皮に向かう、および粘液襞中へのMPPの輸送は、扁平化された膣表面上で連続した粒子コーティングを作り出した(
図17)。膣および子宮頸部組織上の蛍光の定量は、扁平化された膣表面の88%、および子宮頸部表面の87%がMPPで密に被覆され、一方、膣表面のわずか30%、および子宮頸部表面の36%がCPで被覆されたことを示した。膣および子宮頸部表面のより暗い領域のより高倍率でのさらなる観察により、MPPのあまり集中していない連続コーティングが観察され(
図17〜18、挿入図)、膣および子宮頸部がほぼ完全に被覆されたことを意味している。CPの場合、より高倍率で、あまり集中していないコーティングは見出されなかった(
図17〜18、挿入図)。同様の傾向が見出され、BD−MPPでは85%の膣被覆度および86%の子宮頸部被覆度、BD−CPでは、31%の膣被覆度および27%の子宮頸部被覆度であった(
図17〜18)。
【0175】
次いで、BD−MPPの分布改善が、ゲル剤形に比較して、小分子の送達を改善できたかどうかを判定することが求められた。親油性分子は、おそらくは、それらが接触する最初の上皮表面に侵入し、粘膜襞中の細胞に接触できない。逆に、親水性分子は、膣上皮中で急速に拡散することができ、血液およびリンパの循環によって運び去られ、短期間の被覆度につながる。BD−MPPに、モデル薬物として蛍光性水溶性小分子であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を装填した(FITC/MPP)。従来の膣送達を模擬するために、溶性FITC(FITC/ゲル)を汎用の膣プラセボゲルであるヒドロキシエチルセルロース(HEC)中に添加した。発情期マウスに投与して24時間後に、膣組織を摘出し、扁平化して膣襞を露出させた。FITCのパッチは、FITC/ゲルとして投与された場合、膣表面の42%を被覆し、一方、FITC/MPPは、粒子投与の24時間後でさえも、十分に保持されたFITCコーティングを膣表面の87%に提供した。
【0176】
粘液バリアの効果をさらに特徴付けるために、本発明者らは、粒子の投与に先立つ洗浄によって膣粘液を除去することが(Y. Cu,C. J. Booth, W. M. Saltzman, In vivo distribution of surface-modified PLGA nanoparticles following intravaginal delivery. Journal of Controlled Release 156, 258-264 (2011);およびK. A. Woodrow, Y. Cu, C. J. Booth, J. K. Saucier-Sawyer, M. J. Wood, W. M. Saltzman, Intravaginal gene silencing using biodegradable polymer nanoparticles densely loaded with small-interfering RNA. Nat Mater 8, 526-533 (2009))、CPの分布を顕著に改善し、それらの粘液粘着特性が膣中での均一な分布を妨げることを示していることを見出した(
図19)。
【0177】
次に、本発明者らのIEモデルを使用して、膣でのMPPの保持を粘液粘着性CPと比較して測定することが求められた。蛍光性のMMPおよびCPをIEマウスに膣内で投与した。指定時点で、生殖管全体(膣および子宮角)を摘出し、蛍光画像で定量的に分析した(
図21A)。MPPおよびCPに対して同様であった粒子蛍光の初期減少(おそらくは、粘液浸透に先立つ初期「押出し(squeeze out)」による)の後に、MPPの残存量は、おおよそ60%で一定のままであった(
図21B)。対照的に、CPの量は、時間と共に10%(6時間)まで着実に減少した。重要なことであるが、CPは、膣の長さに沿って分布されたが、この長さ方向の被覆度は、
図16に示すように、CPが粘液に浸透して上皮にも、膣襞の内部の表面にも到達することのないことを示す。
【0178】
免疫系は、粘膜表面で、特にヒトの子宮頸内膜中の円柱上皮などの生存細胞で覆われた表面を有する表面で高度に活性である(O. P. Mestecky J, McGhee JR, and Lambrecht BN, Mucosal Immunology. (Elselvier Academic Press, Burlington, ed, Third, 2005))。ナノ粒子の炎症効果を、マウスを発情休止期で同期させ、その間に膣上皮が薄くなり生存細胞で覆われるようになる長期作用性プロゲスチン処理であるDepo−Proveraで前処理されたマウスを使用して調べた。対照的に、発情期で、マウスの膣は4〜7細胞層から約12細胞層に肥厚し、上皮表面は、死滅及び乾性(drying)細胞の多くの層で保護される(Biology of the laboratory mouse. Edited by George D.Snell, Dover Publications, Inc., New York, 1956(Reprint of first edition, 1941). Journal of the American Pharmaceutical Association 45, 819-819 (1956))。さらに、プロゲスチン誘発発情休止期(DP)マウスの膣上皮は、増加した免疫細胞集団を有し、急性炎症応答の増大につながり、一方、発情期は、免疫細胞の不在で特徴付けられる(C. H. Hubscher, D. L. Brooks, J. R. Johnson, A quantitative method for assessing stages of the rat estrous cycle. Biotech Histochem 80, 79-87 (2005))。Depo−Proveraは、数日から数週間の間、マウスを発情休止様期に効果的に同期させ、発情休止様期は、24時間以上続く実験にとって重要である。
【0179】
標準的なヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を利用して、膣内で投与されたナノ粒子の潜在的毒性効果を調べた。膣毒性を引き起こすことが知られている(G. Ramjee, A. Kamali, S. McCormack, The last decade of microbicide clinical trials in Africa: from hypothesis to facts. AIDS 24 Suppl 4, S40-49 (2010))非イオン性洗浄剤であるNonoxynol−9(N9)を陽性対照として使用し、PBS(生理食塩水)を陰性対照として使用した。分布および保持研究に使用された同一の(BD−)MPPおよび(BD−)CPを毒性について試験した。予想されたように、N9は、24時間で、PBS処理の後では観察されなかった急性炎症を引き起こした(
図23)。CPは、N9と同様、管腔中への明白な好中球浸潤を引き起こしたが、MPPは、この炎症効果を引き起こさなかった(
図23、矢印)。
【0180】
最近の研究は、膣上皮は、特定の膣用製品に応答して、性感染性感染症への感受性を高める可能性のある免疫メディエーターを分泌することができることを示している(J. E. Commins, Jr., G. F. Doncel, Biomarkers of cervicovaginal inflammation for the assessment of microbicide safety. Sex Transm Dis 36, S84-91 (2009);およびS. S. Wilson, N. Cheshenko, E. Fakioglu, P. M. Mesquita, M. J. Keller, B. C. Herold, Susceptibility to genital herpes as a biomarker predictive of increased HIV risk: expansion of a murine model of microbicide safety. Antivir Ther 14, 1113-1124 (2009))。したがって、膣用製品が、とりわけ反復投与の後に、このような免疫応答を誘発しないことが重要である。本発明者らの究極の目標は、MPPをHSV−2に対する保護に対して試験することにあったので、本発明者らは、アシクロビルモノホスフェート(ACVp)を含むMPP製剤を、最近のテノフォビルの臨床試験で使用されるN9、HECプラセボゲル、PBS、およびゲル媒体(TFVの媒体)と比較した。ナノ粒子および対照製剤を、Depo Proveraで処理されたマウスに経膣で7日間毎日投与した。膣洗浄液を、8日目に各マウスから集め、上皮刺激に応答して高められていることが見出されたサイトカイン:すなわち、インターロイキン1β(IL−β)、インターロイキン1α(IL−1α)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、およびインターロイキン6(IL−6)について評価した。IL−1αおよびIL−1βのレベルが双方ともTFVの媒体およびN9溶液の双方に応答して上昇したことが見出された(
図24)。このことは、IL−1αおよびIL−1βが、損傷に応答して膣上皮によって分泌されることを考慮すると、N9処理の場合に驚きではなかった(J.E. Cummins, Jr., G. F. Doncel, Biomarkers of cervicovaginal inflammation for the assessment of microbicide safety. Sex Transm Dis 36, S84-91 (2009))。対照的に、ACVp−MPPに伴うサイトカインレベルは、感染への感受性のいかなる増加も伴わないで臨床試験で使用されているHECプラセボゲルに伴うレベルに同等であった(
図24)(Q. A. Karim, S. S. A. Karim, J. A. Frohlich, A. C. Grobler, C. Baxter, L. E. Mansoor, A. B. M. Kharsany, S. Sibeko, K. P. Mlisana, Z. Omar, T. N. Gengiah, S. Maarschalk, N. Arulappan, M. Mlotshwa, L. Morris, D. Taylor, C. T. Grp, Effectiveness and Safety of Tenofovir Gel, an Antiretroviral Microbicide, for the Prevention of HIV Infection in Women. Science 329, 1168-1174 (2010);およびD. Tien, R. L. Schnaare, F. Kang, G. Cohl, T. J. McCormick, T. R. Moench, G. Doncel, K. Watson, R. W. Buckheit, M. G. Lewis, J. Schwartz, K. Douville, J. W. Romano, In vitro and in vivo characterization of a potential universal placebo designed for use in vaginal microbicide clinical trials. AIDS Res Hum Retroviruses 21, 845-853 (2005))。任意の膣処理に伴うIL−6またはTNF−αの、非処理対照に比較した場合の検出可能な上昇は存在しなかった。
【0181】
最後に、MPPの改善された分布、保持、および毒性プロフィールが、マウスにおける経膣HSV−2負荷に対する改善された保護につながるかどうかを調べた。Depo Provera処理は、感染症に対するマウスの膣の感受性を顕著に増大させ、候補殺菌薬は、感染性接種物の直前に投与された場合でさえも、ここで使用されたマウスモデルにおいて部分的保護を提供しただけであった(S. L. Achilles, P. B. Shete, K. J. Whaley, T. R. Moench, R. A. Cone, Microbicide efficacy and toxicity tests in a mouse model for vaginal transmission of Chlamydia trachomatis. Sex Transm Dis 29, 655-664 (2002);およびL. Zeitlin, K. J. Whaley, T. A. Hegarty, T. R. Moench, R. A. Cone, Tests of vaginal microbicides in the mouse genital herpes model. Contraception 56, 329-335 (1997))。さらに、いくつかの膣用製品の賦形剤は、このモデルにおいて感染への感受性を実際に増大させる(R. A. Cone, T. Hoen, X. Wong, R. Abusuwwa, D. J. Anderson, T. R. Moench, Vaginal microbicides: detecting toxicities in vivo that paradoxically increase pathogen transmission. BMC Infect Dis 6, 90 (2006);およびT. R. Moench, R. J. Mumper, T. E. Hoen, M. Sun, R. A. Cone, Microbicide excipients can greatly increase susceptibility to genital herpes transmission in the mouse. BMC Infect Dis 10, 331 (2010))。アシクロビルは、動物において1日複数回の反復投与でウイルス抑制を提供するので、ACVpをHSV−2感染症の膣感染を遮断することに関して試験するために選択された(E. R. Kern, Acyclovir Treatment of Experimental Genital Herpes-Simplex Virus-Infection. Am J Med 73, 100-108 (1982))。しかし、モルモットにおける50mg/mL(5%)ACVpでの単回膣予備処理は、対照に比較して70%の動物に感染をもたらした(E. R. Kern, J. Palmer, G. Szczech, G. Painter, K. Y. Hostetler, Efficacy of topical acyclovir monophosphate, acyclovir, or penciclovir in orofacial HSV-1 infections of mice and genital HSV-2 infections of guinea pigs. Nucleos Nucleot Nucl 19, 501-513 (2000))。したがって、ACVpは、MPPが、水溶性で急速に代謝される薬物による保護を、単回投与後の治療関連薬物濃度を延長することによって有意に改善できたかどうかを判定するための試験事例を提供した。さらに、ACVpなどのヌクレオチド類似体の作用機構は、保護の成功が、膣および子宮頸管の粘膜中の感受性標的細胞集団における効率的な取り込みおよび保持を意味するような、細胞内ウイルス複製の妨害である。
【0182】
ACVpナノ粒子を、他のすべての研究に対して使用されるのと同一の粘液不活性コーティングを用いて製剤化した。ACVp−MPPのサイズおよびζ電位は、ポリスチレン(PS)をベースにしたMPPに類似していた(表12)。HSV−2を負荷する30分前に、マウスに溶性ACVpまたはACVp−MPPを膣内で投与した。ACVp−MPPと同一濃度(1mg/mL)で投与される溶性薬物は、マウスをウイルス感染から保護する上で効果がなかったが(対照の88%に比較して84.0%が感染した)、一方、ACVp−MPP群のマウスでは46.7%のみが感染した(表11)。ACVp−MPP中濃度の10倍の溶性薬物を付与されたマウスの群は、やはり、62.0%(PBS中の薬物)または69.3%(水中の薬物)の比率で感染した。同一媒体(純水)中で溶性薬物をACVp−MPPと比較すると、溶性薬物は、ACVp−MPPよりも10倍高い濃度でさえ、保護性が有意に弱かった(表11)。膣粘膜表面でのナノ粒子の分布および保持、ならびに反復投与の効果を研究するために、6〜8週齢のCF−1マウス(Harlan)を使用した。マウスを、逆転光サイクル施設(明12時間/暗12時間)中に収容した。自然循環発情の場合には、マウスを、外的な発情様相について選択し、精密な吟味により確認した(A. K. Champlin, D. L. Dorr, A. H. Gates, Determining the stage of the estrous cycle in the mouse by the appearance of the vagina. Biol Reprod 8, 491-494 (1973);E. Allen, The oestrous cycle in the mouse. American Journal of Anatomy 30, 297-371 (1922))。ホルモン誘発発情(IE)の場合には、マウスを3週間順化させ、実験に先立って100μgの安息香酸17−βエストラジオール(Sigma)を2日間皮下で注射した。多くの研究で、エストラジオールでの処理は、類似の上皮特性および膣細胞集団を伴う「発情様」状態を誘導することが立証されている(C. G. Rosa, J. T. Velardo, Histochemical localization of vaginal oxidative enzymes and mucins in rats treated with estradiol and progesterone. Ann NY Acad Sci 83, 122-144 (1959);C. A. Rubio, The exfoliating cervico-vaginal surface, II. Scanning electron microscopical studies during the estrous cycle in mice. Anat Rec 185, 359-372 (1976);A. E. Gillgrass, S. A. Fernandez, K. L. Rosenthal, C. Kaushic, Estradiol regulates susceptibility following primary exposure to genital herpes simplex virus type 2, while progesterone induces inflammation. Journal of Virology 79, 3107-3116 (2005))。膣毒性およびサイトカイン放出に関して、実験に先立って、マウスに2.5mgのDepo−Provera(酢酸メドロキシプロゲステロン、150mg/mL)(Pharmacia & Upjohn Company)を皮下で7日間注射した。
【0183】
すべての粒子溶液に対して低張性媒体として水を使用した。生体外追跡の場合、5μLの粒子を膣内で投与した。ほぼ10分後に、膣を取り出し、注意して薄く切り開き、扁平にした。組織を変形させることなく、カバーガラスを頂面上に配置して粘液に接触させることができるように構成された特注の適切に構成されたウェル中に、全組織を配置した。ウェルは、標準的なガラススライドに粘着された3層の絶縁テープから切り出されたほぼ1mm×0.5mmの長方形とした。カバーガラスの縁端の周りを瞬間接着剤で密閉し、乾燥を防ぐために直ちに造影した。
【0184】
頸椎脱臼による屠殺を含む実験手順に先立って、マウスを麻酔した。すべての研究で、マウスを、腹部の周りの弱粘着性テープの鍔によって自己グルーミングから、および個別ケージ中に収容することによって相互グルーミングから保護した。
【0185】
従来の粘液粘着性粒子(CP)には、カルボキシル(COOH)で修飾された100nmサイズの蛍光性ポリスチレン(PS)ナノ粒子(Molecular Probes)を使用した。これらの粒子は、中性pHで負に帯電した表面を特徴とする(表12)。粘液浸透性粒子(MPP)を製造するために、CPを、標準的な1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドカップリング反応によってアミンで修飾された5kDaのPEG(Creative PEGworks)で共有結合により修飾した。粒径およびζ電位を、Zetasizer Nano ZS90(Malvern Instruments)を使用して、それぞれ動的光散乱およびレーザードップラー流速測定法によって測定した。サイズの測定は、25℃、90°の散乱角で実施した。サンプルを10mM NaCl溶液(pH7)で希釈し、装置の説明書に従って測定を実施した。レーザードップラー流速測定法で測定される中性近くのζ電位を利用して、PEGの複合を確認した。
【0186】
生分解性粒子には、PLGA acid 2A(50:50 Lakeshore Biomaterials)、Lutrol F127(BASF)、およびポリ(ビニルアルコール)(PVA 25kDa、Polysciences)を使用した。Alexa Fluor555を、前に記載のようにナノ沈降によってナノ粒子を製造するのに使用されるPLGAに化学的に複合させた(M. Yang, S. K. Lai, Y. Y. Wang, W. Zhong, C. Happe, M. Zhang, J. Fu, J. Hanes, Biodegradable Nanoparticles Composed Entirely of Safe Materials that Rapidly Penetrate Human Mucus. Angew Chem Int Ed Engl 50, 2597-2600 (2011))。簡潔には、10mg/mLの標識化PLGAをアセトンまたはTHF(2mgのFITCを含むか、含まない)中に溶解し、40mLの界面活性剤水性溶液に滴加した。2時間撹拌した後、粒子を、5μmのシリンジ式フィルター(Sorvall RC−6+、ThermoScientific)を通して濾過し、遠心分離により集め、洗浄した。粒径およびζ電位を記載のように測定した。
【0187】
ACVp−MPPを、ACVpをLutrol F127を含む超純水に溶解することによって調製した。酢酸亜鉛を、5:1のACVp:Znのモル比で添加し、ACVpをキレート化し、それを非水溶性にし、次いで、直ちに急速凍結し、凍結乾燥した。粒子の特徴付けは、再構成の後に実施した。投与に先立って、超純水を用いて、粉末を、ACVpが1mg/mL、Lutrolが0.8mg/mLの最終濃度で再構成した。溶性ACVpを、pHを6〜7に到達させるのに必要とされるようなNaOHで滴定した。粒径およびζ電位を記載のように測定した。
【0188】
生体外膣組織サンプル中での蛍光性粒子の軌跡を、100×の油浸対物レンズ(開口数1.3)を備えた倒立落射顕微鏡上に搭載されたシリコン増強ターゲットカメラ(VE−1000、Dage−MTI)を使用して記録した。動画をMetamorphソフトウェア(Universal Imaging Corp.)を用い、66.7ミリ秒の時間分解能で20秒間捕捉した。n>130個の粒子の軌跡を、各実験について分析し、異なるマウスからの組織を使用して3つの独立実験を実施した。粒子重心の座標を、
<Δr
2(τ)>=[x(t+τ)−x(t)]
2+[y(t+τ)−y(t)]
2
として計算される時間平均二乗幾何平均変位(<MSD>)に変換した。
【0189】
式中、τは時間尺度(または時間遅れ)であり、xおよびyは、時刻tでの対応する粒子の座標であり、Δr
2はMSDである。この式は、以前に立証されているように、粒子のMSDおよび有効拡散係数(D
eff)を計算するのに使用された(S. K. Lai, D. E. O'Hanlon, S. Harrold, S. T. Man, Y. Y. Wang, R. Cone, J. Hanes, Rapid transport of large polymeric nanoparticles in fresh undiluted human mucus. Proc Natl Acad Sci USA 104, 1482-1487 (2007);B. C. Tang, M. Dawson, S. K. Lai, Y. Y. Wang, J. S. Suk, M. Yang, P. Zeitlin, M. P. Boyle, J. Fu, J. Hanes, Biodegradable polymer nanoparticles that rapidly penetrate the human mucus barrier. Proc Natl Acad Sci USA 106, 19268-19273 (2009))。計算されたD
eff値は、以前に記載のように、粘液板中での粒子浸透をモデル化するのに使用された(B, C. Tang, M. Dawson, S. K. Lai, Y. Y. Wang, J. S. Suk, M. Yang, P. Zeitlin, M. P. Boyle, J. Fu, J. Hanes, Biodegradable polymer nanoparticles that rapidly penetrate the human mucus barrier. Proc Natl Acad Sci USA 106, 19268-19273 (2009))。
【0190】
粘液除去を伴う分布の場合、粒子投与に先立って、マウスを、50μLのPBSで2回膣洗浄し、続いて先端に綿を付けたアプリケーターで1回拭き取った。続いて、5μLのCPまたはMPPを膣内で投与した。次いで、膣全体を取り出し、ティシュー・テックO.C.Tコンパウンド(サクラファインテックU.S.A.)中で凍結した。Microm HM500M Cryostat(Microm International)を使用して、組織(膣口と子宮頸管との間の)の長さに沿った種々の箇所で、横断切片を得た。切片の厚さは、単一細胞層の厚さを達成するために6μmに設定した。次いで、細胞核を可視化し、粒子の蛍光を保持するために、切片を、DAPIを含むProLong Gold(Invitrogen)褪色防止用封入剤で染色した。倒立蛍光顕微鏡を用いて、切片の蛍光画像を得た。ナノ粒子の分布を量化するため、5μLのCPまたはMPPを膣内で投与した。10分以内に、膣組織を、粒子を投与していない「ブランク」組織を含めて、長さ方向に薄く切り開き、2枚のスライドガラスの間に挟み、瞬間接着剤で密閉した。この処理により、組織は完全に扁平化され、襞が露出する。「ブランク」組織は、撮影されたすべての画像がバックグラウンドレベルを十分に超えることを保証するための、組織のバックグラウンド蛍光レベルを評価するのに使用した。低倍率での6枚の蛍光画像および高倍率での少なくとも1枚の画像を、各組織について撮影した。蛍光シグナルの周りに境界を描くために、画像に閾値を設定し、次いで、覆われた面積を、ImageJソフトウェアを使用して量化した。平均被覆度を各マウスについて求め、次いで、これらの値をn≧3のマウスの群にわたって平均化した。各マウスからの子宮頸部を、子宮角から切断し、生体外粒子追跡に使用されたと同様の特注ウェルを使用して取り付けた。ウェルをカバーガラスで密閉し、ブランク組織を使用してバックグラウンド蛍光レベルを測定した。子宮頸部のほぼ全表面を構成する1枚の蛍光画像を、低倍率で組織のバックグラウンドレベル以上で撮影した。これらの画像に同様の方式で閾値を設定し、粒子で覆われた面積を測定した。少なくとも1枚のより高倍率の画像を、各組織について撮影して、個々の粒子を示した。
【0191】
MPPおよびCPの移流を、特注のキャピラリー管装置を使用して可視化した。扁平キャピラリー管(0.4mm×4mm×50mm、VitroCom)を1mLのツベルクリンシリンジ(Becton Dickinson)に1本の可撓性プラスチックチューブを経由して取り付けた。チューブをキャピラリー管の一端に取り付け、シリコーングリースを使用して密閉した。シリンジおよびチューブに生理食塩水、続いて、3%(容積/容積)の約500nm非被覆(赤色蛍光)およびPEG被覆(緑色蛍光)ポリスチレンビーズ(Invitrogen)と混合された新鮮で希釈されていないヒトCVMを負荷した。PEGで被覆されたビーズは、マウスでの研究で使用された100nmのMPPについて前に説明したように調製された。キャピラリー管を満たすにはほぼ80μLの粘液が必要であり、気泡の導入を避けるように注意した。圧力を印加したか、印加しないキャピラリー管内でのMPPおよびCPの運動を示す時間経過ビデオを、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡(Carl Zeiss MicroImaging、LLC)上の40×対物レンズを使用して記録した。
【0192】
FITC色素(Sigma−Aldrich)を、T.Moench(Reprotect)から好意で提供されたHECゲルと1mg/mLで混合した。生分解性MPPを、説明したよう調製し、FITC色素を装填し、1%Lutrol F127中に懸濁させた。分布を評価するため、10μLのゲルまたは粒子溶液を膣内で投与した。24時間後に、膣組織を取り出し、切開して扁平にした。次いで、組織を2枚の顕微鏡スライドの間に挟み、押しつぶして粘膜襞を扁平にした。膣組織からのバックグラウンド自己蛍光を求めるために「ブランク」組織を含めて、使用される暴露設定が、FITCの存在を示すことを確実にした。2×の対物レンズを備えたNikon E600倒立顕微鏡を使用して、扁平化された組織表面上での色素分布の蛍光画像を得た。被覆面積を測定するために、ImageJを使用する同様の方式で、これらの画像に閾値を設定した。
【0193】
ナノ粒子の保持を評価するために、5μLの赤色蛍光性のCPまたはMPPを膣内で投与した。全子宮頸膣管を、0、2、4および6時間の時点で取得し、標準的な組織培養皿中に配置した。それぞれの条件および時点に対して、n>7のマウスを使用した。組織の蛍光画像を、Xenogen IVIS Spectrum造影装置(Caliper Life Sciences)を使用して取得した。Xenogen Living Image 2.5ソフトウェアを使用して、単位面積当たりの蛍光計数の量を計算した。
【0194】
5μLの粒子または対照溶液を、DPマウスモデルに膣内で投与した。24時間後、全子宮頸膣管を取得し、4%パラホルムアルデヒド溶液中で24時間固定した。組織を、70%エタノール中に入れ、パラフィン包埋およびH&E染色のために、Johns Hopkins Reference Histology Laboratoryに送った。
【0195】
20μLの各試験薬剤を、DPマウスモデルに1日1回、7日間、膣内で投与した。HECゲルおよびN9は、T.Moench(Reprotect)によって提供され、TFV用媒体ゲルは、C.Dezzutti(Pittsburgh大学)の好意で提供された。8日目に、各マウスを、50μLのPBSで2回洗浄した。各洗浄サンプルを、さらなる200μLのPBSで希釈し、遠心分離して粘液栓を除去した。上清(200μL)を取り出し、4種(IL−1β、IL−1α、TNF−α、およびIL−6)のQuantikine ELISAキット(R&D Systems,Inc.)のそれぞれのために50μLに分割した。製造業者の説明書に従ってELISAを実施した。
【0196】
すべてのデータは、示した平均値の標準誤差(SEM)を伴う平均として示される。統計的有意は、不等同分散を仮定した両側スチューデントt検定(α=0.05)によって判定した。HSV−2負荷の場合、統計的有意は、フィッシャーの直接検定、両側分布を使用して判定した。
【0197】
女性生殖管は、広範な範囲の性感染症にかかりやすい(R. Mallipeddi, L. C. Rohan, Nanoparticle-based vaginal drug delivery systems for HIV prevention. Expert Opin Drug Deliv 7, 37-48 (2010))。生物学的脆弱性、女性が主導する予防方法の欠如、およびコンドーム使用を交渉する能力の欠如は、すべて、世界的に男性から女性への伝染の一因となる(R. Mallipeddi, L. C. Rohan, Nanoparticle-based vaginal drug delivery systems for HIV prevention. Expert Opin Drug Deliv 7, 37-48 (2010);V. M. Ndesendo, V. Pillay, Y. E. Choonara, E. Buchmann, D. N. Bayever, L.C. Meyer, A Review of current intravaginal drug delivery approaches employed for the prophylaxis of HIV/AIDS and prevention of sexually transmitted infections. AAPS PharmSciTech 9, 505-520 (2008))。女性を膣HIV、HSV−2、およびその他のウイルス感染から保護するための、投与が容易で、目立たず、かつ効果的な方法は、世界的に多数の感染症を防ぐ可能性がある。11種の殺菌薬の試験で失敗した後に、CAPRISA004が、ゲル製剤の状態で経膣で投与される殺菌薬(テノフォビル)を用いて、HIVに対する部分的保護を立証した最初のものであった(Q. A. Karim, S. S. A. Karim, J. A. Frohlich, A. C. Grobler, C. Baxter, L. E. Mansoor, A. B. M. Kharsany, S. Sibeko, K. P. Mlisana, Z. Omar, T. N. Gengiah, S. Maarschalk, N. Arulappan, M. Mlotshwa, L. Morris, D. Taylor, C. T. Grp, Effectiveness and Safety of Tenofovir Gel, an Antiretroviral Microbicide, for the Prevention of HIV Infection in Women. Science 329, 1168-1174 (2010))。N9などの前世代の殺菌薬と現世代の殺菌薬との間の相違は、作用部位である。ヌクレオシド類似体テノフォビルおよびアシクロビルモノホスフェートなどの現世代の多くの殺菌薬は、細胞内で作用してウイルスの複製を阻害し、一方、前世代のものは、膣管腔中で病原体を直接的に不活化した。しかし、前世代の一部の殺菌薬は、感染への感受性を高めた膣上皮に対して毒性をもたらした(O. J. D'Cruz, F. M. Uckun, Dawn of non-nucleoside inhibitor-based anti-HIV microbicides. J Antimicrob Chemother 57, 411-423 (2006))。
【0198】
最大限に有効である膣への薬物送達のために、局所で送達される薬物は、均一に分布され、十分に高い濃度を維持し、かつ折りたたまれた膣上皮(粘液襞)および子宮頸部粘液に密に近接して留まるべきである。いくつかの技法、例えば、MRI(C. K. Mauck, D. Katz, E. P. Sandefer, M. D. Nasution, M. Henderson, G. A. Digenis, I. Su, R. Page, K. Barnhart, Vaginal distribution of Replens and K-Y Jelly using three imaging techniques. Contraception 77, 195-204 (2008))、ガンマ−シンチグラフィー(C. K. Mauck, D. Katz, E. P. Sandefer, M. D. Nasution, M. Henderson, G. A. Digenis, I. Su, R. Page, K. Barnhart, Vaginal distribution of Replens and K-Y Jelly using three imaging techniques. Contraception 77, 195-204 (2008);およびB. E. Chatterton, S. Penglis, J. C. Kovacs, B. Presnell, B. Hunt, Retention and distribution of two 99mTc-DTPA labelled vaginal dosage forms. Int J Pharm 271, 137-143 (2004))、膣鏡検査(N. Poelvoorde, H. Verstraelen, R. Verhelst, B. Saerens, E. De Backer, G. L. dos Santos Santiago, C. Vervaet, M. Vaneechoutte, F. De Boeck, L. Van Bortel, M. Temmerman, J. P. Remon, In vivo evaluation of the vaginal distribution and retention of multi-particulate pellet formulation. Eur J Pharm Biopharm 73, 280-284 (2009))、および光ファイバー(C. K. Mauck, D. Katz, E. P. Sandefer, M. D. Nasution, M. Henderson, G. A. Digenis, I. Su, R. Page, K. Barnhart, Vaginal distribution of Replens and K-Y Jelly using three imaging techniques. Contraception 77, 195-204 (2008))を使用して、膣投与に続くゲルおよび薬物の分布を観察した。これらの技法は、膣管に沿って大まかな分布を観察するのに適しているが、膣襞中への侵入を明らかにしない。本発明者らの研究は、局所治療は、膣管の長さ方向に沿って良好に分布される可能性があるが、折りたたまれた上皮の多くは未治療および未保護のままであることもあることを立証した。このような未処置表面は、臨床試験におけるHIVに対するいくつかの候補殺菌薬の最近の失敗の一因である可能性がある(C. W. Hendrix, Y. J. Cao, E. J. Fuchs, Topical microbicides to prevent HIV:clinical drug development challenges. Annu Rev Pharmacol Toxicol 49, 349-375 (2009))。さらに、流体またはゲルを膣に投与すると、それは、急速に流れる外側管腔粘液層に直接的に接触する。CPなどの粘液粘着性粒子は、この表在粘液層中に捕捉され、それによって、粘液襞から排除される。対照的に、本発明者らは、MPPが、マウスの粘液襞中に深く浸透する能力があり、低張性で送達されると、わずか10分以内に、上皮の完全な被覆度を提供した。
【0199】
粒子の拡散は、このような均一な上皮コーティングを数分以内にもたらすのに十分なほど急速ではない。約100μmを超える拡散は、およそ数時間を必要とする。しかし、膣上皮は、浸透勾配によって誘導される流体吸収のための大きな能力を有する。粘液バリア中での水の吸収は、移流により全上皮表面に急速に到達する上でMPPを助け、次いで、装填薬物を、組織での最適な取り込みのために放出することができる。対照的に、水吸収は、CPが管腔粘液中で粘着して捕捉され、不動化されるので、CPにとって有益ではない(ビデオ2)。
【0200】
治療上活性な化合物の膣管中での不十分な保持は、膣保護に対するもう1つの制約因子である。例えば、多くの膣用殺精子薬は、1時間以下の保護を提供する(L. J. D. Zaneveld, D. P. Waller, N. Ahmad, J. Quigg, J. Kaminski, A. Nikurs, C. De Jonge, Properties of a new, long-lasting vaginal delivery system(LASRS) for contraceptive and antimicrobial agents. J. Androl 22, 481-490 (2001))。その他の膣用製品は、6時間後でさえ十分に保持されず、(R. F. Omar, S. Trottier, G. Brousseau, A. Lamarre, G. Alexandre, M. G. Bergeron, Distribution of a vaginal gel (Invisible Condom) before,during and after simulated sexual intercourse and its persistence when delivered by two different vaginal applicators: a magnetic resonance imaging study. Contraception 77, 47-455 (2008);N. Poelvoorde, H. Verstraelen, R. Verhelst, B. Saerens, E. De Backer, G. L. dos Santos Santiago, C. Vervaet, M. Vaneechoutte, F. De Boeck, L. Van Bortel, M. Temmerman, J. P. Remon, In vivo evaluation of the vaginal distribution and retention of a multi-particulate pellet formulation. Eur J Pharm Biopharm 73, 280-284 (2009);B. E. Chatterton, S. Penglis, J. C. Kovacs, B. Presnell, B. Hunt, Retention and distribution of two 99mTc-DTPA labelled vaginal dosage forms. Int J Pharm 271, 137-143 (2004))、十分な保護のための反復投与を必要とする。同様に、CPは、粘液層中に深く浸透しないので、その90%超が、6時間以内に膣から流し出された。対照的に、MPPは、封入されたモデル薬物(FITC)の少なくとも24時間の、ゲル製剤の状態の溶性薬物に比較して高められた送達を提供した。したがって、MPPは、治療のために、性感染疾患に対する殺菌薬などの強力な1日1回の局所膣投与を達成するための手段を提供できる。
【0201】
膣管のための粘膜薬物送達システムを開発するための従来の試みにおいて、粘液バリアを減少させる種々の「予備処置」が使用されてきた。粘液粘着性の送達媒体を投与する前の、流体投与(Y. Cu, C. J. Booth, W. M. Saltzman, In vivo distribution of surface-modified PLGA nanoparticles following intravaginal delivery. J.Control Release, (10.1016/j.jconrel.2011.06.036);K. A. Woodrow, Y. Cu, C. J. Booth, J. K. Saucier-Sawyer, M. J. Wood, W. M. Saltaman, Intravaginal gene silencing using biodegradable polymer nanoparticles densely loaded with small-interfering RNA. Nat Mater 8, 526-533 (2009);T. Kanazawa, Y. Takashima, S. Hirayama, H. Okada, Effects of menstrual cycle on gene transfection through mouse vagina for DNA vaccine. Int J Pharm 360, 164-170 (2008);T. Kanazawa, Y. Takashima, Y. Shibata, M. Tsuchiya, T. Tamura, H. Okada, Effective vaginal DNA delivery with high transfection efficiency is a good system for induction of higher local vaginal immune responses. J Pharm Pharmacol 61, 1457-1463 2009))、綿棒拭き取り(K. A. Woodrow, Y. Cu, J. Booth, J. K. Saucier-Sawyer, M. J. Wood, W. M. Saltaman, Intravaginal gene silencing using biodegradable polymer nanoparticles densely loaded with small-interfering RNA. Nat Mater 8, 526-533 (2009);A. S. Kask, X. Chen, J. O. Marshak, L. Dong, M. Saracino, D. Chen, C. Jarrahian, M. A. Kendall, D. M. Koelle, DNA vaccine delivery by densely-packed and short microprojection arrays to skin protects against vaginal HSV-2 challenge. Vacccine 28, 7483-7491 (2010))、または分解酵素(M. M. Seavey, T. R. Mosmann, Estradiol-induced vaginal mucus inhibits antigen penetration and CD8(+)T cell priming in response to intravaginal immunization. Vaccine 27,2342-2349(2009))が、これらの研究で達成される薬物または遺伝子送達にとっておそらくは必須である。この場合、洗浄+綿棒拭き取りの前処置は、膣中でのCPの分布を顕著に改善し、粒子が上皮を、MPPと同様に被覆することを可能にすることが見出された(
図19)。バリアを除去する前処置は、ヒトに使用するには実際的でなく、特に、性感染疾患を予防することを意図した殺菌薬に対して適していない可能性がある。健康なCVM自体は、ウイルス感染に対して若干有効なバリアである(S. K. Lai, K. Hida, S. Shukair, Y. Y. Wang, A. Figueiredo, R. Cone, T. J. Hope, L. Hanes, Human immunodeficiency virus type 1 is trapped by acidic but not by neutralized human cervicovaginal mucus. J Virol 83, 11196-11200 (2009))。有効な上皮被覆度は、MPPを使用することによって、粘液バリアを分解または除去する必要なしに達成することができる。
【0202】
PEGコーティングは、免疫系によって容易には認識されないポリマー性薬物担体を開発する際に広範に使用されてきた(B. C. Tang, M. Dawson, S. K. Lai, Y. Y. Wang, J. S. Suk, M. Yang, P. Zeitlin, M. P. Boyle, J. Fu, J. Hanes, Biodegradable polymer nanoparticles that rapidly penetrate the human mucus barrier. Proc Natl Acad Sci USA 106, 19268-19273 (2009))。密なPEGコーティングは、マウスの膣管に炎症を引き起こすことなしに、粘液に急速に浸透することが立証された。対照的に、被覆されていないCPの投与は、N9の投与に類似した急性炎症応答を引き起こした。さらに、MPPの毎日投与に伴うサイトカインレベルは、HECプラセボゲルと区別がつかなかった。上皮の損傷に伴うIL−1αおよびIL−1βレベルの上昇が、N9およびTFV用媒体ゲルの双方を用いた毎日投与後に発生した。このゲルのテノフォビル含有バージョンは、組織体外移植モデルにおいてHIVに対して完全な保護を有することが示され、完全な保護は、目に見える上皮脱落にもかかわらず発生した(L. C. Rohan, B. J. Moncla, R. P. Kunjara Na Ayudhya, M. Cost, Y. Huang, F. Gai, N. Billitto, J. D. Lynam, K. Pryke, P. Graebing, H. Hopkins, J. F. Rooney, D. Friend, C. S. Dezzutti, In vitro and ex vivo testing of tenofovir shows it is effective as an HIV-1 microbicide. PLoS One 5, e9310 (2010))。以前の研究は、TFVゲル剤中のグリセロールが、マウスで観測される毒性に責任がある可能性があることを示唆している(T. R. Moench, R. J. Mumper, T. E. Hoen, M. Sun, R. A. Cone, Microbicide excipients can greatly increase susceptibility to genital herpes transmission in the mouse. BMC Infect Dis 10, 331 (2010))。
【0203】
マウスは、膣用製品を開発するのに有用な動物モデルであるが、マウスとヒトの間には、膣の生理機能に重要な相違が存在する。第1に、発情サイクルは、28日であるヒトの月経周期と対照的に、4〜5日にわたる周期で発生する。ヒトの膣上皮の変化は、月経サイクル中、比較的ほんのわずかであるのに対して、マウスの発情サイクルの4つの段階の間、実質的な増殖に上皮の脱落が続く(B. G. Smith, E. K. Brunner, The structure of the human vaginal mucosa in relation to the menstrual cycle and to pregnancy. American Journal of Anatomy 54, 27-85 (1934);A. K. Ildgruben, I. M. Sjoberg, M.-L. K. C. Hammarstrom, Influence of hormonal contraceptives on the immune cells and thickness of human vaginal epithelium. Obstetrics & Gynecology 102, 571-582 (2003))。マウスの発情サイクルの発情期の末期と発情期の初期は、ヒトの膣上皮のそれに最も類似している(B. G. Smith, E. K. Brunner, The structure of the human vaginal mucosa in relation to the menstrual cycle and to pregnancy. American Journal of Anatomy 54, 27-85 (1934);A. W. Asscher, C. H. De Boer, C. J. Turner, Cornification of the human vaginal epithelium. J.Anat 90, 547-552 (1956))。これらの段階で、乳酸桿菌の存在のピークを含む有意な細菌定着が存在する(H. M. Cowley, G. S. Heiss, Changes in Vaginal Bacterial Flora During the Oestrous Cycle of the Mouse. Microbial Ecology in Health and Disease 4, 229-235 (1991))。さらに、エストラジオールの影響は、双方ともMPPで浸透性であり、かつおよそ数時間で排除され、ヒトに類似していることがマウスにおいて見出された粘液の活発な分泌を引き起こす(H. M. Cowley, G. S. Heiss, Changes in Vaginal Bacterial Flora During the Oestrous Cycle of the Mouse. Microbial Ecology in Health and Disease 4,229-235 (1991);L. B. Corbeil, A. Chatterjee, L. Foresman, J. A. Westfall, Ultrastructure of cyclic changes in the murine uterus, cervix, and vagina. Tissue Cell 17, 53-68 (1985);C. G. Rosa, J. T. Velardo, Histochemical localization of vaginal oxidative enzymes and mucins in rats treated with estradiol and progesterone. Ann NY Acad Sci 83, 122-144 (1959))。したがって、IEマウスモデルは、膣への送達方法を調べるための、一般的に使用されるDPモデルに加えた貴重なモデルであると考えられる。エストラジオールは、マウスを発情期で同調させるのに使用することができるが、それらのマウスを発情状態で「留める」ことはない。それらのマウスはサイクルを継続し、一方、DP処置は、マウスを発情休止様期に数日から数週間留めることができる(C. Kaushic, A. A. Ashkar, L. A. Reid, K. L. Rosenthal, Progesterone increases susceptibility and decreases immune responses to genital herpes infection. J Virol 77, 4558-4565 (2003))。
【0204】
MPPが、ヒトの子宮頸膣およびマウスの膣粘液に急速に浸透する能力があること、およびMPPが、被覆の速度および均一性ならびに保持時間を従来の粘液粘着性ナノ粒子に比較して有意に改善することが示された。CPは、公知の刺激性N9に類似した急性炎症応答を誘発したが、プラセボのゲル剤と同様、MPPは、検出される炎症応答を引き起こさなかった。アシクロビルモノホスフェートを装填したMPPを経膣で投与すると、溶性薬物の濃度が10倍より高くても、溶性薬物に比べて、膣HSV−2感染からマウスを保護することに関してより効果的であった。これらの結果は、膣に安全で効果的な薬物を送達するための、性感染症、避妊、およびその他の子宮頸膣障害の治療のためのMPPのさらなる開発を動機づける。
【0205】
(例8)
本非限定的例は、Pluronic(登録商標)F127でコーティングしたポリスチレン(PS)粒子の粘液中の相対速度と、Pluronic(登録商標)F127の粒子表面上の密度との間の関係を示す。
一組の実験において、様々な濃度のPluronic(登録商標)F127の存在下、室温で少なくとも24時間の間、カルボキシル化PSナノ粒子の水性分散液(200nm、0.5%w/v)を平衡化した。Pluronic(登録商標)F127分子の、得たPS/Pluronic(登録商標)F127ナノ粒子の表面上の密度を以下の通り定量化した。PS/Pluronic(登録商標)F127混合物を超遠心分離機することによって、粒子の沈降を完了させた。その結果、PSに結合したPluronic(登録商標)F127が粒子と共に沈殿した;PSに結合していないPluronic(登録商標)F127は、上清中に残留した。得た上清(C
F127、遊離)中のPluronic(登録商標)F127の濃度をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した。この実験では、G1362A屈折率検出器および分析用Agilent PLgel 5μm Mixed−Cカラムを装備したAgilent 1100 HPLCシステムを利用した。結合したPluronic(登録商標)F127(C
F127、結合)の濃度を以下のように計算した:
C
F127、結合=C
F127−C
F127、遊離
(式中、C
F127は、混合物中に存在するPluronic(登録商標)F127の総濃度である。次いでPS表面積(F127/nm
2)当たりのPluronic(登録商標)F127分子の数を以下のように計算した:
【数2】
(式中、N
Aは、アヴォガドロ数であり、C
F127、結合は、結合したPluronic(登録商標)F127のモル濃度(モル/L)であり、SAは、製造業者(Invitrogen)仕様から計算したPS粒子の比表面積(nm
2/g)であり、C
PSは混合物中のPSの質量濃度(g/L)である。製造業者(BASF)により特定されたPluronic(登録商標)F127の数平均分子量を計算に使用した。
【0206】
蛍光顕微鏡法および例1および4〜6に記載されているような複数の粒子トラッキングソフトウエアを使用して、PS/Pluronic(登録商標)F127粒子の粘液浸透能力をヒト頸膣部粘液中の相対速度として測定した。特に、試料は、対象となる粒子であり、陰性対照は、ポリマーコーティングのない、200nmの蛍光性カルボキシル化−改変されたポリスチレン粒子であり、陽性対照は、2または5kDaのPEGの高密度コーティングを有する200nmの蛍光性ポリスチレン粒子であった(十分に確立した、より低い粘膜付着挙動を有する)。試料、陰性対照、および陽性対照は、これらの蛍光色により互いに区別した。
【0207】
子宮頸膣粘液中での粒子の相対速度は、例1および4〜6で説明したように、蛍光顕微鏡法および多粒子追跡ソフトウェアを使用して特徴付けられた。典型的な実験では、≦0.5μLの粒子懸濁液を、陽性対照および陰性対照と共に、20μLの新鮮な頸膣部粘液に加えた。CCDカメラを装着した蛍光性顕微鏡を使用して、66.7ミリ秒(15フレーム/秒)の一時的解像度で、100×の倍率下で、各タイプの粒子:試料、陰性対照、および陽性対照に対する各試料内のいくつかの領域から15秒動画を記録した。次に、最先端の画像プロセシングソフトウエアを使用して、少なくとも3.335秒(50フレーム)タイムスケールにわたり複数の粒子の個々の軌線を測定した。
図25に示されている結果は、Pluronic(登録商標)F127でコーティングしたPS粒子の粘液中の相対速度が、粒子表面上のPluronic(登録商標)F127分子の密度が増加すると、増加したことを示した。
【0208】
他の実施形態
本発明のいくつかの実施形態が本明細書中に記載され、例示されてきたが、当業者であれば、機能を実施するための、ならびに/または結果および/もしくは本明細書に記載されている利点のうちの1つもしくは複数を得るための様々な他の手段および/または構造を容易に想定し、このような変形および/または修正のそれぞれは、本発明の範囲内であるとみなされる。さらに一般的には、当業者は、本明細書に記載されているすべてのパラメーター、寸法、物質、および構成は例示的であることが意図されており、実際のパラメーター、寸法、物質、および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の適用(複数可)に依存することになることを容易に理解されよう。当業者であれば、慣用的試験だけを使用して、本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識する、または確かめることができる。したがって、上に列挙した実施形態は、例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびこの同等物の範囲内で、具体的に記載され、特許請求されたものとは他のやり方で本発明を実施することができることが理解されるものとする。本発明は、本明細書に記載されているそれぞれ個々の特徴、システム、物品、物質、キット、および/または方法を対象とする。さらに、2種以上のこのような特徴、システム、物品、物質、キット、および/または方法のあらゆる組合せは、このような特徴、システム、物品、物質、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、本発明の範囲内に含まれる。
【0209】
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書の明細書および特許請求の範囲の中で使用する場合、反対であると明らかに示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
「および/または」という句は、本明細書中の明細書および特許請求の範囲において使用する場合、要素の「いずれかまたは両方」がこのように結合したことを意味する、すなわち、ある場合には接続的に存在する要素であり、他の場合には、非接続的に存在すると理解されるべきである。反対であると明らかに示されていない限り、具体的に特定されたような要素と関連しているか、または関連していないかに関わらず、「および/または」節により具体的に特定された要素以外の他の要素が存在してもよい。したがって、非限定的例として、「Aおよび/またはB」の言及は、「含む」などの制限のない言語と関連して使用された場合、一実施形態では、Bを含まないA(B以外の要素を含んでもよい);別の実施形態では、Aを含まないB(A以外の要素を含んでもよい);さらに別の実施形態では、AとBの両方(他の要素を含んでもよい)などを指すことができる。
【0210】
明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用する場合、「または」は、上記に定義されたような「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内のアイテムを分離する場合、「または」または「および/または」はすべてを含むと解釈されるものとし、すなわち、数字のうちの、または要素のリストのうちの少なくとも1つを包含するばかりでなく、1つより多くも含み、さらなる列挙されていないアイテムも含んでもよい。明らかに反対を示す唯一の用語、例えば、「〜のうちの1つのみ」または「〜のうちの正確に1つ」または、特許請求の範囲で使用された場合、「からなる」は、数字または要素のリストのうちの正確に1つの要素の包含を指すことになる。一般的に、「または」という用語は、本明細書で使用する場合、排他的用語、例えば、「いずれか」「〜のうちの1つ」「〜のうちの1つのみ」または「正確に1つの」などに先行された場合、排他的代替形態(すなわち「どれか一方であり両方ではない」)を示すように解釈されるものとする。「から基本的になる」が特許請求の範囲内で使用された場合、特許法律の分野で使用されているその通常の意味を有するべきである。
【0211】
本明細書の明細書および特許請求の範囲で使用する場合、「少なくとも1つの」という句は、必ずしも、要素のリスト内に具体的に列挙されたそれぞれおよびすべての要素の少なくとも1つを含むわけではなく、要素のリストの中の要素のいずれの組合せも除外せずに、1種または複数の要素のリストに関連して、要素のリストの中の要素のうちのいずれか1種または複数から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解すべきである。この定義はまた、具体的に特定されたこれらの要素と関連しているか、または関連していないかに関わらず、「少なくとも1つの」という句が指す要素のリスト内に具体的に特定された要素以外の要素が存在してもよいことを可能にする。したがって、非限定的例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」または、同等に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、Bは存在せずに、少なくとも1つのA(1つより多くのAを含んでもよい)を指すことができ(B以外の要素を含んでもよい);別の実施形態では、Aは存在せずに、少なくとも1つのB(1つより多くのBを含んでもよい)を指すことができ(A以外の要素を含んでもよい);さらに別の実施形態では、少なくとも1つのA(1つより多くのAを含んでもよい)および少なくとも1つのB(1つより多くのBを含んでもよい)を指すことができる(他の要素を含んでもよい)。
【0212】
特許請求の範囲、ならびに上記明細書の中で、すべてのつなぎ言葉、例えば、「含む(comprising)」「含む(including)」、「保持する」、「有する」、「含有する」、「含む(involving)」「保持する(holding)」などは制限のない、すなわち、これらを含むが、これらに限定されないことを意味することを理解されたい。唯一のつなぎ言葉「からなる」および「から本質的になる」は、それぞれ閉じられたまたは半ば閉じられたつなぎ言葉であるものとし、United States Patent Office Manual of Patent Examining Procedures, Section 2111.03に示されている通りである。
[付記]
[付記1]
複数の被覆された粒子を含む組成物であって、前記被覆された粒子が、
固体の医薬品またはその塩を含む芯粒子であって、前記医薬品またはその塩がpH範囲の間の任意の箇所で25℃で約1mg/mL以下の水溶性を有し、前記医薬品またはその塩が前記芯粒子の少なくとも約80重量%を構成する、芯粒子;及び
前記芯粒子を取り囲む表面改変剤を含むコーティングであって、前記表面改変剤が、親水性ブロック−疎水性ブロック−親水性ブロックの配置を含むトリブロックコポリマーを含み、前記疎水性ブロックが少なくとも約2kDaの分子量を有し、前記親水性ブロックが前記トリブロックコポリマーの少なくとも約15重量%を構成し、前記疎水性ブロックが前記芯粒子の表面と会合し、前記親水性ブロックが前記被覆された粒子の表面に存在し、前記被覆された粒子を親水性にし、前記表面改変剤が前記芯粒子の表面上に少なくとも約0.001分子/nm2の密度で存在する、コーティング、
を含み、前記被覆された粒子が、粘液中で0.5を超える相対速度を有する、組成物。
[付記2]
複数の被覆された粒子を含む組成物を粘液膜に送達することを含む方法であって、前記被覆された粒子が、
固体の医薬品またはその塩を含む芯粒子であって、前記医薬品またはその塩がpH範囲の間の任意の箇所で25℃で約1mg/mL以下の水溶性を有し、前記医薬品またはその塩が前記芯粒子の少なくとも約80重量%を構成する芯粒子;及び
芯粒子を取り囲む表面改変剤を含むコーティングであって、前記表面改変剤が、親水性ブロック−疎水性ブロック−親水性ブロックの配置を含むトリブロックコポリマーを含み、前記疎水性ブロックが少なくとも約2kDaの分子量を有し、前記親水性ブロックが前記トリブロックコポリマーの少なくとも約15重量%を構成し、前記疎水性ブロックが、芯粒子の表面と会合し、前記親水性ブロックが前記被覆された粒子の表面に存在し、前記被覆された粒子を親水性にし、前記表面改変剤が芯粒子の表面上に少なくとも約0.001分子/nm2の密度で存在する、コーティング、
を含み、前記被覆された粒子が、粘液中で0.5を超える相対速度を有する、方法。
[付記3]
被覆された粒子を形成する方法であって、
芯粒子を、表面改変剤を含む溶液と組み合わせる工程、ここで前記芯粒子は、25℃の溶液中で約1mg/mL以下の溶解性を有し、芯粒子のそれぞれの少なくとも約80重量%を構成する固形の医薬品またはその塩を含む;
前記芯粒子を表面改変剤で被覆して、被覆された粒子を形成する工程、ここで前記表面改変剤は、親水性ブロック−疎水性ブロック−親水性ブロックの配置を含むトリブロックコポリマーを含み、前記疎水性ブロックが少なくとも約2kDaの分子量を有し、前記親水性ブロックがトリブロックコポリマーの少なくとも約15重量%を構成し、前記疎水性ブロックが、芯粒子の表面と会合し、前記親水性ブロックが、被覆された粒子の表面に存在し、被覆された粒子を親水性にし、被覆された粒子が、粘液中で0.5を超える相対速度を有する;
を含む、方法。
[付記4]
表面改変剤が、芯粒子に共有結合で結合している、付記1に記載の組成物。
[付記5]
表面改変剤が、芯粒子に非共有結合で吸着している、付記1に記載の組成物。
[付記6]
表面改変剤が、被覆された粒子の表面上に、1平方ナノメートルにつき、少なくとも約0.01分子の密度で存在する、付記1に記載の組成物。
[付記7]
トリブロックコポリマーの親水性ブロックが、トリブロックコポリマーの少なくとも約30重量%を構成する、付記1に記載の組成物。
[付記8]
トリブロックコポリマーの疎水性ブロックが、少なくとも約3kDaの分子量を有する、付記7に記載の組成物。
[付記9]
トリブロックコポリマーが、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)またはポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレングリコール)である、付記8に記載の組成物。
[付記10]
トリブロックコポリマーの親水性ブロックが、ポリ(エチレンオキシド)もしくはポリ(エチレングリコール)、またはこれらの誘導体を含む、付記7に記載の組成物。
[付記11]
ポリ(エチレンオキシド)またはポリ(エチレングリコール)ブロックが、少なくとも約2kDaの分子量を有する、付記10に記載の組成物。
[付記12]
トリブロックコポリマーの疎水性ブロックが、ポリ(プロピレンオキシド)である、付記1に記載の組成物。
[付記13]
ポリ(プロピレンオキシド)ブロックが、少なくとも約3kDaの分子量を有する、付記12に記載の組成物。
[付記14]
表面改変剤が、溶液中に少なくとも約0.1(重量/容積)%の濃度で存在する、付記1に記載の組成物。
[付記15]
芯粒子のそれぞれが、結晶性医薬品またはその塩を含む、付記1に記載の組成物。
[付記16]
芯粒子のそれぞれが、非晶性医薬品またはその塩を含む、付記1に記載の組成物。
[付記17]
芯粒子のそれぞれが、固体医薬品の塩を含む、付記1に記載の組成物。
[付記18]
医薬品が、治療用薬剤または診断用薬剤の少なくとも1種である、付記1に記載の組成物。
[付記19]
医薬品が、小分子、ペプチド、ペプチド模倣体、タンパク質、核酸、または脂質の少なくとも1種である、付記1に記載の組成物。
[付記20]
医薬品またはその塩が、25℃で約0.1mg/mL以下の水溶性を有する、付記1に記載の組成物。
[付記21]
医薬品が、芯粒子の少なくとも約85重量%を構成する、付記1に記載の組成物。
[付記22]
芯粒子が、少なくとも約20nmかつ約1μm以下の平均サイズを有する、付記1に記載の組成物。
[付記23]
被覆された粒子が、少なくとも約20nmかつ約1μm以下の平均サイズを有する、付記1に記載の組成物。
[付記24]
被覆された粒子が、ヒト子宮頸膣粘液中を、1秒の時間尺度で、粒子が水中を拡散する拡散係数の1/500を超える拡散係数で拡散する、付記1に記載の組成物。
[付記25]
被覆された粒子が、粘液中で0.8を超える相対速度を有する、付記1に記載の組成物。
[付記26]
粘液がヒト頸膣部粘液である、付記1に記載の組成物。
[付記27]
付記1に記載の組成物および1種または複数の薬学上許容される担体、添加物、および/または希釈剤を含む医薬組成物。
[付記28]
付記1に記載の組成物を含む、粘液膜に吸入、注射、または局所投与するのに適した医薬製剤。