特許第6360043号(P6360043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6360043DLC層を有する構造体及びDLC層の生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360043
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】DLC層を有する構造体及びDLC層の生成方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20180709BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20180709BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   C01B32/05
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-513855(P2015-513855)
(86)(22)【出願日】2014年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2014061722
(87)【国際公開番号】WO2014175432
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-94628(P2013-94628)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513106015
【氏名又は名称】株式会社長町サイエンスラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】長町 信治
(72)【発明者】
【氏名】中尾 基
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−049689(JP,A)
【文献】 特開2012−025653(JP,A)
【文献】 特開2010−182813(JP,A)
【文献】 特開2010−137540(JP,A)
【文献】 特開2004−255665(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013305(WO,A1)
【文献】 特開平5−159285(JP,A)
【文献】 特開2003−269555(JP,A)
【文献】 特開2011−121846(JP,A)
【文献】 特開2001−289874(JP,A)
【文献】 特開2012−149302(JP,A)
【文献】 G. FOTI et al.,STRUCTURE AND BONDING IN ION IRRADIATED POLYSTYRENE,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research,1990, B46, 306-308.,2. Experimental, 3. Results, 4. Conclusions, Figures.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C01B 32/00−32/991
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、炭素を主成分とする高分子材料とともに機能性付与微粒子を付着させ、
イオンビームの照射により前記高分子材料を炭素と結合している他の元素が離脱してなりかつ前記機能性付与微粒子が担持された機能性DLC層に変質させてなることを特徴とするDLC層の生成方法。
【請求項2】
前記基材表面に、前記機能性付与微粒子を分散させた前記高分子材料を塗布することにより付着させる請求項に記載のDLC層の生成方法。
【請求項3】
前記機能性付与粒子を分散させた前記高分子材料をスピンコートにより塗布する請求項2に記載のDLC層の生成方法。
【請求項4】
前記機能性付与微粒子を分散させた前記高分子材料が、前記高分子材料を有機溶剤又は水に分散させた液状物に、前記機能性付与微粒子を添加および分散させた液である、請求項2または3に記載のDLC層の生成方法。
【請求項5】
100eV〜200keVの範囲から選択されるエネルギー量を有する前記イオンビームを照射する、請求項1〜4の何れかに記載のDLC層の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DLC(ダイヤモンド−ライクカーボン)層を有する構造体及びDLC層の生成方法に関する。より詳しくは、本発明は、新規な方法で作製されたDLC層を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
DLC層は、炭素又は炭化水素を主成分とする非晶質層であり、例えば、ダイヤモンドに類似した高硬度、電気絶縁性、赤外線透過性等の特性を有すると共に、さらに摩擦係数が低く、耐摩耗性や耐食性に優れるといった種々の好ましい特性を有している。このため、DLC層は、例えば、電子部品、磁気記録媒体、光学レンズの保護膜、摺動部品、自動車部品、切削工具、刃物、精密金型等の広範な技術分野で実用化のための研究が進められている。
【0003】
従来、DLC層の作製方法としては、真空中での物理的蒸着(PVD、Physical Vapor Deposition)法や化学気相成長(CVD、Chemical Vapor Deposition)法が主流となっている。より具体的には、例えば、炭素供給源として固体炭素を用いた、アークイオンプレーティング法、フィルタードアークイオンプレーティング法、非平衡マグネトロンスパッタリング法や、炭素供給源として炭化水素系ガスを用いた、高周波化学気相成長法、パルス方式直流プラズマ化学気相成長法、イオン化蒸着法、プラズマイオン注入法等が行なわれている。
【0004】
基材表面に物理的に又は化学的に炭素を堆積させてDLC層を製膜するこれらの方法には、DLC層と該層を堆積させる基材との間の接着性が不十分になり、DLC層の基材からの剥離が生じ易いという欠点がある。また、これらの方法でDLC層を形成するには比較的長時間を要するので、生産効率が悪くなり、製造コストも高くなる。
【0005】
また、イオンビーム照射によりDLC層を形成する方法も知られている(特許文献1、2参照)。特許文献1は、超高分子量ポリエチレン製成形品の表面にイオンビームを照射することにより、該成形品の表層部をDLC層に変質させる技術を開示する。また、特許文献2は、アルゴン等を用いて、プラスチック製基板の表面にイオンビーム照射を行ない、該基板の表層部をDLC層に変質させる技術を開示する。
【0006】
しかし、特許文献1及び2は、いずれも、プラスチック成形品の表層に高硬度の保護膜としてDLC層を形成する技術を開示するのみである。該技術では、基材の材質がプラスチックに限定される上、形成されたDLC層のみに、DLC層にはない別の機能を選択的に付与することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−291048号公報
【特許文献2】特開2000−182284号公報、段落[0007]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基材に対して高い接着性を有するDLC層を効率良く生成させることができ、基材の材質の選択の幅が広く、かつ、DLC層にはない別の機能をDLC層に容易に且つ効率良く付与できるDLC層の生成方法、及び、該生成方法により作製された、DLC層を有する構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、基材表面に炭素を主成分とする高分子材料を付着させ、該高分子材料に対してイオンビームを照射することにより、基材の材質に限定されず、基材に対して高い接着性を有し、基材から剥離するおそれのないDLC層を効率良く形成でき、かつ、DLC層にDLC層にはない別の機能を付与することや、DLC層の特性を調整することも容易になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(4)のDLC層を有する構造体及び下記(5)〜(9)のDLC層の生成方法を提供する。
【0011】
(1)基材表面に、炭素を主成分とする高分子材料を付着させ、イオンビームの照射により高分子材料を炭素と結合している他の元素が離脱してなるDLC層に変質させてなることを特徴とするDLC層を有する構造体。
(2)イオンビームの照射により、高分子材料からなる層の少なくとも表層領域をDLC層としてなる上記(1)のDLC層を有する構造体。
【0012】
(3)基材表面に、高分子材料とともに機能性付与微粒子を付着させ、イオンビームの照射により高分子材料を機能性付与微粒子が担持された機能性DLC層に変質させてなる上記(1)又は(2)のDLC層を有する構造体。
(4)機能性DLC層に担持された機能性付与微粒子が、DLC層表面から一部露出した状態に担持されてなる上記(3)のDLC層を有する構造体。
【0013】
(5)基材表面に、炭素を主成分とする高分子材料を付着させ、イオンビームの照射により高分子材料を炭素と結合している他の元素が離脱してなるDLC層に変質させてなることを特徴とするDLC層の生成方法。
(6)基材表面に、高分子材料を塗布することにより付着させる上記(5)のDLC層の生成方法。
【0014】
(7)基材表面に、高分子材料とともに機能性付与微粒子を付着させ、イオンビームの照射により高分子材料を機能性付与微粒子が担持された機能性DLC層に変質させる上記(5)又は(6)のDLC層の生成方法。
(8)基材表面に、機能性付与微粒子を分散させた高分子材料を塗布することにより付着させる上記(7)のDLC層の生成方法。
(9)高分子材料をスピンコートにより塗布する上記(6)又は(8)のDLC層の生成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材に対して高い接着性を示すDLC層を有する構造体が提供される。さらに、本発明によれば、DLC層にはない別の機能が付与された機能性DLC層を容易に形成することができ、機能性DLC層を有する構造体が提供される。また、本発明のDLC層の生成方法によれば、基材の材質に関係なく、基材表面にDLC層又は機能性DLC層を効率良く形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のDLC層を有する構造体の生成方法を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のDLC層を有する構造体の生成方法の応用例を模式的に示す断面図である。
図3】Arビーム照射(150keV、3×1016/cm2)前後のミクトロンフィルムのラマン散乱スペクトルを示す。
図4】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料A、130keVArビーム照射量3×1016/cm2)の電子顕微鏡写真及びAgマッピングによる測定結果を示す図面である。
図5】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料B、130keVArビーム照射量3×1016/cm2)の電子顕微鏡写真及びAgマッピングによる測定結果を示す図面である。
図6】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料C、2MeVHeビーム照射量3×1016/cm2)の電子顕微鏡写真及びAgマッピングによる測定結果を示す図面である。
図7】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料C、2MeVHeビーム照射量6×1016/cm2)の電子顕微鏡写真及びAgマッピングによる測定結果を示す図面である。
図8】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料C、2MeVHeビーム照射量1×1017/cm2)の電子顕微鏡写真及びAgマッピングによる測定結果を示す図面である。
図9】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料A)のArビーム照射(130keV、3×1016/cm2)前後のラマン散乱スペクトルを示す。(a)が照射前、(b)が照射後である。
図10】実施例2の本発明の抗菌性DLC層を有する構造体(試料C)のHeビーム照射(2MeV、3×1016/cm2)前後のラマン散乱スペクトルを示す。(a)が照射前、(b)が照射後である。
図11】本発明の抗菌性DLC層を有する構造体の抗菌効果を示す写真である。
図12】本発明の二酸化チタン含有DLC層を有する構造体の光触媒効果を示すグラフである。
図13】本発明のヒドロキシアパタイト含有DLC層を有する構造体の細胞親和効果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のDLC層を有する構造体(以下、「本発明のDLC構造体」と略記することがある。)は、各種材質の基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成されたDLC層とからなる。このような本発明のDLC構造体は、炭素を主成分とする高分子材料を各種材質の基材表面に付着させ、基材表面に形成された高分子材料からなる層にイオンビームを照射し、該層の少なくとも表層部をDLC層に変質させることにより得ることができる。本発明において得られるDLC層のラマン(RAMAN)散乱スペクトルは、ラマンシフト1570/cm付近のGバンドとラマンシフト1350/cm付近のDバンドとから構成される典型的なDLC層の特徴を有している。
【0018】
本発明のDLC構造体は、基材の材質に関係なく、基材表面にDLC層が形成されていることを特徴とし、DLC層と基材との接着性が高く、DLC層が基材から剥離し難く、DLC層に機能性付与微粒子を分散させてDLC層が持たない別の機能を付与することができる。また、本発明のDLC構造体は、DLC層が生体構成原子で構成され、化学的にも不活性で生体適合性に優れることから、例えば、生体医用材料、細胞培養基材等として有用である。本発明のDLC構造体は、DLC層が従来と同様に高硬度、電気絶縁性、赤外線透過性、低摩擦係数、高耐摩耗性、高耐食性等の好ましい特性をも併せ持っているので、従来のDLC層と同様に、電子部品、磁気記録媒体、光学レンズの保護膜、摺動部品、自動車部品、切削工具、刃物、精密金型等の用途にも勿論使用できる。
【0019】
なお、従来技術のようにプラスチックからなる基材に対してイオンビームを直接照射して該基材の表層部をDLC層に変質させる方法では、基材とDLC層との接着性はある程度確保できるものの、基材がプラスチック製のものに限定されると共に、DLC層に新しい機能を付加することができず、DLC層の新たな用途開発に貢献できない。
【0020】
本発明のDLC構造体に用いられる基材の材質としては特に限定されず、例えば、半導体材料、金属材料、樹脂材料、ゴム材料、セラミックス材料、ガラス材料、木質材料等が挙げられる。これらの中でも、成形加工が容易な点等から、樹脂材料やゴム材料等が好ましい。また、電子デバイス等への応用等の観点から、Si基板等の半導体材料が好ましい。このように、樹脂材料(プラスチック)だけでなく、種々の材質の基材表面にDLC層を形成できることが本発明の大きな利点の一つである。
【0021】
基材を構成する樹脂材料としては特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素含有エチレンオキサイド共重合体、(メタ)アクリル酸樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0022】
基材を構成するゴム材料としても特に限定されず、例えば、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、天然ゴム等が挙げられる。
上記した各種材料の1種を単独で用いて又は2種以上を組み合わせて基材を構成することができる。基材の寸法や形状も特に限定されず、得ようとするDLC構造体の使用目的等に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
本発明の一実施形態のDLC構造体においては、炭素を主成分とする高分子材料を基材に付着させる。炭素を主成分とする高分子材料としては特に限定されないが、基材表面に該高分子材料を付着させる観点から、各種有機溶剤や水等に対する溶解性や分散性に優れる高分子材料が好ましい。
【0024】
このような高分子材料としては炭素原子を含む樹脂材料や各種石油製品、天然ガス等を原料として合成された樹脂材料等を好ましく使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリエステル、液晶性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。さらに、セルロース、カルボキシメチルセルロース等の多糖系高分子材料や、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル鹸化物、ポリアルキレングリコール、水溶性アクリル樹脂等の親水性樹脂も使用できる。これらの高分子材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
また、炭素を主成分とする高分子材料からなるフィルムを基材表面に貼り付け、炭素を主成分とする高分子材料からなる層として用いても良い。このようなフィルムは多く市販されており、例えば、ハイトロン(商品名、ポリアクリロニトリル系フィルム及びポリエチレンテレフタレート系フィルム、タマポリ(株)製)、ミクトロン(商標名、パラ系芳香族ポリアミドフィルム、東レ(株)製)、カプトン(商標名、ポリイミドフィルム、東レ・デュポン(株)製)、アクリプレン(商標名、アクリル樹脂フィルム、三菱レイヨン(株)製)、ダイアホイル(商標名、ポリエステルフィルム、三菱樹脂(株)製)、アプティブ(商標名、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ビクトレックスジャパン(株)製)、エバール(商標名、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、(株)クラレ製)、アフレックス(商標名、フッ素樹脂フィルム、旭硝子(株)製)、セロハン等が挙げられる。
【0026】
また、炭素を主成分とする高分子材料として、炭素を含みかつ加熱や光照射等により重合又は硬化する有機材料を用いても良い。このような有機材料としては、例えば、レジスト材料、光硬化性モノマーやオリゴマー、熱硬化性モノマーやオリゴマー等が挙げられる。該有機材料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明において、炭素を主成分とする高分子材料を基材表面に付着させる方法としては特に限定されないが、基材表面の所望箇所に該高分子材料の層を形成するのが容易なこと、該高分子材料がほぼ均一に分散した層を形成できること、層厚の制御が容易なこと等の観点から、該高分子材料液(溶液又は分散液)を基材表面に塗布する方法が好ましい。高分子材料液は、例えば、該高分子材料を有機溶剤又は水に溶解又は分散させることにより調製できる。ここで、有機溶剤の種類は特に限定されず、該高分子材料の種類に応じて適宜選択できる。高分子材料液における該高分子材料の濃度は特に限定されないが、基材表面に塗布した塗膜がその形状を保ち得る程度の粘度を有する範囲で適宜選択すればよい。
【0028】
高分子材料液の基材表面への塗布方法としては、特に限定されず、固形物表面に液状物を塗布するのに採用される公知の塗布方法をいずれも利用できるが、例えば、刷毛塗り、浸漬法、スプレー塗布法、転写法、印刷法、スピンコート法等が挙げられる。これらの中でも、基材表面に膜厚のほぼ均一な塗膜を形成し、塗膜をほぼ均一にDLC化することやDLC層の基材に対する接着強度等の観点から、スピンコート法が好ましい。こうして基材表面に塗膜が形成される。本発明では、該塗膜に直接イオンビームを照射してもよい。また、該塗膜を風乾又は乾燥して、塗膜に含有される有機溶剤や水を除去し、炭素を主成分とする高分子材料からなる層を形成し、該層に対してイオンビームを照射してもよい。また、該塗膜が加熱や光照射等により硬化又は重合する有機材料を含む場合には、該塗膜を加熱するか又は該塗膜に光を照射することにより硬化層を形成し、該層に対してイオンビームを照射してもよい。部分的な加熱、光照射によりパターニングを行なってもよい。
【0029】
炭素を主成分とする高分子材料からなる層の厚みは特に限定されず、最終的に得られるDLC層の所望特性やDLC構造体の用途等に応じて適宜選択できるが、DLC層の基材に対する接着性や、DLC層本来の特性を維持した上でDLC層に付与される機能の顕著化等の観点から、通常は10μm程度以下、好ましくは1μm程度以下、より好ましくは1nm〜100nmである。
【0030】
こうして形成された高分子材料からなる層に、例えば、イオン注入等により所望の元素を付加しても良い。これにより、該元素が持つ性質、機能や作用等を示すDLC構造体を得ることができる。なお、元素の付加は、イオンビーム照射前の高分子材料からなる層に対して実施してもよく、又は、当該元素のイオンビームの照射により実施しても良い。
【0031】
本発明では、基材表面に形成された炭素を主成分とする高分子材料からなる層に対してイオンビームを照射し、高分子材料に含まれる炭素に結合する他の元素を離脱させ、炭素を主成分とする高分子材料からなる層の少なくとも表層部をDLC層に変質させることにより、本発明のDLC構造体が得られる。
【0032】
ここで用いられるイオンビームとしては特に限定されず、例えば、Ga+、Si+、Au+等の金属イオンビーム、He+、Ne+、Ar+、Kr+等の不活性ガスイオンビーム等が挙げられる。これらの中でも、不純物としての活性が低く、またイオン源、装置に対する負荷が小さい等の観点から、不活性ガスイオンビームが好ましく、He+、Ar+等がさらに好ましい。イオンビームのエネルギー量は特に限定されないが、例えば、100eV〜200keVの範囲から選択すればよい。また、イオンビームの照射量はイオンビームの種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、イオンビームがAr+である場合は、1×1014〜1×1017/cm2の範囲から選択すればよい。イオンビームの種類、エネルギー量、照射量及び照射時間の少なくとも1つの条件を調整することにより、生成するDLC層の厚みや特性等を制御することができる。イオンビームの照射には、イオン注入装置、質量分離器を含まない簡易型のイオン注入装置のほか、イオンビームミリング装置、集束イオンビーム装置等を使用できる。
【0033】
こうして得られるDLC構造体は、DLC層の基材に対する接着性が高く、DLC層が基材から剥離するおそれがない。本発明のDLC構造体において、DLC層の基材に対する接着性が高い理由は現状では十分明らかになっていないが、イオンビームの照射により、炭素を主成分とする高分子材料からなる層がDLC層に変質するのと同時に、炭素を主成分とする高分子材料からなる層と基材との界面においてもイオンビーム照射の効果により、高分子材料含有量やDLC含有量の連続又は不連続の傾斜的変化を有するミキシング層が形成され、このミキシング層によりDLC層と基材との接着性が高水準に維持されるものと推測される。
【0034】
なお、炭素を主成分とする高分子材料からなる層の表層部のみを変質させてDLC層とする場合でも、炭素を主成分とする高分子材料からなる層のうち、イオンビームの照射により変質したDLC層と、DLC層に変質していない残りの層との界面で上記したような連続又は不連続の傾斜的変化を有するミキシング層が形成される。したがって、炭素を主成分とする高分子材料として基材との接着強度が高い高分子材料を選択すれば、上記と同様に、DLC層と基材との接着性が高水準に維持される。
【0035】
また、DLC構造体を作製する場合には、炭素を主成分とする高分子材料からなる層中に例えば機能性付与微粒子を混入させることにより、DLC層が本来有する好ましい諸特性を維持したまま、DLC層にはない新しい機能をDLC層のみに選択的に付与することが可能になる。
【0036】
図1は、本発明のDLC構造体の一実施形態(機能性DLC層を有する構造体)の生成方法を模式的に示す断面図である。図1に示すDLC構造体の生成方法は、工程(a)〜工程(d)を含んでいる。
【0037】
図1に示す工程(a)では、炭素を主成分とする高分子材料の液1に機能性付与微粒子2を添加する。ここで液1は、炭素を主成分とする高分子材料を有機溶剤又は水に溶解又は分散させた液状物である。機能性付与微粒子2としては特に限定されず種々のものを使用可能であるが、例えば、Ag、Zn、Cu等の抗菌性金属微粒子、ナノダイヤモンド等の蛍光性微粒子、Co、Ni等の磁性金属微粒子、Au、Pt等の触媒性金属微粒子、TiO2等の光触媒性微粒子、ヒドロキシアパタイト等の細胞親和性微粒子等が挙げられる。機能性付与微粒子2の粒径は特に限定されず、DLC層の厚み等に応じて適宜選択されるが、該微粒子2の機能性を十分に発現させる観点等から、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは200nm以下、特に好ましくは1〜200nmであることが望ましい。
【0038】
また、本発明では、分子内に金属又は金属イオンを有する化合物を機能性付与微粒子2として用いることができる。金属又は金属イオンを有する化合物としては、例えば、金属錯体化合物などが挙げられる。機能性付与微粒子2を用いることにより、得られる本発明DLC構造体を、例えば、抗菌材料、蛍光材料、磁性材料、触媒、光触媒、燃料電池用電極材料、細胞親和性材料、センサー材料等として用いることができる。機能性付与微粒子2は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。機能性付与微粒子2の液1への添加量は、液1に含有される炭素を主成分とする高分子材料の種類や機能性付与微粒子2そのものの種類、得ようとするDLC層の設定厚みやDLC構造体の用途等に応じて適宜選択される。
【0039】
図1に示す工程(b)では、液1中に機能性付与微粒子2を分散させる。分散方法としては微細粒子を液中に分散させる公知の分散方法を採用でき、例えば、超音波分散法、高分子分散剤を用いる分散法、界面活性剤を用いる分散法、機能性付与微粒子2にカップリング剤等を用いて表面修飾を施す分散法、ビーズミルやジェットミル等の混練機を用いる分散法、前記混練機と超音波とを組み合わせた分散法等が挙げられる。なお、本実施形態では、DLC層の形成に使用される液1の量は少量で済むので、機能性付与微粒子2を液1中に比較的均一に分散させることができる。
【0040】
図1に示す工程(c)では、機能性付与微粒子2を分散させた液1を基材4の表面に塗布し、必要に応じて液1に含まれる有機溶剤を風乾又は加熱等により除去することにより、炭素を主成分とする高分子材料中に機能性付与微粒子2が分散した層3を形成する。液1の基材4の表面への塗布には、上記した塗布方法を利用できる。
【0041】
図1に示す工程(d)では、基材4の表面に形成された層3にイオンビーム7を照射することにより、機能性DLC層5が形成され、機能性DLC層5を有する構造体が得られる。機能性DLC層5と基材4との界面領域にはミキシング層6が形成され、機能性DLC層5の基材4への接着性を高水準に維持している。
【0042】
この時、イオンビーム7の照射を制御してDLC層5の厚みが機能性付与微粒子2の粒径よりも小さくなるように調整することにより、表面の一部に機能性付与微粒子2が露出したDLC層5が形成される。機能性付与微粒子2は、DLC層5中に強固に固定されている。また、機能性付与微粒子2のDLC層5の表面への部分的な露出は、機能性付与微粒子2により機能性DLC層5に付与された機能性を効率よく発現させる上で有効である。したがって、機能性DLC層5は、機能性付与微粒子2に基因する機能性を長期間にわたって安定的に発現することができる。
【0043】
また、機能性付与微粒子2を表面に露出させた状態で、安定でかつ生体適合性のあるDLC層5に担持させることにより、機能性付与微粒子2の寸法に影響されることなく、その効果を検証することが可能になり、機能性付与微粒子2自体の研究にも有用である。
【0044】
さらに、本実施形態では、基材4の表面に、機能性付与微粒子2をバインダ中に分散させた塗液を塗布し、その塗膜の表面に、炭素を主成分とする高分子材料や有機材料からなる層を形成し、該層に対してイオンビームを照射することができる。これにより、前記塗膜中の機能性付与微粒子2が該層中に移行すると共に、該層がDLC化し、機能性DLC層を有する構造体が得られる。
【0045】
図1に示す実施形態では、炭素を主成分とする高分子材料の液1に機能性付与微粒子2を添加混合しているが、これに限定されない。例えば、機能性付与微粒子2の表面に炭素を主成分とする高分子材料からなる被覆層を形成し、この被覆層が形成された機能性付与微粒子2を基材4表面に付着させた後、イオンビームを照射することによって、該被覆層の少なくとも一部がDLC化し、機能性付与微粒子2の一部が表面に露出したDLC層を有する本発明のDLC構造体が得られる。この場合、機能性付与微粒子2の粒径は特に限定されず、ナノサイズでもよいが、被覆層の形成し易さ等の観点から、数μm〜数十μm程度のものが好ましい。また、被覆層が形成された機能性付与微粒子2の基材4への付着は、例えば、接着剤を用いたり、基材4に対して接着性を示す高分子材料からなる被覆層を形成したりして行なわれる。
【0046】
図2は、本発明のDLC層を有する構造体の生成方法の応用例を模式的に示す断面図である。本実施形態では、テフロン(商標名、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)に微細加工が施される。図2に示すDLC構造体の生成方法は、工程(a)〜工程(c)を含んでいる。
【0047】
図2に示す工程(a)では、テフロン製基材4a(以下、単に「基材4a」とする。)の表面に、炭素を主成分とする高分子材料1と機能性付与微粒子2とからなる層3が形成されている。テフロンは安定性や生体適合性と共に、際立った撥水性を持つ材料であり、生体医用材料として有用であるが、生体親和性、細胞培養性が低く、その応用が制限されている。また、テフロンは、加工が困難で、レーザービームによる分解蒸発以外の有用な微細加工手段は報告されていない。また、テフロンの表面特性を改善するために、テフロン表面にDLC層を形成することが試みられてきたが、現状では実用技術として確立されるには至っていない。このような従来技術に対し、本発明のDLC層の生成方法が、テフロンの微細加工や表面特性の改善に有効な技術であることを、図2に示す工程(b)及び工程(c)で説明する。
【0048】
基材4aの表面に形成された高分子材料1と機能性付与微粒子2とからなる層3はリソグラフィーの手法を用いた微細加工が可能である。したがって、図2に示す工程(b)では、基材4aの表面に形成された層3をパターニング化し、層3の一部である層3aが基材4aの表面に付着した部分と、層3aが付着せず、基材4aの表面が露出した部分とを形成する。
【0049】
図2に示す工程(c)では、工程(b)で得られたパターニングが施された基材4aに対してイオンビーム7を照射する。これにより、層3aの部分はDLC化されて機能性DLC層5aとなり、機能性DLC層5aと基材4aとの界面領域にはミキシング層6aが形成され、これらの接着性を高水準に維持している。また、基材4aの表面が露出した部分は、イオンビーム7の照射により分解蒸発して凹部8が形成される。こうして、テフロンからなり、表面の少なくとも一部に機能性DLC層5aが形成され、かつ一部にエッチングが施された本発明のDLC構造体が得られる。
【0050】
このように、本発明のDLC構造体の生成方法を用いることにより、テフロンに対して、DLC層の形成、2次元的なDLC層のパターニング、及び、テフロン表面のエッチングによる3次元的なパターニングを実施することができ、テフロンの加工技術として非常に有用である。これにより、テフロンの応用範囲が拡がり、例えば、細胞培養基材としての利用が可能になる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
炭素を主成分とする高分子材料としてミクトロンフィルム(パラ系芳香族ポリアミドフィルム)をSi基板上に固定してDLC層を有する構造体を次のようにして作製した。すなわち、Si基板の表面にミクトロンフィルムを貼り付け、この試料に対してArビーム(150keV)を3×1016/cm2照射した。Arビームの照射前後の該ミクトロンフィルムのラマン散乱をラマン分光光度計(商品名:Labram HR−CNT、ホリバ・ジョバンイボン社製)を用いて測定した。測定結果を図3に示す。
【0052】
図3(a)はArビーム照射前のミクトロンフィルムのラマン散乱スペクトルを示し、図3(b)はArビーム照射後のミクトロンフィルムのラマン散乱スペクトルを示す。図3から、Arビーム照射後のラマン散乱スペクトルには、DLC層の典型的な特徴であるラマンシフト1570/cm付近のGバンドとラマンシフト1350/cm付近のDバンドとが現われ、ミクトロンフィルムがDLC化し、DLC層を有する構造体が得られていることが判る。
【0053】
(実施例2)
(1)測定試料の作製
塩化ビニル樹脂を含むAg微粒子(抗菌性金属微粒子、商品名:Ag−PVP、Agサイズ:100nm以下、Aldrich社製)の0.5重量%エタノール溶液を塗液として調製した。
Si基板を上記の塗液に浸漬して塗液から取り出し、風乾するという操作を5度繰り返し、試料A及びCを作製した。また、前記操作を1度だけ行ない、試料Bを作製した。
【0054】
(2)レジスト塗布
上記で得られた試料A〜Cの表面に、スピンコートにより、レジスト(商品名:AR−5300、Allresist社製)を約180nmの厚みになるように塗布して硬化させた。
【0055】
(3)イオンビーム照射
試料A〜Cに対して、下記のイオンビームを照射し、DLC層を形成し、DLC層を有する構造体を得た。
試料A:Ar(130keV)、3×1016/cm2
試料B:Ar(130keV)、3×1016/cm2
試料C:He(2.0MeV)、3〜10×1016/cm2
【0056】
(4)Agの元素マッピング
EDX(エネルギー分散型X線分光)装置を備えるSEM(走査型電子顕微鏡、型式:FE−SEM JSM−7001F/EX37001、日本電子(株)製)を用いて、下記の測定条件にて試料A〜Cの元素マッピングを測定した。なお、試料A及びBは、中央部分及び周縁部分を避け、細かい粒子が存在する部分を選んで測定した。試料Cは、He照射量が3×1016/cm2、6×1016/cm2及び1×1017/cm2となった三点で測定した。結果を図4〜8に示す。図4及び図5は、それぞれ試料A及びBの元素マップ及びスペクトルを示す図面である。図6〜8は、それぞれ試料Cの照射量3×1016/cm2、6×1016/cm2及び1×1017/cm2の地点における元素マップ及びスペクトルを示す図面である。図4〜8において、(a)はSEMによる電子顕微鏡写真(倍率800倍)、(b)はAgマッピング及び(c)はスペクトルである。
【0057】
[測定条件]
加速電圧:15kV
照射電流:12mA
スィープ回数:10
デュアルタイム:0.1msec
検出元素:Ag
【0058】
得られたDLC構造体のDLC層(試料A及びC)について、実施例1と同様にしてラマン散乱スペクトルを測定した。結果を図9及び図10に示す。図9は抗菌性DLC層を有する構造体(試料A)のArビーム照射前後のラマン散乱スペクトルを示す。(a)が照射前、(b)が照射後である。図10は抗菌性DLC層を有する構造体(試料C)のHeビーム照射前後のラマン散乱スペクトルを示す。(a)が照射前、(b)が照射後である。図9及び図10から、イオンビーム照射後のラマン散乱スペクトルにDLC層の特徴であるDバンド及びGバンドが認められ、レジスト膜がDLC化していることが確認された。
【0059】
また、図4〜8から、機能性付与微粒子であるAg微粒子がDLC層中に存在することが明らかであり、抗菌性DLC層を有する構造体が得られていることが判る。
【0060】
(試験例1)
以下の手順でAg担持DLC層の抗菌性評価を実施した。
(1)Si基板、Agを含まないDLC層を有するSi基板及びAg担持DLC層を有するSi基板(上記実施例2の試料A)を用意して各試料上に大腸菌DH5aを含む液体培地を等量滴下しカバーガラスを載せる。Agを含まないDLC層を有するSi基板は、実施例2において、Ag微粒子を用いない以外は同様に操作して、作製した。
(2)37℃の培養槽で24時間静置培養。
(3)各試料表面を寒天培地に転写し、37℃の培養槽で24時間静置培養。
(4)静置培養後の寒天培地を観察し、該培地の写真を撮る。結果を図11に示す。図11は、Ag担持DLC層の抗菌性を示す写真である。
【0061】
図11から、DLC層を有しないSi基板及びAg微粒子を含まないDLC層を有するSi基板上層の液体培地を転写した寒天培地には、いずれも、大腸菌のコロニーが多数生育したのに対し、抗菌性DLC層を有するSi基板上層の液体培地を転写した寒天培地には数個程度の大腸菌のコロニーが生育するのみであり、抗菌性DLC層を有するSi基板が良好な抗菌性を有していることが明らかである。このことから、本発明によれば、DLC層にはない新しい機能性をDLC層に付与することができる。
【0062】
(試験例2)
酸化チタン微粒子(体積平均粒径20nm、商品名:光触媒酸化チタンST−21、石原産業(株)製)の0.5重量%メチルアルコール分散液を調製し、該分散液4mlをSi基板(径100mm)上にスプレー塗布及び風乾し、その上にポリビニルピロリドンの5重量%メチルアルコール分散液をスピンコータにより塗布及び風乾し、平均膜厚約100μmの層を形成した。これに、イオン注入装置(商品名:SR20、日新イオン機器(株)製)を用いて、150keVのArビームを3×1014/cm2照射し、酸化チタンを含むDLC層を有するDLC構造体を作製した。
【0063】
上記DLC構造体を、DLC層を上向きにしてメチレンブルー水溶液に浸るように入れ、紫外光を10時間照射し、メチレンブルー水溶液の吸光度(吸収係数)を分光光度計(商品名:V560、日本分光(株)製)により経時的に測定した。結果を図12に示す。図12によれば、照射時間の経過に伴いメチレンブルーの吸光度が減少し、メチレンブルーが脱色していることから、上記DLC構造体が光触媒活性を示すことが明らかである。
【0064】
(試験例3)
ハイドロキシアパタイトナノ粒子(体積平均粒径40nm、商品名:焼成ハイドロキシアパタイト高分散性ナノ粒子nano−SHAp、(株) バイオメディカルサイエンス製)の0.5重量%メチルアルコール分散液を調製し、該分散液4mlをSi基板(径100mm)上にスピンコータで塗布し、半分の該分散液をふき取り、半分の該分散液をそのまま残して風乾した。この上にポリビニルピロリドンの5重量%メチルアルコール分散液をスピンコータにより塗布及び風乾し、平均膜厚約100μmの層を形成した。これに、試験例2と同様に150keVのArビームを3×1014/cm2照射し、半分がDLC層、半分がハイドロキシアパタイトを含むDLC層であるDLC構造体を作製した。
【0065】
上記DLC構造体を、DLC層を上向きにして滅菌したDMEM(ダルベッコ改変イーグル)培地に浸るように入れ、NIH3T3細胞(マウス上皮系細胞)の懸濁液を添加し、37℃で24時間精置培養した後上記DLC構造体を取り出し、その表面状態を光学顕微鏡により観察した。結果を図13に示す。図13によれば、ハイドロキシアパタイトを含むDLC層の表面には多くの細胞が付着しているのに対し、ハイドロキシアパタイトを含まないDLC層の表面には細胞の付着が明らかに少なく、ハイドロキシアパタイトを含ませることにより、細胞親和性を有するDLC層が得られることが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13